次から次へとすみません。近日、二つほど最終回させます><
『チート、チート♪ 勇者、勇者♪ 旅に出るのはやっぱり十代じゃろう。十六歳にセットしておくかの♪』
俺は死んだ。その後、大きな手に引っ掴まって、気がつけば檻の中に放り込まれていた。
目の前では、俺をひっ捕まえた爺が凄く楽しそうに何を俺に授けるか悩んでいる。
「お手柔らかにお願いします……」
チートは嬉しいが、勇者とか何させられるかわからない。爺は俺の言う事などどこ吹く風で、何か光り輝く物を楽しげに吟味し、あれもこれもと俺の中に放り投げた。
『やはり、多少は苦労した方が良かろう、こんなものか? いやまて、これも必要ではないか?』
うええ。戦闘技能とか脳内パソコンとかあるぞ。こんだけ強化されて、それでも苦労するどんな事をさせられるんだよ。多少の苦労って言っても、これだけ異質な存在の言う多少だから、さっぱりわからない。
神は、新しい何かを俺につけたすかどうか悩んでいる。
その時、俺はどんぶらこっこと巨大な木の実が俺に近付いている事に気付いた。
「おいっいやあの、助けて! 危ない! ぶつかる!」
必死に訴える俺。だが、爺は気付かない。木の実は、檻を突き破って俺に衝突し、押しつぶした。それだけでなく、触れた所からどんどん浸食してくる。
そこで、ようやく神は気付いた。
『ん? なんだこの木の実は。勇者を押しつぶすでないぞ。元ある所へ、戻りなさい』
爺がそう優しげに話しかけ、力を放つ。実はふわりと浮かんだ。俺を食らいながら。
『おおっ!? 待つんじゃ! 勇者! 勇者―!』
「あー」
誰か助けてー。色々な物から俺を助けてー。
って事で転生した。
最初、状況がつかめず、訳がわからなかったが、化け物と判断されて捨てられるなんてごめんだ。俺は、子供らしい姿を演じ、それは成功し続けた……と思う。
まだようやく目や耳が聞こえるようになって、頭が多少は働くようになってきたばかりだから、わからねーんだ。
産まれた直後、長い間寒い所で食べ物も与えられずに運ばれて、焦ったがな。
熱を出して死に掛けたが、どうやらチートのお陰で生き残った。
察するに、ここはあまり文明が進んでいない未開の地の、偉い人の元に産まれたらしい。
わかるのはそれだけだ。でもなぜか、言葉は日本語。服は中国。意味わからん。
爺の用意した世界なのか? 俺はあれから爺に回収されたのか? わからない。
問題は、どう動くかだった。子育てなんてした事無いから、発育の加減がわからなくて困る。いつ言葉の練習を始めていいのかわからないのだ。化け物って言われたら困るし、偉い人の子供だからって事で、夜まで見張りがついてる。魔物っぽいのまでいて、怖いんですけど。俺、将来あんなのと戦うの? 凄く嫌なんですが。
一六歳になるまで、鍛えたい気もする。けれど、化け物と恐れられるのも怖い。
とりあえず、五歳まで様子見しよう。何せ、まだまだ体は未発達で、出来ない事が多すぎるのだから。赤ちゃんの真似しんどいです……。
教育も教育で、ちょっと異様で、俺の生存本能が、馬鹿な振りをしろと警告している。
「主上、今日のご機嫌はいかがですか。今日は生後一歳のお誕生日です。おめでとうございます。さあ、今日も言葉の練習を致しましょう。ゆ・る・す。許すです」
「うー?」
なんなの? と心で喋りながら返答する。
俊麒だ。一番よく様子を見に来てくれる。そして執拗なまでに許すと言わせようとしている。俺の生存本能が、言ったら終わりだ! と叫んでいるので、俺は「あー」か「うー」以外の言葉を喋った事が無い。だが、油断はできない。奴らは、言葉を発した時に限り、ぼんやりと心を読めるらしいからだ。
「まだ、難しいですか……。早い者は一歳ほどで喋るというから、期待していたのですが。そうだ、今日は新しい玩具をご用意いたしました」
そして、俺の前に新しい判子が用意される。
こいつらは、子供の俺に判子押しごっこを強要する。
その判子を押させる場所なんだが、どうみても書類です。本当にありがとうございました。
どうやら、俺はよっぽどよっぽど尊い血筋で、一刻も早く判子押しさせたいらしい。
もはや、読めるかどうかなんて関係ないっぽい。そして、他の玩具は筆。教えられるのは名前だけ。他の玩具は一切ない。ちなみに、文字を見たら日本語じゃなかった。中国語か。漢字が多くて俺的覚えにくそうな言語ナンバーワンの中国語か。
つーか、傀儡政治ってレベルじゃねーぞ!
「あー」
俺は判子を持たせられて、おしゃぶりのようにしゃぶる。
俺、わかってませんよー! 使い方なんてわかってませんよー!
そうこうしている間に、偉そうな官達が来た。
「見るたびに絶望しますな……。英正様を越す王の素質を持つ者はまだ現れないのか……。いや、英正様以下で良い。王の基準を満たす者は……」
「残念ながら、未だ王気は主上にあります」
王の資質? ああ、俺、神様に色々与えられたもんな……。資質ってだけなら、俺に並ぶ者はいないだろう。資質だけならな!
脳内パソコンは貰ったけど、頭を良くしてもらったわけじゃない。統治なんてできねーぞ、おい。
さすがに誕生日だからか、次々と人がやって来た。
「ああ、何度見ても……これが次の王など……」
悪かったな。
「玉璽を使えるようになるのはいつなのですか」
阿呆言うな。
「成人するまで待つべきでは」
そうそう、まともな意見だ。
「馬鹿な。舜にはそんな時間など存在しない!」
何でですか? 理由を説明して欲しい。切実に。
「蓬山まで、もう一度相談に行こうと思っています。そろそろ登極の時期を考えないとなりませんし、一度西王母様と玉葉様に顔を見せるように言われてますので」
「蓬山まで持つのですか? この距離は幼子にはきついですよ」
「十分に気をつけていきます」
蓬山とか、登極とか、どこかで聞いた事があるんだが……。
んー。
どういう文化なんだ、この国は。今一王のシステムがわからない。
説明を要求する―! なんて言った途端、玉座に据えられそうだから言わないけど。
説明を要求する―!