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[26357] 【ネタ】杏子生存if【まどかマギカ】
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2011/05/01 19:07
 もし九話で杏子が死ななかったら、そんなお話です。




「心配すんなよさやか。一人ぼっちはさびしいもんな」

 そう言った杏子の脳裏に、これまでのことが走馬灯のように駆け抜ける。
 この町に来てからのこと、それまで一人で戦っていたときのこと、家族との思い出。
 家族が死んでから楽しいことなんて一つもなかった。孤独に戦って誰にも見取られずに死んでいく、自分の最後なんてそんなものだと思っていた。
 ……ならここで死ぬのも悪くない。
 そんな風に思っていた杏子に、家族達が心中した最後の顔が思い浮かぶ。その顔は皆絶望の表情で……。
 心中なんて碌な物じゃない、その表情を見たときそう思ったものだった。
 そこでふと思う、今自分がやろうとしていることはそれと何が違うのか。なにも変わらないんじゃないのか。それに自分にはまだやらなければならないことがあるんじゃないか。

「……そうだ、ここで私が死んじまったらワルプルギスの夜はどうする」

 あれに対抗するのは、ほむら一人じゃ不可能だ。そうなると、まどかが魔法少女になる必要が出てくるかもしれない。
 偉そうに魔法少女になるなとか言っておきながら、自分の尻拭いを任せるのか? そんなことで誰が喜ぶ、納得する?
 あの世でさやかにあったとして顔向け出来るか? 私が死んだせいでワルプルギスに負けたり、代わりにまどかが魔法少女になるかもしれないっていうのにか? そんなことでさやかが喜ぶか、私は満足なのか?
 ……違う、そんなんじゃ誰も幸せになんてならない!!

「悪いねさやか、私はやっぱり死ねない。少し待たせることになるけど勘弁してくれよ!」

 そういってジェムの起爆をやめ胸元に戻し、巨大槍を操作する。
 せめて苦しまないように一発で倒す。そんな意志を乗せた槍はまっすぐさやかに伸びていく。
 それを阻止するように剣で対抗してくるが、その抵抗も一瞬。杏子の全力の前に枯れ枝のごとくあっさり折れ、その勢いのまま槍はさやかの胴体を貫く。
 その槍は放った意志の通り、さやかに苦悶の声一つ上げさせずに倒す。
 そしてさやかを倒した証のグリーフシードがその場に落ち、魔女の空間からただの工事現場に戻っていた。

「……帰るか」

 そう言った杏子の表情は優れなかった。それこそ泣く一歩手前のように。
 魔女になったとはいえ、さやかを手にかけてしまったこと。魔女を倒した中からさやかが出てくるかもしれないと期待していたこと。さらにはさやかを独りで死なせてしまったこと。
 そのようなものが積み重なって、今のような表情になっているのだった。




「今回、彼女の脱落には大きな意味があったからね。これでワルプルギスの夜に立ち向かえる魔法少女は君だけしかいなくなった。もちろん一人では勝ち目なんてない。この町を守るためには、まどかが魔法少女になるしかないわけだ」

 そうキュゥべえが話すのは、杏子の行為が無意味だったということ。
 最初からさやかが戻る可能性はゼロに等しかった。まどかを魔法少女にするために死んでもらう、そのつもりで杏子を送り出したのだ。

「やらせないわ」

 そう言うほむらの瞳には強い意志が現れていた。何があろうとまどかを魔法少女にさせはしない、それこそ何を犠牲にしてでも……。
 そして、意外なことにそれに答える声もあった。

「そうだな、そんなことやらせねぇ」

 その声に驚き振り向くほむら。めったに感情が現れることのない顔には、しかし驚きの感情がこれでもかと現れていた。

「杏子、どうして……」
「そんな死人にあったような顔するなよ。まぁゾンビみたいなものではあるんだけどさ」

 そういって笑う杏子だが、冗談が気に入らなかったのかほむらは杏子を睨む。そんなほむらの態度に今度は苦笑で答える。

「そう怖い顔するなって。私もあのまま死ぬつもりだったんだけど、土壇場で気が変わってな。ま、それも正解だったようだが……」

 そういってキュゥべえを睨みつける杏子。それには魔女との戦いでさえ、滅多に見せることのない本気の殺気が乗っていた。

「私を騙すとはいい度胸じゃねぇか……」
「騙すなんてひどい言い方だね。億分の一ほどの確率だけど、元に戻る可能性があったのは事実だっていうのに」

 その答えを聞いた瞬間一閃が走る。次の瞬間には槍を振りぬいた杏子と、頭と胴体が分かれたキュゥべえの体が残っていた。
 さらに追撃をかけようとする杏子だが、ほむらがそれを阻止する。槍の柄の部分を持って、槍がそれ以上進むのを止めていた。

「……どういうつもりだ」
「無駄な魔力を使うことはないわ。すぐに次が来る」

 そう言ったほむらの台詞にあわせたのか、タイミングよく現れるキュゥべえ。その姿は目の前の死体の先ほどまでの姿と瓜二つだ。

「ひどいな、いきなり切りかかってくるなんて」
「な、おい、どういうことだ!」

 そういって混乱する杏子だが無理もない。先ほどまで話していた者と、姿形が同じものが現れたのだ。
 これで戸惑わない人間はまずいないだろう。

「詳しい原理はわからないけど、彼らの個体は無限にいるらしいの。だから倒すだけ魔力の無駄ということ」

 そう説明するほむらの傍ら、先ほどまでキュゥべえだったものを食らう現キュゥべえ。そんな光景を見て、杏子はほむらの説明が聞こえているのかどうなのか顔全体がひきつっていた。

「それにしても、君が生きてるとは意外だったよ杏子」

 そういってやれやれという感じで溜息を吐くキュゥべえ。その姿からはどうしても拭い切れない無機物のようなものが溢れていた。

「僕としてはここでまどかと契約をしたかったんだけど、仕方ないか」

 そう言って闇にまぎれると、次の瞬間にその姿はなくなっていた。

「……なあ、あいつら、それにあんたもだ。一体何者なんだ?」

 そんな杏子のつぶやきは、キュゥべえと同じように闇に溶けていった。




(あとがき)
 短いですけど、杏子生存ifでした。
 あそこで死んだのがどうしても納得いかなかったもので。
 杏子には本当に幸せになってほしかった、せめて生き残って欲しかったんです。
 続くかどうかは十話以降の内容次第。
 ……最終回でアバン先生のように復活しないかなぁ。
 また、小説家になろうにも投稿させてもらっています。



[26357] 第二話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2011/04/24 18:58
 キュゥべえが去ってしばらくの時間が過ぎたが、お互いの間に会話は無く思考に埋没していた。
 そんな間を切り裂くようにほむらが口を開く。

「答えても構わないけど、長くなるわよ」
「……いいのか?」
「ええ。でもその前に一つ教えて」

 その口調は真剣そのもので、杏子も気を引き締める。

「あなたが受けていた傷は致命傷だったはず。それにソウルジェムの輝きも鈍っていた。なのになぜ無事だったの?」

 その内容に杏子はそんなことかと相好を崩す。

「溜めてたグリーフシードを使ったんだよ。まあおかげでほとんど無くなっちまったが」

 そういう杏子は苦笑しているが、後悔している様子は無い。
 その内容に納得がいったのかほむらから漂う雰囲気も柔らかくなった気がした。

「なるほど、そういえば失念していたわ。それじゃあ私の番ね」

 そういったほむらの口から語られることは、魔法少女という常識外の存在である杏子にとっても、俄かには信じがたいことだった。
 願いによる何度もこの時を繰り返しているということ。
 キュゥべえたちの正体が宇宙人で、目的はエントロピーの問題を解決すること。そのために魔法少女から魔女になる際のエネルギーを利用しているということ。
 また、ワルプルギスとは数え切れないほど戦っているが、未だに勝てたことがないことなども語られた。話がややこしくなるうえ、ほむら自身も理由がわからないためまどかがワルプルギスを倒せた事は伏せられていたが。

「……なるほどな」
「信じがたいとは思うけど、これが事実よ」

 考えるために伏せられていた顔を上げ杏子はほむらを見つめる。その瞳からは話の内容を疑ってる様子は感じられなかった。

「難しいことはよく分からないけどさ、さやかが死んだことによりエントロピーってのは少しはマシになったのか?」

 その問いはほむらにとっては想定外のものだった。
 このことを聞かされた当時の自分は困惑し、怒りに身を任せた。またまどかでさえキュゥべえに怒りをぶつけていた。

「ええ、彼女が魔女になることでかなりのエネルギーが生まれたはずよ」
「そっか。それならさやかが魔女になったのも無駄ってわけじゃないんだな」

 魔女になんてならなければすむなら成らない方がいいに決まってる。ただ、それでも成るなら何かの意味があったほうがいい。
 そんな思いを杏子はもっているのだった。
 その問いで気持ちを切り替えれたのか、杏子は表情を多少穏かなものに変えた。

「なあ、まどかの家って分かるか?」

 そんな唐突な問いに、ほむらは多少眉を顰めながら返す。

「知ってるけど、何をしに行くつもりなの?」
「さやかの体どうするかと思ってさ。私が勝手に決めるより、あいつにも考えてもらったほうがいいだろ」

 ホテルの中で死体で見つかるなど、良くない噂が出回るに決まっている。見つけられるにしよ何にせよ、ホテルに置いておくのはやめたほうがいい。
 前みたいに登校中に呼び出してもいいが、あまり放置しておくと発見される危険性もある。

「そういうこと。案内するからついてきて」




「言い出したのはあなたよ。あなたが押すべきだわ」
「ここはクラスメイトであるお前が押すべきだろ」

 まどかの家についたのはいいが、その前で二人はもたついていた。
 諸事情により友達の家にほとんど遊びにいったことがない二人。そのせいかインターフォンを押して呼び出すというのは、非常に難易度が高いことだった。

「……わかった、押すのはわたしがやる。話すのは杏子、あなたがやって」

 後半の一言で途中までは明るかった杏子の表情がまた沈む。

「そんなの屁理屈じゃねえか! もういい、じゃんけんで決めようぜ」
「仕方ないわね」

 やれやれと言った態度でそう言うほむら。まるでお前がわがまま言うからだぞ、みたいな態度が杏子の癇に障る。

「いいぜ、文句は言いっこなしだからな! 最初はグー、じゃんけん……」

 ポン!っと出されたのはほむらが杏子がちょきでほむらがグー。杏子の負けである。
 信じられないと顔に出してる杏子に当然の結果といった様子のほむら。

「私の勝ちね。文句は言わないんでしょ?」

 そんなほむらの言葉にぐぬぬと唸るが言い返ない。
 やがて覚悟を決めたのか、インターフォンに近づきボタンを押す。ピンポーンという定番の音がし、数秒ほど立つと妙齢の女性の声がした。

「はい、どちらさま?」
「あ、えっと、佐倉杏子って言うんですけど、まどかさんはご在宅でしょうか?」

 やけに丁寧でどぎまぎした言葉は、こういう状況に慣れてないのが丸分かりである。後ろで聞いているほむらもそんな杏子の態度に心なしニヤついてるようだった。

「まどか……か。呼んでみるからしばらく待っててもらえる?」
「あ、わかりました」

 そう言ってインターフォンが切れたので後ろを振り向くと、ほむらがこちらを向いてるのが目に入る。

「んだよ、何か文句あるか?」

 そう悪態をつく杏子だが、微妙に目線はそれていて照れ隠しだと良く分かる。

「敬語を使う姿なんて今まで見たことが無かったから新鮮だっただけよ」

 そんな風に言ってくるほむらにからかわれてるなと思いながらも、杏子は何も言い返せない。
 そのまま特に会話もなくまどかが出てくるのを待っていると、玄関の扉が勢いよく開かれた。

「杏子ちゃん!」

 そう言って出てきた勢いのまままどかは杏子に飛びついた。

「よかった、生きてたんだね……」

 そういって自分の胸の中で泣くまどかを気まずそうに見やる杏子。

「ああ、なんとかね。でもさやかは……」
「……杏子ちゃんだけでも無事でよかった」

 そう言うまどかを杏子はあやすように背中を叩く。
 しばらくの間泣き続けるのをなだめる杏子だったが、痺れを切らしたのかほむらが割って入った。

「佐倉杏子、鹿目まどかに用事があってきたんじゃないの?」

 そういうほむらは言うまでもなく不機嫌だった。
 そんな様子にたじろいだのか、杏子はやや後ずさりながらもまどかを離そうとする。

「あ、あぁそうだな。まどか、そろそろ大丈夫か?」
「うん、ありがとね杏子ちゃん」

 そう言ったまどかは少しほむらの方をむくと、恥ずかしそうに俯いた。どうやらいたほむらがことに気づいてなかったようである。

「ここで話すのはまずい内容なんだけど、少し出歩けるかい?」
「うん、大丈夫だよ。お母さんに言ってくるから待っててね」

 そういって家の中に入っていくまどか。
 しばらくすると出てきたまどかを連れて三人は歩いていくのだった。




 まどかの家の近くにある公園に三人はいた。時間帯が遅いせいもあり、他に人影はない。

「ここなら平気かな」

 あたりに誰もいないことを確認し、杏子が話を始める。

「こんな話されるのは嫌かもしれないけど、話を通しておくのが筋かと思ってさ。単刀直入に聞くけど、さやかの体どうしたい?」

 さやかの体、その言葉を聞いたとたん今まで多少は浮上していたまどかの心がまた沈む。

「このままホテルに置き続けたら、確実に発見される。そのうえホテルでなんて発見されたら周りからどう思われるか、あんたも分かるだろ?」

 その言葉にハッとするまどか。それと同時に今までさやかの体のことを何も考えなかった自分を殴ってやりたくなった。

「私から提案できるのは二つだ。このまま人に見つからないようにするか、見つかっても醜聞がつきにくい方法で見つけさせるか」
「……私は、さやかちゃんの両親に体だけでも返してあげたい」

 ほとんど迷わずに決めるまどか。さやかの家庭環境は親友のまどかから見ても悪くないものだった。
 それなら両親のもとに返してあげたほうがお互いにとっていい、まどかはそう思ったのだ。
 そんなまどかの思いを汲みとったのか、杏子はまどかの頭をなでる。なでられたまどかは恥ずかしそうにしてるが、嫌な素振りは見せない。
 後ろでまたほむらが不機嫌なオーラを発するが、二人はそれに気づかない。

「わかった。嫌な選択させちゃってごめんな」

 実はさやかの家庭環境が平穏なものだったかどうか杏子は少し疑っていた。自分の家庭環境が平穏とはほど遠かったせいもあり、さやかがあそこまで追い詰められたのは家にも問題があるのではと思っていたのだ。
 もしそうならそんな家族にさやかの体を渡していいのか、そんな風に考えていたのだがそれはまどかによって否定された。

「それじゃあ私はいくな。あとほむら、ワルプルギスのこととか話し合いたいからしばらく泊めてもらってもいいか?」
「……構わないわ。それじゃあ私も帰るわね」

 微妙に間が空いたのは杏子の心情の変化を汲み取ってか。

「杏子ちゃん、ほむらちゃん、ありがとね!」

 去り行く背中に、そんな言葉がかけられた。




(あとがき)
 続きました。
 ワルプルの脅威的な強さを見て、ほむらと杏子でどこまで戦えるか書きたくなったもので。
 そのせいか、この辺りはかなり駆け足気味だったかもしれません。
 あと、ほむらの時間停止は独自解釈する部分もあると思いますけどご勘弁を。



[26357] 第三話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2011/05/06 13:12
 杏子がほむらの家に戻ってきたのは明け方を過ぎた頃だった。そこまで時間がかかったのは、場所の選定やらタイミングを見計らうのに時間がかかったからである。ちなみに偽装には魔法を使用した。さやかの体の維持に使っていた魔法を応用すれば、死に方をいじるくらいは大して難しくなかったようだ。
 その後は今無理をする必要もないということで、杏子は軽く睡眠を取り昼過ぎになると起きてきて作戦会議が始まった。

「これからワルプルギスについて話そうと思うのだけど……杏子、ワルプルギスについてどこまでの知識がある?」
「……ワルプルギスの夜っていうでかい魔女がいて、その魔女が暴れると街一つが壊滅する。その程度だな」

 そう答えつつも、杏子は前回は出現予測場所がどうこうから始まったのにと疑問を覚える。同時に名前が有名な割りに具体的なワルプルギスの能力はほとんど知らないなとも思った。

「そう……。まず一つ言わせてもらうけれど、あれはあなたが思っているよりはるかに手ごわいわ。最初に言ってたわよね、二人ならなんとかなるかもしれないって。正直に言わせてもらえば、二人でも勝率なんてまともに戦えば無いに等しいと思う」

 そういわれてもイマイチ杏子には実感が沸かなかった。確かに昨日のうちにほむらがワルプルギスに何度も敗れているということは教えられていた。それでも自分と二人ならという自信と、それに見合うだけの実力を杏子は持ち合わせているのだった。

「納得してないって顔ね。……巴マミは知ってる?」

 その言葉に杏子は頷く。自分の出身の街だから気にかけてもいたし、そうでなくても巴マミの実力は魔法少女の間で噂に上るほどだったから。

「彼女と組んで挑んだこともあるのだけれど、惨敗だったわ。どれほど攻撃を当ててもダメージは通らずに時間切れ。その戦闘の最中に彼女は死んで街は壊滅してしまった」

 まぁその頃の私は今と比べると弱かったけれど、と付け加えるがこの事実にさすがの杏子も驚いた。
 ほむらが魔法少女として強い部類であるということは杏子も分かっていた。しかし実際に戦っているところを見たことがないので、強さの実感がイマイチなかったのだ。だがマミの戦いは何度か見たことがあり、自分自身と比べても戦闘力に大きな差は無いだろうと判断していた。
 そのマミがいて惨敗というのは、さすがに驚かされた。

「……前はこんな話をしなかったのに、なぜする気になった?」
「あの時のあなたに話していたら、ワルプルギスと戦うのをやめていたと思うから。でも今のあなたなら戦ってくれると思って。知っての通りソウルジェムの穢れは絶望を持つほどたまっていく。あれを前にすると誰だろうと力の差から絶望を感じるだろうから、心の準備だけでもしてもらおうとね。
 それにいざ戦闘となればあなたが味方を見捨てて逃げることは無いだろうし」

 その理由に杏子はどこか気まずさを感じつつも納得する。
 今の自分ならまどかを魔法少女にしないためにも戦おうと思える。何よりさやかが守ろうとして、自分が以前住んでいた街を守るのも悪くない。
 そんな自分の心境の変化に思わず苦笑が漏れる。

「それじゃワルプルギスの具体的な説明に入らせてもらうわ」

 そういってほむらが机の上に置いた紙にはワルプルギスの夜が書いてあった。大きい歯車に逆さに人がついている絵で、何度も書いたことがあるのかかなりうまい。

「これがワルプルギスの夜の姿よ。姿形に関しては見れば分かると思うから攻撃方法の説明に入らせてもらうわ」

 そういってほむらが語った攻撃方法は大まかに三つに分けられた。
 まずは顔の付近から炎を出してくる攻撃。顔の付近というだけあり耳の横あたりに突如現れることもある。威力に関してはビルをまるまる燃やす程であるが、速度に関してはそこまで早くはない。また同時に複数出せたりもするとのこと。
 次は自分を中心に風を起こす攻撃。風自体に殺傷力はなく、周りのガレキが大量に巻き上げそれを使って攻撃をする。またビルをそのまま投げてくることもあり、これの速度はかなり速く回避は困難。
 最後に使い魔の突進攻撃がある。威力はそこまで高くないが、速度が尋常ではなくほむら自信では回避することは非常に困難らしい。
 その説明を聞き終わった杏子の顔はかなり難しいものだった。今までビル一つ投げてくるほどの攻撃をする魔女と戦ったことがないので無理もないと言えるが。

「ここまで説明しておいてなんだけど、回避に関しては私の能力を使えばそこまで心配しなくていいわ。問題はワルプルギスが現れて一定時間ち、逆さになっていた胴体が上部に来た時。その状態になるとワルプルギスは去っていくのだけど、そのときの行動……というより速度ね。あまりにも速過ぎる速度で去っていくから地表はその衝撃で一面更地になってしまう。その様は竜巻後のようだから、普通の人間にはスーパーセルとして観測されるみたい。
 だから、それが起こる前にはなんとしても倒す必要があるのだけど、ワルプルギスの脅威は何よりその硬さ。並みの攻撃ではかすり傷一つつかないわ。巴マミのティロフィナーレでも体が少し欠けた程度だった。まぁこればかりは口で説明しても分かりにくいと思うけど、とてつもなく硬いとだけは思っておいて。」

 そう言ってほむらは杏子の顔を見やる。

「……いくつか質問いいかい?」
「構わないわ」
「巴マミと戦ったことがあると言ってたけど他の魔法少女、特に私やさやかと組んだことは?」

 その問いにほむらは少し考えるが、隠す必要もないかと話すことにした。

「まずあなたや美樹さやかと組んだことは今まで無かった。どういうわけか二人ともワルプルギスにたどり着けたことがなかったから」

 その答えに苦い顔をする杏子。つまりどの時間軸でもさやかは魔女になっているということだから。
 正確に言うと魔法少女にならない時間軸もあるのだが、口下手なほむらはそこまで説明しない。その時間軸でも、結局ワルプルギスの起こす災害に巻き込まれて死ぬわけでもあるし。

「他の魔法少女とは組んだことはあるわ。ただ、どれも戦力には全くならなかった」
「どういうことだ? ワルプルギスが強いって言うのはわかったが、魔法少女なら何かしらの力にはなると思うが」

 杏子の疑念はもっともなものだったが、ほむらは首を振り否定する。

「確かに、まともに動ければ戦力になるわ。ただそのまともに動くということが出来ないの。
 あれと対峙すると、誰であれ力の差を感じるといったわよね? 精神の弱いものはそこで絶望がたまりすぎて魔女になってしまう。そうでないにしても、戦意を喪失して立ち尽くす、狂乱して突撃する、必死で逃げ出すのどれかだったわ。
 試しに数をそろえたこともあるけど、結果は同じだった。」

 その答えに思わず杏子は息を呑む。
 確かに普通の魔法少女は杏子やマミに比べて遥かに弱いが、それでもまともに戦うことすら出来ないというのは意外だった。そしてここまでワルプルギスの強さを言われているのに、それでも負けてやるつもりがないのが杏子の最大の強みかもしれない。

「……弱点は何かあるか?」

 魔女というのは何かしら弱点がある場合が多い。
 マミを倒した魔女はチーズを持っていれば誘導が可能だった。他にも批評家を連れてくることで倒せる魔女や、チャイムで撤退してくれる魔女など奇妙な弱点を持ってるものが多いのだ。
 まぁまともに戦っていると見つけられることなどほとんど無く、杏子自身も数回しか見つけられたことが無いのだが。
 そして案の定ほむらは首を振る。

「少なくとも私の知る限り明確な弱点は存在しないわ。ただ、他の魔女と同じく気まぐれなのが弱点といえば弱点かしら。本気で攻撃してくればこちらは耐えられないのに攻撃をしてこなかったり、回避できる攻撃を回避しなかったり。あとはほんの少しだけ歯車の部分が柔らかい気もするけど、100と99くらいの差だから弱点といえるかどうかって感じね」

 あまり期待していなかったがその答えに思わず杏子は嘆息する。それでも気を取り直しもう一つの質問をした。

「そんなのと戦うためにわざわざ私を誘ったところをみると、何か策があると見ていいのかい?」
「ええ、当然考えてあるわ。そのためにお互いの能力を確認しておきたいのだけどいいかしら?」

 策があるのは意外だったがそういうことならばと頷く杏子。敵対してるならともかく、ワルプルギスを倒すのに能力を隠しておく必要はない。

「私の戦い方は知ってのとおり槍を使ったものだ。これを槍、多節棍、鞭に変換させて戦う。あと込める魔力に応じて巨大化もできる」

 さやかの魔女と戦うときに使ったのがそれだ。もっとも杏子自身の火力は通常の槍の状態で十分高いので、滅多に使われることは無いが。

「その槍って最大どれくらいの長さまでいけるの?」
「……測ったことがないから正確にはわからないけど、百メートルはあると思う。ただそれも全魔力を込めたといえないから、まだ伸ばせるかもしれないけどな」

 その答えはほむらが何度か見た大きさと合致した。ほむらが頷くのを見て、杏子は説明を再開する。

「あとは物質強化や結界、回復魔法に足場作成くらいだな。結界はあんたの見た赤い鎖のやつ。あと切り札としてジェムを爆弾代わりに使うことも出来る」
「ジェムを爆弾代わり?」

 ほむらのその反応は杏子にとって意外なものだった。ソウルジェムの真実を知ってるならば思いついているだろうと思ったから。
 今まで一方的にアドバンテージを取られてたので、相手が知らないことを知ってるというのに杏子は少し喜んでたりもしたが。

「なんだ、気づいてなかったのか? ソウルジェムって魔力を込めた後、その魔力を暴走させることで爆発させることが出来るんだよ。威力に関してもかなり期待できると思う。まぁ使ったら死ぬから確認は出来てないけどな」

 その答えをもとに出来るかどうかほむらは考えてみる。そしてたどり着いた結論は可能だった。
 ほむらは自分が死ぬと繰り返すことが出来なくなるから、無意識のうちに自分が死ぬ手段は避けてきた節がある。だから言われるまで気づけなかったのだ。
 威力に関しても相当期待できるものだった。なにせソウルジェムのエネルギー密度は地球上のあらゆる物体を凌駕する。手のひらサイズの物体から、百近いマスケット銃を取り出したり出来るのだ。そのエネルギーを爆発に変えれれば、その威力はC4を遥かにしのぐだろう。

「私の能力はこんなところだな。次はそっちの説明いいかい?」

 その言葉にほむらはこくりと頷いて返事をする。

「私の能力は時間停止。以前あなたにやったように私の触れているもの以外、全てのものの動きを止める」

 改めて聞いて常識はずれな能力だと杏子は思う。仮に自分と正面からぶつかったら、時間を止めてジェムにナイフを突き立てられるだけで決着がついてしまう。そしてそれを止める方法が杏子には存在しない。
 もし勝つつもりなら以前したように不意打ちをするしかないのだが、不意打ちこそ時間停止の独壇場であるわけだし。
 そして今回は自分もその恩恵を受けられると言うことを思い出し、これなら一方的に攻撃し続けることも可能なんじゃないかと思った。

「この性質から、飛び道具は飛び出してすぐに動きを止めてしまうわ。また大型の機械なんかを動かすのも、停止中だと機械が部分的に時間停止することがあるから無理。同様にリモコンを使った爆弾の着火なんかも電波が途中で止まってしまう。他にも与えた運動エネルギーが保存されたりもするわね。
 あとこれが一番重要なんだけど、攻撃を仕掛けたる場合相手に触れてしまうからそのときだけ相手の時間も戻ってしまう。だから時間停止中に攻撃する場合は接触時間をなるべく短くして」

 普通の魔女相手なら杏子の一撃でほとんど決着がつくから心配の必要はない。ただ相手がワルプルギスとなると一度で決着がつくことなどありえないし、一度の接触が少しでも、何度も起こるとなると何をされるか分からない。
 それに気づいた杏子も気を引き締めて返す。

「あぁ十分注意させてもらうよ」
「えぇ、そうして。槍が抜けなくて死んだなんてことになったらとても笑えないから」

 その返しに杏子は苦笑すると同時に、その可能性も十分あるなと思った。
 今でこそなくなったが、素人の頃をそれをやらかして何度かピンチに陥ったことがあるのだ。

「それとこの能力には制限時間があるの。私が戻ってきて一月経つと時間停止は出来なくなる。ワルプルギスが現れる時間には多少誤差もあるから、もしかしたら戦闘中にその時間がくるかもしれない。」
「……そうならないよう祈るしかないな」

 こればかりは運に任せるしかなく対策などたてようがない。そもそも時間制限があるのはワルプルギスの攻撃手段からしてわかっていたわけだしと、杏子は思うのだった。

「あとは魔法を使った機械操作と物質収容に魔力弾ってところね。魔法についてはこんなところだけど、武器についても説明させてもらうわ」

 そういってどこからか取り出したのか、おもむろに銃器を置くほむら。本物を見るのは初めてなため、少し引き気味の杏子である。

「……本物なのか?」
「当然よ。私は碌な攻撃手段を持たないから兵器で代用してるの。とはいっても、こんなものをワルプルギス相手に使うつもりは無いわ。使うのはこっち」

 そういってほむらが取り出したのはRPG-7。そして今度こそどん引きする杏子。

「そんなのどこから取ってきたんだよ……」
「当然軍の基地からよ。それで、まだ武器が足りないからワルプルギスの夜が来るまでの間、少し家を空けるから。この近くの基地からは目ぼしい物は調達しきってしまって、遠くの方まで行かないといけないの。私のいない間泊まるかどうかは好きにしてくれて構わないわ」

 そんなことを言うほむらにおいおいと杏子は思う。杏子自身も魔法で盗みなどをしてきたが、これは桁が違うと思った。詳しくは知らないが、この武器だってかなり高額なものではないのだろうか。

「さやか、私なんでまだまだかわいいモンだったんだな……」

 そんな杏子の反応にほむらは思わず溜息をついてしまう。

「はあ、仕方ないでしょ。これだってワルプルギスの前ではおもちゃみたいなものなんだから。それよりもワルプルギスと対峙したときの作戦について話し始めてもいいかしら?」

 それに杏子が呆れ顔ながら否を唱えないのを見て、具体的な作戦について説明を始めるのだった。




(あとがき)
 作戦会議という名の説明会でした。会議後半の内容はいろいろネタバレなので、次回からワルプル戦入ると思います。
 あと、このほむらは五週どころか何百週もしてる設定です。まどかの因果の蓄積具合や、ほむらの数え切れないほど魔法少女の死を見てきたってところから、五週とかありえないだろうと。
 ジェム爆弾を知らないっていうのは、知ってたらワルプルギス戦で絶望する前に自爆特攻するかなと。ほむらの諦めの悪さはものすごいと思いますし。
 設定矛盾等がありましたらできる限り直したいので報告お願いします。



[26357] 第四話
Name: コルネス◆2d774991 ID:2b353519
Date: 2011/05/06 13:09
 ワルプルギスの出現日時まで二人はまどかとキュゥべえが接触を妨害したり、現れた魔女を退治したりなどして過ごしていた。杏子は魔女の真実を知ったため心境的に複雑な部分もあったが、放っておくと一般人に被害が出るうえ自分が生きるためにはグリーフシードが必要なこと。他にも魔女自身のことなども考えてある程度は折り合いをつけることが出来た。
 そしてコンビネーションの確認もかねて二人は共闘していたのだが、向かうところ敵無しだった。というのも、時間停止して近づいて斬るだけで全ての戦いに決着がついてしまうのだ。
 そんな二人の魔女退治は記すことはほとんど無く、気が付けばワルプルギスが出現する日となっていた。




 ワルプルギスの現れる前兆か、雷雲は立ち込め雷鳴が轟いている。それは今まで日本を襲ったことが無いような規模の竜巻の前兆。周辺住民それに備え避難をしていたが、これから来るものの前にはそんな行動はほとんど意味を成さないだろう……。
 そんな中ほむらと杏子は人影がほとんど無くなった街の川辺にいた。そこはワルプルギスの出現予測場所であり、迎え撃つために来るのを待っているのだ。

「……魔女一体でここまで影響を与えるとか、分かっていたとはいえとんでもないな」

 そんな杏子のつぶやきにほむらは特に反応を見せないが、杏子自身も特に反応を期待していたわけでもないので気にしない。

「改めて言っておくけど、天気の変動が平均より遅い。戦いの途中から時間停止は使えなくなると思って」
「どうせそこまで時間かけるつもりもないし、問題ないだろ」

 ワルプルギスの胴体が上部に来る前に決着をつけるため、魔力消費を度外視して戦うつもりだったため大筋に影響は無い。それでも杏子は運が無いなと思ってしまうのだったが。
 その後はお互い緊張しているのか性格のためか、無駄口はたたかずにいた。
 やがて川から霧が立ち込め、それにまぎれてありえない彩色の象やメリーゴーランド、その上に飾られている旗などまるでサーカスの一団のようなものが現れる。

「これらに害はないから無視して構わないわ。オブジェみたいなものだから」
「わかった。一応聞いておくけど、ワルプルギスやこの象とかって一般の連中には見えないってことでいいんだよな?」

 それにはほむらが首肯して答える。魔女の結界や彷徨っている使い魔が見えないのと同じことだ。
 向かってくるそいつらに逆らうように、よりワルプルギスの近くまでいくためにほむらは歩き出し杏子もそれについてゆく。そして歩くこと数十秒、とうとうワルプルギスの夜が見えてきた。
 その大きさは全長百メートル以上は軽くあり、並みの魔女とは規模からして軽く違った。また感じる魔力の大きさも桁違いで、今まで数多くの魔女を倒してきた杏子にはそれが嫌が応にも感じられた。

「前もって話しておいてくれて助かったよ。何の覚悟も無くこれの前に立つとか、正直考えたくない」

 そんな杏子の言葉にほむらは「そう」とだけ返すと、魔法少女に変身する。ほむらのそんな無愛想な態度にもここしばらく一緒にいたおかげでなれたのか、杏子も気にせず変身する。
 二人に合わせるかのようにワルプルギスも活動の準備が整ったのか、いつの間にか巻き上げていたガレキを持ち前の炎で灰と化す。

「最初は予定通り私一人でダメージを与える。杏子は攻撃がきたらそれの迎撃を」

 最初の段階で杏子を入れることも考えたのだが、結局それは無しになった。というのも、ほむらがワルプルギスと戦う時は一人であることが圧倒的に多く、最初のダメージを与えるためのパターンは数百という繰り返しを経てある種完成しきっている。
 そこに杏子を無理に組み込むより、まずは確実にダメージを与えたほうがいいだろうということになったのだ。

「ワルプルギスの夜、今度こそ……勝たせてもらうわ!」

 ほむらにしては至極珍しい、気合の入った声と共にほむらの周囲に数十個ものRPG-7やM136といった対戦車火機が出現する。
 それと同時に時をとめ、ほむらはそれらの射出を始めた。
 ほむらがそれらの射出をするたびに空中に浮かぶ弾頭の数が増えていく。作業の半ばに入る頃にはある種盛観な光景が出来上がってさえいた。それらの火力を食らえば、並みの魔女なら欠片すら残らないだろう光景。
 やがて全ての射出を終え、時間停止を解除する。すると放っていた弾頭全てがワルプルギスの歯車を中心として吸い込まれるように向かっていく。着弾の轟音と煙が立ちこめ、杏子の目にもさすがに無傷ではすまなさそうな攻撃に思えた。
 だが煙が晴れ出てきたワルプルギスには外傷はほとんど無く、何事も無かったようにどこか狂った笑い声を上げ始めた。その事実と人に不安を与えるような笑い声に、さすがの杏子も顔を顰める。
 その後もほむらは迫撃砲や爆弾を仕掛けた塔を倒すことによりワルプルギスに攻撃を仕掛ける。しかしいずれもダメージは無く、塔にいたっては炎によって一瞬で灰と化してしまった。
 だがこんなものは序の口とばかりに、次の攻撃を仕掛けるためにタンクローリーへと飛び乗るほむら。

「次はこれに乗って突撃を仕掛けてくる。あなたは予定通りの位置に行っていて」

 そんなほむらの言葉を背に、杏子は移動を開始する。ここから先の攻撃は単独行動のほうが動きやすいということで、別れることになっていたのだ。
 ほむら自身もタンクローリーを魔法で操り、ワルプルギスに向かっていく。魔法により操作されたそれは通常ではありえないような速度と軌道で動き回る。やがて近づいてきた橋のアーチ部分に乗り上げると、統計により近づいてくることが分かっていたワルプルギスの顔が間近に迫っていた。
 その勢いのままタンクローリーをワルプルギスの顔面にぶつけると、ほむらはそのまま川に向かい落下していく。だがそんな攻撃もワルプルギスの顔に多少の傷、人間で言うところの頬に多少のダメージを与えたに過ぎなかった。
 しかしこれは移動のおまけにすぎない。落下を続けていたほむらは、どこから調達してきたのか川に隠してあった対艦誘導弾に着地。そのままそれで攻撃を仕掛ける。
 数十メートルはありそうな弾が発射され、この攻撃にさすがのワルプルギスも吹き飛ばされ数百メートルほど遠ざかっていく。遠くで見ていた杏子の顔にも目に見えて効果の出た攻撃に、心の中でガッツポーズをとるがこれは前座でしかない。
 吹き飛ばされたワルプルギスがたどり着いた場所はドーム状になっており、辺りには敷き詰められた大量の爆薬があった。それをワルプルギスの到着と同時にほむらが着火する。モンロー効果を利用して配置された爆弾は数百メートル規模の凄まじい爆発を起こし、周囲の地面はその余波によって揺さぶられる。
 事前に聞かされていたとはいえ、杏子はこの威力にドン引きである。ついでにいうと街への被害も馬鹿になってない。まぁ必要であることもわかっているのだが。
 ちなみにこの一連の流れにはワルプルギスの行動パターンや爆弾の配置の仕方、迫撃砲の弾道計算などの数々の知識が詰まっている。最初のうちはただ強力な兵器を適当に使っているだけだったが、それでは当たらない上当たっても効果をなさなかった。そのために必死で威力を上げようとした結果がこれだ。最初のゴルフクラブを使っていたころと比べると有り得ないレベルの進歩である。

「……さすがにこれだけやればダメージはあるか?」

また時間を止めたのかいつのまにか側にいたほむらに杏子は話しかける。

「多少はね。ただ、ダメージを与えたことによりワルプルギスの攻撃も本格的になる」

 ほむらがタンクローリーでワルプルギスの顔付近に近づいても攻撃されなかったのは、その時点ではほむらは敵としてすら認識されなかったからである。しかしこの攻撃によりダメージを受けたワルプルギスは、ほむらを敵として認識した。
 そんなほむらの言葉を証明するように、未だ上がり続ける爆炎の中からワルプルギスの使い魔が突進してくる。その速度は銃弾にも匹敵し、並の人間には回避不能であろう。事実身体的には人間とほとんど変わらないほむらにはほとんど反応できなかった。
 だが、近接型の魔法少女としてやってきた杏子はその限りではない。突進するそれらに気づいた杏子は、間合いに入った瞬間に手に持っていた槍で両断する。

「みてぇだな」
「……さすがね」

 そんな杏子の行動にさすがのほむらも驚いていた。杏子の能力を考えれば回避行動くらいは取れるだろうと思っていたが、まさか槍で両断出来るとはと。
 そしてワルプルギスが爆炎から離れたのを確認すると、ほむらは杏子に手を差し出す。

「移動するわよ」

 杏子が自分の手を取ったのを確認すると、ほむらは再び時を止めた。
 本来なら先ほどの攻撃が来る前に止めるべきだったのだろうが、そうもいかなかった。というのも次の攻撃は杏子が接近戦を仕掛けることになっている。さすがに火の中に突撃するわけにもいかなかったのだ。




 移動すること数分、二人は空中に浮かぶワルプルギスの真下まで来ていた。もっとも二人の時間が数分進んだだけで、周囲の時間は一秒たりとも進んでいないのだが。

「それじゃあ、乗ってくれ」

 そういってほむらを背負うためほむらはしゃがみこんだ。魔女退治を幾度か繰り返すうちに、おんぶして攻撃するのが一番楽だと結論にいたり、ワルプルギスの時もそうすることにしたのだ。魔法少女の筋力ならば人一人背負うことによる負担はほとんどない。見た目は多少間抜けだが。
 ほむらを背負うと杏子は飛び上がり、その場に足場を作成する。それと同じ要領で飛び上がっては足場を作るを繰り返し、どんどんワルプルギスに近づいていく。

「……間近で見ると、さすがにでかいな」
「そうね。こうして生身だけでここまで近づくのは私も始めてだわ」

 そんなやり取りをしつつも、次第にワルプルギスの上までたどりつく。ちなみに側面ではなく上まで上がった理由だが、重力の加速を攻撃に加えるためと、歯車部分は多少は攻撃に脆いのではないかというほむらの経験と勘によるものだ。先ほどの攻撃で無理のない範囲で歯車の部分を狙ったりしていたのはそれが理由だ。それを証明するかのように、遠くからでは分からなかったダメージが歯車に残っていることが分かる。

「分かっていると思うけど、突きじゃなくて斬りでお願い。あとまずいと思ったらすぐに槍を手放して」
「あぁ、分かってる。……いくぞ!」

 そんな気合の声と共にワルプルギスに切りかかり、全力の魔力と重力を込めた攻撃がワルプルギスの歯車の部分にぶち当たる。
 だが予想通りというか、ワルプルギスに目立った外傷は与えられない。そしてその間だけワルプルギスは時間を取り戻し動きを再開するが、杏子が槍を振り抜きそれが離れるとすぐにその動きも止まってしまう。そして杏子自身はワルプルギスの少し上に足場を作り、すぐに距離をとる。

「わかっちゃいたが想像以上の硬さだな……」
「私としては少しでも傷が付いたことのほうが驚きなのだけど」

 そういったほむらの言うとおり、ワルプルギスの歯車に目を凝らせば分かる程度の、鉄の板を釘で引っかいた程度の傷が付いていた。もっともこの攻撃で倒そうとするならあと何万回は切りかかる必要があり、どう考えても魔力が最初に切れるだろう。この攻撃自体ワルプルギスの硬さを杏子が実感して次の攻撃に生かすためなので、それは仕方の無いことなのだが。
 この方法で倒すのは無理と二人も判断したのか、ワルプルギスと離れた地面に降り立つと次の攻撃の準備を始めるのだった。




(あとがき)
 ずっと時間止めてたせいで、あまり戦闘シーンって感じになってないですよね。もっと派手なドンパチとかやらせたかったんですけど、ワルプルギスに動かれると勝てる状況が想像できないという……。
 また前半はそのまんま原作の攻撃手段でした。多少は変えようかと思ったんですが、原作のシーンが良すぎて変更場所が思いつかなかったので。
 あと12話見直すことで、いまさらワルプルギスの胴体部分が空っぽということに気付きました。なので歯車が多少もろいということにして、ほむらもそれに気付いてることに前回の話も修正。そうしないと次の攻撃が悲惨なことになりかねないので。


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