2011年3月15日 12時38分 更新:3月15日 13時13分
高濃度の放射性物質が漏れ、最悪の事態が懸念される福島第1原発のトラブル。菅直人首相が屋内退避の指示を出した半径20~30キロ圏内の住民らは「情報がない」「避難したいがガソリンがない」と悲痛な声を上げた。震災との二重の災禍に見舞われている人も多い。この悪夢のような苦しみはいつまで続くのか。
福島第1原発から西側30キロ圏内にかかる福島県田村市の自営業、小松宣俊さん(52)は、屋内退避を呼びかける菅首相の会見をテレビで見て「ここまで大きな事態になるとは思わなかった」と困惑気味に話した。
地震発生時は周囲で屋根瓦が落ちる程度で幸い大きな被害はなかったが、常に原発のことは気がかりだった。両親と妻、大学1年、高校1年の息子と全員で首相会見を見て、「来るものが来た」とも感じたという。
家族でしばらく家を離れるにしても近くに親戚はいない。車を動かしたくても付近のガソリンスタンドは閉まっている。食料を備蓄しようにも「近くのスーパーに商品がないような状態」だという。不安は残るが、家にとどまることにした。「見守るしかない。どうしようもない」
同市に住む男性会社員(42)は市内の妻の実家に家族で避難していたが、身の回り品を持ち帰るために15日午前、自宅に戻っていた。屋内退避が指示されたとの情報を聞くと、「ここの近所はもう人はいない。一体何が起きているのか」と衝撃を隠さない。近所の住民は同原発1号機が水素爆発した12日午後に西へ避難を始め、今は留守宅がほとんどだ。
ラジオで菅首相の会見を聞いたという同市内で米穀店を経営する女性(60)は「自分たちが何キロ圏内にいるのかはっきりしないが、30キロには入るんじゃないか。食料不足の中、遠くの方からも米を求めてくるが、お店も閉めなきゃならない」と話した。
市内の体育館や公民館は20キロ圏内の地域から避難した住民でいっぱいの状態。この女性は「役場もその対応で大変。私たちのことどころではないだろうし。何の情報もない中、みんな自分たちの判断でマスクや帽子を身に着けている。東京電力の言う範囲はどんどん広がっているし、もう何も信用できない」と不安そうに話した。
体が不自由な夫(79)と同居する同市に住む石嶋フミコさん(78)は、「不安で仕方がない」と話すが、歩けない夫にとって避難所生活は難しく、「ここで死んだら死んだで仕方がない」と悲痛な声を上げた。
同市内で電器店を営む女性(53)は「避難所にいる被災者や困っている人たちのために、これまで店を開け電池や懐中電灯を販売してきた。自宅待機となれば、放射性物質が自宅を兼ねる店の中に入らないよう、店を閉めないといけないのか。店を開けて被災者に協力もしたいが、夫や子供ら家族の健康も心配なので、悩ましい」と話した。
20キロ圏外すれすれのところに住んでいる同市の農業の男性(65)は「妻と息子は先に親戚の家に逃がした。私も牛の世話で出る以外はなるべく家にいるようにしている。テレビでも全容が分かっていないように言っているし、東京電力の話を信用してその通りに動くしかない。農家だから野菜はたくさん貯蔵してあるし、食料は大丈夫。不安は不安だけれど、仕方ない」と話していた。