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[27623] 【ネタ・十二国記】王「あたしが産まれた時にどうして来ないの!」麒麟「おk」
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/06 20:52
次から次へとすみません。近日、二つほど最終回させます><





『チート、チート♪ 勇者、勇者♪ 旅に出るのはやっぱり十代じゃろう。十六歳にセットしておくかの♪』

 俺は死んだ。その後、大きな手に引っ掴まって、気がつけば檻の中に放り込まれていた。
 目の前では、俺をひっ捕まえた爺が凄く楽しそうに何を俺に授けるか悩んでいる。

「お手柔らかにお願いします……」

 チートは嬉しいが、勇者とか何させられるかわからない。爺は俺の言う事などどこ吹く風で、何か光り輝く物を楽しげに吟味し、あれもこれもと俺の中に放り投げた。

『やはり、多少は苦労した方が良かろう、こんなものか? いやまて、これも必要ではないか?』

 うええ。戦闘技能とか脳内パソコンとかあるぞ。こんだけ強化されて、それでも苦労するどんな事をさせられるんだよ。多少の苦労って言っても、これだけ異質な存在の言う多少だから、さっぱりわからない。
 神は、新しい何かを俺につけたすかどうか悩んでいる。
 その時、俺はどんぶらこっこと巨大な木の実が俺に近付いている事に気付いた。

「おいっいやあの、助けて! 危ない! ぶつかる!」

 必死に訴える俺。だが、爺は気付かない。木の実は、檻を突き破って俺に衝突し、押しつぶした。それだけでなく、触れた所からどんどん浸食してくる。
 そこで、ようやく神は気付いた。

『ん? なんだこの木の実は。勇者を押しつぶすでないぞ。元ある所へ、戻りなさい』

 爺がそう優しげに話しかけ、力を放つ。実はふわりと浮かんだ。俺を食らいながら。

『おおっ!? 待つんじゃ! 勇者! 勇者―!』

「あー」

 誰か助けてー。色々な物から俺を助けてー。
 って事で転生した。
 最初、状況がつかめず、訳がわからなかったが、化け物と判断されて捨てられるなんてごめんだ。俺は、子供らしい姿を演じ、それは成功し続けた……と思う。
 まだようやく目や耳が聞こえるようになって、頭が多少は働くようになってきたばかりだから、わからねーんだ。
 産まれた直後、長い間寒い所で食べ物も与えられずに運ばれて、焦ったがな。
 熱を出して死に掛けたが、どうやらチートのお陰で生き残った。
 察するに、ここはあまり文明が進んでいない未開の地の、偉い人の元に産まれたらしい。
わかるのはそれだけだ。でもなぜか、言葉は日本語。服は中国。意味わからん。
爺の用意した世界なのか? 俺はあれから爺に回収されたのか? わからない。
問題は、どう動くかだった。子育てなんてした事無いから、発育の加減がわからなくて困る。いつ言葉の練習を始めていいのかわからないのだ。化け物って言われたら困るし、偉い人の子供だからって事で、夜まで見張りがついてる。魔物っぽいのまでいて、怖いんですけど。俺、将来あんなのと戦うの? 凄く嫌なんですが。
一六歳になるまで、鍛えたい気もする。けれど、化け物と恐れられるのも怖い。
とりあえず、五歳まで様子見しよう。何せ、まだまだ体は未発達で、出来ない事が多すぎるのだから。赤ちゃんの真似しんどいです……。
教育も教育で、ちょっと異様で、俺の生存本能が、馬鹿な振りをしろと警告している。

「主上、今日のご機嫌はいかがですか。今日は生後一歳のお誕生日です。おめでとうございます。さあ、今日も言葉の練習を致しましょう。ゆ・る・す。許すです」

「うー?」

 なんなの? と心で喋りながら返答する。
 俊麒だ。一番よく様子を見に来てくれる。そして執拗なまでに許すと言わせようとしている。俺の生存本能が、言ったら終わりだ! と叫んでいるので、俺は「あー」か「うー」以外の言葉を喋った事が無い。だが、油断はできない。奴らは、言葉を発した時に限り、ぼんやりと心を読めるらしいからだ。
 
「まだ、難しいですか……。早い者は一歳ほどで喋るというから、期待していたのですが。そうだ、今日は新しい玩具をご用意いたしました」

 そして、俺の前に新しい判子が用意される。
 こいつらは、子供の俺に判子押しごっこを強要する。
 その判子を押させる場所なんだが、どうみても書類です。本当にありがとうございました。
 どうやら、俺はよっぽどよっぽど尊い血筋で、一刻も早く判子押しさせたいらしい。
 もはや、読めるかどうかなんて関係ないっぽい。そして、他の玩具は筆。教えられるのは名前だけ。他の玩具は一切ない。ちなみに、文字を見たら日本語じゃなかった。中国語か。漢字が多くて俺的覚えにくそうな言語ナンバーワンの中国語か。
 つーか、傀儡政治ってレベルじゃねーぞ!

「あー」

 俺は判子を持たせられて、おしゃぶりのようにしゃぶる。
 俺、わかってませんよー! 使い方なんてわかってませんよー!
 そうこうしている間に、偉そうな官達が来た。

「見るたびに絶望しますな……。英正様を越す王の素質を持つ者はまだ現れないのか……。いや、英正様以下で良い。王の基準を満たす者は……」

「残念ながら、未だ王気は主上にあります」

 王の資質? ああ、俺、神様に色々与えられたもんな……。資質ってだけなら、俺に並ぶ者はいないだろう。資質だけならな!
 脳内パソコンは貰ったけど、頭を良くしてもらったわけじゃない。統治なんてできねーぞ、おい。
 さすがに誕生日だからか、次々と人がやって来た。

「ああ、何度見ても……これが次の王など……」

 悪かったな。

「玉璽を使えるようになるのはいつなのですか」

 阿呆言うな。

「成人するまで待つべきでは」

 そうそう、まともな意見だ。

「馬鹿な。舜にはそんな時間など存在しない!」

 何でですか? 理由を説明して欲しい。切実に。

「蓬山まで、もう一度相談に行こうと思っています。そろそろ登極の時期を考えないとなりませんし、一度西王母様と玉葉様に顔を見せるように言われてますので」

「蓬山まで持つのですか? この距離は幼子にはきついですよ」

「十分に気をつけていきます」

 蓬山とか、登極とか、どこかで聞いた事があるんだが……。
 んー。
 どういう文化なんだ、この国は。今一王のシステムがわからない。
 説明を要求する―! なんて言った途端、玉座に据えられそうだから言わないけど。
 説明を要求する―!



[27623] 二話 \(^o^)/
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/06 22:02
今話の粗筋

蓬山に行ったよ→一時的に仙になったよ→六太と尚隆に会って、ここが十二国世界だと理解。状況を整理したよ! 

判明した事

救済措置「英正様が王としての執務を出来るようになるまでに、最低限の王としての基準を超える者が現れた場合、その方に王気が移動する」

先代の麒麟は王を見つけられずに死んでいる。

舜麒は馬鹿。

以上です。十二国記を知っている方は上だけ読んで頂ければ、下は読まなくても問題ないです。
説明ばかりの話で申し訳ありません。

























 俺は、大切に抱っこされて、寒い外を運ばれた。具体的に一週間ほど。死ね。俊麒マジ死ね。当然風邪引いた。死に掛けた。今悟った。俺が産まれたばかりの頃に殺しかけたのてめーだろ。大体なー! 俺はまだ離乳食も上手く食べれねーんだよ! 乳寄こせ、乳!

「まあ……これが俊王」

「話には聞いていましたが、なんと幼けない……」

「まあ、酷い熱!」

「このままでは死んでしまいます。俊麒、何故一時的に仙にして来なかったのです。誰か、薬湯を!」

「いえ、それより玉葉様におすがりして、仙にして頂いた方が良いのでは」

 そう言って、女の人達が騒いでいるのを感じる。見えるじゃなくて感じる。
 何故なら、俺はぐったりしてて目も開けられないから。
 しばらくして、俺の体は楽になった。俺を女の人が抱っこしていた。
 
「俊王様、玉葉でございます。……本当に幼けない事。ご加減の具合はいかがですか?」

「あー」

 だるい。
 玉葉は俺に湯を飲ませてくれた。体が温まり、ほっとする。

「大変でございましたね。もう大丈夫です。ご安心ください」

「なあ、こいつが赤ん坊で王になったって奴か? 俺、六太っていうんだ。よろしくな」

 金髪の子供が、俺に駆けよった。
 なんだろう。俺の背筋をぞっとしたものが走った。金髪で六太って、聞いたことある。
 俺はじっと六太を見る。
 少年の後ろから、美丈夫の青年がゆったりと歩いてきた。

「これが、間違いなく歴史上最年少の王か。俺は尚隆だ。わかるか? な・お・た・か」
 
 よし、今完全に理解した。 俺死んだ。 十二国記の世界かよ、ここ! ありえねーよ。俺が王(笑)。それなんてオリ主? いや、神様にチート能力つけられた時点でオリ主なんだろうけどさ。チートで勇者はともかく、王様はオリ主(笑)と言わざるを得ない。何故なら、とりあえず敵を倒せばいいっぽい勇者はチート能力山ほどつけてもらえば出来るかもしれないが、王様はどうやっても確実に無理だからだ! 赤ちゃんに統治とか無理! 俺が爺になってから来られても無理だってのに!
 ああもう、とりあえず大国の王に媚び売っとけ。
 俺はきゃっきゃと笑って見せる。この時、状況を全く理解していない様に見せかけるのがポイント。

「ははは、そうか。俺が気にいったか。で、喋ったり歩いたりは出来るのか?」

「まだ無理です。それでも、初めの頃よりは成長しました。王気を感じ、駆けつけた時にはまだ卵果でしたから、あの時は途方にくれました……」

 お前は黙れ、舜麒。慈悲の生き物なんて大ウソだ。つーか、卵果ならなあ。卵果ならなあ。卵果の内に王宮に運んでおくものなんだよ! なんでわざわざ産まれてすぐなんて一番弱い時期を選んで運ぶ? この無能! 景麒! そりゃ死に掛けるだろ!

「そっかぁ……こりゃ、今はまだ契約は無理かぁ」

 今じゃなくても無理だっつの。

「しかし、王の選定基準が気になるな。今回の事はあまりといえばあまりだ。一応、救済措置はあるのだったか」

 それに、俺は耳を澄ませた。それは俺もぜひ聞きたい。

「はい、今回のみ特別という事で。英正様が王としての執務を出来るようになるまでに、最低限の王としての基準を超える者が現れた場合、その方に王気が移動すると」

「先代の麒麟は王を見つけられずに亡くなっているからな……。そうか、王気を持つ者がそもそもいないという時があるというわけか。……それは、いかにも厳しい」

 ええええええ。いや、でもそんなルールでもなきゃ、俺は殺されているな。
 とにかく、どういう事か考えないと。
 ここは、十二国記の世界。状況から言って、それは間違いない。
 六太、尚隆はこの世界の王と麒麟。
 十二国記というのは、十二の国を持つ異世界の事。よし、覚えてる覚えてる。
 そして、この国には仙人や王という不老の存在がいる。
 賢王の独裁政治は、素晴らしい結果をもたらす。しかし、その子もまた優秀かどうかはわからない。だから、賢王の素質ある物を王に選び、王や官吏に永遠の寿命を与え、治世を行わせる。これが王のシステム。
 王の選定は麒麟が行い、麒麟と契約した段階で王は不老となる。ここ重要。供王という女王がいる。彼女は、十二歳で王へと選ばれた。これを登極という。それから九十年経っても、彼女は十二歳のまま。大人になったら成長が止まるなんて都合の良い事はないのだ!
 俺が麒麟と契約を結ぶ……俊麒の誓いの言葉に許すと答えたら、その途端俺は一歳で成長が止まる。
 そして、ある意味、王は王に選ばれた時点で死んで天に生かされる事になる。
 王を辞めた途端に死ぬのだ。これを禅譲という。
 では、王を続ければ死なずに済むのか? 甘い。
 選んだ王が道を外れれば、麒麟は失道という病気に掛かる。麒麟が死ねば、王も死ぬ。
 そうして蓬山に次の麒麟が生り、次の王を選ぶ準備に入るのだ。
 それに、当然殺されれば死ぬ。
 王が死ぬのは、反乱か、失道か、禅譲かしかなく、王になったら子供も出来ない。
 ああ、そうだ。天が定めた規則を破れば、麒麟諸共酷い死に方をするのも注意せねばならない。
 今、麒麟が生ると言ったが、この世界では人は木に生る。これを卵果という。
 親にしかもげない不思議な実で、それを開けると赤ちゃんが出てくるのだ。他に、動植物も皆木になる。
 ただし、卵果が親にもがれない時がある。それは、蝕が起きた時。これは不思議な嵐で、時空の歪みみたいなものだ。湖が無くなったり、何もない所が山になったり、津波になったり、そんな恐ろしい災害だ。これが来ると、蝕に卵果がもがれてしまう事がある。それが現代に運ばれ、女の腹に宿る事を胎果という。ちなみに、現代には卵果の形で行くか、位の高い仙人が人工的に蝕を起こして行くしかない。人は通れないのだ。
 ちなみに、蝕と災害はセットだ。麒麟位ならまだいいが、王が通れば大災害が起きる。
 その代り、現代からは時空の穴に落ちたような感じで、唐突に人が来る事がある。これも蝕の影響で、海客、山客という。大抵海や山に落ちてくるから。
 なんて言うのかな。気体の中に物質を放りこんでも問題ないけど、物質の山に気体を放りこんでも見えるわけがない……と言ったらいいのだろうか。
 相当位の高い仙人、どころか麒麟や王でも、自分の存在が不確定になってしまう。
 十二国世界から現代に来て平気なのは、現代の皮を得た胎果しかいない。
 ちなみに胎果が十二国世界に行けば、本来の姿に戻る。皮がひっくり返って、中身が反転するらしい。つーか、ようするに十二国記は、人の「中身」が作る世界なんだろう。なんとなく、霊魂もいないんだろうな、と思う。つーか、霊魂だけの世界なんだろうな、というか。これは俺だけの見解だけど。
 この世界では、何よりも重要なのは王だ。王を探す為に、我こそは王だという者が、妖魔溢れる黄海という場所を超え、麒麟の住まう蓬山に判定してもらいに行く。
 そして、王が善政を敷けば何もないが、悪政を敷くと天変地異が起き、不作が起き、最終的には妖魔が現れる。妖魔は麒麟が指令に下す以外には服従させる方法はなく、当たり前のように人や家畜を襲う。もちろん、王がいない時も天変地異が起きたり、妖魔が溢れたりする。
 このほかに、当然悪政を敷けば、国が荒れるという王政であれば当然のオプションもついている。
 ちなみに、麒麟の選ぶ王が、賢王の「資質を持つ者」というのが曲者だ。理想ばかり高くて、実力を持たない王が理想を買われて選ばれ、国を纏める実力が無いがゆえに失道するという事例がある。
 賢王になれない人でも、総合評価が良ければ王になってしまう悲劇。まあ、あれには次の王の踏み台となる運命だったって説(提唱者・俺)もないではないのだが。
 俺が不思議空間に囚われていた時に襲ってきた木の実。あれが、胎果になる予定の卵果だったのだろう。それは俺という現代の赤子の元を見つけ、吸収した。胎果となる為に。そこで爺が、元の場所に戻りなさいと術を掛け、木の実は元の場所……木に生った状態に戻った。
 そして、爺にチート能力を与えられた俺は、総合評価でぶっちぎり一位を取り、卵果の状態でありながら、王に選ばれた。
 それを俊麒が見つけ、産まれてから王宮に持ち帰った、と。
 つーか俺、もしかして一度胎果に食われて死んでる? 今の俺は胎果を乗っ取った結果か、俺の記憶を食った胎果か、二人が合わさった存在か……。なんか死んでるっぽい予感が凄くする。
さて、普通ならば成人を待ちそうな物だが、実際には、王は見つけたら即契約、吉日を待って即即位が普通だ。
 多分、賢王が玉座についている間は妖魔が出ない、というのが切実に関係してくるのであろう。
 王が村娘。「村に返してくれろー」の場合→即即位。
 王が胎果で、十二国世界の常識も文字(仙人は言葉の翻訳機能をもってるから、言葉は覚えなくてもいい)も何もかも知らない人でも、即契約、即即位。
 王が十二歳の女の子の場合→即即位。
 麒麟が胎果で、右も左もわからない。これは、しばらく王が見つからず、蓬山で勉強をした方が麒麟にとって幸せなのやも知れぬな……何、私が王だと!?→即即位。
 前者二つは麒麟の性格もあるだろうが、最後は、お前の国倒れたばっかで余裕あるんだから、もうちょっと待てなかったんか!? と思わんでもない。
 ちなみに、誰が王になるかわからん完全ランダムなくせに、原作を読む限りでは王になる為の教育や王たるものの心構えの伝授、などなど全くないっぽい。政治に無知な人間が登極したばあいのマニュアル? ないよそんなもの! ちょっとこんな事も出来ないの!? がデフォである。もちろん、仕事は教えてもらえるが、どうも、その……明らかに不十分。色んな王がいて、それぞれの王にあった思想があり、王は王たる資質を元々持っている、つまり王の思想を尊重すべき……という擁護もできないではないが、それでもやっぱりねぇ……。
 さて、十二国のシステムについての話はここまで。
 そして、俺の状態。
 爺が言っていた事は、主に三点。「勇者」「チート」「十六歳で旅立ちにセット」。
 このセットという言葉が曲者だ。そもそも、俺は恐らく現代に産まれる予定だったのではないか? だから、現代に来た胎果とぶつかったのだと思う。
 そして、現代にチートが必要な旅なんてない。
 つまり、十六歳で召喚形式、俺の魂の方にその装置がつけられていると思われる。
 状況を整理してみよう。
 一つ。俺は一旦食われて死んだっぽい。
 一つ。俺は十六歳で召喚されて、少なくとも戦闘系チートが必要な事……。恐らく魔王退治っぽい事をやらされる。
 一つ。俺は玉璽を持てるようになったら、契約を強要される。
 一つ。契約したら、年齢が止まる。
 一つ。王になる最低限の資質を持つ者が存在しない。つまり馬鹿ばっかである。
 一つ。神様から貰ったチートの中に、統治系は存在せず、しかし選ばれたのは恐らく神様のくれたチートだけ。つまり総合ポイントは高いけど賢王になれるわけじゃないよ!
 一つ。先代の麒麟が王を見つけられず死んでる。つまり王のいない時期が長く、相当舜国は追い詰められていると思われる。
 ここから予想される俺の未来。
 契約→傀儡政治(失道の危険性高し)→幼児の状態で勇者として召喚。→俺オワタ。
 俺としては絶対契約なんてしたくないし、せめて十六歳まで成長してから契約したい。でないと勇者として召喚された時死ぬ。
 しかし、舜国としては、一刻も早く契約したいはず。
 麒麟の寿命は、王がいない場合、非常に短かったはずだ。確か、三十年だったか? となると、舜麒もそう長くは待ってくれないだろう。
 王位が次点に移動するのは俺が王様業を継げるようになるまでだから、それ以降も俺が王位を継ぐ事を嫌がれば、新たな王がいる事に掛けて俺を殺そうとするはず。
 それでなくても、あの手この手で王にさせようとするはずだ。
 対する俺は、幼児ですらない赤ちゃん。しかも麒麟は王気がわかるのでどこにいてもばれる。逃亡は不可能。
 え、俺、詰んでる? 嘘だよ、な?
 死亡フラグ満載どころか、もう死んでますってのが辛いぜ……。
 もうあれか、帰りに空を飛ぶ指令の上から飛び降りた方が早いんじゃないか? 結果は同じだし、苦しまなくてすむだろうし。あー、凄く高い所から延々と落ち続けるのは怖いか。誰か助けてー。色んな意味で。












この状況を打開できる猛者がいたらぜひ書き込みをw
一応この先どうするかは考えていますが、いい案があったらそちらを使うなり、IF短編書くなりする【かも】しれません。
以下ネタばれ









予定するチート内容(変更の可能性あり) 
神の武器装備(二つの丸いわっかの刃)確定
戦闘技能確定
魔法技能(異世界での勉強が必要)攻撃呪文のみ確定
魔道具作成技能(異世界での勉強が必要。ただし呪具も作れるかも)不確定
神のパソコン(無制限に物を記憶しておくことが出来る。暗算が得意。魔法技能の呪文を覚える為の物)確定



ちなみに私の案では、神様の恩情で「勇者召喚されている間は時間は過ぎない」「チート技能は他者に譲れる」「召喚時に巻き込み可能」ルールが追加されますw



[27623] 三話 王が喋ったらそれは契約フラグ
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/07 07:51

 俺が一所懸命、保身について考え、絶望している間に、俺は西王母の所へと運ばれていった。
 滝のような物がある、玉座。小さい体には、水煙もきついのです。
 諦めるな、考えろ、俺。考えるんだ。閃くんだ。お願いします、知恵の神!
 ……閃いた!
 案1。正直に話すか、知恵遅れの振りをして十六歳まで待ってもらう。冒険にどれほど時間が掛かるかわからないし、王になったら十六歳でジエンドと考えていいだろう。だが、待つという事を奴らに納得させられるかどうかが問題だ。彼らは追い詰められている。どうでもいいから王になれと詰め寄られる可能性も高い。十歳にもなれば、暗殺者は普通に現れるだろうし、戦闘チートが何歳から使えるかが問題だ。ちなみに毒殺の耐性はない。
 案2。五歳まで粘り、戦闘チートが使えるかどうか確かめる。ただ、一六歳のときより弱くなるのは必須だ。神のチートの強さに縋るばかりだ。
 案3。爺の回収を待つか、何とかして異世界に逃げる。爺は探してくれそうだったが、本当に見つけられるかはわからない。異世界に行く方法もわからない。くそう、精神と時の部屋があればいいのに! チートを駆使すれば……。これは当然、知恵遅れの振りと相反する事になる。
 案4。すっぱりと諦めて後の王の為に尽力する。俺まだ死にたくないです! でもこれが一番可能そうだな……orz
 案5。いくらなんでも既に失道している人間を選ばんだろ。セクハラとかして、駄目人間になって王の選定基準から外れる。ただ、どこまでやればいいのかは不明。チートがどれだけ高評価されているかがポイント。だって俺、既に駄目人間の自覚あるもん。
 案6。麒麟暗殺。あ……あの指令を突破できる可能性はないかな……。これは没。
 案7。精神操作魔法! 駄目だ、魔力はあるけど、魔法の使い方わからないや。爺使えねぇ。
 案8。天帝に直訴。これだ! ただ、これは知恵遅れの振りが出来なくなる、諸刃の剣だ。
 んー。大体、この八案か。何か急に閃いた。これはきっと知恵の神の仕業。ありがとう、ありがとう! でも、案だけじゃなくて助けてくれー。
 さて、ここは直訴の絶好の機会だ。今俺は、重大な選択に迫られている。
 すなわち、直訴か、知恵遅れの振りをするかだ。
 今、知恵がある事を示してしまえば、五歳まで待ってもらう事すら不可能だと思う。
 しかし、チャンスなんて今以外にない。

「……珍しい事よの。一度蝕にもがれた卵果が戻って来るなど、前例がない。それも、仙の力を得て戻って来るなど」

「仙、ですか?」
 
 俊麒が訝しげに問うた。

「蓬莱の仙であろう。我らとは、力の質が違う。王に即位すれば、最も神通力の高い王となろう。統治の資質も、既にある。俊麒。英正の目を見て見よ。しかと見れば、こざかしく頭を巡らせているのがわかるであろう」

 統治の資質なんてねぇよ。あーでも、予王ですら選ばれたぐらいだしな……。平均が低すぎるのかも。参った。予想以上にぶっちぎりで王に選ばれてるみたいだ。そこで、俺は勇気を振り絞って言った。

「せーおーぼさま。えーせーは、おうにはなりませぬ。せんやくがあります」

 生まれて初めて、俺は喋った。だが、舌が回らない。予想以上に、幼い体は使い難い。

「先約とな?」

 俊麒は、俺が喋った事に驚いたようだ。えーと、勇者や魔王と言ってもわからないよな。

「じゅーろくになれば、ぶかんとしてしゅっしせねばなりませぬ。きりんとけいやくはできませぬ。これは、じこなのです。おれは、らんかとぶつかり、こちらにつれてこられてしまっただけなのです」

「ほう、蓬莱の武官か。だが、ここに留まれば王となれるぞ」

 最大の死亡フラグじゃないですかー。勇者は生きて戻れる可能性あるけど、王はゼロじゃないですかー。

「すでに、けーやくずみです。とどまることは、できませぬ。それに、おうはれいがいなく、しにざまがむざんです。おれに、おうのしかくはありません。おれはぶかんになりたい。どうか、おうきのはくだつを」

「卵果は、元の場所に戻された。お前はもはや、舜の民であり、お前が王の資格を持つ唯一の者である。こればかりは、私にもどうにもできぬ。よいか、たとえ救済措置を設けても、資質のある者が現れねばどうにもならぬのだ。元から殆ど意味のない措置であったとはいえ、救済措置はもう必要なかろう」

「ならば、しかくのあるものをおそだてすればよいことです! せーおーぼさま! おじひを!」

「……前例から言って、舜に王の資質を持つ者を育てる力が無い以上、胎果を待つしかない。延王の様にな。そして、今現在の胎果の中で、王の資質を持つ者はない。王になる事を免除するような前例も無い」

「きゅーさいそちが、すでにはっぷされているではないですか! じゅーろくでしつどーがかくていしているおうをかかげ、なんになります! せめて、せめてきゅーさいそちのぞっこうを! せーおーぼさま! おじひを!」

「……王気は、二つ感じられるようにしよう。さがりゃ」

「あ、ありがとうございます……!」

 水煙が立ち込める。
 よ、よし。こうなったら、延にでも留学に行かせて、なんとしても王の資質を持つ者を育て上げる! 俺が生き残る為にはそれしかない!
 しかし、舜、どんだけ駄目なんだよ……orz
 あー、こんなんだったら馬鹿の振りをして……いや、無理だな。西王母様は俺の心を見抜かれていたし、神に偽りをするなんて恐ろしすぎる。
 これで、良かったんだ。救済措置は続行してもらえた。
 そこで、舜麒が俺に平伏した。ちょ、待て。

「御前を離れず、忠誠を誓うと誓約する」

「ゆるさない!」

 許すか、と言わない所が味噌である。某霊界探偵に出て来た能力、タブーのように、言葉尻を捕えられてはかなわない。俺は生涯、許すという発言をしない事を誓う!
 しかし……五歳位まであったであろう猶予が消えたか。これは痛い。

「何故ですか、主上! 既に統治できると、西王母様が……」

「ようてんはそこじゃないだろ。けほっけほっ」

 いっぱい喋りすぎて、喉がもう駄目だ。
 そして今更、失語症という事で粘れば直接西王母を騙す事も無く、なんとかできたかもしれないと気付く。俺の馬鹿馬鹿馬鹿!
心身ともに疲れきった俺は、へたり込むと眠ってしまった。
 起きると、延王がお茶に誘ってくれた。

「蓬莱の仙か。向こうにそんな者がいたとはな。しかし、一六で出仕か。何か、妖とでも戦うのか? そちらの方の辞退は出来んのか?」

 俺はこっくりと頷く。

「きりんがおうとけいやくするように、すでにけいやくずみゆえ」

 魂にセットされてるので、もうどうしようもない。

「そうか……。大変な事になったものだな」

 再度、俺はこっくりと頷く。

「ようじ、あやかし、たたかう、しぬ。おれはじゅーろくまでそだちたい」

「それはそうだ。武官になるならば、最低でもそれぐらいまで育たなければ使い物にならぬ。しかし、それは王との兼業は出来んのか?」

 俺は首を振る。

「舜にそこまで待つ体力はありません!」

 俊麒が叫ぶ。俺は、ぽつりといった。

「おうには、ならない」

「舜を滅ぼすおつもりですか!?」

「ほろんでは、なぜいけない」

 思わず、絶句する俊麒。原作の受け売りなのだが、俺が王に相応しくないというアピールでもある。そして、俺は覚悟する。亡国の王候補とそしりを受ける事を。
 けれど、俺は知らなかった。その覚悟が、王気を燃え立たせていた事を。
 俺の知らない所で、意志の固さを買われて、また総合ポイントがアップしていたのである。

「おれは、もともと、このくにのものではない。そだてるがいい。ほんとうのしゅんのおうを。でなくば、ほろべ」

「……お前の忠誠は、蓬莱にあるのか?」

「きりんのように、うまれながらのけいやくゆえ」

 俺は正直にそう答えた。忠誠と言われたら、激しく困る。出来れば勇者もやりたくないが、勇者は絶対に不可避だし、チート能力があるからまだ助かる目はある。
 けれど、王はどうしようもない。助かる目も無いし、出来ないとわかっていて成るのは無責任だ。それに、俺はやるだけやった。王気を持つ者が現れれば、ちゃんと俊麒はわかるのである。
 ……でも、これから針の筵なんだろうなぁ。とりあえず、案2は必須、案5も望みは薄いがやるしかあるまい。
 とりあえず、荒廃した国土と地獄絵図を見せられるのは覚悟の内である。
 まあ、召喚時に麒麟も連れて行って、指令無双―、なんて出来たら、全てが杞憂に終わるのだが……。あーでも、他国で指令をむやみに使ったらルール違反で二人とも死亡か。そもそも、どういった形で旅に出させられるかわからないので、期待は出来ないよな。
 ……何故、乳児が胃を痛めねばならんのか。



[27623] 四話 苦悩
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/07 21:25

 嘘予告

ついに異世界へと堕ちた英正。しかし、神の恩情で頼りがいのある仲間を授けられたのだった!

「悪・即・斬!」

 悪人は殺! 怠けものも殺! 完璧でない者は存在すら許さない! 飛び出すぎた正義感で選ばれし、峯王!

「帰してくれろ、帰してくれろ!」

 王の素質、特になし! 神通力、SSS! 愛に生き、愛に死ぬ。いつまでも心は村娘、景王!

「どうしても追いつけない……憎い……延王が憎い……」

 堅実! 空気! 嫉妬に負けなければ出来た筈の治世は低空飛行で一千年! でも相手の足を引っ張る為なら国をも平気で犠牲にします! 塙王!

「おい爺! 洒落にならねーだろこの面子! 三王誘拐の罪で舜が滅ぶぞ!?」

「ふふーん、わしの勇者を奪った意趣返しじゃよーん。いーじゃん、この人達なら間違って死んでもどうせ死んでた運命じゃし。幼児の姿じゃ、戦えんじゃろ。いーからこ奴らにチート能力を授けるんじゃ」

 そして、旅は続いていく。大いなる壁を乗り越えた時、彼らに宿りしチート能力が王の神通力と合わさり、覚醒する!

「わしはもう、なんのとりえも無い王なんかじゃない。もう何も怖くない……!」

 チートを手に入れ、輝ける塙王。だがしかし、油断は禁物だ! マミる危険は常に塙王を狙っている!
 
「王になれとか、勇者になれとか、どいつも、こいつも勝手ばかり。妾は、妾は玩具なんかじゃない……! 妾は帰る。その為に邪魔になる者は……叩き潰す!」

 ブチ切れて呪文を使いまくる景王。落ち着いて! ヒステリーは禁物よ!

「私は……私は……ならば悪になろうぞ、魔王! お前は、私が守る!」

 潔癖症は極端から極端に。裏切りの峯王。

「がんばれー」

 もうちょい頑張れ! マスコットの俊王!

 そして、役目を終えた彼らは異世界から帰される。
 繰り広げられる劇的ビフォーアフター。

「そう……貴方達、反乱を起こすのね? 良かったぁ。だって、妾。本当はずっと探していたの……。この溢れんばかりの神通力を、妾だけの神通力を、国に吸い取られるだけの毎日を否定する為の理由を!」

 祟り神として君臨する景王!

「お前ら、反乱起こしたくないか? ワシのチートオリ主な様が存分に見れる反乱を。逆らいたいじゃろう? そう思って来たじゃろう? 何、とんでもない? 残念だ、国を傾ければ妖魔が現れ、ワシの出番が現れるか? 何、黄海に行け? そうだ、黄海に行こう!」

 この後、延王と手合わせして勝ち、幸せの絶頂で死ぬのだと禅譲した塙王。

「もうわしは汚れてしまったのだ! 王になる資格はない……だから禅譲する! 許せ!」

「私を置いていくのか、救っておいて放り出すのか、正義や悪などどうでもいい。男として責任を取れ、峯王!」

「魔王!」

「峯王!」

「お、おおおおおお父様、どういう事!?」

「貴方!?」

 昼ドラで悪の帝王宣言な峯王。

「英正様! 三国から凄まじい勢いで抗議が!」

「もうどうにでもなーれ☆」

 加害者で被害者な英正。
 異世界冒険活劇、四国記、始まりません!














 帰り道は、気まずかった。王にならないと宣言したのだから、当然であろう。
 そして、予想通り乳児に向かって俊麒は荒廃した領土を見せてきた。

「貴方が王となれば、民は救われるのです」

「じゅうろくでむかえがくる。そうすれば、しつどうだ」

「行かなければいいではないですか!」

「むりだ」

 やはり、十二国人には、王に選ばれて拒否、という思考自体が存在しないようだ。王に選ばれたら即契約。どんな弊害があろうと、関係はないのである。
 そして、俊麒は言ってはならない事を口にした。

「十五年。十五年だけの安らぎでも、舜の民には必要です」

 それは俺に、死ねという事である。まともに喋れぬ、歩けもせぬ乳児のまま十五年を生き、無残に殺されろという事である。舜の為に。
 圧倒的な多数決。俺の命と、舜の国民。後者に軍配が上がるのはわかっている。
 でも、残念だったな。選択権があるのは俺。たった一人、けれども最強の味方が俺自身。
 そして、それ以外はすべて敵である。この世で最も俺を思うはずの麒麟が、こんな言葉を吐いたのだから。
 俺は、絶対に俺を諦めない。
 戻ると、やはり大騒ぎになった。
 そして、豪奢に着飾った女が、俺に泣き真似をして声をかける。

「王にならないと言ったそうではないですか、英正。母は哀しい」

 俺、初めて会ったんだけど。そしてその服は一体何。
 今初めて会った+国の現状を省みず贅沢し放題=俺への愛情0ですね、わかります。
 いやいや、それは短慮だろ、俺。相手は母親なんだから。

「あからさまなわいろ、ぜいたくは、くにをあらすもとです。くにがあれればおうはしにます。ははうえは、おれがおうになったらころすおつもりですか」

「まあ、なんて事をいうのです! 誰がそのような事を吹きこんだのですか! 王母がそれに見合った装いをする事は、国の威容を保つ為に必要な事なのですよ!

 滅びかけている国に、どんな威容が必要なのかと俺は思う。

「おれは、おうではない。いままでも、これからも。それとも、じゅうろくになったらおれにしねと?」

「蓬莱の仙など、信じられますか。大丈夫、何が来ようと母が守ってあげます。貴方は、王になるのです。王に選ばれたのに、王にならないなど聞いた事がありません。貴方は王になるの。許すと言えば、それだけでいいの。難しい事じゃないわ。後は頼りになる殿方達がやってくれます」

「ははうえは、むせきにんです。おうになるのはかんたんでも、おうでいつづけることはむずかしい。あかごのおれに、なにができる。すぐしつどうだ。おまえたちになにができる。さいていげんのししつももたぬくせに」

 やべ、言いすぎたかもしれない。辺りが緊張する。

「いいから、俊麒に向かって許すというのです! でないと、こうですよ!」

 母上は俺をぶち、周囲は凍りついた。幼い体は容易く俺を抱いていた女官の手から落ち、床へとぶつかる。
 結局、俺は骨を折ってしまった。ついた時点で、仙人化を解除してもらっていたからな。
 その後、何故か俺を落とした女官が処刑され、母はおとがめなしらしい。
 うん、結構きついが、勉強になった。少なくとも母上は、俺に王を押し付けるだけじゃない。
 それでいて、俺に対して忠誠を誓うつもりも無い。当たり前だが、子供として扱うつもりだ。
 まともな頭を持っていれば、こんな状態で誰が王になるというのか。
 魔法を使って異世界に行けたら。しかし、魔法の呪文は異世界にある。
 医師が、俺に治療をしながら、言う。

「外では、主上と同じくらいの子供らが、妖魔に食われております。主上が守られ、食事をし、こうして手当てされているのは、主上が王だからなのです」

「きにいらぬなら、ほうりだせばよい。おれをようまにくわせるがいい」

「主上!」

「いまおうになるも、ようまにくわれるのも、たいしてちがいはない。ようまにくわれるほうが、まだらくにしねる。おまえ、よほど、おうさまぎょうをあまくみているのだな。あれはたましいをさしだすこうい。ささいなぜいたくとつりあうと、ほんきでかんがえているのか。げほっげほっ」

 うー、喋るときつい。
 でも、真実だ。ぶっちゃけ、針の筵の中で必死こいて生き続けて、半端な所で王にされて、子供のまま生きて、勇者召喚されて魔王に無残な呪いを掛けられて死より酷い目に会って……なんて嵌めになるよりは、今妖魔に殺されてジ・エンドの方が百倍楽だ。
 
「貴方様に、王の何がわかるのです。王がどれほど求められているか、貴方様は知らないのです」

「そうだな、けものはわなをめにしても、えさにくらいつくからな。じぶんだけのつごうで、せかいがうごくとおもうな」

 うわ、俺、酷い言いようだ。わかってる。これは俺にも当てはまる。
 わかってる。詰みだって。ならば、従順に王になってしまえば、最大で十六年、傅かれて平穏に暮らせる。立派な王になる事を目指す振りをすれば、五年は稼げる。
 視野が狭くなって、憎しみと警戒という餌に食らいついているのは俺の方。
 そして生き延びたいのは俺の都合。だが、それに十二国世界は反発するだろう。
 ああ、俺、馬鹿だなぁ。どうしようもない。けれど俺の心はささくれだって、アホみたいに警戒と憎しみをばら撒いて、馬鹿な行為は止まれない。
 怖いんだ。たまらなく怖いんだ。覚悟したばっかりなのに、俺の心は赤ちゃんみたいに泣き叫んでる。畜生、目の前で妖魔に殺された人々。やせ細った人々。そんなもん見たのは初めてなんだよ。覚悟するのと、実際に乗り越えられるのは別物だ。
 医者が、声すら発さず俺の首を絞める。このまま楽になるのもいいかもしれない。けれど、わかっていた。この医者は、俺を殺せない。




[27623] 五話 この役目、麒麟がしろよ、麒麟が
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/08 11:31
 啜り泣きが聞こえる。

「貴方様はお知りでない。どれほど、どれほど我らが王を求めているか……!」

 そうだな。俺は知らない。知る勇気も無いし、それを知りに行ってわざわざ自分で囚われるほど愚かではないよ。俺は、誰にも心を開かない。

「父上、赤子相手に、何を言っているのですか。知らない? 当たり前でしょう。主上は産まれてたったの一年なのですよ? ……大人として、臣下として、その態度はどうなのです。可哀想に。思えば、主上は初めからお心を閉ざしておられました。あれだけ喋れるのに、全くその片鱗を見せなかった。見透かされていたのですよ。我らの浅はかさを」

 そして、優しく置かれる手。
 ああ、最悪だ。最悪だ。最悪だ。ただ自分勝手に求めてくる奴よりも、こういう奴の方が、今は……怖い。
 だって、ほら。俺は、この程度の言葉で、泣きそうになっているのだから。
 暖かい毛布は、永遠の眠りへと誘うだろう。
 この男だって、結局は俺に王となる事を求めるのだ。

「しばらく、私に預けて見て下さい。西王母様が仰ったなら、この方は真実、蓬莱の仙。武官だというなら、民の為命を捧ぐ心構えもありましょう。ただ、それが舜の民に向けられていないだけで。詳しく、話を聞いてみます。その上で王になれる方法を模索すればいい」

 やめてくれよ。これなら、軽んじられた方がまだマシだ。理論詰めで詰め寄られて勝てる自信は俺にはないぞ。
 俺の側に立てば王になるのがありえない様に、舜の側に立てば俺を王にしないのはありえないのだから。
 もう俺は疲れた。寝たい。
 そうして、俺の望み通り睡魔が訪れた。
 
『その願いは、主上の魂を捧げるに足るものですか?』

『王にならねば、願いは叶わないのだろう。ならば、俺は……』

 目をかっと開いて起きる。飛び起きるような事はしない。乳児にそんな真似は出来ないのである。
 骨折した体が痛んだ。
 嫌な夢を見たな……。だが、確かにありえるシュチュエーションだ。気をつけよう。

「主上、お目覚めになりましたか。私の名は、幹善と申します。今日より、主上の治療を仰せつかる事になりました。すぐに、お食事とお薬湯をお持ちします。傷の具合をお見せ下さい」

 こっくりと俺は頷く。喋るのは負担が掛かる。ここ最近、喋りすぎた。

「もはや、隠す必要はないのですから、体を動かす訓練も致しましょう。そろそろ、大抵の子供は立てる時機です。本当にご無事で良かった。あのように落下したら、最悪の場合死んでもおかしくないから」

 もう一度、こっくり。
 そして、食事を食べさせてもらう。食事を食べるというのは、スプーンを細かく操って食べ物を乗せたり、それを落とさない様に口に運ぶという難易度の高い行為だ。
 俺はまだ、そんな細かい作業は出来ない。
 
「こうしていると、普通の子供なのですがねぇ。ですが、父との会話を聞きました。王を軽んじるのは我らか貴方か……。多分、両方なのでしょうね。主上の仰る通り、王であるという事は大変です。大人ですら、数年で失道してしまう事も多い。さすがに、妖魔に食らわれる方が楽だなどといいませんが、贅沢と天秤に掛けられる事でもない。でも……」

「ひとりをぎせいに、だいたすうがたすかるとなれば、つりあいがとれる。わかっている」

 耐えきれずに俺が吐き捨てた言葉に、幹善は目を見開いた。

「犠牲、などとは……ですが、そうですね。大多数が助かる故に、我らは求めるのです。……王は、犠牲にしかとれませんか?」

 幹善は、俺を抱き上げ、撫でる。そんな優しいそぶりに誰が騙されるか。

「いまはぎせいにしか、ならぬ。どうころんでも、どんなきせきがおこっても。おまえ、あかごに、くにがおさめられるとおもうか。おれに、えいえんにあかごのすがたでいろというか」

 幹善は沈黙する。

「西王母は、貴方に既に資格があると。しかし、そうですね。永遠に赤子というのは、覚悟なしには出来ない事です」

「おれにしかくがあろうと、あかごのことばをだれがきくか。ははうえとおなじはんのうがせきのやまだ」

 俺は真剣に受け答えしているというのに、幹善は苦笑する。

「困ったな。逆に私が説得されそうだ。年の問題は、恭は乗り越えたようですが。しかし、それでも子供と乳児の差は大きいですからね。しかし、聡明な貴方ならば、いつまでも逃げられない事もわかっているでしょう? あらゆる圧力が、貴方を押しつぶそうとするでしょう。獣は罠を見てなお、餌に食らいつくといいましたね。手厳しい言葉ですが……真実だ」

 俺はこっくりと頷く。

「では、こうしましょう。明日から、官達の仕事をご覧になればいいではないですか。王の仕事を理解してもらうのです。王の仕事が、妖魔に食われるほどに辛い物ではないと主上にわかって欲しい。王という仕事を理解しようとしている最中ならば、圧力も弱まりましょう。私も共に勉強します。いかがですか?」

「もじもよめずして、いかにしごとをりかいしろと。おれは、からだがみはったつで、いろのちがいすらわからないのだぞ」

「……幼い子は、色の違いがわからないのですか? 文字はもう読めるのですか?」

「そのようだ。それに、もじは、ほうらいのものしかわからない」

「……やはり、五歳までは待たないと無理ですか」

「じゅうろくまでまて」

「十六になったら蓬莱から迎えが来るのでしょう? まあ、その辺については、おいおい話しましょう。今は、たっちの練習です」

 幹善は微笑む。
 ああ、どうしてこいつが王じゃないのだろう。馬鹿言うな。少し優しくされたから、なんで王じゃないのだろうなんて。それこそ王様業を甘く見ている。
 でも俺は、この時気付くべきだったのだ。舜は、原作では恙無く存在していた。
 舜が滅びる事はないのだ。それに、舜国に胎果の王がいれば必ず描写されているはず。王は、現れるのだ。確実に。








 おまけ


 俺から王気を排除する為、徳を下げる試みを行いたいと思う。やれる事は全てやっておかねばな……。

「うー!」

 まず! 放蕩王の訓練! 人前で女のおっぱいに触りまくる!

「まあまあ、お腹が空いたのですか?」

 自ら乳を出して押し付けて来ただと!? ば、馬鹿なっ!
 しかも微笑ましい目で見られた。失敗だ。
 ならば贅沢を!
 所で今、母上の着ている服ってどれぐらい? アレを目安に……。
 額を聞いた俺は卒倒して、幹善に看病される羽目になった。
 放蕩王といえば泰王だけど、そういえばあれ、かなりの贅沢を許容されていたのよね……。
 赤子の身と凡人の良心で真似するのは無理だ……orz

次!

「あー!」

 暴君の訓練! 全身全霊で婦女子を叩く! 
 ぺちーん!

「まあまあ、お元気です事」

 失敗!
 さすがに処刑しまくる事は俺には無理……。
 駄目だ失道って意図的にしようと思えばレベル高い。
 っつーか、何をするにも年がなぁ……。
 悪評を稼ぎようが無い……。
 俺がいつものように幹善に抱っこされて移動していると、ぼそぼそと声が聞こえた。

「龍陽の寵め……!」

 …………。あ、悪評ゲット?
色々と突っ込みどころはあるが、とりあえず今度から女官に運んでもらうか。
 そっかー。女に甘えたらお可愛らしい幼児で、男に甘えたらこのホモめ、かー。
 なんか、疲れた。さすがにそっちの方面で悪評を稼ぐつもりはないのだ。へたれっていうな。俺にだって多少のプライドはあるのだ。



[27623] 六話 でも、幹善も俺に王になって欲しいと思っている
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/08 22:18

「それで、幹善。主上は、王となる事を承諾して下さったか」

 翌日、官が待ちかねたように話しかけてくる。つーか、俺がここにいるんだから俺に聞けよ。

「昨日の今日ではないですか。医師として言わせて頂きますが、現時点で主上が国を治めるのは無理ですよ。目があまり見えてらっしゃらないようだし、筆や玉璽を持てません。せめて、もう少し成長しなくては。しかし、王の仕事を勉強するという約束を頂きました」

「王の仕事? 即位する以外に何がある! 黙って即位さえしてくれればいいのだ、赤子になにができるはずもないんだから」

 幹善は、ため息をついて俺の背をぽんぽんとした。

「主上は、蓬莱の仙です。ただの赤子ではありません。貴方が何を言っているかも、きちんとわかっているのですよ。そして主上は、我ら臣のみで国を動かせば、瞬く間に国が傾き、失道すると思っておいでです。まずは、そのような事がないのだとご説明しなくては」

「主上が統治すれば、国は傾かないと? 主上は赤子でいらっしゃるのだぞ」

 心底理解出来ないといった口調で官は言う。

「まさか。だから、王になる事を嫌がっておられるのですよ。すぐに失道するとわかっているものを、誰が王になるかと」

「それでも、王に選ばれれば王になるのは義務だ。そうだ、雪泉様が呼んでおられるぞ」

「せつせん?」

 俺が問いかける。

「お母君ですよ」

 うえ、やだな。あっちが見舞いに来いよ。骨折した幼児を呼び付けるとは何事だ。
 まあでも、謝るというのなら受け取ろう。一応、俺の親なのだから。
 ……正直言って、今のままだと俺が王に即位したら即粛清対象だけどな。
 俺は幹善にしっかりと捕まって、抱っこされて移動した。
 母上は、何故か俊麒と一緒にいた。

「よく来ました、英正。王となる事は考えましたか」
 
 謝罪じゃねーのかよ。俊麒の顔色が蒼い事といい、凄い嫌な予感がしまくるのだが。
 原作見てても思っていたが、国民は王を崇めていても、官はそうではない。同じ神仙だからか? 侮る時ははっきりと侮ってくるしな。

「おどされておうになれば、あるのははめつだけだ」

「貴方は、まだ小さくて王の重要さをわかっていないのです。母の有難味がわかる時が、きっと来ます。俊麒、私が了承させてあげますから、誓約の言葉を」

 俊麒が、誓約の言葉を吐く。
 母が、俺を抱っこして骨折した腕をきつく握った。激痛が走る。俊麒が、悲痛な顔をした。これを、これを了承したか、仁の生き物が笑わせる!

「何をなさるのです!」

 幹善が叫ぶ。俺を取り戻そうとしたのを、兵士が止める。

「よいですか、やめてほしければ許すと言うのです。ゆ・る・す」

「しゅんき、このもの、を……ころ、せ」

 俺は、俊麒へとなんとか伝えた。

「貴方は、まだ主上ではありません。私と、契約を」

「は。けいやくすれば、したがうと? おれのみすら、まもってくれないものを、しんようできるものか」

 子供と言うだけで、麒麟ですらこの侮りよう。他の奴が言う事を聞く? まさか。こんな事をすれば、当然俺は王になり次第粛清を要請する。それを聞き届ける者がいないという前提でなくば、こんな事はしないだろう。痛みの中で、俺は強く強く誓う。
 例え拷問されようと、いや、もうされてるが、人質を取られようと、俺が王になる事はないと。
 痛みで、気を失いそうになった時だった。
 幹善が半獣化して、兵士達が驚いた隙に俺を奪い取った。

「これ以上は後遺症が残る可能性があります。医師として、これ以上放っておけません」

 巨大な鳥が、走る。その姿は滑稽で、道行く人々が避けていく。

「王の誘拐です、捕えなさい! 幹善は殺しても構いません! 殺しなさい!」

 母上が叫ぶ。

「お待ち下さい、主上! 雪泉どの、殺すのはあんまりです。傷つけないように、捕まえなさい!」

 俊麒が血相を変えて追いかけた。
 幹善に射かけられる矢を、指令が防ぐ。
 
「失礼を!」

 幹善が手すりを乗り越え、大空に向かってダイブ。俺を足で捕まえた。
 兵士達が困惑する。
 妖獣に乗った兵士達が追いかけてくる。追いつかれるか?
 その時だった。
 六太が指令に乗り、驚いた顔でこちらに向かってきた。

「英正! 何やってんだ!? 誘拐か!?」

「ごうもんして、おうにしようとしたので、にげてきました」

 六太が絶句する。すぐに、俊麒が追いかけてくる。

「延麒、これは舜極国の問題。口出しされますな」

「拷問して王にだと!? 何言ってんだ、俊麒。正気か!?」

「こうでもしないと、主上は契約して下さらない……。私は、主上と契約がしたいのに。早く契約しないと、民が。民が、こうしている間にも死んでいくのです。延麒、貴方にはわからない。私は、二年待った。もう充分です」

「民を理由にするな。お前は死にたくないだけだろ、先代の麒麟のように。俺が知らないとでも思ったか!? 前から生きる事に必死すぎるとは思ってたけど、まさかこんな……!」

「延麒様、どうかお助け下さい」

 幹善が延麒に縋る。

「えんき、たすけてくれ」

 俺も頼む。延麒は、俺を抱いて、骨折に気付いてぎりっと唇を噛み、踵を返した。

「尚隆、ごめん……!」

 いや、本当に悪い、延麒。もっとも、尚隆はいがいと王様してるから、送り帰されるかもしれないが。幹善だけでも、かくまってもらえるといいのだが……。
 



 行ったら、やっぱり怒られてました、延麒。それはもう、物凄い勢いで。
 ひとしきり怒った後、尚隆はため息をついた。

「一度助けた者を、放りだしたりは出来ん。五歳になるまでは、匿ってやろう。……拷問して王としての契約を結ばせるだと? 麒麟がそれを許容したこと自体、信じ難い」

「あれには、もうにかい、ころされかけてます。かのうふかのういぜんに、おれはおうになりたくないです」

「当然だろうな。強要されれば、頑なになるだけだ。……赤子相手なのだぞ。それほどまでに、追いつめられていたか。傷は。すぐに治療させよう。後遺症が残らねばよいのだが……」

「ありがとうございます。かんぜん、だっこ」

「……半獣を怖いと思わないのですか?」

「おとく。ひとつぶでにどおいしい」

 何より、俺は半獣姿の幹善が好きだ。俺は感謝とふわもこへの愛を込めて、羽に顔を埋めた。

「……そうですか。傷の治療、私も見ましょう。これでも、舜は医学が進んでいるのですよ」

「たのむ」

 そして俺は抱っこされて、傷の治療に移るのだった。


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