「レベル7」という最悪の事故に至った福島第1原子力発電所の放射能漏れ。東京電力、原子力安全・保安院、首相官邸と官僚機構など日本の頭脳たる官民の組織は、初動から、その後の対処でも混乱の収拾は遅れた。幾重もの安全装置の壁を軽々と越えて浸入してきた未曽有の津波を前に的確な情報集約さえできず、米国からの支援も事実上、断るなど瞬時の判断を誤った。迷走した1カ月半。危機は必ず来るという前提で「想定外」に備える難しさを浮き彫りにした。
海江田万里経済産業相は3月14日深夜、東京電力の清水正孝社長から電話を受けた。「放射線量が多く、これ以上、現場では作業ができません。第1原発から退避して第2原発に行きたい」
爆発寸前の第1原発を事実上、見捨てて南に約10キロも離れた第2原発に大半が避難したらどうなるのか。政府と自衛隊に丸投げされても対処は不能だ。経産相から社長発言の報告を受けた菅直人首相は怒鳴った。「そんなことありえないだろ」
■溶融の恐れに衝撃
現場は切迫していた。午前に3号機が水素爆発し、午後には2号機で水位低下。午後9時には炉心の燃料溶融に関し枝野幸男官房長官が1~3号機とも「可能性は高い」と言明し衝撃が走る。
自衛隊員4人が午前の水素爆発で負傷し、防衛省は東電の「大丈夫」との判断に疑問を抱く。夜には中央特殊武器防護隊員らが郡山市の駐屯地に一時退く。
同様に第1原発の近くで待機していた原子力安全・保安院の職員らも郡山に退く。住民は半径20キロ内からの避難指示だが、安全を担うはずの保安院は50キロ以上先の郡山へ。炉心溶融か、という極限の状況を考えれば、だれよりも危険を認識していた東電が人命を優先して事実上、第1原発からの全面撤退を決断したとしても一概に批判できない。
一方で首相の東電不信は頂点に達していた。国の存亡、自身の進退を含め、あとはない。第1原発には6つの原子炉と7つの使用済み核燃料プールがある。「チェルノブイリ原発をはるかに超える規模なのに、最悪の事態に関して聞いても誰も答えられない」
そこで首相は原子力災害対策特別措置法をよく調べるように指示。「原子力災害対策本部長(首相)は事業者に必要な指示をすることができる」との文言を見いだすと「これで東電との統合本部がつくれるか」と口にした。
清水社長の官邸入りは15日午前4時17分。首相は「本当に撤退を考えているのか」とすごむ。清水社長は「いや、そうではありません。すべてを引き揚げるわけでは……」。
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