「近藤がん理論」はどこまで正しいか?
がん治療第一線の東大外科医師グループの三氏と、
手術・抗がん剤・検診・患者へのメッセージを徹底討論する
「ガン専門医よ真実を語れ」 文藝春秋 より
東京大学外科医師グループ
上野貴史 東京共済病院外科医師
川端英孝 東京大学病院第2外科助手
馬場紀行 東京大学病院総合腫瘍科医師
近藤誠
管理人が選ぶキーセンテンス | |
手術は役に立たない | がんを刃物だけで治そうとする思い込みが間違い |
世界の中での日本医学のレベル | 日本の医者の思考法レベルは後進性が著しい 日本語の教科書が多すぎる 乳がん治療に限って言えば、東南アジアよりかなり遅れています |
1パーセントの可能性の意味 | 1%の可能性と言われたら、100%助からない 何をやっても助からないから何をやってもいいだろう |
抗がん剤治療の90パーセントは無意味 | 抗ガン剤は9割のがんには延命効果もない、再発防止効果もない |
日本の製薬メーカーの限界 | 検診無用論ではなくて検診有害論を言いたいくらいです |
がん検診は百害あつて一利なし | 治るものは治るし、治らないものは治らない。治らないものを治している名医もいない |
検診の有効性は科学的に未証明 | 肺がん検診は無効だと証明されている |
みんなが検診を受けなければ、検診の問題は生じない |
第4ラウンド がん患者へのメッセージ
編集部 最後に日本のがん治療がよりよいものになるためには、どうすればよいのかまとめてみたいので、 患者さんへのメッセージも含めて意見をお聞きしたいと思います。 |
近藤 日本のがん治療の現場が変わっていくためには、患者さんが行動するしかない。自分の目の前にいる医者に希望や文句を言ったり、気に入らなかったら鞍替えするとか。実力行使しないと変わらないのではないでしょうか。医学界のなかから自発的に変わることを期待するのは無理でしょう。 馬場 治療成績に関していえば、どこの病院でどの医者にどんな治療をしてもらったところで、長期の成績はそんなに変わりません。名医にかかったところで、新米の医者が治療してくれたところで、そんなに大差はないはずです。僕は、患者さんにまずそれを認識してくださいと言ってるんです。 上野 治るものは治るし、治らないものは治らない。治らないものを治している名医もいないはずですよね。 川端 いまのがん治療におけるさまざまな矛盾は、交通渋滞と同じでいろんな人の利権が絡んで身動きが取れなくなっている。近藤さんの本は、このような現状を打破して、一気に変えてくれる可能性があるのではないかと思います。 馬場 しかし、外科医の取った姿勢は集団で黙殺するという伝統的な作戦です。何か斬新で正しいことをいうヤツがいても、あくまで少数意見として無視する。それは日本のお得意芸ですから、当面はそれで行くでしょう。 川端 世界的視野に立って、きちんと勉強すると細かいことは別にして大筋は確かに近藤さんの意見にいかざるを得ないです。だから、近藤さんの発言に対して首を突っ込むと議論には勝てない。やはり黙っているのが一番賢いだろうということになる。 近藤さんがいろんな発言をしたところで、嵐が過ぎ去れば、患者さんは有名病院に戻ってくるだろうという計算がある。 近藤 そう考えているでしょうね。 |
治療責任を医師に問え 馬場 意識の高い患者さんは、医者の言いなりにはなりませんが、日本全国でみるとそうでない人のほうが本当に多い。それで、そういう人たちのほうがひどい目にあっているのを目のあたりにすると、医者の立場として医療情報をもっとオープンにすることが一番大切だろうと思います。 近藤 そうですね。情報公開は、どんどんやっていかないとだめですね。 編集部 患者にしてみると、手術の可能性、放射線の可能性どいった具合にいろんな可能性を公平にジャッジしてほしいと思いますが。 馬場 残念ながらそういった広い視野に基づいて、治療を組み立てる医師はいないし、システムもありません。 近藤 いまの現状では、患者が自分で行動する以外には方法はないですね。 馬場 ところで、最初に近藤さんの論文を読ませていただいたとき、外科医に対して根強い不信感を持っていると感じました。その理由を考えてみると、外科医は手術が好きで、いろんながんに手を出しますが、手術によって生じる後遺症や再発した段階になって面倒を見られる医者は実に少ない。さんざん中途半端な治療をした挙げ句、手がっけられなくなると、最後の敗戦処理係として放射線科に患者さんを回してしまいます。近藤さんはそんな体験をずいぶんされたんじゃないかと思いますけど。 近藤 ええ。それはずいぶんありましたよ。 馬場 そういう患者さんを見ていれば、外科医のがん治療に対する姿勢に不信感を持たれるのはやむを得ない気がするんです。やはり外科医は、一度患者さんの体に手をつけたんだったら、それによって起こる責任を負うぞといった姿勢を身につけるべきですし、患者さんも治療責任を医者に問うような姿勢が絶対に必要だと思います。 近藤 それは、本当にそうですね。だけどあなた方のような外科医だったら僕も好きになれそうです。 一同 (笑)。 編集部 本日の座談会のように現場の医師の方々が本音でがん治療について話し合っていただくと、患者にとっても有意義なアドパイスになると思います。長時間にわたり、貴重な意見をいただき、本当にありがとうございました。 |
近藤誠分類 | 国立がんセンター研究所 西篠長宏氏分類 | ||||||
治癒 | 延命 | 癌の部位 | 治癒 | 延命 | 腫瘍 縮小 |
癌の部位 | |
1 | ○ | ○ | 急性白血病、悪性リンパ腫、 睾丸腫瘍、子宮絨毛腫瘍、 小児がん |
○ | ○ | ○ | 急性リンバ性白血病、 多くの小児がん |
2 | △ | ○ | 乳がん、 再発した第1グループのがん |
△ | O | ○ | 乳がん、肺小細胞がん、 卵巣がん、軟部腫瘍 |
3 | × | △ | 進行した卵巣がん、 小細胞型の肺がん、 臓器転移がある乳がん |
X | △ | ○ | 胃がん、肺非小細胞がん、 頭頸部がん、子宮がん、 大腸がん |
4 | × | × | 脳腫瘍、頭頸部がん、甲状腺がん、非小細胞型肺がん、食道がん、胃がん、肝がん、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、結腸がん、直腸がん、副腎がん、腎がん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、皮膚がん | × | × | × | 肝臓がん、膵臓がん、 甲状腺がん、腎がん |
●西條氏の分類は、「毎日新聞」 1995年11月12日掲載の分類表よリ。 ●著者は坑がん剤による腫瘍縮小の意義を認めないので表に項目がない。 |