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[27528] 【ネタ】私設武装組織ソレスタルキュービーイング(ガンダム00+キュゥべえ)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/05 17:53
本ネタにはまどか☆マギカ本編の重大なネタバレが含まれています、ご注意下さい。


A.D.2307、AEU軌道エレベーター、AEU軍事演習場にてモビルスーツイナクト、AEU初の太陽エネルギー対応型の発表。
人革連軌道エレベーター天柱、その静止衛星軌道ステーションで電力送信10周年を記念する式典が行われている所へのテロリストの襲撃。
その両者に対しての機動兵器ガンダムによる介入が行われた。
後者においてはガンダムによってテロリストの襲撃を迎撃され、テロは防止された。
そして翌朝、UNION、経済特区東京でニュースが放送され、あちこちのモニターにアナウンサーの姿が映しだされる。

[おはようございます。JNNニュースの時間です。まず最初は人類革新連盟の軌道エレベーター、天柱の高軌道ステーションで起きた襲撃事件の続報です。日本時間の今日未明テロリストと思われるモビルスーツにより人革連の高軌道ステーションが襲撃にあい、ミサイルが発射されました。しかも、正体不明のモビルスーツがこれを迎撃。この映像は偶然居合わせたJNNクルーがカメラに収めたものです]

テロリストの搭乗するヘリオンをガンダムヴァーチェが撃破した映像が映しだされる。
大学のあるモニターの前、ルイス・ハレヴィがサジ・クロスロードを伴って近くのテーブルに座っている知り合いの男子学生に声をかける。

「なになに、どうしたの?」
 学生が顔をルイスに向ける。
「こいつがテロをやっつけたんだと」
「モビルスーツ?」
 サジが彼に尋ねる。
「どこの軍隊?」
「それがわかんないんだって」
 両手を広げ、肩を竦めて答えた。
「どういうこと……?」
 ザジは目をモニターに向けて呟いた。

[……事件の最新情報です。たった今JNNにテロを未然に防止したと主張する団体からビデオメッセージが届けられました。彼らが何者なのか、その内容の真偽の程も明らかではありませんが事件との関連性は深いものと思われます。ノーカットで放送しますので、どうぞご覧ください]

画面が切り替わり、そこに映しだされたのは、真っ白の画面。
そこに、無機質な赤い双眸が現れた。

[地球で生まれ育った全ての人類に伝えるよ。僕らはQB。地球人類の君たちからすると、異星生命体とでも言うのかな]

ズームが解かれ、その生命体の全貌が顕になる。
ネコのような、耳はウサギのようにも長い、先端にはリングのついた四足生物。
二つの前足を行儀よく構え、犬で言えばおすわりの状態で椅子に鎮座していた。

「何これ、可愛い!」
 ルイスが声を上げる。
「い……異星生命体?」
 訳がわからないよ、という顔でサジが混乱する。

[僕らQBの活動目的は、この地球から戦争行為を根絶することにあるんだ。僕らは、僕らの利益の為に行動する。戦争根絶という目的のために、僕らはこの星にやってきた。ただ今をもって、全ての人類に向けて宣言するよ。領土、宗教、エネルギー、どのような理由があろうとも、僕らは、全ての戦争行為に対して、僕らのやり方で介入を開始する。戦争を幇助する国、組織、企業なども、僕らの介入の対象となる。僕らはQB。この星から戦争を根絶させるためにやってきた異星生命体だ。繰り返すね。地球で生まれ……]

同じフレーズが可愛らしい少年のような声で繰り返され始めた。


―人革連・士官待機室―

「異星生命体だと?」
 セルゲイ・スミルノフが言った。


―AEU軍附属病院・病室―

「コイツか!? 俺をこんな目に遭わせやがったのは! ってか何だよコレ!?」
 パトリック・コーラサワーの叫びに答える者はいなかった。


―経済特区日本・路上―

「この生物……可愛い」
 絹江・クロスロードが呟いた。


―天柱・リニアトレイン内―

「紅龍……アレは何?」
 王留美が愕然とした表情でモニターを見て言った。
「至急各エージェントに調査を指示します」


―アザディスタン王国王宮―

「戦争を動物が解決する……?」
 マリナ・イスマイールは全く要領を得ない様子で呟いた。


―アフリカ圏・ジープ内―

「っははははは! これは傑作だ! 異星生命体? 戦争根絶? 訳がわからないな、QB!」
 グラハム・エーカーがジープを運転しながらラジオ音声でQBの演説を聞き、笑い声を上げた。
「いやはや、本当に予測不能な事態だよ。全く、訳がわからない」
 首を振って助手席のビリー・カタギリが返答した。


―UNION領・都心の一室―

 アレハンドロ・コーナーの元に仕えていたリボンズ・アルマークは発表の映像が流れた瞬間、アレハンドロなんて構ってられるかと焦るように外へと飛び出していった。
「リボンズ! 何処へ行った!」
 と、アレハンドロの叫び声だけが、響いていた。


―CBS-70プトレマイオス・ブリッジ―

 艦内は騒然としていた。
「この生き物は! 一体! 何だっ! 計画を最初から歪めるなど万死に値する!」
 身体をわなわなと震わせ、モニターに映るQBを指さして、最初に激怒したのはティエリア・アーデ。
 スメラギ・李・ノリエガが腕を組み、顎に手を当て、考えるようにして言った。
「落ち着いて、ティエリア。クリス、フェルト、ヴェーダから情報を」
「言われなくてもやってます!」
 クリスティナ・シエラが簡潔に答え、フェルトも素早く両指を動かす。
「スメラギ・李・ノリエガ、これが落ち着いていられるものか! イオリア・シュヘンベルグの映像はどうした! あァアァああぁ!」
 ティエリアは叫び声を上げ、ヴェーダに直接アクセスするべく、ブリッジから飛び出して行った。
「ハレルヤ、これはどういう事なんだい……」
 か細く呟かれたアレルヤ・ハプティズムの言葉は虚空へと消えた。


―アフリカ圏・岩山地帯―

「何だぁ!? この生物は!? ハロ!」
 髪を掻きむしり、ロックオン・ストラトスが端末を見て声を上げる。
「ワカラナイ! ワカラナイ! ワカラナイ!」
 無機質な音声で、HAROが跳ねながら答える。
「何だってんだ!」
 ロックオンはやけになって言い、ニュース映像を遮断した。
「俺達はQBの……ガンダムマイスター……なのか?」
 幾許かの錯乱が見受けられる刹那・F・セイエイは、誰かに問いかけたかった。

この後、ヴェーダにアクセスしたイノベイドは、驚愕することとなる。
それは、ヴェーダがQBにハッキングされていた事であった。
CBが介入をするどころか、QBによる介入を受けるという事態に陥るものの、その後CBがイオリア・シュヘンベルグの映像を改めて流せたのは幸いか否か。
出鼻を完全に挫かれたCBは、世間からは自己紹介にしては余りにもふざけた組織と思われ、CBのマスコットキャラクターがQBだという憶測など……世界は混迷の時を迎える。

早過ぎる、異星生命体との来るべき対話。
それは、人類の目覚めか……それとも。
この七年後、更に別種の異星金属生命体が来訪する事をこの時の人類は知る由も無い。

戦争行為の根絶を体現する機体がガンダムであれば、QBの介入行為を体現するのは何なのか。
ガンダムのパイロットは感情を律せねばならないが、QBにはそもそも感情が無い。
その行為、崇高なる者の苦行なのか。



[27528] QB「皆僕のつぶらな瞳を見てよ!」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/04 18:36
西暦2307年、地球の化石燃料は枯渇し、人類は、新たなるエネルギー資源を太陽光発電に委ねた。
半世紀近い計画の末、全長約5万kmにも及ぶ三本の軌道エレベーターを中心とした太陽光発電システムが完成する。
半永久的なエネルギーを生み出すその巨大構造物建造のため、世界は大きく三つの国家群に集約された。
米国を中心とした世界経済連合、通称UNION。
中国、ロシア、インドを中心とした人類革新連盟。
そして、新ヨーロッパ共同体AEU。
……軌道エレベーターはその巨大さから、防衛が困難であり、構造上の観点から見ても酷く脆い建造物である。
そんな危うい状況の中でも、各国家群は、己の威信と繁栄のため、大いなるゼロサムゲームを続けていた。
そう、24世紀になっても人類は未だ一つになりきれずにいたのだ。
そんな世界に対して楔を打ち込む者達が現れる。
モビルスーツガンダムを有する私設武装組織CB。
彼らは、世界から紛争を無くすため、民族、国家、宗教を超越した作戦行動を展開していく。
CBが、世界に変革を誘発する……筈だった。
世界に変革を誘発するのはCBだけでは無くQBもそうであった。
人々に「訳がわからないよ」とその日散々言わしめたQBは現れるのか。
ヴェーダがハッキングされていたのは、件の映像だけだったというのが、CBのメンバーには嫌な予感を抱かせずにはいられなかった……。


―経済特区・東京―

夕日が沈みかかる頃、ルイス・ハレヴィが道を走り、その後ろをサジ・クロスロードが追いかける。

[私達はCB。機動兵器ガンダムを所有する私設武装組織です。私達CBの活動目的は、この世界から戦争行為を根絶することにあります……]

「またやってる……。これで何回目?」
 ルイスが街中のモニターに足を止めて言い、サジが息を切らせて追いつく。
「はあ、はあ、はぁ……。ルイス、CBとQB、いるのかな?」
「へ?」
 ルイスが目を見開く。
「イタズラみたいなメッセージ。QBは自分の利益の為にって言ったのに、CBは自分の利益の為に行動はしないって言う。どっちにしても、そんな行動する人がいるなんて……」

[……僕らはQB。地球人類の君たちからすると、異星生命体とでも言うのかな。僕らQBの活動目的は、この地球から戦争行為を根絶することにあるんだ。僕らは、僕らの利益の為に行動する]

朝からというもの、途中から加わったCBと、本家QBの映像が交互に流される。
QBのアップの顔については「何か怖い」「不気味」という意見が早くも局に寄せられており流すのをやめるかどうか、JNNは困っていた。

「ほら、QBははっきり自分の利益って言ってるから、何か利益があるんじゃない? CBはすごいボランティアとか」
 ルイスが笑って言った。
「QBの方は突っ込み所が多すぎるよ……。CBのイタズラ映像の線が有力だって言われてるし」
 ため息を一つついて、サジが答えた。
「えー、でも、どうしてイタズラする必要があるの?」
「う……さあ……」
 サジは答えに詰まった。


―人革連・国家主席官邸―

 国家主席が手を組み、そこに顎を乗せて、CBとQBの映像を見終え、スクリーンを閉じて側近の人物に言う。
「天柱のテロ事件に介入してきた組織か……」
「可能性は極めて高いと思われます。QBは無視すれば、この声明の中でCBは、機動兵器ガンダムを有していると」
 側近が近づき、卓上のスクリーンを開く。
「……御覧ください。我が宇宙軍が記録した未確認モビルスーツの映像です」
「ガンダム……」
 国家主席はガンダムヴァーチェを見て呟いた。


一方AEU首都では首脳陣が会議室に集い、新型のイナクトと条約で定めれている以上の軍隊を軌道エレベーターに駐屯させている事を公にされた事が話し合われ、QBなど無かった事にされていた。


―UNION・大統領官邸―

 大統領は官邸室のガラス越しに外を眺めながら呟く。
「武力による戦争の根絶か……。デイビット、彼らは我が国の代わりを務めてくれるらしい」
 後ろに控えていたデイビットが答える。
「大統領、彼らは本気なのでしょうか? 何の見返りもなく……」
 大統領はデイビットを振り返って話す。
「我々が他国の紛争に介入するのは、国民の安全と国益を確保するためだ。決して、慈善事業ではないよ」
「すぐにでも化けの皮が剥がれるでしょう。その時、彼らを裁くのは、我々の使命となります」
「そうだな……。QBの皮は剥げるのかどうかは分からない、が」
 下らない冗談のつもりで、大統領が言った。
「お戯れを」
 大統領は再び外を向く。
「はは。……軌道エレベーターが稼働して十年。経済が安定し始めた矢先にこれ、か」


―CB所有・南国島―

 緑色のカラーリングのパイロットスートを着たロックオン・ストラトスが同じく青色のカラーリングのソレを着た刹那・F・セイエイに近づいて言った。
「どの国のニュースも、俺達……と、QBの話題で持ちきりだ。『ふざけの過ぎる謎の武装集団とその謎のマスコット、全世界に対して戦争根絶を宣言する』ってな。あのQBのせいでほとんどの奴らが、信じる気が無いようだがな。全く、どうなってんだか」
 大きな溜息混じりに言葉が吐かれる。
「ならば、信じさせましょう」
 そこへ、声がかけられる
「お」
 ロックオンが振り向けば、不思議発見な服を着た王留美が紅龍に所謂お姫様抱っこをされていた。
「CBの理念は、行動によってのみ示される。あの生物は不気味だけれど、もう私達は止まる事を許されないのだから」
「王留美……」
 刹那が言う。
「お早いおつきで」
 ロックオンが一応歓迎するように言う。
「セカンドミッションよ」


―建設途上のアフリカタワーの郊外路上―

 ジープが路肩に止まっていた。
 前座席に座り背を預けるグラハム・エーカーに、端末を高速で操作するビリー・カタギリが声をかける。
「軍に戻らなくていいのかい? 今ごろ大わらわだよ」
 グラハムは振り向くこと無く、答える。
「ガンダムの性能が知りたいのだよ。あの機体は特殊すぎる」
 何か思うところあるとばかりに、その目が鋭くなる。
「戦闘能力は元より、アレが現れるとレーダーや通信、電子装置に障害が起こった。全てはあの光が原因だ。カタギリ、あれは何なんだ?」
 グラハムはようやくカタギリに振り向いて尋ねる。
「現段階では特殊な粒子としか言えないよ」
 そう言いながらコーヒーを飲み言葉を続ける。
「恐らくあの光は、フォトンの崩壊現象によるものだね」
「特殊な……粒子……」
 そうグラハムが呟くと、近くに赤い車が到着し、二人はジープから揃って降りた。
「粒子だけじゃない。あの機体には、まだ秘密があると思うなぁ。……もしかしたら、実はあのQBという自称異星生命体が乗っているという可能性もあるかもしれないけど」
 冗談交じりに言いながらカタギリはジープのドアを閉める。
「フ……好意を抱くよ」
 不意にグラハムが言う。
「え?」
「……興味以上の対象だということさ」
 そこへスーツを着たUNION軍の者が近づき、敬礼する。
「グラハム・エーカー中尉、ビリー・カタギリ技術顧問、Mスワッドへの帰投命令です」
「その旨を良しとする」
 グラハムが答え、二人は敬礼をした。


―CBS-70プトレマイオス・ブリーフィングルーム―

 ブリーフィングルーム内には、スメラギ・李・ノリエガ、イラついた様子のティエリア・アーデ、そして、アレルヤ・ハプティズム。
 通信で地上の南国島と繋がれたモニターには、ロックオンと刹那が映る。
 スメラギが腰に腕を当てて話し始める。
「セイロン島は現在、無政府状態。多数派のシンハラ人と少数派のタミル人との民族紛争が原因よ。この紛争は、20世紀から断続的に行われているわ。この民族紛争に、CBは、武力介入します。但し、計画を変更して、ヴェーチェとキュリオスは今回はトレミーで待機よ」
「一体、何なんだ……あの生物は……」
 ブツブツとティエリアが呟く。
「……ミス・スメラギ。QBってのはそんなに警戒する必要はあるのか?」
 モニターの向こう側から、ロックオンが尋ねる。
「ヴェーダを映像だけとはいえ、ハッキングされていたのは事実。あのマスコットみたいな生物が、本当に実在するのかという所から真偽の程は分からないけれど、ヴェーダも二機での作戦行動を推奨しているわ。ロックオン、刹那をお願いね」
 スメラギの説明に対し、仕方ないとロックオンは返答した。
「……は。了解だ」


……そして、作戦開始時刻間近。 

[3300をもって、セカンドミッションを開始します。……繰り返します。3300をもって、セカンドミッションを開始します]
 クリスティナ・シエラが艦内放送を行う。
 プトレマイオス内の通路をアレルヤとティエリアがレバーに手を置いて移動する。
「まさか、計画を変える事になるとはね……。全く、嫌になるようで、それはそれでどうなのかというか……」
 アレルヤが複雑な表情で言った。
「本当に、最悪だっ……。機体テスト込みの実戦の筈が、僕達はコクピットで待機だなどと。これでは計画達成率に影響がっ」
 ティエリアは普段では有り得ない程に、精神状態がブレブレの様子。
「君がそんなに動揺する所を見るとは思わなかったよ……」
 意外すぎるとばかりに、アレルヤが言った。
「ごめんね、ティエリア」
 そこへ、反対の通路からスメラギ・李・ノリエガが現れティエリアへ言葉をかける。
「問題……ありません……。覚悟の上で参加しているんですから」
 強がりにしか聞こえない、意気消沈した発言にスメラギはやや言葉に詰まるも返す。
「強いんだ……」
「弱くは……無いつもりです……」
 言葉とは裏腹なティエリアであった。
「……行きます」
 やれやれ、とアレルヤはガンダムのコンテナへと向かうべく言い、上に昇る。
 ティエリアも無言でそれに従った。
「……ティエリア、動揺……しすぎよ」
 生暖かい目で見送るように、スメラギが言った。


かくして、インド南部、旧スリランカ、セイロン島でのセカンドミッションが開始され、ガンダムの出撃はエクシアとデュナメスだけとなった。
ヴァーチェとキュリオスが大気圏突入を行わない為にCBの降下予定ポイントが地球の軍関係者に知られる事は無く、ガンダム二機の出現が確認されたのは、セイロン島で目視可能になってからであった。
グラハム・エーカーはCBがセイロン島に介入をかけるとは露知らず、UNIONの輸送機でそのまま帰投していったのだった……。
しかし、そんな事よりもげに恐ろしきは宣言通り、QBの出現であった……。


―セイロン島―

 優勢な人革連部隊がシンハラ人部隊を叩いていた。
[敵部隊の30%を叩いた。このまま一気に殲滅させるぞ!]
 人革連の大尉が部隊に通信を入れた。
「そうはいかないよ」
[な、何だ!?]
 どこからともなく声がしたと思えば、コクピット内に、QBが現れた。
「大尉! こちらにも何かがぁ!?」
 QBが人革連、シンハラ人部隊を問わず、各モビルスーツのコクピット内にそれぞれ忽然と現れ、顔面を完全に覆ったヘルメットにも関わらず、その双眸が怪しく輝き、それがパイロットの目から脳へと何か伝わった。
「うぁあぁはアァー!?」
 パイロットはQBによって、理解不可能なビジョンを見せられ、操縦桿から思わず手を離して頭を抱え、叫び声を上げる。
 モビルスーツは挙動が止まる。
「そのまま、この金属の塊から降りて戻ってよ!」
 可愛らしい少年のような声を出して、親切にも、QBはコクピットのハッチを開けるスイッチを押して出口を作った。
 叫び声を上げながらも、パイロット達は皆、洗脳されたかのようにヘルメットを取り外し、虚ろな目でコクピットから揃って降り始め、それぞれ、フラフラと戻るべき所へ歩き始める。

 丁度その時、エクシアとデュナミスは戦闘を行っている地域の映像をいち早く捕捉していた。
「何だ、あれは。兵士が全員モビルスーツから降りて歩いているだと……?」
「紛争が……終わっているのか……」
 ロックオンと刹那は信じられない光景に混乱する。
「ロックオン・ストラトス、あの金属の塊を全部狙い撃ってよ!」
 突如、デュナミスのコクピットにQBが現れ、愛嬌を振りまくように首を傾げてロックオンにお願いをした。
「なぁっ!? どっから出た!?」
 ロックオンが驚き、思わず操縦桿を離しかける。
「僕はQB。ロックオン、狙い撃ってよ!」
「QB! QB!」
 HAROがQBの方を向き、音声を出す。
[ロックオン、一体これは何だ]
 刹那から通信が入る。
[……QBだとよ]
[Q……B……]
「君たちはガンダムで、紛争を根絶するんだろう? あの金属の塊を壊さないのかい?」
 不思議そうにQBがロックオンに尋ねる。
「……言われなくても、要望通り狙い撃ってやるよ。そこにいられると邪魔だ」
 言いたいことは山ほどあるが、ロックオンは眉間に皺を寄せて答えた。
「助かるよ。失礼」
 言って、QBはロックオンのヘルメットの上に移動した。
「っておい!」
 突然頭に飛び乗って来た事でロックオンは怒った。
「失礼だと言ったじゃないか」
 一切悪びれる様子もなくQBは答えた。
「ッチ……。スメラギ・李・ノリエガの戦況予測も糞もねぇぞ」
 まさにロックオンの言葉通り、戦況予測は完全に役に立たなくなっていた。
[刹那、手間が省けたと思ってやるぞ]
[……了解。目標を駆逐する]
 意外にも落ち着いていた刹那はヘルメットにQBを乗せ、目標ポイントへと向かった。
 その後は、もぬけの空となったモビルスーツをロックオンが狙い撃って鉄屑とし、刹那は刹那でエクシアを駆りバラバラに解体していった。
 その進行速度は想定より遥かに早いのは当然。
 何より、的が動かない。
 この間も、QBは場所を選ばずセイロン島各地に出現していた。
 銃を構えた歩兵の目の前に現れては洗脳、人革連のモビルスーツを収容している施設にいた兵士達も一人残らず、その場から撤退させられていた。
 兵士の中には、QBを視認した瞬間、撃ち殺す事もした者もいたが、すぐに代わりのQBが現れ、洗脳、自身の死体は咀嚼して始末。
 QBの出現は水上艦も例外ではなく、乗組員は全員、救命用ボートに乗り、艦を後にした。
 ゾロゾロと兵士達が虚ろな目で持ち場を離れるという奇怪な光景が繰り広げられ、最大の混乱に見舞われたのは、人革連の司令塔。
 応答を求めても「QB、QBが出たぁ!」と叫び声がたまに聞こえても誰一人まともな返答をしないというストレスで胃に穴が空きそうな所、有視界では確かにガンダムの機影が映り、もぬけの空になったモビルスーツを、軍の施設を、水上艦を……容赦無く破壊していくのが見えた。
 被害額はいくらなのか……計算したくもなかった。
 しばらくの一方的なガンダムの行動の結果、キュリオスとヴァーチェがいた場合とほぼ同等の戦果を、しかもまさかの戦死者ゼロで達成。
「それなりの戦果を期待どころか……これは大したもんだろ。これで満足か、QB?」
 拍子抜けした様子でロックオンが頭の上のQBに尋ねる。
「うん。ありがとう、ロックオン。じゃあ、僕は帰るね」
 言って、QBは忽然と消えた。
「って待てよ、おい!」
 ロックオンは声を上げた。
「キエタ! キエタ!」
 HAROが回転しながら音声を出し、ロックオンは溜息を吐く。
「……訳が分からないぜ……全く」
[刹那、帰投するぞ]
[了解]
 そして……エクシアとデュナミスはセイロン島を後にした。
 QBが去ってからしばらくして、洗脳を受けた者達は皆、無事に我に返ったという。
 それが幸いかどうかはともかく、命あっての物種。


―経済特区・東京、JNN本社ビル―

「どう? 見つかった?」
 絹江・クロスロードが部下に尋ねる。
「ビンゴですよ、絹江さん!」
 モニターに映った写真を見て絹江が言う。
「やっぱり、イオリア・シュヘンベルグ」
「でもー、この人、200年以上前に死んでますけど……」
 頭を掻きながら部下が言う。
 そこへ、受話器を耳と肩に挟みながら別の記者が声を上げる。
「CBが出た!? 旧スリランカの内紛に武力干渉。双方に攻撃ぃ!?」
「双方に攻撃って……?」
 職員がその言葉に揃って驚く。
「そんなことをしたら、どちらの感情も悪化させるだけなのに。……CB、一体何を考えているの?」
 絹江は思いつめる表情で呟いた。
 そこへ更に驚愕の声で、先程の記者が怒鳴り声を上げる。
「何! 死者はゼロだと!? どういう事だ!?」
「ええ!?」
 再び、職員が騒然とする。
「武力介入しておいて、死者がゼロ……?」
 信じられない、という表情の絹江であった……。


―人革連・高軌道ステーション通路―

「馬鹿な……。一度の軍事介入で300年以上続いている紛争が終わると本気で思っているのか? それに死者がゼロだと……ありえん。QBが出た……?」
 セルゲイ・スミルノフも混乱した。


―CB所有・南国島―

「一度だけじゃない。何度でも介入するわ。QBは……完全に想定外だけれど……」
 落ち着いて茶を飲みたい所、素直に心からとも言えない王留美であった。


―UNION領・都心の一室―

「リボンズーッ!!」
 アレハンドロ・コーナーはそれどころではなかった。


―CBS-70プトレマイオス―

「CB……私達は、物事を変える時に付きまとう痛み……の筈なのに。QB……一体どういうことなの。……私の戦術が……台なしよ」
 スメラギ・李・ノリエガ……ティエリアに加え更にもう一人、QBによって精神的ショックを受けた。


対話すら拒絶する行為を受け止める術はあるのか。
そもそも突きつけられもしない無い刃に、少年は時代の変革を感じるのか。
これぞ、誰かが否定したいかもしれない、現実。



[27528] 変わりすぎるかもしれない世界
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/04 19:19
西暦2307年、私設武装組織CBは、全世界で起こる紛争の根絶を宣言。
武力による介入を開始した。
インド南部セイロン島への民族紛争に介入し、世界を震撼させたガンダムマイスターに新たなミッションが下される。
それは人類に対する神の裁きか。
それとも……変革への誘発か。
はたまた……全く違うものか。

―UNION輸送機内―

「いやはや、本当に予測不能な事態だよ、これは」
 ビリー・カタギリが席に座るグラハム・エーカーに苦笑して言う。
「CBがセイロン島に出たとは、惜しいことをした。進路を変えれば……」
 残念そうにグラハムが答えた。
「そうでもないよ。話によれば、モビルスーツのパイロット以下、例外無く本当に現れたQBに何らかの精神攻撃を受けたらしい。行かないほうが君の身のため、心の為だろう」
 カタギリはそう言いながらも、QBに興味津々であった。
 しかし、グラハムも含むような笑いをし、語り出す。
「CBとQB合わせて名づけて……CQB。ソレスタルキュービーイング。乙女座の私にはセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられないな」
「何だい、ソレは」
 カタギリの顔は『君の脳内が予測不能だよ』と語っていた。


―経済特区・東京・JNN本社―

 JNN本社では、社員達は皆忙しなく働いていた。
 部長が大声で職員に聞く。 
「現地の特派員との連絡は?」
「まだです!」 
 すぐさま部長は今度は電話の相手に向けて指示を出す。
「ガンダムだ! 小さくてもいい! ガンダムの絵を入れろと言え! それとQBの絵もついでに入れとけと言っておけ!」
 そこへ、記者の一人が焦った声で報告する。
「CBからの声明ありませんが、Q、QBからのビデオメッセージ来ましたッ!」
 虚を突かれ、部長の反応が一瞬遅れる。
「うん。うん!? 何だと!? 内容は!」
「セイロン島で下らない喧嘩をするのはやめてよ! だそうです!」
 記者がわざわざ声真似をするが気持ち悪かった。
「何だそれは!」「CBはふざけてるのか!」「ふざけてるのはQBだろう!」「どっちも同じだろ」「声真似するな!」
 他の社員達が口々に言い、纏めるように部長が宣言する。
「……訳が分からないな! まあいい、十分以内に速報配信! 次のニュースは現地からの中継だ! 3時間以内に」
 そこへ絹江の部下が現れ、部長に声をかける。
「部長、あの」
「人革主席の公式声明が出るぞ! 枠を空けとけ!」
 意に介さず部長が指示し、他の社員が原稿を部長に出す。
「原稿できました!」
「おう」
「あの、絹」
「あとにしろ!」
 今構ってられないと部長は絹江の部下を一蹴した。

 一方、絹江・クロスロードはJNNの資料室で調べ物をしていた。
「イオリア・シュヘンベルグ……21世紀の後期に出現した希代の発明王。太陽光発電システムの基礎理論の提唱者……」
 そう独りごちて、絹江はコーヒーを口に含んで思索にふける。
 公に姿を見せず、その名前だけが後世に語り継がれている存在。
 この人物がソレスタルビーイングを創設したなら頷ける。
 才能的にも、資金的にも。
 でも、なぜ200年以上たった今、彼らは動き出したの?
 そして、QBの存在は一体。
 イオリアとも関連性がもしかしたらある……?
 本当にQBが異星生命体だとして……もしかしてイオリアの才能は宇宙人だったからとか……?


AEU諜報機関本部長官室では、QBの事は依然完全無視、イオリア・シュヘンベルグについて調査が続けられていた。
しかし、具体的に何かが分かるという事もなく、それどころか完全無視していたQBが本当に現れたらしいという情報まで入ってきた事で、報告書の作成に彼らは頭を悩ませた。


―CBS-70プトレマイオス・ブリーフィングルーム―

 本来、計画通りであればティエリア・アーデとアレルヤ・ハプティズムも地上に降りていた筈であったが、そうはならなかった結果、CBメンバーの会議はプトレマイオスのブリーフィングルームで再び行われていた。
 ロックオン・ストラトスと刹那・F・セイエイは前回と同じく南国島の施設からモニターで繋がれていた。
「QBが出た……という事だけど、話を聞かせてもらえるかしら」
 スメラギ・李・ノリエガがロックオンと刹那に尋ねる。
「話と言っても、勝手にいきなりコックピットに現れて『あの金属の塊を全部狙い撃ってよ!』と猫撫で声で言われたぐらいだ」
 ロックオンはQBの声真似をして言った。
「俺は『あの金属の塊を全部駆逐してよ!』と言われた」
 間を置かずに刹那も低い声で、かつ該当部分のみQBの声真似をして、言った。
 気持ちが悪い、とスメラギ達は思った。
「ロックオン、気持ちが悪いよ……。刹那は気味が悪い……」
 聞こえない声でアレルヤは呟いた。
 ティエリアは声を出す気力も削がれていた。
 敢えて触れず、スメラギが尋ねる。
「そ……そう。二人から見て、QBはどうだったの?」
「敵意があるようには思えなかったが、終始不気味な奴だった。映像は提出したが、QBは精神操作能力がある。大量にいる。殺されても『勿体無いじゃないか』なんて言いながら自分の死体を喰いやがる。不気味だろ?」
 不気味な割に思い出すだけで何か全部が馬鹿馬鹿しい気がする、とロックオンは答えた。
 額に手を当てて、心底頭が痛そうにスメラギが言う。
「そう、あれは……不気味よね……。異星生命体というのは本当、という可能性がどうしても高くなってくるわね……」
 そこへ、アレルヤが口を開く。
「スメラギさん、QBが異星生命体かどうかはともかく、QBの行動目的が紛争の根絶だというのは疑問です」
「その通りね……。ロックオンと刹那が見たQBの能力があれば、精神操作なんていう本来あり得るなんて認めたくないような方法で紛争どころか人間同士の対立すら無くす事もできるかもしれないのだから」
「大体っ、あの生物はまた勝手に声明を発表した上、何だあのふざけた内容は!」
 いきなり、ティエリアが沈黙を破り行き場の無い怒りを顕にして、壁を叩いた。
 アレルヤが生暖かい目でティエリアを見つめ、スメラギが声をかけて、纏めに入る。
「落ち着いて、ティエリア。……とにかく、私達が行動すれば、QBが再び現れる可能性はあるけれど、CBは活動を止める訳にはいかないわ」
 ロックオンが分かっていたように言う。
「鉄は熱いうちに打つって事さな」
「ええ、その通りよ。アレルヤ、今度は作戦プラン通り、キュリオスで直接タリビアに降下して貰うけど良い?」
 スメラギがアレルヤに聞く。
「喜んで。働いて無いですしね」
 皮肉めいてアレルヤが両手を広げて答えた。
「くっ……」
 悔しそうにティエリアが声を出す。
「ティエリア、トレミーをもしもの時の為の防衛頼むわ」
 一応フォローするようにスメラギが声をかけた。
「当然……ですっ……」
 出撃できないティエリアであった。


UNION、Mスワッド本部に帰投したグラハム・エーカーとビリー・カタギリは上官の元に向かった。
そこで、二人はガンダムを目撃した事から転属命令を受け「対ガンダム調査隊(仮)」という新設部隊に移動する事になった。
技術主任はレイフ・エイフマン教授が担当する事が、司令部がいかにガンダムを重要視しているのを明確に示していた。


王留美はアレハンドロ・コーナーと本来会う予定だったが、無しになったという。
依然アレハンドロの天使ことリボンズ・アルマークが家出中、とのこと。


―対ガンダム調査隊(仮)施設―

 早速転属したグラハムとカタギリは格納庫でフラッグを前に会話をしていた。
「カタギリ、あのガンダムの性能、どれ程と見る?」
「そうだね……出力で言えば、ガンダムはフラッグの六倍はあると見ていいんじゃないかな。どんなモーター積んでいるんだか……」
 興味が尽きないという声でカタギリが答えた。
「出力もそうだろうが、あの滑らかな機動性だ」
「あの機動性を実現させているのは……やはり光だろうね」
「ああ。あの特殊粒子は、機体制御、発見が有視界限定という以上、ステルス性にも使われている」
 グラハムは鋭い観察眼でソレを述べた。
「恐らくは、火器にも転用されているじゃろうて」
 そこへ、杖をついた老人が現れた。
「レイフ・エイフマン教授」
 待ちかねていたようにカタギリがその名を呼んだ。
「恐ろしい男じゃ、儂らより何十年も先の技術を持っておる。もしや、宇宙人なのかもしれぬな」
 神妙な面持ちでエイフマン教授が言った。
「ご冗談を」
 カタギリが苦笑する。
 エイフマン教授はフラッグを見上げて言う。
「できることなら捕獲したいものじゃ。ガンダムという機体を。それとできるならばQBという生命体も」
「前者については同感です。その為にも、この機体をチューンして頂きたい」
 同じようにグラハムがフラッグを見上げて言い、エイフマン教授がグラハムに顔を向けて尋ねる。
「パイロットへの負担は?」
 グラハムが目を閉じる。
「無視して頂いて結構」
 再び目を開けて、エイフマン教授を見て言う。
「但し、期限は一週間でお願いしたい」
 面白そうに、エイフマン教授が笑う。
「ほぉ……無茶を言う男じゃ」
「多少強引でなければガンダムは口説けません」
 ガンダムに対しては常に真剣とばかりに、グラハムは答えた。
「彼、メロメロなんですよ。だけど、QBに対する策はあるのかい?」
 苦笑しながらも、カタギリが尋ねる。
「まだ遭遇してもいないQBに恐れをなしていては何もできはしない。何より、接触しないことには始まらない」
 当然の事をグラハムが言った所で、グラハムに通信が入る。
「……私だ。……何、ガンダムが出た?」
 その知らせにカタギリとエイフマンが驚く。
「二機。場所は南アフリカ……一機は大気圏を突入してタリビアだと!? ……了解した。単独で大気圏突入ができるとはな……」
 言って、グラハムは通信を切り、すぐにフラッグに乗ろうと動く。
「カタギリ、私は出るぞ」
 それを、大気圏突入ができるという情報に一瞬驚いていたエイフマンが我に返って止める。
「やめておけ」
「何故です!? 一機はタリビアです。ここからなら行ける」
 どうして止めるのか、とグラハムは言った。
「儂は麻薬などというものが心底嫌いでな。焼き払ってくれるというなら、ガンダムを支持したい」
 タリビアと聞いて、エイフマンが想定したのは麻薬栽培の地域の事であった。
「麻薬?」
「奴らは、紛争の原因を断ち切る気じゃ」


―南アフリカ地域・鉱物資源採掘現場―

 ロックオンはデュナメスに乗り、鉱物資源の採掘権を発端とした内戦への武力干渉に乗り出そうとしていた……が。
「ロックオン・ストラトス、君の牽制射撃でアレを終わらせられるかい? 無理なら僕が介入するよ?」
 現場に到着する前にQBがロックオンの……今回はヘルメットを被っていなかった所、頭の上に直接忽然と現れて言った。
「っておい、神出鬼没にも程があるだろ! お前何なんだ!?」
 ふざけんな、とロックオンは怒った。
「僕はQB。何度も言ってるじゃないか。君は記憶力が悪いのかい?」
「QB! QB!」
 QBとHAROが答えた。
「そういう事じゃねぇよ!」
 呆れた声でロックオンが言った。
「ほら、もうすぐ着いちゃうじゃないか。ロックオン、君の射撃技術で死者を出さずに済ませられるのかい?」
 QBはロックオンの言葉を無視して催促する。
「……何で自称異星生命体のお前が人間の死者の有無に拘るんだ?」
 ロックオンは一応情報を引き出そうと尋ねた。
 それに対し、QBは淡々と聞かれた事には答えた。
「勿体無いじゃないか。それに異星生命体なのは自称ではなく事実だよ。僕らからすれば君たちの方こそ異星生命体さ」
「勿体無いって……ッ……調子狂うぜ全く。ああ、分かった。要望通り、死なないように狙い撃ってやるさ」
 言ってる間に、現場にまもなく到着してしまうため、ロックオンは元々予定通りだと宣言した。
「助かるよ、ロックオン!」
 全く感謝の念が感じられない語調でQBが感謝した。
「メット被ってないから肩に乗ってろ!」

 そのまま、ロックオンは肩にQBを乗せたまま、現場のワークローダーに火器を搭載した物に射撃を行った。
「ああ、嫌だ、嫌だ。こういう弱い者虐めみたいなの」
 心底うんざりして、ロックオンが言う。
「やっぱり理解できないなあ、そういう人間の考え方は。どうして君は自身の行為に嫌悪というものを感じるんだい?」
 無機質な表情でQBが尋ねる。
「はぁ? こんだけ一方的だと、嫌にもなるだろ」
 何いってんだと、ロックオンは言いながら、搭乗者を殺さないように射撃を続ける。
 目の前の光景を意に介さないようにQBが答える。
「ふうん、それが罪悪感というものなのかな。でも、僕らには分からないや」
「お前……感情が理解できないのか?」
 意外な顔をして、ロックオンが尋ねる。
「うん、そうだよ」
 その通り、とQBは答えた。
「そうかい。訳がわからないぜ、全く。……早く武装解除しろって。……狙い撃つぜ?」
 一つ意思疎通がスムーズにいかない理由が少し理解できたロックオンであったが、とりあえずうんざりしながら、射撃を続けた。
「ニゲタ! ニゲタ!」
 ようやく、全ワークローダーが撤退し、HAROが音声を出す。
「……お利口さん」
 ほっと息をつく。
「ヨカッタ! ヨカッタ!」
「じゃあ、僕は帰るね」
 瞬間的に、QBは消えた。
「っておい! またかよっ! ったく……」
 無駄に疲れた様子のロックオンであった。


―南アメリカ地域・タリビア上空―

 アレルヤは、キュリオスに乗り、初の大気圏突入に些かの緊張をしながらも、無事成功し、タリビア上空を旋回していた。
「アレルヤ・ハプティズム、僕はQB。作戦地域に人はいないみたいだね」
 こちらにも、突然QBがヘルメットの上に現れた。
「うわぁっ!?」
 何の前触れも無くQBが現れた事で、思わずアレルヤは声が裏返った。
「いきなり頭を振らないで欲しいな」
 しかし、憤慨している様子は無い、QBの言葉。
「いきなり頭の上に現れないで欲しいね……。君がQBか」
 皮肉で返す余裕がアレルヤにはあった。
「そうだよ。……もう間もなく作戦行動か。大丈夫そうだね。僕は帰るよ」
 言って、QBは消えた。
「は?」
 第三の人格が現れたのではないかと勘違いしたくなるアレルヤであった。
「気をとりなおして……旋回行動開始から30分経過。警告終了。キュリオス、これより作戦行動を開始する」
 気を取りなおしたアレルヤはコンテナから順次焼夷弾を落とし、麻薬栽培ポイントを焼き払った。
 避難していた住民達はその光景を見て、嘆きの声を上げていた。
「目標達成率97%。ミッションコンプリート。こういうのが二度目の出撃だと……覚悟が締まらないな……。悪いことではないけど」
 その呟きはコクピットの空気へと溶け込んでいった。


―セイロン島―

 セルゲイ・スミルノフは地上に降り、兵士達に迎えられたが、自分の目で確かめるまでは信じられないと、セイロン島に来ていた。
 そこへスミルノフに報告が入る。
「三機目がこのセイロン島に現れただと?」
 兵士が敬礼して答える。
「はっ! 第七駐屯地です。既に、第七駐屯地ではQBが目撃され、兵士達が皆持ち場を離れているとの報告が入っています!」
 兵士は何とか平常心を崩さずに言えた。
「ガンダムより恐ろしいのはQBか……。生物兵器の類を使用するなど卑怯な奴らだ。使えるティエレンはあるか? 私が出る」
 酷く憤慨した様子でスミルノフは言った。
「中佐ご自身がですか!?」
 スミルノフの側に控えていた士官が驚いた。
「言ったはずだ。私は自分の目で見たものしか信じぬとな」
 真剣な表情でロシアの穴熊、セルゲイ・スミルノフは言った。


―セイロン島・第七駐屯地―

 刹那が到着した時には既に兵士達はQBに操られた後、格納庫にしまわれていたティエレンさえもが尽く路上に放置されて、解体場のお膳立ては整っていた。
「エクシア、目標を駆逐する」
 特にどうという事もない表情ではあったが、何か物足げに刹那は緑色のティエレンを次々に切り裂いていった。
 そこへ、飛行装備を取り付けたティエレンが一機だけ旋回して現れた。
 その光景を見たスミルノフは驚いていた。
「大量のティエレンが全て切り裂かれている……だと……。ガンダムは見ればわかるが、QBはどこだ」
 寧ろQBの方が気になるスミルノフ。
 しかし、スミルノフの元にはその本人の想いとは反対にQBは現れてはくれなかった。
 ならば仕方ない、とスミルノフは本来の目的通り、エクシアに飛行状態から砲撃をかけた。
 対する刹那も砲撃が飛んで来た事に驚いていた。
「QB、アレはどういう事だ」
 砲撃を避けながら言う刹那。
 早くもQBのサポートに染まっている自覚はあるのか、無いのか。
「コクピットの位置は覚えただろう? 実戦を経験するのも重要だと思うな」
 何か思惑があるのか、ヘルメットの上に乗っていたQBは刹那を試すように言った。
 すると、ティエレンが地面に降り、右腕に装備していた火器を捨てて、新たにブレードを構えた。
「火器を捨てた? 試すつもりか、この俺を」
 刹那が少し驚く。
 ただ、試しているのはQBも同じ。
「戦争根絶とやらの覚悟、見せてもらうぞ」
 無骨なメットを被ったスミルノフが言った。
 しかし、エクシアとティエレンの間で会話は成立していない。
 ティエレンが先に動き、ブレードを振り被るが、エクシアが一瞬で体勢を屈めながら、そのティエレンの右腕を切り飛ばす。
「肉ならくれてやる!」
 しかし、ティエレンは振り返りざまに、エクシアの頭部を左腕で鷲掴みにして、その機体を持ち上げる。
 同時に切り飛ばされた右腕が落ちる。
「くっ!」
 忌々しいと、刹那は唸る。
 ティエレンはそのまま頭部をきつく掴み圧力をかける。
「ぬぅ!」
 エクシアはその左腕も切り落とそうとする。
「ふ!」
 しかし、ティエレンが体勢を僅かに変えて、刃で両断されないようにしてソレを防いだ。
「その首、貰った!」
 スミルノフが叫ぶ。
 エクシアの頭部に異常を知らせるエマージェンシー音がPIPI、PIPIと鳴り刹那の危機感を煽る。
「な……やるかよッ!」
 それに焦った刹那がついに大声で怒り、エクシアの左肩後部に装備されているGNビームサーベルを左腕で取り出し、起動させる。
 そのまま展開されたビームはティエレンの左腕をあっさり切り裂く。
 ティエレンはそれにより体勢を崩し後ろに倒れる。
「ぬぁア!」
 すかさず、刹那はティエレンの右肩から右脚部にかけてGNビームサーベルを振りかぶる。
「えあァアァー!」
 掛け声と共に、ティエレンは切り裂かれ、地に伏した。
 エクシアは頭部についたままのティエレンの腕を無理矢理取り外した。
「……俺に触れるな」
 QBは触れている。
「僕は帰るね」
 言って、QBも消えた。
 現段階、人革連だけが、QBに襲撃を受けていた。
 結果、QBの存在の真偽に確証を持てないUNIONとAEUの者達は人革連がガンダムに対抗できない言い訳に、QBの存在を捏造したのではという風潮が生まれ、全世界の人々は人革連の軍部に猜疑心を抱いた。
 逆に人革連の人々は遺憾の意を感じずにはいられず、QBに、そしてそれを有すると目されるCBに対して怒りを募らせた。


―経済特区東京・マンション―

 北アイルランドの対立図式を取り上げて歴史についてのレポートが課題に出されたサジ・クロスロードは帰宅した所、刹那・F・セイエイと偶然遭遇し、話しかけたが、愛想が無いと感想を抱いた。
 玄関に入ると、仕事で忙しい絹江と入れ違いになり、会話を交わしてそのまま上がると、ルイスから電話がかかった。
 言われたとおり、ニュースをつければ、北アイルランドテロ組織リアルIRAが、武力によるテロ行為の完全凍結を公式に発表したと海外特派員の池田が報道していた所であった……。
「ね、すごいでしょ? 今日習ったところ、レポートどうなっちゃうんだろ……」
 サジはその言葉が耳から耳へと通りすぎ、驚いていた。
 世界が……世界が変わってる……と。


CBを利用する国。
その国すら利用する国。
陰謀渦巻く戦場に、ガンダムマイスターが赴きQBが活躍する。
政治とは彩り変わる万華鏡なのか。


―月・裏面極秘施設―

リボンズ・アルマークはヴェーダに起きた異変を感じ取り、リニアトレインで宇宙へと上がり、更には小型の宇宙輸送艦で月の裏面へと向かっていた。
月の裏面に隠されているのは、CBの有する量子型演算処理システム・ヴェーダの本体。
施設へ到着したリボンズは脳量子波を操り、固く閉ざされているロックを開く。
中へと入り、通路内を進むと、赤い絨毯の敷き詰められた間に出る。
そこに強化ガラスを通して床下に確かにヴェーダがあるのが見えた。
リボンズは僅かな安堵に一つ息を吐き、ヴェーダにアクセスする為の端末を操作し始める。
《リボンズ・アルマーク、君が一番乗りか》
 突如、リボンズの脳内にテレパシーが伝わる。
「なに!?」
 リボンズは目の虹彩を輝かせ、驚愕の表情を浮かべる。
「後ろだよ、リボンズ」
 その声に従い、リボンズが後ろを振り返ると、そこには。
「僕はQB。異星生命体さ。君たちイノベイドを待っていた」
 リボンズに対しては何の意味も持たないにも関わらずQBは首を可愛らしく傾げて見せた。
「Q……B……」
 リボンズはどこからともなく、出現したQBに驚きを隠せず、緊張して唾を飲み込み、続けて言う。
「君の目的は何だ」
「感情エネルギーの回収だよ。紛争の根絶はその為の手段の一つさ」
 リボンズの様子に意も介さず、QBはさらりと言った。
「感情……エネルギー?」
 訳が分からないと、リボンズは困惑した。
「リボンズ、君には理解できないかもしれないけど、僕らは人類の感情エネルギーを回収する為にこの星に来たんだ」
「信じ難いね……。君が異星生命体だという証拠はあるのかい?」
「その質問は無意味だと分かっているのにどうして聞くんだい。さっきのテレパシー、君たちにとっては脳量子波と言うそうだけど、アレで僕らが君たちイノベイドよりも強力な脳量子波を操る事ができるのは身を持って体験しただろう?」
 要らぬ手間だと思いながら、QBは説明した。
 思わずリボンズは一歩下がる。
「……僕の思考を」
「筒抜けだよ」
 感情は理解できないけどね、とまではQBは言わなかった。
「っ……」
「そんなに警戒しないで貰えると助かるな。僕らは少し君に頼みがあるだけなんだ」
「頼みだって?」
「うん。僕が提示する塩期配列パターンの生体年齢14、15歳の女性型イノベイドを量産して欲しい」
 本当は勝手にやろうと思ったんだけど、感情が理解できないから仕組みも理解できず断念したんだ、とまではQBは言わなかった。
「イノベイドの量産……」
 リボンズは困惑していた。
 感情エネルギーの回収が目的で何故イノベイド量産に繋がるのか。
 しかも、QBが塩基配列を指定するという。
 訳が分からない。
 目の前の赤い目の不気味なQBの意図が全く掴めない。
「そうしてくれれば、僕らは君たちCB全体の計画、そして場合によっては……君個人、の思惑に協力しても良いよ」
「ッ!」
 自身の思惑すら筒抜けであることにリボンズは驚愕した。
「どうして動揺するんだい? お互いにとって利益があるじゃないか。確かに、僕を前にしている君にとって脳量子波が強力すぎるのは考え物かもしれないけどね」
 そのお陰で普通の人類よりも思考が筒抜けだよ、とは顔に出すことも無く、QBはリボンズが動揺するのが理解できないと淡々と言った。
「……そもそも……君たちQBにとって、地球はどういう対象なんだい? 要領を得ないね」
「侵略なんてする気は無いから安心してよ。地球、いや人類はと言い換えれば、君たちは宇宙の寿命を延ばす為の貴重なエネルギー源なんだ」
「宇宙の寿命……エネルギー源?」
「仕方ないな。理解できるように、教えてあげるよ」
 質問形式では埒があかないと、QBは目を怪しく輝かせ、リボンズの脳に直接情報を流し込んだ。
「ぁアぁっ!?」
 場合によっては射殺しようかと所持していた銃を使う間もなく、情報の奔流にリボンズは声を上げた。
 その内容はQBが地球に来た、感情エネルギーの回収の根本的理由、宇宙の寿命問題から、感情を持つ人類が存在する限り生じる魔獣と呼ばれる存在、そしてソレを狩る魔法少女の存在。
 人々が存在し、そして世に呪いがある限り生まれる魔獣は、人々の負の感情が強ければ強いほど、強力な魔獣が生まれ、倒すのは困難になるが、それを倒し結晶と化して感情エネルギーの回収ができれば一気に集めることが可能で、効率的。
 QBは昔、暁美ほむら、という現在も現役の齢200代を優に突破し、300代も間近の現在最強の魔法少女から「魔法少女自身の希望が絶望に転換する際の感情エネルギーを回収するという方法が成り立たなくなったのが今の世界」という仮説を聞いた事があったが、現実には「円環の理」という魔法少女は絶望を撒き散らす前に消える、という世界法則が厳然たる事実として存在している以上、QBは数多く、かつ、質の高い魔獣を魔法少女に狩って貰わなければならない。
 CBという全世界に武力による介入を行う存在は、紛争の根絶を目指しながらも、平和に暮らしている幸せに満ちた人々にすら負の感情を抱かせる事ができるとQBは考えた。
 その負の感情が一点に集中……CBという対象に向かえばそれだけ強力な魔獣が生まれる。
 しかし、その場合、発生した魔獣を倒す屈強な魔法少女が必要であった。
 産業革命以降、魔法などというものを信じる少女も減り、勧誘活動も上手くいかない中、QBはふと宇宙にも到達するようになった人類の発展を目にし、地上ばかりに向けていた目を宇宙にも向けてみた。
 すると、なんとイノベイドという感情と魂の両方を兼ね備えた人工生命体が作られているではないか。
 QBはイノベイドを見つけた時は驚いた。
 人類にしては画期的な発明である、と。
 何より、魔法少女になりうる適合者をいちいち地球を巡らなくともいくらでも生産できるというのは魅力的だった。
 人工的に作れば因果律の量が少ないというデメリットはあるとしても、数を揃え、イノベイドには元々知識や身体能力を調整する事すらできるという事実。
 何の訓練も受けていない少女を育てるよりも、最初から即席で高度な戦闘能力を兼ね備えた魔法少女部隊を作る事ができれば、どれだけQBの負担が減ることか。
 これらの、リボンズの理解にとって「必要な情報」のみをQBは流しこんだ。
 その結果……CBとQBの間で契約が交わされたのか。
 QBがCBに接触するのは寧ろ必然、まさに運命だったのか。



[27528] QB折衝
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/04 19:15
―CBS-70プトレマイオス・ブリーフィングルーム―

 大型モニターには人革連国家主席の発表が映しだされていた。
[セイロン島におけるCBの武力介入により、我々は大きな損害を受けました。紛争根絶を謡いながら、生物兵器までも戦場に投入するCBが行っている行為は、国家の秩序を乱すテロリズム以外の何者でもありません。私達人類革新連盟は、断固とした態度で彼らのテロ行為に挑んでいく所存です。まず手始めに……]
 神妙な面持ちでトレミーに現在いたプトレマイオスクルーの面々がその映像を見続ける。
 プトレマイオスの操舵士、リヒテンダール・ツエーリが微妙な表情で言う。
「一応っていうのか、嫌われたもんすね」
「……反応としては予想通りだろ」
 唸るようにプトレマイオスの砲撃士、ラッセ・アイオンが返した。
「けど、私達と……QBのしたことで人革連の軍備が増強されていく可能性も……」
 複数の事が原因で心配そうにクリスティナ・シエラが言った。
「彼らが、仮に、そうすると言うのなら、我々は武力介入を続けていくだけです……」
 QBというまだ自身の目で見てもいない存在が原因の大半で、元気が無さそうに壁にもたれていたティエリア・アーデが言った。
 合わせるように、フェルト・グレイスが呟く。
「戦争の根絶……」
「フェルトの言うとおり、私達CBはソレが目的よ。とはいえ、私達も直接QBと話ができればいいのだけど……」
 スメラギ・李・ノリエガが困ったように纏めた。


アザディスタン王国王宮では、マリナ・イスマイールとその個人的に雇われた側近が会話を交わしていた。
その会話の中で、テロの波が都市部にまで押し寄せて来た以上、このまま行けば、CBかQBかは知らないが、介入にやってくる可能性があるだろうと、その事をマリナは不安そうに呟いていた……。


―CB所有・南国島―

 ロックオン・ストラトス、アレルヤ・ハプティズムの二人は島に全員帰投していた。
 キュリオスをガラス窓越しに眺められる休憩室でアレルヤは椅子に座り足を組んでいた。
 そこへHAROを抱えたロックオンが声をかける。
「聞いたか、アレルヤ。リアルIRAの活動休止声明」
「ええ……」
 分かっているという風に軽くアレルヤが答えた。
「あの声明で、俺達を評価する国も出ているようだが、それは一時的なものだ。武力介入を恐れて先手を打ったにすぎん」
「僕達がいなくなれば、彼らはすぐに活動を再開する。……わかってますよ。紛争根絶は、そんなに簡単に達成できるものじゃない」
 何か暗い表情で二人は会話を交わし、ロックオンが少し明るく言う。
「だからさ。休めるときに休んどけよ。すぐに忙しくなる……筈だ」
 明らかに苦笑い。
「というか、あのQBは実在するんですか? 僕は肉眼で確認する前に消えられたぐらい印象が薄いんですが」
 QBに別に関わりたくなどないが、何かハブられた気がしたアレルヤが尋ねた。
 対して、もう何か諦めたようにロックオンが言う。
「ああ、実在はする。アレは神出鬼没だ。次出たら取っ捕まえてやる」
「頑張ってください」
 他人事のようにアレルヤが言った。
「おいおい、アレルヤも今度出たら捕まえろよ」
「作戦行動中に操縦桿を放すのは危険ですよ。ですが、やはりあのQBは紛争根絶が真の目的ではなさそうですね」
 アレルヤは途中から真剣に言った。
「……だろうな。俺達を利用してやがる節がある」
 ロックオンも真剣に返した。
 QBは基本的にCBが介入する時にしか現れない。
 前回はロックオンに任せて眺めるだけ眺めて去っていった。
 刹那の元では前回と同じく介入をしたが、指揮官機と思われるティエレンには介入をしなかった。
 行動が一貫していないQB、まず紛争根絶が第一の目的ではないのは明らか。
「警戒をする必要はありますが……いずれにせよ、僕達はミッションが提示されたらそれを遂行するだけです」
「その通り。それまで身体を休めとくってもんだ」
 言いながら、ロックオンは手をひらひらと振ってその場を後にした。


―人革連・統合司令部―

 キム司令がセルゲイ・スミルノフ中佐を呼び出し、椅子に腰掛けたまま、問いかける。
「で、どうだった中佐。中佐はQBに遭遇する事無く、ただ一人ガンダムと手合わせができたのだろう? 忌憚のない意見を聞かせてくれ」
 その目には強い興味が宿っていた。
「はっ。私見ですが、あのガンダムという機体に対抗できるモビルスーツは、この世界のどこにも存在しないと思われます」
 QBに遭遇していない以上、スミルノフはガンダムの事についてのみ報告した。
「それほどの性能かね?」
「あくまで、私見です」
 キム司令は面白そうに、本題に入る。
「なら、君を呼び寄せた甲斐があるな。QBに遭遇せずにガンダムと一戦交えた君ならば……。中佐、ガンダムを手に入れろ。ユニオンやAEUよりも先にだ。QBは出現しない時もあるそうだ」
 スミルノフが敬礼する。
「はっ!」
「専任の部隊を新設する。人選は君に任せるが、一人だけ面倒を見て貰いたい兵がいる」
 キム司令の言葉にスミルノフは怪訝な声を出す。
「ぅん?」
「入りたまえ」
 キム司令は閉じている扉に声をかけた。
 すると扉が開けられ、白に近い髪色、鋭く無感情な眼光の若い女性兵士がツカツカと入ってくる。
 彼女は近づいて止まり、敬礼して言う。
「失礼します。超人機関、技術研究所より派遣されました超兵一号、ソーマ・ピーリス少尉です」
 その自己紹介にスミルノフは疑問の声を上げる。
「超人機関? 司令、まさかあの計画が」
 それにキム司令が皮肉めいて答える。
「水面下で続けられていたそうだ。上層部は対ガンダムの切り札と考えている。……QBが出なければ、の話だが」
 そこへ、ピーリスが一歩前に出てスミルノフを見て感情を感じさせない声で言う。
「本日付けで中佐の専任部隊へ着任することになりました。よろしくお願いします」
 スミルノフはピーリスの何も感じないような目をみながら、息をついて言った。
「……それにしては若すぎる」


UNIONの対ガンダム調査隊(仮)施設では、グラハムの要望通り、フラッグにカスタムチューンが施され、カスタム・フラッグが完成していた。
そこには、更にハワード・メイスン准尉、ダリル・ダッジ曹長がグラハムに呼ばれて着任し、いよいよ部隊らしくなり始めていた。


CBの次なる介入ミッションはUNIONに加盟しているタリビア共和国がCBを利用する意図で動き始めた事でほぼ確定していった。
世界の要人達は、ほぼ皆全てが、タリビアの見え透いた行動を理解していたが、最も重要なのはCBがどう動くかを見極める事であった。
タリビアは反米感情の強い国であったが、タリビア政府としてはアメリカ主導の政策に切り替えたい。
そこで、タリビアはわざとUNIONからの脱退を宣言し、武装もやむなしと宣言する事で、わざとCBを呼び出し、介入させる意図があった。
そうすれば、CBに介入されたタリビアは率先して米軍の助けを借りざるを得なくなり、ひいては、タリビアは国内の反米感情を押さえ、政策の方針も本来の目的通り、舵を切る事ができるという筋書きであった。
その当のCBはといえば……。

―CBS-70プトレマイオス・スメラギ・李・ノリエガの戦術立案室―

 スメラギはモニターを操作しながら、呟く。
「ヴェーダ、あなたの予測を聞かせて。……私の予報と同じね」
 結果は自分と同じで一応安堵する。
「対応プランは十二種。そのどれを選択しても私達の立場は危うくなる……のは、QBの存在を考慮しない場合」
 溜息をついて言葉を続ける。
「現れるのか、現れないのかは分からないけれど、あっという間にQBに振り回される事になるなんてやりきれないわね。ヴェーダにQBが前回と同じような洗脳活動をフルに行って兵士達を無力化するという条件で予測を聞くと……。ほら……もう、戦術も何もないじゃない……」
 スメラギは自身の存在意義について、悩み始め、頭を抱え込んだ。
 少しして、タリビアの声明があり、気を取り直すように息を吐いて、ブリーフィングルームに移動して宣言した。
「ミッションを開始します。ガンダムマイスターたちに連絡を」
 できればQBとも話がしたい、とは言わなかった。


結果として、タリビアに向けてUNION艦隊は出撃し、対するタリビア軍は主要都市にモビルスーツを配備する事となった。
更に対する、CBは刹那は港に沈めてあるエクシアへと向かい、アレルヤとロックオンはそれぞれ、キュリオスとデュナメスに乗り込んで、三機が出撃した。
今回もティエリアは働かない。


―タリビア主要都市地域―

 エクシアはUNIONの空母が進行している上空を無視するが如く、タリビアへと向かい、デュナメスとキュリオスはUNIONのフラッグに後を付けられながらも、それも無視して飛翔していった。
 UNION、タリビア、CB、まさに三者一色即発という状況に一番最初に介入を起こしたのはそのどれでもなく、QBであった。
 ガンダム三機が到着する前の絶妙なタイミングで首都地上に整列していたタリビアのモビルスーツのパイロット達に一斉に異変が起きた。
「何だ!?」「これがQBかぁっ!?」「QBだとぉ!?」
 という叫び声がしたかと思えば、すぐに兵士達は皆コクピットから降り始めてしまう。
 付近に通常の歩兵は殆どおらず、彼らはそのままゾロゾロと持ち場を離れるという、他から見ればまさに訳がわからないという様相を呈していた。
 ただの一機すら、タリビアのオレンジ色のモビルスーツが飛行することもなく、沈黙を保ったまま、地上にただの的として整列していた。
 三つの主要都市に散開したガンダム各機との映像をリアルタイムで共有していたプトレマイオスは作戦行動開始前にも関わらず、唖然としていた。
 もう、何なの、という表情でスメラギが投げやりに伝える。
[ミッション、スタート……]
 しかしそれに対して、三人のガンダムマイスターはそれぞれきちんと返答した。
「タリビアを戦争幇助国と断定。目標を駆逐する」
 刹那はいつも通り。
「キュリオス、介入行動を開始します……」
 げんなりしたアレルヤ。
「デュナメス。……目標を狙い撃つぜ」
 一番やる気のある発言は刹那だったであろう。
 三機はズラリと並んでいるただの的を作業的に壊し始めた。
 アレルヤは初めてのQBからのバックアップを受けた戦闘とも言えない戦闘中、呟いた。
「しかし……これは一方的だ……とか、そういう以前の問題だよ……」
 完全に茶番のようであった。
 何しろ、流れ弾の一つも飛ぶ事はなく、ただモビルスーツが壊されただけ。
 ガンダムマイスターの元に今回QBが現れる事はなかった。
「人様の事を利用して、勝手しなさんなというにはタリビアの自業自得なんだか……」
 やれやれ、と言うロックオンは、QBに利用されている形になっている自分達はどうなんだ、と思わざるを得なかった。
 一瞬にして、ミッションを終了したガンダム三機はさっさとタリビアから離脱し始めた。
 その光景を遠くから観測していたUNION艦隊はガンダムより、寧ろタリビア軍の動きに驚愕し「タリビア軍兵士が全員敵前逃亡!?」と報告した。
「タリビア軍兵士は、兵士の名を語るのもおこがましいようだ」
 と小馬鹿にしたようにUNION艦隊の誰かが言ったのはいつかそのままブーメランとして自身に帰ってくるのか。
 タリビア首相の居る官邸では、兵士達が全員敵前逃亡し、残ったモビルスーツが全機CBに破壊されたという情報に首相は呆然としたが、残された道はただ一つ「ブライアン大統領へホットラインを……」と側近に伝え、こちらの茶番も終了を迎える。
 結果、タリビアはUNION脱退宣言を撤回、UNIONは加盟国を防衛するとして、CBに攻撃を開始する声明を出す。
 瞬間、満を持して、グラハム・エーカーの駆るカスタム・フラッグが急発進し、通常のフラッグのスペックの二倍以上の速度でエクシアを猛追する。
「これでガンダムと戦える。CBの行動が早すぎたが充分見事な対応だプレジデントッ!」
 そう言って追いついた所でグラハムはエクシアに向けて砲撃を開始する。
「はッ?」
 刹那はその速さに驚きながらも、弾丸を避け、フラッグを交わす。
 対してカスタム・フラッグは旋回しながら空中変形を行う。
「空中変形!? だがッ!」
 刹那は驚きながらも、ビームを放つ。
 しかし、グラハムはそのビームを尽く避けてのける。
「速い!」
 刹那が驚愕し、今度はカスタム・フラッグが砲撃で応戦し、エクシアを水面に追い詰める。
 が、エクシアはそのまま水中に潜り、その場から離脱した。
 残されたグラハムの元に部下が追いついて賛辞を述べる。
[お見事です、中尉!]
[逃げられたよ……。交戦することができたのは僥倖。カスタム・フラッグ。一応対抗してみせたが……しかし、水中行動すら可能とは汎用性が高すぎるぞ。ガンダム]
 グラハムはQBの介入もなく、ガンダムと交戦できた事には嬉しそうであったが、ガンダムの性能には憤りを抱いたのであった。


この一件は即日ニュースになり、世界の人々は目にする事になった。
CB、タリビアに軍事介入、と題されたテロップが流れたが、何故か映った現場の映像は整列したまま破壊されたタリビアのモビルスーツだけ。
とても戦闘が行われたとは思えない、有様。
否、そもそも戦闘など行われてはいないのだが。
報道の中で、タリビア軍の兵士は全員敵前逃亡という情報が流れたことに、サジ・クロスロードは「CBってそんなに怖いのかな……。戦いが起きていないなら、結果としては良いのかもしれないけど……」と複雑そうに言葉を述べた。
絹江・クロスロードは、自宅で端末を操作していたが、寧ろこのタリビア軍兵士側の動きと、人革連の発表にあった通り、CBの生物兵器使用疑惑について、頭を悩ませていた……。


―月・裏面極秘施設―

「言っても、君は勝手に行動してしまうようだけど、死者を出さないように拘る必要性はあるのかい?」
 リボンズが端末を操作しながらQBに問う。
「僕らとしてはこれで充分なんだよ。勿体無いし。それより、できるだけ早く用意して欲しいな」
「僕も暇ではないからね……。もう一人、イノベイドを用意したら、帰らせてもらうよ」
 リボンズは正直来なければ良かったと思いながらも、QBは利害が一致する限り……は、自身に協力するというのを早くも理解した為、QBの欲しいイノベイドの製造を担当するためのイノベイドを用意する作業を行っていた。
 負の感情を集めるのならば、死者が出たほうが手っ取り早いのか。
 QBにしてみれば、敵前逃亡という容疑をかけられた兵士達の絶望、そしてその家族のほぼ同様の絶望、全世界の人々から彼らに向けられる冷たい感情……それで充分負の感情は喚起できる。
 これは感情の存在は理解できていても、その本質を理解できないが故のQBならではの思考。
 しかし、嵌められた形になった彼らからしてみれば、まさに、外道。
 ……死んでしまえば、人間は感情エネルギーを発生させない。
 それに、まだ魔法少女部隊は作られてもいない。
 そして現在既存の魔法少女達の負担が増加しすぎて皆消耗によって消滅してしまうような事態は困る。
 つまりは、時期尚早。


低軌道ステーションでの出会いが、アレルヤを過去へと誘うのか。
急ぐ必要はあるのか、キュリオス。
命朽ち果てる可能性はあるのか。
抗えぬ重力が、ガンダムを蝕むのか。



[27528] 僕に仕事を下さい
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/04 23:14
アザディスタン王国王宮ではマリナ・イスマイールが外行の服を着て、太陽光発電の支援を受けるための諸国漫遊に出る所であった。
それを見送るシーリン・バフティヤールは、前回のCBが武力介入したタリビアの一件について少し会話を交わした。
タリビア軍兵士が敵前逃亡したというのは不可解極まり無かったが、いずれにせよ、アザディスタンがCBを利用するという方法は有り得ないという結論に至り、マリナは旅立っていった。


―CBS-70プトレマイオス・ブリーフィングルーム―

 CBでは次のミッションプランに関して、一悶着起きていた。
 ミッションの内容は、人革連の軌道エレベーターの低軌道ステーション付近の宙域で行われる、新型モビルスーツの性能実験の監視と場合によってはその破壊というもの。
 そのミッションにヴェーダによって選定されたのはアレルヤ・ハプティズム。
 キュリオスをコンテナで運び入れ、人革連軌道エレベーター天柱で宇宙へと上がり、そのまま、その性能実験の監視を行う……筈であったが。
「スメラギ・李・ノリエガ、僕にそのミッション、遂行させてもらいたい。わざわざキュリオスを宇宙に上げる必要など無い」
 非常に熱意ある様子で、この僕に仕事をやらせて欲しい、とスメラギに言ったのはティエリア・アーデ。
 微妙に目が血走っている。
 CB所有の南国島ともモニターが接続されており、そこにはアレルヤとロックオン・ストラトスが映っていた。
 その二人の目は、どうにも可哀想なものを見るよう。
「まさかあなたがそこまで強く要求して、ブリーフィングまで開くとは思わなかったわ……」
 正直少し意外だとばかりにスメラギは息を吐きながら言った。
 実際、ヴェーダ至上主義者とも言えるティエリアがこのような提案をするのはスメラギにしてみれば本当に意外であった。
「どうなんです。僕にミッションを遂行させて貰えるのですか」
 そんな感想はどうでもいい、早く返答しろ、とティエリアはスメラギに一歩近づいて催促した。
 思わずスメラギは一歩後ろに下がり答える。
「え……ええ。ヴェーダに提案してみたけれど、ヴァーチェが出撃するというプランも可という事だから、構わないわ。アレルヤは、それでいいかしら?」
 目線がモニターのアレルヤに向く。
「ええ、僕は構いませんよ。もう少し、休みたいですしね」
 皮肉めいてアレルヤは答えた。
 ロックオンは付き合ってられないと顔を顰める。
 対して、ティエリアはその言葉に両の拳をきつく握りしめた。
「……と言う事だから、ティエリア。今回のミッション、頼むわね」
 ティエリアの様子に気づいたスメラギが苦笑して言った。
「了解」
 聞いて、ティエリアは簡潔に、だが、どことなく嬉しそうな様子で答えた。
 そこまでで、ブリーフィングは終わった。
 QBのタリビアでの暗躍には、げんなりさせられたとしか言いようが無かったが、民間人の住まう場所に流れ弾の一つも飛ばなかったという点では評価できるという結論であり、個人個人何だか妙に疲れたのは寧ろ自身のせい。
 故に、QBの話題は、この場にティエリアがいる事も鑑みて、空気を読んで誰も言わなかったのである。


かくして、その二日後、ミッションが決行される事となる。
人革連低軌道ステーションには偶然にも、サジ・クロスロードとルイス・ハレヴィが大学の研修に訪れた。
二人がリニアトレインで上がる際、絹江・クロスロードもJNN天柱極市支社に用があった為、それを見送った。
研修と言うには、旅行とも言えるような物であり、ルイスは無重力を楽しんで過ごしたり、サジを連れ回したりとやりたい放題。
ともあれ、そんな一般人の様子を他所に、別の場所ではセルゲイ・スミルノフとソーマ・ピーリスが、CBが監視するその新型モビルスーツ、MSJ-06II-SPティエレン超兵型の実験の為に、同じく宇宙へと上がった。
……そして、ミッション当日の二日後。


―CBS-70プトレマイオス・リニアカタパルト―

 フェルト・グレイスのオペレーションが流れる。
[ヴァーチェ、カタパルトデッキに到着。リニアカタパルトボルテージ、230から520へ上昇。ヴァーチェをリニアフィールドへ固定。射出準備完了。タイミングをヴァーチェに譲渡]
 ヴァーチェがリニアカタパルトから射出可能な状態になる。
[了解。ヴァーチェ、ティエリア・アーデ。行きます]
 ヴァーチェに搭乗するティエリアが言い、操縦桿を倒して、発進させた。
 天柱へのテロを行った者を撃滅して以来、久々の出撃。
 ヴァーチェはその巨体で宇宙に飛び出し、人革連の軌道エレベーターへと向かっていった。
 ヴァーチェが発進した後、トレミーのブリッジにはその機影を頑張ってね、と見送る視線が幾つもあった。
 そのような事露知らず、ティエリアは、
「近頃の鬱憤、晴らさせて貰う」
 そう、低い声で独り言を言い、操縦桿を更にきつく握りしめた。
 精神的に相当溜まっていた。
 しかし、鬱憤を晴らせるようなミッションではない事は明らか……。


―人革連・低軌道ステーション付近宙域―

 スミルノフとピーリスはそれぞれ青色の宇宙仕様ティエレンと桃色のティエレンタオツーに乗って並行して飛んでいた。
[少尉、機体の運動性能を見る。指定されたコースを最大加速で回っていろ]
 スミルノフはそう通信でピーリスに命令した。
[了解しました、中佐。……行きます]
 返答し、目を鋭くさせ、ピーリスは脚部のスラスターを一気に噴かせ、直進する。
[最大加速に到達]
 瞬時に最大加速に到達し、指定ルートを回るべく、肩部の姿勢制御用スラスターを噴かせ向きを調整。
 再度脚部のスラスターを噴かせ、楕円軌道を描いてルートを進む。
 その様子をヘッドマウントディスプレイを通して表示されるモニターを見て、スミルノフが呟く。
「最大加速時で、ルート誤差が0.25しかないとは。これが超兵の力……しかし、彼女はまだ乙女だ……」
 そのまま、ピーリスは指定ルートを問題無く周回していく。
 その頃、低軌道ステーションの一角には王留美と紅龍が居り、ティエリアに人革連の新型モビルスーツの性能実験が開始された事を知らせた。
 情報を受け取ったティエリアも丁度、ヴァーチェでその宙域を捕捉可能かつ、人革連側からは捕捉されないポイントに到着していた。
「人革連のモビルスーツ……」
 ティエレンタオツーをモニターで見ながらティエリアはコクピットで呟いた。
[ヴァーチェ、監視を続行する]
 律儀にトレミーへ報告も欠かさない。
[その調子で頼むわね、ティエリア]
 温かい声のスメラギからの返信。
[了解]
 ティエリアはコクピットでティエレンタオツーの様子を監視しながら考える。
 人革の新型モビルスーツという情報だが、形状からするに、宇宙・地上両面での行動ができるようだ。
 機動性は通常のティエレンに比較すると遥かに高いか。
 スラスターの数も豊富だ。
 無論、ガンダムには劣るが……。
 しかし、あの機体の搭乗者、指定ルートを回り続けているが誤差が随分少ない。
 あの性能のティエレンを乗りこなすパイロット……いずれ敵対する事になれば厄介か。
 だが、機体そのものはここで破壊する必要性があるとまで判断できる程の脅威でもない。
 依然、ガンダムには遠く及ばない。
 そう、考えながらも、ティエリアはピーリスのティエレンタオツーでの性能実験を監視し続けた。
 ただ、監視するだけ。
 暇である。
 しかし、ミッションを遂行するのがガンダムマイスターの役目、と自負するティエリアにしてみれば、暇だ、などと考える事など無い。
 そのまま、監視を終えるか、と言うところ。
「ティエリア・アーデ、僕はQB。特にあの機体は脅威でも無いね」
 忽然とQBがヴァーチェのコクピットの中、ティエリアの目の前に現れた。
「ぁアァぁああッ! 貴様が! 万死に値するッ!!」
 瞬間、目の前の生物を視認したティエリアはキレた。
 すかさず必ずガンダムマイスターが携帯している銃を構え、そして引き金を躊躇する事なく引いた。
 銃声と共に、QBの頭部に風穴が空き、その弾丸はヴァーチェのコンソールすらも穿ち、割れる音がする。
「はぁっ……はぁっ……」
 息を荒げ、思わずやってしまったティエリア。
 QBの死体がコンソールの上に倒れ、そのままとなる。
 かと思われれば、
「いきなり撃つのはやめて欲しいな、ティエリア・アーデ。無意味に潰されるのは困るんだよね」
 新たにQBがティエリアの肩に現れて言った。
「なっ!?」
 ティエリアは大いに驚いて身体を振った。
「他のガンダムマイスターから聞いているだろう? 何故驚くんだい?」
 マイスタータイプのイノベイドの割に、ガンダムを自分で壊すなんて、君が一番ガンダムマイスターに向いていないんじゃないかな、とQBは思ったが、ソレは言わなかった。
 そのまま驚いているティエリアを無視してQBは、目の前で悠然と自身の死体を咀嚼して喰い始める。
 その速さはかなりのもので、みるみるうちに死体は無くなった。
 ティエリアは片目の下をピクピク震わせ、その光景を見た。
 一応怒りの矛先を、根源のQBに向け、一度射殺も達成した事でかなり溜飲が下がったティエリアは冷淡な声で言った。
「QB、何の目的で現れた」
「君にはまだ声を掛けていなかったからね、それだけさ。じゃあ、僕は帰るね」
 言って、虚空にQBは消えた。
「な」
 目の前で実際にQBが消えた事でティエリアは唖然としたが、それよりも重大な物が目に入った。
 ヴァーチェ、敢えてもう一つ言えば、ナドレ……のコンソールを撃って、壊してしまった跡。
「何という失態だっ……。これでは……」
 ガンダムマイスター失格だ……と深い後悔にティエリアは見舞われた。
 損傷としては、ガンダムの操縦には支障は出ないものの、自身で破壊したという事がティエリアにはショックであった。
 丁度、完全に思考の埒外になっていたピーリスのティエレンタオツーの性能実験が無事、終わっていた。
[ティエリア、ミッション終了よ。トレミーに帰還していいわ。お疲れ様]
 モニターにスメラギの顔が映り、ティエリアを労う。
[了……解……]
 意気消沈した声で、ティエリアは返した。
 その様子にスメラギは何かあったのかと問いかける。
[どうしたの、ティエリア?]
[帰投してから、説明します……]
 言って、ティエリアは一方的に通信を切り、ヴァーチェを発進させて、トレミーへと戻っていった。
 戻るまで、ティエリアはうな垂れていた。
 相対誘導システムに従い、コンテナにヴァーチェを格納。
 ヴァーチェから降り、そのままティエリアはスメラギのいるブリッジへと疲れているようにしか見えないその姿を現した。
「スメラギ・李・ノリエガ、僕は独房に入ります」
 もうこの世の終わりだ、という表情でティエリアは言った。
「はい?」
 いきなりの宣言にスメラギは聞き返す。
 すると、重苦しくティエリアは口を開く。
「……コクピットにQBが突如現れ、僕は我を忘れて射殺。貫通した弾丸がヴァーチェのコンソールに損傷を与えました……」
「ちょっと、射殺って……」
 万死に値するなどと叫んでいたけれど、まさか本当に撃ったの、と信じられないという顔でスメラギは言った。
「自身の感情をコントロールできないなど、ガンダムマイスター、失格……です。ですから、僕は独房に入ります。では」
 返答も聞かず、ティエリアはブリッジから去り、物悲しい背中をブリッジの面々に見せつけて、そのまま勝手に独房に引きこもったのだった。
「ティエリア……」
 スメラギの言葉はブリッジの空気に溶けこんでいった……。


低軌道ステーションにそもそも、アレルヤに出会いは無かった。
キュリオスは急ぐ必要は無かった。
命朽ち果てる可能性は無かった。
抗えぬ重力が、ガンダムを蝕む事など無かった。
あったのはティエリアの後悔と絶望。


―日本・群馬県見滝原市か、はたまたどこかの都心のビル屋上―

 ビル風に美しく長く黒髪をたなびかせ、300年近く経っても劣化することの無い赤いリボンが印象的な少女がいた。
「最近のアレ、は何が目的なのか一応聞いて、あなたは答えてくれるのかしら?」
 彼女は紫色の結晶を中心に、その周りに黒い四角の結晶を幾つか置いて何やら作業しながら、近くでその作業が終わるのを待っているQBに尋ねた。
「君なら言わなくても分かるんじゃないのかい?」
 首を傾げてQBが答えた。
「……負の感情を全世界で喚起させ、その矛先をCBという一点に向ける。強力な魔獣の発生を促すのが目的、かしら」
 一つの黒い結晶を摘み放り投げる。
「そうだよ。分かってるじゃないか」
 上手にそれを背中にキャッチしながら、説明の手間が省けた、とQBは言った。
「いつまでも……あなたたちはそういう奴らだものね」
 飄々と少女は虚空に向けて言葉を紡いだ。
 彼女が魔法少女の数が足りなくなる、自身の負担が増える、という事を気にする事はなかった。
 なぜなら、いつまでもこの世は救いようの世界だが、それでも彼女は戦い続けるだけなのだから。
 例えQBが何かを企もうとも、自身の行うべき事は変わらない。


仕組まれた戦場だとしても、CBに沈黙は許されないのか。
新装備を携えたガンダムが、その存在を世界に明示するのか。
もう、戻れないのか。



[27528] 管制官「こんなの絶対おかしいよ」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/05 18:25
―月・裏面極秘施設―

 人工生命体イノベイド、リボンズ・アルマークは最初に造られた一人。
 塩基配列パターンは0026。
 QBの頼みによって同じ塩基配列パターンのイノベイドが急造され、生体ポッドから誕生した。
 それに伴い、リボンズはこの月の裏面極秘施設に再び来る時に備え、適切に情報改竄を行い、後をそのイノベイドに任せて去った。
 無性であるマイスタータイプではない為、性別は女性、生体年齢は別に魔法少女にも合わせる事も無く、成人。
 ライトグリーンの髪色が特徴的な女性。
 ヴェーダにもイノベイドを製造する事からその情報は登録され、名前はマリア・マギカ。
 言わば魔法少女の母とでも意識するようなネーミングであった。
 マリアとリボンズの別れ際の会話は、非常に事務的。
 マリアという名前の割には、彼女の母性と呼べる感情は極限まで希薄化されていた。
 これから彼女が製造を行う量産少女型イノベイドは、須らく魔法少女となり、いずれ死体も残さず消滅する運命にある。
 ある程度の感情は必要だが、製造するイノベイドに対して情を抱く必要性は皆無。
 それ故の、該当感情の希薄化。
「マリア、イノベイドの製造と調整、頼むね」
 QBが既に端末に向かって作業を開始しているマリアの肩に乗って言った。
「了解。塩基配列パターン8686のイノベイドの製造作業を続行します」
 遺伝情報基は、純粋な日本人である、そして歴代最強にして、現在最長齢でもある魔法少女。
 元々彼女の遺伝情報には心臓や目に疾患があったが、その点については調整が施され、塩基配列パターン8686として製造される事になった。
 この量産型イノベイド製造計画はヴェーダのレベル7の情報の中でも極秘事項として扱われ、アクセスできるイノベイドはリボンズ・アルマークと、例外的にマリア・マギカのみ。
 レベル7にアクセスできるティエリア・アーデにも、この情報を見つける事はできない。
 ともあれ、ティエリアはそれどころではないが。
 ヴェーダ自体の判断は既にQBにハッキングされてしまったからのか、はたまた、元々イオリアの計画の中に異星生命体との来るべき対話が含まれていた事からスムーズに受け入れられたのか……真相はどちらにせよ、この計画は推奨された。
 実際、異星生命体QBが必要とする魔法少女、そしてその狩るべき対象の魔獣について、イノベイド魔法少女を端末として情報を集める事ができ、確かに対話への足掛かりとなるのは紛れもない事実。
 かくして、ティエリアが勝手に独房に引きこもってしまった一週間以上の間に、塩基配列パターン8686の容姿端麗な美しい黒髪の少女がまず初めに七人、そしてそれ以後同様に……と誕生しだした。
 そして量産型魔法少女部隊となる記念すべき初の七人が誕生した時。
 オリジナルの少女とは異なり、機動性を重視し全員黒髪ショートヘアーの少女七人がQBの前に整列する。
「さあ、教えてごらん。ホムラ001から007。君たちはどんな祈りで、ソウルジェムを輝かせるのかい?」
 QBは怪しげなその紅い双眸で、少女達を見つめ、問いかけた。
『円環の理に導かれるその時まで、私は戦い続けたい!』
 少女たちは迷うこと無く、願いとも呼べないような願いを口を揃えて言った。
 誕生する前からの調整によって、QBにとって都合の良い願いを彼女達が口にする事は、幸か不幸かなど関係なく、決まっていたのだ。
 この願いの強さが、オリジナルの少女の想いに比べれば、絶対的に弱いものだとしても。
 瞬間、彼女たちは皆揃って苦悶の声を上げ始め、胸の辺りから紫色の輝く結晶が出現する。
「契約は成立だ。君たちの祈りは、エントロピーを凌駕した。さあ、解き放ってごらん。その新しい力を!」
 QBが高らかに宣言して、少女たちは目の前に出現した結晶を両手で掴んで、その新たな力を手にした。
 ……余りにも労力のかからない魔法少女たちの誕生。
 彼女たちが人間の魔法少女と決定的に異なるのは脳量子波の操作が可能である事、そして初めから備わった卓越した戦闘技術。
 故に、連携して魔獣を倒すことが、人間の魔法少女で組まれたチームよりも最初から、遥かに上手い。
 QBは当然だよね、と彼女たちをマリアに輸送機を手配させ、地上へと送り出すのだった。
 その活動が表に現れる事は、無い。


―南アフリカ地域・鉱物資源採掘現場―

 夜、三日月が夜空に浮かぶ中、ロックオン・ストラトスが先日介入した現場を見まわる人物がいた。
 辺りにはロックオンが破壊したワークローダーが放棄した機関砲や、ワークローダー本体が散乱。
「ったぁく、酷ぇもんだなぁ……C何たらってのはよ。ここにある石っころが採れなきゃー、この国の経済は破綻。その影響を受ける国や企業がどんだけあるか……。戦争を止められりゃぁ、下々の者がどうなっても良いらしいやぁ……」
 赤味がかった髪と、同じく赤味がかった長く伸びた顎髭が特徴的、野蛮な印象のあるアリー・アル・サーシェスはそう文句を垂れながら、部下を後ろに引き連れながら言った。
 そこへ、ダミ声でもう一人部下が携帯を持って現れる。
「隊長ぉ、PMCトラストから入電ッス」
 サーシェスはそれを右手に受け取り、耳にあてて、重苦しく口を開く。
「アリー・アル・サーシェスだ。……ぉい、現地まで派遣しておいてキャンセルってのはどういうこった! 戦争屋は戦ってなんぼなんだよぉ! このままじゃモラリアは崩壊すっぞ!」
 電話先の相手に怒鳴り、サーシェスは返答を待つ。
「……わかった。本部に戻る」
 諦めたように息を吐いて携帯を下ろした。
「何か?」
 後ろに控えていた、副官が尋ねた。
 サーシェスは意味深に笑い、顔だけ向けて答える。
「ん、フフ。ようやく重い腰を上げやがったぁ。AEUのお偉いさん方がな……」


AEU中央議会では首脳達の間でモラリアへの軍隊派遣についての議論が交わされていた。
AEUはアフリカの軌道エレベーターによる電力送信は始まっているものの、軌道エレベーターそのものの各種施設は未だ完成しておらず、人革連とUNIONに比べ、宇宙開発計画が明らかに遅れている。
AEUがその宇宙開発計画を推進する為にはモラリア共和国のPMCという、傭兵の派遣、兵士の育成、兵器輸送および兵器開発、軍隊維持、それらをビジネスで請け負う民間軍事会社が必要不可欠と考えられていた。
ヨーロッパ南部に位置する小国、モラリア共和国は人口自体は18万と少ないが、300万を超える外国人労働者が国内に在住。
約四千社ある民間企業の二割がPMCによって占められている程PMCは重要な存在。
明らかに紛争を幇助する企業であるが、これまで未だにCBの攻撃対象にならなかったのはヴェーダの判断による所が大きい。
CBの活動により世界の戦争が縮小していけばビジネスは成り立たなくなり、そしていずれ自滅して消滅する可能性も鑑みて、これまで介入は行われ無かった。
実際、既にモラリアの経済は縮小しつつあり、モラリアとしては最悪国家そのものが崩壊しないように、どうにかして経済を立て直す必要がある。
一方、AEUは一刻も早く太陽光発電システムを完全に完成させて、コロニー開発に乗り出したいが、その為には、民間軍事会社の人材と技術が不可欠。
結果両者の利害の一致もあり、例えCBと事を構えてでも、行動を起こす必要がある。
モラリアは例え自国が戦場になったとしても、AEUの援助が必要であり、AEUは軍隊をモラリアに派遣し合同軍事演習という形で距離を近づけたい。
予想通り、CBが武力介入に現れて、戦闘になったとして、もしガンダムを鹵獲できれば僥倖、完全に完敗したとしてもメリットがある。
ただ合同軍事演習を催しただけにも関わらず、ガンダムによる武力介入を受けたAEUは、国民感情に後押しされて、軍備増強路線を邁進する事が可能になるという、メリットが。
加えて、派遣そのもので、モラリアに貸しを作る事で、PMCとの連携を密接にすることができる。
以上が、筋書き。


―CBS-70プトレマイオス・ブリッジ―

 フェルト・グレイスが淡々と報告をする。
「GNドライブ、接続良好。GN粒子のチャージ状況、現在75%。散布状況、40%に固定。有視界領域にアンノウン無し」
 同じくオペレート席に座るクリスティナ・シエラがそこで、ラッセ・アイオンとリヒテンダール・ツエーリの方を向いて言う。
「ねえ……もう一週間以上経っちゃってるんだけど」
「何がだ?」
 ラッセがクリスティナを見ることなく、特に何も考えず聞き返した。
「ティエリアの事。ずっと引きこもったままじゃない。放っておいていいの?」
 溜息をついてクリスティナが言った。
「放っとけ放っとけ。スメラギ・李・ノリエガも言ってたが、どっちにしたってティエリアがヴァーチェを降りる事は無理なんだからよ」
 なるようになるさ、とラッセは軽く答えた。
 ヴァーチェに隠されるナドレの存在はスメラギとイアン・ヴァスティ、そしてティエリア・アーデ本人など、CBメンバーでも一部の者しか知らない。
 ナドレのトライアルシステムを起動できるのは脳量子波を操る事ができるティエリアだけ。
 事情を知らないものの、そういう事じゃないのよ、とクリスティナは言う。
「それが機密事項だからなのは分かるけど、食事を運ぶ私の身にもなってよ」
 刺激しないようにするのが気まずくて面倒だ、とクリスティナの悩みの種になっていた。
 CBメンバーに無駄な心労が波及していく。
「なら、俺が代わりに運びましょうか?」
 そこへリヒティが振り返り、気さくに提案した。
「えっ、本当? 優しい!」
 ややわざとらしく、クリスティナは両手を合わせて感謝した。
「それほどでも……」
 リヒティは頭を掻いて照れた。
 そのやり取りに、ラッセはやれやれ……と、フェルトは完全無視で指を動かし続けるのだった。
 軽く子守が必要になってきているティエリアは、ガンダムマイスターではなく、ここ最近最早荷物と化していた。
 当の本人は独房で真っ白に燃え尽きたような様子で、ひたすらうなだれていた。
 僕はガンダムマイスター失格だっ……。
 頭の中を後悔がぐるぐると回り続け、ティエリアは出口に到達できなかった。
 しかし、そこへ、いつまでもそうしていられると困ると独房の扉を開いたのはスメラギ。
「スメラギ・李・ノリエガ……」
 一瞬だけ視線を向けたティエリアに、スメラギは溜息をついて言う。
「もう反省は充分でしょ。あなたの力が必要なの、ティエリア」
「ミッション……ですか」
「モラリア共和国大統領が、AEU主要三ヶ国の外相と極秘裏に会談を行っているって情報が入ったわ」
 そのスメラギの言葉にティエリアが僅かに反応する。
「モラリア……。PMC」
 スメラギが頷く。
「そうよ」
「……我々に対する挑戦、ですか」
 次第にティエリアに色が復活していくよう。
「ハードなミッションになるわ。私達も地上に降りて、バックアップに回ります」
 スメラギは腕を組んで、ティエリアを見下ろす形で言ったが、まだ反応が薄い。
 時間も余り無いのでついに我慢の限界に達したスメラギはキレた。
「……ティーエーリーアッ! さっさとここから出なさいッ!! 直ちに出撃準備に取り掛かって! あなたヴァーチェのガンダムマイスターなのよ!」
 ブリッジのメンバーにも聞こえるような大声でスメラギは怒鳴り、ティエリアの両肩をガクガクと揺すり命令した。
「りょ……了解」
 揺すられた事で眼鏡がズレたティエリアはスメラギの様子に呆気に取られながらも、なんとか答えた。
「だらしがない。シャキッとしてもう一回!」
 スメラギの怒りは収まらない。
「りょ、了解!」
 気圧されたティエリアは、目を見開き、改めて了解を口に出して勢い良く立ち上がり、いそいそと出撃準備に入るべく独房から出て行った。
 対して、怒鳴り散らしたスメラギは、子供じゃないんだから全く……それに若さが減るじゃない……と嘆きの想いを心に秘めながらも、ブリッジに向かい残りのクルーにミッション開始を伝えた。
 クリスティナ達はスメラギが入って来た瞬間、ギョッとした。
 怒らせると怖い、と。


人革連ではソーマ・ピーリスのティエレンタオツーでの性能実験が上手く行き、問題無く日々過ぎる一方で、マリナ・イスマイールはフランスの外務省を訪れて太陽光発電の技術支援を求めたが、得られたのは食糧支援の続行のみ、と慣れない外交に苦慮していた。
そんな中、モラリアで行われる合同軍事演習について、それを注視する者達は動向を眺めていた。


―モラリア空軍基地―

 基地に向けて、AEUのイナクトが三機飛翔していく。
「ヒィー! ヤッホォォォー!!」
 雄叫びを上げて先頭を進むのはパトリック・コーラサワー。
[こちらモラリア空軍基地。着陸を許可します。七番滑走路を使用してください]
 それに対して、管制官が通信を入れる。
 パトリックの乗るイナクトは自己主張をするかのごとく、管制塔ギリギリをわざと飛ぶ。
 職員達は何事かと騒ぐのも知らず、イナクトはそのまま滑走路に着陸してコクピットを開けた。
 中から颯爽と出たパトリックはスチャッと左腕をほぼ直角に曲げて上げ、登場の挨拶をする。
「よぉ! AEUのエース、パトリック・コーラサワーだぁ」
 自信満々に言い、続けて左人差し指をモラリア軍兵士達に向ける。
「助太刀するぜ! モラリア空軍の諸君?」
 その態度に、モラリア軍兵士達は唖然とする。
 しかしそれも無視して、パトリックは空を見上げて言う。
「早く来いよガンダムぅ! ギッタギッタにしてやっからよぉ!」


一方CBのメンバー達も動き出し、邸宅にて紅龍が王留美モラリアの情報を伝え、王留美はモビルスーツの総数130機という言葉に最大規模のミッションである事を感じ取り「世界はCBを注視せざるを得なくなる……」と呟いた。
UNIONの軌道エレベーターで地上に下りていたスメラギ、クリスティナ、フェルトの三人はホテルに部屋を取っていたが、モラリアへの直行便が翌日である事から、それぞれ街に出かけて行った。
フェルトはクリスティナに無理矢理連れられて買い物に、スメラギはビリー・カタギリを誘い、酒を飲みに……と。


―CB所有・南国島―

 アレルヤ・ハプティズムとロックオン・ストラトス、それに加え、CBの総合整備士であるイアンがエクシアの到着を出迎えた。
 コクピットから刹那・F・セイエイが現れ降りて来る。
「おお! 久しぶりだな、刹那」
 軽くイアンが声を掛けた。
「イアン・ヴァスティ」
 刹那がイアンを見て言った。
 イアンは腕を組んで言う。
「一刻も早く、お前に届けたい物があってなぁ」
 ロックオンが手を上げて喜ばせるように言う。
「見てのお楽しみって奴」
「プレゼント! プレゼント!」
 HAROが音声を出す。
 イアンが後ろを示して言う。
「デュナメスの追加武装は、一足先に実装させて貰った」
 そこに見えるのは、既に取り付けられているデュナメスのシールド。
 続けてイアンが水色のコンテナをタイミング良く開けながら言う。
「で、お前さんのはこいつだ。……エクシア専用、GNブレイド。GNソードと同じ高圧縮した粒子を放出、厚さ3mのEカーボンを難なく切断、できる。どぉだ、感動したか?」
 どうだ壮観だろ、とエクシアの新たな実体剣の解説がなされた。
「GNブレイド……」
 刹那はそれを見上げ呟いた。
「ガンダムセブンソード。ようやくエクシアの開発コードらしくなったんじゃないか?」
 ロックオンが言うと、何も言わずに刹那はエクシアへ踵を返した。
 その様子にイアンはその態度は何だと唸って言う。
「何だあいつは? 大急ぎでこんな島くんだりまで運んで来たんだぞ? 少しは感謝ってもんをだなぁ」
 最近の若いもんは、とイアンは文句を言った。
 アレルヤが苦笑して言う。
「十分感謝していますよ、刹那は」
「えぇ?」
 何が、とイアンはアレルヤを見る。
「ああ、刹那は、エクシアにどっぷりだかんなぁ」
 ロックオンが引き継ぐように刹那の様子を見ながら言った。
「エクシア……俺のガンダム」
 刹那はエクシアを見上げて呟いた。
 そういう事か、と刹那様子を眺めながら、イアンはアレルヤとロックオンに尋ねる。
「で、あのQBってのは何なんだ。映像を見た時は腰が抜けるかと思ったぞ」
 地上にいたイアンはQBがガンダムマイスター達に接触していたのを知らなかった。
 CBのエージェント達はQBのビデオメッセージに何事かと皆一律驚愕していた。
「あの映像の通り、異星生命体だとよ。あのQBが勝手してくれるお陰で、死者が殆ど出てないのだけは評価できるさ。次のミッションでも現れるかどうか、もし出たら取っ捕まえてやる」
 ロックオンが説明した。
「味方なのか? というより、見たのか?」
 あの生物、本当にいるのか、とイアンは驚いた。
 アレルヤが言う。
「ええ、現れましたよ。僕達ガンダムマイスターの前にだけですが」
「殆ど会話にならない訳がわからない奴だ」
 困ったもんだとアレルヤとロックオンは口々に言った。
「はぁ、何だかよう分からんが、活動そのものに支障が出てないのは幸いか。確かに死者が出とらんのは良い事だろうな。……だが、異星生命体だというのが本当なら、世紀の大発見じゃないか」
 イアンは結局要領を得ないと感想を漏らしながらも、異星体がいたら凄い事だろ、と言った。
「その筈なんですがね……どうにも」
「ああ、全然嬉しくないんだよな」
 ガンダムマイスターの正直な感想はこうであった。
 そこへ、音を立ててヴァーチェが丁度降下してくるのが見える。
「ティエリアも来たか」
 気がついたイアンが待ちかねたように言った。
「やれやれ……」
「やれやれ……ですね」
 ティエリア事件を知っている二人は会って何と声をかけたら良いものかと、気が重かった。


―PMC・武器格納庫―

 サーシェスとPMCの職員が会話をしていた。
「合同演習ねぇ。まさかAEUが参加するとは思わなかったぜ」
「外交努力の賜物だ。我々ばかりがハズレを引く訳にはいかんよ。AEUにも骨を折って貰わなければな」
「ん、ッフフ。違いねぇ」
 サーシェスがそう笑うと格納庫の明かりが点灯される。
 そこに見えたのは青色のカラーリングが施されたイナクト、にチューンを施されたもの。
「この機体をお前に預けたい」
「AEUの新型かぁ」
「開発実験用の機体だが、わが社の技術部門でチューンを施した」
 クスリと笑い、サーシェスが尋ねる。
「こいつでガンダムを倒せ、と?」
「鹵獲しろ」
「ッフ。……言うに事欠いてぇ」
 言うもんだ、とサーシェスが呟いた。
「一生遊んで暮らせる額を用意してある」
 その職員の言葉に口笛を吹いて言う。
「そいつぁ、大いに魅力的だな。……だが、例のQなんたらとかいうのが出たらどうすんだ?」
「冗談を言うな。あのようなもの、腰抜けの兵士共の迷言にすぎん」
「こりゃ失礼」
 人革連とタリビアの一件のQBについての情報をまともに信じていない会話であった。
 しかし、サーシェスはタリビア兵の敵前逃亡をある点で評価してはいた。
 命あっての物種、と。


―モラリア・王留美の手配した屋敷―

 スメラギ達が車で到着し、王留美に案内されて準備に入った。
 用意されている機材にヴェーダとのアクセスを行うためのクリスタルキーを穴に挿し込み、モニターを起動させる。
 そこに映し出されたのはモラリア、AEU軍、PMCトラストのリアルタイムの配備状況。
 スメラギが腕を組んで言う。
「予定通り、00時をもってミッションを開始。目標は私達に敵対するもの全てよ」
「了解」「了解」
 クリスティナとフェルトが返答する。
「QB……という例の生物が現れた場合は想定しているのですか?」
 王留美が気に掛かる事を尋ねた。
「想定は敢えて、しないわ。今回も皮肉なことに、出現してくれた方が良いと言えば良いけれど、私達はQBに頼らなくても本来やっていけるのだから。もし現れた場合は臨機応変に想定してある変更プランを随時マイスター達に指示する予定です」
 スメラギはもう出るなら出てみろ、出たら出たで利用させてもらうと、開き直って対応する決心をしていた。
 スメラギは実のところ、QBの行動可能性も考慮して考えなければならない為、無駄に仕事が増えていた。
 昨日ビリー・カタギリとQBという異星生命体について人革連とタリビアの一件をベースに色々話す事ができたりもしていたが、それとこれとはミッションに何の関係も無い。


かくして、再びCBのミッションが始まる。


―モラリア圏内直前―

 キュリオスとエクシアが先頭、デュナメス、そしてヴァーチェが一番後ろを、ガンダム四機が初の一斉同地点出撃を行って飛翔していた。
 山岳地帯を越え、モラリア領内に入った途端、斥候に飛んでいたモラリアのヘリオンがガンダムを視認し、それを報告した。
[敵さんが気づいたみたいだ。各機、ミッションプランに従って行動しろ。暗号回線は常時開けておけよ。ミス・スメラギからの変更プランが来る。それにまたQBが出るかもしれないからな]
 ロックオンが三人に指示する。
[了解][了解][了解]
 そのままガンダム各機は散開し、それぞれのポイントに向かう。
 応戦にとモラリアの地上から対空砲が発射され、その映像が全世界で中継される。
 QBは今回出ないのかという時、やはり絶妙のタイミングで出ていた。
 それが最初に分かったのは……アレルヤが指定ポイントに到着した時。
[E332に敵飛行部隊……無し……]
 当初の戦術であれば、AEUのヘリオン飛行部隊がキュリオスの前方上空に現れる筈であった。
 しかし、そこに見えるのは綺麗な青空のみ。
「全く、スメラギさんの予測は外れるな……」
 分かっていながらも、アレルヤはげんなりした目をして、皮肉を吐いた。
[アレルヤ、プランQ2に変更よ……ポイントE301]
 スメラギから直接即座に対QB用プラン……飛行部隊の癖に離陸すらしていないAEUのヘリオン部隊の単純破壊が指示される。
 無論、滑走路からはパイロット達が退避し始め、それに対してQBという単語が飛び交う管制室では指揮官達は叫び声を上げていた。
[了解……]
 息を吐いて了承し、キュリオスは一気に高度を落とし、滑走路に鎮座する緑色のヘリオン群をコンテナに搭載してきていたGNミサイルで、周囲に人がいないのを確認して一掃した。
[敵機編隊を撃破。キュリオス、ミッションプランをQ2で維持]
 フェルトからの指示が入った。
[了解。介入行動を続ける]
 その後も、航空戦力を基本的に相手にする予定だったキュリオスは離陸できない敵機編隊、それも主にAEU軍部隊が鎮座する滑走路を巡り、次々に金属の塊を撃滅していった。
 AEUのエース、パトリック・コーラサワー、ガンダムと戦闘を開始する前からQBに敗北。
 ……一方クリスティナが管制していた二機は、
[デュナメス、ヴァーチェ、D883にて武力介入に移行]
 モラリア軍基地地上に直接降下したロックオンは普通に戦闘を開始する事になった。
 その場には濃紺色のカラーリング、PMCヘリオン陸戦型モビルスーツ部隊がいた。
「おいおい、アレルヤだけ優遇かよQB。ハロ、シールド制御頼むぜ」
 不公平だろ、とロックオンは悪態をつきながらも、行動を開始する。
「マカサレテ! マカサレテ!」
 HAROが音声を出し、PMCの傭兵部隊の砲撃をシールドで防ぐ。
 その隙に、悠々とロックオンはライフルを構え、次々に戦闘不能にしていった。
「狙い撃つまでもねぇ!」
 一方、そのすぐ別のモラリアのヘリオン部隊がいる基地の地上降下したヴァーチェもデュナメスと同様に戦闘を開始した。
[ヴァーチェ、ヘリオン部隊を一掃する]
 両腕に構えたGNバズーカをキィィンという音と共に発射し、基地の端から端まで、斜線上のヘリオン陸戦型を跡形もなく消滅させた。
「勿体無いけど、君のガンダムでは仕方が無いね」
 一瞬だけ、QBが現れ、そう言って消えた。
「な。……鬱陶しい。だが、同じ轍は踏まないっ……」
 ティエリアは目を吊り上げて、二度とコクピット内で銃は撃たないと改めて決意した。
[ミッション、続行する]
 CBの司令室では引き続きクリスティナとフェルトのオペレートが続けられる。
「ヴァーチェ、フェイズ1クリア。フェイズ2に入りました」
 クリスティナがそう報告し、
「キュリオス、敵航空……勢力を制圧、フェイズ2に突入」
 フェルトが航空というには語弊があると感じたのか、一瞬詰まって報告した。
「気にしないで良いのよ、フェルト。デュナメスのミッションプランをC5に変更して」
 気持ちは分かるわ、とスメラギが更に指示する。
「了解」
 その様子を見ている王留美が唖然として言う。
「これがガンダムマイスターの力……とQBの力……なんて凄いの」
 正直信じられない、という顔。
 凄いのはQB。
「うぅん……でも、まだまだ始まったばかりよ」
 スメラギはこめかみを押さえ、頭を振って言い、クリスティナに尋ねる。
「エクシアの状況は?」
「予定通り、T554で敵部隊と交戦中です」
 クリスティナが答えた。
 エクシアが戦闘を行っていたのは山岳地帯。
 敵勢力はPMCの陸上モビルスーツ部隊。
 エクシアのコクピットにはQBがいた。
「勿体無いからできるだけコクピットは切らないで貰えると助かるよ」
「了解」
 刹那は簡潔に了承し、GNソードで次々とPMCのヘリオン陸戦型を駆逐していく。
 だが了解する相手はそれでいいのか。
[エクシア、フェイズ1終了。フェイズ2へ]
 そう言うと同時に、リニアガンが上空からエクシアに向けて発射され、センサー音が鳴り響く。
 即座にエクシアは回避運動を取り、弾丸を避ける。
「新型かっ」
 その機影を見て、刹那が言った。
「AEUイナクトをPMCが独自改装したものだね」
 旋回したPMCイナクトが次々とリニアガンを撃ち、エクシアがそれを回避する中、QBが解説をした。
 しかし、回避に合わせてリニアがエクシアを捉え被弾し始める。
「何!?」
 刹那が驚いた。
 動きが、読まれている……?
 PMCイナクトがエクシアに体当たりをかまし、再び旋回しながら、パイロットが音声を出す。
『っははははは! 機体は良くてもパイロットはイマイチのようだなぁ! えぇ? ガンダムさんよぉ!』
 サーシェスである。
「あの声……?」
 刹那には心当たりがあるような気がする。
『商売の邪魔ばっかしやがってぇ!』
 自分勝手なサーシェスの発言を聞き、刹那は昔、知った事のある人物を思い浮かべ息を飲む。 
「ま、まさか」
 刹那が動揺している所に、PMCイナクトが上空からエクシアに蹴りを入れる。
『こちとらボーナスがかかってんだ!』
 PMCイナクトは地上に降り立つ。
「そんなっ……」
 刹那が声を出した。
「いただくぜぇ……ガンダム!」
 サーシェスは獰猛な笑いを浮かべた。


義によって動くのが人間であるなら、利によって動くのも、また人間である。
だが、常に利によってしか動かないのがQBである。
束の間の勝利、その果てに絶望があるのか。
ガンダムの真価が問われるのか。



[27528] QBキャンセル
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/06 17:49
モラリア共和国への武力介入を行った四機のガンダムとQB。
その戦場で、刹那・F・セイエイはもしかしたら運命かもしれない男と対峙する。
男の名はサーシェス。
アリー・アル・サーシェス。


―モラリア・山岳地帯―

 エクシアは二本のGNビームサーベルを下段に構え、PMCイナクトはリニアライフルの銃身をスライドさせ大型カーボンブレイドに換装したソレを右腕に中段に構え、対峙する。
『ッヘヘ。別に無傷で手に入れようだなんて思っちゃいねぇ! リニアが効かなねぇなら、切り刻むまでよ!』
 不敵に笑ってサーシェスはエクシアに突撃する。
「くっ!」
 刹那は幼い日のビジョンを脳裏に見ながら寸前でその突撃をエクシアの機体を半身ズラして回避。
 PMCイナクトは即座に反転し、
「ちょりサーッ!」
 機体を捻りながら、エクシアの右手のGNビームサーベルを鮮やかに蹴り飛ばす。
 刹那は目を細める。
 この動き!
 幼い日、ナイフでサーシェスに手ほどきを受けた時の事が被る。
「っくう」
 刹那が焦りの声を漏らし、エクシアは左手のビームサーベルを大きく振りかぶる。
 しかし、予期していたかの如くPMCイナクトはそのサーベルを地に叩き落とす。
「ッはァ」
 再びビジョンが想起され、刹那は息を飲む。
 そして次にエクシアはGNソードを構え、高速振動をさせる。
 サーシェスがその様子に言う。
「何本持ってやがんだ? けどなぁッ!」
 瞬間、エクシアに飛びかかりる。
 エクシアはGNソードを縦に一閃するが、ギリギリで見切りスラスターを僅かに一瞬噴かせ右側に回避。
『にゅぅぅぅっ!!』
 エクシアは更に横に一閃し、それを更に僅かに後退してPMCイナクトは避ける。
 更に刹那はもう一度横に一閃して刃を返すが、PMCイナクトは機体を持ち上げ、ソレを回避。
 エクシアのやや上方に体勢を構え、
『動きが! 見えんだよぉッ!』
 高さも利用してカーボンブレードを一気に振りかぶり、エクシアに肉薄。
 剣を交える。
「っくぅ!」
 刹那が苦々しい表情をする。
 そして、幼い日、父を殺し、母にまでも銃口を向け、引き金を引いて殺した瞬間を思い出す。
「っあア」
 刹那は息を飲み、怒りに目を鋭くさせ、
「えぇッ! うぅぁぁアァぁアァー!!」
 叫び声を上げて、GNソードの出力を急上昇、
「何!?」
 交えていたカーボンブレイドの先端部を切り落とした。
 サーシェスはその性能に驚愕しながらそのまま切られないよう大きく後退して距離を取った。
「何て切れ味だぁ。これがガンダムの性能って訳、か」
 エクシアは出力を平常に戻し構えを解く。
「刹那、どうして武装を解くんだい?」
 QBが問いかけるが、刹那はコンソールを操作し、光通信を行う。
「奴の正体を確かめる」
「ふうん」
 対して、その光通信を受けたサーシェスは。
「ん。 光通信? コクピットから出てこいだと? 気でも狂ってんのか」
 馬鹿にするように吐き捨てた。
 刹那はコクピットハッチを開けるスイッチを迷わず押して、確かに開く。
「訳がわからないよ、刹那」
 しかし、QBが瞬間的に再びハッチを閉めるスイッチを押し、開きかかって刹那の姿が見えかける前にエクシアのコクピットをすぐにまた閉めた。
「邪魔をするな、QB」
 刹那がQBがスイッチにポジションを構えて開けない事に憤る。
「ぁん? 正気かよ? ホントに出て……来ねえじゃねぇかよぉ!! 糞がッ!!」
 と、そのコクピットが一瞬開いて期待したが、直ぐに閉まる様子を見てサーシェスは怒鳴った。
 一方、憤った刹那にはQBがすぐに返答していた。
「刹那、あのPMCイナクトのパイロットの名前はアリー・アル・サーシェスだよ。顔はこれだ」
 双眸を輝かせ、QBは刹那にサーシェスの顔を見せた。
「なぁ!?」
 一瞬で誰か分かった刹那は驚愕に息を飲んだ。
 その挙動を管制していたクリスティナ・シエラは同様に声を上げていた。
「エクシアがコクピットを開きかけてすぐ閉じました!」
「は?」
 スメラギ・李・ノリエガは意味が分からなかった。
 その現場ではサーシェスが激昂して、一般機用の予備ブレイドを構え再びエクシアに襲いかかった。
 大音量でサーシェスは叫ぶ。
『ぁあ!? てめぇふざけてんのかッ! 戦場を何だと思ってやがる! 糞みてぇな冗談なんぞいらねんだよ!』
「くぅッ!」
 その卓越した操縦技術に刹那は押される。
 相手がアリー・アル・サーシェスだと分かった事で動揺もしていた為、徐々に後退していく。
 再びやや距離が空き、PMCイナクトがエクシアに飛びかかろうとした時、桃色のビームの牽制射撃がその接近を阻んだ。
 C5のプラン通りの地域に移動する為、近くに来ていたデュナメスの射撃。
「デュナメスかっ!」
 押され気味であった所、救われる形になる刹那。
「狙い撃つぜ!」
 言って、ロックオンは精密射撃モードでPMCイナクトにビームを放つ。
 しかし、サーシェスは通常の兵士ではありえないような機体操作で、避けてのける。
「なぁっ!? 避けやがった!」
 ロックオンが驚愕した。
『おぃおぃ! 二対一ってか! そんな性能しといて宝の持ち腐れだなぁ、ガンダムさんよぉッ!!』
 サーシェスが挑発するような発言を大音量でかけながら飛行体勢に入るが、ロックオンは再び射撃をする。
『ちょりサァッ!』
 更に、サーシェスは機体を瞬間的にズラし、避けた。
「俺が外したぁ!? 何だこのパイロット!?」
 信じられない、と目を見開いてロックオンが驚く。
 そこまでで、どちらにしてもこれでは鹵獲は無理だと判断したサーシェスはその場から撤退することにし、デュナメスの砲撃を更に二度も華麗に機体を操作して避け、崖下に隠れ、飛行モードに変形してその場から去っていった。
「何だ、ありゃ……」
 四度も避けられた事にロックオンは驚愕した。
[刹那、ロックオン、ミッション続行よ。刹那、後でさっきの説明聞かせてもらうわ]
 そこへ、スメラギが通信を入れた。
[了解][……了解]
 返答して、二機は再びミッションを続行する。
 航空仕様の部隊は軒並みガンダムではなくQBに壊滅させられ、キュリオスに次々と止めを刺されていた。
 残る、陸戦型モビルスーツがいる基地ではヴァーチェが今度こそ近頃の鬱憤を晴らす、とばかりに、指定されたプラン通り降下してはGNバズーカで撃滅して行った。
 完全に想定以上の速度でミッションが進行していき、フェイズ3、フェイズ4、フェイズ5と楽々移行していった……。
 モラリア軍司令部の管制塔では続々と各オペレーターからの報告が入る。
「第3から第6航空隊、恐らくQBにより行動不能! 通信途絶えました!」
「燃料基地、応答無し!」
「PMC第32、33、36輸送隊、応答無し! 通信網が妨害、兵士達の挙動が狂い、全く状況が把握できません!」
 帽子を被ったモラリア軍司令官が副官に尋ねる。
「モビルスーツ部隊の損害は?」
「甚大です。……報告されているだけも、航空部隊はそもそも離陸前にほぼ壊滅、AEUの飛行部隊すらも尽く離陸前にほぼ壊滅、撃墜という状況すら起き無かった模様です。陸戦部隊もほぼ同様。最低でも半数以上のモビルスーツが大破させられたと見られます」
 報告する副官も現実として受け入れられない様子ながらも、淡々と言った。
「どういう……事だ……」
 司令は思わずよろけて倒れかけた。
 そこへ、士官が慌てて駆けつけ、直接報告をする。
「司令! PMCトラスト側が撤退の意向を伝えてきていますが」
「馬鹿な。どこに逃げ場があるというのだ……」
 司令が絶望に声を絞り出して言った。


―UNION・対ガンダム調査隊(仮)基地―

 対ガンダム調査隊(仮)のメンバーが戦況をモニターで見る。
「まさか、これほどとはねぇ」
 完全に呆れるようにビリー・カタギリが言った。
「圧倒的だな、ガンダム」
 両腕を組んでグラハム・エーカーが言った。
「圧倒的なのはQBとやらもだろうね。どんな魔法を使ってるか知らないけど、何しろ航空部隊が飛べていない」
 実に興味深いが気味が悪いと、ビリーが更に言った。
「飛べない航空部隊など航空部隊にあらず」
 グラハムはまだQBを見ていない為、信じることができずにいた。


―人革連・低軌道ステーション―

 グラハム達と同じように戦況をモニターで見ていたセルゲイ・スミルノフが言う。
「QBの仕業か。人革連だけに出た幻という訳では無かったという事か。……降伏しろ」


AEUのイギリス外務省官邸では大臣同士が会話をしていた。
プランの中でも最悪の結果になりそうという結論であったが、既に復興支援の為の動きは整い、資金援助の内諾も取り付ける事に成功との事。
AEUは筋書き通りモラリアを取り込む事ができる見込みが立った。
そして「せめて黙祷を捧げよう。我々の偉大な兵士達の為に」と、一人が言ったが、それはただの勘違いであった。
何しろ、AEUが派遣した航空部隊のパイロットは実際には一人も死亡していないのだから。
この時点ではまだ情報が伝わっていなかったのである。


PMC本部作戦会議室では、ガンダムの鹵獲が目的だった筈が、それどころか、完全に一方的にPMCの部隊が、主に殲滅王と化しているティエリアに潰されている事で甚大な被害を受けており、嘆きの声が響いた。
通信がGN粒子によってズタズタにされていた為繋がら無かったが、サーシェスが隊長を務める部隊は岩場で全機待機して、そもそも作戦に参加していなかった。
部下達にガンダムと渡り合ったことや、サーシェスの指示の妥当性を賞賛されたサーシェスは「命あっての物種ってな」と答えていた。
タリビア軍兵士とは違い、自発的敵前逃亡の一種のようなものであった。


―モラリア軍司令部・付近空域―

 向かうところ敵無しという状況の中、ガンダム四機は隠れる事もなく堂々と有視界で捕捉もできる空を飛んでいた。
[ガンダム全機、予定ポイントを通過しました]
[フェイズ6終了]
 クリスティナとフェルトがそれぞれ報告する。
「さあ! 片をつけるわよ! ラストフェイズ開始!」
 ここまでくると不謹慎ではあるが、何だか少し爽快さすら感じる、という様子でスメラギは軽く言った。
 モラリア軍司令部の目の前に悠々とガンダムが飛来する。
「ガンダム出現!」
「ポイント324、司令部の目の前です!」
 オペレーターが報告した。
「強行突破……だと……」
 司令官が落ち込んでいるのを他所に副官がやけになって指示する。
「モビルスーツ隊に応戦させろ!」
 直ちに、陸戦モビルスーツが格納庫から出撃し、ガンダムを、リニアガンで迎え撃ち始める。
[ヴァーチェ、目標を破砕する!]
 中空に止まったヴァーチェはGNキャノンとGNバズーカを同時に放ち、司令部基地内で建物は避けて、斜めに薙ぎ払う。
[デュナメス、目標を狙い撃つ!]
 ロックオンは慣れた様子で、コクピットを狙い撃たないように頭部、脚部、腕と次々宣言通り、狙い撃つ。
[キュリオス、介入行動に入る]
 飛行モードからモビルスーツ形態に変形し、GNビームサブマシンガンで上から連射、地上を走る陸戦ヘリオンの手足をそぎ落とす。
[エクシア、目標を駆逐する]
 いつの間にかコクピットからQBはいなくなっていたが、刹那は特に気にすることもなくGNロングブレイドとGNショートブレイドの二振りでバターのようにヘリオンを切り裂いていった。
 五分も経たず、モビルスーツ部隊は全機沈黙。
 目の前の光景に呆気に取られていた司令室であったが、首相からの連絡が入り、信号弾を上げて、無条件降伏した。
「ハロ、ミス・スメラギに報告! 敵部隊の白旗確認! ミッション終了!」
 それを見たロックオンがハロに言った。
「リョウカイ! リョウカイ!」
 ガンダム四機、それとQBの完全勝利であった。
「無条件降伏信号確認。ミッション終了。各自撤退開始」
 フェルトが報告した。
「は……」
 スメラギがホっと息をついた。
「お見事でした。スメラギ・李・ノリエガ」
 王留美が賞賛する。
「QB様様……だったけどね」
 スメラギは微妙な目をして言った。
 撃破数ではキュリオスが断トツで一位。
 殺害数ではヴァーチェが断トツで一位。
 本来はキュリオスが相手をする航空部隊により引き起こされる死亡者数が最も大きい筈が完全に異なっていた。
 モラリアという狭い国の中で、飛行するモビルスーツが砲撃を放ち、そして損傷を受けて操縦不可能になり墜落して、もしそれがそれぞれ、流れ弾として市街地、機体そのものが同様にと当たれば、二次災害が起こる筈だった。
 スメラギはQBが航空部隊の場所にしか出現しなかった理由はそれが原因だったのだと、ほぼ結論づけていた。
 もしQBがいなければ死者数は500人は下らない筈であったが、結果は主にヴァーチェと、敵側がガンダムに撃ったリニアガンが各基地に損傷を与えた事による数十程度、それも敵兵士のみに限定という結果だったのである。
「QBの介入を実際に目にして驚きでしたが、いずれにせよヴェーダの推測通りに計画が推移しているのは事実でしてよ」
 王留美が言った。
「その点については、私としては、その推測から外れたいんだけどね……」
 スメラギは表情に影を落として答えた。
 それに王留美が疑問の声を上げる。
「え、何故です?」
「撤収します。機材の処分をお願いね」
 スメラギはその疑問には答えずに言った。
「……かしこまりました」
 不思議そうに王留美が了承した。


モラリアの非常事態宣言からたったの四時間余りで無条件降伏に至った事に、各陣営、そしてJNNなどには震撼が走った。


―経済特区・東京・大学構内―

 日本での翌朝、JNNニュースが流れる。
 サジ・クロスロード、ルイス・ハレヴィはモニターの前に立ち止まって見る。
[まず最初は、昨日、モラリア共和国で起こったモラリア軍とAEUの合同軍事演習に対するCBによる武力介入についてのニュースです。非常事態宣言から無条件降伏までの時間は、僅か四時間余りでした。三時間後に行われたモラリア軍広報局の発表によると]
 アナウンサーが淡々と話し、サジとルイスの後ろを歩く学生達が、余りの戦闘終結の早さに驚いて去っていく。
[大破したモビルスーツは109機。現時点での戦死者は、兵士49名で、負傷者も数十名、行方不明者は……無し、との事です。また、現地にはQBが出たとの情報が入っています]
「サジ、戦争ってこんなに死ぬ人少なかったっけ?」
 何かおかしい、とルイスが尋ねた。
「う……うん……この前のタリビアとセイロン島もそうだったけど、それだけガンダムが圧倒的っていう事なのかな……」
 サジも良く分からない、という風に答えた。
「でも、それにしてはモビルスーツの大破数と戦死者数が全然合ってないじゃない」
「うん、全然合ってないね。CBができるだけ人が死なないように配慮してるって事なんじゃないかな」
 配慮しているのはQB。
「うーん、そうかもね。QBがまた出たっていうのも関係あるのかもしれないし。セイロン島にタリビア、これで三度目」
「戦闘の映像はJNNじゃ流れないから真相は分からないけどね」
 考え込むように二人は話していた。
[ただ今、現地入りした池田特派員と中継が繋がったようです。現場の状況を伝えてもらいましょう。池田さん、お願いします]
 映像がモラリアに中継され、池田特派員が映る。
[っあ、はい。池田です。私は今、モラリアの首都、リベールに来ています。見えるでしょうか? 今回の戦闘、市街地に一切被害は無い模様です。ここに来るまでにも確認しましたが、市街地は無傷であるのを確認しました]
 映像には確かに、何の損傷も無い、市街地の様子が流れる。
[市民の方にインタビューした所、航空部隊が飛行しているのを見なかった、というコメントを幾つも受けています。非常に不可解ですが、これがQBによるものなのかは分かりません]
 それに対し、JNNのアナウンサーが尋ねる。
[私設武装組織CBから犯行声明のようなものは出されていませんか?]
[えー、そのような情報は、私の所には入って来ていません]
 池田特派員が答えた。
[分かりました。引き続き情報が入り次第、詳細情報をお伝えします]
 まだ、介入が終わってから数時間であるにしても、ニュースで伝えられた情報が、間違っているのではないか、と思えるような内容であった。
 世界は死者数の少なさに驚きはしたものの、だからといってCBの行為を正当化することはできないという点では世界共通の認識。
 謎は深まるものの、着実にCBに対し世界の関心は集まり、排斥運動も起こり始める。
 その後のニュースでも、今回の大規模戦闘の詳細はQBの事を含め、AEUの情報統制と、モラリアへの圧力により、伏せられた。
 派遣したAEUのモビルスーツ部隊が、パイロットがQBによって操作されたとはいえ、働かなかったが為に全滅した上、兵士に死者がいないというのはとても公表できるような内容では無い。
 そんな事を公表すれば、モラリアを抱え込むAEUの計画が台無しになる可能性すらあるからであった。


リボンズ・アルマークは数日前にアレハンドロ・コーナーの元に戻り、連絡を入れなかった事について釈明を、抜かりなく行い、再びアレハンドロの従者としての位置に戻っていた。
アレハンドロにしてみれば、怪しいことこの上ないが、いずれにせよ、リボンズがいなければどうにもならないので、出て行けとは口が裂けても言えないのが実際の所であった。
それ以来、リボンズとアレハンドロの関係に明らかに見えない壁のようなものができたが、リボンズにしてみれば、迷惑な事この上なく、思考が筒抜けと言うのが更に腹立たしいが、QBを恨まずにはいられなかった。
ともあれ、最終的にリボンズはアレハンドロを抹殺、そして、CBの監視者を行っている人間達を抹殺してしまえば、それ程問題は無い為、今は我慢。
耐える時である。


―CB所有・南国島―

 ガンダム四機は島に帰投し、スメラギ達三人はホテルへと戻っていた。
 そこで暗号通信が繋がれ、ブリーフィングルームで四人のガンダムマイスターとスメラギの間で刹那の件について話が始まった。
[刹那、一瞬コクピットを開けてすぐ閉めたのはどういう事だったのかしら? ただの操作ミス?]
 モニターにスメラギの顔が映る。
 しばらく刹那が沈黙を貫いた所、口を開いた。
「俺が開けたら、QBにすぐ閉められた」
 紛れもない事実。
「はぁ?」
「何だって?」
[えっと……刹那、あなたが自分で開けて、QBが閉めたの?]
 訳がわからない、とばかりにロックオンとアレルヤが声を出し、スメラギが頭が痛い、と眉間に手を当てて尋ねた。
「そうだ」
 短く肯定。
 その様子をティエリアは無言で見つめる。
[どうして、開けたの?]
 まるで子供がイタズラをした原因を聞くかのよう。
 しかし、刹那は沈黙を保ったまま答えない。
 痺れを切らして、ロックオンが言う。
「おい、理由ぐらい言えって」
 仕方なく、刹那が口を開く。
「……確認」
[確認?]
「あ?」
 スメラギとロックオンが疑問で返す。
「確認を、しようと思った。PMCのイナクトのパイロットの確認」
 刹那が説明した。
 その言葉に、ロックオンは渋い顔をして言う。
「あのイナクトのパイロットか……。尋常じゃねぇのは確かだが、コクピットを開けようとする理由にはならないだろ。それとも知ってる奴だったのか?」
 刹那が頷く。
「ああ。QBに教えられた」
[またQB……。で、それが誰だったのかは教えてもらえるのかしら?]
 スメラギがまたか、と溜息をついて一応尋ねた。
「……今は一人で考えたい」
 刹那はこれ以上は言わないというオーラを出して言った。
 そこでティエリアが冷淡な声で言う。
「刹那・F・セイエイ。ガンダムマイスターの正体は、太陽炉と同じSレベルでの秘匿義務がある。動機がなんであろうと、戦闘中にコクピットを開け、あまつさえ姿を晒そうとするなど、君はガンダムマイスターに相応しくない」
 しかし、その発言を聞いたロックオン、アレルヤ、スメラギの三人は微妙な表情をした。
 どこかでつい最近似たような事を聞いたことがあるな、と。
 スメラギ達はつい昨日まであの様だったティエリアが言えた義理か、と思わざるを得ない。
 当のティエリア本人も僕が言えた義理ではないが……と心中は穏やかではなかった。
 言うなれば同族嫌悪。
 空気が悪くなるのを察知して、疲れたようにスメラギが口を開く。
[まあ、今回はQBのお陰とは言え未遂に終わったのだし、刹那もそのイナクトのパイロットが誰なのか分かったというのだから二度と同じ相手にコクピットを開けたりはしないでしょう。もう二度と、今回みたいなことはしないように、良いわね、刹那]
「ああ。了解した」
 刹那は低い声で応答した。
[できるだけ早いうちに、そのパイロットについて話す気になる事を待ってるわね]
 スメラギがそう纏めて、この件は終了した。
 しかし、そこへイアン・ヴァスティが血相を変えて駆けつける。
「大変なことになってるぞ!」
「何があった? おやっさん」
[イアン、まさか]
 ロックオンが尋ね、スメラギが察知する。
 イアンが説明を続ける。
「そのまさかだ。世界の主要都市七ヶ所で、同時にテロが起こった!」
「何だって?」
「多発テロ?」
[やはり、起きてしまったのね……]
 ロックオンが驚き、刹那が瞬きをして言い、スメラギが予想通りだ……と嘆いた。
「被害状況は?」
 冷静にアレルヤが尋ね、イアンが説明する。
「駅や商業施設で時限式爆弾を使ったらしい。爆発の規模はそれほどでもないらしいが、人が多く集まる所を狙われた。……100人以上の人間が命を落としたそうだ」
「く……なんて事だ」
 アレルヤが肩を震わせる。
 僕達が直接出した死者数よりも遥かに多いじゃないか……。
 QBのお陰による所が大部分であるが。
 そこへ更にモニターに王留美が現れる。
[ガンダムマイスターの皆さん、同時テロ実行犯から、たった今ネットワークを通じて、犯行声明文が公開されました]
「む」
[王留美……]
 王留美が淡々と報告を続ける。
[ソレスタルビーイングが武力介入を中止し、武装解除を行わない限り、今後も世界中に無差別報復を行っていくと言っています]
 ティエリアが想定の範囲内とばかりに言う。
「……やはり目的は我々か」
「その声明を出した組織は?」
 アレルヤが尋ねる。
[不明です。エージェントからの調査報告があるまで、マイスターは現地で待機して下さい。スメラギ・李・ノリエガ、イアン・ヴァスティも失礼。では]
 言って、王留美はこれからすぐ調査に入る為、通信を切断した。
「どこのどいつかわからねぇが、やってくれるじゃねぇか」
 腹立たしそうにロックオンが言い、アレルヤが呟く。
「無差別殺人による脅迫……」
「何と愚かな……。だが、我々が武力介入を止める事はできない」
 選択肢は無いと、顔を伏せてティエリアが言った。
 そこまで煽るような発言では無いが、意外にもティエリアの言葉に重ねて口を開いたのは刹那。
「そうだ。その組織は、テロという紛争を起こした。ならば、その紛争に武力で介入するのがCB。……行動するのは、俺達ガンダムマイスターだ」
 その目には迷いは一切無かった。
 ロックオンが声を漏らす。
「刹那……」
 そして、スメラギが一度瞼を閉じ、再び開けて通達する。
[刹那……。その通りね。エージェントの調査が終わり、テロ組織の位置が分かり次第、CBは武力介入を行います]
「了解」「了解」「……了解」「了解」
 ガンダムマイスターは返答した。
 その中で、アレルヤは思った。
 刹那とティエリア、仲が悪いようで、そうかと思えば息が合ったり……何だかんだ似たもの同士なのかな、と。


かくして、これより世に一気に強力な負の感情が喚起される。
テロを起こしたのはテロ組織に間違いはないが、平和な日常を壊された国々の市民にしてみれば、大問題。
これまでのCBの活動ではそれ程ではなかったが、ここに来て、身近に死の可能性が感じられるようになる。
そして、その感情の矛先は、テロリストではなく、その根本的原因、つまりCBへと向き、集中していく。


―日本・群馬県見滝原市か、はたまたどこかの都心のビル屋上―

 先日と変わらず、ビル風に美しく長く黒髪をたなびかせ、300年近く経っても劣化することの無い赤いリボンが印象的な少女がいた。
 紫色の結晶の浄化を行いながら彼女はQBに言う。
「また世界同時多発テロが起きたわね」
 まるで彼女は風景を眺めるかのような素振り。
 普通の人間に比べると、遙かに長い時の流れを見てきた彼女にしてみれば、悲しみと憎しみばかりが繰り返されるのはこの世の常。
 彼女にしてみれば、テロですらまたか、と言える程度のもの。
 つい最近だと約十年前の太陽光発電紛争の時もそうだったかしら、と。
「そうだね。これからしばらく、障気が濃くなるよ。魔獣どももそれに比例して湧いてくる」
 QBは淡々と言った。
「……分かっているわ。私は出てくる魔獣を倒す、それだけよ」
 そうはっきり言って、彼女は黒い結晶を放り投げた。
 QBはそれを尻尾でバウンドさせ、うまく背中へと取り込む。
「頼もしいね、暁美ほむら」
 心のこもらない口調で彼女がそうですか、と返す。
「それはどうも」
「僕らは君を評価しているんだよ」
 なんと言っても、未だかつて300年近くも戦い続ける事ができる魔法少女なんて君だけだからね。
 魔法の単純な最高威力では暁美ほむらを上回る魔法少女はこれまでにも多くいたけれど、その彼女たちのどれもが、長くてもせいぜい数十年が限界。
 QBにとって彼女を評価するのは当然であった。
「そう」
 彼女は別に嬉しくも無いと素っ気なく答え、結晶を放りなげながら、思ったことを呟く。 
「……新米魔法少女がまた増えそうね」
「うん、今日はいつもよりも増えたよ」
 テロに遭った当事者や、その関係者の少女が主な対象。
 悲劇が起きると、魔法少女の契約数は必然的に増えやすい。
 瀕死の状態で判断がおぼつかない時や精神的に動揺している少女たちの前に現れると、彼女たちは願いをすぐに口にする。
 しかし、これも、これまで散々繰り返されて来ている事。
「仕事が早いわね」
 少女は髪を軽く掻き上げて皮肉を言った。
「それが僕らの役目だからね」
 当然だよね、とQBが言った。
「どうでも良いと言えばどうでも良いけれど、あなたたち、どうしてCBに接触したのかしら。あなたたちの根本的な目的は自明だけれど」
 結晶を放り投げて言った。
 彼女には疑問であった。
 わざわざ世界にその姿をQBが現したこと。
 明らかに今まで無いパターン。
 新規契約者を増やすのであれば、CBの仲間と思われるような行為を自らするなど、少し姿の形状を変えればいいだけだとしても、QBにしてみれば最善とは思えない。
 どこまでいっても、QBの目的が負の感情の回収なのは変わらないのは分かり切っているが実に不可解。
「効率的だからさ」
 QBは背中でキャッチしながら、詳しいことは答えない。
 当然理由はイノベイドの存在。
 人間を相手取らなくても、ひたすら作ればいいだけであり、尚かつ、脳量子波のお陰で思考が全部筒抜け。
 消滅という彼女たちにとっての死の形を恐れる事なく、そして魔獣に向かって、ソウルジェムの消耗を一切気にせず特攻に近い事もできる、卓越した戦闘技術を備えた魔法少女部隊。
 一人一人の限界性能はそれ程高くは無いとはいえ、これを都合が良いと言う以外に、何と言えようか。
 加えてヴェーダによって情報収集もする事ができる。
 一方的に利用すると大抵人間は怒りという感情を見せるのは理解している為、QBは一応協力する事で対価を払っているつもり。
 実際、CBにはある意味大きな貸しを作っている。
 とはいえ、CBが活動すると感情エネルギー回収が大いに進むので、便乗しているのは間違いないが。
「そう。あなたたちがそう判断したなら、そうなのでしょうね」
 まともに答えないだろうとは思っていたわ、と彼女は言った。
「そうだよ」
 そして、彼女はその日QBにもう一つだけ質問をする。
「契約者数を増やすのなら、わざわざモラリアで死者を出さないようにあそこまでする意味はあったのかしら? どちらが得かいつも通り天秤にかけて判断しただけなのでしょうけど」
 流れ弾や墜落機が発生しないように航空部隊を無力化したのは、寧ろ負の感情を喚起するのを抑えているようですらあり、何より新規魔法少女との契約の機会を逃しているように思えてならない。
 QBにしては死者を出さないようにしている事すら目的の為とはいえ、その点について評価はできるけれど。
「もちろんあったよ。僕らは死者を出さない方が効率的だと判断したのさ。CBは全世界に注目を浴びる存在だからね」
 QBは少女の質問に肯定した。
 負の感情は無事生き残った軍関係者の絶望である程度相殺できている。
 人間は自身に認識できない余りに遠く離れた場所で人の死というものに実感が沸きにくいので、局所的な死者が出ることはそれほど効果的ではない。
 重要なのはCBという世界に楔を打つ、人々の心理に潜在的に訴えかける存在そのもの。
「局所的なものよりも、全体を取ったという事、ね」
 大体そういう事か、と彼女は理解した様子で言った。
 イノベイドやヴェーダの存在など思いもよらないので、そう結論づけて、そして彼女はまとめて複数の黒い結晶を放り投げ、両の掌を上に向けたポーズを取る。
 QBはそれを上手く全てキャッチし、どことなく美味しそうに背中で飲み込んだが、納得に至ったように見える少女にもう一度肯定の言葉を述べはしなかった。


罪なき者が死んでいく。
それも計画の一部というなら、ガンダムに課せられた罪の何と大きなことなのか。
だがQBに罪の意識など無い。
刹那、運命の人と出会うのか。



[27528] 次出たらぶん殴る
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/06 17:49
―CB所有・南国島―

 アレルヤ・ハプティズムがAEUイタリアでの地下鉄爆破テロの映像を見ながらテロ組織の犯行声明文を唱える。
 「私設武装組織CBによる武力介入の即時中止、および武装解除が行われるまで、我々は報復活動を続けることとなる。これは悪ではない。我々は人々の代弁者であり、武力で世界を抑えつける者たちに反抗する正義の使途である。……か。やってくれるよまったくっ」
 言って、アレルヤはモニターを叩きつけるようにして閉じる。
 その隣で刹那・F・セイエイが呟く。
「無差別爆破テロ……」
 外のガンダムの格納コンテナの上でティエリア・アーデが呟く。
「国際テロネットワーク」
 砂浜ではロックオン・ストラトスが吐き捨てるように言い、
「くそったれがっ」
 拳を握り締める。
 ロックオンは強い怒りを心に宿し、海岸を後にした。

 翌朝、本土のホテルに泊まっていたスメラギ達をCB所有のクルーザーで島に迎え、エージェント達からの報告待ちに備えて準備に取り掛かる。
 スメラギ・李・ノリエガが指示を出す。
「国際テロネットワークは複数の活動拠点があると推測されるわ。相手が拠点を移す前に攻撃する為にも、ガンダム各機は、所定のポイントで待機してもらいます」
 ロックオンはフェルト・グレイスからHAROを受け取り、デュナメスへと乗り込んで行く。
 同じくエクシアに乗り込む刹那が起動させる。
「GNシステム、リポーズ解除。プライオリティを刹那・F・セイエイへ」
 コンテナが無く森の中に待機させてあるキュリオスに乗ったアレルヤが発進させる。
「GN粒子の散布濃度を正常値へ。キュリオス、目標ポイントへ飛翔する」
 海の底に沈めてあるヴァーチェからティエリアが出撃する。
「ヴァーチェ、ティエリア・アーデ、行きます」
 刹那とロックオンは同時にコンテナから発進する。
「エクシア、刹那・F・セイエイ。目標へ向かう」
「デュナメス、ロックオン・ストラトス。出撃する」
 かくして、各機はそれぞれ四ヶ所のポイントへと散開して行った。


―王家邸宅―

 小型機で邸宅に戻った王留美は紅龍を従え、仕事に入るべくすぐに地下室へと向かった。
「特定領域の暗号文で、全エージェントへ通達を完了しました」
 紅龍がモニターを観測しながら報告し、王留美が右手を腰に当てて尋ねる。
「各国の状況は?」
「主だった国の諜報機関は、国際テロネットワークの拠点を探すべく、既に行動を開始している模様です」
 そこへ、モニターに反応が出る。
「テロ発生。人革領です。……これで、ユニオン、AEU、人革連、すべての国家群が攻撃対象になりました。やはり、国際テロネットワークの犯行である公算が大きいようです」
「支援国家の存在も否定できない……嫌なものね。待つしかないということは。それにしてもQBはテロまでは防止してはくれないのね」
 顎に手を当てて王留美が考えこむようにしながらも、QBに期待する発言をする。


 テロの多発する現状には、人革連のセルゲイ・スミルノフも注視し、UNIONのグラハム・エーカーに至っては無駄にカスタム・フラッグを飛行させていた。
 曰く「私は我慢弱く、落ち着きのない男なのさ。しかも、姑息な真似をする輩が大の嫌いと来ている」との事。
 テロの影響を受けて、マリナ・イスマイールの外交はキャンセル続きとなり、上手くいかないと難航。
 更にはシーリン・バフティヤールとの通信でアザディスタン国内の情勢がいよいよ悪化し、マリナが国の王女として旅をできるのも最後になる可能性が出てきていた。
 経済特区・東京ではルイス・ハレヴィが母国の母から帰国するように催促する電話を受け、その事についてサジ・クロスロードと同じく電話でやりとりしていた所、絹江・クロスロードが帰宅した。
 JNNは連日CBのせいで大忙しであり、情報も不可解なものが多く、訳がわからないと疲れはてていた。
 二人はCBの件とテロの件について暗い表情で会話を交わし、一段落着いた所で絹江が言う。
「サジ、これ欲しい?」
 と徐に取り出して、しかも頭部を鷲掴みにして見せたのはどう見てもQBの人形。
「どうしたのさ姉さん、そんなの。気味が悪いよ」
 サジが顔を引きつらせて言った。
「天柱極市支社に出張していた同僚から無理矢理渡されたのよ。ストレス解消になるぞって」
 そのままQB人形の胴体をサジの目の前で絹江がブラブラ揺すって見せる。
 一番最初に人革連でQBが出現した事で、売れるかも知れないとどこかの人形メーカーが作ったとのこと。
「ストレス解消って……」
「こう使うらしいわ。 ハぁッ!」
 絹江はQB人形を空に放り上げ右ストレートをかまして、部屋の隅にぶっ飛ばした。
「…………姉さん」
 サジが呆れて言った。
 しかし、使い方は正しい。
 何しろQB人形の販売コーナーでのテロップには意味としては「僕を右ストレートでぶっ飛ばしてよ!」と書かれているのだから。
 売れ行きは好調、意外にも人革連の軍関係者によく売れているらしい。
 余程殴りたいのだ。


ガンダム各機はそれぞれ予定ポイントで待機に入った。
ヴァーチェはオーストラリア・山間部。
キュリオスは人革連・砂漠地帯。
デュナメスはUNION領・南米・森林地帯。
エクシアはAEUスコットランド・山間部。
エクシアのコクピット内で待機していた刹那は昔の事を思い出しながらも、センサーに反応があったのに気がつく。
そこへ丁度王留美からの通信が入り、備え付けの二輪自動車でテロの実行犯が乗ると思われる茶色のクーペを確保に向かう。
一度はその車を捕捉したものの、結果としては逃げられてしまい、それどころか、銃を構えていた事で警官に捕まりそうになる。
だが、そこへ現れたのはマリナ・イスマイールであった。
警官をやり過ごす事ができた刹那はマリナと話がしたいという理由で街の景色が見える場所に移動した。
マリナは刹那をアザディスタンの出身だと勘違いしていたが、クルジスだと言われ、動揺した。
なぜなら、クルジスを滅ぼしたのはそのアザディスタン。
焦ったマリナはそこで去ろうとした刹那を引き止め更に会話をした。
刹那はマリナからアザディスタンで現在抱えている問題についての悩みを黙って聞いたが、CBの名前を口にした。
マリナはCBが死者を出さないようにできるだけ配慮しているのはせめて良い事だけれど、それでもやり方が一方的すぎる事には変わらないと言い、そこから言い合いになる。
結果、刹那は自分がガンダムマイスターである事を暴露し、マリナに精神的ショックを与えて去っていった。


―王家邸宅―

 刹那が取り逃がしたテロ実行犯の男は黒服のエージェント達によって確保され、そこからテロ組織の情報が引き出された。
 紅龍が報告する。
「お嬢様、確定情報です。国際テロネットワークは、欧州を中心に活動する自然懐古主義組織ラ・イデンラと断定」
 王留美が命令する。
「各活動拠点の割り出しを急がせなさい」
 それから、しばらくして情報が収集され報告が入った。
「各エージェントより報告です。ラ・イデンラの主だった活動拠点は、既に引き払われているようです」
 王留美が少しばかり残念そうに言う。
「周到ね。これでまた振り出し……」
 そこへ、紅龍が声を上げる。
「待って下さい。テロメンバーと思われる者のバイオメトリクス抽出情報がネットワークに流出しています。NROの主要暗号文、DND、DGSEの物まで。お嬢様」
 この情報はAEU、UNION、人革連の各諜報機関が意図的に流させた物であった。
 理由は単純に利害の一致でしかない。
 しかしそれでも王留美は面白そうに言う。
「世界が動けと言っているんだわ。わたくし達に」


―各ガンダム―

 スメラギからマイスター達に通信が入る。
[ラ・イデンラの活動拠点は三ヶ所。グリニッジ標準時1400に同時攻撃を開始します]
[了解。ヴァーチェ。テロ組織の拠点への攻撃を開始する]
 ヴァーチェが発進し、テロ組織の拠点へと向かう。
[キュリオス、バックアップに回る]
 組織の拠点が三ヶ所である為、アレルヤは余る。
 クリスティナ・シエラがロックオンに通信を入れる。
[敵戦力は不明です。モビルスーツを所有する可能性もあります]
 ロックオンはようやく行動開始か、と呟く。
「そんなもん、狙い撃つだけだ」
 そして、刹那も二輪自動車から戻り、エクシアへ乗り込み、ラ・イデンラの艦船を破壊しに向かった。
[エクシア、介入行動へ移る]
 それにより、南国島でのスメラギ達の仕事は現地でQBが出ようがでまいが終了となり、ビーチで遊び始めたのだった。
 そこへ麦わら帽を被ったイアン・ヴァスティが現れ、日光浴をしているスメラギに言った。
「まさか各国の諜報機関が協力してくれるとはぁ、良かったじゃないか」
 スメラギが苦笑して答える。
「いいように使われただけです」
「だが、大いなる一歩でもある……」
「ですね」
 どことなく嬉しそうな表情。
 出撃したヴァーチェ、エクシアはラ・イデンラの基地と艦船を完全破壊及び駆逐。
 ロックオンはというと、UNION・南米・山岳地帯に到着していた。
 行動に入る前に、QBが現れる。
「勿体無いけど、今回は全部コクピットを狙い撃ってよ!」
 可愛らしい少年の声で頼んた。
「だぁっ! 俺は今イライラしてんだよ! 出てくんな!」
 今のロックオンには捕まえる気すら起きなかった。
「ふぅん。その様子なら全滅させそうだね。僕は帰るよ」
 言って、不思議そうにQBは消えた。
 瞬間、ロックオンは身体をわなわなと震わせながら腹の底から声を出す。
「あぁァ、次出たら、何かすげぇぶん殴りてぇ! 今日の俺は……容赦ねぇぞッ!!」
 QBにはその気は無かったが完全に火に油を注いだ。
 ロックオンは現場に到着すると、精密射撃モードを使わずGNビームピストルをとにかく乱射して、岩場に構築された隠れ家にくまなく発射。
「容赦しねぇ、お前らに慈悲なんかくれてやるかぁッ!!」
 大声で叫びながら、ロックオンは暴れまわった。
 ヘリオンが出てくればGNスナイパーライフルを構え、全弾コクピットを狙い撃った。


テロ行為に対する武力介入はロックオンが言った通り容赦が無く、ラ・イデンラの主要拠点三ヶ所は壊滅した。
QBとしても、小規模だがかなり多数のテロが起きた為、充分と判断し、これ以上無駄に人間の数を減らされるのも勿体無いので、テロリストの始末を頼んだのであった。


CBはやりすぎたのか。
圧倒的物量で行われる殲滅作戦、そこに隠された真の目的とは。
QBの真の目的は感情エネルギーの回収。
万能などあり得ないのか。


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