東日本大震災は国民全員にとって人ごとではありません。震災や噴火など日本中のどこも不安を抱えているからです。だからこそ、義援金やボランティアに頼るだけでなく、全員で助け合う制度を確立しておけば、大きな安心になります。
具体的には、災害時に被災規模に応じて自動的に発動する「復興支援税」制度を提案します。阪神大震災を基に試算すると、今回必要な国費は総額15兆円と見込まれます。消費税なら1~1・5%5年間引き上げれば確保できます。
税収は義援金とともに独立した会計で管理し、歳出はすべて開示し、透明性を徹底します。復興プランの策定や、各省・自治体間の政策調整には時限的に設立した組織があたります。復興には迅速な対応が重要で、当初の予算確保に手間取れば、費用が膨らみます。財源が確保されていれば、政府も迅速で思い切った対応ができます。これこそが、自然災害の多い日本でもっとも基本的な安全保障制度だと思います。
増税について「震災で経済が悪化しているのに、ますます景気が悪くなる」との批判がありますが、間違いです。被災地では家や車、家財道具が失われ、大量の需要があります。税金を被災者への給付や復興事業に回せば、モノをどんどん買いますから、所得として納税者に戻ってきます。私の試算では、15兆円の財政支出で200万人の雇用が生まれる。景気はむしろ良くなるのです。
返済を将来に回す国債発行より、増税すべき第一の理由は、復興に使われることが明確だからです。国債だと、将来返済のため増税が必要になった際、他の借金に紛れることで増税の目的がわからなくなります。第二の理由は、経済不安の高まる時期に大量増発すれば、国債の信用が失われる危険が高まるからです。金融危機が起これば元も子もありません。国債発行が許されるとしたら、復興支援税ですぐに返済することが明らかな場合だけです。
民間の取り組みとして提案したいのが東北の産品を買う「バイ東北」運動です。被災地に雇用と所得をもたらし、新たな需要を生んで経済全体を活性化させます。東北旅行に出かけ、東北産品を買うことこそが、私たちができる最大の支援だと思います。【聞き手・坂井隆之】
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■人物略歴
東大大学院修了。大阪大社会経済研究所長を経て、10年10月から現職。菅直人首相と10年来の親交があり、経済政策ブレーンとして知られる。60歳。
毎日新聞 2011年5月9日 東京朝刊