浜岡原発、労働者の使い捨てと安全教育について
先日、「原発ジプシー」というタイトルの文章を載せたところ、多くの人々からご意見を頂戴しました。その中には多少ピントはずれの意見もありましたし、ちょっと違うんじゃないだろうかと首を傾げるような意見も寄せられていました。あるいは、電力会社の方?と思いたくなるような意見も寄せられていました。しかし、たった2日間の間に多くの意見が寄せられたのは、私の書いた内容がショッキングであり、多くの人の心に響いたからだと理解しています。
そのすべてのご意見に目を通しました。寄せられた質問に対しては丁寧に答えようと考えていたのですが、やめにしました。そして少し横着かも知れませんが、このコーナーを借りていくつかの質問に答えることにします。最初に寄せられた意見ということもあり、私がもっともドキリとしたのはこれでした。「川上さまは非破壊検査の方の行動が危険行為であることを認識していながらなぜ告知しなかったのか?そちらの方が問題に思えますが。」確かに、私はなぜ彼に危険を教えなかったのだろうか。他の方が言われていた、「一介の労働者が現場でそんなこと言えるはずがない」という意見も一理あります。
この国道150線の左側に浜岡原発がある。正面に見えるのは原子力PR館。
あの「原発ジプシー」は、今年の9月26日に私のホームページに載せた文章を転載したのですが、そのまま載せたのではなく、長い文章だったのでかなり削っています。元々、あの部分の文章は、「マンホールに顔を近づけて説明してくれていた日本非破壊検査の社員さんの顔面には、目に見えない放射線がいっぱい突き刺さっていたに違いなかった。私よりもいくらか年上の人でしたが、もう生きていないのではないだろうかと、この文章を書きながら思ったものでした。炉心近くにいて装備をつけないのは我々の無知も原因しているのですが、放射線の恐ろしさを作業員に教えようとしない電力会社の姿勢も大いに問題があるのではないだろうか。」でした。
「炉心近くにいて装備をつけないのは我々の無知も原因しているのですが、放射線の恐ろしさを作業員に教えようとしない電力会社の姿勢も大いに問題があるのではないだろうか」の部分を削除して載せたのでした。いまと違って、あの当時の私たちは本当に無知でした。放射能は危険なものだと漠然と思うだけで、どのように危険なのかの知識が根本的に欠如していたのです。放射線を浴び続けることによって、ガンや白血病の発症率が高くなるなど思いもよらないことで、放射線は体に良くないという程度の認識しかなかったのです。
では何を恐れていたかと言えば、私を含めて多くの原発労働者は、高放射能を一度に多量に浴びることによって皮膚表面がケロイド状にただれること。そして、その先にある原爆被害者同様の死を恐れていたのです。最近では、低線量被ばくや内部被ばくの恐ろしさが盛んに叫ばれていますが、むしろその頃は低線量を浴びることは体にとって良いなどという、まったく根拠のない話が盛んに流布されていました。いまでもこの迷信的な、間違った話を信じている人がいるみたいです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は溶接工だったので、30代の頃10年間近く原発作業に従事していたのは、主にプラント建設や定検工事での配管の取替え作業でした。プラント建設と定検工事で各地を転々としていたのです。定検工事では放射線エリアである管理区域内での溶接作業が大半だったし、「原発ジプシー」で書いたように高放射能エリアにも入ることがあったので、原発労働者として「放射線管理手帳」を所持していました。だから、約30年前に私が九州の玄海原発で高放射能を浴びたことも、ちゃんと記録に残っています。もし、この「放射線管理手帳」を紛失することがあっても、すべての原発作業員の被ばく記録は、東京にある「財団法人、放射線影響協会」に保存されています。
あの時、私はわずか15秒のほどで180ミリレムという高放射能を浴びたのは間違いのない事実でした。それから、「川上さまの時代と今では放射線に対する取組みは向上していると思います。」と書かれていましたが、私自身はいまも昔も少しも変わっていないと思っています。いまだってそのような作業を押し付けられている労働者はいるはずだし、発電所が労働者に対する「使い捨て」という意識は少しも変わっていません。
あの伏魔殿では、内部告発がない限り明らかにされない不正はいっぱいあるし、それに定検時に、自分の命とも言えるアラームメーターを持たされずに高放射能エリアに入らされる派遣労働者がいるという話が、以前から浜岡原発では盛んに囁かれていました。では、管理区域内での所持を法律で厳命されているアラームメーターはどうしたかと言えば、作業員の体から外され、線量のない場所に保管されて体だけが高放射能エリアに入っていくのです。そうすれば、高線量作業だったという証拠は何も残らず、その作業員を何度でも同じ作業につけることができます。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は2003年8月から、御前崎市にある浜岡原子力発電所で働くようになりました。中電の社員であろうが、私のような下請け労働者であろうが、原子力発電所で働くにあたって必ず安全教育を受けることになっています。過去に何度となく受けた記憶があるのですが、浜岡原発でももちろん受講しました。この安全教育では、放射線が危険だとはいっさい教えてくれません。たとえ放射線を浴びる現場であっても、人体にまったく影響のない程度だから安心して働きなさいと教えてくれるだけです。
この教育は、午前中と午後の合わせて5時間、1日かけて行なわれます。話が退屈なので、コクリコクリとやっている人もいますが、問題なく教育は進められていきます。浜岡原発では中部電力の担当者が安全教育を行なうのですが、居眠りをする者に対する注意の言葉は決して飛んでくることはない。教育を行なったという事実が大事なのであって、受講者が聞こうが聞くまいが関係ないからです。それから、この教育では余計な言葉を挟むことを所属する下請け業者によって禁じられていた。だから、黙って聞くだけでした。
放射線の恐ろしさに関してはいっさい教えてくれなかったが、反対派の連中がいろいろ言っているが、あんなことは全部嘘なんだから聞いたらダメだという話は耳にたこができるくらい聞かされました。そして、「原発は絶対に安全なんだから!」という教育を繰り返し繰り返し受けて洗脳され、そして現場に入るようになるのだが、このような安全教育のあり方にも大いに問題があるようです。
30代の頃には10年間近く各地での原発労働に従事し、2003年8月10日から2008年9月6日までの5年間余り、浜岡原発で一労働者として働いていました。
現在は御前崎市に居住し、私の住居の1キロ南に浜岡原発があります。
メールアドレス、rbhrt048@ybb.ne.jp
【ご意見板】13 件の書き込みがあります
こんにちは
大学で原子力の利用を学んでいます。
低線量被ばくは、
健康に害はないという論説がある一方、
健康に害を及ばすという論説もありますよね。
原子力発電所ではたらく労働者の方は、
前者の説だけを一方向的に教育されているように思います。
どちらの意見も学び労働者の方自身が考えられるような場所を、
電力会社は用意するべきだろうと思います。
それが、事業者としての責任ではないでしょうか。
みなみさんへ。
低線量被曝については、放射線の量と被曝による人体への影響との関係に、明確なデータがとれないということもあり、一応大丈夫というか、グレーゾーンのような話になっていたと思います。
放射線に対する耐性も人によって少々異なっているようで、日ごろから少量の放射線を浴びたりして、耐性のある人の場合、耐性の小さい人と、一緒に同じ量の放射線を浴びたとしても、影響が小さいとか。
一般に、放射線によって遺伝子が傷ついたとしても、遺伝子は、修復する能力があるというし、傷ついた遺伝子の細胞の周りの細胞が、正常であれば、そのマイナス的要因をカバーする能力が、人体にはあると考えられています。また、遺伝子が修復されずに、がん化した細胞が発生したとしても、細胞自身が、アポトーシスを起こしたり、さらに人には免疫能力があることもあって、そう簡単には、がんにはならないという話です。(ただ、個人差はあると思います)
放射線被曝による人体への影響を考える上で、人体への影響が無いと思われるエリアが、あるのではないか?(または存在する)―と考えられている理由のようです。
ちなみに、遺伝子が傷ついたことからがんが発生するということは、最近の研究で、わかってきましたが、遺伝子を傷つける要因には、放射線だけではなく、ほかにもいろいろあり、低線量被曝の場合、高線量被曝と異なって、それが、放射線被曝によるものなのかどうかということが見分けにくいということも、あるかもしれません。
それから、これを書くのも、ちょっとまずいので、どうすべきか?っと迷いましたが、定期点検の際に、原子炉の下部にもぐりこんで、作業をされる方の被曝量について、聞いたことがありましたが、はっきりしませんでした。もし教えていただけるなら、ありがたいです。
以上、素人のコメントですが、よろしく。
すいません。上の2の書き込みの中、定期点検の際の、被曝量の話は、川上さんへの質問でした。
みなみよしたかさん
大学で原子力の勉強をされているのですね。
浜岡原発でも他の原子力発電所でも、投稿文に書いているように私が受講した限りにおいては、安全教育で原発は危険だという話はいっさい聞いたことがないので、前の説ということになりますね。
びんおじさんへ
「原発ジプシー」でも書き込みをしていただきましたね。ありがとうございます。
私は2008年の9月まで5年間余り、浜岡原発内の低放射線エリアで働いていました。
所属していた会社は浜岡営業所ではたったの13名だったのですが、この間に3名がガンを発症し手術しています。その1人は私でした。
原発内の被ばくは電力会社による不法行為であるにもかかわらず、下請け社員は、人間扱いされていないようですね。
中部電力社員というのは、高卒が多い。
42年間働き、60歳で定年退職である。
その後は3年から5年の関連会社への天下りである。
高卒としては最も恵まれた人たちである。
しかし、その背後には、使い捨てられる下請け社員の存在がある。
川上さま
記事の内容がもし本当なら明らかに労働基準法違反です。労着に告発することをお勧めします。
アラームメーターの話、事実とすれば大変問題ですが真実性に欠けます。
アラームメーターを置くという発覚すれば大問題になる危険性を冒さなければならない作業って何でしょうかね?
計画線量が超えそうな場合は交代要員を用意するのが通常ですし、
前記事中の検査装置のように本当に危険な場所で長時間の作業が必要な場合はロボットを投入しているではないですか。
私は全く想像できません。
現在のところ健康被害が認めれられる被爆量は年間150mSv以上です。
そもそもそ因果関係を調査する医療分野でも実効線量限度50mSv以上被爆している人が
毎年10人前後もいながら放置しています。
電力会社の安全教育で1年で実効線量限度50mSv以下の放射線被爆は問題ないと言うのは自然と思います。
安全教育中に居眠りするのは本人の問題でしょう。批判されるのは電力会社なのか?居眠りをする作業員なのか?答えは明らかでしょう。学校ではないのですよ。
13名中3名ガンになったとおっしゃられてますが、あなたを含めた3名はタバコや酒は全くしてない方ですか?
あなたがガンになったのはお気の毒とは思いますが、冷静な記事を書けている状態とは思えません。
鈴木浩さまへ
「原発ジプシー」の時から何度もご意見を寄せていただき感謝しています。
思うに、かなり偏った考えをしていらっしゃる。
安全教育の話ひとつとっても、居眠りの話だけ捉えて論じようとする姿勢に、どのような立場の方なのかなんとなくわかる気がします。
でも、たとえどのような立場の方であっても、これから先も私が訴え続けることに黙って耳を傾けていただけたなら、いくらか考え方も変わるかもしれませんね。それから小さな注文なのですが、もっと冷静に論じてください。大人の議論をしましょうよ。
川上様
東井怜様より頂き拝見致しましたが大変でしたね。
放射線に関しては私は以前一般廃棄物処分跡のガンマー線測定を行い国の基準付近を
測定し付近を調査したら医療廃棄物を発見しました、その後行政はうやむやにしています。
原発に関しては私は日本要員を育ての一号機建設に携わった方と知り合いで聞いて見たところ
当時今後の要員を育てる事が急務だつたとの事でしたが現在の点検漏れ等は
要員を育ててこなかった為との事でした。
要員について川上様の生の声お聞かせ頂ければ幸いです。
早々
日本地震学会 地質学会 正会員
大石貞男
大石貞男さまへ
よろしければ、こちらのアドレスへメールをいただけませんか。
rbhrt048@ybb.ne.jp
川上さま
それで私の立場が議論に必要ですかネ?
何かしらレッテルを貼って議論を止めようとするのはいつものことでもう慣れましたが現場を知っている方だっただけに残念です。
安全教育ですが東海村の臨界事故を教訓に作業の危険性を作業員にも教育するよう義務付けられいるので例えば○○以上被爆すると急性放射線障害で死亡するというような説明が必ずあるはずです。
ガンの話にしても、建設現場を渡り歩く作業員の生活習慣はいいとは決していえないと思います。
生活習慣病による癌の発生リスクについて何も書かずにいかにも放射線の影響に拠るような書き方をするのは感心しません。
繰り返しますが本当に電力会社に不正あるとおっしゃられるのなら労基に告発してください。
少なくともここで噂話を書くより進展があると思います。
【よけいなこと】
がんについて言及するならば、最近がんを告白する人が、非常に多くなり、2年前だったかか? がんセンターの市民公開講座で聞いた、男性で3人に1人が、女性で3人に1人ががんにかかる時代が近づいてきているという話が、本当にそうなったのかな?っと、思うように感じている今日この頃です。(そして、罹患者の3人に1人が、亡くなる時代とも…)
で、がんと放射線被曝の問題について言及するならば、高線量被曝については、確かに相関関係があるようですが、低線量被曝については、上の2でも書きましたが、人の放射線に対する耐性や、正常に戻ろうとする働き等によって、明確な相関関係が見られないということもあり、そこから、一応大丈夫であろうと考えられています。
なお、がんは、遺伝子が傷ついたところから、発生することがわかってきており、遺伝子を傷つける要因には、放射線(私たちが生活する上で、食物としてとりこむ同位体からのものや、周囲から受ける放射線も含む)以外にも、たばこ、飲酒、ウイルス感染(理論的にはインフルエンザに感染しても可能性はあるとか)―など、私たちの身の回りには、いっぱいあるといわれています。
ちなみに、歳をとってくると、異常細胞にアポトーシスを命令するスイッチが入りにくくなる傾向がでてくるそうで、ここから、がんを、老人病という人もいるようです。
どうも、長生きすれば、がんになることは、避けられないというのが、現実であるようです。
ところで話は変わりますが、放射能管理区域では、核物質を体内に取り込むことを防ぐ意味で、喫煙が禁止されていると思いましたが、浜岡原発では、そこらあたり、きちんと守られているでしょうか?(ちょと、気になったので…)
【訂正】
●上の11の書き込みの中、男性で3人に1人が、は、2人に1人の誤りでした。
●2年前だったかか?は、2年前だったか?―です。
びんおじさんへ
ガンについてかなり詳しいようですね。
それから、放射線管理区域では喫煙も飲食も禁じられています。
だから、管理区域に入る前に皆さん盛んにすぱすぱとやっています。
私はタバコを吸わないので、その必要はないのですが。