【東京】東京電力福島第1原子力発電所の事故に伴う損害賠償が膨大な額になると予想されるなか、誰がどの程度負担するかという問題について国内で新たに議論が巻き起こっている。
この問題では利害関係者らがお互いに対立する立場にある。東電の経営陣が同社の賠償負担の縮小を希望する一方、金融機関と投資家はそのバランスシートを守りたいと思っており、また政治家は増税と電気料金値上げの影響を受ける有権者の反応に憂慮している。さらに一部の政策立案者は、原発産業の維持コストとして、国内の電力関連会社11社にかなりの賠償額を負担させたい考えだ。この提案が浮上すると、電力株が一斉に下落した。
与党民主党の長島昭久衆議院議員は東電について、現在、国民の間で非常に評判が悪いと指摘しながらも、大き過ぎてつぶせないと語った。
東電は首都圏など日本経済の中心地域で独占的に電力供給を行っており、長島氏はそれを考えると、東電を破綻させることは実行可能な選択肢ではないとの見方を示した。
日本政府は、自宅から避難している住民と、放射性物質関連で営業被害を受けた農家に対する損害賠償について、その枠組みの案を週明けにも公表する。多くの被害者は現金の即時支給を求めている。
日本の報道機関によると、この枠組みでは新機構が設立される。新機構は東電の優先株引き受けや融資で同社の賠償支払いを支援し、公的資金、銀行融資、他の電力会社からの拠出金が同機構の財源となる。また、東電がその膨大な資産(その大半は不動産と保有株式)を売却して賠償資金を捻出するとの報道もある。
福島第1原発では今でも深刻な状況が続いており、そこから生じるコストは日ごとに膨らんでいる。最終的なコストがどのくらいになるかは全く分からない。東電の賠償負担は数兆円に達する可能性が高い。さらにアナリストの話では、賠償とは別に、原子炉の廃炉費用が60億ドル(約4800億円)に上る可能性もあるという。
東電は莫大な資産を保有している。同社は日本の電力需要の3分の1を供給しており、2010年3月期決算では、連結で売り上げが5兆163億円、純利益は1340億円だった。また、同期末時点での連結総資産は13兆2039億円だった。
しかし、原発危機に関連した賠償金とその他費用を計上した後には大幅な債務超過に陥るであろうと、アナリストらは考えている。東電の勝俣恒久会長は3月の記者会見上で資金不足になることを認めている。
納税者が負担を求められるのは必至というのが政策立案者とアナリストの見方だ。しかし、チェルノブイリ以降では最悪となった今回の原発事故をめぐり、東電と政府に対して国民から怒りの声が高まっているだけに、納税者を説得することには限界があると見られる。その上、国と地方の長期債務は国内総生産(GDP)の200%と、先進国の中では最大の水準であり、国がさらに支出を増やすことにも限界がある。米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は先週、日本の長期国債格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更した。東電で生じる費用を国がカバーする必要が出てくる可能性があるというのが、変更理由の一つだった。
枝野幸男官房長官は東電への免責適用を否定している。
東電は先週、役員報酬の半減と来春の新卒採用の見送りを含む費用削減措置を発表。これにより、540億円が節約されることになる。
東電株は国内外の機関投資家や60万人の個人投資家によって保有されている。同社の株価は既に80%下落。日本経済新聞の報道によると、東電の株主である生保や銀行12社は2011年3月期の決算で、東電株の値下がりによる損失を計上するという。計上される減損処理の損失額は全社合わせて50億ドル(約4000億円)になるもようだ。
主要銀行は3月、東電に対して同社の運転資金用に2兆円の融資を行ったが、現在、政府に対して融資費用の一部を負担するよう働きかけている。
一方、一部議員の間では、東電の賠償負担の軽減に同調する動きがある。そのような議員の選挙区では原発受け入れによって政府から補助金を得ているというケースが多い。さらに、電力会社の労働組合から支持を受けている議員も賠償軽減に前向きである場合がある。