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[27261] インフィニット・ストラトス ~ Out Line ~
Name: 葛原◆149a6ad8 ID:19660a23
Date: 2011/04/25 00:45
「キャ――――――!千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」

 別に佐渡島からでも関係ないだろう。

「あの千冬様にご指導いただけるなんてうれしいです!」
「私、お姉さまの為なら死ねます!」
「・・・・・・・・・毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。関心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 去年と変わらない、きゃいきゃいと騒ぐ女子達に思わず口から出てしまう。しかし、それも女子に話題という餌を与えるに等しかった。

「きゃあああああっ!お姉さま!もっと叱って!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして~!」

 あいもかわらず、馬鹿共が。

 しかし、これは言葉にはしない。言っても効果が無いからだ。とりあえず、回りの女子の声を無視して目の前にいる男子。この学園で初めての男子生徒を見る。


「で?挨拶も満足にできんのか、お前は」
「いや、千冬姉、俺は―」

 パァンッ!本日三度目。この馬鹿者、女子の話題に油を注ぐな。

「織斑先生と呼べ」
「・・・・・・・・はい。織斑先生」

 遅い。既に教室は『織斑一夏は織斑先生の弟』の話題でもちきりだ。騒ぐのなら、私のいない所で騒げ。やかましい。



 ――弟。そう、私の弟。世界で唯一つの肉親。



 本来ならこの学園にすら入れないはずの男であり、私が守るはずだった弟。
 しかし、何の因果か、この学園に来てしまった。おそらく世界で一番危険なこの学園に。


 この学園に入ってしまった以上。弟が(当たり前であるが)男であること。そして、この学園特有の教育方針から世界が彼に『どんなことをしてくるか』わからなくなってしまった。これでは一夏を守ることは難しくなる。




(だが、かわりに身を守る力を手に入れた。か)

 起きてしまった誤算は大きい。しかし、代わりに力を弟は手に入れた。今は力を使いこなすことはできないだろうが、使い方を教えればいい。そのためにこの学園はある


(ふふっ、覚悟しろよ一夏。私の教育は―――――)











「ええええええええええええええええええ!?」







教室が揺れるかと思うほどの大声。それはこの教室ではなく、他の教室。おそらく『例のクラス』のものだろう。

ともかく、さっさと自己紹介を終わらせないと次の授業に響く。先ほどの大声のおかげで生徒達はおとなしくなっている。ちょうどいい。

「さっさと自己紹介を進めろ!SHR中に終わらなかったら―――」
「あの、織斑先生。ちょっといいですか。」
「――――。何ですか。村上先生。」



 言葉をさえぎったのは3組担当の村上結(むらかみゆい)先生。体育系でいつもジャージを着ている人で、持ち前の明るさで生徒からも信頼されているいい先生だ。おかげで生徒からラブレターをもらったりといろいろ話題に尽きない先生とも言われている。…らしい。よくわからん。


 そんな悩みを持つことを知らないような人が、珍しく困った顔でこちらに手招きをしている。


「まったく。――山田君。後を頼む。」
「は、はい!」

 一組を副担任の山田真耶に任せると廊下に向かう。そこには村上先生と一人の女生徒がいた。

「この女子が何か問題でも起こしたんですか?」
「―彼女じゃないんです。」




―――――うん?



「では、なぜ彼女が?他に何か問題でも?」
「だから、彼女じゃないんですよ!」


わけがわからない。この女生徒に問題が無いのなら、なぜここにいる?それとも他の問題なのだろうか。

村上先生は何かを伝えようとしているのだが、どう伝えたらいいのかわからないようであー、うー、と言いながら悶えている。女子の方も、心底「なぜ自分がここに連れてこられたのか?」という顔をしている。


それから一分ほどして、結局まとまらなかったのか村上先生は大声で言い放った。



「だから、彼女じゃないんです!」
「ですから、その女子が問題じゃないなら―――」





「彼女じゃなくて、彼なんです!!」







 村上先生の言葉を聞いて。私は。





「―――――は?」





これしか言えなかった。





あとがき
というわけで始めましたISSS。あ、S三つ。
初めての投稿でいろいろビクビクしておりますが、いかが・・・いかがというほど書いてませんがいかがでしたか?おかしくないっすかね?
 今回は織斑先生視点でお送りしましたが、次から(今回もちょろっと出ましたが)主人公視点で始まります。
 ああ、出しちまった。これからどうなるのだろう(ガクガクブルブル)
 もう逃げられませんよ(ニコ)ひい!
もし気に入られましたら、これからも温かく見下してください。
それでは!



[27261] 初めにと連絡事項
Name: 葛原◆149a6ad8 ID:19660a23
Date: 2011/04/27 23:42
連絡事項

4月24日 その他版に移送完了
NO.0行間改修
NO.01ちょい改修
No.06 更識 簪の外観を追記
人物名にさいしょだけふりがなをつけました。


初めに


この作品は「インフィニットストラトス」の二次創作です。

注意1:オリキャラが主人公です。

注意2:原作とはストーリーをあまり逸脱しすぎないように頑張りますが、結果として大いに線路を脱線する危険性があります。

注意3:原作の世界観を尊重しますが、原作に書いてないことは割と好き勝手に世界観を設定します。

注意4:そのうえで連載中である原作に新しい世界観設定が現れるとどうなるかわかりません。

注意5:ただ、そのまま失踪したりはしないようにします。


以上の項目に耐性がある。もしくはバッチこーいという方はよろしくお願いします。



[27261] 1st Line ~新入生は女装趣味!?~
Name: 葛原◆149a6ad8 ID:19660a23
Date: 2011/04/23 23:15
「みんな集まってるわねー!じゃあSHRをはじめるわよー!」

 快活な声で生徒達に声をかける村上結(むらかみゆい)先生(先ほど自己紹介をしていた)。
 身長は女性の中では高く、自分の身長とほぼ変わらない。肉体も無駄が無く(胸も無いが)、肌も程よく日焼けしていて、なんというか、野生のトラやヒョウを連想させる。

しかし、髪は乱雑にポニーテールにし、服装も青のジャージというしろもの。
 
見たまんま。体育系生徒指導系の肉体派教師という風貌の先生であった。他の皆もそう思っているだろう、うん。

「みんな、これから一年よろしくね?」
「はーい!」

 教室のクラスメイトも明るい先生+女子だけというフランクさからか、皆初対面同士であるにも関わらず元気にあいさつを返す(ちなみに自分はその波に乗り遅れた)。

「じゃぁ自己紹介をお願いしますねー。出席番号順で」

「はーい!」

 どうでもいいけど、村上先生もうちょっと服装や髪形に気をつけましょうよ。ぱっと見素材よさそうだからちゃんとすれば男性にも―――。


(ああ、女子しかいないからか。)




そう、このクラスには自分を除いて全員女子しかいない。




なぜか。

簡単だ。ここがIS学園だからだ。

―――どうせ自分の自己紹介まで時間があるしそれについて説明しよう。
IS学園というのは、
ISの操縦―――、ISの説明もしないとダメか。

正式名称『インフィニット・ストラトス』。宇宙空間での活動を実現するために開発されたマルチフォーム・スーツ。
宇宙空間で自機の位置を知ったり障害物の早期発見を可能にするハイパーセンサーを始め、小惑星群や電磁波から身を守るシールドバリアー。反重力力翼や波動波干渉等の技術を使った既存の飛行概念を超えた飛行システムetc―――。
そういった世界の技術の数歩先を行く技術の塊で構成されたISだが。それを世界がただ単に地球外活動服として見られるはずも無く、またそのとびぬけた性能は既存の兵器をただのガラクタへと変え、世界の軍事バランスを崩壊させたことから『兵器』として研究されることになった。
しかし、各国家の思惑や危機感から、現在は『スポーツ』へと落ち着いている―――いわゆる、Gガ○ダムみたいなものと思えばいい。



ただ、いかにスポーツといえど世界を文字通りひっかき回せるISはその搭乗者にも相応の能力と道徳が必要なわけで―――。



そのために設立させられたのがこの公立IS学園である。ちなみに日本の血税で運営されてます。

ただまぁ、言い忘れていたけどISは原則『女性しか扱えない』という鉄の不文律がある。
理由はわからないが、IS―――というより厳密にはISコアが女性にしか反応しないのだ。このすけべぇめ。



――――ISは女性にしか扱えない=IS学園には女子しか入れない

結果、男女比率は約1:180という驚異の数字を叩き出すことになった。

女子しか入れないのになぜ男子がいるのか?


――――それがわかってたら既にISは女性だけのものになってないでしょ?つまりはそういうこと。


…と、そろそろ自分の番がまわってきたらしい。
 しっかりと立ち、前を見る。
 珍しい男子のはずだけど、気を利かせてくれるのか特に視線を感じずに済んだ。いいクラスだな。









「え―…。倉持五月(くらもち いつつき)です。よろしくお「ちょっと待って。」」




 ――はい?どうしました、村上先生?


 周りを見るとみんな唖然としている。みんなどうしたんだろう。自分は『少し高めだけど普通の男性の声』で自己紹介しただけだが。

「みんないい?」
村上先生が生徒に言う。何でしょう。さっぱり事情が呑み込めないのですが。

 そんな自分を置いてきぼりにして村上先生はテンポを計るように1度手を下げて、さん、はい、と挙げた。すると―――





「ええええええええええええええええええ!?」






 教師+生徒29名。つまり自分以外のクラス内のみんなが一斉に声を上げる。くぁ、鼓膜が破ける。机が振動してるぞ。

 いきなりの音波攻撃に意識がマヒしかける。が。その手を握って村上先生がムリヤリ教室の外へと引っ張り出す。やめて、お願い、腕がもげる。

「せ、先生ちょっと用事があるから!先に自己紹介終わらせておいてね!」

村上先生がクラスにそう言っているが、自分は未だマヒから解放されずに自分の耳には入ってこない。


結局そのまま自分は何がどうなったのかわからないまま腕よもげよとばかりに廊下を村上先生に引っ張られていくことになった。










「―――――は?」
あ、今までキリッとしていたのに。そんなほけっとした顔は似合いませんよ。

前後不覚に陥りながらも村上先生に引っ張られ、なんとか回復した自分は、現在別の教師の前に立たされている。

黒のスーツにタイトスカート、すらりとした長身、無駄の無いよく鍛えられたボディライン。そして(村上先生には失礼だが)胸がある。鋭い釣り目は何というか、野生の犬を連想させる。

その教師に、村上先生は先ほどから何やら必死に伝えようとして悶えている。

「ですから、彼がうちのクラスに割り振られたもう一人の『男子生徒』なんですよ。」

 失礼な。どこからどう見ても男なのに何を言っているのだろう。

「――――なるほど。わかりました。―おい、そこの男子生徒。」
「はい。」
「名前は――、倉持だったな。自分の恰好をわかりやすく説明してみろ。」

おお、担当外の生徒の名前を覚えているなんてすばらしい。―じゃなくて、自分の恰好か。制服だと端的すぎてダメだから――。


「えーと、ブレザータイプとカスタムしたロングスカートに黒タイツ。スカートを長くしていますが、標準的なIS学園の『女子』制服です。」


 そう、自分が今着ているのは『女子』制服である。ただまぁ、それがどうしたと思うのだが。




「その通りだ。では一つ質問だ。『なぜ男子が女子生徒の制服を着ている?』」




 あ、殺気がすごい。何に対して怒っているのだ?女子制服を着ていること?――妥当か。
(といってもなぁ。自分も着ることに抵抗が無いわけじゃないけど――)
「配布されたのが女子制服だったので、これを着て学園に行けということなのだろうと思ったからです。」

「男子制服が無いことに疑問は抱かなかったのか?」

「IS学園ですから。」

 今まで女子生徒しかいないだろうに男子制服があるわけ無いと思います。


「――もういい。購買に男子用の制服がある。村上先生に連れて行ってもらえ。」


軽くこめかみをおさえると、目の前の教師はそう言って教室に入っていった。というか。







――――え?男子制服、あるの?








そんなこんなで自分の高校生活は割と変化球で幕を開けることになった。




あとがき
というわけで本編始まります。
なんか、感想版で『主人公は男の娘!?』と出てますが、どちらかというと

マク□スf の早乙女 ア○ト のようなものです。こちらの方が数倍バカですが。

あと、文量が少ないとコメントをいただきましたので少々多めに、
行間を少々多く取ったので少しは見やすくなったでしょうか。

さらには行間を大量に解放することで水増ししています。

ね、ぱっと見量は多くなったでしょ?



バシンバシン!
ブヒィィィィィ!ありがとうございます!





 
とまぁ、そんなことはさておき。

コメントに「ある程度できるまでチラ裏でやれば?」とありましたのでそうしようと思います。



これから、できるだけ早く、文量も大量に打てるように努力しようと思いますので、よろしくお願いいたします。
それでは!



[27261] 2nd Line ~質問攻めはつらいです~
Name: 葛原◆149a6ad8 ID:19660a23
Date: 2011/04/21 16:14
「うあぁ…。」

これは一体どうすればいいんだ。

「ねーねー、倉持君ってさー」
「さっきのあれってわざと?」
「女装男子って新しぃジャンルよね。ちょぉっと話いいかなぁ。」
 最後の発言は聞かなかったことにしておこう。

一限目のIS基礎理論授業が終わって現在は休み時間。SHRの時の騒動のおかげか、ほとんどのクラスメイトがこの自分の机に殺到している。よし、これでクラスで浮くことは無くなったぜ。計画通りだはっはっは。――うれしくねー。。

ちなみに、IS学園ではコマ限界までIS関連教育を行うため、入学初日から当然のように授業がある。学園の案内とかは地図見ろってさ。さすがIS学園。

(しかしまぁ、女3人集まれば姦しいというが)
 
「他のクラスの情報どうなってる?学園のデータベースもチェックお願い!」
「ホントに男子なの~?」
「さっきまで着てた制服どうしたの?」
「お昼ヒマ?放課後ヒマ?。」

恐るべし、女子の話題パワー。15分の休み時間でよくもここまで騒げるな。
一体、誰からの質問に答えればいいのやら。いくつもの質問は聞けても、結局自分の口は一つだし…。

「やばいよ!さっきの騒ぎで他のクラスから偵察が来てる!」
「日本人だよね?どこ出身?」
「誕生日いつー?」
「……頼むから一人ずつ質問してくれ。」



―――――。




「じゃぁこれから整理券を配布しまーす!一枚2クレね。」
「高い!半クレにしてよ!」
有料かよ。


そんなこんなでワイワイしながらもやっと決まったのか、一人の女子が「いよっしゃぁ!一番!」と雄叫びを上げる。女子なんだから雄叫びはやめようよ。

ただまぁ、そこまでうれしいのはわかるけど――。


キーンコーンカーンコーン。
「はいはーい。二時間目始めるから席についてねー」

結局、自分への質問タイムは二時間目の休み時間にとなった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ねね、くらもちくん。質問いいかな。」
二限目の休み時間に聞いてきたのは、姫村さん(というらしい)。
「はいはい、何ですか?」
 が、聞いてきた割にはなかなかその質問の部分を言ってくれない。周りからこっそりと「がんばれ―。」と聞こえる。

――――。

「男が珍しいのはわかるけど、そんなに気張らなくていいって。」
「あ、う、うん!ごめん。で、あの、質問いい?」
「うん。何?。」
「どうして女装してたの?」



やっぱりそれ聞きますか。



「単純に学園から女子制服が送られてきたから。まさか男子制服があるとは思わなかったし。」
「でもさ、女子の制服着るのに抵抗とか無かったの?」

二番と書かれた紙を持った女子が質問してくる。どうやら質問は一人一回のようだ。

「ああ、まぁ。姉貴によく『かわいいから女装しなさい!』てムリヤリ着せられてからなぁ。ついでに化粧の仕方や姿勢に歩き方とか。はてはボイスチェンジャーとかまで持たせられたし。」

そういってポケットから首輪を取り出す。喉にあてて「あー。」と言ってみると、低いながらも女性らしい声が自分の口から出てきた。

「な、なんか徹底してるわね。」
「…言っとくけど、そういう趣味でやってた訳じゃないからな。俺だってしたくてしているわけじゃないし、普通に男子として過ごしたい。だからさ、広めるのはいいけど、お願いだから無駄に誇張して広めないでね?」
「「「「「ぎく!」」」」」

誇張する気満々ですね。
まぁ、女装が徹底しているのはそれだけが理由じゃないんだけどね。言う必要が無いから言わないけど。

「じゃあさ、じゃあさ――。」

次の女子からの質問らしい。次のおたよりは~?

「薄い本に君出していい?」
「却下です。」

 いきなり何を言い出すかなこの人は!?
ちなみに薄い本というのは――――――

「えー。せっかく一組の男子と絡ませようと思ったのに~。『ISを動かせる男子が助けた少女は――何と男だった!!自分を助けてくれたISパイロットに恋した男の娘。そして男子と気づかずに段々その少女に惹かれていくパイロット!そしてついに――――』」

こういう感じ。断固拒否します。

「却下だ、却下!!」
「え~。駄目?」
「当たり前だ!というか、なぜそれを俺に聞く!?」
「――――。それもそうね。あ、むっちー?ちょいといい話が転がってるんだけど、次の即売会に…」

墓穴掘ったあああぁぁぁぁぁ!

「ち、ちょっと待って!お願いだから――――」

キーンコーンカーンコーン

無情にも三限目のチャイムが鳴る。ああ、次の休み時間までにどこまで話が進んでしまうのだろう。



「それじゃあ授業始めるわね―。この時間じゃ実戦で使用する各種装備について説明するから。かなり重要だからしっかり聞いてね。」

今まで(二時限しか受けてないが)より語調が真面目になってるところを見ると、確かに大切なことなのだろう。他の皆もさっきまでの大騒ぎを忘れさせるほど静かにしている。

「――と、その前にクラス対抗戦のための代表者を決めないといけないんだった。」

 と、村上先生が思い出したように言う。ふぬ?

「クラス対抗戦というのは、――まぁ、そのままの意味ね。クラス代表者同士で戦ってもらうの。入学時の各クラスの実力推移を計るのが目的ね。あ、クラス代表者っていうのは……まぁ、学級委員長みたいなものよ。クラス対抗戦だけじゃなくて、生徒会の開く会議や委員会への出席もしてもらうわ。一度決まると一年変更は無いから。じゃぁ、自推、他推どちらでもいいから誰かない?」

 へぇ、クラス長決めか、面倒だなぁ。したくないなぁ。

「はーい。いつつきくんを推薦しまーす。」
「あ、あたしもー!」
「ぼくもー!」
「やっぱり男子ってレアモノは前面に押し出すべきだと思うの」
「まぁ、やっぱりそうなるよね。じゃぁ、倉持五月君に推薦する人―。」


―――ザッ!!


29名の、つまりは自分以外の全員が挙手。嘘ぉ!

「じ、自分ですか!?」
「うん、きみ。」

 思わず立ち上がった自分にみんなが注目する。その瞳は、「とにかく自分以外ならいいや。」としっかりと言っていた。

(く、ヤバイ、このままじゃクラス委員長にされてしまう。…ああもう!言いたくないけど――)
「言いたいくないですけど、自分女装していたんですよ!?「ばっちこーい」誰だばっち来いいった奴。」

 ざっと見回すが誰も手はあげない、さらには―――

「受けてくれないと薄い本出しちゃうよ?(ぼそ)」


――――。

さて、自分の三年間の学園生活が消失するのと一年間のクラス委員長。どっちが損失は大きいだろう――――。

「喜んで、クラス代表をお受けいたします。」

 まぁ、当然だよね?



―――――――――――



「…。腹減った。」

 結局、その後も休み時間は全て質問タイムに費やされ、やっと解放されたのは放課後も過ぎた頃のことだった。もちろん。昼飯なんてとれるわけがありません。
当然の様に飢餓感が襲ってきたので、現在は夕食の分も含めて購買から買ってきた食料を教室へと移送中。食べながら移動するなんて自分にはできないです。むせます。

(ただまぁ、寝る場所どうするか。だよなぁ。この学園は全寮制&実質女子寮だから俺が入れるわけないし、実家からだと新幹線でも帰宅通学に計4時間かかるし。やっぱテントでも張らないとダメかなぁ。その前に今日の宿か。どうするかなぁ―――――)

「あんたさぁ、なんで―――――なの?」
「すごい――――なんだけど。」
「…………。」

 食料を移送中に厄介なものに出くわしました。高校生になってもこういうのはいるんですね。
 自分の進行方向上に3人の女子を発見。当たり前というか、一人の生徒を二人が壁際に追い詰めている。
 
(はぁ…。えー、と。食料は隠して。とりあえず、穏便に―――――)

「――だし、――だし、どうしてあなたがIS操縦者なの?」
「―――が姉さんだからって調子に乗ってんの?」
「………。」

「………。」

(えー、と。何か無力化できるものは―――お、ゴミ箱がある。ちょうどいい。あ、このままだとすぐに足がつくか。えー、これをこうして。)


「なんかいいなさいよ!」
「余裕ぶっこいてんじゃ「えい。」きゃぁああああ!」

とりあえず、近くにいた方のうるさい女子に頭からゴミ箱をかぶせてあげる。
次に、もう一人のうるさい女子にゴミ箱の中にあったゴミ袋を同じようにかぶせてあげる。

「むー。むー!」
「ぬ゛ーー!」

そして足を払って転ばせてあげる。


「っ……!」
「しっかりつかまっててね。」

 最後に、そう言って残った一人を抱きあげて脱兎のように逃げ出した。さすがに女子は軽いなぁ。
 
 とりあえず、4つほど階段や角を曲がったあたりで安全を確認する。うん。とりあえず追っては来て無いようだ。ゆっくりと抱きかかえた彼女を下してあげる。

「あ、ありが……とぅ。」
「ん。ただまぁ、自分で何とかしてほしいけどね。ああいう輩はしっかり反抗しないと…ゲフ。いつまでもつきまとってくるからな?」
「!?」

ボイスチェンジャーを外しながら言う。この学園で男子が騒動を起こそうものならすぐに足がつくからこういった偽装工作は必要なのです。

「んじゃぁ、もう大丈夫だよな?寮に行けば…、少なくともあいつらも手は出せないだろうし、早く帰った方がいいぞ。」
「え……?あ……。う、うん…。」

その返事を聞いて、とりあえず、食料を隠した所に戻る―――。

「あ、いた!倉持君!」

―――途中で村上先生に見つかった。わぁ、朝より髪が暴れていらっしゃる。

「?。どうしたんですか?村上先生。」
「寮室が決まったの。」
 
そう言って、部屋番号の書かれた紙きれと鍵を渡してくる先生。うん。とりあえず食料回収は置いておこう。

「え。けどあそこって女子寮ですよね?自分が入って大丈夫なんですか?」
「―――――。一応聞くけど。寮に入れなかった場合どうするつもりだったの?」
「適当にテントでも張ろうかと。」
「…。お願いだからその『できるからやる!』って考えはやめて頂戴。」
「え、でも。できないと考えているということは発想を阻害しているということであり新しい発想が絶えてしまうというのは非常に――――。」
「学園にテント張って登校するっていうのは学園の外から見るととっ――――――ても見苦しいものでそれを容認すると結局外見を気にする必要がある学校という組織にとってはひっじょ――――――にまずいの!わかった!?」
「わかりました!」
 
 ビシィッ!と敬礼を返す。さすがにあの剣幕で迫られたら「はい!」としか言えません。
 とりあえず、寝るところは決まったようだ。


―――――――


「えーと、0990。1000。1001。」

 順番に部屋番号を確認していく。本来なら今頃自宅に帰っているはずだ。―――が、現在は寮に割り振られた自室を探している。
 
 なぜかというと今日の放課後に副担任の山田先生から連絡があったからだ。

「えっとですね。寮の部屋が決まりました。」
「俺の部屋って、決まってないんじゃなかったですか?前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど。」
「そうなんですけど。実はもう一人男子が入学してきたのでそのまま寮に入れられるようになったんです。」
「え?俺以外にも男子がいたんですか!?」
「は、はいっ。織斑くんのあとに、ISを動かせる男子がもう一人いるのがわかって。急きょ、入学することになったんです。」

と、こんな感じ。ニュースにならなかったのはホントにぎりぎりのタイミングで入学したからマスコミも対応しきれなかったから…らしい。



「と、ここか。1025室だな。」
 
俺は部屋番号を確認して、ドアに鍵を差し込む。あれ?開いてるじゃん。

 ガチャ。

 部屋の中に入ると、まず目に入ったのは大きめのベッド。それが二つ並んでいる。そこいらのビジネスホテルよりはるかにいい代物なのは間違いない。こう、見ているだけでフワフワ感がかもし出されてくる。これが格の違いというやつだろうか国立万歳。

「誰かいるのか?」
 
 突然、奥の方から声が聞こえるドア越しなんだろう。声に独特の曇りがある。そういえば、全室にシャワーがあるって言ってたっけ。―――ん?

「ああ、同室になった者か。これから一年よろしく頼むぞ。」

 ――何か、すごく、いやな予感が、こう、足元から、ぞわぞわと。

「こんな恰好ですまないな。シャワーを使っていた。私は篠ノ之――――。」
「―――箒。」
「い、一夏!?」

 先ほど、山田先生が言っていたことが思い出される。

「箒。」
「な、何だ!?」

 つまり―――。

「お前。男だったのか?」


 そこからの展開は早かった。箒は即座に壁に立てかけていた木刀をとると、くるりと一回転して上段打突の構え。そこから一気に間合いを詰めてくる。―――って死ぬ!

ガチャ。

「ん?鍵が開いてるか。てことはもう一人の男子は既にいるんだな。」

 入口から聞こえる声。聞き間違えない、少し高いけど、男子特有の声色。―――助かった!本物の男だ!

「な、なぁ。君!た、助けてくれ!」

 そう言って、ベッドから飛び降り、一目散にドアへと走る。

「……へ?」

 変な声が聞こえたが気にしない。とりあえず部屋の外に出ないと箒に殺されてしまう。

「え?わぁ!」

バタン!

ドアの前で棒立ちしていたもう一人の男子を抱きかかえて部屋から脱出。そのまま箒の怒りがさめるまで逃げようと―――

「お、お、お、―――」
「――ん?」
「俺に触るな!」

ドゴスッ!抱きかかえた男子の膝が俺のあごにクリーンヒットした。


あとがき

とりあえず、セシリアが堕ちるまではチラ裏に置こうと思います。



[27261] 3rd line ~幼馴染と学食と約束と~
Name: 葛原◆149a6ad8 ID:19660a23
Date: 2011/05/01 21:47
時間は昼休み。場所は学食。

「頼むよ。ISについて教えてくれ。」

 俺はそう言って目の前の幼馴染。篠ノ之箒(しののの ほうき)に手を合わせていた。

 ことの発端は昨日の事。クラス代表を決める際にイギリスの代表候補生――つまり、エリートであるセシリア・オルコットと大喧嘩をし、結果的にクラス代表をかけて六日後にISで決闘をすることになってしまった。

 そのときは、というか今日の授業が始まるまでは「なんとかなるだろ」と思っていたのだが、独力で六日の間にISの操縦をものにするのは無理とわかり、現在彼女に助力を頼んでいる。


しかし、―――

「…………………」

 しーん。無視された。それどころか黙々とほうれん草のおひたしを食べている。なんてやつだ。

「なあ、箒―――」
「隣、いいか?」
 
 いきなり、隣から男子に声をかけられる。そう、男子だ。声でわかる。
 しかし、声のした方を見ると、男子制服を着た女子がいるだけで他には見当たらない。

「こっちだ。こっち。」

 ぐいっ。とその女子とむりやり顔をあわせられた。――もしかして。

「お、男!?」
「それ以外に何がある!」

ぎりぎりぎりぎり。そう言って頭にアイアンクローをかましてくる。おお、これは地味に・・・…というかかなり痛い!

「いだだだだだだだ!」
「まったく。」

 しばらくして満足したのか、手を離すとそのまま俺の隣に座る。いや、俺一緒に食おうとか言ってないんだけど。

「………………。」

ガタッ!無言で立ち上がる女子――じゃなかった男子。待て待て。この学園たった二人の男子。俺を一人にしないでくれ。

「あ、いいからいいから!一緒に飯食おうぜ。」

 そう言って腕に手を伸ばそうとした――が露骨に避けられた。そんなに嫌なのだろうか。

「あ、すまん。いやだったら無理に引き留めないから。」
「いや、別にそういうのじゃないから安心しろ。ていうか同席求めたの自分だし。ただの拒否反応だから気にしないでくれ。」
「拒否反応?」
「ああ、まぁ。」
 
 そうたずねると少し言いごもる。何か言いにくいものなのだろうか。

「あ、別に言いにくいなら別に言わなくていいぞ?」
「いや、そういうんじゃなくて―――。なぁ、自分は女に見えるか?」
 
 いきなりたずねられた。自分というのが一人称なのだろうかと考えながら、彼の外見を見てみる。体の線は細く、身長は俺より少し下。髪は黒くて、肩より少し伸ばした髪を後ろでまとめている。何というか、歌舞伎に出てくる女形を彷彿とさせた。

「おう。見える。」
「だよなぁ。」
「で、それがどうしたんだ?」
「自分。男子化校からやってきたから。」
「あー。」

 その言葉に納得してしまう。

 男子化校というのは、文字通り男子校化してしまった共学校の事だ。
 
昨今、ISを扱えるというのは女性の間ではエリートとして見られ、IS学園に入れるのは驚異的な倍率をこえた者だけ。つまり、それだけで人生の安泰が決まると思っていい。
 当然、ここに入学するための事前学習としてIS学習を組み入れる学校が出てきて、それは百パーセント女子校。当然というか、女子校に入学する人が多くなるのだ。

 結果、共学校の女子の数は減り、そもそも女生徒がいないという学校まで出てくる始末。
 その為というかなんというか、女子と触れ合う機会の無くなった男子は『そっち』方面へと走り出してしまう輩もでてきて―――。


「ホワイトデーには何故かホワイトチョコをクリームの状態で投げつけられてくるし、七夕には変な願いが書かれてるし、修学旅行では何故か男の子と男の娘で風呂が時間分けされてるし、全寮制だったし、襲われそうになった男子を助けたら告白されるし――――。」

 前の学校のことを思い出したのかブツブツと愚痴を漏らし始めたもう一人の男子。いや、君?そろそろ止まってくれないかな。なんか向こうでカリカリとペンを走らせる音が聞こえるのは幻聴じゃないみたいだし!?

「――オホンッ!で、貴女は誰なんですか?」

 おお、ナイス箒!貴女じゃなくて貴方だけど!

「あ、すまん。自分は倉持五月。よろしく。」
「こちらこそ。俺は織斑一夏(おりむら いちか)。それでこっちが幼馴染の―――。」
「篠ノ之箒だ。」
「篠ノ之――。」
「何か?」

 棘のある声でそう言う箒。おいこら。さっきもそれで孤立しかけただろうが。

「おい、箒―――。」
「あ、いや。すまん。どちらにせよアンタはアンタだ。失礼した。」

 その言葉に不意を突かれたのか、箒がきょとんとする。

「……。私の素性について聞かないのか?」
「…。てことは、やっぱり束博士の関係者か。しかしまぁ、別にアンタがISコアを作ったりできるわけじゃないだろ。俺はそういった偏見は好きじゃないんだよ。―――。それとも、聞いてほしいのか?」
「い、いや。そうではない!……。よろしく頼む。」
「ん。よろしく。」

 おお!?初めて箒が自分から挨拶したぞ!すごいぞ箒!トモダチ恐怖症かと疑ってすまなかった!

ダンッ!足をふまれました。

「いってええええ!?何すんだよ!」
「ふん。バカなことを考えているからだ。」
「仲いいなぁ。お前ら。」

おい、倉持。一方的な暴力をお前は『仲がいい』というのか。

「そういえば織斑。お前、代表候補生と勝負するらしいな。大丈夫なのか?」
「一夏でいいよ。一体どこから情報が流れたんだ?」
「あ、んじゃ自分もイツキで。女子の情報網を甘く見るなって。」

 いや。おまえは男子だろ。―――ああ。外見が女子だから―――。

 ダンッ!もう片方の足もふまれました。

「いってええええ!?」
「自分は男だっての。」
 
どうやらイツキに女性ワードはNGのようだ。気をつけよう。

「――で。大丈夫なのか?相手は代表候補生なんだろ?」
「正直、このままじゃ何もできずに負けそうだ。」
「くだらない挑発に乗るからだ。馬鹿め。」

 にべもないです。箒さん。

「ふぅん。」
「そういえば、イツキは授業についていけてるのか?」
「そりゃまあ。元々IS開発の方に行こうと思ってたからな。結果的にこの学園に入れたのは自分にとっちゃ願ったりだよ。襲いかかってくる男子もいないし―――。」

 そして俺を見つめるイツキ。

「……。襲わないよな?」
「襲うか!!」

 向こうからまだカリカリ音が聞こえるが無視する。

「じゃあさ、俺にISについて教えてくれないか?」
「ん?参考書読まなかったのか?」
「ゴミと思って捨てました。」
「アホ。」

 言い返せません。すみません。でもなんとかしないといけないんです。

「頼むよ。このとおり。」
「…。まぁ、特に今何かしたいことも思いつかないから別に―――。」

 そこで少し言いごもるイツキ。何だ?何か思うところでもあるのか?

「篠ノ之さん。このアホにISについて教えてあげてくれないか?自分、できれば整備室とか開発室とかライブラリとか色々見て回りたいし。」
「あぁ、箒には―――。」
「いいだろう。」

え?さっきまで嫌々オーラを出してませんでした?

「まあ、そういうことなら仕方ないな。こちらも都合があるが――――。」
「あ、やることあるなら別にいいよ?自分もそこまでいやなわけじゃないし。」
「い、いや。構わない。私の都合もさほど重要なものではないからな。それに、同門の者があっさりやられるというのはやはり見ていられん。」
「同門…。何か道場でもいってたの?」
「ああ、剣道だ。」
「なるほど。じゃあ、頼んでいい?」
「うむ。頼まれた。」

 あれよあれよという間に決まってしまった。ていうか。

「箒。」
「なんだ?」
「なんだって……。いや、教えてくれるのか?」
「そう言っている。」

 最初からそう言ってくれ。

 ともあれ、これでISのことを教えてくれる人は確保した。あとはやるだけやるしかない。

「今日の放課後。」
「ん?」
「剣道場に来い。一度、腕がなまってないか見てやる。」
「いや、俺はISのことを―――。」
「見てやる。」
「………。わかったよ。」
「がんばれよー。」

―――。何をがんばれというのだろうか。


――――――――――――――――――――


(少しきつく言い過ぎただろうか……。)
 
 剣道場の更衣室で着替えをしながら、箒はさっきからずっと同じことを考えていた。
 剣道場で一夏と手合わせをして、一本勝ちしたときの光景が目に浮かぶ。

(いや、あれくらいでいいのだ。大体、たるんでいる。明らかに一年は剣を握っていない。でなければあんなに―――)
 
 あんなに弱くなっているわけがない。

「…………。」

 六年前の幼なじみは、強かった。
 それこそ自分と手合わせしたら私が完敗するほどだった。

 それなのに―――。

(あんな簡単に負けるなど、恥ずかしくはないのか。まったく。)

 思い出すとまたムカムカと腹の虫がおさまらなってくる。

(それにしても、よく私だとわかったものだ。)

 とりあえずの怒りはおいといて、再会した時の事を思い出す。
 子供の時とは容姿、体形共にまったくの別物になっているというのに、幼なじみは名前を知る前からわかっているようだった。

(そ、それに。六年前よりも、か、かっこよくなっていたしな。)

 変わっていない子供の部分もあったが、それ以上に男らしい顔立ちになっていた。それこそ、ニュースで名前を見ていなければわからなかったほどだ。

(ふふ、髪形を変えなかった甲斐があったものだ。それに―――)

 一夏と二人きりになる口実ができた。

「………はっ!?」

 はっと我に返って鏡を見ると、にやけた自分の顔がうつっている。少し引いた。
 慌てて自分の顔をキリッ!とにらむ。別に深い意味はないが、気分は落ち着いた。

(それにしても、もう一人の男子。…。イツキとよべと言っていたな。)

 口調こそ男らしいが、私よりも女らしいのではないかとさえ思える容姿に少し不安が残る。

(そちらのほうに興味はないと言っていたが、ここは女子ばかり。逆にそういった方向に進むことも……。)

「………はっ!?」

(な、何を考えているのだ自分は!? 大丈夫だ。彼も私にがんばれと言っていたではないか!!)

先ほどとは別の意味で赤くなってしまった箒が更衣室から出てきたのは、それからしばらくしての事だった。

―――――――――――――――――――――


「なあ、イツキ。」
「ん?」
「ISについて教えてくれ。」

 自室でネットに接続していた自分は、剣道場から帰ってきた一夏にそう頼まれていた。

 ちなみに、昨日の出来事は自分が急に入学してきた事による手違いで、本来相部屋になるはずの娘への連絡が遅れたのが原因だったらしい。

「何でだ?篠ノ之さんに教えてもらうはずじゃなかったのか?」
「それが、何故か剣道を放課後に3時間みっちりとやるハメになった。」

 そう言って一夏はぐでーっ、とベッドに倒れこむ。疲れているのだろうか。

「茶でも入れようか?」
「あ、すまん。頼む。」

 そう言って自分はずっと沸かしっぱなしだった電気ケトルから湯を急須に注ぐ。
 
「別に、それはあながち間違っちゃいないんだよな。」
「なにが?」
「……。お前が剣道をやるってことだよ。」
「けどさ、ISには何の関係も無いんじゃないか?」
「まさか。多分思いつく中で一番の手だぞ。」
「そうなのか?」。

 一夏がきょとんとする。こいつ、ホントにISについて何も知らないんだな。

「ISが本来宇宙航行用のスーツであることは知ってるよな。―――ほれ、お茶。」
「お、サンキュ。―――ああ、それくらいはさすがに知ってる。」
「ん。で、ISってのはある程度感覚的に動かせるように作ってあるんだ。惑星でのサンプル採取とかを厄介な手順踏んで失敗しないようにな。つまり、体を動かす感覚で操縦できるようにしてある。もちろん、マニュアルもできるけど・・・。まぁ今のところは必要ないな。」

「ズズ…。けどさ、空を飛ぶって感覚は無いだろ?そのあたりはどうするんだ?」
「ズズー…。そのあたりは個人個人の感覚だな。俺の場合は進行方向に『落ちる』感覚で飛んでるし。とにかく、ある方向に「進みたい」って考えるとそう動くようになってるらしい。」

「ふーん。」

「実際、たった六日で座学をやっても実践できる保証はないからな。それなら、『戦う時にどう動くのか』というのを身を持って経験した方が圧倒的にいい。」

「なるほど。だから『最良の選択』なんだな。」
「そういうこと。」

 なかなか、吸収が早いな。こいつ。

「んじゃさ、それとは別なんだけど…。」
「ん?」
「授業について教えてくれ。」
「参考書読め。」
「そんな堅いこと言うなよ。」
「やれやれ、んじゃぁ、大体この時間でいいのか?」
「教えてくれるのか?」
「まぁ、断る理由もないしな。」
「おお、サンキュ!」


 そう言うと、俺の方に抱きついてくる。

「だ、か、ら。」
「ん?」
「俺に触るなって言ってんだろうが!!」

 ドゲシッ!

 昨日と同じ場所に俺の脚が今日もめり込んだ。



あとがき

次あたりセシリアとのバトル回になるのかな?
いや、五月は戦いませんが。

そして、箒が若干変な方向に走っております。どうしてこうなった



[27261] 4th Line ~錆びついたIS~
Name: 葛原◆149a6ad8 ID:19660a23
Date: 2011/04/27 23:41
 月曜日。一夏がイギリスの代表候補生と対決する日。

「なあ、イツキ。」
「なんだ?」
「………。」

 場所は第三アリーナのAピット。

「俺の気のせいかもしれないんだが。」
「気のせいだろう。」
「ああ、気のせいだろう。」

 そこには、自分、一夏、篠ノ之の三人のみ。それ以外には壁しかない。

「俺の乗るISはどこにあるんだ?」
「………。」
「………。」

 そう、今回の対決に必要なISが見当たらないのだ。一夏用のIS専用機が。





 ISは現在、各国が保有、研究開発、軍事配備をしているが、その数は467機と決まっている。

何故か?

簡単だ。ISを開発したのが篠ノ之束という一人の科学者で、彼女にしかISの心臓部――ISコアを製造することができず。さらにはその束博士が現在大絶賛失踪中だからだ。




 結果。IS専用機を支給するのはよほどの事が無い限り、そのテの成績が良かったりするエリート中のエリートであり、それが何故ISについて何も知らない一夏に支給されるのかというと―――。


「やっぱり、貴重なIS使える男子ってなるとデータ収集目的で専用機回されるんだな。」
「いや、お前も男だろ。ていうか、そっちは専用機回してもらえなかったのか?」
「そういった連絡が無かったから無いんじゃないか?」
「ふーん。て、そうじゃない! 一体どうすんだよ、生身でISと戦えってのか!?」
「………。」
「………。」
「………。」

 一同、沈黙。

「「やってみなければわからないだろう。」」
「わかるわ!」
「お、織斑くん織斑くんおりみゅっ!」

 あ、噛んだ。ミニコントをしていた自分たち三人に駆け足でやってきたのは一組副担任の山田麻耶(やまだ まや)先生。ちなみに一夏と篠ノ之は一組所属。

「山田先生。落ち着いてください。はい、深呼吸。」
「は、はいっ。す〰〰〰は〰〰、す〰―――。」
「はい、そこで息を止めて。」
「うっ。」

 一夏の指示に従う山田先生。乗せられやすい性格なのかな。

「………………。」
「……ぶはあっ! ま、まだですかぁ?」
「目上の人間には注意を払え、馬鹿者。」

 パァンッ! 頭を叩かれる一夏と自分。くお、何だ。コレ!? 頭がもげるかと思ったぞ。
振り返ると、織斑千冬(おりむら ちふゆ)先生(入学初日にあったあの先生。)が出席簿を持って立っている。ていうか、なぜ自分まで?

「止めずに眺めていただろう。お前も同罪だ。」

 あれ、篠ノ之は? と思うが口にはしない。変なこと言ってまた叩かれたくないです。

「そ、それでですねっ! 来ました! 織斑くんの専用IS!」

 ―――やっと来たか。

「織斑、すぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でものにしろ。」

 ―――以外に時間がかかったなあ。

「あの程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えて見せろ。一夏。」

 ―――やっぱり各センサ類の調整だろうか。データ収集機とは言え、実戦での使用に支障が無いようにしないといけないし―――。

「え?え?なん―――。」
「「「早く!」」」

 山田先生、織斑先生、篠ノ之の声が重なる。シンクロぱねぇっす。


ごごんっと鈍い音がして、ピット搬出口が開く。交差嚙み合い式の隔壁が、重い駆動音を響かせながらその向こうにあるものを見せてくる。


「―――白式ですか。」
「ああ、倉持くん! 私のセリフとらないでくださいよう。」
「知ってるのか?」
「すみません。ああ、うちで管理してる機体だからな。」
「管理?おまえんちっていったい何してるんだ?」
「あ、言ってなかったか? うちの親父は倉持技研の社長だぞ?」
「―――。すまん。まったくわからん。」

 わいのわいのわいの。

パァンパァンパァンッ!

「さっさと装着しろ!」
「「ご指導ありがとうございます。」」


――――――


「おい、倉持。一体どこに行く。」

 一夏をピットルームから送り出した後、そう織斑先生に呼び戻された。

「ギャラリーに行って観戦するつもりですけど。」
「何を言っている。お前のISはまだ最適化処理されていないぞ。」

―――はい? 自分のIS?

「村上先生から聞いていないのか?」
「何をです?」
「……。お前にも専用機が用意されている。お前はこれから倉持技研のテストパイロットとして扱われるそうだ。名目はな。」
「ということは、」
「ああ、織斑と同じ。男子のIS稼働のデータ収集が目的だ。」

 ごごんっ。先ほどとは別の隔壁が開いていく。

「しかし、うちには白式と兵装試験用の打鉄以外のISは現在保有していませんし、その他新規開発機にもパイロットがいるはずです。」
「あー。それなんだが―――。」

織斑先生が何やら言いにくそうにしている。珍しいですね。鬼の寮長と恐れられているのに。
 と、そうしている間に、隔壁の向こうから自分のISが出てきた。これは―――。


「………『探羅』(たんら)。」


 懐かしい機体があった。今まで倉庫でほこりをかぶり、放置されていた機体。装甲の表面には、まともな整備もされずに放置されていたためか、錆が浮き出ている。

「以前開発途中だった機体を持ってきたらしい。お前の実家から、これと一緒に手紙を預かってきている。」

 そう言って手紙を渡す織斑先生。封は開いている。とりあえず読むことにする。

姉からの手紙だった


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

やぁ、我がカワイイ妹よ。…あれ?弟だったかな?20年も会ってないから顔も思い出せないな。

 お前は15歳だから見る影もないがなアッハッハッハッハッハ!

 とまぁ、冗談はさておき、

 本来ならラボでこっそりデータを取るつもりがばれてしまって女子だらけの学園に放り込まれた気分はどうだい? 教え込んだ女装がそこでは役に立っただろう。敬え。

 入学祝いに倉庫にあった探羅をくれてやる。好きに開発して私の研究に大いに貢献するように。

 ああ、例のもう一人の男子のおかげで整備はしていない。シートは最新式に換装しておいてやるから自分で整備するように。まぁお前ならなんとかなるだろ。て言うかしろ。


 以上。


 追伸:
   打鉄弐式も同じ理由で未完成だから手伝ってやれ。会社命令だ。
   日本の代表候補生だからすぐにわかるだろ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


――姉ちゃん。お願いだから俺より男らしくならないで。

 しかし、すでに封が開いてたとすると、

「中、見ました?」
「ああ、規則でな。つまり、お前の女装は――。」
「ええ、男子の起動データを独占するためですね。男子がIS動かせるなんて思いもしませんし。―――それ以前に姉ちゃんの趣味でもありましたが。」
「アラスカ条約に抵触するぞ。」
「男子についての条約は乗っていませんから。一夏の立場がややこしくなってる理由ですね。」

ニヤリとしてそう言う自分。あ、今いやな笑みが見えた気が…。

「ふん。何はともあれ、貴様の分も初期化と最適化処理を行う。さっさとスーツに着替えて来い。」
「了解。」

 駆け足で自分は更衣室へと戻って行った。と、その前に。

「織斑先生。」
「何だ?」
「日本の代表候補生って何組ですか?」

 織斑先生はこういった。







「四組だ。」






――――――――――――――






「…これもう、整備じゃなくて修復の粋じゃないかな。」

 一夏の仕合(結果的に一夏の負けだが)をフォーマットとフィッティングを行いながら観戦していた自分は今、無人だった第三整備室にこもって探羅の損傷具合を見ているところだ。

(えー、エネルギーラインはほぼ全滅。補助動力は稼働率50%。…………ブースターも換装した方が早いなこりゃ。)


ぷしーっ。


(基礎骨格や装甲部分の腐食具合が意外に少ないのが助かるな。さすがにクラス対抗戦は無理でも、学年別トーナメントまでには実用レベルにしたいし。あ、けどブースター諸々を結局新型に換装するからシステム調整もしないといけないのか。…まぁ間に合うだろ。)


キィィィィイン。――ガション。


(そう言えば、打鉄弐式も完成させないといけないのか。どれくらいの完成度なんだろ。あっちも…て言うか、あっちを最優先で完成させなきゃいけないよな。会社命令だし。しかし、搭乗者は一体誰なんだ? 明日4組に行って聞いてみるか―――)


 ―――ん?


「さっき誰か入った?」

 先ほど聞こえた音からして壁の向こう側で整備をしているのだろう。気になったので回り込んでみる。


「あ………。」
「あ、君。入学初日であった子。」

 そこには入学初日に助けた女子がいた。専用機持ちなのか、機体を装着解除してしゃがませている。
髪はセミロングで、内側に少しはねている。長方形のメガネをかけていて、なんというか、暗いとか、薄幸少女とかいう言葉を連想させる。
 
 ―――ていうか。

「―――と、打鉄弐式。」

 見間違えない。ラボで何度も見たことのある機体。打鉄の後継機として開発された、純国産のIS。後継機ではあるが、基礎骨格からの設計見直しを計り、開発コンセプトを防御重視から全域対応型に変えた高機動型。そのくせ、安定性と打鉄特有のしぶとさを持ったままというシロモノ。つまり―――。

「てことは、君が4組の専用機持ちか。」
「え、う、うん…。」

 なら、話は早い。

「自分は3組の倉持五月。イツキでも倉持でも好きに読んでいいから。」
「倉持って…、倉持技研、……の?」
「ああ、その倉持。で、弐式が未完成状態だって言うから手伝いに来た。」
「え、あ、……う。」

 言葉が詰まる彼女。どうやら、人と接するのは苦手らしい。

「ダメか?」
「だ、駄目じゃない。……けど。」

 ダメではないらしいが、何かいけないのだろうか。

「お願い。一人で作らせて……。」


 ………。


「理由を聞いていいか?」
「え、う、んと………。私の……お姉ちゃん。この学園の、…生徒会長。」
「うん。」
「そ、それで…、お、お姉ちゃん…も、専用機……持って……る。」
「うん。」
「で、でも、…お姉ちゃん。専用機、一人で…作った、から。」
「自分も一人で作り上げてみせたいと。」
「う、うん。だから、…あの。」
「わかった。」




 わかった。自分の姉を越えたい。もしくは追いつきたいんだな。だったら―――。




「え?じ、じゃあ……。」
「ああ。」
「あ、ありが…」













「だったら、意地でも手伝わせてもらう。」












「……え?」
「興味や信念ってなら別に自分もよかったんだが、そういう理由なら話は別だ。」
「な、何……で?」

「簡単だよ。弟は姉を越えられない。妹でも兄でも同じ。だから、そんなことで機体の開発を遅らせることはできない。」
「 ! …。で、でも。」
「悪いが、これは絶対だ。ひっくり返せん。」
「ど、……う、して……?」

「考えても見ろ。姉が先に生まれているんだぞ? その分の経験の差があるのに勝てるわけがないだろう。」
「で、でも!わ…私…、む…無能……だから………。」



――――イラッ。

「はあ? 馬鹿か君は。ふざけんな! 専用機持ちのくせに無能とかほざいてんじゃねぇぞ! 君の姉が専用機持ちだろうが、アンタはアンタだろうが! 不当な比較で――――。」

 


 と、そこまで言って気づいた。彼女の目から雫が落ちているのが。

「っ!……。すまん。言い過ぎた。少し頭冷やしてくる。」
「あっ…………。」




 そう言うと、そのまま整備室から出る。






「……。やっちまった。」

 ぷしゅっ!という小気味いい音立てたドアに背を持たれかけながら、自分は先ほど熱くなりすぎたことを後悔していた。

 つい熱くなってしまった。普通なら絶対に怒鳴ったりしない自信がある。絶対に。……いや、騒いだりはするけど、ここまで感情的になるのはほとんどない。
 なぜそこまで怒ったのかというと―――。

(前の自分を見ているから、か。)



 以前の自分は、今に比べて結構、切羽詰まっていた。姉や兄と歳が離れていたこともあってか、何でもできた姉達に強い憧れと、同時に自分の無力さを感じていたからだ。
 当然というか、姉達に追いつこうと必死こいて勉強したりしていた。しかし、結局追いつけずに無力感を味わう日々。
 とうとう嫌気がさして、姉ちゃんに『どうして姉達は有能で、自分が無力なのか』を聞いてみたのだが―――。




 思いっきり殴られた。




 それはもう思いっきり、容赦なく。それで倒れた自分に馬乗りになって、次はビンタビンタの大連撃。その次はジャイアントスイングにエルボーにバックドロップ………。





 そして、本気で怒った姉の声だったのだ。




「ふ、ざ、け、ん、じゃ、ないわよ! アンタが無能!? だったらアタシ達は一体どうなんのよ! 今までアタシが頑張ってきたのを、アンタが越えるって? 馬鹿馬鹿しい。アタシがアンタより先に生まれてきてるのよ! 圧倒的に経験が足りないクセにアタシと張り合おうなんて思ってんじゃ無いわよ!』


大体こんな感じ。殴られて意識が朦朧としているのに正確な事は思い出せません。
 ただ、その時親父達はその時の自分達を見て「はははははは。」と笑っていたのはしっかりと覚えている。ひでぇ。




 ただまぁ、そのおかげか、それからはラボに入らせてくれて。よく雑用とかを手伝わせてくれるようになった。


 そして現在に至るというわけだ。身の上話終了。


「それはともかく、どうするかな……。」


 機体の完成と、彼女のコンプレックスについて。


――――――――――――――――――――――――


「っ!…。すまん。言い過ぎた。少し頭冷やしてくる。」
「あっ…………。」

そう言って、彼―――イツキはさっさと出て行ってしまった。

 残されたのは、少女と、二つのIS。


(どうして……?)

 今は、ただそれしか考えられない。
 いきなり手伝うといいだしたら、怒りだして出て行った。



ただ、それはどうでもよくて。



(私…、泣いてる…の?)

 目元を触ると濡れた感触。しかし、理由がわからない。
 一人で作ると言ったら怒りだしてしまった。それは、自分が一人で作ると言ったのが原因だ。
 さらに、その理由が私的なものだったのだから怒って当然だろうし、自分が泣くほどのものでも無いはずだ。泣く必要なんてどこにもない。

「私、は…、私……。」

 そう口からこぼれる。今まで周りの人は事あるごとに姉と私を比較してきた。


 そしてそのたびに姉との差を見せつけられ、決して手が届かないのだと思い知らされた。



(姉さんは……。気にするなって…、言ってた……、けど……。)



 無理だ。言われるたびにそう思った。それが自分のひがみだとわかっていても、そう思わずにはいられなかった。


「無能じゃ、……無いって、…言って…くれた。」


 見ず知らずの、出会ったばかりの人に言われたのは初めてだった。それで怒られたというのなら尚更に。






 怒ったから、だからこそ本気だとわかる言葉。だから―――。






「………うれしい。」



 だから、素直にそう思えた。



(それに、あの時……。助けてくれた……。)

 入学初日から、放課後にからまれていたのを思い出す。
 助けられて、抱きあげられて……。

「……………。」


 何なのかわからない気持ちになって、少女は頬をうっすらと桜色に染める。
 
 涙はすでに止まっていた。


――――――――――――


目の前には第三整備室のドア。自分のISはこの扉の向こう側にある。
 
「…入りずらい。」

先ほど、少女を泣かせて逃げ去ってきたのだ。理由はあるにせよ、入りにくいことは変わらない。
 しかし、ここでこのまま悶えているわけにはいかない。意を決して、部屋に入ることにした。

 ぷしーっ。

「っ…………!」

 あ、あからさまにびくっとした。ごめん。けど、機体を完成させるためには引くわけにはいかんのだ。

「あー…。ブドウとオレンジ。どっちがいい?」
「……じゃあ、ブドウの方……。」
「ん、ほい。」

 会話を成立させるために持ってきた二つの缶ジュース。役に立ったようだ。えらいぞ缶ジュース。ほめてつかわす。
 カシュッ! と小気味いい音が響く。

「…………」
「…………」

そして飲む。って、会話が途切れちまったじゃないか。使えないな、缶ジュース。

「……あの。」

 どうしてくれようか、打首か。……首がないか。資源ゴミに出さないの刑にするか……。て、ん?

「ん?何?」

 やっぱりすごいぞ缶ジュース。いや、缶ジュース様。ちゃんと資源ゴミとして捨てさせていただきます。

「あの時、…は、ありが、とう……。」

 …ん?

「へ? 何が?」
「え、えと、入学式…の……日、放課後……の時…。助けて…くれ……て。」
「ああ、あの時か。別に、助けたわけじゃなくて自分が勝手に怒っただけだから。」
「え……? …どうし……て?」
「あの時さ、『~の姉だから』って言ってただろ?」
「う、うん……。」
「自分はそう言った偏見で物事を判断するのが嫌いなんだよ。だから、別にお礼言われる筋合も無いよ。」
「で、でも……。助けて、くれた……から……。」
「…そうか。」
「う、うん! そ、その、あ、ありが……とう。」
「…わかった。」







 そして沈黙。ヤバイ、今度は自分から切り出さないと。











「……なあ。」
「え!? う、うん………な、何?」
「やっぱり、一人で作りたいのか。」
「っ……! そ、それ……は………。」
「何度も言うけど、弟は姉を越えられない。多分、これは変えられない。…それでも、一人で作りたいのか?」
「………………。」



 再び沈黙。言いたいことは言った。これで駄目なら会社にそう言おう。



「………………。」
「………………。」
「……い、一緒……に……。」
「ん?」
「お姉ちゃん…と、お、同じ所……、に…、……立つ事、は……。できない……の?」
「…………。」


 自分も思った事がある疑問。だから、一応の答えはある。けど――――――。


「……一応。できることは、できる。」
「っ!! そ、そう……な…の?」
「ああ…。ただ、自分の考えだから、『それが正しい。』て言うことができない。もしかしたら間違ってるかもしれない。」
「そ、それでも! い、いい……から…。お、教え……て…。」
「…わかった。」


 一度、息を吸う。自分の考えを誰かに聞いてもらうのは久しぶりだ。


「……。気にしないこと。もしくは、『姉と同じ道をたどらない』事だ。」
「……え…?」

 驚きの声を上げる彼女。まぁ、そうだよな。

「け、けど。…そ、それじゃ……、同じ所…に、立てな…い、…ん…じゃ……?」
「ああ、多分。」
「じゃ、じゃあ…!」






「そのかわり、比較されなくなる。」






「……っ!」
「比較されなければ、どっちが上とかいうのを考える必要がなくなる。
「……。」
「実際。どんなに天才だろうと『万能』じゃないんだ。いつか同じ場所に立てる日もくるさ。」
「…………。」

 そして沈黙。結局、何もできなかったか。

「じゃあ、自分は寮に戻るから。親父にはうまくいっとくよ。」
「え…? な、何…で?」
「ん? そりゃまぁ、一人でIS開発したいんだろ? さっきの話をしたうえで、俺にはそれを止めることはできないよ。」

 そしてISを待機状態にして入口へと向かう。

「ま、待って……!」
「うん?」

何だ?もう俺は何も言うことは無いぞ?

「あ、あの。……て、手伝ってくれる……、の……?」
「何が?」
「だ、だから…。打鉄弐式……の、実用化…。」

 てことは。

「…、いいのか?」
「う、うん! お願い……します。」
「いや、こちらこそよろしく。」

 そう言って、握手をする。そういえば―――。


「そういえば、名前。なんていうの?」
「あ…、」

 ボッ!と顔を真っ赤にする。自分の名前を言ってなかったのが恥ずかしいようだ。


 そして、顔を真っ赤にして、少し上目使いになりながらも、彼女ははっきりと言った。
 


「え、えと………簪(かんざし)。……更識(さらしき)…簪!」


あとがき

本来なら一夏ヒロインズには手を出さないはずだったんですが、…どうしてこうなった。

一応、ある程度の量ができたのでこれからその他版に上げることにします。

それでは次回もお楽しみください。



[27261] 5th Line  ~開発開始ー。~
Name: 葛原◆149a6ad8 ID:19660a23
Date: 2011/04/27 23:59

「へー。じゃあ、一組は一夏がクラス代表になったのか。」

 翌日、昼休み。一夏と篠ノ之に誘われた学食でのことだ。
 昨日の対決は、一組のクラス代表を決めるためのもの。そして、一夏はそれに負けた。そのため、クラス代表は別の人がやることになった……のだが、

「ええ、わたくしがクラス代表を譲ることにしましたの。クラス代表ともなれば実戦には事欠きませんので。」

 朝のSHRでいきなり対戦相手がクラス代表を降りて一夏を推薦したらしい。ちなみにその人は自分の目の前で昼食を一緒にしている。
 髪は金髪で、それを軽くロールしている。いかにも高貴ですといったオーラを発しており、欧州特有の透き通った蒼色の瞳が特徴的だ。

「ふーん。で、アンタがブルー・ティアーズのパイロットか。」
「ええ、わたくし、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットともうしますの。ご存じありませんでした?」
「ん? ああ、すまん。自分、メカのほうに興味が行くからパイロットはあまり見て無いんだ。自分は倉持五月。よろしく。」
「まぁ、そういうことなら…。よろしくお願いしますわ。」


 軽く挨拶。自己紹介はきっちりと。


 そして、今の状況に異議を唱える人が一人。

「……で、なぜお前がここにいるのだ?」

 篠ノ之がそう言ってセシリアを睨みつけてくる。
 おおう、視線に物理的な力があったらおそらく鉄板くらいは軽く貫通するだろう眼力で睨みつけてますよこの人。

「あら、わたくしが同席しては何か悪いことでも?」
「……ああ、悪いな。これから一夏とクラス対抗戦についての特訓メニューを決めようと思っているのだからな。部外者は―――。」
「でしたら、わたくしにも一声かけていただければよろしいのではなくて? 何せわたくし、専用機持ちですもの。」

 そしてお互いににらみ合う。なにやらバチバチと火花が見えるのは気のせいではないだろう。おい、一夏。何とかしろ。おまえのせいだろ。

「そ、そういえばイツキ。お前も専用機与えられたんだよな。」

 ぎゃー。こっちに話題を振るな。

「あ、ああ。といっても、中身はボロボロ。一から作ることになりそうだから、来週のクラス対抗戦には『打鉄』借りて出ることになるだろうな。まったく、15歳にIS実用化しろって…、うちの親は何考えているんだろうか。」

 そう言って、自分の首に付けられた首輪を叩く。これはISの待機状態といい、ISが格納された状態といえる。
ISは一度フィッティングしたら、ずっと操縦者の体に張り付くため、アクセサリーの形状で携帯できるよう、こういった機能が付いているのだ。

「あら? ということは、あなたの実家はあの、倉持技研ですの? それと、支給されたISがボロボロってどういうことですの?」

 とりあえず、興味がこちらに向いたらしい。セシリアがこちらの話題に食いついてくる。

「ん? ああ。その通り。んで、他のISが都合つかなくて倉庫から引っ張り出したらしい。」
「あ、ISを倉庫で放置していましたの!?」

 ガタタッ!と椅子を倒しながらそう聞くセシリア。
 それに対して一夏が何かまずいのかとでも言うように聞いてきた。

「ん?何かまずいのか?」
「いえ、そうではなくてですね。…以前、授業でISは世界に467機しか無いのは聞きましたわよね?」
「おう。しっかり覚えている。」
「つまり、そういうことですの。」
「……どういうことだ?」
「ですから! ISは世界に467機しかありませんの! つまり、そのうちの貴重な一つを放置していたということですのよ!?」
「………。おお! なるほど!」

 納得したのか。一夏。
 というか。いかん、このままでは変な誤解を受けそうだ。

「あのー、セシリアさん?」
「まったく、信じられませんわ! ISを放置するだなんて…。」
「おーい。セシリアー。」
「…なんですの?」
「多分、アンタ勘違いしてる。」
「……え?」

 呆けた顔をするセシリア。とりあえず、構わずに続ける。

「確かに倉庫に放置されてたけど、開発凍結機だからコアは抜き取ってあるよ?」
「………あ。」
「だからまぁ、ISコアはちゃんと使われてるよ?」
「こ、これは失礼しましたわ! わたくしとしたことが取り乱してしまいました。」

 そう言って謝ってくる。うん。ちゃんと謝れるのはいいことです。

「じゃあ、イツキのISコアはどこから持ってきたんだ?」
「コア解析用のやつをブチ込んだらしい。そのあたりはよくわからん。」

 「ごちそうさん。」そう言って、空になったトレイを持ちあげると席を立つ。

「というわけで。一夏、お前の特訓には付き合えそうにない。篠ノ之さんかセシリアさんに教えてもらえ。」
「!」
「…!」
「え?あ、ああ。」
「んじゃ。自分、そろそろ行くわ。」
「一夏さん?よろしければわたくしが特訓につきあってもよろしくてよ?」
「一夏!私と特訓するのだろう?」
「え?あ、あの? ち、ちょっと!?」
「一夏!!」
「一夏さん!!」


 火に油を注いで。食堂を出る。





 リア充め。


 ちくしょー。






――――――――――――




 昼食後の授業時間。

「つまり、ISには自己進化と同じように、自己修復能力もあるということになる。まるで生物だな。」

 現在、自分は教壇の上で黒板に必要な事を書いている。

「装甲が吹き飛ばされたり、パーツが損傷したりしたくらいなら勝手に修復してくれるわけだ。これのおかげでISの整備性は大幅に改善された。」

 それを他のクラスメイトがノートに写していく。

「ただまあ、人の指が欠損したりすると二度と生えないように。完全にパーツが破壊されたり、ISそのものが大破したりするとさすがに修復しきれなくなる。」

 カリカリカリカリカリ。

「そこで―――――、」
「…………。」

 カリカリカリカリカリ。

「……あの、先生。」

 現状に耐えきれずに、思わず先生にたずねる。

「ん?何?」
「何って……。」

 たずねたいのはこっちです。

「どうして自分がこの授業を教えることになってるんですか?」

 そう、この授業が始まってから、ずっと自分がこの授業を行っている。どうして?

「だって、整備や数学の事に関しちゃ倉持君のほうが頭いいんだもん。」
「どういう基準で決めてるんですか!!」
「先週やったテストの結果。あれって大学レベルの問題なんだけど。倉持君、理系に関して言えばすごいね。先生感動しちゃった。」
「そんな問題を解かせないでください!!」
『いや、解ける方がおかしいから。』

 おおう、皆から総ツッコミをされてしまった。

「だからって、生徒を教壇に立たせますか?普通!?」
「そこはほら、生徒に合った授業方法をとっているわけだから。」
「それにクラスの皆を巻き込まないでください。」
「えー。けど、みんなちゃんと理解してるみたいだよ?」

 ねー。と皆にたずねる村上先生。ハーイ! と答えるクラス一同。こいつら。

「理論的でわかりやすいし。」
「男の人に教えてもらうのって、なんか新鮮だし。」
「他のクラスに自慢にできるし。」

 口々にそういうクラスメイト。

「というわけで、早く続き続き。大丈夫。ちゃんとフォローしてあげるから。」
「……まったく。じゃあ、今までで何かわからないところがあった人。」


 ザッ! 29名クラスメイト全員挙手。



「やっぱり全員わかってないんじゃないか!」
「あ、ゴメーン。ただ背伸びしただけだから。」
『そうそう。ごめんごめーん。』

 そう言って手をおろすクラスメイト一同。


 一体、何なんだってんだ。


――――――――――――――――――――――


 そして放課後。第三アリーナに隣接する第三整備室前。
 現在は昨日知り合った少女こと更識 簪さんのISの完成度を見ようと思っていた。
 ……のだけれど。


「連絡先聞くの忘れた…………。」


 昨日はあれからすぐに解散となって、その際に連絡先を聞きそびれてしまったのだ。

「どうしよう、今から教室に行ってもいるわけないし――。」

 他の整備室や開発室も見て回るか?ああもう、真っ先に四組に行っときゃよかった。

「んー。」
「あ、あの……。」
「ん?」


 後ろから声をかけられた。
 振り返ると、更識さんがそこにいた。


「あ、更識さん。よかった。連絡先を聞きそびれたからどうしようかと思ってたよ。」
「私…も…、聞きそびれた……から……。こ、ここなら…、居るかもしれない………って…。………あ、あのっ!こ……これ……。」

 そういって、更識さんが紙切れを渡してくる。

「これって、連絡先?」
「そ、そう…。わ、忘れない……ように。」
「あ、それもそうだな。ちょっと待っててくれ。」

 そういって、手早くケータイにアドレスを入力するとそのアドレスに向かって送信する。

「そっちに届いた?」
「う、うん。……届いてる…………。」
「よし、それじゃあ、作業しますか。」
「う…、うん!よ、よろしく……。」
「ん、よろし…。」
「おおー。かんちゃんが男の人と仲良くしてる~。」

 く、と言おうとして女子にさえぎられた。
 声のした方を見ると、……ちっこい。平均からしてもかなり小さい女子がこちらにぺた、ぺた、とやってくる。……遅っ。

「ほ、本音……!?」
「えへへ、お手伝いにきたよ~。」

 どうやら、更識さんの知り合いらしい。
 そう言って、整備室に入ろうとする本音さん。

「て、コラ待て。」
「ん~?」

 それを首根っこをつかんで引き留める。
 そして、彼女の余りまくって垂れている袖を指さした。

「袖が垂れてる。回転機械とかあるから危ないぞ。」
「ん~。」

 眠そうに眼をこすりながらこちらを見る本音。

「おりむ~?」
「誰だそれは。」
「えー。おりむーを知らないの~?学園唯一の男子学生だよ~?けどー、あれー?おりむーじゃない~?」
「ああ、織斑か。悪いが自分は三組の…。」
「おおー。男子のかっこうしてるのかー。すごいねー。」
「俺は男だっての!ていうか、人の話を聞け!」
「ねむねむ…。なに~?」
「……もういい。とにかく、袖はちゃんとしてくれ。」

 はーい。と言って相変わらずのぺた、ぺた、といった遅さでどこかへと向かう本音。着替えに行ったのだろうか。何だ?彼女は。疲れる…。
 とりあえず、現状を説明できる人に聞くことにした。

「えーと……。更識さん。あの人、誰?」
「え、えと…。布仏(のほとけ)、本音(ほんね)…。私、の…、幼なじみ……。」
「なるほど。」

 会話しながら、整備室の中に入っていく。布仏さん?あの足じゃいつ戻ってくるかわからないから先にやっときます。

「それじゃあ、そろそろ始めますか。」
「う、うん…。」

 そううなずくと、右手を軽く突き出す。その中指に、クリスタルの指輪がはめられていた。

「おいで………。『打鉄弐式』……。」

 ぱぁっ、と更識さんの体が光に包まれてISが展開される。どうやらあの指輪がISの待機状態らしい。

「ふむ、基礎はできているみたいだね。」
「うん…。ただ……、それ以外が……、まだ……。」
「なるほど。じゃあ、まずは未完成部分の洗い出しか。自分はハードのほう見てみるから更識さんはソフトのチェックお願いしていい?」
「わ、わかっ…た。」


 そしてしばらく、二人でISをいじることになった。


――――――――――――――――――――――――――――――


「ふむ。機体自体はある程度完成してるのか?」

 打鉄弐式のハードウェア部分をデータ部分からもざっと確認してみて、そう自分は思った。

 さすがに新規開発の機体だけあって、ブースターや補助動力のみならず、装甲や内部火器、センサー群に至るまでの各パーツ自体にはそれほど重大な欠陥は見当たらなかった
 しかし、各パーツのバランスがメチャクチャで、いかにも「急いで組んで仕上げました(キリッ!)。」といった具合だ。このままでは飛ぶことすらままならない。
 細かいところは見ていないが、多分追加でパーツを装備することになるだろう。

「まあ、新しく部品作らないとやばそうだけど…。思ったより大丈夫そうだ。更識さん、そっちのほうはどんな感じ?」


 そういって、更識さんのほうを見る。











 そこには妖精さんがいた。











 椅子に座った状態で、空間投影ディスプレイを開いている。それはいい。
 ただ、入力機器の数が半端なかった。

 指を挟むようにして二枚。それが両手両足に計八枚。
 そう、八枚のキーボードを展開して同時に操作しているのだ。
 発光しているキーボードが両手両足を包み込んでおり、それが先ほど思ったようにファンタジーの世界の妖精と彷彿とさせる。


「ん…、見たほうが……早い……。…………どうしたの?」

現在進行形でキーボードを打つ更識さん。うん、まずは正座。そして礼。


「すみませんでした。」
「え、ええ!?」


 初めて大きな声をあげる更識さん。まあ、そうだろう。
 何せ、地に手とひざと頭をつけて謝る。いわゆる、土下座という姿勢で謝っているのだから。


「え?あ、あの…。ど、どうし……て?」
「いや、自分、ガキの頃からIS触ってきてたからさ。ちょっと、更識さんのこと使えるかどうかって思ってたんだよ。だからごめん。」


 そういって再び土下座する自分。
 当然、今の状態に困惑するのは彼女である。

「け、けど…。それ……普通……。私…、何…も……できない…から。」
「いや、キーボードを八枚展開して同時操作するなんてうちのラボにもいないから。」

 そういってガバリと身を起こす自分。

「それが普通だとか言われたら自分泣くよ?割と本気で。」
「ご、ごめん…。けど、く……、倉持くん……の…、デバイス…も……普通…じゃ、無い…けど。」

 そう言われて自分の左腕を見る。そこには自分の入力機器が展開していた。
 手のひらに一枚。そして、手首、肘、肩の部分にリング状のキーボードが展開している。

「ん?ああ。電算と片手操作に特化してあるから。肘や肩も使って打てるようにしてあるな。…て、そうじゃなくて。」

 そして更識さんの入力機器を指さす。

「自分が言いたいのはそうじゃなくて、それだけの情報を一気に処理できるのがスゴイッて言ってるの。」
「そ、そうな……の?」
「ああ、それは更識さんの才能なんじゃないの?」
「才能……。」

 そうつぶやく彼女。何やら顔がうっすらと赤くなっている。
 そういえば、ソフトは見たほうが早いって言ってたな。

「んで、ソフトのほうはどんな感じ?」

 そう言って、更識さんの後ろからディスプレイを覗き込む。

「!!?」
「えーっと、やっぱり打鉄の流用か。」
「え、えと……。」
「さーて。ど、う、ち、が、う、の、か、な。……ん?これって…。」
「あ、……あの!」
「ん?」

 どうした?顔を真っ赤にして。

「ち、近い……。ちょっと…、は、離れて…。」
「ああ、悪い。」

 すぐに離れる。

「あ……。」
「ん?どうした?」
「な、なんでもない!」

 なんか聞こえたが、どうしたというんだろうか。
 まぁ、それは置いといて。

「なあ、ソフトって…。」
「うん…。」

 こくんと頷く更識さん。てことはやっぱり。

「やっぱり、打鉄のソフトそのものかよ…。」



 完成は遠そうだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「じゃあ、今日はこのくらいにしとこうかな。」

 そう言って、パタンとアーマーを閉じた。既に時計は日が暮れていることを教えている。

「え…?もう……、いいの……?」
「ああ、そろそろいい時間だし、見つかった問題点をまとめないといけないし。」
「あ、そ…、そう……。」

 そう言って、ISを待機状態にする更識さん。

「じゃあ、更識さんは先に帰っててよ。自分は使った機材返しに行くから遅くなるし。」

 これから自分の分のISも診ないといけないので。

「え…?け、けど……、倉持くん………の…、IS…は…?」
「……、自分のISは大丈夫だから。」
「……うそつき。」
「う…。」

 顔をむすっとさせて睨みつけてくる更識さん。
 やばい、速攻でばれていらっしゃる。

「昨日…、見たとき…。IS……ボロボロだった…から…。」
「…だからって、更識さんに手伝ってもらうわけにもいかないって。自分のIS完成させるので手いっぱいだろ?」
「それは…、あなたも……一緒…。」
「ぎくっ。」
「……だめ…?」

 そう言われても、そもそも一人で何とかするつもりだったのでどうすればいいかわかりません。

「だからって、もともと一人で何とかするつもりだったし…。」
「……。」
「それに、遅くまで女子に手伝わせるわけにもいかないし……。」
「…………も………。」
「それに、こういった事は男がやるべき事だし………て、どうした?」

 何か、更識さんがつぶやいた気がしたが…。

「私…も…、あなたの……IS……手伝っちゃ…………だめ……?」
「…………。」
「私…じゃ……。役に……立たない……の……?」




 先ほどとはうって変わって悲しそうな顔をしてくる更識さん。
 これは……。





「…………卑怯だよ…。」
「…え……?」
「その顔は、卑怯だよ。そんな顔されたら断るに断れん。」
「じ、じゃあ……。」
「まあ、更識さんが手伝ってくれるならソフト方面は任せられるだろうし…。」
「あ、ありがとう……。」
「礼言うのはこっちだって。手伝ってくれるならかなりはかどるし。」

 そう言いながら、機器類を手早くまとめる自分。

「じゃあ、機材直してくるから、少し待っててくれる?」
「……え…?修理…、しない…の…?」
「ああ、今日はもうしない。明日からちゃんと時間とるから、今日はもう終わり。」
「あ…、う、うん。わ、わかった…。」


 そして、しばらくして寮へと戻る自分と更識さん。

 はて、何か忘れているような……。

―――――――――――――――――――――――――――――――

「あ、かんちゃんだー。」

 ……こいつだ。布仏本音。

「…、手伝いはどうしたんだ?」
「かんちゃんが男の人と仲良くしてたのでそっとしておくことにしたのですー。」
「ほ、本音……!?」

 布仏と更識さんがバタバタしてる。ちなみにさっきの会話は食堂内がオーと一同盛り上がっていたのでこの三人にしか聞こえなかったらしい。
 現在は食堂。壁には『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書かれた紙がかけてある。
 どうりで夕食時間ぎりぎりなのに人が大勢いるはずだ。

「でー。あなたは誰なのー?」
「……。三組の倉持五月だ。」

 いろいろとツッコミそうになったがこらえる。疲れるだけです。

「そーなのー。私は布仏本音ー。」
「知ってる。」
「ええ~!? 何で知ってるのー?ストーカー?」
「……、わかってて言ってるだろ。」
「てひひ、バレた?」

 …ホント。疲れる。

「あら?そこにいるのは倉持君じゃなーい。どうしたのー?」
「遅いですけど夕食を取りに…。ていうか、黛先輩。どうしてここに?」

 カウンターで食事を受け取っているときに話しかけてきたのは二年の黛薫子(まゆずみ かおるこ)先輩。ここは一年の食堂なのですが、なぜここに?

「あれ?言ってなかったっけ?私、新聞部の副部長やってるの。今日は織斑君のスクープ撮りにきたんだけれど。あ、ちょうどいいから何かコメント頂戴。」

 そう言ってボイスレコーダーを向けてくる黛先輩。

「えー。…じゃあ、『一夏の機体は攻撃特化でピーキー。だけど潜在能力は既存のISを越える可能性を持っている。』でいいですか?」
「んー。まあいいわ。あ、箒ちゃんにもインタビューとってこよー。」

じゃね。と言い残して去っていく黛先輩。元気だなあ。

「……さっきの先輩……。」

席に着くと聞いてくる更識さん。いつの間には布仏は消えている。

「…ん?」
「仲……、いいの……?」
「んー。まあ、IS届くまで整備室で一緒に整備させてもらったしなー。」

 そういってとんかつ定食を一口。うん。うまい。

「大丈夫…、大丈夫……。これから挽回できる……。」

 更識さんが何やらつぶやいているが。まあ、気にしなくてもいいだろう。




 自分は夕食を終えてさっさと自室に戻ったが、一夏が帰ってきたのは10時を過ぎての事だった。








あとがき

 順調に文量が長くなっているようです。そのうち長すぎるって怒られないかビクビクしています。

 さて、鈴回は飛ばそうかどうしようか…。けど、あのネタが欲しいしなぁ…。

 それではまた次回もよろしくお願いします。

 PS:言い忘れていましたが、主人公が本格的にIS戦闘を行うのはだいたい学年別トーナメントの時です。長い。どうしてこうなった。






[27261] 6th Line ~第一世代~
Name: 葛原◆149a6ad8 ID:19660a23
Date: 2011/04/30 22:32


「皐月ちゃん、おっは~。ねえ、二組の転校生の話って知ってる?」

 隣のクラスの話まで知ってるなんて、女子はホントに話題好きだよな。
 朝、教室に入るなりクラスメイトに話しかけられた。皐月ちゃんというのは自分のあだ名だ。旧暦五月を皐月と呼ぶから…らしい。


「そのあだ名はやめて……。ていうか、この時期に転校生?」


 自分が入学してまだ一週間しかたっていない。しかも、IS学園の転入条件はかなり厳しい。試験はもちろん、国の推薦も無いと許可が下りない。国の推薦が必要ということは、国の代表であるともいえ…。

「うん。中国の代表候補生なんだってさ。」
「…てことは専用機持ちか。えーと、中国の機体は一体何だったかな。」

 そう言って物理ディスプレイを開いてネットに接続する自分。

「思ったんだけどさ、倉持くん。どうして空間投影ディスプレイじゃなくて物理式の使ってるの?」

 ネットで中国の機体について検索していると、別のクラスメイトから声をかけられた。
 ちなみに、物理ディスプレイといっても昨今の技術革新のおかげで、ぺらっぺらの紙状になっており。コンピューターに至っては筆箱クラスにまで小型化されている。すごいぞ科学。

「ん?ああ、空間投影はなあ…。透けるから嫌いなんだよな。移動中とかディスプレイの向こうの景色が動いて見にくくなったりするのがね…。こっちならそういうの関係ないし、割と頑丈だし。……空間投影は必要な時くらいしか使わないかな。」
「なーんだ。見られて困るものでもあるのかと思ってたのに…。」
「見られて困るって…。一体何を想像していたのかな君は?」

 そういうと、「あはははは、またまたぁ。」とごまかすクラスメイト。まったく…。

「そういえばさ、来週ってクラス対抗戦でしょ?ていうことは専用機持ちが三人も出ることになるんじゃないの?」

 クラス対抗戦は前に聞いた通り、クラス代表者同士でのリーグマッチだ。本格的にIS学習を行う前に、最初の時点での実力指標を作るためにするとのこと。
 さらには、クラス単位の交流やクラス団結も目的にあるらしい。そのため、一位クラスには報償として学食デザートの半年フリーパスが配布される。女子の甘いものに対する執念ってすげえ。

「じゃあ、フリーパスは無理かぁ。」
「だよねえ、さすがに専用機持ちには勝てないだろうしねえ…。」
「無理しないでいいからね。皐月ちゃん。」

 ちなみに自分は三組のクラス代表である。

「だから皐月ちゃんはやめてって…。まあ、逃げ回ってタイムアウトまで粘ってみるよ。…と、出た。」

 やっと中国の代表候補生の情報が出てきた。

「代表候補生 鳳 鈴音(ファン リンイン)。搭乗ISは『甲龍』(こうりゅう)…いや、シェンロンか?……ま、いいか。格闘と射撃の近接複合型で、えーと…。」
「どっちにしても専用機持ちは強いから意味無いじゃない。」
「そうそう、ISについての訓練も特別に受けてるし、勝てるわけないよ。」

 そう口々につぶやくクラスメイト。代表候補生は入学時点で一般生徒とはスタートラインが違うのだ。

「まあ、自分のISもボロボロで対抗戦には打鉄で出ることになりそうだしなー。」

『……え?』

「4組の専用機も未完成になるから、実質二人…。」
「ね、ねえ、倉持くん。」
「うん?」

 クラスメイトの一人が話しかけてきた。
 先ほどまで騒いでたのに、今はうって変わって静かにしている。どうした皆。

「自分のISって、どういうこと?」
「あれ?聞いてない? 何か自分にも専用機回されたらしいよ?データ収集が目的だって…どうした?みんな?」

 みんな固まってる。何かまずいことでも言ったかなあ。

『や…』

「ん?」

『やったああああああああ!』」

 入学初日にくらったものと同じ音波攻撃が発動した。

「くおおお!?」
「キタ! 専用機持ちキタ! これでかつる!」
「優勝も夢じゃない!」
「フリーパスが手に入る!」

 自分をほっておいて女子たちの話題は一気に加速する

 きーんこーんかーんこーん。

「おはよー。今日も元気ねぇ、あなた達。」

 チャイムが鳴り、村上先生が入ってくる。しかし、クラスメイトは、黙るどころかさらにヒートアップした。

「せ、先生! 倉持くんが専用機持ちって、本当ですか!?」
「え、あ、あー。そうよ。言ってなかったっけ?」
『聞いてません!』
「ありゃ?…あ、そうか。だから織斑先生あんなに怒っていたのかー。てわけで、倉持くん。あなたにも専用機回されることになったから。」

「先生。それ、もっと早く言ってください。」

 さすがに2回目とあってか早く回復した自分。しかし、回復した後に待っていたのは女子からの言葉の奔流だった。

「倉持くん、がんばって!」
「勝たないと薄い本出すからね!」
「皐月ちゃんが勝たなきゃ一体誰がフリーパスを手に入れるっていうの!?」
「いや、だからって自分のISまだ使えないし…。」
『勝 つ の !!』

 そして3回目の音波攻撃。

(耳栓でも買おうかな。)

 割と本気で、そう思っていた。
  


――――――――――――――――――――――――――――――――


「へえ、てことは今日来た転校生って一夏の幼なじみだった訳か。」
「うん、なんかね~、中学の時に中国にかえってやってきて一年ぶりなんだって~。」


 昨日と同じく、第三アリーナの整備室。打鉄弐式の問題点洗い出しが終わったので、現在は探羅の損傷具合をパーツ毎に確認しているところだ。

「おりむーは女ったらしだと思いまーす。」
「うむ。それには同感。」

 ちなみに先ほどから話をしているのは布仏本音。何か、家は代々更識家に仕えていて、こいつはその更識家の更識簪さんの専属メイドらしい。本場のメイドって現存したんだ。

「そういえば、更識さんもクラス代表だったんだよな。」

 そう言って、探羅の基本装備の状態をチェックしていた更識さんに声をかける。
 今日の朝、クラス対抗戦に4組の代表候補生も出ると聞いた。つまり、更識さんもクラス代表ということになる。

「う…うん……。勝手に…決まってた……。」

 そうつぶやく更識さん。まあ、自分から進んでやりたいとは思わないよな、普通。

「てことは、クラス対抗戦じゃ敵同士か。」
「え…?で…、出る…の……?」
「ん?そりゃもちろん。」
「け…、けど…。IS…実用化……、できて……無い…けど……。」
「んー。まぁ、そこは打鉄借りて出るしかないんじゃない?無いものは仕方ないさ。」
「そ、そう……。」

 その言葉を最後に静かになる。ちなみに、今日の整備室内は自分達の他にも、二年から編成される整備科の生徒達が騒いでいたりする。

「そういえばさー、いつきんのISって変わってるよね~。」

 会話を再開させたのは布仏。いつきんて自分のことだろうか。

「まあ、変わってるって言うか、第一世代初期に作られた機体だからなぁ。それからの第二世代開発にあたってこいつの後継機が淘汰されたわけだし…。」
「え……?これ…第一世代……なの……?」

 そう聞いてくる更識さん。まあ、驚くのも無理はない。




 ISは現在第三世代までが開発されている。
 まず、『ISの完成』を目的とした第一世代。次に、『後付武装による多様化』を計ったのが第二世代。そして、『操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実現。』を目的に開発された第三世代。これは、搭乗者の思考やイメージをそのまま兵器に使う。わかりやすい例でいえば、独立して機動、攻撃を行うビットが一般的だろうか。これに搭乗者の思考を追加することで、全自動では不可能な複雑な機動や回避ができるようになる。

 つまり、ISは現在、第二世代の研究開発は終盤にさしかかり、第三世代機が実用化、量産化されている段階にある。第一世代機は既に博物館で飾られているレベルの代物だった。




「だからこういったへんちくりんな仕様になっているわけ。」
「おお~。だからシールドエネルギーの出力が弱かったりブースターが旧式だったりしたのかー。なるほどなるほどー。」

 そう言って頷く布仏。いや、あんた自分のIS触ってないでしょ。
 ちなみに布仏は打鉄弐式のほうが終わった途端に休んでいたりする。手伝えって頼んでないけど、仕え主が働いてるのにそれはどうかと思うのだが。

「ああ、だから重要パーツ群以外は総入れ替えになる。まあ、とりあえずはPIC(受動式慣性除去装置)とシールドエネルギーの出力上昇。基礎のレストアをしないと開発どころじゃないからそこまではトーナメントまでに仕上げたいね。」

 これをしないとISのレギュレーションに違反して、この状態で動かすと罰則を受ける。それ以前に危険なのだが。

 はぁ。とため息が漏れる。ああ、ホント。親父や姉ちゃんは一体何で自分にこれを渡したんだろうか…。


「あら、どうしたの倉持くん。何?ISの整備で何か問題があった?」
「黛先輩。こんにちは。」

 そんなことを考えていると二年整備科の黛先輩が向こうからやってきた。どうして知ってるか?入学してから探羅が届くまでの一週間、整備室にこもってたら仲良くなってました。

「いえ、実はですね、自分のISと更識さんのISがまだ未完成でそれを実用レベルにまで引き上げないといけないんですよ。」
「へー、大変そうね。手伝おうか?」
「え、いいんですか!?」

 その申し出に素直に喜ぶ自分。人手が増えるのと、整備科の人に手伝ってもらえるのは安全の面でもかなり助かる。

「あ、けど、更識さんはそれでいい?来月のトーナメントには実用化させたいし。」
「う、うん……。それで…いい……。」

 その言葉に素直にうなずく更識さん。
 一人で作りたいって言っていたから、断るかと思っていたけど、…あ、自分が手伝ってる時点で無理か。

「じゃあ、ホントにいいんですか?」
「ええ、独占インタビュー……。いいえ、噂の女装写真で手を打ってあげるわ。」
「うああ、ま、マジですか…。……仕方ないですね。」

 二つのISを完成させるにあたり、この程度の報酬なら安いものだ。

「よし!決まり!じゃあ、他の娘にも声掛けておくから!」
「わかりました。でしたら自分の方もスケジュール組んどきますんで。」

 そう言って整備室を出ていく黛先輩。既に時計もいい時間を指している。

「なあ、更識さん。」
「な、何…?」


 いきなり名前を呼ばれてびっくりする更識さん。いや、そこまでびっくりしないで。

「多分、明日から遅くなると思うけど、大丈夫?」
 
 明日から本格的にISの開発が始まる。夜遅くまでなることもざらにあるから大丈夫だろうか。


「あ、う…うん。大丈夫……。」

 大丈夫らしい。

「じゃあ、今日もそろそろ上がりますか。」

 そう言って自分はパタンとアーマーを閉じた。


―――――――――――――――――――――――――――――


 コンコンッ。

「ん?」

 寮の部屋、時刻は7時と半分を過ぎたあたり。夕食もシャワーも既に終わってくつろぐモードになっている一夏がお茶を入れていると、ドアがノックされた。

「やっほー。遊びに来たわよ。」

 入ってきたのは鈴だった。ていうか、ノックしたならあけるまで待っててくれ。

「いいじゃない。どうせ一人なんだし。」
「そりゃそうだけど…。あ、お茶飲むか?」
「ん、ありがと。ていうか、あんたって相変わらずジジくさいわね。」
「うっせーよ。」

 そう言いつつ簡易キッチンに移動して電気ケトルに水を注ぐ。しばらくしたら急須に注いで持っていけばいい。
 お湯が沸くまでの間、しばらく沈黙が続く。


「…………ね、ねえ。」

 沈黙を破ったのは鈴だった。

「約束って、覚えてる?」

 いきなり、過去の約束を思い出せと言われた。えーと約束約束…あ。

「えーと、あれか?鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を―――」
「そ、そう!それ!」
「おごってくれるってやつか?」
「…………はい?」
「いやぁ、案外昔の事って覚えているもんだな。俺は自分の記憶力に感心――。」

 パァン!
 いきなり頬をひっぱたかれた。いきなりの事で訳がわからない。
 ゆっくりと鈴のほうを見てみると、怒髪天を突くと言うように、明らかに怒った顔をしていた。

「あんたねえ!女の子と約束したことも覚えてないの!?」
「昔の約束なんてそんなはっきり覚えているか!馬鹿!」
「馬鹿とは何よ馬鹿とは――――――。」

 先ほどまで騒いでいた鈴がふと怒鳴るのをやめた。何やら視線の先にもっと重要なものがあるらしい。俺もつられてそちらの方を向く。
 そして見た。見てしまった。鈴がイツキの“化粧道具が置かれた勉強机兼用のドレッサー”を見ていることに。

 えーと、一度整理してみよう。

 鈴がイツキの化粧道具を見ている。
    ↓
 化粧道具を男子は普通使わない。
    ↓
 鈴はイツキを知らない。
    ↓
 女子と相部屋と勘違いするかもしれない。イマココ。

 ま、まずい!

「…へぇー。」
「お、おい、鈴?何かお前勘違いしてないか?」
「勘違い?いったい何を勘違いしろっていうの?」

 何やら鈴の後ろから黒いオーラ―が立ち上っているのは気のせいなのだろうか。って、そんなことを考えている場合じゃない!

「だ、だからだな、相部屋の相手を何か勘違いしてないか!? 相部屋の相手は男だぞ!」
「一夏。男の人って化粧するの?」

 ぐ、言い返せない。しかし、ここであきらめたら自分がどうなるかわかったものではない。がんばれ、がんばれ俺。

「その例外がいたんだ。」
「ふーん。けどさあ一夏、忘れてる?ISって女子にしか扱えないんだよ?」

 それもそうなんだが、俺という例外がいるということを忘れていませんか?鈴さん。

(そういえば、イツキはまだニュースになってないから、世間では自分が唯一のISを使える男子ってことになってるのか。ああもう、イツキがここにいてくれれば説明が楽なのに!)

 そんなことを考えつつも、鈴は容赦なく自分を追い詰めていく。手にはいつの間にか鍛練用の俺の竹刀が握られていた。

「一夏。言い訳はもういい?」
「ま、まて!本当に同居人は男なんだって!信じてくれ、鈴!」
「問 答 無 用 。」
「人の部屋で一体なにしてる。アンタは。」

 一触即発の状態に、割り込んでくる人が一人。明らかに低い声のそれは間違いなく同居人のイツキの声であった。

「い、イツキ!助かった!おい、鈴!見てわかるだろ。こいつは男だ!」
「お、男!? うそつくんじゃないわよ!これが男なわけ無いじゃない!」

 そうだった。イツキは外見だけならそこらの女子と見分けがつかないんだった。
 どうしたものかと思っていたが、そこにイツキが割り込んできた。

「人の事指差して男じゃないと?よく見ろ!! 俺は男だ!」
「男に見えないからそう言ってるんじゃない!」

 戦場は俺をおいてイツキVS鈴へと移ったらしい。二人が激しく言い合っている。

「だったらこの声はどうする!そこらの女子より低いぞ!」
「だからってどうしてあんたが化粧品を使ってるのよ!男子が化粧品なんて使うわけないじゃない!!」
「使わねえと姉ちゃんからもっとひどいことされるんだよ! どうやったら男だって信じてくれるんだよ!?」
「そんなもの私が知るわけないでしょ!!」
「……ああもう、わかったよ。だったら脱いで証明してみせる。」

 そう言って上着に手をかけるイツキ。って。

「お、おい、イツキ!?」
「ち、ちょっと!? 何いきなり脱いでんのよ!?」
「アンタが自分のことを男だと信じてくれないから物的証拠を見せることにした。ちょっと待て。」
「待たんでいい。」

 ばしーん。
 そういってさっそうと現れたのは一年の寮長、一組の担任、そして自分の姉である千冬姉。手に持った出席簿がイツキの頭にストライクしている。

「ち、千冬さん…。」
「おい、凰。」
「は、はいっ!」
「お前は知らないだろうが、男子生徒は二人いる。わかったらさっさと部屋に戻れ。」
「は、はい。失礼しました……。一夏!許さないんだからね!」

 そう言ってさっさと退出する鈴。残されたのは俺、千冬姉、そして頭を叩かれたイツキ。

「くおおおおお……。」
「おい、倉持。」
「な、何ですか?」
「自分が女子に見られるからって、脱ぐな。いかに15歳とはいえ、犯罪になるぞ。」
「すみません。」



 素直に謝るイツキ。うん、素直に謝るのはいいことだ。

結局その後は何もする気分じゃなくなったのですぐに布団にもぐり、寝ることにした。


――――翌日、生徒玄関廊下に大きく張り出された紙があった。
内容は、『クラス対抗戦日程表』。
俺の最初の対戦相手は二組。―――鈴だった。


あとがき
 原作読んでると、再来週に対抗戦があるのに、数週間という表現が使われていたりします。あ、あれ?時系列がめちゃくちゃに…。まあいいか。


次回、IS戦闘の描写をがんばってみたいと思います。
客観視点の戦闘ってむずかしいよね。できるかな。

ちなみに、五月って名前にしたのは皐月ちゃんというネタをしたいがためだったりします。

それでは



[27261] 7th Line ~女装♪ 女装♪~
Name: 葛原◆149a6ad8 ID:19660a23
Date: 2011/05/01 20:16


試合当日、第一試合中。


 ドォンッ!

 甲龍の背面に装備された衝撃砲が一夏の白式へと襲いかかる。

 それを回避した白式だったが、回避した先には青龍刀を装備した甲龍が待ち構えており、既にその刃先は白式へと向かっている。

 ギャリイイイッ!

 それを白式の唯一の装備である刀、雪片弐型で受け止める。
 しかし、重量差で白式は吹き飛ばされ、バランスを崩したそこに甲龍の衝撃砲が撃ち込まれた。
 それをぎりぎりの所で回避するが、さらに衝撃砲と青龍刀に追い立てられている。

「防戦一方だな。」

 リアルタイムモニターを見ながら、ぽつりとそうつぶやいてしまった。
 場所は第二アリーナのAピット。第二試合が三組と四組なため、既にこちらで待機していたのだ。


「そうですわね。いくら敵が近距離型といっても、あそこまで激しく攻撃されたら回避しかできませんわ。」

 そう言ったのは隣で同じようにリアルタイムモニターを見ているセシリアだ。確かに、青龍刀の近接格闘だけならともかく、衝撃砲の近接砲撃もされては雪平弐型しか持っていない白式には回避が精いっぱいで反撃なんてできないだろう。

 先ほどから、一夏は逃げ回ってばかりでまともな反撃ができないでいる。いかに強力な武器があっても、これでは使えない。

「攻撃をあてられさえすればいいのだがな。」

 そう言ったのはセシリアと同じくピット内でモニターを見ていた篠ノ之。

「たしかに、『バリアー無効化攻撃』をあてられればそれでいいんだけど…。」

そうつぶやく自分、モニターでは一夏が追加の攻撃を受けていた。



 バリアー無効化攻撃とは、白式の装備する《雪片》の特殊能力だ。
 ISには、通常のシールドバリアーと『絶対防御』という二つの防御機構がある。物理装甲もあるが、これはその二つに比べると比重が薄いので割愛する。
シールドバリアーはSFチックなエネルギーシールドと思って構わない。攻撃を受けたら防御する。物理装甲と違い、シールドエネルギーを消費する代わりに、同じ場所にいくら攻撃を受けても変わらず防御力を維持できる。

 では、絶対防御とは何か?別にむずかしいことは無い。そのままの意味だ。

 あらゆる攻撃を確実に受け止める。これだけだが、これのおかげで操縦者が死ぬということはまずなくなった。
ただ、これにも欠点がある。
 シールドエネルギーを大量に消費するのだ。

 ISの試合はわかりやすくいうと、シールドエネルギーを0にすると勝ちというものだ。そのため、ISの絶対防御を発動させたらその分大幅にシールドエネルギーを消費させ、試合を有利に進められる。
 ただ、先にも言ったように、ISはシールドバリアーを展開し、さらには回避行動も行うため、絶対防御を発動させるというのは難しかったりする。

 そのシールドバリアーを無視して絶対防御を発動させるのがバリアー無効化攻撃だ。
 その為、あたりさえすればシールドエネルギーを大量に消費させることができる。

 ただし、これにも欠陥がある。
 ひとつは、バリアー無効化攻撃を行うには大量のエネルギーが必要になり、自身のシールドエネルギーを消費するということ。

「どんなに強力でも、あれしか装備がなかったら難しいよな。」

 そして、その特殊能力がISの容量を食ってしまい、それ以外の装備が装備不可能になっているのだ。

「まあ、だからこそ一週間で代表候補生に食い下がる程度にはなったわけか。」

 射撃戦闘は自機の周りの外的要因の影響をモロに受けるため、基礎移動技能以外の訓練もしなければいけない。
 なので、ある意味。白式は一夏に合ったISといえた。


「あら、一夏さんが攻勢に出たみたいですわね。」

 そんなことを考えていると、セシリアが声を上げた。
 みると、白式が甲龍に立ち向かっている。加速姿勢に入っているのを見ると、イグニッション・ブーストを行うつもりらしい。




 ズドオオオオオオンッ!




 その時に、ピット内に大きな衝撃が走った。




衝撃でさっきまで見ていたモニターがノイズを走らせている。

「おおおおお?」
「な、何だ!?」
「一体何がおきましたの!?」

 いきなりの出来事に混乱する自分と篠ノ之とセシリア。ついでに山田先生も何が起こったのかとあわてている。

「山田先生、試合は中止だ。すぐに織斑と凰をピットに戻せ。」

 一人冷静に状況を判断して指示をしていたのはやはりというか織斑先生。この人をうろたえさせるなら一体どうすればいいのだろう。

「はい!……織斑くん!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐに―――――」

 その言葉に反応して一夏達のプライベート・チャネルに割り込む山田先生。先ほどまでのポヤポヤした雰囲気ではなく、真剣な表情をしている。が、ISのプライベート・チャネルに音声を出しているということはかなりあわてているのだろう。

「織斑先生!一体何が起きたのですか!?」

 そんな教師陣の対応の変化に追いつけず。篠ノ之が尋ねる。

「見てみろ。」

 そう言って、モニターを指さす。
ノイズが回復したそれには、先ほどと同じくアリーナの状況を映している。

 そして、三機のISがそのモニターに映し出されていた。
 そう、白式と甲龍。そして、もう一機のISが。

「な!?」

 思わず、声を上げる。むこうで、織斑先生が塩入りコーヒーを山田先生に押し付けたり、篠ノ之が通気控に潜り込んでいたりセシリアが織斑先生にISの使用許可を取ろうとして言いくるめられていたりするが、自分には関係ない。

「倉持。」
「はい。」
「あれが何か、わかるか?」

 織斑先生がそうたずねてくる。新しく乱入してきたISについてだろう。シールドエネルギーの実用化で、珍しくなった全身装甲を施したIS。

「はい。あんなISは“あり得ません”。」

 自分はそう、はっきりと言い切った。

 ISというのはスーツ…つまり、身にまとう形で運用される。なぜなら、被弾面積や稼働効率の面からみて、それが最も効率的で、それ以上の大型化が必要ないからだ。
 当然、人が乗る以上、いかに機体が大型化しようが“関節の位置は必ず決まっている”。ISが、人の胴体部分にほとんど装甲を配していないのも、これによる可動域の制限を受けないようにするのが理由だ。

 例のISは関節の間隔が極端に長い。機体そのものの巨体も加えて、中に人が入って操作するには、明らかに無理があり、つまりは無人機と考えられる。



 しかし、そんなことはあり得ない。“ISは人が乗って初めて動くのだから”。





――――――――――――――――――――――――――――――――








 イグニッション・ブースト。本来は宇宙空間での長距離航行における機能だ。
 原型は核パルスエンジンという。ロケットの後方で小型の核を連続爆破させ、その衝撃を推進力に変えるのが基本原理だ。
 イグニッション・ブーストも同じように、後方でエネルギー塊を解放。それをセイル状に展開したシールドバリアーで受け止め、急激な加速を得る。

 つまり、シールドバリアーさえ展開できれば、外部からのエネルギーを受け止めて瞬時加速を発動できる。そして、その出力はエネルギーに正比例するのだ。

「なるほど、確かにその手があったか。」

 自室で今日の戦闘記録を思い出しながら、自分はそう呟いた。
 あの後、鈴の衝撃砲の最大出力を利用して瞬時加速を行った一夏の攻撃と、ピットから飛び出したセシリアの狙撃によって、例のISは機能を停止した。
 が、その後再起動して、一夏は負傷。幸い、大きなけがもなく打撲のみだったので、今日中には部屋に戻ってくるらしい。

 ちなみに、クラス対抗戦はそのまま中止、先ほどまで生徒は全員寮に入れられて外出禁止令が出されていた。
 そして、自分達には緘口令がしかれ、誓約書にサインを書かされる羽目になった。

 当然と言えば当然だろう。ISは限られた数しかない。それがいきなり、それも所属不明の無人機らしきものが試合中に乱入してきたのだから。

 これは下手をしたら国際問題になりかねないことだ。何せ、ISは各国家が管理し、その情報を開示することが義務付けられている。そのため、所属不明ということはどこの国にも属していないといえ、つまりは新しいISコアが製造されていたということになる。本来ならISコアは一人にしか製造できないはずのISコアが新規に出てきたとしたら、そのコアの利権問題で各国家はもめるだろう。

「しかし、あのISは一体……。」

 あの時、セシリアと一夏によって機能停止したISは教師陣に運ばれ、姿を消した。それからどこに行ったのかは分からない。

 ただ、どんなに考えても廃棄処分にはされないだろう。ISコアは勿論、もし無人機ならその情報を手に入れるためにもどこかしらの研究所に入っているはずだ。


「まあ、考えても仕方ないか。今のところ、何ができるわけでもないし。」

 気分を入れ替えて、何をするか考えてみる。今日の打鉄弐式の開発はできそうにないから、ヒマだ。


 ピピピピピッピピピピピッ。


 何をするか考えていた所に、室内据え置きの電話が初めて鳴る。寮内の連絡や、呼び出しの時に使われるのだが、基本が携帯や学校にいるときに用事がすんでしまうので今まで使われていなかったのだ。
 電話に出ると、織斑先生からだった。

「倉持だな。織斑の意識が回復した。迎えに行ってやれ。」

 そういって、一方的に電話を切る織斑先生。いや、あの、自分、応答してないんですけど。


 まあ、断る理由も無いので迎えに行くことにする。しかし、ただ迎えに行ったんじゃつまらんな。



「………あ。」


 そして、例の物を見つけて、一人ニヤリと悪い笑みを浮かべた。


――――――――――――――――――――――――――

「なあ、イツキ。それは一体何の冗談だ?」

 そう一夏はイツキに言葉を投げかけた。
場所は保健室。かろうじて夕日が見える時間帯。
鈴とセシリアがいる状態での事だ

「なにが?まさかその恰好のまま外に出歩くわけじゃないだろう?」

 そう言って、手に持ったものを着せようと、イツキがにじり寄ってくる。ちなみに、俺はISスーツのままだ。

「ア、 アリーナのほうに行けば制服がちゃんとあるからそこまでいけばいいだろう?」
「今は何か立ち入り禁止になってるっぽいから無理。着替えはちゃんと持ってきたからこれ着て帰ろう。」

 そう言いながらも、じりじりと間合いを詰めてくる。

「あ、あの、倉持さん?それは一体、何ですの?」

 そう言って、セシリアがイツキの持っている“それ”を指さす。


 IS学園の女子制服だった。


「ん?おまえらが着ているIS学園の女子制服だけど?」

「いや、そうじゃなくてね。何であんたがそんなものを持っているのよ?」

 鈴からのツッコミが入る、いいぞ鈴。

「入学の際に渡されたのがこの制服だったんだよ。」
「「あ~。」」

 納得するなよ二人とも!?

「というわけで、これしか着替えがなかった。だからとりあえずこれ着て寮に行け。」
「ちょっとまて!本音は一体何だ!?」
「今日の予定狂ってヒマになったから、ヒマつぶしに。」

 うわあ、ぶっちゃけましたよ、この人。
 とにかく、このままだと女子制服を着せられる羽目になる。そこで、そこにいる二人の女子に助けを求めることにした。

「セ、セシリア!鈴!助け…。」
「唐変朴を女が助けると思うなよ。…あ、セシリアさん、凰さん。一夏に制服着せるの手伝ってくれない?」

途中でイツキにセリフをさえぎられる。唐変朴ってなんだ唐変朴って。
 そして、その言葉に顔を見合わせる女子二人。いや、助けてくれるよね?

「……そうね、一夏、さっさと着なさいよ。」
「そうですわよ一夏さん。ずっと保健室にいるのも迷惑ですし。」


 助けを求めたら、敵が二人増えました。


「大丈夫。ウィッグもあるし、どうせすぐ寮に戻るわけだしバレないって。」
「いや、だからって女子の制服を男子が着るのって…。」
「自分は入学初日に着てきたけど?」
「それは例外だ!!」

 いつの間にか両腕を鈴とセシリアにおさえられる。目の前には制服を持ったイツキ。


「じゃあ、着替えますか♪」
「い、いやだあああああ!!!」


 保健室に俺の声がこだました。

――――――――――――――――――――――――

「いやしかし、以外に似合っているな。」

そう呟いた自分。先ほど自分が着せた(ISスーツの上からかぶせた)、女子制服を着た一夏を見ての事だ。

「そうよ、以外に似合ってるじゃない。」
「そうですわよ、一夏さん。」
「…うれしくねえよ。」

 そう呟く一夏。まあ、女子制服が似合っていると言われて喜ぶ男子はいないだろう。
 まあ、例外はいるわけだけど。

「じゃあ、寮に戻るか。一夏ちゃん?」

そう言って、一夏の腕をつかんで保健室から連行する。もう片方は鈴が、後方はセシリアが固めているため、逃げることはできない。


「わ、わかったから、逃げないから手を放してくれ!」

 ばたばたと手を振って暴れる一夏。まあ、逃げても意味ないし、まあ、いいだろう。

「これで、女と間違われる自分の気持ちは分かった?」
「ああ、よくわかった…。」

 疲れた表情でそういう一夏。抵抗はやめたようだ。

「しっかし、ほんっとうに似合ってるわね。まるで若い時の千冬さんみたいじゃないの。」 
「そうですわね。織斑先生を若くしたら、こんな感じになるんじゃないでしょうか。」

 そう、凰が言う。確かに、男とは思えないほど女子制服は似合っていた。
すらりとした長身。鋭く、強い意志を持った瞳。さながら、織斑先生を若くしましたと言ってもおかしくないような出来だった。胸がないが。

そんな事を話しながら、寮に到着。結局一人もあわなかったな。

「じゃあ、さっさと部屋に戻ろう。」

そう言って、一夏はさっさと自室に戻ろうとする。自分はその腕をがっしりとつかんだ。


「おい、イツキ。今度は何だ?」
「ちょうどいい時間だし、晩飯食って行こう。」

 その言葉に青ざめる一夏。そして即座に援護をしてくる凰とセシリア。

「そうですわね。もうすぐ食堂も閉まりますし。…わたくしもご一緒しますわ。」
「そうね。行くわよ、一夏“ちゃん”?」
「や、やめてくれ…。頼むから部屋で着替えさせてくれ!」
「い、一夏……!?」

 そう騒いだのが運の尽き。新しい声が聞こえた。
 新しい声の主は廊下の向こうからやってきた篠ノ之。玄関でやいのやいのとしていた所に出くわしたらしい。

「ほ…、箒…。」
「な、なんて恰好をしている!そ、そこに直れ!」

 どこからともなく木刀を取り出して叩きつけてくる篠ノ之。いかん。このままでは一夏の女装が解かれてしまう。

「あー。ごめん。篠ノ之さん。これさ、自分のせいなんだ。」
「な、何!?」
「お、おい!イツキ!?」

 そう簡単にヒマつぶしを邪魔されてたまるかっての。

「いやさ、一夏がけがしてさ、制服アリーナのほうに置き去りになっただろ?今、あそこ立ち入り禁止になってるからさ、仕方なくこっちの制服持ってきたの。」

「そ、そうなの…か?」
「ええ、そうよ。」
「ええ、そうですわ。」

 絶妙なコンビネーションで援護を行う凰とセシリア。ナイス。

「では、まいりましょうか。」

 そう言って、セシリアがさりげなく一夏の手を取って学食へと向かう。

「ま、待て!私も行く。」
「ほ、箒!?」

 よっしゃ。一夏包囲網は完成したな。自分も食堂に行くことにしよう。



「お~、いつきんだ~。やっほ~。」
「く、倉持…くん!?」

一夏達に少し遅れてやってきた自分が食堂に入ろうとすると、出てきた更識さんとばったり出くわした。普通の、男子が着てもあまりおかしくないような蒼いパジャマを着ている。あ、いいな。自分が着ても似合いそうだ。

「あら?更識さん。…と、布仏。」

「え~、かんちゃんと扱いがちがう~。」

 そう言ってぷんすかと怒る布仏。こちらは普通とは言い難い。ダボダボの着ぐるみタイプのパジャマを着ている。サイズの合っていないナイトキャップがずり落ちて、その度に袖が余り、垂れている腕で直している。

「アンタは布仏で十分だ。…と、さっき晩飯?」
「う…うん……。」

 と、何故か顔を赤くしてこたえる更識さん。どうしたんだろうか。

「そっか、自分は今から晩飯。んじゃね。」
「うん…、じ…、じゃあ………。」
「あ、その部屋着、いいんじゃない?似合ってると思うよ。」

 去り際にそう言って食堂に入っていく。何か、ボッ!と聞こえた気がしたけど気のせいだろう。既に自分は別の事を考えていた。



 さーって、一夏でどうやって遊ぼうか。



―――――――――――――――――――――――――――――――

「あー。楽しかった。」

 そりゃ、人をいじくって遊べば楽しいだろうよ。おかげでこっちはクタクタだ。
 イツキを頂点とした箒、セシリア、鈴に食堂で散々もてあそばれた一夏は、やっと解放されてベッドの上でぐったりしている。明日はとりあえず制服を調達してこないといけない。今回のようなことにならないためにも。

「しっかし、意外ときついんだな。スカートって。」
「ああ、男にはキツいからね。股の間がスースーしたりね。」

 どうだまいったかというように、部屋着に着替えたイツキが胸を張る。パジャマ姿で、人目を気にしなくていいにも関わらず、女っぽい。

「ヒマがあったらまた着せてやろうか?」
「謹んで、辞退します。」

 もう二度とからかいません。

「そういえばさ、イツキっていつも何してんだ?」

 そう言って、イツキのほうを見る。イツキは毎晩、ネットに接続して何かしているのだ。

「ん?ああ、チャットとか、そういう感じのやつ。」
「ネットの友達と連絡取ってるってことか?」
「そういうこと…か。うん。友達とは言いにくいけど。」

 何やら事情があるらしい、このくらいでやめておこう。




コンコン。

誰かがノックしてきた。

「はい、どちらさまで……。」
「…………………」

 箒がいた。何?また何か叩きに来たの?

 ばしん。何も持てなかったらしく、手で叩かれた。いてえ。

「何か用か?」
「……………。」

 相変わらず黙ったまま。なに?ホントに叩きに来ただけ?

「…箒、用がないなら俺は寝るぞ。」
「よ、用ならある!」

 大声を出された。

「ら、来月の、学年別トーナメントだが……。わ、私が優勝したら………。」

 顔を高揚させているが、箒は構わず続ける。

「つ、付き合ってもらう!!」

 びしっと指を差された。

「おお、一番手は篠ノ之か。」


 イツキが何か言っていた。何を言っているのだろう。

とにかく。どうやら、箒が優勝したら買い物に付き合わされる羽目になるらしい。




あとがき

 何かキャラが暴発した!!



[27261] 8th Line ~情報源はイツキじゃないよ!?~
Name: 葛原◆149a6ad8 ID:19660a23
Date: 2011/05/04 20:43
 とある夕食の終わった自由時間のこと、


寮の裏、雑草も生えずにぽっかりと空いた空き地に、30名ばかりの女子がたむろしていた。



「あつまったかな?さて、それでは今回の議題について発表しようと思う。」



 そう、一人の女子が口を開く。どうやらこの娘がこの集まりのリーダーで、ちょっとした集会をしているらしい。


「じゃあ、楊ちゃん。お願い。」


そう言って、リーダー格の娘(以下議長と呼称)の横にいた、楊(ヤン)と呼ばれた娘が前に出てきた。


「じ、じゃあ、言います。」

 その言葉に、一同が息をのむ。




「今度ある学年別トーナメントで優勝すると……。」

 そこまでいって少し息を詰める楊。






「織斑君と付き合えるらしいです。」







「おおおおおおおおおお………。」

 小さく場がざわめく。ガッツポーズをする人や手帳にメモを取る人はいるが、一様に大声を出す人はいない。


「こほんっ。では楊ちゃん。その情報はどこから仕入れてきたのかな?」


軽くざわついた一同を、軽く咳払いをして議長がまとめると、楊にそう尋ねる。それに応えて、楊が口を開いた。


「クラス対抗戦があったときの夜に、ちょうど織斑君の部屋の近くを通ったんだけど、その時に……。そこで織斑君にそう言っていた女子がいたの。」
「なるほど。では、これに質問がある人。」


 楊の発言に質問を募る議長。そこにハイッ、と一名手を挙げた。

「それって、織斑くんは了承したんですか?」
「うん。はいって、確かに聞こえた。」


 本来は、「…はい?」と、疑問形の発音だったのだが、遠くからしか聞けなかったため、そのあたりのニュアンスは聞き取れなかったらしい。

 ちなみに、『織斑はその提案した女子にOKしたのでは?』という疑問はここにいる一同は考えていない。なぜなら、そんなことをしたら自分たちに希望がなくなるからだ。何の希望かは言わないでおく。


「じゃあ、倉持君は?」

 そう、一人の女子が言う。このIS学園には男子が二人しかおらず、一人にそういった条件が立てば、おのずともう一人にも関心が行くというものだ。












が、













「倉持くん?」
「七不思議の?」
「ほんとにいたの?」
「見たことないけど。」


 口々にそう言う女子一同。ニュースになった織斑一夏に比べて、倉持五月の名前はあまり知られておらず、七不思議の一つにさえされていた。



 それというのも、






1、 外見は女子そのものなので見分けがつかない。

2、 男子制服を着てはいるが、女子の制服を改造して作られており、女子の中にもズボンをはいて通学する人はいるため、結局女子と見分けがつかない。

3、 彼のいる三組では、彼のことを五月ではなく皐月と呼ぶ。

4、 彼自身が話しかけられない限りめったに言葉を発しないので、特有の低い声で男だと気付く機会が無い。

5、 男同士だからと織斑と共に行動しているかと思えば、別にそんなことはない。
 
6、 ISが使える男子だというのに、テレビでニュースになっていない。


 等々の理由で、倉持はIS学園に二人しかいない男子のうちの一人なのだが、以外にもその知名度は低かったのだ。



「ほんとにいるよ!」
「私たち三組だもん!」
「授業をしたりしてるんだよ!」


 三組や、合同実習で会ったことがある四組からそういった声が上がるが、ほかの1、2、5、6組にとっては確認していない以上信じることができないでいる。実際には確認していないのではなく、気づいていないのだが。


「はいはい。倉持君についてはそういった情報がないから対象にはしないことにします。」

 パンパンと手を叩いて騒ぎ出した面々をいさめる議長。

「では、この議題について、信憑性はあるか。結論を出したいと思います。情報を流していいと思う人。」


ザッ! 議長を含めない29名全員挙手。
実際には、信憑性云々よりも、自分に利益があるからというのが手を挙げた人の本音だろう。


「よろしい。では、集まった人たちはその情報を広めること。ただし、織斑一夏には気づかれないように。」 

 議長のその言葉を最後に、蜘蛛の子を散らすようにして解散する女子一同。


 後には、少しの残滓も残らなかった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「三番から六番までの接続を確認。ブースターの出力正常。PIC干渉無し。各システムとの親和性良好。とりあえず、これで何とかレストアは完了しましたね。」

「や、やっとおわったぁー!」

 イツキの言葉に、開発を手伝ってくれた二年整備科の女子の一人が喜びの声を上げる。すでに時計は午後の11時を過ぎていた。


 クラス対抗戦があった日から約一カ月と少しが立ち、今日やっと打鉄弐式と探羅の開発がひと段落ついたのだ。喜んで当然だろう。

 しかし、それに待ったをかける人が一人。



「ええ、これでやっとこいつを本格的に開発できます。」



「…え?」
「はい?まさかレストアだけで根を上げたわけじゃないですよね?京子先輩?」

 そう言って、ニコリと先輩に微笑むイツキ。微笑んではいるが、京子にとってその笑顔は悪魔の微笑みに見えただろう。

「ま、まさか! そんなわけないじゃない! よ、余裕よ!余裕!」

 そう言って、ドンッと自分の胸を叩く京子。その顔には大粒の汗が浮かんでいた。







 二年生の先輩たちと打鉄弐式と探羅の開発を行うことになり、簪は不安になっていた。
 自分に自信を持てないため、足手まといにならないかと思っていたのだ。

 そんな不安を持ちながらもメンバーが集まり作業開始。

 しかし、いざ開発を行うにあたり、先に根を上げたのは先輩たちのほうだった。

 それというのも、イツキが整備科だからと容赦なく作業を吹っ掛けたのが原因だったりする。


 イツキが組んだスケジュールは過密そのもの。夜遅くまであるのはいつものことで、休憩こそあれ、それ以外は休む暇がないほど働かされたのだ。
 当然、先輩たちは当たり前のように不満を持つはずである。『なんでここまでこき使われなければいけないのか』と。

 しかし、当のイツキはその倍以上の作業をこなし、さらには先輩たちのミスも責めずにスケジュールを修正してくる始末。
 



 不満を上げられるはずもなかった。







「そうですか。でしたら装甲を薄くしたいので、後で打ち合わせしましょう。」
「は、はいぃ。…ああ……、今日も徹夜……。」

 イツキの言葉に、涙目になりながら答える京子。その様子を見てイツキは今までの作り笑顔を崩した。

「冗談ですよ。」
「…へ?冗談?」
「ええ、一ヶ月で基本部分を完成させるためにかなり無茶なスケジュール組みましたから。さすがに自分もこれ以上はきついです。」
「…は、はああああぁぁぁ………。」

 気の抜けてペタンと腰を落とす京子。他の面々も作業が終わったことに気を抜いて、片づけを行う前に思い思いに休憩している。

 ただ、イツキだけは未だに作業をしており、機材を抜いて片づけを行っている。

「じゃあ、片づけは自分がやっときますから、先輩たちは―――――――。」

 ――ドサッ。

『……え…?』

 イツキが言っている途中で、何かが倒れる音。

「く…、倉持くん………!?」
「きゅー…。」

 倒れたイツキがそこにいた。

 慌てて駆け寄る簪。先輩たちも何事かと様子を見に来た。


「何々?」
「どうしたの?」
「く…、倉持君が……。」

 倉持のそばによって、状態を確認する。外傷は見当たらず、とくにこれといった原因が分からない。

 その倉持の様子を見て、他の人たちはやっぱりといった表情になった。

「あー、やっぱり。」
「不思議に思ったのよね。」
「え……え………?」

 先輩たちの反応についていけず、困惑する簪。

「ど…、どういう事……ですか…?」
「ん?あー、大丈夫大丈夫。ただの過労だから気にしないでいいよ。」

 先輩たちの話をまとめると、『いつものように作業が終ったあと、スケジュールの再構築や新しく追加された問題点の解決法の模索など、さらに自室で作業をしていたのではないか?』ということらしい。

 結果、寝る時間がほとんどなくなり、過労でぶっ倒れた。ということだ。

「さすがにおかしいと思ったのよ。普通、ここまで順調に進むわけないから。」
「そうそう。必ず何か問題が起きるはずだもん。」
「はあぁ。まさかぁ、寝る時間削ってまではしないだろうと思ってましたけどぉ……。」
「どんだけIS好きなのよ、この子は。」

 イツキを手近なベンチに運びながら、口々にそういう黛薫子以下二年整備科の女子一同。

(倉持……くん……。)

 簪は気を失ったままのイツキをみる。その眼差しには心配以外の何かが含まれていた。

「…ん?」

 ふと、その視線に気づいた薫子。その頭の上で電球がひらめく。

「あ、じゃあ更識さん。私たち、機材返していかないといけないから。倉持くんの看病お願いしていい?」
「え?…あ……、は、はいっ…!」

 そう言ってきた薫子に、しっかりとうなずく簪。

「よーっし、じゃあ、ちゃちゃっと機材片づけて、帰りますか!」
「「「おー。」」」
「あ、あのっ………!」

 ぞろぞろと出て行こうとする先輩一同を、簪は呼び止める。
 普段は口下手ながらも、手伝ってくれた全員に伝えるべきことを伝えるために。

「あ、ありがとう……ございました……。わ、私……ひとりで、やろうとして…でも、ひとりじゃ、できなくて……、本当に……、本当に……、ありが……ありがとう、ございました………!」

 大きな声でそう言って、思い切り頭を下げる。

 そんな簪にかけられた言葉は、とても優しかった。


「気にしなくていいよ。同じ学園の仲間じゃない。」
「ま、日本製のISも触れたしな。」
「学生のうちで開発に関われたのはいい経験になったしね。」
「けど、あれはきつかったなー。あれが本職の開発なのかな?」
「倉持くんにはぶっ倒れるまでやらないように注意しといてね。」
「んん~、今度甘いもの食べさせてくださいねぇ。」
「私はケーキがいい~。」

 口々にそう言いながら部屋を出ていく一同。ともに手伝っていた本音もその列に入っている。

(………え……?)

 そして、簪とイツキだけが残された。

「……………。」

だらだらと汗が流れ始める。

(な、なにを……すれば……)

 いきなり、二人っきりの状態になって、簪はあわてた。
 ちらりと、イツキを見る。
 今まで気づかなかったが、眼の下には隅ができており、いつもより憔悴した感じがする。


(…………どうして、)


 ふと、そんなことを思った。


(どうして、そこまでしてくれるの?)


 理由はわかる。打鉄弐式を完成させるためだ。
 しかし、過労で倒れるまで頑張る必要はないはずだ。はっきり言って、卒業直前まで放っておいても、何ら問題はないはずである。


(私の………ため?)


 そこまで考えて、その考えを否定する。ありえない、そんなものは幻想だ。と。


(それに……。もう……、開発も………終わった………。)


 今までの関係は、打鉄弐式を完成させるためのもの。そのため、打鉄弐式が完成した今となってはもう関わることもないだろう。



(………でも。)





 それでも。




(もう少しだけ……一緒に……。)





 二人きりになった整備室の中、二人分の呼吸の音が響いた。







――――――――――――――――――――――――――







 夢を見ていた。



 久しぶりに見た夢。ISを初めて動かした時の記憶。
 子供のころ、ふとした拍子に触った八面体の輝く物体。
 それを見た姉ちゃんたちが、驚いていて………。




「………………ふ?」

 目を覚ますと、見慣れない天井がそこにあった。
ただ、知らないわけではなくて…。

「…整備室?何で自分。こんなところで寝てたんだ?」

 時計を確認する。午前9時を指していた。昨日が土曜日だったから、今日は日曜日か。休みでよかった。
 とりあえず、何故ここにいるのかは置いておいて、身を起こそうとする。そして、腹の上に何か重量物が乗っているのに気付いた。



 見ると、更識さんが自分の腹の上に頭を乗せて寝息を立てていた。



「!?!??!?!!?!??!?」


 驚く自分。当然だろう。女の子が隣で寝ていて驚かない男子がいたら教えてほしい。あ、リア充は除く。


「………ん…。」


 そんなことを考えているうちに、モソリと身を起こす更識さん。なんだろう、この、『浮気がばれて追いつめられる』ような感覚は。いや、浮気したことはありませんが、そんな感覚ということで。

「……………?」
「…………おはよう。」

 なんとか、それだけを言うことができた。
 しばらくぼーっとする更識さん。

「んぅ。」

 いきなり抱きついてきた。


「ちょ!? 更識さん!?」

 驚く自分。当然だろう。女の子にいきなり抱きつかれて以下略。

 なんか、『夢だから…。』とか聞こえてくるけど、現実だから早く起きて。服越しに女性特有の柔らかさと、その柔らかさを持った双丘がぺったりと張り付いてきたのは非常に気持ち……ゴホンゴホン。非常に自分を動揺させるから。

 このままではヤバイと思い、彼女の肩を掴んで引き剥がし、揺さぶる。

「起きて!更識さん!」
「…ふぇ……?倉持…くん……?」
「おはよう。」
「………倉持くん!?」

 やっと覚醒したのか、ばばっ!と身を起して距離をとる更識さん。うん、よかった。……あの柔らかさをもうちょっと楽しみたかったとか思っていませんよ?

「なあ。」
「な…何……!?」
「一体、何があったの?」
「………覚えてない……の………?」

 更識さんの話によると、どうやら無理をしすぎてぶっ倒れたらしい。
 むう、さすがに寝る時間を惜しんでいろいろやりすぎたか。

「だ…、大丈夫…なの…?」

 そうたずねてくる更識さん。心配かけたらしい。

「うん。大丈夫。さすがに9時間寝れば本調子……とはいかないけど、寮に戻るくらいは大丈夫だから。」
「そ…、そう……。よかった……。」

 そう、ほっとしたようにぽつりとつぶやく更識さん。いかん、予想以上に心配かけたらしい。

「ごめん。更識さん。心配かけて。」
「……………………。」

 下げた頭に沈黙を返す更識さん。いかん、怒っていらっしゃる。

「……名前…………。」
「……うん?」

 何か聞こえた。更識さんを見てみると、なんか顔が赤い気がする。

「…名前……で……いい。か、簪で……いい。」

 ぼそぼそとそう言う更識さん。

(名前……か。)

 女子を名前で呼ぶのは気が引ける。が、本人が望むなら、そうしたほうがいいだろう。

「わかった。簪…さん。」
「う、うん……。」

 顔を赤くしながらも、そう頷く簪さん。やっぱり、名前で呼ばれるのは恥ずかしいようだ。

「じゃあ、帰ろうか。」
「う、うん……。」


 そして、各々のロッカールームへと別れるまで、無言で歩くことになった。




 互いに、その沈黙に言いようのない心地よさを感じながら。




――――――――――――――――――――――――



 週末が過ぎて、月曜日。

 朝一番に先生と会う。SHRの時間帯。


 そこで、担任である村上先生から、衝撃的な言葉をいただいた。



「は?……今、なんと?」

「うん。だから、倉持君、寮室変わるから。」



こともなげにしれっと返す村上先生。いや、そんな簡単に言われても。


「……理由を教えてください。」
「君なら相部屋になった女子にも精神的負担がかからないから。」
「そうじゃなくて!!」
「転入生がやってきたの。」

 自分の質問にそう、端的に返す村上先生。転入生がやってきて、自分が部屋を変わることになるということはつまり……。


「きゃああああああああ―――――――っ。」


廊下の向こうから歓喜の悲鳴が上がる。つまり、そういうことらしい。







新しい男子がやってきた。と。







あとがき


 なんか、原作レイプな気がしないでもない。
 大丈夫だろうか。こんなもの続けて……。



[27261] 9th Line ~相部屋の相手は~
Name: 葛原◆149a6ad8 ID:19660a23
Date: 2011/05/05 20:56
「……………………。」

 夜。夕食を終えた自分は、自室の前で部屋に入れずにいた。
 それというのも、今朝のSHRでの出来事だ。簡潔にまとめると、新しい男子がやってきたので、部屋が変わって自分が女子と相部屋になるらしい。
 どうして、自分が部屋を移動しないといけないかというと―――――。

 以下回想。

「だからって、何で自分が移動しなくちゃいけないんですか!?」
「えーとね、織斑くんは相部屋にさせる相手で一悶着起こりそうだし、新しく来た男子生徒も――――――。」

 いきなりの事にそうたずねた自分に対し、そう返した村上先生に教室の外から援護が聞こえてくる。

「美形!守ってあげたくなる系の!」
「むしろ襲いたくなる系の!」
「男子って、三人よね!? てことは、相部屋!?」
「相部屋になれば調教し放題じゃない!!」

 きゃいきゃい。

「襲うな、馬鹿者!」

 スッパアアアアアンッ!

 あ、織斑先生の出席簿アタックが炸裂したらしい。ご愁傷様。

「――――て事で、相部屋にしたらやばそうなの。」

 しかし、ここって確か防音性能いい素材使ってたよなあ。それ突き破って聞こえてくるって……。

「……倉持くん、聞いてる?」
「ええ、勿論。」

 現実逃避してただけです。

「今のところ、一番目立たなくて、相部屋の女子にも負担がかからないのは、倉持くんしかいないのよ。一か月くらいで個室の確保ができるらしいから、それまでがんばってね?」
「自分の負担はどうなるんですか。」

 手を合わせてくる村上先生。に自分はそう愚痴る。
 先生の言わんとする事はわかる。自分が女子と何ら変わらないのだから、相方の女子が変な緊張をせずに済むからだ。
 まあ、個室が用意されるのは魅力的だ。
しかし、女子と相部屋とは自分に負担がかかる。それなら・・・。

「……先生。」
「なに?」
「外にテント張っていいですか?」
「ダメ。」

 既に織斑先生(一年寮長)にも連絡が行っていたらしい。そんなことしたら、懲罰訓練を課せられるとのこと。

 結果、自分が女子と相部屋になりましたとさ。

 ―――以上、回想終了。

 というわけで、現在、中に女子がいるはずなので入りずらく、部屋の前で立ち往生しているというわけだ。
 ちなみに、自分の荷物は既に中に入れている。荷物を運びこんでいた時には、女子の姿が見当たらなかったのだが、さすがに部屋に入っているだろう。
 それがさらに自分を部屋に入れづらくしている。だって、化粧品とかあるんだよ?相部屋の相手が男子ってわかったらどうなるか……。
中で相方が部屋に来るまで待っていればよかったのだろうが、夕食時間ぎりぎりまで待ってても来なかったので、結局部屋を出てしまったのだ。

「うーん。」

 どうしようかと唸る自分。ボイスチェンジャーとか使って本気で女装してびっくりさせるか。

「んー。」
「貴様。何をしている。」

 部屋の前で立ち往生していると、横から声をかけられた。

「ん?」
「私の部屋の前で何をしているのかと聞いている。」

 どうやら、もう一人のこの部屋の住人がやってきたらしい。自分は一人無人の部屋の前で立ち往生していたわけだ。ちきしょーめ。
 とりあえず、ドアに顔を向けて話すのは変な人に見られるので、声のした方をむく。

 平均ちょい低めの女子がそこにいた。
 アルビノだろうか、白色の髪に、紅い目をしている。そしてアクセサリーなのか、医療用の白い奴ではない、伊達正宗がつけた眼帯を現代風にしたような眼帯を左目に巻いていた。…だれだソリッドアイとか言った奴は。
 それも合わさってか、触れれば切れるような、『軍人』を彷彿とさせるような。そんな印象のする女子だった。

「ああ、自分もこの部屋の住人になったんだ。」
「そうか、ならば早く入れ。」
「了解。」

 軍人然としたその雰囲気に、思わずそう返した自分。何はともあれ、部屋の前にたむろする義理も無い。部屋に入ることにした。
 ベッドは自分が窓側で、彼女がドア側、彼女の荷物はほとんどない。

「自分は倉持五月。しばらくしたら別の部屋に移るけど、それまでよろしく。」
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 自分のベッドに腰をおろして自己紹介した自分に、それだけ言うラウラ。…え?それだけ?よろしくとかないの?

「…………。」
「…………。」

 それだけらしい。必要ないことは話さないようだ。

「……えーと、お茶でも――――――。」
「いらん。」

 意味不明な沈黙に耐えかねて、お茶でも出そうかと考えていたが、断られた。さらに追撃。

「私の事は構うな。」

 そういって、シャワー室の方に引っ込むラウラ。シャイなのだろうか、いやん。
 ……冗談はさておき、構わなくていいのは助かる。軍人然とした態度も合わさり、無駄に気をつかなくて済むのもいい。

「んじゃあ、自分はネットにだいびーんぐ。」

 というわけで、思ったよりも気にしなくてよくなった為、気兼ねなくいつもの日課をこなすことにした。



―――――――――――――――――――――





「シャワーを先に借りた。」

 さっきまでシャワーを浴びていたラウラの声が背中からかかる。どうやらシャワーは終わったらしい。

「ん、了解。」

 自分のベッドの上でネットに接続していた自分は、その声に反応して振り返る。

「………。なんて恰好をしている!」


 バスタオル一枚を巻いただけのラウラがそこにいた。


「何?」


 俺の言葉に「ふむ。」と言いながら、自分の体を見回すラウラ。そして――。

「バスタオル一枚だけだな。」

 それがどうしたとでも言うように、こともなげにしれっと言うラウラ。ああ、入学初日に村上先生は自分をこういう感じで見ていたのか……。いや、今はそういう問題じゃないか。
 とりあえず、こいつに何か着せないとまずい。何がまずいって、自分の精神状態がまずい。いかに気にしなくていいとしても、さすがに同じ部屋の女子が裸でうろついていたら気にしないなんてできない。

「部屋着はどうした!?」
「持っていない。」

 その言葉に、自分は即座に反応。自分の寝間着をいまだに荷ほどきしていない荷物の中から引っ張り出すと、ラウラに投げつけた。

「着とけ。」
「いらん。」
「着、と、け!」

 投げよこされた寝間着をはたき落とすラウラ。それを拾い、自分は逃がすまいとにじり寄る。

「裸で寝るには日本は寒いぞ。」
「いらんと言ったらいらん。大体、なぜそこまで私に服を着せようとする。私に構うなと言ったはずだが?」
「構わないでいいのはうれしいけどね、そんな恰好でうろつかれたらこっちが迷惑するんだよ。」
「貴様の都合なんぞ知ったことか。」

 最後の言葉にカチンと来た自分。

「こっちだって好きでアンタに構いたい訳じゃねえんだよ!この服やるから頼むからその恰好でうろつかないでくれよ!」
「私がどういう恰好で行動しようが貴様に関係ないだろう!」

 そしてぎゃんぎゃんと始まる自分VSラウラの大論争。この騒ぎは、寮長の織斑先生が騒ぎを聞きつけてやってくるまで続いた。




―――――――――――――――――――――――――――




「てことは、アンタが新しく来た男子か。」
「…え?男子…なの?」
「……そうだよ男だよ。どうして女子にブツブツブツブツ……。」

 その言葉にorzの状態になる自分。いや、もう慣れたけどさ。
時間は翌朝。場所は寮食の前でのことだ。新しく転入してきた男子と会うために、そこで待っていた。
ホントは昨日のうちにあいさつを済ませようと思ったのだが、新しくやってきた男子を一目見ようと彼の周りを女子が包囲していたために近付けず、今日が初めての顔合わせとなったのだ。

「ご、ごめん。何か気に障った?」
「……いや、もう慣れたよ。」

 そう言って、身を起こす自分。ここまで勘違いされまくれば、復帰も早くなります。うん、慣れって恐ろしい。
ちなみに、新しく来た男子の容姿は需要がないと思うが、述べておく。髪はセシリアに比べて濃い金髪で、腰辺りまであるそれを首の後ろで丁寧にまとめている。全体的に中性的な感じだ。なるほど、確かに『守ってあげたくなる系』といわれるだけの事はある。

「自分は倉持五月。イツキでいいから。よろしく。」
「うん。よろしくイツキ。僕はシャルル・デュノア。シャルルでいいから。」
「了解。シャルル。」

 そう言って二人で握手する。

「よし、じゃあ、親睦も深まったことだし、飯にしようぜ。」

 握手が終わって、今まで空気だった一夏がそう言って一同の先頭に立ってぞろぞろと食堂へと入る。
 ちなみに、自分とシャルル、一夏の他に、凰とセシリアと篠ノ之が一緒にいた。
 余談だが、自分は日本的な考えで、名字が前、名前が後ろ。という考えのもと前の名前で呼んでいる。
 だから、セシリアやラウラをファミリーネームではなく、パーソナルネームで呼んでいるのだ。蛇足終了。


「あ…、あのっ……。」

 その一団に、かけられた声、見ると、簪さんがいた。ついでに布仏も。

「ん?どうした?簪さん。」

 そうたずねる自分。見知った顔が自分だけなので、当然と言える。
 しかし、呼びとめておいて、なかなか要件を言わない簪さん。胸の上で両手を絡めて、もじもじと弄んでいる。

「い、一緒に……朝ごはん…いい?」

 やっと、顔を真っ赤にしながらも、ぽつりとそういう簪さん。
 打鉄弐式の基礎部分の開発が終わり、もう会うこともなくなるはずの関係を引き留めるために、簪が一晩考えて思いついた案が、これだった。

 しかし――――。

(何!?)

 自分は一夏の方を見る。

(いつ知り合った?いや、もしかしたら、女性キラーの一夏の事だ。見ず知らずの女子を会っただけで…いや、すれ違っただけで落とす事も可能なのか!?)

 そんなことを考える自分。簪の思惑とは、まったく別の方に転がっていた。
 はっきり言うが、イツキは唐変朴とかいう類ではない。
 ただ、誘蛾灯のように、関わった女子をことごとく落とす男子が隣にいるので、自分に対しての事だと気づいてないのだ。

(しかし、大丈夫だろうか…。)

 自分が関係しているとは微塵にも感じずに、ちらりと篠ノ之、セシリア、凰の三人を見る。一夏ハーレムに追加が入るとすれば、真っ先に拒否しそうなんだが。

「別にいいんじゃない?」
「そうですわね。」
「ふむ。よろしく。」

 以外にフレンドリーであった。まあ、これなら大丈夫だろう。

 八人でぞろぞろと学食に入り、朝食を受け取って空いていた席に着く。どうやら、朝練等で人が少ないのか、質問攻撃は無いようだった。中にいたほとんどの人が遠巻きから注目してはいるが。

「そういえば、イツキ。昨日の騒ぎは一体何だったんだ?」

 そう、一夏が尋ねてくる。昨日というのはやはり、例の騒ぎの事だろう。
 部屋でぎゃんぎゃんと口論していた自分とラウラ。その声は廊下の向こうまで響き、結局、寮長である織斑先生がその騒ぎに気づいてやって来るまで続いたのだ。

「ああ、いやな、昨日部屋が変わって、自分女子と相部屋になっただろ?」

―――ピクン。

「その相手の女子がさ、着る服がないってバスタオル一枚でシャワーから出てきてさ。」

―――ゴソゴソ。

「さすがにそれは黙認できないから自分の寝間着着せようと思ったんだけど、拒否して大口論。」

―――バッサバッサ。

「結局、騒ぎを聞きつけた織斑先生が女子に『着ろ、規則だ。』って言って終わり。まったく、おかげで――――――。」
「なあ、イツキ。」

 自分の話をブチ切って一夏が聞いてくる。おい、聞いといてブチ切るとかあり得ないぞ。

「それ、大丈夫か?」

 自分の意見も無視して、一夏が自分の分の朝食を指さす。いや、言葉にしてないけどさ。
 一夏が指差したものを見る。






 真っ赤になって変わり果てた姿のごはんがあった。





「……え?」



 しばらく、呆然とする。朝は基本的に食べられない(食い過ぎると吐きます)ので、茶碗一杯のごはんが自分の朝食なのだが、それが真っ赤に染まっているのだ。いつのまにか、自分の意思に関係なく。

 ゆっくりと周りを見回す。一同はある一点を見ていた。自分の隣にいた簪さんの方を。
 ゆっくりと、ゆっくりと簪さんの方を見る。
 周囲の変化も気にせずに、ご飯を食べる簪さん。その近くには、中身がごっそりと無くなった一味唐辛子の瓶があった。

「あの、簪…さん?」
「…………。」

 無視して黙々と朝食をとる簪さん。何だ?何か気に障ったのか?何か怒っているらしいけど、何で?
 とりあえず、そっちは置いておいて、視線を目の前に戻して、目の前のごはんを見る。


「あ、朝から刺激物………。」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴと何やら不思議な威圧感を放ちだしたそれ。
 はっきり言って、食べたくない。

「だ、大丈夫だろうか…?」

しかし、そのまま捨てるわけにもいかない。手に取る。

「大丈夫、大丈夫…大丈夫。」

 そして一気に口にかきこみ、そのまま租借せずに呑み込んだ。
 口の中を素通りしただけあって、口の中はそこまでひどい状態にはならなかった。―――が。

「ぐあああああああああああ……。」

 その分の刺激をモロに引き受けた胃が激しく蠢きだす。
 腹を押さえて苦しみだす自分。

「自業自得。」

 それをむすっとした表情で簪さんは追い打ちをかけてきた。なんだよ、自業自得って。


「〰〰〰〰〰〰〰!そ、それより一夏。」
「な、なんだ?」

 腹痛を無視しながら、一夏にたずねる。今日はそれも言うために朝食を一緒に取ろうとしたのだ。

「自分のISが動くようになった。今日から一緒に訓練させてくれ。」
「そうなのか?」

 そうたずねる一夏。一か月近く整備室にこもっていたから、驚いても不思議ではないか。

「ああ、ついでに簪さんも一緒に。」
「わ、私…も?」

 自分の言葉に驚く簪さん。まあ、勝手に決められればそりゃ驚くわな。

「ああ、……嫌か?それとも、他の人と訓練するの?」
「だ…大丈夫…。けど・・・、……いいの?」

 そう、簪さんが尋ねてくる。まあ、はっきり言うと、簪さんって一緒に訓練する人がいるのか不安だったからだけど。それは言わないでおく。

「別に断る理由は無いよ。簪さんはそれでいい?」
「う、うん…。それで……いい…。……お茶……飲む?」

 そう言って自分のカップに茶を入れてくれる簪さん。どうやら機嫌は直ったようだ。
 出されたお茶を飲む。少しは腹の調子も良くなった気がする。
一服して何とか落ち着いたので、気を取り直して一夏に尋ねる。

「というわけで、いいか?一夏。」
「おう、いいぜ。いいよなみんな?」

 快く応じた一夏。他の皆も了解したようだ。

「よろしく。」
「よ、よろしく…お願い……します。」

 二人して、頭を下げる。

 これから学年別トーナメントまでに機体に慣れておかないといけない。




 学年別トーナメントまで、あと、二週間ほどの事だった。




あとがき

 描写が不十分とあったので、割ともっさり書いてみました。

 今までが切り詰め過ぎだったんだよね…、書いてて「こんなものはいらん!(ばさー)」って。


・・・。何か変わった気がしないわけでもない気もしない。



 読者視点で見てみて今回は何かおかしくないっすかね?ちゃんと小説として見れてますか? 楽しめていれば幸いです。自分だとおかしい所ってわかりにくいですもん。


 それはさておき、
 次回はやっとこ探羅のお披露目となる予定です。お楽しみに。



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