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[27644] 【ネタ・オリジナル】Mystic Lady
Name: ダイバー・リュウ◆97526bd0 ID:a5f77071
Date: 2011/05/07 22:28
※「小説家になろう」にも投稿している作品です。元々はニコゲーの日記に投稿していたモノです。


第一章『遺跡の中で見つけたモノ』

女「…ここは…何処?」

 気が付くと彼女は、見慣れぬ風景の中にいた。

男「驚いた…。まさか、生きてるなんて思わなかったぜ。しかも言葉が通じると来たか」

 不意に横から声がした。見るとそこには一人の男が彼女を見ている。その青い目は驚きと好奇心と多少の安堵に満ち溢れていた。

女「ねぇ、ここは何処なの? どうしてわたしはここにいるの!?」

男「…質問は一つずつにしてくれ。あと、あまり見つめないでくれるかな? …照れるから」

 そう言われ、女は視線を逸らした。

男「君の名前は確か…おっと、こういう時は自分から名乗るのが礼儀だよな。えっと…お初にお目にかかります、私は彩田琉之助(さいだ りゅうのすけ)、この船「カレッタ号」の船長をやってる者でございます……っと、こんな感じで良いかな?」

女「船? カレッタ号…?」

彩田琉之助(以下、琉)「…そう、船。ここは、海の上。理解、出来る?」

 彼女は首を傾げた。

女「どうして、わたしはここにいるの?」

琉「ふむ、良いだろう。それを説明するには、ざっと数時間前まで遡らないとならないな」


~青年回想中~

琉「エリアβ、座標確認!」

 操舵室の中で一人、青年が声を上げる。この船に、彼以外は誰も乗っていない。

琉「ダイバースイッチ・オン!」

 彼がスイッチを入れると、たちまち船の形が変わり、水中に潜っていく。水深150m付近で、船のサーチライトが周囲には決まった形の岩を照らし出す。ここが今回の目的地の海底遺跡、通称“エリアβ”である。

琉「ふむ…、先客が多いな」

 遺跡には、他にも多数の船が止まっていた。この遺跡の古代文字はつい最近になって解読に成功した。つくづく考古学者達には感謝せねばならない。…お陰で遺跡が同業者でごった返しているが。しかしこの遺跡は結構広く、まだ調査されてない所も多い。つまり、宝の山である。

琉「あの辺が空いているな」

 彼は大きな他の船の隙間を通って遺跡の奥に辿り着いた。

琉「そんなデカい船じゃあ、こんな所までこれまい。じっくり漁らせて貰うぜ。アンカー・シュート!」

 そう言って錨を射った。

琉「クラストアーム!」

 船から二つ、蟹のハサミを思わせる腕が出てくる。これでガレキの山を取り除き、有用なモノならダイレクトに収納する。ガレキを取り除くと、徐々に建物の入口が明らかになってきた。しかし問題が一つ。

琉「こんな狭い入口じゃあ、アームが入らないな。仕方ない、アレを使うか」

 そういうなりあるスイッチを押す。すると操舵席の背後にある重くて大きな扉が開く。彼は傍らに置いてあった棒状の道具を持って中に入った。その中でウェットスーツに着替えると、そこにある人の形を描いた壁に背中を合わせた。

琉「ラングアーマー・セットアップ!」

 掛け声とともにスイッチを押すと、たちまち彼の体は次世代スキューバ装置<ラングアーマー>に覆われる。この装置を着けることにより、人は最深500mまで活動が出来、水中でなら非常に強い力を発揮したり素早く動く事が可能となる。大きく盛り上がった背中にはスクリューとタンクを二つ背負っており、中には深海作業用の特殊混合ガスが入っている。更に言えば、水中で会話することも可能である。

琉「アードラー!」

 琉は手に持った棒状の道具のスイッチを押すことで、琉は天井に張り付いたエイを思わせる機械を起動した。たちまちアードラーは下に開かれた潜水用の出口に降り立つ。琉はアードラーに乗ると棒状の道具を腰のウェイトベルトに差し、そのまま海に潜っていった。
 船でも侵入できない箇所には、自分で行くしかない。この時に活躍するのがこの二つなのだ。

琉「制限時間は2時間。早めに終わらせるぞ。パルトネール・フラッシュ」

 琉は遺跡の入口に入って行った。遺跡の中には、船のライトは届かない。そこで彼は先程の棒状の道具、“パルトネール”を取り出して先端の明かりを点けた。遺跡の中には蛇を象ったレリーフが多く見受けられる。一体何の施設だったのだろうか。一本道の廊下を過ぎると、ちょっとした部屋に出た。他に入口は見つからずどうやらここで行き止まりらしい。

琉(ちょうど良いや。じっくり漁ってやろうじゃないか)

 崩れたガレキを取り除き、モノを漁る。漁り始めて30分後。

琉(外れか? ここまで何もないっていうのは中々ないぞ。もうそろそろ引き返そうかな)

 そう思っている時だった。ガレキの下から形の整った“何か”が、出てきたのである。彼は夢中になって周りのガレキをどけ、素早く砂を払った。そこには何とくっきりと古代文字が描かれていたのである!

琉「よし、こいつ取りだしたら今日は帰るぞ!」

 邪魔なガレキを全て取り除くと、彼はその何かを取り出した。見たところは巨大な四角い物体である。しかしよく見ると上の方がぐらぐらしてる。どうやらこれは巨大な箱で、上の物体はその蓋らしい。琉は頭の装置を起動し、調べ始めた。

琉(ふむ……、タテ190cmでヨコ80cmか。それで古代文字がびっしりと……。何を入れるんだ? まさか棺桶か?)

 棺桶を開けるのは少々気が引ける。しかし中には大体において副葬品が入ってる上に、中の死体が残っていれば生物学者が高値を出して買ってくれる。テクノロジーに直接応用は出来ないものの、当時の文化を知るヒントとなる貴重品でもあるのだ。

琉(ここまで丁寧に埋葬してあるなら王族か何かだろう。こいつは大当たりだ! ……へへっ、がっぽりがっぽり)

 取らぬ狸の皮算用ならぬ、開けぬ棺の副葬品算用。琉は棺桶を抱えると、そのままスタコラサッサと遺跡を出た。目的物を手に入れたならサッサと引き返す。この業界の常識である。何故かというと、琉の持つパルトネールから音が鳴り始めたのである。

琉「何、ハルム!? もう嗅ぎつけてきやがったのか?」

 ハルム。それはこの世界の生態系を大半を支配する異形の怪物である。その中には人を襲って食らうものも複数存在するのだ。琉「しかも数が異様に多いときたな。……やってやるか!」

 実際に遺跡の外には、人と魚を足したような姿をした異形の存在が何十匹も待ち構えており、あからさまに獲物を見る目で琉を見ていた。今にも飛び掛からんばかりの形相である。この琉の目の前にいるハルム“デボノイド”は海底のちょっと複雑な地形になら群れをなして潜んでおり、獲物の匂いを嗅ぎつけるといつの間にか現れるのだ。そしてパルトネールには、そのハルムを探知する能力がある。

琉「アードラー!」

 このまま出たら餌になる。琉は遺跡から出ず、パルトネールを取り出すと外に止めてあったイーグルレイを起動した。

琉「アードラー・フィンスラッシュ!」

 アードラーのひれから刃が出る。こちらに飛び掛かって来るデボノイド。しかしアードラーのひれにあたった瞬間、デボノイドは真っ二つになり、大量の血を残して消滅した。琉はアードラーを遠隔操作し、入口付近の群れを片っぱしから切り裂いた。たちまち辺りが血に染まってゆく。

琉(よし、今だ!)

 琉は棺を外に出すと、そのままアードラーに飛び乗った。残ったハルムがまだ襲いかかってくる。

琉「パルトネール・サーベル!」

 琉はパルトネールを取り出すと、そのままサーベル状の刃を展開させた。

琉「邪魔だ、どけッ、ぶるぁああああああァッ!!」

 そう叫びつつ、琉は襲い来るデボノイドを次から次へと斬り捨てる。まっすぐにカレッタ号に向かってゆく。ある程度近付いた所で琉は扉に飛びつき、周りをアードラーで守りつつこじ開ける。ハルムの入らぬうちに入り込むと、すぐさまアードラーも撤収させた。ラングアーマーを解除すると、彼は再び操舵室に走る。

琉「クラストアーム!」

 クラストアームを起動した琉は入口に置いた棺をつまみ上げ、そのままお持ち帰りした。周囲のデボノイドにげんこつを食らわせながら。

琉「よっしゃ、回収成功!」

 こうしてまんまとお宝を手に入れた琉は海面に浮上した。そして、早速蓋を開けようとしたのだが……。

琉「ぐっ! ……何だこれは、ぐらついているにも関わらず蓋が開かないぞ?」

 棺には不可解な力が備わっており、少しだけ蓋を浮かす事は出来るものの開ける事がままならないのだ。しかもこの棺、さっきまで普通の石の箱だったのに、回収してみたら掘られた字が赤く染まっている。匂いからしてもさっき斬り倒したハルムの血だ。それが掘られた字に入り込んで結晶と化しているのだ。

琉「こんなところに技術を使うとはな。思いもよらぬ宝を見つけたもんだぜ。しかし蓋の血は一体どういうことなんだ? おかげで読みやすくなったのだが」

 琉は解読ソフトを入れたPCを開き、棺とにらめっこを始めた。専用の機械で蓋に書かれた文字をスキャンすると、PCの画面にその文字と訳文が映しだされる。

琉「何々、中の人は……ロッサ・ヴァリアブールっていうのか」

PC『私の愛すべき存在、ここに眠る』

琉「おお! やっぱり棺桶だったか!! これならしばらく食っていくのに困らないな」

 琉は一人ガッツポーズをとった。なにせこの棺桶なら、蓋の技術と副葬品と中の人で荒稼ぎ出来るからである。しかしこの次に書いてあった内容はとても琉自身の、いやこれを読む我々の常識でもとても不可解なものであった。

PC『力ある者がこの棺に挑み、彼女を解き放つその時まで』

琉「……あん? 何これ、荒らされることが前提か? いくら生前が女性で、仮に超が付くほどの美人だったとしても、死んじまったんじゃ意味ないだろ常識的に考えて。何処かの童話の変態王子でもない限り誰も喜ばないぜ。最も、俺みたいに金目当てで漁る奴は別だがな。……おっと、まだ続きがあるな。どれどれ……」

PC『この棺を外まで運び出せ。運び出したら外で棺を狙うハルムを殺し、その血で棺の字を満たせ』

琉「アキサミヨー(なんてこったい)!? 今日のハルム大発生の理由はこいつか! 全く、あぶねぇ宝を掘り当てたモンだな……。字の内容と言い、恐ろしいってレベルじゃねーぞ!! パルトネールやラングアーマーのない時代だったらどうなってたことか」

 危険な宝を掘り当てた事に今さら気が付いた琉。しかし、お持ち帰りしたからにはちゃんと面倒を見なければならない。そもそもここまでのリスクがあるならそれ相応のメリットがあるに違いない。そう勝手に解釈して、金に目のくらんだ琉はさらに解読を進めた。

PC『血を捧げし後は一杯の清水を与えよ』

 琉は奥から水を持ってきた。この水、彼の故郷に沸く水である。普段は海水を真水に変えて使うのだが、たまに故郷に帰るとこの水を瓶に汲んでくるのだ。しかしどうにも使うのがもったいないので、結局清水の瓶がたまる一方なのだが。

琉「どうだ、うちの水は。他の船じゃ飲めないぜ~!」

 なんだかんだで情が湧いてしまったらしい。ほぼ確実に金が入ると分かった今、琉は棺の解明を半ば楽しんでやっていた。……ついさっきまでは。
 清水をかけると棺からギシっと音がした。。

PC『蓋を開け、そこに一輪の薔薇を与えよ』

 さぁ、遂に対面である。琉は蓋を持つとそのままこじ開けた!

琉「!? な、何じゃこりゃぁーーーーー!!」

 そこに入っていたのは大量の、ドロッとした謎の赤い液体であった。見ようによっては血だまりにも見える。琉は薔薇(何故か所持していた)を片手に絶叫した。副葬品なんぞ入っておらず、そこに人の面影などほとんど見えない。一体ここに入っていた女性……ロッサという人の身に何が起きたのだろうか?

琉「これ以上、ビビらせないでくれよ……」

 琉はそう言うと、ゲルの中に薔薇を沈めた。ゲルの中で薔薇の花弁はほぐれるかのように散っていき、ゲルの中に消えていった。

琉「薔薇を……食った!?」

 その直後の事である。ゲルが突如沸騰したかのように動き出した。まるで眠りを妨げられた大型ハルムが怒り狂うかのように。いよいよ恐ろしくなった琉は近くにあった柱の陰に隠れ、わなわなと震えながらその様子を見ていた。

琉「こ、こんなハルムなんざ聞いたも見たこともことねぇよ……。罠か? 罠なのか!? お願いだ、寝るのを邪魔したことは謝るから、大人しくなってくれ……ヒィッ!?」

 そんな琉の必死の叫びも届かず、液体の動きはますます活発になっていく。ゲルは体を持ち上げ、徐々に人の形を成してゆく。
 やがて動かなくなると、今度は徐々に色が付いていく。琉はパルトネールを後ろに隠し、スイッチに指を当てて様子を見ていた。液体は真っ赤で半透明な人の形から、白い肌で長いブルネットの髪を持つ非常に端正な顔をした女性へと姿を変えた。どこから湧いたのか、体には真っ赤なドレスのようなモノを羽織っている。

琉「ほえー!? これが本来の姿か? ……ふつくしい……」

 琉はため息をつきながらそう呟き、恐る恐る近付いた。近付いて見てみると、むっちりとした非常に官能的な体つきなのが伺える。彼女は目を閉じたままだった。こちらにまだ気づいていないらしい。

琉「何はともあれ戻ったようだ。しかし、生きてるんだろうか? あの文によれば“目覚める”とか書いてあったよな。…それにしても凄い体つきだ。あれだけの年月でよくやせ細らなかったよな。…まだ目を覚ましてはいないのか。……そうだ、生きてるかどうかを確認するんだ。心臓が動いているかを確認するんだ。何も嫌らしい事なんかないぞ、俺は…」

 琉は自分で自分に何かを言い聞かせながらそっと彼女の胸に手を伸ばした。脈を見るなら他にも方法はあるというのに、男と言うのは全くもって悲しい生き物である。だが琉の手が触る寸前、彼女は突然にその真っ赤な目を開いたのであった。

~回想終了~

彼はそれまでロッサに何があったのか話し終えた。もちろん、ごく一部を除いて。

琉「それで、君の名前は……」

女「ロッサ。ロッサ・ヴァリアブール」

 そうだ、わたしはロッサだ。彼女は確信した。だが、

ロッサ「わたしはこの中で……? ……!?」

 彼女は頭を抱えた。何かが、何かがない。頭の中に、何か大切なモノがない。

琉「どうかしたのかい? ……んな!?」

 ロッサは琉の両腕を掴んで詰め寄った。

ロッサ「教えて、わたしはどうしてこの中で眠っていたの? わたしに一体何が起きたの? わたしは一体これからどうすれば良いの!?」

琉「そう聞かれましても、当方は一切感知しておりません、すみません、ごめんなさい、許して下さい、おねがいですからゆさぶらないで下さい、その手を離して下さい、痛いです痛いです、肩が痛いです……」

ロッサ「ご、ごめんなさい……。うぅ、どうしよう。本当に、本当に何も思い出せないよぉ……」

 これからどうすればいいのか分からず、自分の事が名前以外全く分からないという不安。彼女の頬をふと涙が流れた。するとそれを見た彼が言いだした。

琉「あのぅ……。さっきの話聞いてたら分かると思うんだけど、俺って遺跡の探検が仕事なんだよね。多分君が暮らしていた時のモノは皆海の底だと思うんだよね。つまり何が言いたいかっていうと……」

 彼は一端間を置いた。そして、

琉「一緒に、来ないか?」

ロッサ「え、良いの……?」

琉「ああ。それに何より、他に行く場所はないんだろう?」

 こうして、ロッサと琉の海底遺跡を巡る旅が始まったのである。



[27644] 【ネタ・オリジナル】Mystic Lady
Name: ダイバー・リュウ◆97526bd0 ID:a5f77071
Date: 2011/05/07 22:30
第二章『キャプテン琉のカレッタ号案内』

 何も覚えていない上に“今”という時代を知らないロッサにとって、この日は驚きと発見の連続だった。

琉「ここを君の部屋にしよう。まぁ、中に入ってくれ」

 琉に案内され、ロッサは一つの部屋に入ってゆく。そこには様々なモノが置かれていた。

琉「これは押し入れ。ちょっと開けるぞ」

 彼は部屋の中にある大きな戸を開けた。中にはふかふかした布が入っている。

琉「こいつは“ふとん”だ。俺個人の考えでは、人類の生み出した至高の宝……と言ったところか。寝る時はこいつを敷いて寝ると良い。棺桶よりずっと寝心地が良いはずだぜ」

 琉が一つずつ名前を言っては手本を見せる。彼がいうには、この部屋はずいぶんと長い間使っていなかったらしい。

琉「この奥が洗面所。顔を洗ったり歯ぁ磨くのに使ってくれ。……って、鏡がそんなに珍しいのか?」

ロッサ「すごーい! 琉とわたしのそっくりな人がこっちみてるー!」

琉「ははは……。ロッサ、この部屋には俺と君しかいないぜ。そこに映ってるのは俺と君自身だ。こうして、だな」

 琉は、鏡の前で自分の髪を触って見せた。すると、鏡に入っている琉も自分の髪を触った。

琉「要するに自分で自分を見るためのモノさ。……そうか、君の時代には鏡ってモノがなかったのか」

 琉の案内は続く。

琉「更に奥にあるのはシャワー室だ。こっちは水浴びしたい時に使ってくれよ……って、こらこら! そこひねっちゃダメ……」

 じゃーっ!! 勢い良く飛び出てきた水がロッサと琉に降りかかった。琉はすぐさま蛇口をひねり、水を止めるとこう言った。

琉「…ロッサ、水浴びは服を脱いでから、それも男の見てない時にやるモノだぜ。ちょっと待ってろ、バスタオルと着替えを持って来る」

 琉は部屋から出ると、大きな布を何枚かと何か服を持ってきた。ロッサは彼から一枚もらうと、それで髪と顔を拭いた。そして、彼の持ってきた上着を羽織った。

琉「使ったタオルはここに掛けといてくれ。あと、こいつはタンスだ。とりあえず乾いたバスタオルはここに入れてくれ。ついでだしこの使ってない奴を入れておくぞ。……あとまぁ、新しく服を買った時もここに入れてくれ」

 これで一通り、琉によるロッサの部屋の説明が終わった。

琉「何かあったら、すぐ隣のこっちの部屋に来てくれ。ただし、入る前にはこれを押すように、な」

 琉はドアに付いたスイッチを押して見せた。

 ピンポーン

 スイッチを押すと音が鳴った。琉は更に続けた。

琉「これでこの四角いのに顔が映って、開けて良いと言ったら入ってくるんだ。逆に部屋の中でこれが鳴ったらちゃんと返事してくれよ。そうだ、ちょっと待ってなさい」

 そう言うと琉は自分の部屋に入って行った。

ロッサ「このスイッチを、押すと……」

 ロッサは扉のスイッチに指を伸ばした。さっき琉がやったのと、同じように。

 ピンポーン

 すると扉にある画面に琉の顔が映り、こう言った。

琉「一つ言い忘れた。用事のない時には押さないでくれよな」

 直後、琉が扉を開けて出てきた。

琉「とりあえず、これを羽織っておきなさい。あとこいつを腰に巻いとくと良い。他に女性でも使えそうなモノがないんだよな……」

 琉は手に持ってきた白いケープをロッサの肩にかけ、更にこれまた白いサッシュを手渡した。

琉「こんな風に、な」

 琉は自分の腰に巻いたサッシュを見せた。ロッサは見よう見まねでサッシュを自分の腰に巻き、結んだ。

ロッサ「こう?」

琉「そう。そんな感じ。…意外と出来るモンだねぇ……」

 琉は感心した。恐らく彼女はサッシュなんぞ見たことないか、見たことがあるにしても久しぶりだろう。

琉「おっと、こんな時間か。飯にしよう、こっちだ」

ロッサ「え? お腹いっぱいだけど……」

琉「? いつの間に、つか何を食べたんだ?」

 次の瞬間、彼女の口から衝撃的な一言が飛び出てきた。

ロッサ「デボノイド。20匹くらい。あと薔薇も」

琉「デボノイド!? するとさっきの文の内容は……。まぁ、良い。少なくとも俺は腹が減ったし、案内もしないといけないしな。こっちだ」

 琉は彼女を食堂まで案内した。

琉「基本的にここで飯を食べるんだ。まぁ、とりあえず座ってなさい」

 琉は奥の厨房に入ると冷蔵庫から野菜をいくつか取り出し、まな板に置くと切り始めた。切り終わると自前の中華鍋を熱し、油を敷いたらそこに今朝のご飯と卵を入れて炒め始めた。ご飯を炒めるとさっき切った野菜と缶詰の肉、塩コショウを入れ、仕上げに醤油を垂らす。たちまち辺りに香ばしい匂いが立ちこめた。

琉「よし、出来た出来た」

 琉は出来たモノを皿に盛るとテーブルに運び、席に着くと食べ始めた。

琉「いただきます」

ロッサ「……何、これ?」

琉「……これ? チャーハンだ」

 チャーハンは彼の得意料理である。船の上では水が手に入りにくいので、こういう炒め物が重宝するのだ。シチューのような煮込み料理は上陸した時の御馳走である。琉が食べ始めると、ロッサはその様子をじっと見始めた。目の前で、見たことのない料理を食べる様子はよっぽど珍しく感じるのだろう。しかし、琉はその視線を感じてすぐに食べるのを中断し、言った。

琉「やっぱ、食ってない人の目の前で自分だけ食うってのは気が引けるな。君も食べるかい?」

ロッサ「食べるー!」

 琉はもう一枚皿を取り出すと鍋に残った残り(いつも二人前は食う)を盛りつけて彼女に出した。

ロッサ「いただきまーす! ……おいしー!!」

琉「美味いか? それは良かった。人に飯を振舞うのは久しぶりだからね」

 琉は一時期コックとして他の船に乗っていたことがある。その経験を生かし、基本的に彼は自炊をしているのだ。そのため、料理には少々こだわりを持っている。
 琉の作ったチャーハンを美味しそうにほおばるロッサ。その様子を見ながら、琉はあることを考えていた。

琉(見た目や声とのギャップが大きいな。彼女の言動はまるで子供だ。まぁ、記憶がないせいなんだろうな……)

 食べ終わると、琉は使った皿を洗い機に入れて鍋を洗い始めた。洗い終わるとまた案内をし始めた。

琉「さて、今度は操舵室に案内しようか」

 琉はロッサを連れて操舵室まで行った。

琉「基本はここで作業だね。今は自動操縦だからやることないけどさ。…こら、勝手にスイッチをいじるんじゃない。まぁ、反応しないけど」

 ロッサはキョトンとしていた。さっきの扉のスイッチは反応したのにこっちは何も反応しないからだ。

琉「この船は俺の“声”がなければ動かない。他人には無理だってことだ。……そうだな、ちょっと待っててくれないかい?」

 琉は少し前に出た。そして、

琉「チャートマップ・ディスプレイ!」

 そういうなりスイッチを押した。すると画面に海図が映しだされた。

琉「この赤い点が今乗っているカレッタ号。この白く光っている点が港だ。一つの島に一つはあるぜ。今はこの一番近い奴、ハイドロ島に向かっている」

ロッサ「ハイドロ……?」

琉「あぁ、そういう名前の島だ。俺の生まれ故郷でね、君にあげた水はここで沸いたモノだぜ。……そうそう、さっき一番近いって言ったけど、着くのは多分明日の昼ごろになりそうだ」

 説明しておかねばなるまい。この物語が繰り広げられる世界はその約9割が海に覆われており、人の住める場所はごく一部である。かつて高度な文明が栄えていたことは判明いているのだが、その証となる遺跡は皆海の底に沈んでいる。また、遺跡の大半は島から離れており、探索してる間は陸に上がることすら出来ない。
 そのため、遺跡探索船はいくら小型でもその中で十分暮らしていけるだけの設備が不可欠である。実際琉も、上陸するのは実に1週間ぶりのことであった。

琉「今日はもう寝た方が良い。久々に歩き回って疲れただろう? 明日は俺の故郷を案内するからね、楽しみにしててくれ」

 琉はそういうと、ロッサを再び部屋まで連れていった。

琉「そうだな、ふとんの敷き方だけ教えておくか。ちょっと見ててくれ」

 琉はロッサの部屋で、押し入れからふとんを取り出すと広げ始めた。

琉「さっきも言ったけど、この中で寝ると良い。石の中よりはずっと良いはずだ。……って、気が早いだろいきなり入るとか……」

ロッサ「ふかふか~。気持ち良い~。ねぇ、琉も入る?」

琉「えぇっ!? あの、その、それは」

 思わぬことを言われ、琉は狼狽した。

ロッサ「どうしたの?」

琉「ふぇ? いや、その……おやすみ」

ロッサ「おやすみ~」

 琉はそそくさと部屋を出た。

琉(お、落ち着け俺……。しかし無邪気さ故とはいえ、あの体つきと声でふとんの中に誘うとか破壊力ありすぎだろ常識的に考えて……。って、何考えてんだ俺!?)

 しかしそれより彼には気になっていることがあった。ブリッジに戻った琉は一人考え事を始めた。

琉「ハルムを食らう存在……。彼女は本当に人なのか? ハイドロに戻ったらアイツに聞かないとな……」

 翌朝。琉は操舵室にて舵を切っていた。

琉「この調子だと思ってたより早く着きそうだぜ。港に着いたら飯にするかな。……そうだ、彼女を起こさないといけないな」

 琉は目の前の画面に部屋の一覧を出し、ロッサの部屋を選んだ。

琉「ロッサ、生きてるか? もう朝だぜ」

 部屋の中に琉の低めの声が響き渡り、ロッサは目を覚ました。

ロッサ「……んー。ここは……って、船の中か……」

 ロッサはふとんから出るとケープとサッシュを着け、琉の声のする装置の前まで行った。

琉「起きたか。操舵室に来てくれ。もうすぐ島が見えてくるはずだ」

 ロッサは部屋を出るとそのまま操舵室に向かった。操舵室では琉がおにぎりを片手に舵を切る姿があった。

琉「来たか。島はもうすぐだ。とりあえず、おにぎり作っといたから食べときなさい。君の分はこれだ」

 琉は自分のとは別の皿を指さして言った。大きめの皿に、これまた大きめの海苔を巻いたおにぎりが三つほど並んでいる。

ロッサ「おにぎり……これ?」

琉「そうそれ。こうやって食べるんだ」

 琉は手元のおにぎりを手に取り、かぶりついた。

ロッサ「はむっ。……」

 よほど腹が減っていたのだろう。ロッサは夢中になっておにぎりを食べていた。

琉「食べ終わった皿は食堂まで持ってってね。後で洗っとくから。場所が分からなくなったら言ってくれ。ついでに俺のも頼む」

 ロッサはおにぎりを食べ終わると自分のと琉の皿を持って食堂に向かった。食堂に入ると、そのまま洗い機に向かった。

ロッサ「確か、ここに入れてたはず……」

 琉がやったのと同じように、洗い機の中に皿を入れた。入れたらそのまま食堂を出て操舵室に向かった。

琉「ありがとう、助かるぜ。……数人で船に乗るのも悪くないな」

 ロッサは操舵室に戻った後、興味深そうに外を見ていた。青い空、白い雲、眩しい太陽。何もかもが今の彼女にとっては新鮮なものである。心なしか、彼女の赤い目はルビーのように輝いていた。その体つきや声こそ大人のロッサだが、中身は純粋な少女そのものであった。

ロッサ「あっ! ねぇ琉、あの海の上にあるのは何?」
 
琉「お、見えるか? あれが“島”だ。俺の故郷のハイドロ島だ!」

 琉は島を確認すると港に直行した。カレッタ号が港に入ると、そのまま船を岸壁に近付けた。

琉「アンカー・シュート!」

 琉は錨を下ろし、停泊した。

ロッサ「島に行くの?」

琉「いや、それは明日だ。今日は船の整備と、あと案内だな。ついてらっしゃい」

 琉はロッサを連れ、後部甲板へと案内した。

琉「今から船のメンテナンスをして来る。その間、ちょっと魚釣りをしててもらえないかな?」

ロッサ「魚釣り?」

琉「あぁ、魚を捕って昼飯のおかずにするのさ。まぁ、見てなさい」

 琉は立てかけてあった釣り竿を取り出した。そして近くにいたフナムシを捕まえると、針に付けて海に投げる。

琉「今日は海の透明度が良いな。魚が寄って来るのが分かるだろ?」

 ロッサは身を乗り出し、魚を指差して見ていた。

琉「やはり興味が尽きないみたいだな。まぁ、待つことだ。そのうち餌に食いついて……ってロッサ!?」

 琉の見たモノ。それは、近付いてきた魚のうち一番大きな個体の頭に、ロッサの指が伸びて突き刺さっていたのだ。彼女は魚を刺した指を縮めて魚を引き上げた。

ロッサ「この方が、早い」

 彼女の腕は二の腕からまるで手袋のように赤黒く変色しており、その長い指は鉤爪のように鋭く尖っている。魚は急所を突かれており、ほぼ即死していた。

琉「あ……。と、とりあえず鰓を切って血抜きしといてもらえるかな? そうそうそう、その爪を鰓の中に入れて……うん、切ったらそこのバケツに頭を下にして突っ込んでおくんだ。…じゃあ、この調子であと3匹くらい、大きいのをお願いできるかな? 俺は船の整備して来るから。じゃあ、よろしく!」

 それだけ言うと、琉は足早にエンジンルームに向かった。

琉「はぁ、はぁ、はぁ……。な、何なんだあれはーーーーッ!?」

 琉は自分の二の腕に手を置くと指先までなぞり、そのまま自分の指先を見ながら言った。

琉「あ、あの手は人の手じゃない……。一体何が起こっているんだ、俺は一体何を発掘したんだ? 大体彼女は何者なんだ!?」

 琉は自分の胸に手を当てた。これほどまでにないほど脈が速くなっている。

琉「落ち着け、落ち着くんだ俺……。そうだ、俺は何をしに来たんだ? 船の整備だ、エンジンの点検だ。とりあえず、様子を見ないとな……」

 一方、後部甲板では。

ロッサ「やった、二匹目!」

 ロッサは嬉々として魚を仕留めていた。二匹目の魚もやはり頭に突き刺さり、二、三度痙攣すると動かなくなった。彼女は魚の鰓に指先を入れて切り裂くと、バケツに頭を下にして入れた。そして再び海の中に狙いを定める。そんな彼女を、物影から見つめる者がいた。

??「あ、あれは……! いかん、すぐに知らせないと!!」

 その者はそれだけ早口に言うと、すぐさま何処かへ走って行った。

琉「ふぅ、整備終わりだ。まぁ、帰還が予想外に早くなったせいかな。異常はなしか。そうだ、魚は釣れたかな?」 

 琉は船の整備を終えると後部甲板に様子を見に行った。

琉「まぁ、あんなのは何かの見間違いだろうな」

 そう言いつつ、琉は後部甲板に向かった。だが、その時だった。

ロッサ「きゃあっ、何!? 誰!? 痛い、痛い! 放してよぉ!!」

琉「む、ロッサ!? 何があった!!」

 琉は後部甲板に向かって走った。

 バタン!!

琉「ロッサ! 何があった!?」

??「来い! 抵抗したら命はないぞ!」

???「人の姿をした悪魔め、大人しく裁きを受けよ!」

 甲板には、フードを深く被った男が二人でロッサを押さえつけていた。

琉「何なんだ、あいつらは? とにかく助けないとな……。パルトネール・シューター!」

 琉は腰に差したパルトネールを出し、更に懐から引き金の付いたモノを取り出すとパルトネールに取り付けた。するとパルトネールはロングバレルのマグナムを思わせる形の光線銃へと姿を変えた。

琉「パルトパラライザー!」

 先端からオレンジ色の閃光が走る。

??「うっ!?」

 男が一人倒れこんだ。

???「何だお前は!? 我々の邪魔をするというのか!!」

ロッサ「琉! 助けて!!」

琉「……お前さん、他人《ひと》の船に勝手に上がりこんじゃいけませんって、昔母さんか父さんに言われなかったのか?」

 琉は、ロッサを押さえつけている男に言い放った。

???「これは重大なことだ! お前は悪魔を匿うというのか? 神に逆らい、悪魔に魂を売り渡そうっていうのか!?」

琉「神? 何だお前さん宗教関係の人ですか、だったらお断りだ。見逃してやるからロッサを置いてさっさと行け」

???「貴様! 神に代わって天罰を下してくれる!!」

 相手はロッサを突き離した。そして懐からナイフを取り出し、琉目掛けて斬りかかる。琉はそれをかわすと、銃口を首筋に突き付けて言い放った。

琉「悪いことはいわん。そこの仲間を連れてさっさと船から降りろ。さもなくば頭ごと消し飛ばすぞ!」

???「おお、神よ。私は貴方のもとへと参ります。どうかこの者に天罰を……」

 ビシューン!

琉「安心しろ、パラライザーだ。俺に“前科”は不要だぜ」


 琉は二人を近くの建物に放り込み、船に戻るとバケツを見た。

琉「3匹捕れたか。あと一匹は欲しいかな……っておおっと!」

 丁度良いタイミングでロッサが獲物を引き上げた。

ロッサ「わあ、何これ、すごーい! っていうか、何かこれぐにゃぐにゃしてて柔らかーい!!」

琉「すごいすごい、これタコじゃないか! しかも結構デカいぞこれ!!」

ロッサ「うわわ! 何か巻きついてきた!?」

琉「ロッサ、眉間だ。目と目の間を直角に刺せ!」

 琉の言う通りにすると、タコは大人しくなった。

琉「さぁ、今日はごちそうだ、腕が鳴るぜーッ!」



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