12月27、28両日に竹芝〜三浦間に高速ジェット船が運航されるという情報をキャッチした。コースが東京湾をほぼ縦断するようになっているのに惹かれ、乗船の予約を取った。師走も押し詰まった東京湾の風景を尋ねる船旅となった。
東海汽船の高速ジェット船「セブンアイランド 虹」号
「21世紀の船出プロジェクト」とは、どのような企画なのだろうか? 家に帰ってからネットで調べたのだが、首都圏の8都県市(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・横浜市・川崎市・千葉市・さいたま市)が協力して、首都圏の広域観光を振興するために立ち上げたのがこの「21世紀の船出プロジェクト」である。その主な計画は5つに分かれている。
(1)東京湾での新たな船上エンターテイメント ―首都圏における新たな観光ルート開拓に向けて、東京湾を舞台にさまざまなルートでの運航実験を行い、新規航路への民間の取り組みを誘発
(2)広域周遊観光コースの提案 ―首都圏の観光スポットを結ぶ周遊も出るコースの提案と、首都圏周遊旅行の商品化
(3)TOKYO BAYコラボレーション ―首都圏観光の魅力をアピールする観光キャンペーンを8都県市、民間との協働で展開
(4)連携した外国人観光客の誘致 ―海外の旅行事業者、雑誌記者などに首都圏観光の魅力をPR
(5)首都圏エイトエイド
羽田空港のD滑走路建設のために用意された作業船
本日の実験運航は計画の(1)に当たる。計画に従って行われた実験運航は2008年だけでも10回に及ぶ。それらは次の通りだった。
1)観光船で結ぶ堀切菖蒲園&お台場(6月7・14日)
2)東京湾2大アイランド探検クルーズ(7/29〜31日)
3)工場夜景ジャングルクルーズ (8月16日)
4)船で行く「海ほたる」(8月25〜27日)
5)お月見クルーズと吟行俳句会(9月15)
6)大型客船による東京湾エンターテイメントクルージング(9月16日)
7)東京湾の大都市を結ぶ高速ジェット船運航(10月6〜7日)
8)高速ジェット船で訪れる京葉工業地帯工場見学(10月14〜16日)
9)秋の東京・横須賀クルーズ(11月5日)
10)東京〜三浦に高速ジェット船運航(12月27〜28日)
クリアファイルの中の書類は、ジェット船の案内と航行時の注意、アンケート、三浦市の紹介と三崎漁港周辺の観光パンフレットだった。
初めて高速ジェット船に乗船する
出航は12時30分なのだが、すでに12時過ぎには乗船口にかなり長い列ができていた。中には大島行きの船と間違って並ぶ人もいる。待たされること約20分、乗船の手続きが始まった。手続きを終えて埠頭へ出ると、カラフルに塗装されたジェット船が横付けされていた。船の名前は「セブンアイランド 虹」号。44ノット(時速約80km)の速力を誇る。客室は1階と2階に分かれており、座席定員は254名となっている。
2階に設けられた入口から乗船した。客室はリクライニングシートが横1列に並んでおり、まるでワイドボディの旅客機のキャビンを思わせる。高速ジェット船は航空機メーカーによって建造されることが多く、この船はどうか知らないが、佐渡航路に就航しているジェット船はボーイング社製だそうだ。
1階の窓側の席に座る。座席の作りも旅客機そのもので、荒天時の航行のためにシートベルトが付いている。席はどうやら満席でなく、1階中央部の席は多くが空席のようだった。この様子から推測すると、今回は定員の3分の2ぐらいの客数のようだ。午前出発の便もあるので、そちらの方は満席だったのかもしれないが……。
独特の甲高い音が鳴ると、船が岸壁から離れ始めた。客室前部のモニターから航行時の注意事項を説明する映像が流れ始めた。まだ浮上航行はしていないはずだが、それでも船体の揺れはほとんどない。
出発してから約5分でレインボーブリッジの下を通り抜けた。それからあまり時間が経たないうちに大井埠頭が見えてきた。さすがに大晦日近くは埠頭に2隻の貨物船が停泊しているだけで、荷役作業がされているようには見えなかった。
15分ほどで羽田空港沖に達する。羽田は現在D滑走路の建設工事が進行中で、現場には多くのクレーン船が停泊している。その上を空港へ着陸する旅客機が通り抜ける。D滑走路は造られる場所が多摩川の河口にかかってしまうため、海側の埋め立て部と河口側の桟橋部とに構造が分かれている。工事の進行状況は、桟橋部の基礎部分がほぼ完成のようで、埋め立て部も外周部分が姿を現していた。
アクアラインのトンネル部分から突き出た「風の塔」を過ぎると、川崎港である。ここも扇島と思われる埠頭にタンカーらしき船が1隻停泊しているだけ。そういえばこの辺に達するまでにすれ違ったり併走したりしている船をほとんど見かけなかった。
首都高速湾岸線の鶴見つばさ橋が見えてくると、すぐに横浜港沖に達する。ここまでにかかった時間は約25分。何隻かの船がベイブリッジを目指して航行しているのが見えた。東京港側から来る船もあれば、浦賀水道側から来る船もある。これから浦賀水道へ向かう日本郵船の貨物船が見えた。自動車運搬船の「コンチネンタルハイウェイ」だろう。
東京湾の各港に入出港する50m長の船は、観音崎にある東京湾海上交通センターに事前に連絡してその管制下に入ることになっている。そのうち150m長の大型船は入出港時の情報をセンターのwebサイトに公開される。
公表されている情報は浦賀水道航路入り口への到着時間、船名、船種、総トン数、全長、国籍、入出港する港名、パイロット(水先案内人)の有無である。このサイトをあらかじめ調べておけば、東京湾に出入りする大型船の詳細がわかる。28日に東京湾に入る大型船は20隻、東京湾から出る大型船は27隻だった。多くの会社が休暇に入った時期だけに、さすがに数は少なかった。ただしこの少なさは、最近の景況の激変も影響しているのかもしれない。
浦賀水道を抜ける
横浜港沖を通過してから15分後に、ジェット船は第2海堡のそばを通り過ぎた。大きな岩礁のような人工島の上に白い建屋と灯台が見える。確か明治時代に東京湾の防衛のために作られた砲台だったはずである。現在では無人島になっている。ジェット船の右斜め前方には猿島も見える。
ここからジェット船は浦賀水道に入る。東京湾の最大の「難所」である。東京湾の各港から出港する船と、国内外から東京湾に入ってくる船がここに集中する上に、久里浜と浜金谷を結ぶ東京湾フェリーの航路が交差し、さらに湾内の漁船の多くがここで漁をするため、船同士が錯綜するのだ。通常は大型船が数珠繋ぎになってここを通過し、その進路のすぐそばで漁船が操業している。
この日も数多くの漁船が出ていた。漁船は何隻かが固まりになって、あちらこちらに漂っていた。ちょうど観音崎の沖合いで、灯台と海上交通センターの建物が見えた。
久里浜の先で小さな油槽船を追い抜く。その先には砂浜が、さらにその先には三浦半島の丘陵地帯が見える。浦賀水道の周辺とその奥とでは、海岸の風景がまったく異なる。ここでも多くの漁船と出合った。
いよいよ目的地の三崎漁港に近づく。東京湾の最南端である。ここまで来ると、外洋からの波が入ってくるからか、波頭が高くなり、ジェット船の揺れもやや目立つようになって来た。
ジェット船の向かう先に城ヶ島と城ヶ島大橋が見えてきた。ジェット船が速度を落とし始める。剱崎近辺の海岸線は荒々しい磯浜となっている。その海岸線を横目に見ながら城ヶ島大橋へ近づく。大橋の下を取り抜けると、そこは三崎漁港である。港には水産庁の調査船が4隻停泊していた。13時45分、ジェット船は定刻通りに三崎漁港に着いた。
この航路の可能性
三崎漁港は遠洋漁業の基地で、ここから世界の海へ向けてさまざまな漁船が出漁する。特に有名なのがマグロ漁で、漁港の周辺にはあちこちにマグロ料理店がある。ジェット船に乗った客にはマグロ汁のサービスがあると聞いたので、船が着いた埠頭に設けられた配給場所へ行ってみた。
味噌ベースの汁の中に、骨付きのマグロと白菜、ニンジンなどの野菜が入っていた。なかなかいける味で、1杯だけでも身体が温まった。昼食を取ってなかったのでこれだけでは足りず、漁港前のマグロ料理店で改めて食事をし直した。そこで食べたマグロのスペアリブは、しつこ過ぎない味がよかった。
この航路の可能性だが、潜在的な需要は大きいのではないかと感じた。東京の竹芝と三浦の三崎を1時間15分で結ぶという点は大きなセールスポイントである。京浜急行の品川〜三崎口間が快速特急で約1時間10分かかり、その後路線バスに乗り継ぐとさらに30分弱かかる。
三浦半島の道路は三崎漁港に近づくにつれ複数の道がひとつに収束するので、渋滞が発生しやすい。実際筆者も休日に2回ほど車で三崎を訪れたことがあったが、一度渋滞に突っ込んでしまうと、そこを抜けるのに大変な思いをしたことがある。このような三浦半島の交通事情は、この航路には有利に働く。またジェット船にはかなり大きな旅客輸送能力がある。
東京湾を縦断することも魅力的な点である。今回ジェット船で縦断してみて始めて東京湾の持つ多彩な表情に気づかされた。超高層ビルの林立する場所があるかと思えば、石油コンビナートや製鉄所があり、無人島や砂浜、磯浜がある。そして大型の貨物船が行きかうそばで漁船が操業しているという風景を何度も見かけた。そのような光景が見られるだけでも、それなりの需要を生むだろう。
具体的な運航計画を立てるとすれば、毎日の定期運航とし、大都市でのフリークジェンシーを考慮すれば平日には2〜3便、休日には5〜6便運航すれば十分なのではないだろうか。その際三崎港には専用の客船ターミナルを設ける必要がある。
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