Side 涼
「“アリス„・・・君は今まで憎悪と絶望の中で、ひたすら人類を滅ぼすことを考え続けてきた・・・。でも・・・もうそんな必要はないんだ。」
おれは、カツミを助け出すこの旅の中で“アリス„を知り、そして絶望の深さと人類への憎悪を知った。
一番始めに造られた、ARMSの適正因子を持った子供。
しかし、ARMSの適正因子を持ってはいたが、俺たちの様にARMSを移植されることは無かった。その理由は彼女は、チャペルの子供であったからだ。
チャペルの子供。
それは、サミュエル・ティリングハースト博士が考え出した「チルドレン・オブ・チャペル計画」と言う人体実験により生み出された、アル達の様な各国の天才達が集まるエグリゴリで研究者をしている子供達の事だ。
アリスはARMS適正因子を持ちながら、一人の研究者としてARMSの適正因子を持った、子供達へのARMSの移植実験に参加していた。
この時点で、サミュエル博士がもし、彼女の事を一人の女の子として見ていたら、と思う。その点では、やはりあの人もエグリゴリの学者だったと思う。
そして、“アリス„は実験体の子供を逃がそうとし、見つかり、そして殺された。
もし、アリスが適正因子を持っていなかったら、もしアリスがチャペルの子供では無かったら、一つでも歯車が違えば、こんな憎しみの連鎖は起こらなかったと思う。
死に掛けていたアリスは、彼女に並みならぬ感情を持つ「アザゼル」に取り込まれ、人間への深い絶望と激しい憎悪を持つ“黒いアリス”と、本来の心優しい“白いアリス”にわかれ、始まりのARMS「アリス」の中で生き続けた。
俺のARMS「ジャバウォック」だけは、アリスの深い絶望から生まれた。
だから、「ジャバウォック」はひたすら全てを壊そうとした。オレは一度憎しみに負け、人類を滅ぼしかけた。あの時もし、隼人や武士や恵がいなっかたらオレは確実に地球を滅ぼしていたと思う。やっぱりあの三人は最高の仲間・・・いや最高の家族だな。
この世界中の誰も“アリス”に人間を許してくれなんて言う資格は、きっと誰にも無い。それだけの仕打ちをしたからだ。兄弟同然の実験体を、青空を、自由を、全てを奪ったのだ。
だから、オレ達がすべき事は―――
「君の憎しみも・・・、悲しみも・・・、オレが全て飲み込んでやる!
“アリス”!!これからはオレ達と一緒に生きていこう!!」
―――一共に生きる事だ。
Side エヴァ
今夜も何の変哲も無く、ダルいだけの見回りが終わり従者の茶々丸と共に月見をしながら帰り道を歩いていた。
「茶々丸。じじぃからなにか連絡とか来てるか?」
「いえ、何も来ておりません、マスター。」
「そうか。」
一日が終わる、何も無く。昨日までと変わらぬ、そして明日からも何も変わらない。
何をしているのかと、自虐的に考えてしまう。かつての大悪党はもう見る影もないな。
「マスター。どうかされましたか?」
「なんだいきなり。」
「いえ、笑ってましたので。なにかあったのかと。」
「笑っていたかのか私は・・・まあ、そうだな、少し愉快な出来事があっただけだ。」
と言っても、本当は不愉快で堪らないがな、今の私の姿が。
◆
「さて、いい加減月見も飽きたな。茶々丸、帰るぞ。」
「了解しました、マスター。」
「酒が手元にあれば、もう少し楽しめたんだがな」
「この時間ですと、もう売っていません。それにその様な物を持ちながらですと、戦闘にも邪魔になります。」
「・・・・」
やれやれ。こいつにもう少し融通と言うか、柔軟な考え方が出来れば少しは退屈も凌げるんだがな。
冗談を言って、真面目に反応を返されたんじゃ、ギャグを言ってすべってしまった、芸人の様な気分になってしまうではないか。
・・・今度から少しあいつらの見方を少し変えてみるか。
そして歩き出そうとした瞬間、突然夜空が光った。
なんだ、どうしたのだ!?急いで振り返ると
「世界樹だと!?バカな、まだ魔力は完全では無いはずだ。」
計算上は後、一年は掛かるはずだ。一ヶ月程度のズレならまだしも・・・
「行くぞ、茶々丸。」
「了解しました、マスター。」
◆
私たちが世界樹の所に着いた時はまだ、白く発光していた。
「何が起きているというのだ・・・」
「マスター、世界樹は魔力を発していません。」
「何だと・・・ではこれは」
何だ、と言おうとして言えなかった。何故なら光が突然爆発したように強く光ったからだ。
「うわっ!」
咄嗟に顔を腕で覆い隠した。
光が収まったと思った時、ドサッっと何かが落ちる音がした。眩む視界の中、その落ちて来た物を見た。そこには服を着ている普通の男が倒れていた。
Side 涼
「う・・・」
それが自分の口から出たものだと言うことに、数秒してから気が付いた。
次第に意識がはっきりしてきて、最初に気づいたのは自分の前からする、圧倒的な威圧感だった。
咄嗟に、手足全部を使い後ろに飛んだ。
そこで改めて前を見てみた。
黒いボロ切れみたいな服を着た金髪の女の子と、どこかの制服みたいなのを着て、緑色の髪の・・・アンテナ?サイボーグ!エグリゴリか!?・・・いや、違う・・・か?確証がある訳じゃないけどエグリゴリと断定するのは違和感を感じる・・・。
それより問題なのは小さい女の子の方から、さっきから感じている威圧感を感じる事だ。明らかに、あの年齢の、しかも女の子が出せるものじゃない。恐らく、同年代であるキャロルとは比較にならない。それこそコウ・カルナギにも引けをとらないレベルだ。
「おい、侵入者。」
一旦距離を取ろうとした時、小さな方がこちらに話しかけてきた。
それよりも、・・・侵入者って言ったのか、あの子は。
「その、侵入者ってのはオレの事?」
「随分と白々しく戯けたことを言うな。結界に感知されなかった事は褒めてやるが、あんな大胆に世界樹から出てきてバレないとでも思ったか?」
・ ・・何だ、この子は。話し方が外見と全然一致しないぞ。
それに、結界にせかいじゅ?結界はまだしもせかいじゅなんて言葉は聞いたこともない。でも、それを言ったとこで信用してもらえそうにないな。どういう過程にしろ、オレがここに無断で入ってきた事は事実らしいな。
さて、どうする?物は試しに正直に言ってみる・・・
「言っとくが、命乞いや言い訳は一切聞かんからな。日頃の憂さ晴らしを貴様でさせてもらおう。」
まずいな、最悪の方向で話が進んでいる。
「ちょっと待ってくれ!少しはこっちの話しを聞いてくれ!」
「行け茶々丸。リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」
「了解しました、マスター。」
茶々丸と呼ばれた女の子がかなりの速度でこちらに走ってきた。そのままの勢いを殺さず、右のストレートを放ってきた。
咄嗟にガードしたけど・・・!
「うおっ!」
重い!ガードしきれない!
そう思ったときには、すでに身体が吹き飛んでいた。
空中でなんとか体勢を直して後ろにあった巨大な木に垂直に着地、茶々丸の方に攻撃をしようとした時・・・
「氷の精霊17頭。集い来たりて敵を切り裂け。魔法の射手 連弾・氷の17矢!!」
その言葉が終わると同時に、懐から試験管を出しこちらに向かって投げてきた。そしてそれが割れた瞬間、突然鋭利な氷が大量にこちらに向かって飛んできた。
「なっ!」
ESPだと?!
「くっ!」
氷の攻撃をかわす為に前に跳ぼうとしていた力の向きを無理矢理変えて、横に跳んだ。
(!追尾してきた?!まずい、かわせない!・・・なら!)
Side エヴァ
侵入者に魔法の射手(サギタ・マギカ)が当たると思ったとき、氷を破壊しながら何かがこちらにかなりのスピードで飛んできた。
魔法の射手(サギタ・マギカ)を破壊された時に生じた煙のせいで反応が遅れた。
「ちっ」
咄嗟に氷盾(レフレクシオー)で防いだが如何せん私は体重が軽い為、威力を殺しきれず無様にも地面を転がっていた。
「マスター!」
「案ずるな。うまい具合に逸らす事が出来た・・・!茶々丸!」
「分かっています。」
けむりの中から、侵入者が走ってきた。茶々丸も走っていき、侵入者と相対した。
「あまり抵抗しないで下さい。」
余計な事を言うな茶々丸。
フェイントを交えながら茶々丸が接近した。茶々丸は右のストレート侵入者の顔目掛けて放った。侵入者は顔を傾けただけでかわし、腕を取り一本背負いの様に投げた。茶々丸は片手で衝撃を殺しながら着地し、そのまま片手だけを使い後ろに飛んでいった。
茶々丸は着地すると同時に駆けだし、侵入者の一歩手前で止まり後ろ回し蹴りを放ったが、侵入者はスウェーバックでかわし、侵入者は距離を詰め右腕で下突きを放った。茶々丸は腕でガードした。
「なっ」
奴の下突きをガードした茶々丸が少し押されていたのだ。
ガードしたにもかかわらずに、茶々丸を後退させるか・・・敵ながら大したものだな。
・・・腑に落ちないな。茶々丸との攻防を見る限り、奴は丸腰だ。しかし魔法の射手(サギタ・マギカ)を破壊したのは明らかに弾丸だった。しかもかなり大型の。あれは携帯出来る銃の口径ではない。初めは転送系の魔法を使ったのかと思ったが、魔力は感じられなかった。
だとすると、奴は銃に似た何か(・・・・・・・・)を特殊な形で持っている。
・ ・・・ふん、おもしろい。なら、その何かとやらを見せてもらおう。
Side 涼
視界の端でもう一人の女の子が懐に手を入れてるのが見えた。
―――くっ、まずい!
今戦っている女の子が前衛として白兵戦、金髪の子が後衛としてさっきみたいな追尾してくる様な厄介極まりない攻撃をしてくる。
なんとも理想的なパートナーだな・・・
くそっ、このままじゃジリ貧だ。
そんな事を思ってる矢先に
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」
あの鋭い氷が飛んできた時に言ってたやつだ。どうやら攻撃する時には言わなきゃいけないらしい。・・・そんな事が分かったところでどうしようもないが。
それに――――顔の横をパンチが掠める――――他の事を考える余裕があまり無い。
その間にも金髪の子供の言葉は進んでいく。
茶々丸の攻撃をを弾き、距離を取ろうと後ろに下がったとき、突然腕が飛んできた。
「!!」
あまりにも予想外すぎて反応が出来ずに、その腕に首を掴まれてしまった。
ロ、ロケットパンチだと?!くそ、取れない!
しかも、後退するのを読んでたの如くジャンプし、浮いてるところを狙われた。
そして
「氷の精霊 17頭 集い来たりて敵を切り裂け 魔法の射手 連弾・氷の17矢!!」
やばい・・・