気象・地震

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再生への視点:東日本大震災 藤井聡氏(京都大教授)

 ◇「5年」「10年」の2計画を

 東日本大震災からの復興は、基本的に以前の街を復旧する方向で、地元の自主性を尊重しつつやるべきだ。その財源は、何よりも国債だ。増税は決してすべきではない。

 私は、震災から12日間で「日本復興計画」を研究室の同僚らと立案し、政治家らに内容を提言している。日本復興計画は、震災からの復興に関する「東日本復活5年計画」と、想定される首都直下型地震や東海地震などに耐える日本をつくる「列島強靱(きょうじん)化10年計画」の二つに分かれる。

 5年計画は、ビジョンとして「ふるさと再生」を掲げた。政府は「創造的な復興案を」と言うが、一から案を練ると時間がかかり、前例がないため失敗の可能性も高い。可能な限り元の「ふるさと」に戻しつつ、震災前の地域の問題点を是正する方が迅速かつ適正にできる。

 5年計画では「東日本ふるさと再生機構」の設置を提唱した。省庁と自治体や民間の間で、広域的、長期的に復興事業を調整する公社的な存在だ。被災者を復興事業で雇用することが軸になる。「被災失業者」を復興事業で雇用し、復興が進む過程で、彼らを新たに育つ産業へだんだん吸収する仕組みを作る。

 復興財源の公費負担は、多くて47兆円を見込む。財源調達のための増税は、更なる景気低迷とそれによる税収減をもたらすので、絶対にダメ。子ども手当や高速道路無料化などの予算を転換するのも策だが、これだけでは年に2・7兆円程度しか手当てできない。

 国債なら財源をすぐに十分確保できる。円建てで発行する限り、財政破綻はあり得ない。デフレの今、インフレを過剰に恐れる必要はなく、発行額が需要を上回る場合は日銀が買いオペレーションをすればいい。

 なお、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は、政府が不参加を表明すべきだ。TPPは「海外の安い農産物」という第2の津波を招き寄せて、復興を著しく阻害する。そもそもTPPはデフレを悪化させる可能性が高い。

 列島強靱化10年計画は、全国で(1)防災インフラ整備(2)エネルギー、食料自給率向上と備蓄量確保(3)交通網の多元化(4)東京一極集中の緩和をはじめ産業の分散化--などを進める。東日本復活5年計画と同規模の予算がいるだろう。

 被災による失業や自粛、先行き不安による消費の縮小などで、日本経済の需要は減退している。放置すれば、年間数十兆円ずつ国内総生産(GDP)が減る。需要を作れない民間に代わり、公共投資で景気を下支えしないといけない。

 だからこそ、5年計画に加え日本列島全体を巻き込む10年計画が必要なのだ。この計画が実現すれば、防災力の強化と共に、デフレ脱却と経済成長ももたらされる。

 阪神大震災後は、復興などによる歳出増加に、消費税率アップと公共事業の削減で対応した。結果、デフレと長期の景気低迷を招いた。過ちを繰り返してはならない。【聞き手・鈴木英生】

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 ■人物略歴

 ◇ふじい・さとし

 東京工業大教授を経て現職。日本復興計画全文はhttp://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/index.phpで読める。42歳。

毎日新聞 2011年5月8日 東京朝刊

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