近年、職場でのストレスなどが原因で心の病を発症する人が増えているが、労災や公務災害の認定は困難だ。阪神間の自治体の女性職員のように、市民の暴言を原因とした認定は極めて異例で、「前例のない画期的な判断」と評価されている。一方で、窓口職員と市民との間に深刻なトラブルもみられ、各自治体が対応に苦慮している。
民間労働者らによる精神障害などの労災申請は、2009年度で前年度比22・5%増の1136件、認定は同13・0%減の234件(厚生労働省まとめ)だった。また、神戸市を除く地方公務員の労災を受け付ける地方公務員災害補償基金兵庫県支部のまとめでは、精神疾患に関する06〜10年度の申請は22件。認定はわずか4件にとどまっており、認定の難しさを示している。
兵庫教育大の岩井圭司教授(精神神経科)は今回の女性職員のケースについて、「心の病を認定した上、市民の暴言との因果関係を認めたことは評価される」とする一方、「市民の暴言や暴力で職員が精神疾患を発症することは今後もあり得る」と指摘する。
実際、自治体窓口での市民と職員のトラブルは深刻だ。例えば神戸市では、10年度(12月末まで)、市民や団体からの不当な要求や暴力は計38件に上った。具体的な内容は、職員のほほを平手でたたき、顔面につばをはきかけた▽電話で一方的に「ヤクザを連れて殺しに行く」と暴言を浴びせた‐など。今年4月には、中央区役所の男性職員が応対中の男にナイフで腹部を刺される事件もあった。
神戸のほか、尼崎市でも窓口に警察OBを配置するなど各自治体で対策を練るが、神戸市の担当者は「職員が心の病を発症する恐れはあり、トラブル後の心のケアも今後の課題」とする。
NPO法人ひょうご労働安全衛生センター(神戸市)の西山和宏事務局長は「窓口の職員が、同じような精神疾患となる可能性があり、今回の件は今後の認定にも影響するだろう」と話していた。(紺野大樹)
(2011/05/05 13:52)
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