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2011年5月7日(土)付

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浜岡原発―「危ないなら止める」へ

近い将来に発生が予想される東海地震の想定震源域の真上にある中部電力の浜岡原発について、菅直人首相は運転中の4、5号機を停止し、定期検査中の3号機の運転再開も見送るよう中部電に要請した。[記事全文]

生肉食中毒―あいまい基準を改めよ

焼き肉チェーン店「焼肉酒家(さかや)えびす」で集団食中毒が起こり、富山、福井両県で4人の死者が出た。牛の生肉を用いたユッケが原因と見られている。富山、福井両県警は強制捜[記事全文]

浜岡原発―「危ないなら止める」へ

 近い将来に発生が予想される東海地震の想定震源域の真上にある中部電力の浜岡原発について、菅直人首相は運転中の4、5号機を停止し、定期検査中の3号機の運転再開も見送るよう中部電に要請した。

 東京電力の福島第一原発が想定外の惨事を引き起こした以上、危険性がより具体的に指摘され、「最も危ない」とされている浜岡を動かし続けるのは、国際的にも説明が難しい。日本周辺の地殻変動が活発化しているとの懸念もある。中部電は、発電量に占める原発の割合も低い。首相の停止要請の判断は妥当だ。中部電は速やかに要請を受け入れるべきだ。

 ただ、中部電の需給見通しでは、浜岡をすべて止めた場合、夏の需要ピーク時に余裕を見込むと、数%の節電が必要になる。産業界や各家庭でも節電に協力したい。

 中部電は大震災を受けた緊急対策として防潮堤の増設などを計画している。停止はこの工事が完成するなど中長期的な防災対策が整うまでの措置という。

 ここで考えたいのは、前提が「安全神話」から、世界最悪の事故が起こりうることに様変わりしたことだ。専門家も予想しなかったM9.0の大地震が起きた以上、浜岡での地震の強さ、津波への想定、設備の頑丈さなどについて中部電は妥当性を証明する責任がある。

 原発震災は想像を絶する巨大さ、複雑さ、速さで進行する。停電、放射能漏れ、計器の不調、余震の続発などで作業員の行動が極端に制約される中、いざという時は、速やかに廃炉も辞さない判断を下せるのか。中部電は疑問を氷解させる責任があるし、国も厳しく審査しなければならない。

 福島第一原発事故は、国の安全基準や審査プロセス、規制機関のあり方など、原子力行政そのものに見直しを迫っている。国は浜岡の停止期間中に新たな体制を整えるべきだ。

 夏場の需要期への対応や、収益見通しを立てるため、各電力会社は定期検査中の原発の運転再開を模索している。

 濃淡に差はあれ、ハイリスクと懸念される原発は浜岡以外にもある。活断層の真上に立つ老朽原発、何度も激しい地震に見舞われた多重ストレス原発……。立地条件や過去の履歴などを見極め、危険性の高い原発を仕分けする必要がある。

 すべての原発をいきなり止めるのは難しい。しかし、浜岡の停止を、「危ない原発」なら深慮をもって止めるという道への一歩にしたい。

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生肉食中毒―あいまい基準を改めよ

 焼き肉チェーン店「焼肉酒家(さかや)えびす」で集団食中毒が起こり、富山、福井両県で4人の死者が出た。牛の生肉を用いたユッケが原因と見られている。

 富山、福井両県警は強制捜査に入った。食肉処理施設から卸業者、焼き肉店へと流通していく過程のどこに問題があったのか、徹底して解明してほしい。

 捜査とは別に浮き彫りになったのが、肉類を生食用に販売する際の国の衛生基準が有名無実となっていた実態である。

 衛生基準は牛と馬の肉、肝臓(レバー)が対象で、内容はこうだ。病原性大腸菌のO(オー)111やO(オー)157を含む糞便(ふんべん)系大腸菌群などが陰性であること。流通の各段階で定められた加工・処理の方法に従うこと。卸業者や飲食店は設備や包丁などを生食専用とし、トリミングと呼ばれる表面処理を行うこと。販売する際は、生食用であることや処理場名などを示すこと。

 ところが、厚生労働省によると、「生食用」と明示して出荷されているのは馬だけで、牛はここ数年、ほぼ皆無とみられている。卸業者や飲食店が衛生基準に従って処理すれば加熱用を生食用として差し支えないが、その実態は不明だ。

 衛生基準が決められたのは1998年。その2年前にO157による食中毒が続発したことがきっかけだった。基準が出た後は「生食用」と表示された商品が流通していたという。しかし、基準に罰則がないこともあり、形骸化していったようだ。

 関係者はこうした実態を知っていたはずで、業者も行政も風化を追認してきたと言われても仕方あるまい。

 わが国には、魚を刺し身で食べる食文化がある。ユッケはもともと韓国料理だが、日本でも定着し、人気商品になっている。しかし、肉の生食をめぐるあいまいな実態は消費者には十分伝わっていなかった。お店のメニューに載っていれば、誰でも安心して食べるだろう。

 まずは現行の衛生基準の原点に立ち返ることだ。厚労省は、卸業者や飲食店への緊急調査を都道府県に要請し、罰則付きの新たな基準を検討する。なぜ現行の衛生基準が守られなくなったのか、しっかり分析し、有効な仕組みを作ってほしい。衛生基準自体がない鶏肉を対象に加えることも検討課題だろう。

 私たちも、改めて確認したい。菌への抵抗力に乏しい幼児や子ども、お年寄りは生肉を控える。食べたい人は、安全性をチェックしているかどうか、お店に尋ねる。最低限の自衛策として心がけたい。

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