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[27666] 【習作】目指せ世界革命! (リリカルなのは オリ主)
Name: 見習いA◆f8500b9b ID:142e5585
Date: 2011/05/08 15:07
初めまして。この作品は適当にいろいろな作品を見ていたら思いついたものです。

おかしなところもあるかもしれませんが、そういうところがございましたら、随時ご報告いただけるとありがたいです。

厳しいご意見も含めて、感想お待ちしています。なお、誹謗中傷等はおやめ頂ければと思います。

この作品は、にじファン様にも投稿させて頂いております。



[27666] 第1話 初仕事
Name: 見習いA◆f8500b9b ID:142e5585
Date: 2011/05/08 17:52
 第1管理世界ミッドチルダの名門クラナガン大学。この大学の敷地からは、やや遠くに離れた、時空管理局地上本部の天空を突き刺すようにそびえる超高層タワーを拝めることができる。さらに敷地内を見渡すと、中央区画の都心部からやや離れたこの土地には、様々な木々や花々が植えられていた。

 快晴の一日、キャンバスには大学生活を謳歌するために走り回るもの、講義を受けにきた者、十人十色、様々な人間がいた。その中を一人歩く少年がいた。その顔つきは周囲の人間と比べるとかなり幼い。が、特段珍しいわけではない。ミッドチルダの大学は実力さえ伴っていれば歳がいくつでも入学できるのだ。学生たちの中には、なんと七歳で入学したものもいる。

 彼の年齢は十二歳、珍しいと言えば珍しいのだが、総学生数が五百万を超えるこの大学の中にはこれと同じ年齢の学生もそこそこいる。しかし、彼が道を歩いてゆくと、その行く手を阻んでいる者は自然と退いていく。くすんだ金の髪色を持つ少年には尊敬、羨望、嫉妬、憎悪など多様な視線が向けられる。

 彼の名はレオポルド・ゴールドシュミット、時空管理局の最大のスポンサーであり、数多の次元世界の経済を支配する最大の財閥ゴールドシュミット家の後継者の一人である。彼はとある教授の下へ質問に向かうところだった。


               ―――――――――――――――――――――――


「おや? 君はゴールドシュミットの・・・、何の用かね?」

 彼の目的地は資料が山積し、様々な機器で溢れかえっている研究室だった。壁の至る所が黄ばみ、焦げ付いていて、薬品特有の異臭がする。その中に一人たたずむは、還暦が迫ったくらいの、禿げ上がった頭の教授だった。現在は昼時で、本来いるべき彼の助手や生徒はいない。この時間を狙って彼は来たのだ。

「教授にお尋ねしたいことがあり、参りました。・・・プレシア・テスタロッサはご存知ですね?」

「ハハッ、PT事件の事でも聞きに来たのか? あいにくだがご存じだ。あんな優秀な生徒の顔を忘れるほど呆けちゃいない。ところで、やって来て早々質問とは、『黄金鍛冶』の名が泣くぞ?」

 教授はにこやかにレオポルドの質問に答えた。後に続けた彼への戒めも、何ら失礼だと思っている様子はない。

「申し訳ございません。レオポルド・ゴールドシュミットです」

「こちらこそ、ミッキー・ゴードンだ。ミドルネームは勘弁してくれ、噛んでしまう。還暦前の老人を労わってくれると嬉しい。で、ミス・プレシアの何が知りたいのかな? 家族構成とか? それとも、当時の学生生活? 待ってくれ、今茶を出そう」

 ゴードン教授は茶目っ気たっぷりに言った。一方のレオポルドはにこりともしない。

「いえ、結構です。彼女が進めていたプロジェクト・F.A.T.Eについてです。かつて、ゴードン教授も携わっていたとの噂を耳にしたものですから」

 彼は淡々と発言した。この発言は、今まで晴れ晴れとしていた教授の顔を一瞬で恐怖と憤慨の色に染めた。

「何のつもりだ? とうとうゴールドシュミットは管理局を滅ぼすのか? あいにくだがな、あれに関わるのをやめたときから、金輪際、あの計画の事は語るまいと決めたんだ。もし、あれについて聞きに来たなら無駄足だったな」

 教授は静かに、しかし、怒気を込めて言い放った。もっとも、レオポルドも動じない。

「時空管理局は我々のパートナーであり、政治行政においての代理人ですから。滅ぼすなんて。僕はあの計画が、時空管理局の慢性的な人員不足の解消になるかと思い、我々の資本の下、再び研究を始めて欲しいと考えただけです」

「元々、それが原因で始まった計画だよ。・・・思い出したくもない。あの頃は毎日が地獄だったよ、思い出したくもない。断言しよう、あれに関わった、ミス・プレシアを含むほとんどの研究者の末路はひどいものだ。いくら金を積もうが、あれについて話す者は決していない。聞きたければ、スカリエッティにでも聞け、奴なら金を積めばホイホイ話すだろう。何処にいるかは知らんがな」

 教授はレオポルドを睨みつける。彼は何を考えているのか分からない無表情のままだ。

「犯罪者に手を貸してもらうほど落ちぶれてはいません。今日はこれで引き上げるとしましょう。では、またいずれ」

「そうだな。今度は明るい未来についてでも話したいものだ」

 教授は再びにこやかな表情に戻る。レオポルドは研究室を後にした。今日、大学に来た理由はゴードンを尋ねることであり、他の用はないので、自宅に帰ることにした。

    
         ――――――――――――――――――――


 クラナガンの臨海地区に広がる高層マンション群の中の一棟が彼の自宅である。自らの部屋に着いた後すぐに昼食を済ませた。食事は必要最低限度の栄養が摂れればよい、というのが彼の考えであり、栄養ドリンクと固形食だけを食べた。

 食事? を終えた彼は、第98管理外世界『地球』に向かうため、地上本部に出向いて、出国の許可を取りに行くことにした。自分が父から管理を任されている投資銀行の様子を見るためであり、別の用事も達成するためだ。



 地球へと行くためにレオポルドが向かったのは、ミッドチルダ北部にある臨界第8空港だ。ここにゴールドシュミット家所有の次元航行艇がある。彼の行先は第97管理外世界、現地名『地球』にある、アメリカ合衆国のニューヨーク。この世界の経済の中心である。そこに本社を置く、自らが経営にかかわる投資銀行ゴールドシュミット・インベスターズ(GI)の様子を見に行くのが彼の今回の要件なのだ。

 元々、ゴールドシュミット家は『地球』のドイツ発祥で、イギリスで力を付けた一族であり、『地球』においても巨大な企業グループを形成している。もっとも、表に出て行かないので陰謀論が出回っていたりするのだが、大抵の人がバカバカしいと思ってしまい、逆にやり易い。陰謀論者にはこちらから感謝したいくらいだ。


 平日なのだが、空港は各次元世界からやって来た者、もしくはその反対の者によって混雑していたが、レオポルドは専用通路を通って専用機までたどり着いた。そして、『地球』へと去って行った。



            ―――――――――――――――――――――――


 機内ではデータの整理をしたり、音楽を聴いたりなど、比較的自由な時間を過ごした。普段は、大学の論文や、自分が取締役を務めるもう一つの会社、かつて経営不振に陥り、GIが買収した、ゴールドシュミットの魔導端末メーカー部門の一つ、カレドヴルフ・テクニクス(CW)社の経営再建などで手いっぱいだ。

 そうこうしているうちに、気味の悪い次元空間を抜け、青空の中に出た。向こうは昼だったが、こちらの世界はまだ朝方の様だ。ニューヨーク郊外の私用空港を経由して、ジョン・F・ケネディ国際空港へと、そこからの飛行機で向かった。

 エンパイア・ステート・ビルディングを代表とするNYの高層ビル群も見える。この混沌としつつも美しいNYの街並みを、レオポルドは結構気に入っている。クラナガンは雑多すぎて小汚いし、半ばゴールドシュミット家の領地と化している第1特別行政世界アイゼンバーグの首都であり、ゴールドシュミットの本拠地が存在するアーヴィングは整理されすぎていて、逆に不気味だ。

 JFKに着陸した後、タクシーで本社のあるタイムズスクウェアに向かった。朝方であり、それぞれの勤務先へと向かう人の波でごった返しているのが車内から見える。だが、道路も当然混んでいてなかなか進まない。地下鉄で行けばよかったと後悔している。

 レオポルドは人の波を見ていてときどき思うことがある。彼らは何のために働いているのだろう、と。当然、目的は金を稼ぐためである。では何のために? 家族の為、遊ぶため、見せつけるため、いろいろあるだろう。自分は何のために働くのか? 家族と言えば、働きづめで碌に顔も合わせない父、魔法の才能だけは凄まじく、コネで14歳にして執務官になった兄の二人だけ。遊ぶつもりも誇示するつもりもない。ただやれと言われてやってるだけ、意味があるのだろうか?

 考えているうちに、ガラス張りの本社ビルが見えてきた。クラナガンほどではないが、ごったな建物の並び広告で溢れかえるタイムズスクエアに建つ綺麗なビルは結構目立つ。高いし。

 出社してくる金融マンに混じって彼も中へと入ってゆく。携帯端末をいじりながらエレベータに乗り込む。普通の携帯端末で、魔力の才能をほぼすべて兄にとられたのか、自分の魔力はないに等しい彼にデバイスは必要ない。父も当初は、兄と同じく管理局に彼を入れようとしたが、魔法至上主義ともいうべき風潮のある管理局では足手まといの様だったのか、現在はこの仕事に就いている。

 エレベータがビルの最上階に着いた。この階には会長室が置かれている。この階に用事のある人間はほとんどいないので、静かなものだ。現会長の出身国に因んで、浮世絵が飾られていたり、ガラス越しで見える庭園には竹や松が植えられ、獅子脅しや石灯籠が置かれている。やはり整理されていて気に食わない。彼は混沌が好きなのだ。あんまり汚いのは嫌いだが。


 廊下を歩き、会長室の前へとたどり着いた。木でできた扉を開けると、NYの街並みを一望できるガラス張りの部屋が広がっていた。窓から見える高層ビルや空をバックに、奥には机で作業するガタイのいい男がいた。

「これはこれは取締役殿、本日はどのような御用件で?」

 遥か年下の少年を無駄に恭しく扱うのは、GI会長兼最高経営責任者(CEO)の露崎京太郎、大学を卒業して入社して以降、GI一筋30年、いわゆる生え抜きだ。

「ちょっと様子を見に来ただけです。どうですか?」

「お分かりの通り、地球における前年度の売上高は過去最高の1260億ドル、純利益は150億3000万ドル、いずれも過去最高、心配していただく必要はまったくございません」

 自分は取締役、彼は会長で露崎の方が年齢も立場も上なのだが、厭味ったらしくも敬語。彼はレオポルドがゴールドシュミットのコネで、しかも本来ならまだ小学生のはずの子供が取締役になっているのが気に食わない。自分は実力でここまで這い上がって来たと思っているから。

「いえ、様子見がてらに融資していただきたいところがありましてね。よろしいですか?」

「CW社でしょう? あいにくですが、あんな不良債権の塊みたいな会社を支援するわけにはいきませんな。そもそも、軍需部門のゴールドシュミット・デュポン(GD)に売り払ったばかりですし、我々も多少は努力して経営を改善したつもりですが、あの様です。お父君のゴールドシュミット卿が直接率いる商業銀行部門のバンク・オブ・ゴールドシュミット(BOG)にして頂けばよろしいのでは? 資金力もあちらの方が上ですし」

 要は、売りとばしたものを再び助ける気はないし、売却したことにより、利益が出たので後は知らんというハゲタカらしいやり方だ。謙虚で有名な日本人がどうして外資系の中でトップになれたのか、人情のかけらもない男なのだ。はっきり言って、CW社のメインバンクはBOGなのだが、BOGに頼るということは父に頼ってしまうことになるだろう。何となくだが、無理やりやらされたのだが、今回は初めての大仕事なので、自力でやりたいと思ったのだ。だからわざわざこんなところまでやって来たのだ。

 融資してもらうには将来性について言わなければならない。ゴールドシュミットがこの会社を買った理由はただ一つ、AEC武装という技術のためだ。この技術はアンチ・マギリンク・フィールド通称AMFに対抗しうる数少ないものの一つだ。それについて語ったが、

「そんなことはおっしゃられなくても分かってます。ですが、のちに耳にしたところによると、ゴールドシュミット・デュポン本体が時空管理局と共同で第五世代デバイスを造っているとか。そちらの方が実用的では?」

「第5世代は実用化にあと30年ほどかかると言われていますが、ここだけの話、AEC武装はあと数年で実用化できます。実用化した後、現在のデバイスに代わって管理局の標準装備となれば、あっという間に経営が安定して、株価も上がるでしょう。今のうちに投資した方がいいでしょう?」

 実際、一時期とはいえ、向こうも経営に携わっていたのだからAEC武装が直に実用化されることは分かっているだろう。一方、第5世代が当分実用化されないことを知っているのはGD社の人間と時空管理局上層部、ゴールドシュミット家の人間だけだ。露崎は、椅子をくるりと回して窓の方を5秒ほど向いた後、こちらを振り返り、

「ふむ、年利60%ならいいですよ。担保は?」

 嫌味ったらしくにやにやして、言った。30億ドルほど融資してもらいたいのだが、金利60%と来た。アメリカには法定金利というものが明確には存在しないので、こんなめちゃくちゃな数字が大手金融機関でも言い出すことができる。さすがにきついので、特大のリーク情報を出すことにした。

「融資していただければ、とある情報をお教えしてもいいと思ったのですが、金利60%では・・・。GDにも大きくかかわることですよ」

 露崎はいぶかしむ目でレオポルドを見た。そしてすぐ決めた。

「40%。これ以上は引けませんな。融資の額は30億程度ですか?」

「結構です。ご協力感謝します」

 二人は握手を交わした。露崎がここまで上がってこれたのは人情のなさと即決力だ。早押しクイズ男と社内では揶揄されている。

「で、情報というのは、内部リークですが、再来年までには世界最大のエネルギー商社のエシュロンと全米2位の通信プロバイダのインターナショナル・シグナルが破綻します」

 露崎はいきなり大笑いした。そしてバカにしたように、

「何をおっしゃるかと思えば、エシュロンとインターナショナル・シグナルが潰れる? ハハッ、天下の御曹司様にそんなジョークが言えるとは! インターナショナル・シグナルはITバブルがはじけ、合併に失敗して業績が悪くなっているとはいえ、未だに巨大企業、まあ、そろそろ融資と株式を引き上げようと思っていたところですが。しかし、エシュロン! これは大きく出ましたね。今期はもう最高益だと言われ、事業も好調、会計監査も5大会計事務所のジミー・アンダーセン、全米で最も勢いのある会社でしょう。潰れるなんて! CW社が潰れることがあっても、エシュロンが潰れることはないでしょう」

 ナイスジョークと言わんばかりに大笑い。レオポルドは何の表情も浮かべない。僅かながらの軽蔑はあるが・・・。そして、内部リークの報告書を露崎に渡す。大笑いしていた露崎の顔が次第に曇って行く。

「不正経理とは・・・。エシュロンが潰れれば、間違いなく市場は影響を・・・、というかわが社も・・・」

 この世の終わりだ、みたいな表情だ。最初のいけ好かない態度からの豹変に満足して、声もかけず部屋を去った。ちなみに、自分もエシュロン株を持っているが、今期の決算後に売り払うつもりである。

  
 融資も約束してもらったので、もうNYに用はない。という訳で、JFKの自家用機に戻った彼が次に向かうのは露崎の祖国、日本である。この前言った際においしい喫茶店を見つけたのだ。それにPT事件もあって、その様子を尋ねたいと思っていたのだ。





[27666] 第二話 海鳴市にて
Name: 見習いA◆f8500b9b ID:142e5585
Date: 2011/05/09 19:06
 アメリカから飛び立った彼が、1日かけてやって来た先は海鳴市という、まあ、どこにでもあるような街だった。この街では数か月前、大事件が発生した。もっとも、この街の住人はほとんど気づいていないだろうが。

 NYと比べれば、人の混雑具合は月とすっぽん、まあ当たり前である。レオポルドがこの街にやって来たのは、翠屋というやたらうまい喫茶店があるからだ。ちょっと前にも海鳴市に来たことがあり、その時食べたコーヒーの味が忘れられなかった。せっかく地球にやって来たのだから、という訳でNYから向かった。PT事件の舞台でもあったので、何となく当事者に事情も聞きたい、というか、事件の首謀者プレシア・テスタロッサの娘のクローンであるフェイトの出来を聞きたかった。翠屋の娘が関わっていたという情報も得ていた。

 しばらく歩き、翠屋にやって来た。店内に入り、さっそくコーヒーとケーキを注文した。夕方なので、人は少ない。店の店員と思わしき女性に尋ねた。翠屋は家族で経営していると聞いたので、おそらくこの女性が少女の母親だろう。

「申し訳ありませんが、高町なのはさんに会わせて頂けないでしょうか」

 女性は困っているようだ。知らない人間にいきなり娘と会わせろと言われればそうなるだろう。

「お友達か何かで?」

「はい。そんな感じです」

 人のいい女性の様で、友達だと言ったら会わせてくれるようだ。名前も言っていないのだが。お気楽なもんである。何だか腹が立ってきた。直に女性が少女を連れてきた。休日だったので、店の手伝いをしていたようだ。そして、少女の耳元でこう呟く、

「魔法の事を知られたくなければ、大人しく言うことを聞いて頂きますよ」

「!!」

 少女の顔が凍りついた。母親は彼女を連れてきた後、すぐに業務に戻った。レオポルドはなのはを外へと連れだした。12月の寒空は応えるがまあいい。

「まあ、自己紹介と行きましょう。僕の名前はレオポルド・ゴールドシュミット。一応、ミッドチルダ出身です」

 年下相手だろうが誰が相手だろうが、物心ついてから彼は他人に対して一度たりとも砕けた口調で話したことはない。家族だろうが知人だろうが、全て赤の他人、利用するだけに過ぎない存在なのだから。他人に馴れ馴れしい口を聞くのはよくないと考えているからだ。

「た、高町なのは…。魔法をばらすっていうのは…?」

 なのはは怖がっているようだ。ちょっと考えれば、12歳のレオポルドが魔法は実在すると言ったところで誰が信じるのだろうか? 誰も信じないだろう、というのが分かるはずだ。が、なのはは錯乱しきって、そうは思わなかったようだ。

「そのままの意味です。まあ、こちらの要件というのは、フェイト・テスタロッサさんとの面会を取り持ってほしい、ということです」

「ふぇ、フェイトちゃんに!?」

 なのはの困り切った表情に驚きが混じった。

「それだけでいいのです。そうすれば、魔法の事も管理局との関わりも知られずに済みますし、僕も心苦しい真似をせずに済みます」

 優しく微笑んでなのはに語った。フェイトやクロノと連絡を取るため、自宅へと戻って行った。レオポルドもそれに同行した。なのはの自宅に着くまで二人は口を利かなかった。




           ―――――――――――――――――――――

「ゴールド・・シュミット…。なんでこんな時に…」

 なのはが通信を行った相手であるクロノはそう言って頭を抱え込んだ。空間モニターを通じてその様子がうかがい知れる。

「ゴールドシュミットってなに?」

 話している先には、クロノ以外にもフェイトやアルフ、エイミィがいた。その名が示すものを知らないフェイトが質問する。

「なのはは知ってるかい?」

「ゴメン、わかんない」

 クロノはため息を吐いた後、一息して説明し始めた。

「ゴールドシュミット、第97管理外世界発祥の管理世界最大の財閥、名門中の名門だ。奴らはトイレ掃除から軍隊まで持っていないものがないと言われる」

「アーネスト君もゴールドシュミットだよね」

 エイミィがクロノに尋ねた。

「ああ、彼はバカだからな。今頃、仕事サボって、どっかのリゾート地にでも居るだろう。問題は弟だ」

 レオポルドの兄、アーネスト・ゴールドシュミットはクロノとエイミィの士官学校の同期で、腐れ縁の友人だ。後先考えないアホで、勝手にやっては自爆するので、ロケット男と言われる。執務官になれたのは、ゴールドシュミットの看板があってこそで、本人もそれを恥だとは思っていない。

「アーネストの弟、レオポルド・ゴールドシュミット、若干10歳にしてミッドチルダ一の大学であるクラナガン大学入学。さらに飛び級をして、現在大学4年生の12歳だ。現在は大手投資銀行のゴールドシュミット・インベスターズの取締役をやっていると聞いた。アーネストによると、性格は相当ひどい奴らしい。なのは、どうだった?」

「う~ん、あんまり好きじゃないかもなの…」

 優しいなのはにわずかな間でこのように言われるとは、聞いた通りの人物なのかもしれない、とクロノは思った。

「フェイトに会いたがっているんだろ。君はいいかい?」

「私はいいよ。みんなに迷惑がかからないなら」

 フェイトは気持ちよく一つ返事で承諾してくれた。

「ありがとう。これであの人の面目も保てるよ…」

「どういうこと?」

 クロノの言った言葉がひっかかったエイミィはクロノに尋ねた。

「ああ、あの人―グレアム提督はイギリス出身だ。それは知ってるね?」

 皆がうなずいたのを確認してから続ける。

「ゴールドシュミット家の本業、当主のライオネル・ゴールドシュミット卿自身が率いる商業銀行で次元世界最大手のバンク・オブ・ゴールドシュミットの本社は、イギリスの首都ロンドンにある。財閥自体の本拠地はアイゼンバーグに移したが、ゴールドシュミットはイギリスで発展した一族だ。管理外世界出身で管理局の幹部になったとき、どこの派閥にも属せなかったグレアム提督を、同じイギリス出身ということでいろいろ支援してくれたらしいと聞いたことがある。あの人は退官後、BOGの名誉顧問になることが決まっている。それが反故になるのは防ぎたかった。もっとも、フェイトに強制もさせないが」

 長々と喋って喉が渇いたのか、テーブルの上の冷めたコーヒーを飲む。以上に苦いうえに不味い。

「なのは、彼をここへ連れて来てくれ」

 クロノはそう頼んだ。


――――――――――――――――


 高町家からほど近いマンションの一室、見渡す限りだと普通の家に見える。しかし、実態は、リンディ・ハラオウン提督が艦長を務める次元航行艦アースラが整備中のため、臨時の司令本部が設置されているかというと、第一級捜索指定ロストロギア『闇の書』の捜査及び対策のものだ。

 そんな非日常的なものとなった部屋では、テーブルを介して、三人の人物が向き合っている。その様子を後ろから心配そうに見つめるなのはやフェイト達もいた。フェイトのきれいな金髪と違い、気味悪いくらいくすんだ、黄土色のような金髪の少年がやって来てからというもの、ややこしい事情が付いてしまった部屋は沈黙に包まれている。それを破ったのは、黒い髪の少年の横に座る、この中では年長の様だが、はっきりした年齢の分からない女性だった。

「お久しぶりですね。ご用件はなんでしょう、ゴールドシュミット取締役?」

 女性―指令官のリンディ・ハラオウンが尋ねる。やって来た事情は知っているが、わざわざ聞いたのは社交辞令という物だ。相手は子供だが、油断ならないことを知っているリンディはそう言った点に気を使った。また、お久しぶりと言ったのは、一度だけあったことがあるからだ。ハラオウン家は、時空管理局の幹部を何人も輩出している名門の一つで、上流階級同士の付き合いがある。

 レオポルドは差し出されたお茶を少し飲んだ後に答えた。

「ええ。フェイト・テスタロッサさんの出来を・・・、失礼、少々興味がありましてね。クローン技術という物に。いやはや、素晴らしい、ここまでとは。普通の人間とまったく変わらない。中に機械が入っているわけでもない。技術基盤を築いたジェイル・スカリエッティ氏はまごうことなき天才だ」

 レオポルドはフェイトを、売り物でも見るような目で見た。一人の人間として見ていないのは確実だ。フェイトの使い魔であるアルフはレオポルドを睨みつけた。だが、レオポルドはそんなもの気にしていない。

「フェイトさんを差し出せ、とでもおっしゃりたいのですか? 残念ながら、それはできませんね」

「そうですか、非常に残念です」

 あっさりと身を引いた。フェイト以外にもいるだろう、それ以上に、リンディの横に座っているクロノの友人でもある、兄のアーネストが黙っていないだろうと考えたからだ。クローンの実用性もわかったし、さっさと帰ることにした。

 それにしても、報告によれば、高町なのはという少女は何の努力もせずに、わずか9歳にしてAAAランクの魔導師となったそうだ。見たところ、性格はお気楽そうだ。兄を見ているようで無性にフラストレーションがたまって行く。しかし、そんな素振りは一度も見せていない。


         ―――――――――――――――――――――――――


 アーネストは成田空港においてある自家用機に乗って、自宅のクラナガンに戻ることにした。その機内の中でとある人物と連絡を取った。しばらくしてモニターに映ったのは、年老いてなお威厳を感じさせる60歳くらいの白髪の男性だった。

「これはレオポルド様、何のご用でしょうか」

 モニター越しで老人は頭を下げた。翠屋で買ったコーヒー豆を挽いて作ったコーヒーをすすりながら、老人に語りかける。

「あなたのお弟子さんがロストロギアの捜索で困ってらっしゃると聞いたので。でしょう、グレアム提督?」

 普段飲んでいるコーヒーより格段においしい。冷めきった心を溶かしてくれるようだ。

「お耳がお早いことで。ええ、ですから1個中隊を送ることに決めました。多少の助けになるでしょう…」

「敵の『ヴォルケンリッター』なる集団の実力については報告を受けています。何でも、AA+からS-に渡る非常に強力な戦力だとか。部隊長レベルでAランクなのに小隊程度で勝算はあるのですか?」

 コーヒーカップを揺らしながらグレアムに尋ねる。グレアムが驚きと疑問の入り混じった表情でこちらを見る。

「確かにおっしゃられる通りですが、あなた様が我々の心配をなさるとは・・・。わかりました。1個大隊の派遣を要請します。ご意見ありがとうございます」

 通信を切った。はっきり言って、なのはたちやヴォルケンリッターがどうなろうが彼の知ったことではない。飽くまでデータが取りたいのだ。それがCW社の再建につながるはずだと彼はふんだ。ゴールドシュミット・インベスターズに借りた30億ドルをさっさと返さないといけないので、是が非でも張り切らないといけない。ちなみに、相打ちになって、どちらも消えてくれるのが彼の理想である。


       ―――――――――――――――――――――――――――

 自宅についてから、レオポルドはすぐにパーティー用の支度をした。こちらの世界はもうすぐ夕暮れ時だ。夕食は、陸上本部のレジアス・ゲイズ准将と会食することになっている。現在は陸上本部の防衛副長官を務めている。いずれは防衛長官になるだろうと言われている。

 レオポルドは、何となくだが、ゲイズに対して好印象を持っていた。ほとんど魔力を持っていないにも関わらず、魔法至上主義の管理局で、自らの頭脳と信念と人望だけでのし上がってきた男。魔法大好きな本局上層部での評判が悪いことも知っている。彼は、上着を羽織って外へと出て行った。



「初めまして、レジアス・ゲイズ准将。レオポルド・ゴールドシュミットです。私のような若輩との会談を持って下さり、非常に感服いたしております」

 クラナガン中央区画郊外の高級ホテル、その一室で面会している。天井につるされたシャンデリアや床にひかれた絨毯、椅子からテーブル、壁紙に至るまで最高級品が使われているのが分かる。テーブルを介して座っている大男―レジアス・ゲイズは、作り笑いでそれに応える。

「こちらこそ、レジアス・ゲイズです。かの大財閥の次期総帥にお会いできるなんて、こちらから申し込ませて頂いたのに、わざわざおいで頂き感謝しますぞ」

「ええ、そうだ。つまらないものですがお受け取りください」

 レオポルドはゲイズに、5本の剣が交わっている、ゴールドシュミット家の紋章が刻まれた箱を差し出した。それを見たゲイズは感激極まるといった表情で、

「これはこれは! シャトー・ムートン・ゴールドシュミット1961年じゃないですか! つまらないなんてとんでもない、酒飲みには素晴らしい贈り物です。ほんとに頂いてよろしいのですか?」

 レオポルドも微笑んでうなずいた。ゲイズは作り笑いではなく、本心から笑顔ができた。レオポルドにとって、この酒を手に入れることは容易い。なぜなら、ゴールドシュミット家自身が製作しているワインだから。ゲイズにとってはなかなか手に入りにくいものだった。純粋に出回っていないだけでなく、とにかく高い。管理局の幹部とはいえ、給料は高いとは言えない。本局のアホどもが全て持って行っているから。給料体系も本局と陸上本部ではまるで違う。

 ゲイズはボーイを呼んで、すぐにボトルを開けさせた。味も非常に満足しているようだ。その様子を見たレオポルドは、

「折り入って、准将閣下にお願いがございます。陸上部隊の武装の一部にCW社を採用なさってくださらないかと…」

「ふむ…、検討しておきますぞ」

 曖昧な返事だ。CW社の再建には巨大な顧客が必要だ。質は他メーカーに劣っているとは思わないが、経営悪化の影響で評判が悪いのだ。賄賂を渡すのもいいが、それはまた別の機会にする。

「採用して下さった暁には、ゴールドシュミット・インベスターズから地上本部への融資を検討させて頂きたいと思っています」

 ゲイズの目つきが変わる。大手投資銀行が自分たちに融資してくれると言っているからだ。格付け機関による陸上本部の債務格付はB3という、信用の度合いが低めなランクだ。22ランクある内の下から7番目、公機関なのにこの体たらく。おかげで、投資銀行どころか、商業銀行も融資してくれない。よって、公債の利率も上げざるを得ないので、借りては返すの連続。格付はどんどん下がる。まさに負の連鎖だ。ちなみに、本局の格付はAa1と、上から2番目だ。

「金利はいくらくらいですか?」

「本来、地上本部位の信用度だと70%ほどが妥当でしょうが、ゲイズ准将の将来性に期待して、5%ほどで構いませんよ。金額は1000億ミッドチルダドルほどですね。無論、CW社を採用してくださればの話ですが」

 ありえないくらい金利が低い。しかも貸付金額は1000億MC$という超高額と来た。これだけあれば、人員の流出も避けられるし、いい設備も整えられる。治安維持の予算も増やせる。

「さらに、CW社の本体であるゴールドシュミット・デュポンが現在設計中の大型魔道兵器『アインへリアル』が完成した際に、地上本部に格安で卸してくれるよう頼んでおきましょう。本局との交渉もお任せください」

 ゲイズはワイングラスをテーブルの上において、天井を仰いだ。豪奢なシャンデリアに加え、何やら絵が描かれている。そして、決断した。

「わかりました。必要な武装の受注を全てCW社さんにお願いしましょう」

「ありがとうございます」

 握手を交わした。その後は、管理局の今後の展望などを語り合うなど、なかなか有意義な時間を過ごした。

 会食を終え、ゲイズと別れた後、レオポルドはGI会長の露崎に連絡を取った。案の定、低金利で陸上本部に膨大な金額を融資すると言った際には、声を荒げて反対したが、エシュロンやインターナショナル・シグナル以外にもブラック企業の情報はいくつか握っているし、それをマスコミにばらすぞと脅したら、結局賛成した。CW社の再建は順調だ。






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