東日本大震災に伴う福島第1原発事故で、文部科学省が初めて現場に投入した原子力施設事故専用の「防災モニタリングロボット」(モニロボ)が、敷地内に散乱したがれきのため活動できない状況に陥っている。公費約2億円をかけ開発したが、設計段階からがれき上の走行を想定せず、国の原子力総合防災訓練でも整地された路面でしか使っていなかった。福島第1原発では現在、米国製のロボットが活躍中。日本の原子力災害対応をめぐる「想定外」がまた一つ明らかになった。
モニロボは、1999年に茨城県東海村の核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)」で起きた臨界事故を受け、被ばくや火災・爆発の恐れがあって人が入れない場所で情報収集をするため、現在の文科省が財団法人・原子力安全技術センターに開発を委託。2000年に完成した。
長さと高さが各150センチ、幅80センチ、重さ600キロ。運搬・制御車から約1キロ先まで遠隔操作し、カメラや放射線計測器などを搭載している。
震災発生後、原子力安全技術センターは、モニロボを青森県六ケ所村の保管場所から福島県に移送。文科省の要請を受けて3月18日に東京電力に貸し出し、約10時間がかりで職員に操作方法を伝えた。ところが、福島第1の現場は、建屋のがれきが散乱して「モニロボは走行できない状態」(東電)が続いている。
モニロボは走行用ベルトで移動し、高さ30センチの段差を乗り越えて斜度35度の坂を上れる設計。同センターは西日本新聞の取材に当初「原発事故を想定して訓練を重ねてきた」と強調した。ところが実際には、平地や階段でしか試験運転をしておらず「今回のように、がれきの中を進むことは想定していなかった」と最終的には認めた。
モニロボは、国の原子力総合防災訓練(06年愛媛県、07年青森県)に参加。アスファルトで整地された平地上で遠隔操作の実演などをした。
東電が現在、福島第1の原子炉建屋内の調査に使っているロボットは米国メーカーが無償提供した。長さ70センチ、幅53センチ、重さ35キロと小型・軽量。斜度60度の坂を上り、がれき上も走行できる。
ロボットにくわしい広瀬茂男東京工業大教授は「原発事故の現場は当然がれきの散乱も考えられる。最悪を想定し対応できるロボットも準備しておくべきだった。当初から『原発事故は起きない』との前提があったのでは」と指摘した。
=2011/05/05付 西日本新聞朝刊=