きょうの社説 2011年5月9日

◎八田公園オープン 「近くて近い」関係さらに
 「この公園が中華民国(台湾)と日本の新たな歴史の始まりとなることを望む。われわ れは台湾に貢献した人に感謝すべきだ」。八田與一技師の業績をたたえる記念公園の開園式典で、馬英九総統が語った言葉を、石川県からの参加者は、胸を熱くする思いで聞いたことだろう。

 日本の敗戦から2年後、八田技師を慕う地元水利会の人々が時の国民党政府の目を盗ん で命日の5月8日に始めた墓前祭に、石川県からも墓参団が加わるようになり、年を追うごとに盛大になった。記念公園の完成は、八田技師の地元と技師が設計した烏山頭(うさんとう)ダムのある嘉南地域の人々との息の長い地道な交流がはぐくんだ一つの奇跡といえる。

 国際交流が大きな花を咲かせ、実を結ぶ例は意外に少ない。特に「近くて遠い」と形容 されることの多い「隣国」との関係で、台湾との交流は唯一といってよいほどうまくいっている。台湾の人々が提供してくれた東日本大震災の義援金は、各国・地域の中でトップラスの約163億円に上り、「まさかの友は真の友」の言葉にふさわしい。北陸から台湾へ、台湾から北陸への相互訪問や人事交流を重ねるなかで、このまさに理想的な「近くて近い」関係をさらに深めていきたい。

 式典には、金沢経済同友会、八田技師夫妻を慕い台湾と友好の会、石川県日華親善協会 、金沢市、旧第一高女同窓会「済美会」、同市田上公民館などの各訪問団のほか、埼玉、静岡県からの参加もあった。馬総統の招請を受けて参加した金沢経済同友会の飛田秀一代表幹事は馬総統と会見し、台北・故宮博物院収蔵品の金沢での展覧会開催に期待を寄せた。馬総統の後押しで開催が実現すれば、長年築いてきた「民間外交」のさらなる成果となろう。

 八田技師が工事中に使った宿舎4棟を復元した記念公園は、日本統治時代をしのぶ場所 である。復元宿舎に置かれた戦前の家具類は本紙の呼び掛けで、石川県内などから集めたものだけに、喜びもひとしおである。台湾の日本語世代が語り継いできた八田技師への感謝の念を若い世代につなげていく拠点となるよう期待したい。

◎既卒者「新卒」扱い 機会与えるのも社会貢献
 北陸の企業に、大学などを卒業してから3年以内の既卒者を「新卒」扱いで採用する動 きが広がってきたことを歓迎したい。北國新聞社が先ごろ、主要206社を対象に実施したアンケートでは、8・3%が「来春から対応」、29・1%が「対応を検討中」と答え、対応済みの企業と合わせると6割を超えた。多くの若者に社会人としてのスタートラインに立つ機会を与えるよう努めることは、企業にできる最も大きな社会貢献の一つといえる。

 日本では長く、「新卒であること」を採用条件とする慣行が定着してきた。チャンスを 逃した既卒者は、その後の就職活動で著しく不利な立場に置かれるケースが多く、「新卒と既卒者は天国と地獄ほど違う」と表現する大学関係者もいる。このため、最近は、内定を得られなかったとして、本意でない進学を選択したり、意図的に留年して、次の春の新卒として就職を目指したりする学生が少なくない。

 少子高齢化に伴い、労働人口が減少傾向をたどることが確実視されるなか、若者の意欲 をそぎかねない慣行をいつまでも維持することは、この地域全体にもマイナスだろう。アンケートで「対応を検討中」とした企業の背中を押し、新卒にこだわっている企業の意識も変えていくため、労働局や県など関係機関には、さらなる取り組みを望みたい。

 もちろん、既卒者に門戸を開くことをうたう企業が増えても、選考過程に実質的な障壁 が残ってはあまり意味がない。企業が新卒と同じ物差しを適用しているか、チェックする必要もあろう。

 アンケートでは、経済団体などが企業に要請している就職活動の短縮についても、「賛 同する」という意見が半数近くに達した。学生が本分である学業の時間を削って、就職活動に労力を傾けざるを得ない現状は、学生にとっては不幸なことであり、それを放置すれば、優秀な人材を一人でも多く確保したい企業も、長い目で見れば損をするはずである。賛同の姿勢を、言葉だけでなく行動でも示してもらいたい。