ネット上に反原発“バイブル”拡散 専門家「不安あおっているだけ」
産経新聞 5月4日(水)22時22分配信
拡大写真 |
「原発がどんなものか知ってほしい」主な主張と反論(写真:産経新聞) |
文書のタイトルは「原発がどんなものか知ってほしい」。昭和40〜60年代に一級配管技能士として原発で勤務経験があり、各地の原発運転差し止め訴訟にもかかわった故・平井憲夫さん(平成9年死去)が行った講演を市民団体がまとめた。A4版23枚、約2万字にも及ぶ。7年の出版後、少なくとも12年ごろにはネット上に流出したという。
文書は20章から成り、いずれも原発の危険性を誇張した内容が目立つ。事実と異なる情報も多く、《素人が造る原発》という章では「事故の怖さを知らない全くの素人を経験不問という形で募集している」と記述。《放射能垂れ流しの海》との章では「海に放射能を含んだ水が何十トンも流れてしまうのです。(中略)日本列島で取れる海で、安心して食べられる魚はほとんどありません」との内容になっている。
文書は原発事故前から原発反対派の間では必読書だった。19年の新潟県中越沖地震で2〜4号機が停止している東京電力柏崎刈羽原発(同県柏崎市、刈羽村)は今も再開中止を求める反対運動が根強いが、市周辺では、文書が掲載された雑誌が一般の医院にも置かれ、広く読まれていたという。
今回の事故を受けて、明確な原発反対派だけではなく、漠然と原発を危険に思う一般の人々の間でも急速に広まり、新たに約8千のブログで紹介された。農業関係者や育児中の母親など特に放射能汚染に敏感な人々が多く、今もブログへの転載は増え続けている。
一方、多くの原発専門家らは文書の信頼性に疑問符をつける。《素人が造る原発》について、電力会社の関係者は「配管をつなぐだけでも経験は必要。素人に重要機器の設置分解など任せられない。少し考えればわかること」と指摘。《放射能垂れ流しの海》についても、各地の原発では放水口の放射能数値が公開されており、実際に垂れ流されていれば専門家でなくても一目で分かるという。
ネット情報に詳しい京都大大学院情報学研究科の山本祐輔特定助教(社会情報学)は「放射能に敏感で専門知識には乏しいネット利用者の場合、『原発は危ない』という表層的な情報に飛びついてしまう。自分はその情報を知っているという優越感からブログに転載し、連鎖していく」と話す。
事故後、福島第1原発の周辺で調査を行い、冷静な対応を呼びかけている札幌医科大の高田純教授(放射線防護学)は「今回の文書のように、いたずらに不安をあおる不正確な情報が出回ることは原発の推進、反対のどちらにとっても迷惑な話。マスコミが政府の発表内容をしっかりと検証した上で報道し、正しい情報・知識を国民に伝えてほしい」と話している。
【関連記事】
【メディアと社会】風評「加害」の社会構造 渡辺武達
【「リスク」を読む】「戦時下」では情報が命綱 岡村美奈
「臨界」と「核爆発」の違いを理解していない扇動報道も多い
渋谷に原発、ウルトラマン逃亡…海外メディアのトンデモ報道
「日当40万はデマ」 原発作業員たち実際の生活は
五輪参加への扉が開かれてから100年 日本スポーツ界を検証する
最終更新:5月4日(水)22時22分
ソーシャルブックマークへ投稿 0件
この話題に関するブログ 2件
関連トピックス
主なニュースサイトで 柏崎刈羽原発 の記事を読む
この記事を読んでいる人はこんな記事も読んでいます
- 福島第1原発 東電社長、怒りの浪江町民を前に土下座写真(毎日新聞) 5月4日(水)20時54分
- 被災企業に徳政令を…南三陸町長が要望(読売新聞) 5月4日(水)19時38分
- 「人の思い出捨てるのがボランティアなのか」 GWで現地入り 悲惨な現実に言葉失う写真(産経新聞) 5月1日(日)21時11分
- 「なぜ無視してきた」「土下座しろ」 東電社長がおわび行脚に町長、住民猛反発写真(産経新聞) 5月4日(水)21時6分
- 原発4基の運転再開、認められない…福井知事(読売新聞) 5月4日(水)21時40分