同社は食肉卸業者「大和屋商店」(東京都板橋区)が生肉の表面を削ってアルコールで消毒し、真空パックにしたものを購入、全20店舗へ納品していた。保健所は生肉を客に提供する場合、トリミングするよう指導していたが、同社のマニュアルではパックを開封後は原則、表面をペーパーでふき取るだけで、包丁でさばき提供することになっていた。同社は「もったいないとの意識があった。企業として甘さがあった」としている。
また、1度で提供できず、残った生肉は冷蔵庫で保管し、翌日提供するという、2日間を意味する「デイ2」という独自ルールを定めていたことも判明。同社幹部は「衛生管理上(安全を保証する)根拠があったわけではない。安全に対する意識が低いと言われても仕方がない」と話した。
同社は1997年に勘坂(かんざか)康弘社長(42)が創業。1皿100円の豚ばらや同280円の和牛ユッケなどの格安メニューで、主に家族連れ客に人気が集まった。急拡大し始めた2009年、肉の調達先を「大和屋商店」に変更した。安さなどが理由とされる。さらに同じころ、肉の自主検査もやめた。同社幹部は「経営が急拡大する中でひずみが生じた。安全の優先度は低く、ワンマン経営で意見も聞き入れられなかった」と打ち明けた。
勘坂社長は金沢経済大学(現・金沢星稜大学)在学中にディスコで黒服のバイトをし、卒業後、商社へ勤めたが2年で退職。その後、起業の業態選定のために半年、東京にいた際に焼き肉店を見て決めたという。関係者は「東京から戻ってきて、独立のため地元の工場で2年半ほど働き、月の手取り約33万円で1000万円ほどためた。貯金術は『とても簡単。使わなければいい』と言っていた」と話した。
いわば“ケチケチ人生”の裏返しが、重要なトリミングをもケチる「コスト削減」に走った原点なのか。合同捜査本部は6日の家宅捜索で、伝票や衛生管理マニュアルなど約1000点を押収。家宅捜索に立ち会わなかった勘坂社長は同夜、自宅前で「真実を世の中の人に証明することが最も大事。全面的に協力させていただきます」と神妙な面持ちだった。
(紙面から)