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2008年3月11日 (火)

I'm loving it. はどういう意味か?

   マクドナルドのキャンペーン・フレーズになっている
   
   I'm lovin' it. (= I'm loving it.)
   
という「非標準英語」に対する反応は様々あるようです。フリー百科事典のウィキペディア(Wikipedia)では、

   <英語においてloveのような感情や状態を表す動詞は進行形にしないので、このフレーズは文法上は正しくないと思われる。しかし進行形には強意表現というものがあり(例えばI'm not believing it.)実は正しい>
   
と書いている一方、"I love it." と "I'm loving it." を「正攻法」で比較したサイトも見られたり、少し怖い解釈によると、この"I'm loving it." はもともと母体が "i am loving it." であり、これを「ダヴィンチ・コード」みたいに「言葉の並べ替え」をすると、とんでもない意味に発展する!といったものや、マクドナルドの重役さんの「声明」を検証し、新たな新機軸ビジネス拡張を意味するものである、など、まさに三者三様といった感じです。

   正攻法で解説したものは、実際にネイティブが "I'm loving it." を使った状況から解説されたものなので、かなり説得力をもっています。これで勝負あり、といった感じでしょうが、私は別の解釈をもっています。
   
   まず、英語を母語とするネイティブが使ったから「正解」であると考えるのはおおむね正しいと直感的にわかるでしょう。しかし、日本人が日本語を使っていても間違えることがあると「直感的にわかる」のと同じように、英語のネイティブが英語を使っても間違える場合があることも「直感的にわかる」はずだと思いますが、どうも後者に関しては「勘」が鈍っているようですね。
   
   "I'm loving it." を使ったネイティブは、音楽アートの世界では珍しくない歌詞であるように、非標準であっても「使ってはいけない」ものではないと判断し、自分の表現として使ったのだと思います。よく「四文字言葉」を口癖のように連発するネイティブがいますが(日本人もいます!)、あれも「自分の表現の中に当たり前のように存在している」から堂々と使っているわけなので、聞く人が不快な思いをすることをまったく気にしなければ「使ってはいけない理由」はないのです(私はひどく不快な気分にさせられますから、ひどい場合には「やめてくれ」と言います)。

   次に、そのネイティブがどういう心理状況で "I'm loving it." を使ったのか未検証のまま、母語を話すネイティブだからと「承諾」してしまうところが問題です。簡単に言えば、ネイティブが使った状況と同じ状況が到来したとき、果たして「自分」は使いたくなるのか、使うべきなのか、を本当は考えなくてはならないからです。
   
   この "I'm loving it." を和訳するとどういった感じになるのでしょう?非標準ですから、またはコチコチの英文法家だったら「間違い」「×」になる表現なので、訳しようがない、それは "I'm knowing you." を和訳しろというのと同じことじゃないか!と叱られてしまいそうです。
   
   訳はこれも色々ありそうですが、私は「直感的」に "I'm loving it." を見たとたん、ダウンタウンがやっていたテレビ番組
   
   「ごっつええ感じ」
   
に似ているのではないかな、と思いました。それは、「現在進行形」が、

   「今だけ」
   
を表すからそう思ったのです。"I'm loving it." のもっともポピュラーな解説は、「現在の気持を強調している」というものですが、これは「現在進行形」という「進行中」の事態展開がそのように結果づけることになると思われます。

   しかし、それは現在進行形の「性」を半分しかとらえていません。現在進行形のもっとも根幹たる「個」と言えば、上述のように「今だけ」なのです。つまり"I'm loving it." は「今だけ大好き」なことになり、この it を自分を取り巻く雰囲気として解釈すれば、「ごっつええ感じ」になると思うのです。
   
   私はこの "I'm loving it." を自分の表現の中にはストックしていません。それは非標準だから、文法的に言えば完全な「間違い」だからというのではありません。どうやっても「今だけ好き」になる対象や人を想像しにくく、そんな気分には到底なれないと思うからです。いうまでもなく、誰かが好きになって告白をしようとしても "I'm loving you." とは絶対言いたくありません。「今だけ結婚しよう」などというのと同じで、完全に「誤解」を招いてしまいます(それを求めている人はも大勢いるといると思われますが)。
   
   現在進行形をもう少し色濃く見れば、「今やっている」ことはなにより自分が意識できうるもっとも具体的な時制であるようで、だからこそ「現在の気持を強調している」という解釈が生まれるものだと思います。「過去」のことは頭がボンヤリしていたら何をやったか思い出せないし、「未来」のことはどう転んでも見えてはこないものです。とすれば現在進行形は「最強」になるのか、と言えばまったくそうではないと思うのです。
   
   「現在進行」は手を休めるとアッという間に「過去」になってしまいます。そしてその空白時間が経つと頭の中はさっきまでやっていた現在進行が「過去進行」になって意識されることになります。つまり、現在進行形とは実にもろいものなのです。現在の気持が「最大」であっても、「最短」であることも予想できるのです。「今だけ」というのが、オールマイティな気持にさせてくれるのですが、それは儚く消えてゆく陽炎のような存在なのかも知れないのです。
   
   そのような不安定な進行形で表された "I'm lovin' it." が、いかにネイティブによって発話されたとしても、私には即「使えるぞ」とは思えず、またそのような機会もあえて探そうとはしないのです。
   
   ちなみに、"I'm knowing you." を和訳してみるとどうなるでしょう?「今だけ」という意味に限定されるので、
   
   「あなたのこと、今だけ知っているんだ」
   
となることでしょう。やっぱり、少しへんですね。

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