毎朝8時になると、小泉浜の避難所には地域住民が集まり、避難所運営を任されている気仙沼中央公民館副館長の及川正男氏のもと、全体ミーティングが行われる。ここに、川上氏以下、はまセンのボランティアも参加する。住民からニーズを募るが、それに終わらない。「今日は○○さんのお宅付近、5世帯分の土地を徹底して片付けます。まだボランティアに入ってほしくない方がいらしたら手を上げてください」
ニーズを待つのではなく作る。この手法で次々と仕事を増やした。いまのところ、拒否した住民はゼロ。川上氏は言う。「この地域の方は奥ゆかしいというか、頼みたくてもなかなか言ってくれない。1戸1戸のニーズを待っていたら、とても間に合わない。まとまった面でやらないと」
■被災者との信頼関係が新たなニーズを呼ぶ
作業が進むと手つかずだった被災地が、目に見えてきれいになっていく。それを見た住民が感嘆の声をあげる。5月6日、2カ月近く手つかずだった自宅付近のガレキの撤去作業に立ち会っていた佐藤ときよさん(48)は、ボランティアたちを見つめながらこう言った。
「市の対応を待っていたらいつになるか分からない。早めにやっていただいて、本当にありがたいです。しかも、いつか重機で一気にやられてしまうのかなと思っていたら、1つひとつ手で拾って、こんなに丁寧にやっていただいてね」
おばあさんが行方不明で自衛隊員の夫はほとんど帰ってこず、知的障害を抱える息子の世話をしながら親せきの家に身を寄せている。一度、跡形もなく流された家の周辺で思い出の品を探そうと出向いたが、ガラスの破片で額を切ってしまい、以来、入っていなかった。だがこの日、ボランティアがガレキを仕分けている最中に、自宅があった場所から数十メートル先で、土地の権利書や実印、思い出の品などを見つけてくれた。「特に子どもの小さいころの写真やお絵かき帳は本当にうれしい。全部、流されたと思って諦めていたから」
デジタルカメラの写真を見せながら、「すごいでしょー。釘の1本1本まで、ちゃんと綺麗に仕分けてくれるんだからねー。ほら、このお宅だって、こんなに綺麗になったんだよ」と相好を崩すのは、避難所を管理する及川氏。こうした仕事がボランティアと被災者の信頼関係を強固にし、「ここもお願い」「うちもやって」と新たなニーズが生まれていると言う。信頼関係は、共生にもつながっている。
「ここでは被災者の方のご厚意で、ガレキを運ぶトラックを貸してもらったり、ボランティアの分まで食事を用意してもらったりしている。ほかでは考えられない」。はまセンに長期滞在する拓殖大学2年生の成岡義斗氏(19)はこう驚きを隠さない。炊き出しは地元の主婦などが交代であたり、ボランティアも手伝う。配給のほか、地元の人やボランティアが持ち寄った食材を集め、避難所で暮らす料理長の三浦和宏氏(34)が、被災者とボランティア全員分の効率的なメニューを考えている。
■社協と勝手ボラセン、連携できず
自らニーズを作る積極姿勢と、被災者との信頼関係の両輪がうまく回り、活気づくはまセン。その拠点が注目されることのない小さな集落であるだけに、社協の災害ボラセンとのコントラストが際立つ。ただ、社協は市町村内すべてに気配りをしなければならず、1つの避難所だけを見ればいいというわけにはいかない。であれば、はまセンのような勝手ボラセンと連携して、より多数のボランティアを活用できればいいのだが、前途は多難だ。
「同じ気仙沼でもこっちはボランティアの募集を続けていたので、その旨だけはちゃんと告知してほしいと連休前に申し入れたが、ホームページに掲載されたのは5月1日の夕方。できればこの連休中に地区のすべてのガレキを撤去したいくらいだったのに、叶わない」
川上氏はこう漏らす。はまセンは、避難所の裏山にボランティアのためのテント村を用意し、ガレキの山を清掃して広大な駐車場もこしらえた。ブログには渋滞迂回(うかい)の道案内まで載せ、自家用車がない場合は気仙沼市中心部などからの送迎も行うとしている。
しかし、そうした情報は気仙沼の災害ボラセンのホームページにはなく、「運営主体が異なるため、直接お問い合わせください」と、はまセンのブログへのリンクが張られているだけ。はまセンは社協に余剰ボランティアの派遣要請もしているが、連休中に1度だけ、東京都社協のボランティアツアー参加者が気仙沼の災害ボラセン経由でやって来たのみだ。前出の湊小ボラセンも石巻の災害ボラセンからボランティアが派遣された実績はなく、ホームページには情報の掲示すらない。
各地の社協をとりまとめる全国社会福祉協議会の関係者は「社協として勝手ボラセンの活動内容や安全の確保に責任を持つことはできず、安易に派遣することはできない」と説明する。しかし、気仙沼の災害ボラセンをよく知る関係者はこう話す。「気仙沼市の社協はどうも、はまセンのことをよく思っていないよう。ボランティア保険も、気仙沼市社協のボラセンだと無料で加入できるのに、はまセンで受け付けると自己負担。同じ気仙沼市民への活動なのに、区別されている」
■各自が役立てる場所を見つける努力を
川上氏は言う。「被災地支援ではよく縄張り争いが起きるけれど、うちは来る者拒まず。ぼくもいずれは地元に帰らなければならないし、ほかの団体がはまセンを引き継いでくれるというならウェルカムです」。これに対し、気仙沼市社協は「要請があって、具体的な話があれば応じる検討をするけれども、いまのところ引き継ぐ予定はない」としている。
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