東日本大震災では、インターネットは情報発信に効果的に活用される一方で、デマや誤った情報も流れている。災害心理学が専門の広瀬弘忠・元東京女子大教授に聞いた。【岡礼子】
--ツイッターやチェーンメールなど、ネット経由でデマが流れているが。
災害時のような、状況が不確かで危険が迫っている状況で「流言」はつきものだ。阪神大震災の時は、港湾地帯の被害が大きかったので、「ガスタンクが爆発する」といったうわさが乱れ飛んだ。だが当時は、携帯電話も皆が持っているというわけではなく、伝えるメディアがなかった。人づてに聞こえてくる程度で、すぐに立ち消えになり、多くの人がデマに惑わされて何かをするという状況にはならなかった。
今回は、誰でもツイッターのようなソーシャル・ネットワークを使えるので、「ちょっとつぶやいたこと」が広がる。誰かの「つぶやき」を中継したり、加工したりする人もいる。根も葉もないことが伝わることもあると思う。特に放射能のように目に見えないリスクは、自然災害に比べて不安が大きいのが普通だ。政府の情報の出し方にも問題があり、正しいことと正しくないことを見分けることが非常に難しい。不安にかられていろいろなことが起きうる。
--利用者が気をつけるべき点は。
発信元はどこかということが重要だ。また、「つぶやき」を読んでいる人の中には、流れている情報が「根も葉もないことだ」と分かる人もいるはずだ。彼らが「それは誤りだ」「そんなことは起きていない」とつぶやいて偽りの情報を打ち消すことで、デマは淘汰(とうた)されていく。なるべくオープンな意見交換の場にしていけば、「自浄作用」が働いて「良貨(=良質な情報)が悪貨(=デマ)を駆逐」していくと思う。
デマは、不確かな状況下で作り出される物語のようなものだ。自分が日ごろ持っている欲求不満や偏見が映し出される。1923年の関東大震災の時、「朝鮮人が暴動を起こす」というデマが流れた。これも「朝鮮人は虐待されている」「自分たちが虐待している」という意識がまずあり、「彼らは恨んでいるはずだから、この機会に悪いことをするに違いない」という自分自身の不安から作り上げた「物語」だった。同じことは今回も起きている。
--しかし、淘汰されていく?
誰でも読めるということは、チェック機能も働くということだ。ソーシャル・ネットワークはそういったチェック機能が働きやすいと思う。個人が放送局のように発信できるので、フェース・トゥー・フェースの関係よりは、急速に広がるが、虚偽であれば、それも同時に明らかになっていく。小さな混乱はあるかもしれないが、大規模なパニックが起きるとは思わない。
--有効利用もできる。
ツイッターなどを通じて支援の輪が広がった。必要なものをつぶやくと、読んだ人が救援の手を差し伸べたり、亡くなった人のリストや、避難所ごとに生活している人のリストができて、それを検索できたりと、さまざまな人が活用しようとしている。ソーシャル・ネットワークは、テレビのように広範囲に伝えるのではなく、個人が狭い範囲で発信したことが、社会的なつながりの中で「拡散」する。災害の全体状況がつかめない時に、個別の細かい情報を発信することで全体がつかめる利点もある。
--使っていない人もいるが。
ツイッターの利用は、広がってきているとは思うが、多く使っているのはやはり若い世代だ。使えない世代の持っている情報を、どのように伝えていくか。特に災害時はニーズが刻々と変化するので、今これが必要だということに、ツイッターが対応できる形が望ましい。
被災者は(心身両面で)災害状態から離脱できる人と、時間がたっても離脱できない人に分かれてしまう。離脱できる人の方が、ツイッターなどを使えるケースが多いので、そちらからの情報が多く伝わってくるようになる。ソーシャル・ネットワークの良い面を生かすには、離脱できずに、災害に押しつぶされそうになっている人にこそ、自分が抱えている不安や問題を発信してほしい。ソーシャル・ネットワークを使えない人たちが、ネットワークに参加できるようなシステムをつくる必要がある。
2011年4月5日