①赤川次郎コラムにおける平和主義者の危機管理意識の低さ
赤川次郎の朝日新聞夕刊3月24日「三毛猫ホームズと芸術三昧!」というコラムを読んで
そら恐ろしくなってしまった。
特に下記の部分だ。
『今回の大震災の被害の全容が明らかになるには時間がかかるだろう。
復興には莫大な費用が必要になるのは明らかだ。
まず「防衛費」を大幅に削って復興費に充てるべきである
(救助にあたった自衛隊医院への手当は別として)。
戦闘機や戦車がどんなに優秀でも、犬一匹も救うことはできないのだから。』
この絶望的な危機管理意識の低さは、
いわゆる平和主義者を自称する人たちに共通のようで、
ここの部分を誉めたたえているブログがいくつもあるのが、
ますますもってそら恐ろしい。
赤川次郎や大江健三郎など、平和主義を唱える作家たちはよく「想像力」という言葉を口にするが、
自分らが他国の戦力によって攻撃されることに対する想像力は皆無なのだろうか?
現在の福島の危機においてさえ、そういう想像力がまったく働かないのは、私には理解しがたいことだ。
②あなたが日本を攻撃する側なら日本のどこを攻撃するか?
自分が日本を攻撃する側になって考えてみよう。
あなたが、「尖閣諸島」の海底に眠る時価数百兆円以上の地下資源がほしいとする。
あなたは十分な戦力を持っているが、なるべく犠牲者は出したくない。
そこの地下資源を得るために、日本を攻撃するとしたら、
どこを攻撃するだろうか?
勘のいい方は、福島原発事故が、実は日本の軍事的弱点を
世界中に、これでもかと晒してしまったものだということにお気づきだろう。
そう。
日本の海岸沿いに55基もある原発のいずれかを攻撃するのが、もっとも手っ取り早いのだ。
一基や二基だけでも、冷却機能を支える電源の部分が止まってしまえば、
原発は臨界事故の危機に陥り
日本は、「防衛」どころではなくなってしまう。
特に危険なのは、原発の建家に愚かしくも堂々と何の戦略的保護もないままに、
保管されていることが明らかとなった使用済み核燃料庫(貯蔵プール)だ。
ここを攻撃されれば、すぐさまメルトダウンの危険に陥り、日本は「防衛」どころではなくなってしまう。
こうやって日本の防衛力が弱まってしまった時に、
「尖閣諸島」を実効支配するのが、いちばん手っ取り早い。
ヤクザや喧嘩の達人は、欲しい物を手に入れるときに必ず相手の弱点を攻撃する。
相手が入院すれば、その時を狙って「タマ」や「シマ」を獲りに来る。
それと同じことは、戦争にも言えるのだ。
実は中国でこの10日間ほどにこういう報道が二本あった。
24日付の中国軍機関紙・解放軍報は、福島原発事故をめぐる特集記事を掲載した。この中で、ハイテク時代を迎え、原発が攻撃目標になりやすいとして、原発の防空警戒能力強化の必要性を訴える軍事専門家の見解を紹介。日本の事故を受け、中国軍当局も対策を重視し始めたことをうかがわせた
「大震災に乗じて尖閣奪取を=「中国の好機」と香港紙」3月19日
(時事通信社記事は掲載期間終了だが、キャッシュで読むことができる。)
香港紙・東方日報は19日の論評で、日本が大震災で混乱している機に乗じて、中国は尖閣諸島(中国名・釣魚島)を奪取すべきだと主張した。
香港では日本に対する支援ムードが広がっており、同紙のこうした主張は異色。論評は「中国が釣魚島を奪回するには、コストとリスクを最小限にしなくてはならず、今が中国にとって絶好のチャンスだ」との見方を示した。
私が書いていることを裏付ける話だということが、わかっていただけるだろうか。
③原子力発電維持の為には莫大な軍事コストがかかることが判明した。
赤川次郎は『戦闘機や戦車がどんなに優秀でも、犬一匹も救うことはできないのだから。』
と書いているわけだが、
そりゃ確かに、赤川さんの大好きな三毛猫を救うことはできなくとも、
戦闘機や弾道弾迎撃ミサイルが、優秀であればあるほど有事の際に原子力発電所を救う可能性は高くなる。
これだけの弱点を世界に知らしめてしまったわけだから、
日本は、是が非でも弱点が攻撃されないように、今まで以上に力を入れて守り通さなければならない。
ということは、日本は、原子力発電所運営を続ける限り、
莫大な防衛費コストを原発に注ぎ続けなければならないということになる。
一機40億円のF-16戦闘機を一原発あたり、たった一機ずつ配備するだけで2200億円だ。
「コスト的に他の発電より原発が優位なのだよ」という原発推進論者の議論は、
ここの一点に限ってみても、眉唾だということがよくおわかりになるだろう。
馬鹿げた話だ。
そして電力会社という私企業が作り運営している原発という施設を、
「危険だから国力で全力で守らなければならない」というのは、これもまた実に馬鹿げた話なのだが、
こういうことを扱っている論評は、まだほとんど目にしたことがない。
さて日本で平和主義者と呼ばれる人たちの最大の欠点は、
「自分らが戦争の加害者になることを避ける」ということにばかり熱心で、
「自分らが戦争の被害者になること」についての視点が皆無なことだ。
それは、残念ながら赤川次郎のような著名な作家においても同じことらしい。
現在の惨状を見てさえ、防衛費を削れと言っている方々、
私もあなたがたと同じで、平和が大好きで戦争が大嫌いで、ジョン・レノンの「イマジン」が好きだ。
あなたがたと私とは、ただ一点、現状に関する危機意識の持ち方が違うだけなのかもしれない。
そういういうことがわかっていただければ、
軍縮よりもまず先に、「反核」「脱原発」こそが、
生きとし生けるものの、いのちの危険を避ける近道だということもわかっていただけるだろう。