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きょうの社説 2011年5月7日
◎えびす強制捜査 罰則含めた基準強化が必要
富山、福井両県の焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」で食事した4人が死亡した集団
食中毒で、両県警は、チェーン店を経営する金沢市の会社や東京都内の食肉卸業者などを家宅捜索した。病原菌の感染ルートを解明し、管理や流通経路に問題がなかったか徹底した捜査を求めたい。また、この集団食中毒を通して、焼き肉業界で、加熱用食肉が生食用として恒常的に使用されている実態が明らかになっており、今後、従来の衛生基準を改め、罰則規定など拘束力をもった基準の厳格化は避けられまい。一連の食中毒では、富山、福井、神奈川の各県の店舗で6日までに100人以上が食中 毒症状を起こし、6歳から70歳までの4人が死亡するなど被害が拡大している。病原菌がいつ付着したのか、仕入れの過程でチェーン店を経営する会社と卸業者の間に、安全管理の面で意思疎通が十分図られていたかも合わせて解明を急ぎたい。 厚生労働省が1998年に都道府県などに通知した生食用食肉の衛生基準では、サルモ ネラ菌などが陰性であることや、専門設備での解体、加工、保存などの規定がある。しかし今回の食中毒を通して、これらの基準に沿って正規の生食用の牛肉が出荷されたケースは、2007年度以降ほとんどないという実態が明らかになった。 店では、食肉納入後、菌の付きやすい表面をそぎ落とさずに使用したことや、売れ残っ たユッケを翌日も客に提供していたことも分かった。こうした不備の背景には、強制力がないため、現場レベルで基準がしだいに形骸化していった実態があったのではないか。 消費者の側からすれば、加熱用の肉を生で食べるという、安全性の面で一種綱渡り的な 現実があったことを、今回の集団食中毒で初めて知った人がほとんどだろう。それだけに焼き肉業界全体への痛手は計り知れない。 焼き肉は、ユッケなどの生食メニューも含めて、日本の庶民の間に広く定着している食 文化であろう。今後、安心して焼き肉を楽しめるように、衛生面での基盤整備を軸に、信頼回復への仕切り直しが必要だ。
◎浜岡原発停止へ 高まる電力不足の懸念
中部電力の浜岡原発(静岡県御前崎市)で稼働中の4、5号機について、中電が政府の
停止要請を受け入れる方向になったのは、東日本大震災による福島第1原発事故が現実のものとなり、原発の「安全神話」が大きく揺らいだためである。浜岡原発は東海地震の想定震源域の真ん中に位置している。「今後30年間に、この地域でマグニチュード8級の地震が発生する可能性は87%」という政府の地震調査研究推進本部の調査結果を突き付けられ、政府から強く中止を求められたら、「ノー」と言えるはずがない。浜岡原発は、1、2号機が運転終了し、廃炉となることが決定している。現在は3号機 が点検のため、運転を停止し、中電は7月の再稼働を検討していた。4、5号機の運転停止により、3号機の稼働も事実上、凍結されたと受け止めてよい。稼働中の原発停止は、北陸電力の志賀原発1、2号機の再稼働をめぐる論議にも大きな影響を与えるだろう。 問題は浜岡原発の停止によって、電力不足の懸念が中電管内にも広がり、ひいては北電 や関西電力管内にも及ぶことである。浜岡原発4号機は113.7万キロワット、5号機は138万キロワットの出力を誇り、再稼働を待つ3号機の110万キロワットと合わせて計361.7万キロワットを生み出す。中電は東京電力に100万キロワットの電力を供給しているが、これまで通り電力供給が続けられるのだろうか。 関電は中電から要請があれば、電力提供を行うとしているが、そもそも関電の原発比率 は5割を超えており、安閑としてはいられない。志賀原発の再稼働のめどが立っていない北電も、万一のときに関電や中電からの電力提供があてにできないとなると、夏場の電力供給に懸念が出てくる。 浜岡原発4、5号機の運転停止要請は、菅直人首相が6日夕の会見で明らかにした。地 元自治体も寝耳に水で、驚きを隠せなかったという。菅首相は「電力需給に支障が生じないよう、最大限の対策を講じる」と強調したが、本当に十分な検討をした末での決断なのか不安は募るばかりだ。
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