ジャンプSQ.
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マンガ家 直撃インタビュー[モノガタリ]

――先生ご自身も漫画家になる前、一度就職されているんですよね。漫画は趣味にしておこう、と思われた時期があったんですか。

●河下 いえ、いつかは漫画家に……というか絵で食べたいなとはどこかで思っていました。なので就職も自分の時間を多くとれそうな会社を選びはしました。

――そうなんですか。では中高生のころも何かに応募したり……。

●河下 いや、中高生の時には一切ないですね。短大のときに1回投稿しました。でも特にいい賞を獲れたわけでもなく。それでちょっと熱が冷めてしまって就職してみたんですけど、働くうちにやっぱりこのままこの会社にいてはだめだ!と思うようになりました。それでまた投稿をし出した頃、集英社のスーパーファンタジー文庫の編集さんから「イラスト描かない?」ってお話をいただいて。

――スーパーファンタジー文庫の賞に投稿していたんですか。

●河下 いや、違うんですよ。投稿した私の絵を、たまたま見ていてくれたみたいで。

――他誌の賞で!それは、河下さんを発掘したその方はお手柄ですね。

●河下 いえいえ、多分小説のほうでは、わりといつでもイラストレーターさんを探してるんじゃないですかね。

――そうすると、会社に行きながらイラストの仕事を始められた。

●河下 はい。しばらく並行してやってました。でもそれほどぽんぽんイラストの仕事が来るわけではないので。3、4か月に1回くらいです。

――でも締め切り時期にはかなりきつくなりますよね。

●河下 締め切り前は会社をサボってました(笑)。ちょうど会社がすごく忙しいときと締め切りが重なったことがあって、上司にちょっと嫌みを言われたんですよ。「もうずっと休んでていいよ」みたいな(笑)。でもそう言われて、もう会社は辞めようと決めました。

――職場の方にはイラストを描いているということは知られていたんですか。

●河下 辞めるときに自分から話したんですけど「気づいてたよ」って言われました。会社にちょっとスケッチブックを置いたりしていたのを、見られていたみたいです。

――会社を辞めてすぐはイラストだけで食べていける状態ではなかったかと思うのですが……。

●河下 いやもう全然ですね。

――バイトをしながらですか。

●河下 いえ会社員時代の貯金プラス家族に借金しつつ、という(笑)。

――かなり頑張っていらした時代ですね。

●河下 そうですねえ。やっぱりイラストだけではきつくなってしまったので、漫画のほうをしっかりやらなきゃ!と。それで今はなき「ぶ〜け」で描くようになりました。

――いい少女マンガ誌でしたよね。

●河下 なくなってしまって残念ですよね。

――そのときはどんな漫画を描いていましたか。

●河下 今みたいな漫画です。だから「ぶ〜け」では浮いてたと思います、はい。

――ご自分の好きなものが描けていたんですね。

●河下 そうですね。ちゃんと受け入れてくれた担当さんでした。好きに描いていいよ、と。でもアンケートは悪かったんじゃないでしょうかねえ(笑)。

――ではご自身としては特に少年誌に行きたい、というようなこともなく。

●河下 なかったですね。

――「ジャンプ」で描くようになったきっかけはなんだったんですか。

●河下 担当さんが昔「ジャンプ」にいた人だったんですよ。それでちょっと「ジャンプ」で描いて、名前を売って「ぶ〜け」に戻ってこい、みたいなことを言われたんです。で、「ジャンプ」の編集さんに作品を見せたら「まあ、いけるんじゃない?」って言ってもらえたのでその気になって(笑)。結局「ぶ〜け」の担当さんはすぐ異動になってしまって、そのうち「ぶ〜け」自体もなくなったんです。

――「ジャンプ」に行ってみたら作風的に「はまった」という感じはありましたか。

●河下 いや、全然ないですよ。いまだに浮いてると思ってます。やっぱりそこまで少年の気持ちは酌み取れていないなあと思ってます。

――そう思っていらっしゃるとは意外です!「ジャンプ」でのデビュー作は『りりむキッス』ですよね。

●河下 そうですね。

――キスをして相手の生気を吸う、夢魔の女の子・りりむのお話です。

●担当編集 衝撃でしたよね、ほんと。忘れられないです。

――あんなにかわいい女の子はやっぱり衝撃的でした。

●河下 いえいえ全然そんなことないです。何て言うんだろう、自分では万人受けするとは思っていないんですよね。ほんとにたまたま滑り込めたとしか思ってないです。

――「ジャンプ」に来てから、読者層も急に変わったわけですよね。手ごたえはありましたか?男性読者からのファンレターが増えたりとか。

●河下 そうですね。まあでもファンレターを描くのって女の子のほうが圧倒的に多いとは思うので、増えたと言ってもそう多くはなかったですが。男の子読者は奥手ですし。でも男の子からの普通の官製はがきとかルーズリーフに茶封筒、みたいなファンレターは、すごくうれしいですね。すぐ手近にあるもので思いをぶつけてくれたんだなっていう感じがして。心温まります(笑)。

――「ジャンプ」でのお仕事は順調に……。

●河下 いや最初のころは「ジャンプ」をよくわかっていなかったですね……好き勝手に描いていて。いま思うと恥ずかしいです。

――意識的に「ジャンプ」でいこうと腹が据わったのはどのあたりですか。

●河下 どうなんでしょう。でもやっぱり『りりむ』の後、次はもうちょっと長く続けたいなとは思いましたね。

――次の連載が大ヒットになった『いちご100%』ですね。続けるために、何か考えてから連載を始められたんですか。

●河下 担当さんからのアドバイスは多かったですね。「普通の現代もので、学園もののラブコメのほうがみんな入りやすいんじゃない?」とか「女の子も人間がいいんじゃない?」って。女の子の性格のチェックも厳しかったですね。「この子はこういうこと言わない!」とか。

――本当にいろんな女の子が出てきましたよね。

●河下 キャラクターって後になるにつれて個性的な感じの子がどんどん増えてくるんですよ。前に出た子とかぶらないように作って行くので。それでいろんな子がいたなって感じになったのかもしれないです。

――個性的な子は描きやすいものですか。

●河下 癖がある子のほうが楽ですね。

――そうなんですか。でもそれまでわりと好きに描いていらしたとすると、いろいろと担当さんと決めごとを作って描いて行くのはちょっとストレスもあったのでは。

●河下 ……かなり、ありました(笑)。でも長く続けたい気持ちが本当に大きかったので。

――ではどんどん人気が上がっていった時には「これか!」っていう手応えみたいなものが。

●河下 いやあ、そこまで思いませんでしたけどね。あ、でも1巻が出たとき本屋さんにチェックに行ったら、たまたま目の前で男の子が買って行くのを見ました。それは始めてのことだったかも。