2011年3月16日 20時14分 更新:3月17日 0時3分
東日本大震災の影響で、ガソリンやコメなどの品不足が深刻化している。いずれも国内備蓄は潤沢だが、高速道路など物流網に大きな被害が出たことや不安心理にかられた「買いだめ」で品薄感に拍車がかかっている。被災地への供給に悪影響が出かねないことから、政府は「被災地以外の皆さんは買い占めに走らないようお願いしたい」(枝野幸男官房長官)と呼びかけているほか、石油備蓄の市場への放出を企業に要請、供給不安解消を急いでいる。【行友弥、三沢耕平、永井大介、浜中慎哉】
ガソリン不足の直接の引き金は被災による製油所の火災や操業停止。JX日鉱日石エネルギーの仙台製油所(仙台市)やコスモ石油千葉製油所(千葉県市原市)、東燃ゼネラル石油川崎工場(川崎市)の一部など6製油所が操業停止に追い込まれ、国内の原油処理能力(約450万バレル)の3割にあたる日量約100万バレル超の処理能力が一時的に失われた。
被災地のガソリンスタンドには長蛇の列ができており、宮城県によれば「ほとんどの店に在庫がない状態」という。仙台市内ではガソリンは1台あたり2000円分、灯油は1000円分などの給油制限も始まった。だが、給油が優先される緊急車両が全国から集まっていることもあり、当分、ガソリン不足は解消されそうにない。
岩手県では16日から1回のガソリン給油量を10リットルに制限するよう県石油商業協同組合を通じてガソリンスタンドに徹底を求めた。
被災地は港湾施設や貯蔵所が被災。物流網の停滞で、品不足が顕著だ。石油元売り各社は輸送ルート確保のため秋田、山形などの日本海側から被災地への出荷を進めている。JXは北海道室蘭市の製油所から秋田、山形、青森の港へいったん輸送して陸路で送っているほか、出光興産も北海道苫小牧市の製油所から海路と陸路を活用して出荷を進めている。
首都圏でも消費者の買いだめなどにより、品不足が目立つ。東京都中央区のエネオス店の店長(36)は「買いだめしようとする客が多く、タンクを持ってきて『これにガソリンを入れてほしい』と求める人もいる」と話す。同店で給油をしていた男性会社員(43)は「どこも販売制限しているが、10リットルじゃ不安なのでガソリンスタンドを回る人も多い」という。
ただ、石油備蓄は民間分だけで3578万キロリットルあり、現在と同様の生活が85日間できる計算。政府は3日分(126万キロリットル)の備蓄取り崩しを企業に求め、この供給が14日始まった。また、操業を停止していた首都圏最大級の東燃ゼネラル石油川崎工場、JX根岸製油所(横浜市)、極東石油工業(市原市)が来週までに操業を再開する見通しで、被災による操業停止分の4割が復旧する。さらに出光興産は17日から壊滅的な打撃を受けた石油製品の貯蔵所である「油槽所」のうち、宮城県塩釜市の拠点を再開する方針で、明るい兆しも出ている。安定供給には「途絶した物流網がどの程度復活するか」(資源エネルギー庁)がカギを握っている。
鹿野道彦農相は16日、東日本大震災の影響で不足感が出ているコメについて文書で「在庫は十分あり、円滑な供給に努めたい」として、消費者に冷静に対応するよう訴えた。
被災地への供給がほぼ途絶していることや首都圏のスーパーやコンビニで発生している品薄は震災後の道路の寸断やトラックなどの燃料不足による物流網の混乱が原因として、買いだめなどを控えるよう呼びかけている。
農林水産省によると、10年7月~11年6月に見込まれるコメの総供給量は1013万トン。需要予測の811万トンを差し引くと、今年6月末の民間コメ在庫は202万トンとなる見通し。政府備蓄米の92万トンを加えれば、7月以降も4カ月分の需要量に相当する供給余力があり、今秋の収穫期まで十分な量を確保できる。同省は「当面、備蓄米の放出は想定していない」としている。
ただ、昨年収穫されたコメの多くはまだ産地で保管されており、震災の影響で出荷が滞る事態も生じている。茨城ひたち農協の佐川克弘常務理事は「昨年産米はまだ半分程度が未出荷だが、燃料不足などで搬出が難しい状況。出荷できるものも地元の病院などへの提供を優先せざるを得ない」と話している。
また、被災地では今春の作付けができなくなる農家や農地が多いとみられ、農水省は来年にかけて備蓄米の放出や生産調整(減反)の緩和などの対応を迫られる可能性もある。