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原発:「長時間電源喪失」 報告書生きず 原子力安全機構「1時間40分で炉心溶融」

 ◇「長時間電源喪失、想定外」 原子力安全機構、昨秋「1時間40分で炉心溶融」

 国内の原発には、原子炉冷却の「命綱」とも言える電源を長時間失う事態への対策が用意されていないことが判明した。一方、原子力安全基盤機構が昨秋公表したシミュレーションによると、電源を喪失し、冷却機能を失った原子炉は、わずか1時間40分ほどで核燃料が溶け出す炉心溶融を起こすなど、短時間で危機的状況に陥ることが指摘されていた。最悪の事態が予想されていながら、対策を怠っていた国や電力会社。設計や審査のあり方が見直しを迫られるのは確実だ。【須田桃子、河内敏康、西川拓、足立旬子】

 原子力安全基盤機構は経済産業省所管で、原子力施設の安全性を研究する独立行政法人。10年10月、7タイプの原子炉を対象に、地震時の主な過酷事故の流れをシミュレーションした結果を報告書にまとめた。

 福島第1原発の2~5号機と同じタイプの沸騰水型軽水炉(出力80万キロワット)について、電源を喪失し、原子炉への注水ができなくなり炉心の冷却が止まった場合、事故がどのように推移するかを調べた。その結果、注水不能になって約1時間40分後に核燃料の溶融による落下が始まり、約3時間40分後に原子炉圧力容器が破損、約6時間50分後には格納容器も破損すると予測された。

 実際の事故では、福島第1原発1号機が注水不能に陥ってから約8時間40分後の12日午前1時20分に格納容器の圧力が異常上昇、容器内の蒸気を放出したが、同日午後3時36分に水素爆発を起こした。3号機でも、注水不能になってから約3時間半後に蒸気を放出したが、14日午前11時過ぎに水素爆発を起こした。電源喪失後、電源がなくても、原子炉の余熱を利用する冷却機能がしばらくは働いていたため、同機構の解析より緩やかに事態が進展したとみられる。

 過酷事故の対策では、事故のきっかけとなる出来事が起こる可能性が低くても、対策を取ることが求められている。福島第1原発の事故では、非常用ディーゼル発電機が津波の被害を受けたために電源が失われたが、従来、非常用発電機が長時間全て使えない事態は想定されていなかった。

 吉田正・東京都市大教授(原子炉工学)は「非常用発電機が全滅するとは、私を含め誰も思っていなかった。悪い方への想像力が欠けていた。設計指針や国の審査のあり方を根本的に見直す必要がある」と話す。

 松岡猛・宇都宮大客員教授(システム工学)は「予測された事態が実際に起こった時の被害の規模や社会的損失の大きさを考えれば、どれほど電源喪失の確率が低くても、政府が対策を指示すべきだった。原子力安全委員会など政府の責任ある立場の人たちに、こうした知見を活用する視点が欠けていたのだろう。各電力会社にも、基盤機構の結果をもとに、独自の解析をする力はあったはずだ」と指摘する。

毎日新聞 2011年4月19日 東京朝刊

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