正義が行われた−。国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者殺害について、米国のオバマ大統領は声明の中でこう表現した。アルカイダとの戦いで、殺害か拘束を最優先にしてきた、とも述べている
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2001年の米中枢同時テロを首謀したとされ、世界各地で相次ぐテロへの影響力を考えれば、多くの国がオバマ氏の決断を評価するのは当然かもしれない。けれど、殺害するしか方法はなかったのか、との素朴な疑問がわいた
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米政府筋が共同通信の取材に、作戦命令は当初から殺害だったことを明らかにした。莫大(ばくだい)な裁判費用、容疑者の身柄奪還を狙ったテロの可能性など、総合的に判断した結果、という。事実だとすれば、抵抗したから殺害したというこれまでの説明は偽りになる
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裁判で本人の言葉も聞けなくなった−。10年前、テロの標的となった米国の世界貿易センタービルで働いていた息子を失った日本人夫婦の思いである。「9・11」テロの真相が分からないままでは息子の死を受け入れられない、との訴えが忘れられない
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今回の作戦がどのような波紋を広げるのか、予測できない。第2、第3の「ビンラディン」が生まれ、テロの連鎖が続くことにはならないか。オバマ氏は「正義」と断定したけれど、本当にそうなのか。独り善がりな面はないのか…。幾つもの疑問が頭の中を駆け巡っている。