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[27519] 【習作】転生妄想症候群 リリカルなのは(転生オリ主TS原作知識アリ)
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:870194e7
Date: 2011/05/08 03:30
【習作】転生妄想症候群 リリカルなのは(転生オリ主TS原作知識アリ)


初めましてきぐなすと申します。

初投稿作品です。

ところがプロット段階ですでにカレー(厨二要素)満載のつもりで作り始めたら、隠し味のクリーム(いろんな要素)入れすぎてカレー風味シチューなった。そのうえ、コトコト煮すぎて具が溶けてしまったよ。(カオス)大量にご飯炊いてしまったし、福神漬けどうしよう(余分なもの)この作品どうしてこうなった。 orz

とりあえず、プロットは捨てるべきではないと作っていくことにしました。


注意書き


・オリ主強キャラ
・オリキャラ多め  
・転生?憑衣?(そのうち明かにしていく予定です)
・TS要素?
・独自解釈(原作は尊重します)
・寒いギャグ・ネタ(シリアスとギャグのバランスが取れてないのは仕様です)


すでに地雷臭がしてますが、それでも良いという方は読んでください。




※ 誤字脱字ゆえに手直しはまめにしていきます。ストーリ矛盾とかで加筆した場合は報告します。




[27519] 第一話 目が覚めて
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:870194e7
Date: 2011/05/05 23:33
第一話 目が覚めて

深いまどろみの中、二人の女の子の声が聞こえる。俺は死んだはずだ。ここはあの世だろうか? 彼女たちはきっと転生の神様に違いない。絶対に間違いない。なぜなら俺は選ばれた……うっ

頭ぐらぐらして気持ち悪い。ちょうど高熱でうなされているときの状態に似ている。だから声は聞こえていても内容を理解することができなかった。

「ーーーれるわよ。」

「カナコ、あとは全部任せるよ。ちゃんと見守ってあげてね。もう働きたくないよ~ 」

「希、あなた小学生のくせに……まあ任せておきなさい。あなたは引きこもっていいわ。でも心配だわ」

「どうして? カナコが勧めてきたんじゃなかったっけ。この騎士さんがしてくれるのは私の代わりに外に出ているだけのお簡単な仕事でしょう? 」


「他に使えそうな記憶が見つからなかったとはいえ、欠陥がひどいのよ。それを整えるのに強引に記憶いじくったから、変な行動とか勘違いをしてないといいけど…」

「カナコの説明は長い、短くわかりやすくして」

「もろくて出来の悪い守護騎士システムね」

「名前を呼んだらダメなんだっけ? 」 

「そうよ。記憶の鍵になっているの。呼ばれたら記憶を取り戻すからアウトね。魂も紛いものだし、自己矛盾を起こして消滅するのは間違いないわ。でも心配はいらないと思う。あなたの外見じゃまずない。小学3年生の女の子に20代男っぽい何かが入っているなんて誰も思わないわ。スペアもあるし、壊れたらそれはそれでかまわない」

「そうなんだ。だったらもう私眠りたい。疲れちゃった」

「そうね、今は引きこもってなさい。来年くらいから本気出すといいわ。でもね、コイツ次第じゃ起こされるかもよ。なんせ馬鹿だし」

「馬鹿はひどいよ。起されるのはいやだけど、仕方ないよ」

「はいはい、でもやばいことしそうだったら、手綱はとるわ。それから、できる限り存在を補強してみるわね。手っとり早いのはやっぱり愛なのかしら? 」

う~ん、何を言っているかわからない。今から起きて聞いてみるか。

「あっ…起きたよ」

「さて、お目覚めですか? 騎士様、しっかり外で役目を果たしてきてね」

俺は目を開けようとしたが、その前に体が持ち上がる。えっ!? 何?

「じゃあ、いってらっしゃい。えいっ」

浮き上がるような感覚、次に落下感を感じた。

ひゅーーーーーーーーー

「なんじゃーーーーそりゃーーーー」















俺は目を開ける。
目はぼやけながらもだんだん焦点があって、白い蛍光灯と白い壁が目に入った。


「知らない天井……う、いかん、ついお約束な言動をするところだった」

ひとり無意味につっこむ。周りを見渡すと、白いカーテンで囲われて、シーツやベットが目に入る。病院だろうか。なんでこんなところに?

手と腕をみると、点滴の跡もみえる。それより、何か変だ。俺の手と腕こんなに小さく細くて白かったかな?
あと髪がなげぇし、その気になればゴンさんごっこができそうだ。

嬉しい。

きっと神様が髪に恵まれなかった俺にプレゼントしてくれたのだろう。髪を持つものと持たざるものの差は大きい、両者はわかりあえないのだ。

俺は自分の髪を撫でてしばし浸る。しあわせな時間だった。

こうしているのもなんなので体を起こす。のっそりと静かに立ち上がりカーテンを開く。

誰もいない、ほかのベットも見あたらない。個室で広い部屋だ。しかも、大型テレビ、壷やソファーなど普通の病室にはない高級感を醸し出していた。

(おいおい、こんなところに寝泊まりできるほど金持ってねーぞ。鏡はどこだ? 鏡……あった)

鏡の前に立つと、ピンクの病衣を着た女の子が立っていた。特徴的なのは艶やかな長い黒髪で膝まで伸びてる。しかもボリュームがあり身体を覆っていて、顔は将来を期待できそうだが、幸薄そうで陰があるタイプだ。身体も同世代の子と比べても華奢で病弱な大和撫子という表現がしっくりくる。女の子はその不思議そうな顔をしてこちらを見てる。誰だ? この子、とりあえず挨拶しとくか。







「こんにちわあーーーーーーーー」

途中でこれが自分だと気づいた。






ひとしきり悶えた後、自分の状況を整理することにした。

① 俺はアトランティスの最終戦士ジークフリードだ。(記憶の劣化がひどく、混乱しているが間違いない)

② 俺はアトランティスの最終戦士の記憶を持ったまま現代人に転生を何度も繰り返している。(これも間違いない、この前の人生ではチートだった。今までの転生でもそうだ)

③ この身体の前は20代前半男だった。(死んだ理由は事故らしいことは何となく覚えている。自分の部屋にいた記憶ははっきり覚えている。引きこもっていたもんな。ただ、外出したのも覚えてないし、こもる以前のことはなんかあいまいで他人事のように感じる)

④ 前の名前や住んでた場所の固有名詞は覚えてない。家族構成や家族の顔をなんとなくイメージできる。(妹の斎のことは覚えている、大学に行っていた、前世でも兄弟だったからなぁ)

⑤ 転生または憑衣してる(どっちかはわからんが)

⑥ おんにゃのこ(男じゃないのは残念は残念だけど、あまり違和感はないな。ペタペタするが何も感じない)

⑦ この女の子本人の記憶がない(記憶喪失みたいだな)

こんなところか。

では、アトランティスのちからが使えるか試してみよう。俺は天を掴むように手をかかげると心に秘められた呪文を唱える。







「来たれ、我が黒き外套、赤き銃身ディスティ」








……来ない。この世界でも使えないようだ。やはり失われてしまったようだ。

(やっぱり、馬鹿だったわ。予想はしてたけど…)

どっかで誰かの嘆く声が聞こえた。失礼なことを言っている。









ふと、視線を横に向けるとテーブルがあり、高級そうな漆塗りのどんぶりが置かれていた。まだほかほかでおいしそうな匂いが食欲をそそる。何だアレ? 誰も手をつけてないみたいだけど。

テーブルに近づいて、どんぶりのふたを開いてのぞき込んだ。すると、色とりどりの野菜とエビのてんぷらが見えた。

「しらない天丼だ…あっ! 」

何かに負けた気がした。

悔しかったので食べる。なんだか胃がムカムカするが気にしない。4分の1くらい食ったところで、いきなりドアが開いた。

俺は箸とどんぶりを持ったまま固まる。視線を向けると30歳後半くらいの女の人が唖然としている。もしかして、この人の天丼か? 何か言わないと。

「い、いただいてます」

女性は驚いた顔のまま近づいてきて、恐る恐る聞いてきた。

「みー、みーちゃん、大丈夫なの? 」

(みーちゃん、この子のことか? この部屋で天丼食べるってことは家族だよな。母親か? 今の状況はやっかいだし話を会わせとこう。えーえースマイル、スマイル)

俺はこの場となんとか切り抜けようと笑顔をつくる。

「うん……大丈夫だよ。おかーさん」

「おかーさん? おかーさん」

女性は呆けたような顔で、言葉をかみしめるように言うと、下を向いてしまった。

あれっ? 何か変だな、俺は立ち上がり近づくと、女性は肩を震わせて泣いていた。

「うん、うん…おかーさん」

「どうしたの? おかーさん」

「だって、みーちゃんがおかーさんて呼んでくれたのが、嬉しくて」

(ほっ、良かった間違ってなかったらしい)

おかーさんは涙で崩れた顔のまま、急に私の背中を強く抱きしめた。そして、号泣する。

「みぃーちゃん、ああっ、みーちゃん」

ますますヒートアップしてきたみたいで、愛しさをこめて名前を呼ぶ。抱きしめる腕の力はますます強くなる。

(ちょ、まって、強い、強い!! タンマ、タンマ、ギブギブ、気持ち悪ぅ…胃ーー出る)

急激な嘔吐感が押し寄せ、抱きしめる母の肩に思い切り吐いた。






感動のシーンが台無しだった。あたりは酸っぱい匂いが立ちこめ、母のスーツは黄色く汚れていた。最悪である。俺って奴はどうしてこうなるんだよ。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

泣きそうな顔で何度も謝る。すると母はすっと俺の頭に手を伸ばして頭をなでる。







「ふふふっ…病み上がりなのにこんなに食べるなんて食いしん坊さんね」

俺は母親だというその人を見つめる、俺が吐いたことなど少しも気にしてないように笑っている。これが母親というものなのだろうか? その顔をみていると、ふわっと包まれるような安心感と胸にチクリと針がささったような罪悪感を感じる。

どうしようもない気持ちを込めて俺は心の中でこっそり告白することにした。


(優しい人だな。なんかこの人好きになれそうだ。でも、ごめんさない。俺はあなたの子ではないんです。)

しばらく見つめあうふたり。おかーさんから話を切りだしてきた。


「いつまでもこうしてもいられないわね。担当の看護師さんに連絡しないと。私も着替えてくるわね。それから、掃除もお願いしてくるわね。」

おかーさんは名残惜しい顔で部屋から出ていく。その背中を目で追いながら、俺はこれからどうしようか考えていた。

「あれっ? 」

何か寒気を感じる。心臓の動悸も激しい。冷や汗と鳥肌まで立っている。吐き気もぶり返してきた。頭痛まで感じるようだ。なんでだろ? まあ病み上がりだし寝とくか。

俺はベットに横になり眠りにつく。眠りに落ちる直前に

(しょっぱなから高度なことするじゃないわよ。次はただじゃおかないから。それから、やっぱり変な勘違いしているわね、せいぜいバカなことはしないでちょうだい。)

という起きる前に聞いたあの少女の声が聞こえた気がした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

二時間後…


「おとーさん? おとーさんか」

「どうしたの? おとーさん」

「希ちゃんがおとーさんって呼んでくれたのがうれしくてなぁ」

(あんたら似たもの夫婦だよ)

先ほどの焼き直しのようなやりとりをしながら、俺は密かにつっこんだ。

おとーさんは医者のようだ。しかも、おじーちゃんは病院長らしい。やべぇ俺セレブじゃん勝ち組じゃんと喜んだ。どうりでこんないい部屋に入れてもらえるわけだ。

ただ少し気になったのが、喜ぶ父の横で険しい顔をした他のドクターたちが

「雨宮先生、お話があります」

言って父をつれていったことだった。





そのあと、医者さんと結構長い時間話をさせれて苦痛だった。いらいらしてきたので、話を遮ってアトランティスの戦士の話をしたら、カルテに「転生妄想」と書かれた。鬱だ。

医者が看護士と会話で「やはり、心療内科へ…」とか不穏なセリフが出できたので、「今の嘘です、そうだったらいいなと思っただけです」と誤魔化したところ、今出張中の担当医が戻ってから判断することに決まり一安心した。
それにしても前世を嘘だと言うのは心が痛む。



しばらく入院することになった。

すぐにわかったことは、この子の名前は雨宮希、九歳、小学三年生ということだ。

女の子になってからの初めて風呂とトイレも心が男だからといって特に何も感じなかった。年が若すぎるのもあるし、なんというかしっくりくるのである。俺には乙女の資質があったのだろうかと悩んだが、男だった頃の記憶がはっきりとしないからだろうと割り切った。

ほかにもさまざまな問題が判明してきた。

まず、身体中に痣や切り傷の痕があり、背中の火傷のような大きな傷が気になる。長く入院してたからこのくらいの傷は負っていてもおかしくないが、この子に何があったか気になる。傷は成長すれば目立たなくなるだろう。特に背中の傷は見ているだけ頭痛がしてくるのであまり気にしないようにしよう。

看護師さんのかわいそうなものを見る目がチクチクして嫌になる。

ふと嫁に行けるだろうかと少し考えてしまった。男なのに。

他にも初日にも感じた突発的な頭痛と吐き気・寒気にも悩まされた。また、内臓系が弱いのか食が細く味の濃いモノや油っぽい食べ物は基本無理であった。これは、ジャンクフード大好きだった前世の身としてはさびしい。頑張って挑戦してるが芳しくない。

早く健康になりたい。

意外と制限の多い体だったが、どうにかこれから生きていこうと考えを切り替えることにした。暗いことばかりだと健康にも悪いしな。

なにより、髪の毛を触っているだけで、この身体はしあわせだった。気がつけば一日過ぎてたこともあった。




この気持ちを歌にしてみた。ああティモテ、ティモテ、ティーモテ   




幸いなことに、目標はすぐ見つかった。この病院の名前は海鳴大学病院だったのである。

インターネットで調べた結果、喫茶翠屋、月村家、聖祥大学付属小学校が検索に引っかかり、アニメ魔法少女リリカルなのはの世界の可能性が高いと判断できた。










まさに、天啓であった。

なのは様は一番最初の前世では想いを寄せながらかなわなかった相手だ。それから、さまざまな転生を繰り返し、直前の前世でアニメとして知っていた彼女である。もうこれはなのは様のいるところへ行くしかない。

数日が経過して、退院して家に帰る。担当医はまだ出張中だが、家のほうが落ち着くからとおとーさんが強引に退院させたらしい。

家の前に立つ。大きな門と純和風のずいぶん立派な屋敷だ。田舎なら町の有力者が住むようなたたずまいで、さすが医者の一族は違うようだ。

自分の部屋に入り服に着替えるが、長い入院で痩せたせいで少し大きく感じる。新しいの買ってもらうかな?

そして、両親に頼んで聖祥大学付属小学校への編入学試験を受けた。当然のようにトップクラスだった。

前の小学校は春休みが始まる前に一度だけ通った。お別れを言うためである。前に通ったのは恐らく二ヶ月も前になると思う。大学病院からはだいぶ離れた場所にあり、当日はおとーさんに車で送ってもらったが、ずいぶん遠い学校を選んだもんだと不思議に思った。
家の教育方針なんだろうか?

見ず知らずのクラスメイトは全員俺に対して敬語で話して、なんだかビクビクしていて、友達らしき子はいなかったのが気になったが、先生は普通でお別れ会はおおいに盛り上がった。最後に先生が

「いつも寝ている雨宮さんがこんなに頭良かったなんて知りませんでした」

と言ってくれた。そりゃそうだ。中身は仮にも成人だからな頭よくて当然だ。





春休みが終わり入学式が始まる。式自体には謎の体調不良で参加できなかった。その代わり、同じ学年の名前の掲示板に月村すずか、アリサ・バニングス、高町なのはの名前を見つけた。




完璧だ。

ここまでで人生の運を使いきった感はあるが、俺はどうやら舞台に上がる資格があったようだ。

(おかしいわね? 違う世界は本当にあるのかしら? )

病院で最初に気がつく前の少女の声が聞こえた。この身体は幻聴がたまに聞こえる。やばい病気なんだろうか?

あれから、この身体の生まれてから記憶が戻る気配はない、周囲には隠しているが記憶喪失のような感じである。誰かに取り憑いているような感じだ。そのため、この娘の優しくしてくれる両親にますます申し訳ない気持ちになるのだった。

女の子であることは、もう悩んでいない。だから、心の中で俺から私に呼称を変えた。とにかく女として生きていくのだと決心する。ただ、髪の重さやスカートで歩くときや首もとの締め付けの違和感には今も悩まされていた。

細かいことは考えないようにしよう。とにかく焦がれてやまなかったあのなのは様にもう一度逢えるのだから……







「ーーさん、雨宮さん」

誰かかが肩を叩く。考え事をしていて誰かが近くにいたのも気づかなかった。誰だろ? と冷静に考えたが、身体は思いよらない反応をしてしまった。


「きゃああーーーーー」

と悲鳴を上げて飛び跳ねるとそのまま床に尻餅をついた。
う~ん、すでに私は完璧な乙女になりつつあった。

「ごめんなさい。そんなに驚くとは思わなくて…」

上を向くと学校の先生らしき若い女性が申し訳なさそうな顔で見ている。

「いえ、こちらこそ申し訳ありません、学校の廊下で大声出してしまって」

「クスっ…恐がりさんね。今日が初日ですもの。緊張してるみたいね。少し汗もかいてるわ」

「ええ、はい」

言われてみて気づいたが、夏でもないのに襟元は汗で濡れて、心臓の動悸も激しい。頭痛と吐き気もある。原因不明の虚弱体質はこれだから困ったものだ。

首元の締め付けと汗の湿気が気になり、シャツの首元は引っ張るとパタパタし始めた。親父っぽい仕草である。
こういうところで微妙に男が残っているのはご愛敬。

(ああもう、今まで生きてきてリボンなんてつけたことなんてなかったのに、早く慣れないといけないな。女形の道は厳しいな…あれ? この場合、どっちなんだろう? )

手が止まり考え事を始める。



「あらあら、汗拭いてあげるわね」

とにこやかに笑顔を浮かべた先生がハンカチを手に私の首もとに手を伸ばしてきた。それに対して私は反射的に先生の手を振り払ってしまった。オートガード発動である。

「あっ……」

(しまった。アトランティスの戦士だったときの癖で急所への接触には無条件で反撃してしまうんだよな。それこそ俺の後ろに立つんじゃねぇレベルで、これも危険の中で身に付いた哀しき習性だな。……ふっ、あ、それどころじゃない。先生大丈夫かな? )

おそるおそる顔を上げると、先生は驚いた顔をしたまま固まっている。その後、何か考え込み、急に何かを思い出したような顔をして、涙目になっていた。

ヤヴァイ先生を泣かせちゃった。こんな噂が広まったら私の立場はない。なのは様との百合じゃなかった。バラ色の学校生活が、とにかく何かジョークを言って場を和ませないと…そうだ!

すくっと立ち上がると先生に背中を向けて首だけくるっと先生に向けた。







「俺の後ろに立つんじぇ…あぅ……噛んだ。」

再び驚いた顔をした先生だったが、涙をぬぐうと笑顔見せる。うまくいったようだ。




「ごめんなさい。次は許可をもらうわね、さあ行きましょう、あなたの友達になる子たちが待っているわ、私のクラスの生徒はとってもいい子達なのよ」

先生の背中を追いかけながら、廊下を歩いていると、先生はふと立ち止まり顔をうつむくと背中を向けたまま話しかけた。




「雨宮さん ……さっきは気を使ってくれたのね。ありがとう …優しい子ね。先生に困ったことがあったら何でも相談してね。先生、ちょっとトイレに行ってくるわね」

先生の声はまた涙声だった。

(なんでまた泣くのせんせー)

出てきた先生は化粧は直っていたが、目は赤くうるんだままで、泣いていたことはバレバレである。そして、あっという間に教室の前に着いた。

「じゃあ、ちょっと廊下で待っててね。」

(そんな顔で大丈夫かな)

先生は教室の中に入る。中のやりとりは声は小さいがよく聞こえた。どうやら先生は泣いていたことの生徒につっこまれたようだが、うまく誤魔化したようだ。良かったいらん誤解を与えるところだった。

「それじゃ今日は新しい友達を紹介するわね。雨宮さん入ってちょうだい」

おおっ緊張してきた。あの金髪はアリサか、紫のすずかもいると……クラスもどうやら当たりだな。内心は喜びで踊りだしそうだったが、素知らぬ顔で教室の黒板に移動すると皆の前に立つ。そしてふたつに揺れる白いリボンに目が止まった。



(見つけた。ようやく逢えた)

間違いない彼女だ。見つけた瞬間心臓が止まりそうだった。今は逆に鼓動が激しく脈打っている。

(なのは様…私は女の身ではありますが、あなたに逢うため想いを伝えるために再び御身の元へ参りました。)

「じゃあ雨宮さん自己紹介を、えぇーー、雨宮さんどうしたの? 」

どうやら、私は泣いているらしい。先生はあわてた顔でクラスメイトも困惑しているようだ。

(いけないいけない自己紹介ちゃんとせねば)

私は淑女を意識してスカートの両端の裾を両手でそれぞれ掴みバレエダンサーがするように頭を下げ、顔を上げると涙を浮かべながら私は笑顔を作りこう言った。




「はじめてまして、ごきげんよう。私の名前は雨宮希と申します。こうしてみなさまと逢えたことをうれしく思います。これからよろしくお願いしますね。」

どこぞのセレブを意識した挨拶をする。髪が綺麗に波打った気がした。

決まったわ。……ふっ








「…変な娘」

呆れたアリサのツッコミが聞こえた気がした。









オリキャラ人物表


男・・・アトランティスの最終戦士、何かがおかしい。

希・・・小学生ニート、出番は大分先。

カナコ・・・説明キャラ、コイツがいろいろややこしくしてます。出番は少し先。

おかーさん・・・やさしい。

おとーさん・・・出番あまりない。

担任の先生・・・なんか勘違いしてる。


作者コメント

とうとう投稿してしまった。



[27519] 第二話 ファーストコンタクト
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:870194e7
Date: 2011/05/05 23:38
第二話 ファーストコンタクト


アリサ視点



学校生活はどちらかと言えば退屈だ。でも、将来のためだ。大きくなったらパパやママみたいになりたい。

すずかとなのはといるのはとても楽しい。仲の良い友達だ。ふたりに出会うまでは周りはくだらない子供だけで、友達なんて考えたこともなかった。

新学期に入って新しい刺激が欲しいところだった。そんなとき、担任の先生が目を赤くして入ってきたときは驚いた。泣いてるところ見たのは初めてだ。

案の定、ほかの子が理由を聞いている。先生は誤魔化してはいたが、泣くような何かあったのは間違いない。その上転校生、何かこれは期待できそうだわ。

入ってきた転校生は何というか目を引く子だった。特に艶やかな黒い髪は膝まで伸びて、量もかなり多い背中から膝までを完全に覆っている。ママが言う大和撫子ってこんなものなのかしら? 気のせいか髪がウネウネしている気がする。
体つきは細くてひ弱そうだ。肌の色は白い。私やすずかより白い。顔は何というか暗い顔をしている。根暗そうな子ねと思っていたのだが、いきなり泣き出して、その後、急に笑顔になってすごくきれいな挨拶をした。

「…変な子」と思わず口にでてしまった。休み時間になっても、その未知の転校生に誰も話しかけられずにいた。


昼休み。

屋上でベンチに腰掛け、それぞれお弁当を広げながら、なのはとすずかに今日の転校生について話す。

「絶対何かあるわよあの子、ウネウネしてたし」

「そうかな? みんなの前で緊張してたんだと思うけど…ウネウネしてたよねぇ」

「……ウネウネ? 」

「そうかもしれないけど、泣きながら笑ってあんな挨拶するなんて普通はできないわよ。結局休み時間に誰もあの子に近づかなかったじゃない。ウネウネしてたし」

「確かに何か話しかけにくい雰囲気だったよね。そう言えば、なんだか急に泣き出したみたいだけど、なんでだろ? ウネウネしてたし」

「う~ん? ウネウネ 」

「ちょっと、なのは、考え込んでないで何か言いなさいよ。ウネ……もうやめましょう」

何か難しい顔をして唸っているなのはにアタシは声をかける。

「ごめん…アリサちゃん」

「どうしたの? なのはちゃん」

「うん、気のせいかもしれないけど、雨宮さん、私を見て泣いたように見えたの。」

「へ? なんでなのはを見て泣くのよ」

「それがわからないから、考えてるんだよ~」

確かになのはを見てから泣くなんて変ね。なのはは見た目はどちらかといえば目立たないからほうだからだ。

「そうね。でもこればかりは聞いてみないとわからないわね」

「よ~し、じゃあ聞いてみましょう! 」

私はちょっと変わった転校生がなのはに何を思ったのか興味がわいてきた。

「え!? でも、何か答えたくないことかもしれないし…」

「何言ってるのよ。とにかくなのはが原因かどうか確かめられればいいでしょ」

「あっ! 雨宮さん、歩いてくるよ。やっぱりウネウネしてるけど」

「ちょうどいいわ」

私はタイミング良く来る噂の転校生をここに呼ぶことにする。

「ウネウネ違った。雨宮~~~こっち~~」

「アリサちゃん~~」

なのはが抗議しているが、無視する。なんだかおもしろくなってきたわ。しかし、私たちは知らないうちにウネウネが伝染しているようだ。気をつけないと。

ーーーーーーーーーーーー

雨宮希(男)視点



昼休み。私は屋上を歩きながら転校生とはこんなもんなのか考えていた。

転校生とは休み時間にクラスメイトから質問攻めを受けるものだとばかり思っていたが、誰も近づかず私の半径2メートルにはきれいな円が出来ていた。

かといって無視しているわけではなくて、こちらをうかがうような視線はいくつも感じていた。時折目が合うのだが、なぜかみんな目をそらすのだ。

(私何かやったかな? もしかして先生を泣かした危険人物って思われてるのかなぁ)

「ウネウネ違った。雨宮~~こっち~~ 」

私を呼ぶ声がする。ウネウネ? 振り向くと手を振る金髪娘が見える。横にいるのはすずかとなのは様だった。

なのは様っ、心の準備が出来てないのに、いや、これはチャンスだ。この好機を逃すな。ああ、でも見られていると思うと緊張して体が動かねぇ。


三人は訝しげな目で見ている。緊張しながらロボットのように歩き、何とか三人のいる場所に着いた。私は深呼吸して心を落ちつけてアリサの方を見る。

「どうかしましたか? アリサさん」

「あれ? なんでアタシの名前知ってんのよ」

(やべえ、こっちは知ってるけど、アニメで知ってますっていえるわけねぇ)

「じゅ、授業で目立ってましたから」

私はとっさにそう返す。

「そう? まあいいわ。ちょっと聞きたいことがあったのよ。ついでに自己紹介しとくわね。あたしは……」

こうして自己紹介を進めていき、なのは様まで終わったところで、アリサはいきなり直球で質問してきた。

「ねえ? なのはがね、雨宮がなのはを見て泣いたのかも言ってたんだけどどうなの? 」

(うぐぅ、答えにくいことを、だが、ここはあえていくべきだ)






「うん…そうだよ」

私はゆっくりと首を縦に振る。つっこまれることは承知の上だ。

「えっ!? 」
「嘘~~~ 」
「本当にーー 」

三人の声が驚きで重なる。仲がいいですね君たち。普段から練習でもやってるのかね?

「なんでよ? 」

アリサは驚いた顔で聞き返す。

(おのれアリサめ。デリカシーって知ってるのかこいつめ、まあいい、予定より早いが進めさせてもらおう。)

私は同じように驚いた顔をしたなのは様の前に立つ。

「高町なのは様」

「はいっ」

「初めてみたときから運命を感じてました。私の、私の」










「私のお友達になってくださいッ! 」


これが私なりの告白だった。なのは様は驚いた顔をしていたまま止まっている。ほんの数秒の間だったと思うが、その時間は私にはものすごく長く感じた。

やはり運命とかつけなければ良かったかなと思った頃、なのは様の顔を輝かんばかりの笑顔に変わり



「うん、いいよ」

と答えてくれた。

至福の時である。私が女である以上この関係がお互いにとって最良のものだろう。これから長い時間をかけて友情を重ねていくのだ。その最初の一歩である。

私となのは様は見つめあいふたりの世界を共有する。しかし、その世界は長くは続かなかった。金髪のアリサが侵略してきたのだ。

「ちょっと、あたしたちを無視するとは、いい度胸じゃない」

「アリサちゃんやめようよ…」

アリサは不敵な笑顔を浮かべ、すずかはアリサの袖を掴み困った顔をしていた。

「あっ、ごめん…アリサちゃん」

「なのはには言ってないわ。雨宮に言ってるのよ」

挑発するように言っているが、実はすねてるだけだと私は感じていた。意外と寂しがり屋なのはこっちも承知している。私はアリサに近づくと頭を下げた。

「ごめんなさい。アリサさん」

「何よ… 」

アリサもこっちがあやまるとは思っていなかったらしく、驚いたようだった。

「アリサ・バニングスさん。あなたもお友達になってくれませんか? 」

「ふん、なのはの次というのは気に入らないけど、まあいいわ。アンタ見た目と全然違うし。おもしろいわ。よろしくね希」

下の名前で呼んだということは、受け入れてくれたようだ。

「月村すずかさん」
「もちろんあたしも友達だよ。希ちゃん」

すずかの返事は早かった。



「ぐすっ、良かったわね。雨宮さん」

(先生何やってんの、まさかずっとみてた? )

柱の陰から顔を半分だけ出してた先生は涙を拭いながら去っていった。

(あの先生の何がそうさせるんだろう? )





「じゃあ、お昼の続きにしましょ。と言っても私達もう食べ終わってるけど、希、あんたも座わりなさいよ」

「…うん」

そう言うと私はベンチに腰掛け、包みから銀色のパックを取り出した。

「何それ? 」

「何って…私のお弁当」

「そうじゃなくて…なんでそんなのがお昼なわけ? 」

アリサは目を丸くしてる。なのは様も驚いているようだった。

(う~~ん、さすがにお弁当には違和感があるか、ただこの話すると暗くなるし、なんとか、うまく誤魔化す方法は、そうだ! すずかもいるし)

私はこれは名案とばかりに

「実は……血液なの」

笑顔で言った。

「んぐっーーげほっ、げほっ…」

すずかは飲み物を引っかけたようだ。

「大丈夫ッ! すずかちゃん」

「うん、ちょっとむせただけだから」

すずかの反応に私は内心笑いながら、素知らぬ顔で続けた。

「私肌白いでしょ。実は吸血鬼の末裔で定期的に血を飲まないと人を襲ってしまうの。今日はA型よ。少しあっさりしてるけど、これくらいが好きなの……くくくっ」

だめだ笑いが出てしまう。

「何言ってんのよ。希、あんたやっぱり変な娘ね」

アリサは呆れた顔で言った。なのは様の方はまだ理解が追いつかずきょとんとしている。ただ、すずかの方は青ざめた顔で

「あの、ほんとに? 」

(驚いてる驚いてる。さて、そろそろオチをつけないとね)

私は立ち上がるとなのは様の前に立ち、暗い笑顔を演出しながら声をかける。

「だから、なのはちゃん」

「ふえ? 」

なのはちゃんは自分に来るとは思わなかったらしく、無垢な瞳でこちらを見つめる。


「今度はあなたの血を私にちょうだい」

私はなのは様に飛びついた。



「だめぇーーーーー」

すずかの悲鳴が響く。ははっ、もう今頃遅いわ。なのは様は私の餌食になるのだ。








「あっはははは、希ちゃん、くすぐったいよ」

(う~~ん役得役得)

飛びついた瞬間は、あわてて叫んだすずかだったが、なのは様と私のじゃれあいをみるうちにを理解したようで、ほっとため息ついて

「何だ冗談だったんだ」

と苦笑いを浮かべた。






「ーーー楽しそうだね」

男の声が聞こえる。振り向くとメガネをかけた背広を着た20代後半くらいの男が立ってる。

(誰だコイツ? )

「こんにちわ君たち」

「「「「こんにちわ」」」」

「あの、私たちに何か用ですか先生? 」

「いや、楽しそうな声がするから近づいてみただけだよ。お邪魔だったかな? 」

(ああ全く持ってそうだよ。ひとがせっかくスキンシップを楽しんでいるところに来やがって)

私が訝しげな目をするとすずかが耳元で

「西園先生だよ。半年前に来たの。スクールカウンセリングっていうお仕事をしてるんだって、ここの生徒の悩みを聞いてくれるみたい。私も話したことあるけどいい先生だよ」

「ありがとう。月村さん、こんにちわ。希ちゃん」

(私の事知ってる。どういうことだ? )

「先生、どうして今日転校してきた私の名前と顔を知ってるんですか? 」

私は親しげに下の名前で呼ぶこの人に疑問をぶつける。

「えっ? あれ? …そうか、それは僕の職場は海鳴大学病院だからだよ。ここにはお仕事で来てるんだ」

先生は最初は少し困惑したようだったが、自分で勝手に納得してにこやかに答えた。

(大学病院? ああなるほど)

「じゃあ、おとーさんの知り合い」

「そうだよ。君のお父さんは僕の上司さ。お父さんから君のことが心配だから、力になってやってくれと言われているんだ」

(もしかして最初から私目当てか? それにしても、あのおとーさんは心配性だな。まあ、直に頼むくらいだから信頼できる人間だとは思うけど、ここは父親の顔を立ててやるか)

「そうですか。父がいつもお世話になってます」

「丁寧な挨拶ありがとう。雨宮さん、それにしてもう友達ができたのかい? 学校にはすぐなじめそうだね」

「はい、ありがとうございます」

「学校のことで何かあったら、なんでも相談してね。それじゃ失礼するよ」

そう言うと、先生は去っていった。

「ねえ、アンタのパパって、あの病院の? 」

とアリサが聞いてきたので、

「うん、おとーさんはお医者さん、おじーちゃんは病院の偉い人だって」

「へええ~~~」

その後、予鈴が鳴り教室に戻ることになった。

(銀パックは誤魔化せたけど、結局食べ損ねたな。ああそうだ明日からどうしよう? あまり気は進まないけど、おかーさんに頼んでみるか)


ーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後

私は一人で帰りながら、普段は重い足も今日は軽い。お弁当、担任の先生とメガネ先生のことは少し気にかかるが、初期目標は達成できたのである。うれしくないはずがない。
次の目標としてジュエルシード事件にどう関わるか計画を立てないといけないけど、しばらくはなのは様との友達ライフを過ごせるのだ。さて何をして遊ぼうか考えるうちに家に着いた。

「ただいまー」

「おかえりなさい。みーちゃん」

優しげな顔をした女性が答える。おかーさんだ。

「ただいま。おかーさん」

母親と慕う演技は現在も継続中である。でも2ヶ月もすると自然に母親を慕うことは出来るから慣れとは恐ろしいものである。

「ふふふっ、なんだかうれしそうね。みーちゃん」

「友達が出来たの。なのはちゃんとアリサちゃんとすずかちゃん」

「そう、転校してもうお友達が出来たのみーちゃんはすごいのね」

「うんっ、今度一緒に遊ぼうって」

(う~ん、実に親子らしい会話だな。私もずいぶん慣れたもんだな。それにしてもみーちゃんか? のぞみだからありだけど、そろそろ名前で呼ぶようにしないと一生言われるような気がする。子供には甘いのに呼び方だけはいくら頼んでも「みーちゃんがかわいいから」言って変えてくれくれないんだよなー。
おとーさんも最初は小さい子を呼ぶみたいに希ちゃん希ちゃんって呼んでたしな。最近は希って呼ぶようになったけど、私はずいぶん甘やかされて育てられたんだろうなー)

まあこんな虚弱体質じゃわからなくもないけど。

「ねえ、おかーさん」

「な~あ~に? 」

何がうれしいのかニコニコしている。

「お願いがあるの」

「言ってみて」

「今日みんなとお弁当食べたんだけど、私だけ変でしょ。だから、明日からお弁当を作ってほしいの」

笑っていたおかーさんが困った顔になる。

「でも、ゼリーとわかめ以外は気持ち悪くなるんでしょ。学校は運動することも多いし、ゼリーとわかめにするんじゃなかったの? 」

「うん、でも私だけ仲間はずれはイヤだもん」

そう、春休みの間でだいぶ改善はしたが、まだ普通の食べ物を受け付けないのだ。味の濃いものや油っぽいものは吐いてしまう。味の薄いあっさりしたものでも油断してると嘔吐感こみ上げる。

唯一普通に食べられるのは飲むゼリーとわかめである。これは前世で主食にしていたこと大きいだろう。ただ、もう一つの主食ジャンクフード系は無理だった。他に食べられそうなものは加工してない果物・生野菜というところか。米とパンもぎりぎり大丈夫だな。

「わかめ、果物、お野菜そのままなら平気、お米とパンもなんとか」

「わかったわ。おかーさんに任せなさい」

母はドンと胸を張った。いい母親である。

「みーちゃん、今日は食べる練習する? 」

「うん…」

私にとって食べることはトレーニングと同等である。体調が悪い日はゼリーにしているが、退院してからは毎日母は食べるものも私だけ別メニューで作り食事日記までつけてくれている。あっさり系がいけるようになったのも母の努力によるものだ。ただ、こってりの壁は厚かった。

(そういえば、目覚めて最初に食ったのって天丼だったよな。よく喰ったなぁ)



作者コメント

オリキャラばかり増えるのは良くないなぁ。







[27519] 外伝 レターオブ・アトランティス・ファイナルウォリアー
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:870194e7
Date: 2011/05/03 16:36
外伝 レターオブ・アトランティス・ファイナルウォリアー




アトランティスの最終戦士 完結編 最終章 

最終話 アトランティスの最終戦士最期の戦い 




本編の幻の0話的な話です。



※ 注意

三人称です。







これは最初の記憶……そして、最期の記憶である。


アトランティス王国 南西 石の塔


そこは戦場だった…

辺りは煙が立ちこめ、血と肉の焼ける匂いと機械特有のオイルの匂い混ざりあい顔をしかめるような不快なモノとなっていた。

周囲に生きているものはいないそう思われていたが、動く影が二つ。


「生きてる? 」


そう最初に発したのは白い服を身に纏った女性だった。その声は凛として力強く、この惨状にあってまだまだ余裕を感じさせた。

「はい、……生きてます。」

そう答えたのは赤い銃を持った黒い服の男だった。その声は気を張ってはいたが、疲労感を滲ませていた。

「そう、…良かった」

女性は安堵してため息をついた。逆に男は不満なようだ。

「良くはありません! どうして戻られたのです。王自ら作戦を反故なさるとはどういうことです!? 」

「だって…あなたのことが心配だったから」

男の非難に女性の声は叱られた子供のように萎んでいく。

男はなんとなくこちらが悪いことしたような感覚になり、かぶりを振ると、ぎこちなく笑顔を浮かべて言った。

「失礼しました。助けてもらいながらこの様な言動……しかし、あまり時間はありません。すぐにヴィヴィオ様のところへ向かわれてください。なのは様」

「でもここの敵はあなただけじゃ無理だよ。他の部隊の人たち全滅したみたいだし」

「大丈夫です。負傷しましたが軽傷です。これでも致命傷を避けるのは得意なんです。それに、貫通弾のストックもまだあります。戦闘継続に問題ありません。あなたを追撃する敵を一歩もここから通しません」

「それじゃ……せめて一緒に」

心配するなのはの声に男は声を遮り言った。

「こうして話している時間も貴重です。あなたひとりが遅れてどうするのです。フェイト様は狂王スカリエッティを討つためムー帝国首都へ、はやて様も敵機械兵団本隊と、同士ガーゴイルや他のみんなも戦闘機械人達とそれぞれ戦っています。危険のはみんな一緒です。この石の塔の中枢ユニットであるヴィヴィオ様をコントロールから切り離せば、それだけ皆の危険が減るのですから……急いでください!! 」

最初は穏やかだった男の言動が急に険しくなる。

「敵が近づいてる? 」

「はい、なのは様……私を信じてください。私はあなたの敵を斬る剣やあなたを敵から守る盾にはなれないけれど、あなたの剣が存分に力を発揮できるように支える小手でありたいと思ってます。」

男は手を天に掲げると心に秘められた呪文を唱える。







「来たれ、我が黒き外套、赤き銃身ディスティ。我はアトランティス最終戦士ジークフリード、王剣を守る小手なり! 」

先ほどまでボロボロだった男の姿が黒く輝き修復されていく。その姿を見てなのはも安心したようだ。

「うん、無理しちゃだめだよ」

「はい、なのは様この戦いが終わったら、聞いて欲しいことがあるのですがよろしいですか? 」

「わかった。死なないで…」

まだ言いたいことがあるようだっだが、顔を上げて厳しい目をするとなのはは飛行魔法で飛び去っていった。





数刻のち現れたのは数十の機械兵と残忍な笑みを浮かべたメガネをかけた女性だった。


「あら? 誰かいるようね」

「クアットロか。残念ながらここは行き止まりだ」

「ふふふっ、こんなことに警備兵かしら? 雇った覚えはないけれど、あなた程度でこの私の足止めができるかしら」

クアットロは独特の甘ったるい喋り方しながら軽口をたたいたが、足止めできるかどうかと言っているあたり、男を見下しているのは明白であった。

「悪い魔女にさらわれて魔法をかけられた娘を母親が助けに行くのだ。邪魔はさせん! 」

「魔女いうのはあたしのことかしら。そもそもあのふたりは親子じゃないじゃない。おかしなこと言うものね」

「血のつながりがすべてではない。世の中には母が子を疎んじて殺そうとすることもあるのだ。ふたりはお互いを思い合って、そう決めたのだからふたりは親子なのだ」

「母親に包丁で刺された子って誰のことかしら? 」

「ふん…やはり貴様か母をけしかけたのは」

「いやね。私はただかわいい優秀な子供を失って悲しむ母親の背中を押しただけよ……弟が死んだのは血のつながらない兄のせいよってね。」

「弟を暗殺したのも貴様だろう? 母は俺を刺したあと、火にまかれ自殺した。俺の家族の仇も討たせてもらうぞ」

「仇なんてくだらない。もういいわ。戯れ言は聞き飽きたわ、さっさと雑魚を片づけて本命を狩るわよ。さあ、私のかわいいお人形さんたち」

クアットロは手を振り上げ号令をかける。それに合わせて機械兵が銃口を、刃を、男に向ける。

「はははっ…来たのがおまえで良かったよ。仇だけではない。狂王が倒れたら次はおまえがムー帝国を引き継ぐことになると思っていたところさ。おまえはここで死んで行け」

クアットロはへぇと感心したように答える。

「たいしたものね。敵で私が跡継ぎになることに気づいたのはあなたくらいよ」

「たいしたことはない。死んだ弟からの情報さ。おまえの行動は狂王似たところがある。後はおまえの部隊の規模と今までの任務からそうじゃないと推理しただけさ」

「少しは知恵が回るみたいだけれど、私をここで殺すと言うあたり、身の程を知らない馬鹿なのかしら」

「身の程を知らないというのはあってるよ。なんせ王に仕える身でありながら、その王に告白しようしてんだからな。しかも、王にはすでに本命がいるってのに…ということは馬鹿も含まれるな。…くくくっ」

「おしゃべりね。時間を稼ぐつもり? お人形さん早くあの雑魚を……っ!?…何」

クアットロは命令を下そうとしたが、男の魔力が異常に高まっていることに気づいて目を細める。

「残念だったな。時間稼ぎは終わった。おまえを殺すための準備はすでにできている。これでも魔力量だけは多くてね。なのは様に負けないくらいはあるのさ。ただ、一回の放出量が致命的少なくてな。戦闘中は拳銃を撃つくらい威力しか出せないのさ。ただ、その拳銃も何万発分の火薬が炸裂すればこの辺一帯を吹き飛ばせるだろう? 」

「何を……」

さっきまで余裕だったクアットロ顔に焦りの色が見え始めた。逆に男は不敵な笑みを浮かべる。

「ただ、欠点があってね。一度しか使えない上に俺の身体がその放出に耐えられない自爆技ってことなんだ」

「ひぃぃ! 逃げ……「遅い」」

そのとき暗い室内にまばゆい光が満ちた。光は周囲のあらゆるものを飲み込んでゆく。

クアットロ顔は恐怖に歪み、飛行魔法で逃げるが間に合わない。

「王の夢が…私の夢が…」

それが狂王の後を継ぐはずだった魔女の最期だった。



大音響と衝撃と巨大な魔力の放出感じ取り、なのはは振り返る。

「レイジングハート今のは? 」

嫌な予感を感じつつ、なのははレイジングハートにたずねる。

「OK、マスター。S+規模の魔力放出を確認。魔力パターンから使用者は「もういい!」」

なのは悲鳴のような声で遮った。

「大丈夫。彼ならきっと」

自分に言い聞かせるように言うと、しばらく立ち止まりうつむいていたが、顔を上げて再びヴィヴィのもとへと向かったその顔は涙の跡はあったが迷いはなかった。

「聞いて欲しいことがあるって言ってたもん」



男は満足だった。元々はなのは王を見出した近しい友人という理由だけでここにいて、男は足を引っ張っていることは自覚していた。魔力だけは多かったが、一回放出量が少なくコントロールする才能もなく、体内の魔力を外に展開して維持する事が致命的に苦手だった。
そのため、機関銃のように魔法を撃ち、豊富な魔力量と少ない一回放出量という長所を伸ばし、短所を補い側近のアトランティスの最終戦士の座をつかんだ。
彼は魔力防御の弱い多数の敵に対してはそれなりの成果を出していたが、魔力防御高い敵には通用しなかった。また、連続的な魔力の放出は身体に負担がかかり長時間は無理だった。
戦闘教練や座学も努力したが、ワード、エクセル、パワーポイント等でも秀才の域を出ることはなく周囲と比べると分不相応な地位いるなと思ってはいた。それでも、なぜかなのはの期待は大きくその地位に留まっていた。

今回の戦いにおいても、男の対応できるレベルを越えていた。参加が認められたのは、彼のデバイスのディスティに敵の防御魔法を突破する貫通弾を自動装填する機構が開発され組み込まれたからである。もちろん、AAクラスを越えるような敵には通用しないが、多数の機械兵ならば仲間の中でも有数の働きができた。人的余裕もなかったことも一押しとなった。



暗い闇の中で男は宙に浮かぶような感覚に囚われていた。

(ああ俺は死ぬ……でもまあ、俺にしたら上出来か)

男は薄れゆく意識の中で…

(この想いを告げぬまま逝くのは口惜しい…次があれば、きっと…あなたに)








舞台背景補足



勢力

アトランティス王国・・・なにはが王の国、資源と魔力の資質が高い人材が豊富な国。魔力の高いものが貴族、最も魔力の高いものが王となる、魔力の高さが地位の基準となる国、生まれが庶民でも成り上がることが可能である。ただし王や貴族になるものは自ら先頭に立ち戦うことが求められる。

レムリア都市連合・・・5つの都が合同で評議会をしているはやてが代表の国、王国とは同盟関係にあり、交易で栄えている。ヴォルケンリッターは各都市の代表にして主戦力

ムー帝国・・・スカリエティが王の国、科学技術が発達している。連合の富と王国の資源と人材を狙っている。

ネオアトランティス教団・・・どの勢力にも属さない仮面をかぶった宗教集団。首領ガーゴイルを中心に優れた科学力を背景に一大勢力を作っている。技術盗用でムー帝国を目の敵にしている。この戦争で王国と連合と同盟を結んだ。



人物

なのは・・・アトランティス王国の王様。一般庶民から魔力の高さゆえに王位継承に担がれて、勝ち取り王となる。フェイトとは親友以上の関係。自分を見出してくれたジークには尊敬と友愛の情を持ち、自分のそばに置きたがる。

ジークフリード ・・・両親は代々貴族になれるほどのエリート一家の出自。彼もそれを期待されたが、魔法行使が致命的に下手で、優秀な弟と常に比較されて、一度は社会からドロップアウトして、部屋にこもり芸術と文学に逃避する。家族からお金を無心していたが、勘当され地方へとばされる。その先で一般庶民だったなのはと出会い彼女の才覚に気づき、自らも自分と向き合い覚悟を決めて彼女を王国に連れていき、第三奨学生として推薦する。
その後、王となったなのはに抜擢され、才能はあまりなかったが周りの支援と本人の努力で側近であるアトランティスの最終戦士にのし上がる。ネオアトランティス教団との同盟は彼の功績である。なのはが好きだがフェイトにはかなわないと思っている。自爆魔法で敵ともろとも死亡確認。 

イツキ・・・ジークに代わって、実家の後を継いだ。非常に優秀であったが、ムー帝国の刺客に暗殺される。ムー帝国の内情をかなりの精度で分析していたためと言われている。

その死で母親は心を病んで、兄であるジークを逆恨みして包丁で刺す。その後焼身自殺する。

ヴィヴィオ・・・なのはの跡継ぎ予定? 元々は聖王のクローンで狂王スカリエッティの部下に連れ去られているところ保護され、魔力の高さゆえに王室に預けらた。そこでなのはとフェイトと親子の絆を結ぶ。この戦いの前にさらわれ石の塔に囚われる。当然助けられる。

フェイト・・・なのはとは王位継承権を争いジュエルシードを取り合ったライバル。母親のために頑張るが報われずなのはに破れる。プレシアに捨てられるが、前王のリンディに救われ養子となる。現在は第二王継承権を持ちなのはを支える。なのはとは親友以上の関係であり、側近の男の存在にやきもきしている。プレシアの娘のクローンなのは誰も知らない。

プレシア・・・フェイトを使い王国の算奪をもくろむ。その真の目的は王国に封じられた禁断の門を開き、アルハザードへ至り愛娘を生き返らせることだった。

リンディ・・・なのはの前の王様。プレシアとの対決後、引退してなのはに王位を譲る。現在は孫の世話を焼いている。

クロノ・・・リンディの実子。なのはとフェイトの登場で早々と王位継承をあきらめ、軍の指揮官となり軍を率いる。妻子あり。

狂王スカリエッティ・・・ムー帝国の王。魔力の実力というよりはその知識と科学力で王となった人物。ジークの弟の暗殺、プレシアをそそのかしたり、ヴィヴィオをさらい中枢ユニットにするなど、王国と連合を狙いさまざまなことを企てる。この世界ではフェイトに討ち取られている。

クアットロ・・・スカリエッティの側近。姉妹たちの中でも独自に動き、その謀略と残忍さには定評がある。なのはの側近のジークを脱落させようと母親をけしかけたりもする。実は跡継ぎ候補の筆頭、ジークの自爆魔法で死亡確認

はやて・・・レムリア連合の代表。前代表のグレアムが自らの因縁の闇の書を葬り去るべく生け贄として選んだ少女。なのはとフェイトと関わることで自らの運命に逆らい、闇の書を支配しリインフォースへと転生させ真の主となる。事件後はグレアムを赦しその跡を継ぐ。ヴォルケンリッターは家族。なのはとフェイトとは親友。ジークとは顔見知り程度の関係である。

ユーノ・・・代々王位継承戦の審判をつとめる一族のひとり、ジュエルシードによるなのはとフェイト王位継承戦を取り仕切った。その後は内政官となる。

首領ガーゴイル・・・ネオアトランティス首領。ジークとは旧知の関係で、芸術活動を通じて知り合った。教団との同盟が成立したのはこのふたりの関係が大きな影響与えたのは間違いない。昔は世界征服をたくらむこともあったが、世界の広さを目の当たりにして丸くなり教団の繁栄に尽力することになる。









以上


私にはこのような前世の記憶があります。アトランティス王国最終戦士ジークフリードです。妹も一緒で内政官をしてたイツキです。この名前とアトランティスとかで何か感じた人がいましたら連絡ください。きっとあなたも転生戦士です。戦士階級書いた葉書を送ってください待ってます。

8月に円卓会議を行うのでよろしくお願いします。

議題は第二次ムー帝国残党掃討戦についてです。場所は私の自宅で行います。

合い言葉は「アトランティスに栄光あれ」です。

主宰 アトランティス王国最終戦士 ジークフリード

副主宰 ネオアトランティス首領 ガーゴイル




月刊○ー19○○年○月号より抜粋



[27519] 外伝2 真・ゼロ話
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:870194e7
Date: 2011/05/06 00:31
外伝2 本編の真の0話になります




夢を見ている。六畳程のくらいの部屋にふたつの影が座っている。
ひとりは女の子の影だ。背格好からまだ幼い。もうひとつは自分であることはわかる。女の子の影に何かせがまれているようだ。


「ねえ、おにいちゃん何かおはなしして」

「そうだなぁ。ここにある絵本は読んでじゃったし…」

「魔法を使う女の子の絵本は? 」

「あれは続きがまだなんだよ。近いうちにできるからね。次回はえーすの闇の書 覚醒だったかな? 」

「う~ん」

「そうだ。実は…僕には秘密があるんだ。このことは誰にも言ったらだめだよ。」

俺は少しもったいつけて話す。こういうことは前置きが大事なのだ。

「はいっ。誰にも言いません」

女の子は神妙な顔でうなづく。うん、いい感じだ。

「実は僕には生まれる前の記憶があるんだ」

「すご~い。私でもそんな前のこと覚えてないよ」

女の子は感嘆したようだ。子供らしい勘違いで微笑ましい。



「ちょっとちがうんだけどね。絵本の女の子なのは様と最初に出会う物語でね。実は…僕はいや……俺はアトランティスの最終戦士ジークフリードなんだ」




俺は語り始めた。

なのは王と共に戦い、未練を残して死ぬアトランティス最終戦士ジークフリードの物語だ。まさに漢の生きざまを体現した話である。だが、女の子にはいまいちだったようで

「死んじゃってかわいそう」

女の子は泣きそうだ。俺はあわててフォローする。

「でもね、ジークは幸せだったんだ。最後の未練はあったけど、王に出会うまではダメな人間で大人になっても働かないで家族からお金をもらっていたんだから。じゃあ、そのときの話もして上げよう」

「は~い」

ーーーーーーーーーーー


ここはある邸宅、アトランティス王国でも名家と言われているも一族の住まいだ。この家の主は代々国の要職に収まっている。テラスに20代前半の男と40代後半の女が話をしている。二人は親子のようだ。

「母上。お金を融通してもらえないか? 」

「いくらほしいの? 」

「金貨10枚ほど」

「何に使うのかしら? 」

「新しい音姫の造形が出たのです。インスピレーションを刺激されまして、芸術家・作家志望としては是非手元に置いておきたいのです」

「まあ、いいわ」

「ありがとう、感謝する母上」

「ねえ …ジークフリードいい加減仕事する気はないの? 」

「えっ? そうですね」

男の煮えきらない態度に、母親はスイッチが入ったようだ。

「あなたねぇ、確かにあなたが魔力は多く生まれてきたのはいいけど、魔法行使が上手くできなくて、家を継げなくなったのは残念よ。
でも、あなたの代わりにイツキが跡を立派に継いでくれたわ。王国の内政官に任命されたんですって、だから、あなたもせめて、イツキが恥をかかないように何か仕事をしなさい」

(また、始まったな母上は、いつも優秀な弟と比較されて、何も思わないわけがないではないか。だからこうして…芸術や執筆にいそしんでいるというのに)

母の説教はまだまだ続く

「そうだ。あなた魔力だけは多いんだからそれを生かして、ちょうどね、王国の西のウミナリというところでね「母上」」

男は母の言葉を遮り言った。

「俺は肉体労働的なことは向いてません。むしろ、感性を生かして芸術・文学的なこと方が合っていると思うのです。今はお金を融通していただいてますが、必ず大成すると確信してます 」

「そうなの? 」

「はい、今少しずつですが結果が出てます。プロではありませんが、とあるアマチュアの大人向け芸術グループで台本を担当してました。身を立てるまでいきませんが報酬もありました。次回作も担当することになってます。他にもいくつか声をかけていただいてます」

「そう、ならいいわ。ただし、結果が出ないようなら、ウミナリに行ってもらいます」

「わかりました、必ずや朗報を持ってまいります」

半年後男は勘当されウミナリに行くことになる。元々芸術や文芸の才能などなかったのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー



ここで話はいったん終わる。俺は女の子に聞く

「どうだった?ありもしない希望にすがる哀れな男の姿がよく現れているとおもうんだけど 」

「よくわかんなかった」

「じゃあ、あれから結局ウミナリに行くことになったジークがなのは様と出会うお話。それとも、自慢の弟が殺された母親が敵国のスパイにそそのかされてジークを刺して自分も自殺する愛憎渦巻く話とどっちがいいかな? 」

「おにいちゃんの話は難しいよ~ 違うお話がいい」

女の子には不評のようだ。俺は気を取り直して違う話にすることにした。

「じゃあ新作行こうか、今日は加藤の話をしよう」

「やった~あか~だるま~ 」

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ここで目が覚める。ずいぶん懐かしい夢を見たもんだ。夢の女の子は誰だろう? 影だったからはっきりとはわからない。

それにしてもネタのチョイスが微妙だな。子供向けじゃない気がする。

昨日は遅くまで新作作ってたから、まだまだ眠い。しかし、そろそろ昼だ、起きないと、ダメ人間まっしぐらだ。…もう手遅れかもしれないけどな。

俺はふと今までの奇妙な人生を振り返る。



転生という言葉がある。いい言葉だ。
前世の知識が詰まってる。

俺は転生者。
しかも何度も繰り返している。最初の前世はアトランティス王国の最終戦士ジークフリードで王の側近だった。王国の命運を賭けた戦いで敵国の王の後継者を討ち取りながら、戦死するという凄絶な最後を迎えている。さらに他の前世では「柳生の最終兵器」と呼ばれたり、「ドイツの撃墜王」あるいは「赤達磨」と歴戦をくぐっている。




ウィキペギアで見てそう確信している。

























…すいません嘘です調子こきました。


実際の前世はごく一般の日本家庭で、好きなことの物覚えは良かったものの、子供の頃は弟と比較され劣等感の塊の人生だった。最後なんか思い出したくもない。包丁と灯油は今でもトラウマだ。母親が包丁持ってると不安になる。

今回は強くてニューゲームで前世の鬱憤を晴らそうと子供の頃から優越感に浸りまくって、前より性格も明るく快活になった。ええ、自信だけはつきましたよ。

ただ、いいことだけではなかった。年の割に可愛げのない、察しの良すぎる子供は浮いてしまう。特に母親は少々神経質なところがあり、表では神童と自慢していたが、陰では気味悪がっていた。もっと子供らしくするべきだと思ったときには遅かった。でも、大人になれば大丈夫だろうとそのときは気楽に考えていた。

中学でも我が世の春を謳歌した。調子に乗って生徒会入ったり演劇部入ったりリア充に邁進していた。だが、女性とつきあったこともなかったから高校の初めての彼女で失敗。そのショックで成績下がって母からガミガミ、やる気なくしてガミガミのデススパイラルだった。
それから、大学は中退したせいでえらい目にあった。包丁怖い包丁怖いである。その後は引きこもったというかそうしても大丈夫な仕事をしている。こんなでも一応自立している。

そろそろ起きるか。俺はのっそり身体を起こして、洗面所に立つ。鏡を見る。頭部を見てため息をつく。

あきらめないぞ俺は。特殊な薬剤を頭皮にペタペタとつける。

すると誰かが後ろから近づいてくるようだ。

「俺の後ろに立つんじゃねぇ、死にたいのか? 」

「はいはい、ごめんなさい」

よく知っている顔だ。久しぶりに見る。

髪は肩に触れるくらいの長さで最近の若者らしく茶色く染めている。服装は白いブラウスと新しい紺色のスーツの組み合わせで清潔感がありオフィスレディな雰囲気だ。顔は身内からみても可愛い部類に入ると思うが、気が強いのが珠にキズだ。まあそこがいいという男もいるだろう。

「おはよう。イツキ君」

「おはよう…じゃない兄貴もう昼過ぎだよ。いい加減働きなよ」

「それが久しぶりに会った兄に対する最初にかける言葉か? 昔は可愛かったのに、絵本とか読んでやったろ」

「昔は昔、今は今よ。感謝してるけど。何年も平日の昼間に部屋に籠もっているんだから、そう言いたくもなります」

「ところで何でいるんだ? 大学はどうした? 」

「帰ってきたの。教育実習。地元の小学校へ行くの。お母さんから聞いてない? 」

「あいつがそんなこと俺に教えるもんか。そういや親父から聞いた。イツキ君帰ってくるって」

「兄貴…イツキ君はやめて! 私は妹」

妹は嫌な顔をする。最近はこの呼び方を許してくれない。俺はささいな反撃を試みる。

「いいじゃないか。どうせおまえとは前世から兄弟のつきあいなんだ。弟じゃなくて、妹が生まれて名前が呼び方が一緒で「斎」になったときは運命を感じたもんさ」

はぁーーーと斎はため息をついた。逆効果だったようだ。

「いい加減にして、その前世とか電波発言」

「なにおーーー だいたいな前世じゃ子供の頃から優秀なおまえと比較されて肩身が狭い思いをしたんだ。しかも、おまえが殺されたせいで前世の母さん心を病んで、俺を包丁で刺したあげく灯油まいて心中しようとしたんだぞ」

「それ、笑えないから」

斎は急に真顔になる。ちょっと選択をミスった。リアリティがありすぎた。俺は話題の軌道修正をしてみる。

「でも、斎君はアトランティス王国の内政官まで勤めたのに、ムー帝国の野望に気づいたせいで暗殺者にナイフで刺されて死んでしまうんだよな」

「なによ。その具体的で不吉な設定。脳沸いてんじゃないの? 」

「失礼なこというな。おまえだって昔は俺を受け入れてくれて弟役につきあってくれたじゃないか?
それに、一緒に葉書を書いて募集かけたろ転生戦士? 」

斎は俺の口元に手のひらを当てて、これ以上しゃべらないようにする。

「それはやめて。子供の頃でしょ。純真だったの無垢だったの今は封印したの! 」

斉は早口でまくし立てる。

「人集めて楽しかったよな? 」

「怖かったわよ!! だいたい、なんであんなに人が集まるのよ? しかも、大人ばっかりで大きな目の仮面つけた変な人もいたし」

「ガーゴイルさんを悪く言うな。あの人ほんとは偉いんだぞ。それに、おまえだって、幼いながらも楽しんだから、お互い様だろぉ~」

俺はわざと甘えるように言う。

「いやらしい言い方しないで。…兄貴の変態。そういえば、お母さんから聞いたんだけど、自分の部屋に小さい女の子を連れ込んでるって…ホントなの? 」

「人を犯罪者みたいに、まったくあの母親はあることないことをベラベラと」

「私は兄貴を信じてるけど、世間的には、ほらっ、親御さんだって心配してるだろうし」

斎の言い方にしては珍しくオブラートに包んで言っている。自分が子供の頃みたいに絵本とかお話をしてくれていると信じているんだろう。

「やましいことはないよ。6歳くらいの女の子だぞ。それに親公認だしな。おまえだって、その子に会っているぞはずだろ」

「えっそうなの? 覚えてないよ」

誤解したままの斎にちゃんと説明することにした。

「俺の部屋の窓、隣の家の窓に近いだろ? 小林さんって覚えてないか? 普段はカーテンしてんだけど、隣から大人の言い争う声と子供の泣き声がして、あんまり、うるさかったもんだから」

「だから…」

「子供の前で、夫婦喧嘩してんじゃね~教育に悪いだろうがこのヤローって大声で言った」

俺はドヤ顔で言った。

「ははは……はぁ~」

斎はなぜか乾いた笑いとため息をついた。

「あの後、向こうも反省したらしくてな。しばらく夫婦喧嘩は止んだんだ。それ以来そこの家の女の子が窓から遊びにくるようになってな。なんか俺を尊敬したみたいで。まあ親も俺の部屋カーテン開けとけば隣の家からよく見えるからな。心配ないと思ったんだろ。意外と気さくで娘思いで優しかったぞあそこの奥さん。それから、絵本読んだりお話したりしたんだよ。ちょっと変わった子でさ、飽きっぽくってな同じ話は嫌がるんだよ。そのおかげでいろんな話をすることになってな。おれの演技力はますます磨かれていったのさ。」

「何の役にも立たないけどね。でもさ、本当に上手いから劇団員くらいにはなれるんじゃない?」

「いまさらだよイツキ君。たださ、ある時クマの人形使ってやったね○○ちゃんって言ったら、小林さんの奥さん血相変えて飛び込んで来て、俺を投げ飛ばしたんだけど、あれは何だっだんろう? いや~世界が一回転するなんて初めてだったよ」

「それは兄貴が悪いよ、いくら仲の良いお隣さんでも…」

斎は真面目な顔で答える。

「なんで? 」

「その言葉はね。ちいさい女の子にとっては呪いなの。言ってはいけないことばなの。こっくりさんとか花子さんとかそう言うたぐいなの。ダメだからね。…後悔するから」

「…わかった」

斎の深刻な表情に俺も頷いてしまう。どうやら世界には俺の知らないタブーが存在するようだ。

「話は元に戻るけど、その後も2年くらいつきあいは続いたんだけど、最近引っ越ししてな。結局あの夫婦離婚したらしい。駆け落ち同然に結婚したって聞いてのに、現実を思い知っていやな話だよなぁ~」

「そうなんだ。私もちょっとイヤだな離婚なんて、ウチは仲いいもんね。おとうさんとおかあさん」

斎はそう言って同意を求めてきた。

「そうだよな~ あんな神経質なかーちゃんにずぼらものぐさを絵に描いたような親父が結婚したなんて信じられないよな」

「ひどいこと言うね。ふたりが聞いたら怒るよ」

「これくらいの憎まれ口は聞いてもいいだろ。なんせ子供ときから苦労させられたぜ。カーチャンはいつもピリピリしてたし、親父はそんなカーチャンに無関心だしよ」



「ねぇ?おにいちゃん、今の話で思い出したんだけど…」

斎は急に優しげな声に変わる。視線もなんだか柔らかい感じがする。

「何だよ、急に昔の呼び方なんかして」

斎はいつのころか意識して兄貴という言葉を使っている。だから、急に呼ばれると戸惑ってしまう。

「私さ、おにいちゃんを尊敬してたんだよ。子供の頃よく一緒に遊んでくれたよね。おにいちゃんは今考えてもちょっと信じられない大人でさ、頭も良くて、絵本とか作ってくれたりさ、お話とか、子供のときにはわからないものも多かったけど、アトランティスの戦士とか話し方も演技も上手くて本当にあったことみたいだった。ときどき信じられないことして怖かったけど、それも含めて私はおにいちゃんと遊ぶのが世界で一番楽しかった」

斎は穏やかな顔で俺との思い出を語る。なんかしんみりとした空気だ。俺は何かくすぐったくなってきた。

「なあ、あの絵本完成してるぞ。読んでやろうか? 」

斎は首を振る。

「魔法使いの女の子だっけ? いいよ、読むのは今じゃない気がするんだ。」

「それから、昔送った葉書が乗った雑誌が「それはやめて」」

途中で遮られる。せっかく掲載されたのに、冷たい奴だ。斎はどこか遠くを見つめながら続ける。

「おにいちゃんが高校上がって彼女ができたとき、私悲しかった大事なもの取られたみたいでさ、だから呼び方を兄貴にして関係を変えようと思って、でも結局、その彼女にふられて…って、兄貴どうしたの?」

「その話はやめろー心が、心が痛い」

心臓を押さえて悶える俺。斎はやれやれと言った顔で

「兄貴は女に幻想持ちすぎ、女は現実的でシビアなの、お隣さんの話はさすがに気分悪いけど」

「お、おまえはどうなんだよ。彼氏とか…おにいちゃんは許しませんよ」

「私は別にいないけど、作らないだけだもの。…大学とか忙しいし」

「うんうん」

俺は満足そうにうなずく。今でも妹としての自覚があって可愛いもんだ。そんな俺に斎は不満そうな顔で反論する。

「なんでうれしそうなのよ。…本当なんだから」

「やはり妹は兄貴が心配で彼氏を作れないんだな。でもあんまり遅いとおにいちゃんは心配だぞ」

「もうっ! 勝手言ってなさいよ。それから、ちゃんと働きなさいよ」

「心配すんな。これでも、売れっ子なんだ。家にお金だって入れてる」

「何の仕事なんだか。それじゃ兄貴行ってきます」

そう言って斎は去っていく。俺はその背中を目で追いながら、そっとつぶやく

「頑張れ斎! 良い先生になれよ。おまえの夢だったもんな」


ーーーーーーーーーーーーーーー

数年後

そしておれは再び死のうとしていた。

出かけてた先でトラックが突っ込んできて、子供たちを助けて自分はひかれてしまったのだ。

(ああ、なんてこったお約束にもほどがある。このままじゃ神様か死神に異世界に召還されてしまう。…まさかね、でも二度あることはとか言うし、それにしても痛い。めっさ痛い)

二度目の死だが、今回は痛くても余裕がある。前回はそれどころじゃなかった、熱いし痛いし、俺は残される家族のことを思った。

前世の知識のおかげで今回は親に経済的な負担を与えなかったのはよかった。しかし、あの母親とは最後までわかりあえなかったな。絶対俺が死んでせいせいしているはずだ。ちょっと悔しい、どうも俺は母親とは相性が悪いらしい。まあいいか、今回は期待に応えられなかった俺も悪いしな、こっちのことは許してやろうじゃないか。

斎にはごめんとしか言えないな。今ここにいたら怒られそうだ。逆に泣くかもしれないけど、泣かせるのは忍びないな、だからやっぱごめん。それから、おにいちゃんの仕事知ったらきっと驚くな。

親父? なんかあったけ? うそうそ冗談だよ。一番の理解者だよ親父はさ。ただの放任かもしれないけど、何も言わずにいてくれてありがとう。俺の金大事に使ってくれよ。

家族にそれぞれ別れを告げると、最後に今生を振り返る。不満はそれなりにあるけど、前世で満たされなったことを多く満たしたのだから良しとしよう。
ただ、誰かと結ばれてその先に行きたかったのは贅沢だろうか?

俺が最後の最後で考えたのは

(俺のカッコいい死に方がニュースで報道されるといいなぁ。それから、俺の魂のHDDどうしよ? あの日記とか見られたら死ぬ。あっ、これから死ぬんだっけ、まあパスワードかけたから大丈夫か俺以外にはわからないだろうし)

というくだらないことだった。

ここで意識は途絶える。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー

とある部屋の一室

私は倦怠感のまま、ベットに横になっています。テレビはついたままです、うるさくてうっとうしいのですが、疲れて消す気にもならなりません。

「ニュースの時間です。今日午後4時頃、帰宅中の小学生の一団にトラックが突っ込みました。」

どこにでも不幸転がっているものです、気が重くなります。

「幸い小学生は軽傷ですみましたが…」

(よかった。)

「近くにいた○○市○○の無職○○さん○○才が小学生を避難させた後、巻き込まれ、病院運ばれましたがまもなく死亡しました。」

(えっ!? …今なんて言ったの?)

私は飛び起きて、テレビを食い入るように見ます。テレビに写し出されたのは前が潰れたトラックと血の跡。そして、見間違うはずがない顔の写った写真でした。

「うそ、おにいちゃん」

私の心は絶望で染まっていきます。




作者コメント

多くの感想ありがとうございます。レスはのちほどします。誤字脱字チェックも後になるかと思います。ゴールデンウィーク強化として毎日を目標にしてます。

話の贅肉は多いダイエット足りない。要点だけしっかりとしたスタリッシュな話にしたいのですが上手くいきませんね。
斎ちゃん出番あるといいね。兄弟の掛け合い書いてて意外に楽しかった。



[27519] 第三話 好感度イベント 三連投
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:870194e7
Date: 2011/05/04 18:39
第三話 好感度イベント


※ 三本立てです




〈 好感度イベントなのは なのは様と呼んで 〉




お昼休み

お昼ご飯は食べようと、なのは様のところに行こうとしたら、先生に呼ばれた。

「雨宮さん」

「はいっ。先生」

「先生とお弁当たべない? 」

「と、友達と約束してるので」

「そう」

先生はしゅんとうなだれた。すごく残念そうだ。

(苦手だなあの先生。なんか寒気とか感じるし)








今日はちゃんとお弁当を用意してもらった。今日は体育もないので、余裕もある。

「今日は普通のお弁当なのね。」

(蒸し返さないでよ~)

「普段はこれだよ」

(本当は今日からなんだけどさ)

さらりと嘘ついて、心の中でつっこみを入れながら、お弁当を広げる。中身はイチゴとオレンジ、野菜サンドだった。

わかめがない。ガックリ。


「へぇー きれいね」

「そう? 」

(さすが、おかーさん注文通り。わかめないけど)

みんなそれぞれお弁当をひろげ食べ始める。三人とも育ち盛りを意識してか高カロリーなものが多い。

「そういえば、希ちゃんって普段何してるの? 」

すずかが何気なく聞いてくる。

(えっ…そういえば、この身体になってから、学校調べるのにPC検索を少ししたくらいでだけど、この体のせいか上手く使えないんだよな。
タイピングソフトもいろんなタイプクリアしたはずが、手が全然覚えてないし。それに、前はいろんなソフト使ってたはずなのに、使い方すらわからん。
あとはひとりでは何もしてない。
うちの親けっこうかまってきて、なんでも一緒にやりたがるからなー。
深夜アニメ一緒にみたときは隣が気になって、全然おぼえてないよ)

「アニメとかドラマをおかーさんと見てる」

いろいろ考えたが無難な答えにする。

「ふ~んアニメはわかるけど、ドラマって何をみてるの? 」

「白い巨○」

「うわっ …さすが医者の娘ね。」

(わかるのかよッ。違う世界だけど、ここにもあるんだな~と感心したもんだけど)

「難しいのをみるんだねぇ~ でも原作の作家さんは好きだよ」

「これおとーさんがモデルだって、病院の人はもっとえげつなかったって言ってたよ。今は丸くなったらしいけど」

「どんなパパなのか聞くのが怖くなったわ。でも、将来の参考になりそうね。」

アリサは少し興味があるようだ。ウチのおとーさんは財○教授を地でいく、権力志向の強い人らしい。その代わり忙しくてあんまり帰ってこない。

おじーちゃんはさらに特殊で一度だけ会った。ただの孫馬鹿だったけど、髭の感触を思い出すと寒気がする。
いくら孫とはいえ拷問だ。そういえば聖祥大学付属小学校に入ることを伝えると理事長とは知り合いだから任せておけと言っていた。
ただアイツは話を大げさにしたがるからなと悪口も言っていた。

そこからは長話である。じじいの武勇伝で、眠くなる話だ。ホントか嘘かもわからないが、嘘の部分が多いはずだ。
マッカーサーと一騎打ちをしたとか、ワシが3人いれば日本は戦争に勝っていたなんて、理事長のことをとやかく言えない気がする。しかし、体格はすごく良くて今でも筋肉質だ。

ただものとは思えないところはある。

「おじーちゃんはぶとーをやってるの?」

と聞いたら、コレは内緒の話だよ。もったいつけてた上で
無斗論式という拳法を体得していると教えてくれた。『神鳥撃』と呼ばれる空中から急所に向かって体当たりを仕掛けたり、 『禁断の秘奥義 神詞』と呼ばれる全エネルギーを声に集中して相手を共振させて破壊する技とか冗談としか思えない。ただ、若い頃の写真を見せてもらったときの感想はシルエットが流線型でどことなくヤツに似ている気がする。

そのとき一緒に写っていたのが後のおばーちゃんだった。小柄で可愛らしく、とてもそうは見えないが、当時は珍しい武道娘らしく、相手の動きを読んで相手の力の向きを反らす柔良く剛を制すを体現した人だったらしい。実際おじーちゃんは生涯一度しか勝ったことがないと言っていた。

そのおばーちゃんは若くして病気で亡くなり、後に連れ子のいる人を新しい奥さんに迎えたらしいが、その人も結婚して数年で亡くなりそのあとはずっと独身らしい。寂しそうに言っていた。 

思考が横に逸れたな。


「みんなはどうなの? 」

「じゃああたしからね。あたしは習い事と塾でいっぱいだけど、テレビゲームとか好きよ」

「どんなゲームが好き? 」

「なんでもやるけど、RPGとか最近が好きね」

「ウィザー○リィとか○ーグとかウ○ティマみたいなやつ? 」

「何よそれ? 聞いたことないわ」

「三大古典。知らないならいい」

さすがに世代が違うか? いやそもそもこの世界に存在しないのかもしれない。記憶の欠陥で映像は思い出せないが、私も前世で多くのRPGをクリアしてきた。アリサと話が合いそうだ。

私は気を取り直して、次はすずかに聞く

「じゃあ、すずかちゃんは? 」

「私も習い事と塾で忙しいけど、本を読むのが好きかな。どんな本でも読むよ」

「最近注目してる作家さんは? 」

「デビューして五年で死んじゃった作家さん。さっき話してたドラマの原作者だよ。五年のあいだにいろんなジャンルの本を出したみたい。執筆スピードがものすごく早くてね。月に何冊も出したことがあるんだって、でも途中のが結構あったのに死んじゃってファンとしては悲しいよ」

「おもしろかった本は? 」

「えっ! ……その、ないしょ」

なぜかすずかは真っ赤だ。どんな本か気になるな。まあいい、次は本命のなのは様だ。

「なのはちゃんは? 」

「私は特に何も、塾は行ってるけど始まったばかりだし、得意なこととかないし」

なのは様は自信なさげに答える。

「ま~た始まった。なのは、何でアンタそんな自信ないわけ? 」

「だってアリサちゃんもすずかちゃんも、将来のこととかちゃんと見つけてるし…」

(そうか、まだ魔法に目覚める前だから…)

「将来ねぇ、アンタ、喫茶翠屋の二代目じゃないの? 」

「それも、将来のビジョンの一つではあるんだけど、やりたいことが何なのか、はっきりわからないんだよ」

なのは様は迷っているようだ。そういえば、この話どっかで聞いたような気がする。

「アタシはなのはを認めてるの。だいたい理数系の成績ははアタシより上だし、それだけじゃなくて、アンタがそんなんじゃ ……立場ないじゃない。」

「私もなのはちゃんはすごいと思ってるんだよ? あのときだって…  」

自信なさげななのはを、アリサとすずかはそれぞれ励ます。

「希ちゃんだって、最初になのはちゃんにお友達になってって、言ってくれたじゃない? 」

「そうよ、アタシをさしおいてね。自信もちなさいよ」

「うん、なんでわたしが最初だったの希ちゃん? 泣いてたし? 」

なのは様は首をかしげて、こっちをみる。

「えっ、それは… 」

(う、何て答えよう? 生まれる前から好きでしたなんて言うわけに行かないしな。最初会ったとき泣いてた理由もお友達になってくださいで、済んだと思ったんだけど。よしっ、ここは魔法的なことと夢見る少女的な何かを混ぜてみよう)

私は考えをまとめると静かに語り出す。

「私ね、よく見る夢があるの」

「夢? 」

「うん、とっても強い女の人、白い服を着て赤い宝石の付いた金の杖を持って、空を飛んでるの。その人は鉄砲とか刃物を持ったたくさんの機械の人形と戦っているんだけど、杖をふるうたびに滝のような桜色の光が敵をどんどん倒していくの。敵の攻撃はその人の桜色の魔法陣にはじかれてちっとも届かない。夢のなかでは私はその人の部下なんだけど、見とれてしまって全然うごけないの。そして、戦いが終わって、その人が私に近づいてきて満面の笑みでこう言うの」











「ちょっと頭冷やそっか? 」







「「あたま? 」」
「なんでよっー 」
なのは様とすずかは首をかしげ、アリサはつっこむが気にせず続ける。

「その夢何度も見るんだけど、最後台詞だけね変わるの。おはなししようとか全力全開とか悪魔でいいよとか。なのはちゃんを初めてみたときね。あの女のひとはきっとこの人だって、やっとおはなしできるんだって、そして、これは運命だって思ったの。だからつい泣いちゃったんだ」

夢自体は作り話でおおげさに言っている部分はあるが、そこに込められた気持ちは本物だ。

「そんなのって…」 

なのは様は顔が真っ赤だ。かわいいなちくしょう。

「なんかちょっと変なとこあったけど、ロマンチックね~」
すずかは女の子らしいコメント

「やっぱり、アンタって、ちょっと」
アリサはブツブツ何か言っている。ちょっとなんだよ?

「でもでも、私そんなにかっこ良くないよ~ 普通の女の子だよ」

なのは様は照れた顔のまま、首をぶんぶん振って否定する。私はそんななのは様をますます可愛いなと思いながら

「いいの私が勝手に思ってるだけだから、それになのはちゃんはきっと勇気があってとっても優しい女の子、そうでしょう? アリサちゃんすずかちゃん」

私は半ば確信しているような言い方でふたりに同意を求める。

「「えっ!? 」」

アリサとすずかは驚いたようだっだが、しばらくするとうんうんと頷いた。

周りの過剰なまでの持ち上げっぷりに、なのは様は耳まで赤くしてうつむいた。実に良い顔だ。なんか軽い興奮というか、胸の高まりを感じる。私はその気持ちが命ずるままにあるお願いを口にする。

「なのはちゃん」

「うん… 」
 
なのは様は顔をあげる。まだ赤い。










「ときどき、なのは様ってよんでいい? 」

「え? ええええーーーー」

なのは様は声を上げた。



結局良い返事はもらえなかった。う~ん残念こちらとしては昔の呼び方を許してもらいたいけど、まあいい、あせらず行こう。





〈 好感度イベント アリサ フラグと金髪縦ロール 〉




 
次の日の昼休み、四人揃ってお弁当だ。話の先導役はだいたいアリサがやっている。

「そういえばアンタ、頭いいって聞いたけど、本当なの? 」

「えっ? 編入試験は良かったみたいだけど」

見た目は子供だが、頭脳は大人、名探偵である。行く先々で人が死んだりしないけど、私は理数系はやや苦手だがその他はバッチリである。ただ、記憶の欠陥のせいで抜けている部分はある。それでも、小学三年くらいなら相手にならなかった。

「全部満点だって聞いたよ。編入試験じゃなかなかいないみたいだよこの点数」

すずかが補足してくれる、よく知っているなぁ。

「へ~やるじゃない。塾とか行ってるの? 」

アリサの負けず嫌いな部分を刺激したらしい。探りをいれてきた。

「行ってない、私ちょっと体弱いから」

なんせ入院してたし、それどころじゃなかったはず、でも家の状況から家庭教師くらいは雇っていたかもしれない。

「それで、満点って …今度のテストで勝負しなさいよ」

アリサから勝負を挑まれてしまった。
こういうの好きそうなアリサとはこれから同じような場面が何度も出てくるかもしれない。
こっちも楽しんでやらないとな。
友達のテスト勝負は前世でもよくやった。中学までは無敵で、よく言われたのが「なんで勉強しないくせにトップなんだよ納得いかね~」だった。
そうだな、アリサくらいになると抜かれるのも早そうだから今のうちに自分のプライドを満足させておくか。

私はアリサを軽く挑発することにした。イメージは高飛車で高慢で自信たっぷりなお嬢様風で行こう。髪型は金髪縦ロールだ。

「いいわ。アリサさん。結果はわかりきっているけど、受けて差し上げますわ。オーホッホッホッホ」

顎を上げて口元に手を当てるのがポイントだ。挑発が効いたのか、アリサは眉をつり上げてピクピクさせている。まだ押さえることはできているようだ。

「へぇ~、結果はわかりきってるってどっちが勝つのよ? 」

「わ・た・し」

「上等だわ。今に見てなさい。吠え面かかせてやるから」

「アリサさん。あなたのそのセリフは負けフラグです。しかもテンプレートです。まあ先ほどの私のセリフもそれに近いのですが」

「なによそれ。アンタ何言ってるの? 」

「そのセリフを言うと結果が確定してしまうの。結構当たってるよ。特に命かかっている場面では、注意しないとね」

「あっ、私わかった。戦いに行く前は、幼なじみと結婚の約束とかしちゃダメって聞いたことがあるよ」

思わぬところから援護があったすずかだ。

「そう、だからさっきの場面ではこう言うの『勝負はやってみないとわからないよ。お互い全力で行こうね』って言っておけば、まず負けることはないよ」

「へぇーそうなんだ。何か分かる気がするよ。お互いに力を出し切るって大事だよね」

「なのはまで… 」

なのは様は感心してくれる。さすが熱いハートの持ち主。

すずかとなのは様の同意でアリサも揺れているようだ。もう一押しか。



「アリサさん。結果はわかりきっているけど、受けて差し上げますわ。オーホッホッホッホ」

私は先ほどのセリフを繰り返す。そして、アリサを見つめる。さあさあと訴える。

アリサは一度こちらを強く睨むと、目をつぶりため息をつく。

「わかったわよ。勝負はやってみないとわからないわ。お互い全力を出しましょ」

アリサは言ってくれた。やった。ある意味勝った。

すずかとなのは様は首をかしげている。

どうしたんだろ? すずかが話しかけてきた。

「ねぇ、希ちゃん。今見間違いかもしれないんだけど、希ちゃんの髪が金色に染まって縦ロールになったように見えたんだけど気のせいかな? 」

「えっ、すずかちゃんもそうなんだ」

どうやら、私の演技力のレベルは相当高いらしい、ふたりに私のイメージ通りの髪型の幻覚をみせるくらいには、自信を持っていいかもしれない。









後日テストがあったがふたりとも100点で引き分けだった。やるなアリサ。




〈 好感度イベント すずか 図書館は危険がいっぱい 〉


※ ちょい百合風味





放課後

図書館に来てる。すずかに誘われた。棚の本を見ていることろだ。今日は静かで誰もいない。
アリサは習い事でキャンセル。なのは様は来る予定だったが、用事が入り、すずかとふたりっきりであった。

すずかとふたりはどうかなと思ったが、さすがに私も断るのは悪い、仲良くしておくのも長いつきあいになるから、無駄にはならないだろうと考えつきあうことにした。

誰もいないので、すずかとおしゃべりすることにする。

「すずかちゃんはどんな本でも読むって言ってたよね。じゃあ好きなジャンルはないのかな? 」

「童話が好きかな」

ありきたりだな。少し攻めてみようか。ちょっと小学生向けじゃないかもしれないけど、私はきわどい質問をしてみる。

「男と男の恋愛物語とかどう? 」

「えっ ……興味はあるけど… 」

すずかは顔が赤い。ほう資質ありか。案外こないだ聞いた内緒の本はBLモノかもしれないな。鬼畜なメガネさんとかいいかもしれない。どんなのか忘れたけど、すずかは今度は私に聞いてきた。

「希ちゃんは本は読むの? 」

「うん… ジャンルは特にないけど、白い巨○の原作ちょっと読んでみたいな」

これは前世にもあったからどんな内容か興味がある。

「大人向けだからさすがにここにはないよ。市立図書館にはあると思うけど、今人気だから借りられてると思うよ」

「そう、残念違うのにするよ。すずかちゃんは今日は何を借りにきたの? 」

「この間借りた本の続き。場所はもうわかってるの。ちょっと高いところにあって取りにくいところにあるんだよ」

すずかは小さな梯子を持ってくると、本棚の前に置き慣れた様子で登る。上の段のハードカバーの本に手をかけるが固くて取り出せないようだ。

少し危ないな。

「すずかちゃん、梯子支えようか? そのままじゃ力入らないでしょ」

「うん、ごめんね~ 希ちゃん。お願い」

私はすずかの背後に回り、梯子を強く握って足を踏んばる。すずかはもう少しで取り出せそうだ。

「う~ん、もうちょっと。取れた…きゃあああ」

すずかの悲鳴と一緒にハードカバーの本が降ってくる。
そこからは一瞬の出来事だった。すずかは素早い反射神経で私に本が当たらないように本をつかむが、今度は自分がバランスを崩して梯子から落ちる。
私は反応できず背中から落ちてくるすずかを受け止める形になるが、勢いついてそのまま後ずさり、反対側の本棚に背中をぶつけてた。そして、すずかの後頭部が鼻に当たり尻餅ついてようやく止まった。

ちょうど私がすずかをうしろから抱きしめる姿勢になる。

「痛たた……希ちゃん、大丈夫」

「大丈夫。ずかちゃん。鼻打ったけど、大したことないよ」

「ケガしてない? 」

うう、鼻打った。すぐ近くにすずかの後頭部が見える。すずかは私を心配して、すぐに振り返りこちらを見る。そして目が合った。









…近い。近すぎ。

すずかの息が頬に直接感じられる距離だ。それになんだか鼻に違和感を感じる。何か垂れているような。

鼻血出た。決してすずかに興奮したわけではない。先ほどのすずかの後頭部のヘッドアタックで血管が切れたようだ。格好悪いなぁ……アレ?

すずかの様子がおかしい。まだ顔近いしなんだか、目が赤いしうるんでるし、頬も赤らんでる。すずかは私の目を見てない。視線の先は鼻、あのもしかして…

動く間もなく、すずかは両手で頬を掴むと、唇が私の鼻の出血部分に触れる。








誰もいない図書館、あたりは夕暮れて黄金に染まっている。寄り添うように伸びた長い影が少しだけ動いて重なりあう。

すずかは私のくぼみに口をつけながら、次から次に染み出してくる赤い液をねぶる。伸ばした舌でなかの方まで責め立てる…









ちょ、ちょっと待て!! 待てやゴルァー。ここは百合モノじゃありません。余所でやってください。舌とかご勘弁……あっ!?






私の手は力を失いバタンと落ちる。

そのとき赤い椿の花が落ちる映像が目に浮かんだ。鼻だけに……シクシク

しばらくして、我に返ったすずかはようやく離してくれた。気まずそうだ。どう話しかけていいかわからないのか、こちらをチラチラ見ている。一族の秘密もあるんだろう。

はっきり言って、すずかとは仲良くしていくのはいいが、一族の秘密を共有するほど関係を深めるつもりはない。目的はあくまでなのは様だからだ。

それに、百合なんて……ぽっ、




しっかりしろ私。今ちょっといいかもと思っただろ。ひとり悶えていると、すずかが話しかけてきた。

「ご、ごめんね、希ちゃん… あの、私ね」

どうやら秘密の告白に入るようだ。まずいなぁ。ここは月村家ご招待コースだ。こんなところですずか攻略フラグを立ててる場合じゃない。


こうなったら気がついていないフリをするのが一番かな?



私はすずかの口に手を当てると、困った表情をしながら、顔を赤くして、体をクネクネと悶えさせ、恥ずかしさを演出する。

「すずかちゃん。鼻血綺麗にしてくれてありがとう。おかーさんみたいだね。でもね、女の子同士でこんなことするのは少し恥ずかしいよ。私、すずかちゃん好きだけど、まだ知り合ったばかりだし、でもやっぱりちゃんと考えないと…」

私の予想外の反応にすずかはパニックになる。

「ち、ちょっと待って、希ちゃん、ち、違うの~」

私はすずかの話を聞かずに勘違いを加速させていく。もちろん演技だ。

「いいよ、今日のことは秘密にするから、私とすずかちゃんふたりの思い出だね、今度私のおかーさんとおとーさんに紹介するね」

「だから、違うのーーーーー」

すずかの声が図書館に響く。

すずかは私が吸血のことを愛情表現だと勘違いしていると思ってくれたようだ。本当のことをいうわけにもいかず困っていたが、

「今度、し、紹介してね… 」

ぎこちない愛想笑いを浮かべて、その場は収まった。なんかいらんフラグ立てた気がするけど、まあいいか。








だが、その日から、時折すずかの熱い視線を感じるようになった。恋慕ではない。好きな食べ物を眺めている目だ。よだれ垂れてますよすずかさん。

絶対にふたりきりにならないようにしよう。でもいつか彼女に血を吸われる日がくるのかもしれない。




作者コメント

ゴールデンウィーク強化継続中

三連休ということで、三本立てにしてみた。

すずかが変な方向へ行きそうで怖い。ネタのベースは昔、型月のコメディを妄想したこときに思いついた。誰かと誰かは秘密です。






[27519] 第四話 裏返る世界
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:870194e7
Date: 2011/05/06 00:33
第四話 裏返る世界







……平和な日常は些細なことで崩壊する。私はそれを今身を持って体感した。









私は狙われている。 ……くっ、やはり私が転生したことをかぎつけた連中がいるらしい。ムー帝国の残党だろうか? アトランティスの同志に連絡しようにもここは前世とは違う世界だ。

孤独な戦いだった。

向こうから歩いてくる一見普通主婦に見える女性。あれはどう見ても危ない。殺気を感じる。しかもあの買い物袋が怪しい。主婦はその中に手を入れながら歩いてくる。




恐らくあの中に拳銃が入っていて、近づいたらズドンとやられてしまうのだろう。

あの主婦こちらを見て微笑んだ。濃密な殺意が私を襲う。







まずい!!

奴は私を殺す気だ。

そうはさせるか! 私は細い路地に入る。主婦は笑いながら去っていった。

どうやらやり過ごしたようだ。

転生してすぐに医者に口をすべらせたのがいけなかったらしい。すでに各国のムー帝国の残党には私の顔写真が配られているのだろう。学校も安全ではないかもしれない。だが、月村家の一族もいるから奴らも簡単には手出しできないはずだ。

すずかの一族の力は思った以上に強い。だから、奴らは普通の主婦に見える暗殺者を送りこんできている。恐らく秘密裏に始末するつもりなのだ。その証拠に違うタイプの主婦の姿をした暗殺者とすでに10人遭遇している。赤ちゃんや子供を連れて偽装までしてくる念の入れようだ。

今日も無事に学校に着いた。ひと安心だ。今日も日常を謳歌できるのだ。なのは様と一緒に…







(バカがここにいるわ)

また幻聴が聞こえた。最近を多い。転校してからは特にそうだ。気が滅入ってくる。

アリサが近づいてくる。

「アンタ朝から疲れた顔してるわね」

「そうなの。アリサちゃん、今日も通学途中に暗殺者に狙われてちゃってさ。10人だよ! 10人!! 」

熱っぽく語る私にアリサは冷めた表情で





「そう良かったわね、で、何人殺ったの? 」

と感情がこもっていないと言うよりは、棒読みで返す。私は怒りがこみ上げてきた。











「ちょっと。アリサちゃん、もっと真面目にやってよ。」

アリサは手で頭を押さえながら、苦い顔をして言う。

「アンタこそ、朝っぱらから変な行動しないでよ。女の人が通るたび、暗殺者が来たって、隠れて、通る人みんな笑ってたわよ。アンタがどうしてもって言うからつきあってるのに」

「だって、殺気を感じたのは間違いないもん」

これは確かなことだ。今でも寒気や不快感が残っている。

「どう見ても普通の主婦が暗殺者なわけないでしょ!! なんでアンタなんか狙うのよ。しかもアンタ通学中に会った女の人全員にそれやってたでしょ」

「まあまあ、アリサちゃん。希ちゃんにつきあってあげようよ」

「そうだよ~ 希ちゃんに突き立ててあげたいよ~」

さすが、なのは様天使だ。すずか本音が出てる。牙とか突き立てないで。

「なのはもすずかも希を甘やかさないの。ここのところ毎日じゃない。最初は希を見てるだけで面白かったけど… 」

なるほど、飽きてきたみたいだな。


「じゃあ、設定を変えるね。地球を侵略にしたエイリアンにしましょう。主婦に変装してるの」

「主婦だけは変わらないのね」

「私は地球防衛軍の要人の護衛任務を受けた隊員。なのはちゃんは今は亡き地球防衛軍司令の娘で父の意志を継いでるの。すずかちゃんは穏健派の異星人のお姫様、アリサちゃんはすずか姫の護衛ね。私たちは地球と異星の同盟のために集まったんだけど、それを快く思わないエイリアンが地球人に化けて襲ってくる。私たちは安全な学校まで逃げなければならないっていうのはどうかな? 」

「こんな短時間でよくそこまで設定できるわね。ねぇ、なんでいつもなのはが優遇されてるの? 前回はなのはは最強の暗殺者だけど一時的力を失って、弟子のアンタに守られてるって設定じゃない。私はアンタに仕事を斡旋する仲介者なんだけど、実は裏で暗殺者を使って亡きものにしようとしてるとか、微妙に悪役が多い気がするんだけど」

アリサは納得していない表情だ。架空の設定とはいえ、なのは様を持ち上げすぎたようだ。

「でも、私のイメージだといつもそうなるのよね~ 次はアリサちゃん主役で考えてみるよ。ツンデレ枠しかないだろうけど」

「ツンデレ? 」

「まだ知らなくていいわ。あなたの宿命だから」

「わけがわからないわ」



今日も平和だった。












数日後の放課後

今日はなのは様の実家である喫茶翠屋に行く日である。関係を深めるチャンスである。ここ数日は大きな成果が得られなかったので願ったりである。

翠屋に行くきっかけになったのはアリサが私のお弁当に文句を言ったからである。

「アンタいつもそんだけしか食べないなんて、おおきくなれないわよ」

(よけいなお世話です。親戚のおばさんみたいね)

「私もたくさんは食べれないけど、希ちゃんのお弁当はちょっとものたりないかも? 希ちゃんの…だったら少しほしいなぁ」

とすずかも控えめに言う。それから、本音が混じってませんか? 涎拭こうね。

「でも、きれいなお弁当だよね。フルーツとか小さくきれいに切ってるし、お店に出せそうだもん」

なのは様はフォローしてくれるのか、感心したように答える。そう、ウチのおかーさんは使える材料が少ないぶん見た目にこだわってくれていた。わかめあんまり入れてくれないけど。

「お店? 」

(えらくほめてくれるな。なんだか照れる)

「そうだ! 」

急にアリサがいいことを思いついたと手をたたく。

「今日はなのはの家に行きましょう」

「なのはちゃんの家? 」

「この子の家喫茶店なの。私たちもたまに行くんだけど、けっこう気に入ってるのよ」

「そういえば、最近行ってないね」

「うんうん。希はまだ行ってないし、おいしいもの少しは食べなさいよ。なのはもいいわよね? 」

「もちろん。お客さんは大歓迎だよ。ウチのおかあさんも喜ぶよ」

みんな乗り気であるが、私は自分の体質が気になって躊躇した。どうする? なのは様が喜んでいる以上断るという選択肢はない。ケーキ・クッキー・クリーム系は何とか我慢できなくはないけど、フルーツ系で誤魔化すかな、聞いてみよう。

「いちごサンデーとかある? 」

「あるよ、希ちゃんイチゴ好きなんだ? 」

「けろぴーもね。じゃあ、行きます」

まあ何とかあるだろう。私は気楽に考えていたのだが、

(人が多いところはやめておきなさい・・・後悔するわよ)

どこかで覚えのある少女の声が聞こえたような気がした。
久しぶりの幻聴だ。




放課後。すずかの家の車に乗せてもらった。そういえばこの体になって外出したのは初めてだった。ウチはセレブなので買い物はしなくてもよかった。配達やお手伝いさんがしてくれた。私も長い入院で疲れが出たのか出かける気にならなかったし、髪を触っていれば一日が過ぎることも多かった。

お手伝いさんと言えばメイドだが、残念ながらウチのお手伝いさんは若い男性だ。 

メイド服は着てません!

まだ入ったばかりらしく、ミスも多い。

男のドジっこメイドなんて許せない。ふつふつと怒りがわいてくる。

なんで男なんだろう? 前に長年勤めていた女性には暇を出したそうだ。急だったらしい。


車に揺られながら、私はさっき聞こえて声について考えていた。

あの声はいったい何だったんだろう? 女の子の声だったよな。最初に目が覚める前に聞いたことがあったと思うんだけど。それから、何度も聞いている。
まあいいか。なのは様のご両親にしっかりご挨拶しないとな。

今は考えても無駄と、頭を切り替える。

「着いたみたい」

「さあ行くわよ」

車を降りて、店の前に移動する。すると、なのは様が店の前に立ちこちら向くとうやうやしく頭を下げた。

「へへっ… いらっしゃいませお客様。ようこそ、翠屋へ」

「「くすっ」」

アリサとすずかは吹き出したが、私はなのは様のお茶目なしぐさに見とれていた。これだけでも来て良かった。

「ひどいよ~ こっちは真面目にやっているのに~ 」

なのは様は怒ったように言うが、顔は笑っていた。

「ごめんごめん、でも似合わないわよ。」

と笑いをこらえるアリサ

「まあまあ、みんな中に入りましょう」

「そうね」

店のドアを開ける。

店はそれなりににぎわっている。年配の女性のグループが5、6人いる。



…あれっ!? なんかクラクラしてきた。化粧と香水の匂いのせいだろうか。どうもこの手の匂いは苦手だ。さっきまで良い気分に水をさされて顔をしかめる。

殺気を感じる。まさか、暗殺者じゃないよな? ここは高町家のテリトリーだ。入ることは不可能なはずだ。

「「いらっしゃいませ」」

少し遅れて若い女性の声が二つ聞こえる。そのうちのメガネをかけた一人が近づいてきた。

「あらっ、なのは、おかえり。友達連れてきたの? 」

「うんっ、ただいま。おねーちゃん 」

「アリサちゃんとすずかちゃんこんにちわ ……あれっ? 初めて見る子がいるね」

「雨宮希ちゃん、最近同じクラスに転校してきたの」

「へぇ~ こんにちわ」

「こんにちわ」

美由希さんか? こうしてる場合じゃない。ここはなのは様のお姉さまだし、第一印象は大事にしておかないと。気を取り直して美由希さんと向き合う。

「初めまして、希ちゃん。私はなのはのお姉ちゃんで高町美由希と言うのよろしくね」

微妙に殺気を感じるが、まさかね。理由がない。

「初めまして、私は雨宮希と申します。なのはさんとはよいおつきあいをさせてもらってます。これからもよろしくお願いします 」

丁寧に頭を下げた。美由希は少し驚いた顔で

「ずいぶん礼儀正しい子なんだね 」

「ありがとうございます。美由希おねーさんはカッコいいですね 」

「へっ? …ありがとう。そうかな、そんな事言われたの初めてだよ」

「すごく姿勢とか歩きかたがきれいだし、何かスポーツとか武道をされているんですか?」

「えっ? ……武道を少しね」

美由希さんは思いがけない言葉に本当驚いたようだった。なのは様も目を大きく開いて口に手を当てている。びっくりしたかな?


テーブルに座ると注文を取る。女性グループと近い。なんだか匂いが気になる。待つ間さっきのことでアリサは感想を言ってきた。

「アンタって、変な事言うかと思えば、妙に鋭いし。訳わかんないわね」

「そうだよ~ 私も美由希さんのことは恭也さんから聞いても信じられなかったもの」

「お姉ちゃん、普段は結構ぼーっとしているから周りの人も信じてくれないんだよ。修行しているときはカッコいいんだけど」

私は少しだけ気分が良くなった。



(……ずいぶん調子に乗ってるみたいね。)

また、あの声が聞こえた。

(誰だ? )

(私は警告したはずよ。限界は近いわ。 ……もう遅いから)

幻聴が答えを返してきた。なんの事だ? 考えごとをしていたら声が聞こえる、いつのまにか誰かすぐ隣に来ているようだ。

「おまたせしました。ご注文のケーキセット3つ、いちごサンデーになります」

「あれっ? お母さんどうしたの? 」

「おかえり。なのは、美由希から新しい友達が来たって聞いたから会いに来たのよ」

顔を上げるとすぐ間近にどう見ても20代にしかみえないエプロン姿の女性が微笑んでいた。

(桃子さんか、よしっ、なのは様のお母様だ。しっかりポイント稼がないと。あれっ? ……体が)

なんか体の調子がおかしい。寒気と鳥肌が立っている。頭も痛い。なんか吐き気まで……

「こんにちわ雨宮さん。なのはの母で高町桃子といいます。いつも娘と仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしくね」

「は、はい ……よろしくお願いしますお母様」

何とか返事を返した。

「じゃあ、ゆっくりしていってね」

と言って桃子さんは去っていく。ふぅ少し落ち着いたようだが吐き気はまだ残っていて、とても食べられそうにない。香水もダメだ、匂いを嗅ぐだけで頭痛がしてくる。他のみんなは気にならないのかな?

「どうしたのたべないの? 」

なのは様が不思議そうな顔で言う。

「た、食べさせてもらいます」

なんとか口に入れるが、二口目は無理そうだ。

「希ちゃん、気分でも悪い? 顔色がよくないよ」

「ほほほ。すずかさん、わたくしはもともとこんな顔でしてよ」

こう言っているが、実は余裕はない。冷や汗までかいてきたよ。ますますグラグラしてきた。

「アンタ口調が変よ。」

つっこむアリサ。実は私は余裕がなくなると丁寧語になるのだ。

「わたくしお化粧直しに行きたくなりました。なのはさんお手洗いはどこかしら? 」

「えっ、あっちだよ。希ちゃん大丈夫? 一緒に行こうか? 」

心配そうな顔でなのは様はトイレを指さしてくれる。

「しんぱいなくってよ。一人で参ります。では、ちょっと席を外しますね」

(吐きそうなのに、ついてきてもらうわけにはいかねぇ)

心配そうな顔のみんなを横目に、少々小走りでトイレに向かう。
 













ジャーーーーーーーー

トイレの音に合わせて吐いた。中身が少なかったので、かなりこたえた。幸いなことに私一人のようだった。

(はぁーーーこれからどうしよ? )




トイレのドアを閉めて、席に向かう途中ドンッと何かにぶつかった。

「あ、すいません」

「こちらこそ、あらっ希ちゃん? 」

桃子さんだった。





桃子さんだと気づいた瞬間、先ほどと寒気と鳥肌、頭痛吐き気がぶりかえしてきた。

(あれっ!? 何で ……体がいうこときかない!!)

何か得体の知れない感覚に恐怖した。体がガクガクふるえて止まらなかった。自分の体が自分のコントロールから外れていく。私の様子がおかしいこと気づいた桃子さんは正面に立ち顔をのぞき込んだ。

「どうしたの? 顔色が悪いわ。汗もかいてるし」

「へ、平気です」

何とか答える。だめだ完全に言うこときいてくれない。

「無理しちゃだめよ。足もふるえてるみたい。」

桃子さんは私の体を支えようと何気なく両肩に触れて抱き止めた瞬間ーーーーーー

















「嫌ああああああああああああああああーーーーーーーーーー」

店内に絹を裂くような少女の悲鳴が響いた。





ああ、これは自分が出した声なんだと、よくこんな声が出せるもんだなと動かない体と裏腹に冷静に思考しながら。




私は意識を失った。





作者コメント

そろそろ生意気にも張った伏線の一部回収に入ります。

伏線に手を出すと大変です。矛盾が生じます。いいアイディア浮かんでも縛られます。そうならないようにしたいなぁ~

シリアスモードへ突入です。アトランティス期待してくれてる人はごめんなさい。ここから先は少し成分が薄くなります。



[27519] 第五話 希とカナコの世界
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:142fb558
Date: 2011/05/07 09:47
第五話 希とカナコの世界


ここはどこだ? 私は目を覚ます。

「目が覚めた? 」

声のする方へ顔を向けると、少女の姿が目に入る。初めて見る顔だが、どこか聞き覚えがある。


倒れたまま、よく観察してみると、年は10才くらい。顔立ちはどこか私に似ているが、赤い色をした瞳は意志を強さを感じさせた。肩まで伸びた黒い髪を二つの赤いバラの髪留めでまとめている。衣装は黒いフリルと紫のバラを基調したゴシックロリータのようなドレスに白いエプロンを重ね着している。

少女は西洋式のイスとテーブルに座り、紅茶のカップを持っている。お茶の時間だろうか?

どういう需要なのか疑問に思ったので、




「なぜエプロン? 」

尋ねてしまった。

「最初の疑問はそこなの」

少女は呆れた声でつぶやき、ゆっくりと優雅に紅茶を飲む。




「久しぶりね。どう、お目覚めは? 」

「ここどこ? 」


「人の話聞いているのかしら? そうね。希と私の夢の世界とでもいえばわかるかもね」

「君は幻聴の声の ……あれっ? 俺、男の姿だ。それも前世のなんで? 」

私、いや俺は前世の男の姿になっていた。

「少しは落ち着きなさい。すぐに起きないと危ないわよ。そろそろ黒い影達が起きてしまうわ」

「いったいなんの事? ……おっ、何だ!? 」

俺が次の言葉を発する間もなく、闇の向こうから赤い光が近づいてくる。赤い目と口に見えるものが7体走ってくる。

「来たわ。せいぜい邪魔しないでちょうだい」

少女はカップを置くと、立ち上がりゆっくりと俺に方へ向かって歩いてくる。俺もあわてて立ち上がる。

「あら、戦ってくれるの? アトランティスの戦士さん」

「状況がさっぱりなんですが? 何だよこいつら」

俺たちはすっかり囲まれてしまった、よく見るとそいつらは赤い目と口をした黒い影だった。大人の大きさで人間の形をしていて、そのうちの一体は一回り大きい。笑っているように見えるのが嫌悪感を感じさせる。他の6体は俺たちの様子を伺いながら何かつぶやいている。耳をすますと、

(ダイジョブダイジョブ)

にごったような声でそう語りかけてくる。でもそんなの関係ない。少女は冷静に観察している。

「今回は7体か。すいぶん多い。特にあの大きいのはやっかいね。あれから片づけるわ 」





そう言うと彼女は無造作に大きな影に近づき、すっと腕を掴んで投げ飛ばしてしまった。

俺には何が起こったかさっぱりわからなかった。

投げ飛ばされた影は地面に叩きつけられる。じたばたともがきながら再び立ち上がった。

「大きいだけあって耐久力はあるみたいね。…ほらっ! あなたもじっとしてないで戦いなさい。襲ってくるわよ」

少女の攻撃で他の6体も急にあわただしくなった。じわじわとこちらに迫ってくる。

「戦う? 急に言われても、俺はアトランティスの戦士の力はまだ覚醒してないし… 」

「ここは夢の世界よ。ただの悪夢ごときにどうにかできるわけないわ。ここでは戦いは頭でするものなのよ」

「なんだそうなのか。じゃあ攻撃されても痛くないな」

俺は安心して力を緩める。すると、6体のうち一体が俺の顔面を殴ってきた。その衝撃で俺はふっとばされる。

「ダイジョブ! ダイジョブ! 」

大丈夫じゃねぇよ。その台詞、いやなものを思い出しそうだ。俺は少女に涙目で訴える。



「…すごく痛いです。嘘つき」

「当たり前よ。夢とはいえ、害意を持っているんだから、油断したら危ないわよ」

「それを早く言ってくれよ」

「必要以上に恐れることはないわ。この程度なら人間と小動物ぐらいの差はあるわ。思考も単純よ。こっちには思考する力があるし、強い武器でも想像して攻撃しなさい。夢だから何でもありでしょ」


そうか夢か。

じゃあ、ここならばアトランティスの戦士としての力を十分使えるということだな。では、武具を纏うとするか。


俺は腕を天にかざすと胸に秘められた呪文を叫ぶ。




「纏え黒き外套、我が愛銃よ、ここに来たれ!! ディスティ」

天井から光が降りてきて俺の体を光が包み黒い外套となる。手元に光が集まり銃の形になっていく。完成したのは赤い竜のアギトをかたどった銃。前世の俺の愛用の装備だ。



「我はアトランティスの最終戦士、王剣を守る小手なり」

俺はしばらく喜びにひたる。再びこの銃を手に取ることができるとは夢とはいえ感動した。






………










おっと、ひたるのはこれくらいにしよう。

「ふう、どうやら上手くいったようだな。では片づけるとするか ……あれぇ?」

「終わったわ。いちいち装備するに時間かけすぎ」

「これから、俺の貫通弾が敵を蹂躙するところだったんだけど… 」

周りを見渡すと影はすべてきれいさっぱりいなくなっていた。



「まあ、影たちがあなたに注意を向けたおかげで楽できたわ。特に呪文とか笑えるわ」

ひどいこと言われている気がするが、そんなことより気になることがある。

「どうやって倒したんですか? 」

「えっ? 全部手を掴んで投げたけど… 」

「こんなに早く」

「一体五秒もあれば片づいたわ。合わせて35秒くらいかしら。ずいぶん動きが止まっていたのね」

「敵はもういないのか? 」

「今回は全部片づいたわ」

「なんてこった。せっかく久しぶりに愛銃を撃てると思ったのに…」


俺はがっくりと膝をつく。

「残念ね。それにしても、想像力……いや妄想力には自信持っていいと思うわ。最初から装備を生み出すなんて、まして、夢とはいえ銃なんて複雑な機械は今の私でも無理よ。エミヤさんもびっくりね」

「妄想なんて言うなよ。こっちは前世の力を使ったんだぜ。アンタだってすごいじゃないか。あんなの投げ飛ばすなんて」

「私はちゃんと理を持っている。重心や相手の力の流れを計算するとこうなるわよ。逆にあなたみたいに現実離れしたことは苦手にしているわ」

「なるほど …でっ、君は? 名前」

「カナコよ」

「質問続けていい? 」

「答えられる範囲で」

「希って誰? 俺のことじゃなくて? 」

「この身体の本来の持ち主よ。今は眠ってる。」

「カナコは何者? 」

「あなたの母親ってオチはないわ。移植された心臓に宿った人格が形をなしたもの。それとも、死神かしら」

「いやいや、わかりにくいネタはいいから」

なんかペースのつかみにくい子だ。見た目より大人びた感じがする。

「そうね。ここの司書で門番ってとこかしら」

「司書? 」

わかりにくい表現をする、周囲を見渡すと右手には本棚、左手にはガラスケースの棚がいくつも並んでいる。後ろは大きな門があり、正面はどこまでも続いていて漆黒の闇が広がっている。さきほどの黒い影が来た方向だ。

本棚は横並びにきれいに本が並べられていた。かと思えば一角の本棚は本が山積みにされていて雑然としている。本を取るのが大変そうだ。確かに図書館っぽい。

人形の棚はなんというか異様だった。ガラスケースに一体ずつ納められているが、体の一部のみで完成したものはなかった。中にはホコリをかぶったままのケースや空のガラスが割れたままになっているものもあった。お化け屋敷といったほうがいいだろう。

「どう? 素敵なところでしょ」

「よくこんなところに一人でいるな」

「仕事だもの。本の管理とか編纂。本は記憶の象徴になるのかしら。つまり私がやっているのは記憶の管理ね。ほとんど希のだから読むのは禁止よ。ちなみにあの立て積みの汚い本棚はあなたの記憶の本よ。あなたの雑な人間性がよく表れているわね」

「ほっとけよ」

いちいち口の悪い子だ。

「そうはいかないわ。私の仕事のひとつはあなたの本棚から楽しそうなことを見つけて、記録編纂して希の本棚に納めることなんだから、少しは意識して片づけてもらわないと困るわ」

「どうしろっていうんだよ? だいたい俺の本棚見るってことは記憶を勝手にみてるってことじゃないのか。プライバシーの侵害だ! 」

「同じ身体なんだから、プライバシーなんてないも同じよ。その気になれば感覚とか記憶も繋ぐことができるんだから、繋いだだままは疲れるからやらないだけだもの。それに外の出来事を眠っている本来の主に伝えることは大事でしょ? 」

こっちが反論すると向こうは倍にして返してくる、ちょっと苦手なタイプだ。俺は反論をあきらめ、違う話題に切り替える。

「そうだけど、じゃあ、他の仕事は? 」

「あとは、よい子の眠りを守り、黒い影を外に出さない事ね、さっき戦ったでしょ? …あれが私たちの敵よ。今は弱いけどほっとくと大変よ。Gみたいなものね」

「うっ、それは嫌だな。それじゃあ、人形の棚はどうなるんだ? 」

「それは私の仕事ではないものどうなろうが知らないわ。一度全部掃除したけど大変だった。もう二度とやりたくないわ。それに勝手に暴れるし、成長したり、いなくなったり、髪が伸びたりしてるし」

「こえーよ。ホラーだよ」

もろお化け屋敷だった。俺は人形が飛び回るシュールな光景を想像して背筋が寒くなった、気を取り直して軽めの疑問を持ってくる。

「お茶の飲むのも仕事? 」

「ゆっくりする時間くらいはあるわ。あなたが余計なことしなければね」

「余計なことって? 」

「この子身体に過度のストレスを与えることよ。」

彼女の言葉には非難の色が混じり、こちらを睨んでいる。どうやら俺が悪いようなのだが、心当たりがない。

「ストレスってどんなことだよ? 」

「人が作ったものを食べた事。年上の女に触れたこと。首元と肩を触らせたことよ。とどめに抱きしめられたでしょ。…香水は初めて知ったけど」

「どうしてそれがストレスになるんだよ! 」

「そうね、許される範囲で言えば、彼女は過去の事件で心に傷を負った。内容は言えないけど、あるとき決定的なことが起こって完全に心を閉ざした。そして、あなたに自分のことを任せて引きこもった。普段は眠っているようなものよ。でも感覚はうっすら繋がっているから、身体は過去の事件を思い出させるような行動をするとストレスを感じるの。トラウマね。身体に違和感感じたことあるでしょ。それにさっきの黒い影達はそれが原因で出てきたの」

次の疑問がわいてきた。

「それはわかったけど、ちょっと待て、それじゃ俺は何者だよ。なんでこの身体にいるんだ? どうして過去の記憶がある? どうしてこの世界の事がわかる? 」

「あなたが何者かは禁則事こ…ンッ! ……禁止されているわ言うことが」

「オイッ! 明らかにセリフおかしかったよな、禁則事項っていいかけたよな。なんでそんなネタ知ってんだよ」

「…知らないわ」

カナコは目をそらしながら口笛を吹いている。怪しすぎるさっきまでの雰囲気がぶちこわしだった。

「まだ答えを全部聞いてない」

俺が言うと、カナコは姿勢を正して真剣な顔で答える。

「そうね。この世界の事をあなたがなぜ知っているかについては知らないわ。…本当よ。私だって今でも半信半疑だもの。違う世界から転生してきたなんて信じられないわ」

幻聴だと思ってたカナコの発言内容からもこれは信じて良さそうだ。でも、これだけは聞いておきたいことがあった。

「過去の事件は言えないって言ったよな。どうしても聞きたいことがある。…おかーさんはその事件に関わっているのか? 」

こういう心の病気は本人に近しい人物が原因の場合が多いそうだ。本で読んだ記憶がある。俺の最初の記憶では母親に刺されてるし、前の母親も何だか嫌だったのを覚えている。二度あることとはいうけれど。

あの優しいおかーさんが関わっていたなら、俺はこの世界のすべてが信じられなくなる。

「おかーさん? ああ……あの女ね、演技とはいえずいぶん入れ込んでいるのね。安心して、あなたのおかーさんは無関係よ。むしろ頑張っているんじゃない、あなたとの親子ごっこ。大変結構、カッコウ、コケッコーよ」

カッコウ? コケッコー? カナコの言い方はふざけていて明らかなトゲがあった。俺には許せない言葉だった。

「ちょっと待て!! 親子ごっこはあんまりじゃないか。向こうは娘と思ってるし、大事にしてくれるんだぞ。俺だって最初は演技だったけど、今は本当の親のように思ってる! 」

俺は猛然と言い返して、睨みつける。






しばし、睨みあいカナコが根負けした様子で

「ああもうッ! ……わかったわよ。私が悪かった。私が悪かったわよ。でもね、知らないとはいえあなたの下手な演技につきあっているのは事実よ。」

投げやりに謝りながらも、こちらの痛いところで反論してくる。

「うっ、それを言われると俺もつらい。でも、そもそも希ちゃん本人が出てこないことには解決しないんじゃないか? 」

「今は無理」

カナコはきっぱり答える。

「今は? 」

「そうよ。あの子には休息が必要だわ。誰にも邪魔されないこの揺りかごでね。私はこの子に心地よい寝物語を聞かせてあげるの。だから、傷ついたこの子を癒すために本が必要なの。そうして、私はこの子がいつか立ちあがる力を取り戻すまであの子の眠りを守って見せる」


カナコは決心を口にする。その顔は強い覚悟と慈愛に満ちたものだった。そして、厳しい表情で俺を見つめて宣言する。

「私はあなたの味方じゃないわ、むしろ監視してる、あなたが余計なことをすれば… 」

「すれば…」

俺は唾を飲み込む。






「切り落として、ねじりきって、すりつぶすわ」

「ひぃ」

俺はなぜか股間を押さえた。彼女は本気だ。そんな俺を見てカナコはクスッと笑って言った。

「今回の件は許してあげる。あなたも知らなかったし、今までよく気づかなかったものよね。あなたは無意識レベルでストレスを避けていたけど、今回は逃げ場がなかったわね。ストレスが頂点で、肩を掴まれたのは最悪のタイミングだったわ」

たしかにあの店に入ってから強い殺気を感じていた。結局は俺の勘違いだったわけだ。だとすると通学中に感じた殺気も女の人が近づいたことによるストレスだったのだろう。担任の先生も優しいのになぜか苦手意識があったし。そんな俺の思考をよそに、カナコは困った顔して

「かわいそうなのはあの子だわ。あなたのせいで過度のストレスがかかって今回限界が来たようね。表に引っ張り出された。多分外でパニックね。ケガしてないといいけど」

と言った。

「ああ、なんかすいませんでした」

俺は謝る。知らなかったとはいえ、俺にも悪いところがあった。

今になって考えるとおかーさんは当然このことを知っていていろいろ工夫してくれていた。

お手伝いさんは長年勤めた女の人ではなく慣れてない男の人だった。さらに、思い返してみると身体を触れ合うスキンシップは初めは少なかった。最初の頃は正面向いて、声をかけてから手や身体に触れていたから、やけにぎこちないことするなあ、親子なのにと思っていた。一緒に生活するあいだに徐々に回数が増えて、今は触れてもあまり気にならないが、まだ肩や首は触られた覚えがない。食事だけじゃなく、希ちゃんの体が女の人を怖がらないように訓練してくれたんだろう。

そういえば担任は女の先生だったけど、学校はどうなっているんだろう? 


「ねぇ」

俺が考えごとをしていると、カナコは優しく声をかけてくる。

「なんでしょう? 」

「あなたに役割をあげるわ。この子が安らいでいられるようにうれしいことたのしいことをたくさん経験すること。それが本という形でこの子を癒すの。そして、友達と仲良くして、この子が外に出たときに優しい世界を用意してあげてほしい」

カナコは祈るように俺に告げた、それは誰かの面影と重なる。いつもニコニコ笑ってくれるおかーさんのものとよく似ていた。

「そろそろ時間ね。あの子が帰って来たみたい。これでも少しはあなたを評価してるのよ。友達作ったし、ご飯も少しは食べられるようになった。最初はここまで期待してなかったけど、短期間でよくここまで存在を強くしたわね。ほめてあげる。それじゃあ…」

カナコは素手で俺を持ち上げる。

すごいちからですねお嬢さん。

夢だから何でもありなんだろうか?




「な、何を? 」



「いってらっしゃい、えいっ」

そう言うと、彼女は俺を素手で門に放り投げた。門はいつのまにか開いていたようだ。








ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「また、このパターンかよーーーーーーーーーかよーー」


俺の声はエコーとなって響いた。












あっ ……外ってどうなったんだろ? 何となく嫌な予感がする。







作者コメント


……何を勘違いしているんだ! 俺のゴールデンウィークはまだ終了していない。 ドロー!!






……すいません、一度やってみたかったので、

ゴールデンウィーク強化継続中です。


カナコ登場。主人公その二です。彼女は男が暴走しないための手綱ですから重要です。説明キャラの特性で台詞長し。

一人称について主人公は自分が雨宮希のときは私、前世の身体の認識や男の意識が強いときは俺になります。使い分けに苦労しそうです。

伏線回収したつもりが、それ以上に新たな伏線張ってしまった。……どうしよう?

自分に向かって一言

広げた大風呂敷ちゃんとたためよこのやろう。



[27519] 第六話 入学式前の職員会議
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:142fb558
Date: 2011/05/08 01:19
第六話 入学式前の職員会議


担任の先生視点



今日は職員会議が行われることになった。入学式を控えて忙しいこの時期に集められたのは、小学部3年の学年主任・担任・副担任、保健医、教頭先生、校長先生、見慣れない若い先生もいる。確か半年前に来たスクールカウンセリングの西園先生だ。

なんと理事長までいる。ただ事ではない。



「ではこれより緊急職員会議を行います」

「今回は非公式で議事録には残しません。メモもなるべくとらないように、それから、今日のことは当然ですが、外に漏らさないように厳命します」

教頭先生が言うと、周囲はざわめく、私もここに来て初めてのことだ。

「では、理事長おはなしを」

と校長先生が言うと、一気に緊張感が高まった。なんで理事長直々に…

「うむ、職員のみなさん、そんなに緊張しないで、今日は私の個人的なお願いを聞いてもらいたいのです。」

「実は数日中に、雨宮希さんという女子児童が編入学することになっています。その子は私の懇意にしてる海鳴大学病院の病院長のお孫さんになります。成績は大変優秀で編入学試験も学年トップクラスです。しかも、礼儀正しいお子さんです。是非、その子を受け入れて欲しいのです。」

「そんな子ならば大歓迎ではないですか。何か問題でも? 」

「実はその子、心に病をかかえてまして… 」

理事長が口ごもる。

「理事長、詳しいことは西園くんが… 」

「そうだったね。西園君、みなさんに説明してあげてくだい」

校長先生が西園先生を促す。

「はい。…みなさんお疲れさまです。西園です。ご存じの方も多いと思いますが、本校でスクールカウンセリングをやっています。一ヶ月ほどドイツへ出張してましたが復帰しました」

「西園先生は半年前から、試用期間で来ていただいて、すでに何人もの我が校の児童の悩みを聞き解決してます。先生方の中にも気になる児童について相談された方もいるでしょう? 優秀な方です。このたび正式に就任されたそうです」

西園先生は若手ながら、その豊富な知識と分析力・コミュニケーション能力で短期間で驚くような成果を出していた。そして、イケメンだ。若い女の先生たちの中ではダントツの人気で狙っている人もいて、生徒の相談にかこつけて、ふたりっきりになろうとする先生もいるそうだ。そんな下心みえみえでもにこやかに軽くいなしているらしいから、かなりのやり手だと思う。

「西園先生の就任にあたっては、所属の海鳴大学病院の雨宮先生よりお口添えをいただいてます。この意味がおわかりですね。」

校長ははっきりと口にしなかったが、大学病院病院長の孫さんの編入学と西園先生の就任は関連があると言うことだろう。

「私の業務に担当患者の雨宮希さんの治療が含まれるってことです。もちろん、今の業務も平行して行いますが、こちらを優先させてもらいます。必要があれば私とは別にスクールカウンセリングを派遣できることになっています。」

「質問いいですか? 」

「はい、どうぞ」

「雨宮希さんは、その、…そんなに大変な」

質問した先生は適切な言葉を探しているようだ。こういうものははっきり口にしにくい。

「わかりました。いいですよ。だいたい理解できました。確かに雨宮希さんは重い心の病をかかえています。それが学校生活に支障をきたす可能性がありますが、今回の私の業務は保険的な意味合いが強いと思ってます。重要なのは情報を共有して彼女が発症するリスクを減らすことで、具体的には彼女を見守り何か気づいたことがあれば私に連絡していただきたいのです。そして、彼女の心の病がどういうものかを知り、いざというときの対処法を学んでいただければよろしいのです。

…病院長のお孫さんということで少しおおげさになってしましましたがね。わかっていただけましたか? 」

丁寧に説明してくれるが、大変な仕事が回ってきたと、私も含めて周りの先生からも感じられた。

「では、雨宮さんの心の病について説明します。なお雨宮夫妻の希望により発症の原因等で答えられない点があります。

まず彼女は年上の女性の接触を極端に嫌がります。特に首もとと肩は厳禁です。一度若い看護婦が投薬のため、肩に触れたそうでが、急に大暴れした彼女に噛みつかれて何針か縫ったそうです。そのときの彼女は半狂乱で何か怖いものから逃れようとしてたいう証言があります。現在は多少収まっていますが注視しているところです」

いきなり重い話だった。

「次に、彼女には妄想があります。これは食べ物に毒が入っていると思い込むもので、実際には入っていないのですが、彼女は食べたものを吐いてしまいます。そのため、栄養が不足して健康に深刻な影響がでてました。しかし、幸いこれは雨宮夫妻の努力によって改善傾向にあります。それから、これは私もカルテをみただけなので、はっきりとは言えないのですが、自分は前世の記憶を持っていて、アトランティスの戦士とか言っていたそうです。転生妄想ですね。これは思っているだけなら問題はありませんが、実際に行動する場合には注意が必要です。特にその妄想が集団を形成すると社会問題になることがあります。アトランティス人の生まれ変わりと主張している集団もいますから、彼らのようなカルト集団と接触がないようにしたいですね」

西園先生は淀みなく語るが、途中で質問が入る。

「質問があります。こういった心の病気は患者の近しい人物が原因となることが多いそうですが、夫妻の希望で発症原因に答えられないことと何か関係あるのですか? 」

遠回しに言ってはいたが、雨宮夫妻が発症に関わり、それを隠しているのではないかと聞いているのは明白であった。ずいぶん鋭い質問をしたもんだと感心する。

「よくご存じですね。ですが、雨宮夫妻は希さんの心の病気と関わりがありません。別の原因です。これは大学病院以外の心療内科の先生に聞いても同じ見解が出るでしょう」

西園先生はブレない。そこまで言うからには大丈夫なんだろう。

「女性に触れられることついては、成人女性でなけば症状は出ませんので、ここにいる女性の先生に気をつけていただければ大丈夫でしょう。むしろ自然と触れる機会を作り女性に対する潜在的な恐怖を軽減していきたいと考えてます。首や肩の接触については児童が触れる可能性はありますが、大げさに嫌がる程度でしょう。その点をフォローしてください。ただし、過度のストレス状態で成人女性が首もとと肩に触れるときは、彼女のトラウマを思い出してパニックになる可能性があるので注意してください。万が一の際は私にすぐ連絡してください。

最後に彼女には記憶障害とその後の行動の変化があります。私は担当医で何度か診察したのですが、彼女に忘れられていました。これはみなさんはあまり気になさらないでください。行動の変化は具体的には、髪の毛をずっと触るようになったり、急にパソコンを触るようになったり、家に帰ってから深夜にアニメを見たりするようになっただけの、ちょっとした行動の変化なので学校生活には影響はないと思います。
それから、希さんはこの学校にどうしても入りたかったようです。理由は不明ですが、何か目的があるのかもしれません。何かそのことで気になることがあれば治療の糸口になるかもしれないので、教えてください」

「以上です。何かご質問は? 」

「はい、質問と言うか。雨宮夫妻は何年前になるかな? 」

ある先生が雨宮夫妻について何か言いかけたそのとき……

「先生? 」

校長先生が近くに行ってその先生の肩をたたいた。

「どうしましたか? 校長先生」

「それはあまり言わない方がいいね。それに、その件は雨宮希ちゃんには無関係じゃないか」

にこやかに校長先生は言っていたが、プレッシャーを感じさせた。こんなときの校長先生の笑顔は怖いらしい。仲の良い先生から生きた心地がしなかったと言われたことがある。

「はい、 …申し訳ありません」

先生はビクッとしてうつむいてしまった。いったい何だったんだろう?

「そうですね。私は基本的に雨宮希さんの治療のために動いています。そのためなら、必要があれば重大な秘密は教えますし、必要なら口を噤みます。ですから、必要なことはすべてお話したと考えてください。ほかにご質問はありませんか? 」

周り静かだ。みんないろいろ考えているようだ。

「ないようですね。では私からはこれで終わります。」

「ありがとう。西園君、聞いての通りだ。みなさん補足するなら、この3ヶ月で雨宮希さんはずいぶん回復されて、今言ったことは杞憂かもしれん。ただこういう言い方は失礼かもしれんが、雨宮さんの家は希さんのことが心配で過保護になっているだけなんだと思う。私にも孫がいるからよくわかる。それに、私も昔からの友人に強くお願いされては弱くてね。よろしく頼むよ」

理事長が冗談まじりに言うと、どっと笑い声がわいてようやく空気が弛緩したようだ。

「では、これで職員ミーティングを終わります。」

「先生ちょっと来てください。」

「はい何でしょう? 」

「例の雨宮さん、君のクラスに決まったから、よろしくね。他の女性にも慣れる必要があると雨宮夫妻と西園先生の意向なんだ。なるべく接触の機会を作ってどんな行動を取るか教えて欲しいそうだ」

「は、はい」

私はプレッシャーを感じる。しかし、これは期待されているということだろう。がんばらないと。



作者コメント

ゴールデンウィーク強化継続中。昨日はギリギリだったので今日は朝から行きます。

心の病気については創作している部分もあります。病名や症状はある程度特定の呼称は避けました。デリケートな問題ですから、不足があれば修正したいと思います。



[27519] 第七話 ともだち
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:870194e7
Date: 2011/05/09 01:17
第七話 ともだち



私は目を覚ます。蛍光灯と白い壁が見える。最初に目を覚ました光景と一緒だった。違うのは片目がふさがっていること、おかーさんの背中が見えることだ。

あちこち痛い。左目に包帯、左腕にも包帯が巻かれている。相当暴れたかな? 気が重い。

「おかーさん? 」

ビクッとおかーさんの背中が動くと、こちらを振り向き、おそるおそる聞いてきた。

「みーちゃん? 大丈夫なの? 」

「うん、 …大丈夫だよ。おかーさん」

「よかったッ! 目が覚めて」

おかーさんは少し泣いているようだった。かなり心配させたようだ。申し訳ない。でも私の病気のこと言ってくれればよかったのに。

「おかーさん、ここは病院?」

「ええ、そうよ。おかーさん、喫茶店でみーちゃんが倒れたって聞いて飛んできたの」

(桃子さんに触れられて入れ替わったから、どうなったかがさっぱりわからん)

「おかーさん。私ね。なのはちゃんの家で気分悪くなっちゃって、なのはちゃんのおかーさんに支えてもらってたんだけど、そこから先がわからないの」

「えっ!? そうなの」

「私どうなったんだろ? 」

「そうね… た、多分、気を失ったんじゃないかしら、高町さんもそう、 …言ってたし」

(高町さんね。 …歯切れ悪いな。誤魔化してる? このケガだしな。少しつついてみよう)

「おかーさん、なのはちゃんのおかーさんはケガしてない? 」

「えっ!? 」

おかーさんは驚いている。やはりそうか。おかーさんも娘相手にそんなに気を使わなくてもいいのに。

「私のこのケガは普通じゃできないもん。あまり覚えてないけど、怖くて滅茶苦茶になったのは覚えているよ」

「そう、少しは覚えているのね。心配しないで、少し引っかいた程度ですんだみたい」


おかーさんはこう言ってくれているが、最悪だ。よりにもよって、なのは様のお母様に手を出すなんて、客商売の評判を下げてしまったのは間違いない。何よりもせっかく築いた友人関係が崩壊してしまった。明日からどうやって話せばいいんだろう。

私の心が絶望に染まっていく。普段は前向きな私もこればかりは、楽観的に考えることはできなかった。

「せっかくできたお友達なのに…… 」

思わず出た言葉だったが、その言葉はジワジワ胸に染み込んでいく。

悲しくなって涙が出てきた。涙はどんどん出てきて止まらない。包帯も涙で濡れてきた。私は下を向いて右手で右目を押さえてワンワン泣き出す。

このときの私は前世とか関係なく、ただ友達を無くした少女雨宮希として泣いていた。













「…大丈夫」

誰かが肩を抱いてくれている。不思議と不快感はない。おかーさんじゃない誰だ? 暖かい感触だ。

「…友達だから」

私は右目をぬぐって顔をあげる。なのは様だった。
友達になってくれたときと同じ輝くような笑顔で私に語りかけてくれている。私は涙を流したまま謝る。

「ご、ごめん、ごめんさない」

「うん、うん」

「ごめんなさい」

「うん、うん」

「ごめん ……なさい」

「うん、うん…」



私達は私が謝って、なのはちゃんが頷くを何度も何度も繰り返した。

(どうして? この子は私のことを気にしてくれるのかな? )

今、カナコではない誰かの声が聞こえた気がした。

不思議だ。何か一体感みたいなものを感じる。



その後、ふたりでお話をした。

「なのはちゃん、来てくれてありがとう」

「うん…」

「私ね… 病気なんだ。…心の」

「うん…」

「ご飯ね。みんなと同じものはあまり食べられないんだ」

「うん…」

「年上の女の人が怖いの。首とか肩を触られると、怖いことを思い出しちゃって、滅茶苦茶になるの」

「……うん」

「なのはちゃん? 」

なのはちゃんはわらった顔のまま泣いていた。そういえば、人一倍他人の寂しさや悲しみに敏感な子だったな。

「大丈夫、大丈夫だから」

なのはちゃんは抱きついてくる。

(どうしてこの子は私のために泣いてくれるのだろう? )

ああ、この子は本当に優しい子だ、私のために泣いてくれている、雨宮希のために泣いてくれている。悲しんでくれている。私は悲しみが癒されていくのを感じる。

(暖かい)

さっきからカナコではない声が聞こえるが今は気にならない。

私は俺ではなく、希ちゃんのためになのはちゃんと本当の友達になろうと心に決める。

(ありがとう)

誰だ?



作者コメント

ギャグ一切なし。シリアスなシーンちゃんと書けているか心配です。なのはちゃんマジ天使。



[27519] 第八話 なのはちゃんのにっき風
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:870194e7
Date: 2011/05/08 10:13
第八話 なのはちゃんのにっき風

なのは視点


雨宮希ちゃんという女の子が転校してきた。ちょっと不思議な女の子なの。色は白いし、黒髪ですごく長い。なんかウネウネしてるけど気のせいだよね? 
転校の挨拶でいきなり泣いちゃったかと思うと、どこかのお嬢様みたいな挨拶。なんで私を見て泣いたのかな?


昼休みにお友達になってと言われたときはすごくうれしかった。冗談を言うもの好きみたい。くすぐったいよ。


最初に私を見たとき何で泣いたか聞いたら、夢で見たカッコいい女の人が私にそっくりなんだって、そんなにかっこ良くないよ。ちょっと頭冷やそっか? 不思議としっくりくる言葉なの。
アリサちゃんとすずかちゃんも一緒になって褒めるから恥ずかしいよ~
でもどうしてお友達なのになのは様って呼びたいのかな?

あと髪の毛がやっぱりおかしいの。すずかちゃんも希ちゃんを見ているときぼーっとすることがあるの。ちょっと顔も赤くていつものすずかちゃんじゃないみたい。

希ちゃんはごっこ遊びが好きみたい。なんだか男の子みたい。おはなしも大人の人が考えるようなことを思いつく。すごいなぁ。

でもいつも私を主役にしようとする。うれしいけど平等にしてほしいな。

今日は久しぶりに喫茶翠屋へみんなを招待。希ちゃんは初めてだね。おねーちゃんの事カッコいいって言う人初めてだよ。おかあさんが注文を運んできてくれた。希ちゃんに会いたかったみたい。希ちゃん顔色が悪いみたい、言葉使いも変だし具合悪いのかな?

希ちゃんが大きな声で泣いてる。

怖いことがあったみたい。お店を走ってあっちこっちぶつかって転んでケガしちゃった。大丈夫かな? みんなびっくりして何も言えなかったの。
おかあさんもちょっと引っかかれたみたい。おかあさんも泣いてたけどそんなに痛かったのかな? おかあさんに聞いたら希ちゃんに優しくしてあげてねと言ってた。

希ちゃんのお母さんが来たの。西園先生も一緒に来たみたい。なんでだろ? 希ちゃんのお母さん、ウチのおかあさんにものすごく謝ってた。
おかあさんは気にしないでと言ってた。希ちゃんは病院に行っちゃった。西園先生がお話があるみたい。おかあさんとおねーちゃん、私とすずかちゃんとアリサちゃんで先生の話を聞いた。

西園先生は心のお医者さんだそうです。
希ちゃんを担当してるみたい。希ちゃんはみんなと一緒のものは食べられないそうです。今日は無理してきたみたい。悪いことしちゃったなってアリサちゃんは言ってた。おかあさんくらいの女のひとが肩とか首を触るとすごく怖がるみたい。今日みたいになったのはそれが原因みたいなの。おかあさんすごく怖い顔してた。

西園先生に希ちゃんの心の病気を直すには、お友達と楽しいこといっぱいすれば良くなるから、これからも友達でいてあげてねと言われた。アリサちゃんもすずかちゃんももちろん友達と言ってくれた。私だって友達だよ。
西園先生からありがとうってお礼を言われた。先生、メガネを外して目をこすってました。最後に先生が希ちゃんにとって私はヒーローなんだって言ってた。なんだか恥ずかしいな。


次の日、希ちゃんはまだ寝てるんだって、お見舞いに行くことになったんだけど、アリサちゃんとすずかちゃんはどうしても行けないみたい。すごく残念そう。

先生がそわそわしてたけど、どうしたんだろう?


病室に着いたら、希ちゃんが起きたみたい。
なのはのおかあさんにケガさせたことが気にしてるみたい。

希ちゃんが泣いてる「せっかくできたお友達なのに…」って言ってた。

胸が痛いな。苦しいな。心配しなくても私達は友達だよ。そう伝えたくて希ちゃんのそばに行く。希ちゃんずっと謝ってた。その後、おはなししてたら私も泣いちゃった。



退院したら、希ちゃん、ウチのおかあさんに会って謝りたいみたい。大丈夫かな。



作者コメント

なのはの希に対する感想を箇条書きで書いたらこうなった。ちょっと頭の弱い子っぽくなってる。



[27519] 第九話 シンクロイベント2
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:870194e7
Date: 2011/05/09 20:59
第九話 シンクロイベント2

2日程入院して今日が退院の日だ。アリサとすずかもお見舞いに来てくれた。二人は私の心の病気についてはすでに知っていた。西園先生から聞いたらしい。

アリサはずっと怒ったような顔をしていたが、別に怒っているわけではなく、翠屋に誘ったことを気に病んでるらしい。すずかがこっそり教えてくれた。
私が「また行こうね。今度は果物だけにするから」と言うと、

「アンタ、身体弱いんだから無理しないの。…それから、……悪かったわね」と言ってくれた。

後はお互いの友情を確認して、また学校で会うの約束をする。

他にも西園先生がいろいろ動いてくれたそうだ。そのおかげで、翠屋でもおおきな問題にはならなかったらしい。

それよりも問題はカナコだった。この後、翠屋にお詫びにいくことになっている。しかし、最初のときもわざわざ警告してくれたのに、そこにもう一度行くことを許してくれるはずはないと思っていたのだが、

「いいわよ」

と、あっさり受け入れられた。

「なんで? 」

「なのはって言ったわよね、あの子。なのはとの友情が思った以上に希に作用してる。今回の暴走を帳消しにできるくらいにね」

「そうなの? 」

「ありのままの自分を受け入れてくれる存在は心を癒すわ。病院でなのはと話したとき何か一体感みたいものを感じなかった? 」

「そういえば、何か思考が女というか、普段はなのは様でとらえているんだけど、そのときは友達のなのはちゃんだったような気がする」

「それね。シンクロしたのよ。あなたと希の記憶は別々だから、あなたの体験はあなたの本棚の本に記録される。それを私が読んで、希が喜びそうな形で編纂して、希の本棚に並べるんだけど、弾かれることもあるし、効率が悪いわ。今回は希本人もあなたと繋がって、一緒に共有体験しているから、希の本棚に直接記録される。効率は段違いね」

「へぇー、でもどうして今回そうなったんだ? 」

「もちろん、あの子が望んだからよ。あの子は基本的に外に出たくないの。でもうっすら感覚は繋がっているから、不快な感覚が限界を越えると我慢できなくなって、自分から外に出て、不快なものから逃げようとするの。
今回は逆ね。自分を癒してくれるものに惹かれたのよ。それを少しでも強く感じたくて、あなたと繋がったんでしょう」

「桃子さんの件は? 」

「あなたがなのは達との友情を優先したように、私もそうしたってこと。賭としては悪くない」

「そうか。じゃあ、いいんだな」

「ええ、今回はある程度の不快感は目をつぶることにしたわ。でも調子に乗りすぎないこと。それから、あなた、希の心の病については完全に自覚したわよね? 」

「ああ、それがどうかした? 」

「これからが大変だから、症状は希レベルを体験することになるわ」

「希レベル? 」

カナコの話によると、今までは目隠しとか麻酔をしてたようなものらしい。さらに、虚弱体質だから、暗殺者が狙っている、オートガードなどの理由をつけて上手くストレスを受け流していた。しかし、自覚すると真っ正面から受け止めることになるそうだ。 

俺はどうなるのか気になった。

「具体的にはどうなるんだ? 」

「前より過敏により強力になるわ。でも今なら存在のちからも増しているから耐えられるはず」

「存在のちから? 」

「自分が自分であると存在を信じるちからのことよ」

「それはもちろん、俺はアトランティスの最終戦士だから、他の連中とは違うぜ」

「少し違うのだけど、あなたはそれでいいんだと思うわ。 …そろそろ行きなさい」

どうも、話の抽象的すぎて核心が見えないな。まあいいか、細かいことはいいだろう。

「じゃあ、またな ……って、オイッ、なんで素手で俺を持ち上げてるんですか? カナコさん」

「このままじゃ帰れないじゃない」

「もっと穏便にできないんでしょうか? 」

俺はすでに何度か経験しているが、あの落下する独特の感覚はどうしても慣れない。そんな俺にカナコさんの無情の一言が告げられる。

「ないわ。あきらめて。えいっ! 」

ひゅーーーーーーーーーーーーーーー

「もう嫌ーーーーーーーーーーーーーーーー」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


喫茶翠屋前

私は喫茶翠屋の中にいる。今回の件はすでに双方で解決しているのだが、私がどうしても桃子さんに謝りたかったので、席を設けてもらった。ちなみに、閉店直後を選んだ。念のためだ。

桃子さんは厨房で片づけをしている。もう少ししたら来るそうだ。

(そろそろね。来るわよ。覚悟して)

カナコがなんだか物騒なことを言っている。

「希ちゃん、おかあさん、今来るって」

厨房からなのは様が出てきて、教えてくれた。

「ごめんなさい。待たせてしまって」

桃子さんが出てきて、ちょうど真向かいに座り、テーブルを通して向き合う。そうして、私に微笑みかけた。

桃子さんの微笑みを見た瞬間、衝撃が走った。
心臓の動悸が止まらない。全身の毛が粟立つようだ。身体が震えてきた。暗殺者ってレベルじゃねーよ。帰りたくなってきた。

と、とにかく謝らないと…

「ここ、このたびは…その…ご迷惑をおお、おかけして…申し訳…あり」

私は全身の震えを感じながら、何とか声を絞り出して、お詫びを伝えようとしたが、桃子さんは急に悲しそうな顔で首を振ると、

「いいのよ。それよりケガは平気? 顔と腕は大丈夫? 」

「へへ、平気です。それより桃子さん、私が腕を…」

「私はかすり傷よ。希ちゃんのケガのほうが心配だわ」

「それにお店の評判とか…… 」

「そんなこと気にしなくてもいいのに」

「でも迷惑」「大丈夫。あのときのお客さん、ちゃんとわかってくれたわ」

「うっ! 」

私が言葉に詰まると桃子さんは微笑みながらも、憂いを帯びた顔で言ってくれた。

「希ちゃんは強い子ね。怖い思いをしたのに、またここに来てくれた。私はそれだけでうれしいわ。だから、無理しないで、顔色が悪いわ。身体も震えてる。私が怖いんでしょう? 私の事は気にしないで、希ちゃんのことはわかってるわ」



私はその悲しげな言葉を聞いて覚悟を決める。桃子さんに気持ちを伝えるんだ。

ゆっくり立ち上がる。

足がすくむ。ガクガクする。

桃子さんまで1メートルもない。





たったそれだけが遠い。

一歩ずつ進む、近づくたびに身体は拒否する。震えが大きくなる。近づいてはダメだ。命の危険を感じている。これが希ちゃんが感じている世界か。

「無理しないでいいのよ。希ちゃんの気持ちは伝わってるわ」

桃子さんは言ってくれるが、そうはいかない! 桃子さんはなのは様と同じで私の事で悲しんでる、悲しんでくれている。そして、なにより自分が大人の女性だから私を苦しめるだけで何もできないと思っている。

だから、私から触れてあげないといけないんだ。




怖い怖い怖い怖い。頭の中がこの気持ちでいっぱいになる。

俺はアトランティスの戦士だ! この程度の恐怖で引くものか! 最期の戦いのときはもっと勇敢だったはずだ。





(…限界ね、そろそろって、えっ!? 希っ、嘘、どうして? )

冷静だったカナコがなんだか急にあわてた声を出してる。めずらしい。


誰か私に勇気を、桃子さんに近づく勇気をください。

「なのはちゃん! 」

私はいつのまにかなのはちゃんを呼んでた。

「えっ!? 何、希ちゃん」

私と桃子さんとのやりとりを心配そうに見ていたなのはちゃんは急に呼ばれて驚いた顔していたが、すぐに近くに来てくれた。

「私の手、握って強く、お願い! 」

「うん」

なのはちゃんは手を握ってくれた。温かい手、優しい手、この温もりがあれば、きっと、私だって、勇気を振り絞れる。

私はなのはちゃんに支えられながら、桃子さんへ近づく、一歩また一歩と、









そして、とうとうたどり着いた。

桃子さんは目を見開いている。私は右手を伸ばし、桃子さんの包帯の巻かれた左手をそっとつかむ。




「ケガ早く良くなってください。それから、また来てもいいですか? 」


ーーーーーーーーーーーー


桃子さん、泣いてたな。少しは彼女の救いになっただろうか? 

でも抱きしめるのは勘弁して欲しかった。死ぬかと思ったよ。おかげで桃子さんはだいぶ平気になったけどさ。

(今回の黒い影も大物だったわ。後でおぼえてなさい)

カナコはなんか怖いこと言ってる。投げれるのはイヤだな~

私はそんなことを考えながら、おかーさんと歩く。そういえば、希レベルとか言ってたけど、おかーさんは平気なんだな。




当たり前か、なんてったって実の母親だもんな。

(慣れって恐ろしいわね。いくら麻酔状態のあなたのときに訓練したとはいえ、希レベルを全く感じさせないなんて、あなたと百合子の関係は大したものね。執念を感じるわ。でもね、私からすれば気持ち悪いだけよ。割れ鍋に綴じ蓋って、まさにこのことよね)

カナコはおかーさんが嫌いなんだろうか。でも、割れ鍋に綴じ蓋ってぴったりな相手のことじゃなかったけ?


途中でタクシーを拾って家まで帰る。タクシーの中はいつも明るいおかーさんしては珍しく無言だった。こころなしか顔が青い。

「大丈夫、おかーさん」

「へ、平気よ。車に酔ったみたいね」

つらそうな顔だ。やせ我慢のなのがよくわかる。まだ5分も経ってない。ここまで車に弱いとは思わなかった。汗までかいている。




「 ………みーちゃん」

おかーさんは私の名前をつぶやく。呼んだというよりは何か思いを込めているような感じだ。顔を窓の外を向けて、どこか遠いところを見つめている。

「どうしたの? おかーさん」

「なんでもない。呼んでみただけよ。みーちゃん」

少しだけ落ちついたようだ。ぎこちないが笑顔になっている。


おかーさんは着いて、すぐトイレに駆け込んだ。おかーさん、乗り物にはかなり弱いみたいだ。


その日はご飯もたべられなかった。




今日はいろいろあって疲れた寝よう。



…夢を見た。


異形の化け物と誰かが戦う夢だった。次の戦いはすぐそばにせまっていた。




作者コメント

ようやく無印に入れます。長すぎですね。メインキャストを三人にするからこういうことになります。

社会人なのでこれから毎日更新はしんどいのです。これからは週一回から二回ペースになると思います。

ここまでの話は導入編です。主人公三人の足場固めと目的を決めるまでですね。伏線は大量にばらまきました。回収が大変だ。下手な伏線も数撃ちゃわかるまい。

ようやく無印のメイン組を出せます。




[27519] 無印前までの人物表
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:870194e7
Date: 2011/05/09 21:24
無印前までの人物表

高町なのは様・・・本作品では癒し系。天使をコンセプトに描いております。自分に入れ込む希に少々戸惑い気味。現在の希の友情レベルはアリサとすずかと同じくらいだが、同情補正かかってます。無印編で何か変化があるといいな。やはり彼女との友情は戦わないと生まれないのだろうか?

アリサ・バニングス・・・つっこみ担当。重宝してます。

月村すずか・・・話題ネタ振り担当、なんでそんなこと知ってるの? 友情と吸血衝動がせめぎあっています。



雨宮希(男)・・・複雑な前世?の記憶を持った本作品の主人公その一。名前はまだないというか奪われている。自称アトランティスの最終戦士。彼の力が覚醒する日はいつになるだろうか? プロ顔負けの演技力を持ち、頭はそこそこ回る。その身体は年上女性を拒絶する仕様だが、希の外見とけなげな子供の演技で無自覚に年上女性の母性本能を刺激してやまない。なのは様ラブ、重度の厨二病で周囲を巻き込むタイプ。子供だから許されるってことがわかっているんだろうか?

カナコ・・・希の夢の世界の司書にして門番。主人公その二。オリ主強キャラは彼女の称号です。希本人には並々ならぬ愛情を感じさせる。本作品のつっこみボケパロネタまでこなす万能にして陰謀キャラ。男の名前を奪ったりいろいろ隠してます。こいつがいなければややこしいことにはならなかったはず。

雨宮希(本人)・・・雨宮希の本来の身体の持ち主。主人公その三。怠け者な性格。心に傷を負って今は眠っている。外の事は男とカナコにまかせて脳内引きこもりニート満喫中。でもストレスが頂点に達するとパニックになり外に出てくる。なのはをきっかけに外への関心を少しづつ取り戻しつつある。出番少ない。無印前まで来て未知数のキャラ。


雨宮百合子・・・おかーさん、いつも優しい。車に弱い。

雨宮総一郎・・・おとーさん、あまり家に帰ってこない。

雨宮雷蔵・・・おじーちゃん 大学病院の病院長 武道の達人らしい ラ~イディーン!!

おばーちゃん・・・おじーちゃんより強い武道家、どんだけ強いんでしょう?

理事長・・・物事を大げさにするのが好きな人。西園先生がその例。他にも外部から先生を引き抜いたりしている。

西園冬彦・・・精神科医。スクールカウンセリングのかたわら担当である希の治療のためいろいろ動く。非常に優秀でイケメンでモテるが今のところ仕事にしか興味がない。
特に児童心理に傾注している。内心では希は知的好奇心を大いに満たす患者だと思っている。そんな自分の側面を嫌悪しているがやめられない。無邪気ななのは達に罪悪感がチクチクする。

先生・・・どうしてこうなったキャラ。初日で希に陥落。優秀で周囲の信望も厚い先生だが、希がからむとおなしなことになる。名前がないなぁ~



[27519] 無印予告編 アトランティス最終戦士とシンクロ魔法少女たち
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:870194e7
Date: 2011/05/09 22:02
無印予告編 アトランティス最終戦士とシンクロ魔法少女たち 




「どうあがいても物語の結末は変わらない。計画は失敗してプレシアはアリシアの亡骸を抱えたまま、時空に消えて、フェイトは報われなかった想いを抱えながらも、なのはと結んだ新しい絆を胸に生きていくんだわ。そういうふうになっているの」





それは、カミのちからを使うアトランティスの最終戦士とシンクロ魔法少女の物語…



俺には魔法の才能はあった。これは間違いない。

この世界で先に起こることもわかるのだ。もう無敵である。オリ主チートが始まるぜぃ。


目的はなのは様と仲良くなること。もうこれは俺だけのものではない。希ちゃんのものでもある。シンクロイベント頑張るぞ~ うるさい奴もいるけどな。




カナコ、何か俺に隠しているようなのだ。

「さっきのこと、私、あなたに話していないことがたくさんある。それが何なのか今は言えないけど、ちゃんと意味があるからそうしているということを信じてほしい。少しだけ言うなら、あなたという存在の存続に関わっているの。そして、強くなったとはいえ、あなたはとても儚い存在なの。あなたがいなくなるのは困るわ」






ついに目覚める俺のカミのちから

「じゃあ始めようか。そうだね。もう避けるのは飽きたから、そろそろ受け止めようかな。 …本気出すね」

私は魔力を展開する。


意外な人物も舞台に立つ。

「今回は静観するつもりだったけど、気が変わったわ。…あなた、希を傷つけたわね。」

戦いの幕が上がる。



だが、私たちは忘れていたのだ。この世界は私たちが関わることで変容していることを

「何? まだ何かあるのフェイト」

「聞きたいことがあります。母さん」

「言ってみなさい」

「その、ある魔導師と交戦したのですが… 」

ほんの些細な出会いが本来の運命を狂わせる。



俺自身も失望と絶望を知ることになる。



(なあ、カナコ、俺さ、この世界でなのは様に出会って、ここに到達するのを夢見てた。最終到達点と言ってもいいよ。今、俺は夢見た舞台に上がってる。けど、なぜだろう? このむなしさは)


・・・・・・・・・


「この本は? 」

「あなたが生まれた理由が書かれているわ」

カナコは俺に本を渡す。渡すときの手は震えていた。

「読んでいいのか? 」

「あなたは自分の名前を知ってしまった。あなたの記憶の封印は解かれたわ。糸が少しずつほつれるように思い出していく。あとは早い遅いかの違いよ。せっかく今までうまくいっていたのに、こんなことでしくじるなんてついてないわ。でもね」

カナコは自嘲的な顔で、俺を見つめると言った。

「今回の偶然は運命かもしれない。そして、時が来た。そう思うことにするわ。この真実に耐えることができれば、あなたは自分の存在を確立できるわ」





そして、襲いかかる恐怖

「あはははははははははははははは……」

私は壊れたように笑い出す。今や私は恐怖の支配者だった。
















「おまえの目をよこせーーー」



シンクロ魔法少女まじかるのぞみん始まります。







~caming soon~






作者コメント

予告編風に作ってみた。つまり、台詞は本編で使うってことです。構成は悪質です。



……さらに縛ってどうする?



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