大震災、フクシマ、海外メディアは「日本の無力」に何をみたか?
産経新聞 5月5日(木)14時42分配信
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二本松市内の避難所で、浪江町の町民らに原発事故を起こした事を土下座で謝る清水正孝社長(手前右から4人目)ら東京電力関係者=5月4日、福島県二本松市のあだたら体育館(撮影・早坂洋祐)(写真:産経新聞) |
まもなく発生から2カ月の東日本大震災。この間、ニッポン未曾有の天災と人災を報じ続けた海外メディアの目は、東北人の忍耐への称賛と、フクシマ原発事故への日本の無力ぶりに集中した。菅直人政権の初動力、決断力、技術力への失望、そして“日本神話の崩壊”−東京発で世界に発信されたこうしたニュースに日本国民はイラ立ち、また奮い立った。東京支局から発信してきたフランス、韓国、ロシアの東京特派員に、率直な所感を聞いた。(久保田るり子)
■窮地にこそ必要な「日本外交」…
海外メディアの関心の大方は、長期化する福島原発処理の不透明さ、日本経済の行方に移った。その一方で、発災直後に「その冷静さ、我慢強さ」が称賛の対象になった日本人への海外の温かい視線は、計画避難や仮設住宅への対処でいまだに混乱している日本政府の統治能力に向いている。
「日本の国家機能は働いていない」(韓国、ロシア)と東京特派員は厳しく直言した。
AFP通信(フランス通信)のプぺ・カリン特派員は来日9年目で自ら「日本が大好き」と話す親日派だけに、「これほどの地震、津波、原発事故が同時に起きれば、どんな国も混乱する」と少し擁護した。しかし原発対応についてシニカルにこう付け加えた。
「政府はウソは言っていない。ただ事実の一部しか言ってこなかった。数字は多いが分析はない。レベル7というが、チェルノブイリとは異なるではないか。このことについての説明がない。矛盾が多い。つまり、信頼感が持てないのです。だからわれわれは、フクシマについてフランスの専門家に聞いている」
原発大国フランスの行動は素早かった。サルコジ大統領の訪日(3月31日)についてカリン氏はこう解説する。
「目的はフランスの国益だった。事故直後、日本はフランスの技術支援提案に消極的だったからだ」
大統領訪日前夜に日本入りした世界最大の仏原子力複合企業『アレバ』最高責任者(CEO)は大統領離日後も日本に残り、「アレバはフクシマの処理に全面的に加わることになった」(カリン氏)。アレバが事故処理に積極的に関わりその能力を示さなければ、仏原子力産業に大きな影響が出る恐れがあった。
危機にこそ外交が必要とカリン氏。
「心配は日本外交。日本はもともと外交が不得手だが、大震災でほとんど止まったままだ」と指摘した。
■「信頼は崩れた…」
韓国メディアの受け止め方には、ある種の落胆が感じられる。最も近い隣人で年間500万人が行き来する。歴史問題、領土問題などで対立する半面、価値観を共有する友好国の日本。その日本が歴史的な試練にみせた姿は想像以上に弱々しかった。
「地震、津波、原発事故は起きてしまった。だが問題は事故後の対応だった。正直にいってがっかりした」(朝鮮日報の車学峯特派員)
韓国は、日本からの放射能拡散に敏感に反応しただけでなく、韓国国内の反原発デモや原発稼働中止を訴える仮処分申請など、具体的な影響も顕著だった。
「フクシマは韓国だけでなくドイツもそうだが、他国の原子力政策を変えるほどの事故。そういう国際的な配慮が不足しているのではないか」(車氏)
特に4月4日の低濃度放射能汚染水の放出について、菅政権が直前の通告だけで事前の説明や協議を行わなかったことが、不信感を決定付けた。
別の韓国メディアの東京特派員は、「すべての対応があまりに遅い。日本の組織・制度疲労だと思う。『日本への信頼が崩れた』と感じている」と述べた。
■「旧ソ連的、共産党的だ」
ロシアの通信社、イタル・タスのバシリー・ゴロヴニン東京支局長は、歯に衣を着せず辛辣(しんらつ)だ。
「ロボットはどこ? 日本といえばロボットだったのに1カ月以上出てこなかったのはなぜ? 原発対応の作業は肉体労働ばかりで、先進国のイメージはなく、事故処理の技術レベルも発想もネガティブ(否定的)だった。この日本の安全・技術神話が崩れた影響は大きいと思う」
ロシアの関心事をゴロヴニン氏は(1)東京電力が示した工程表の実現性(2)日本経済の行方−の2点とした。
「危機は再出発のチャンスでもある。だが、日本の政治システムは袋小路に入っていて老人のようにみえる。政策決定過程の複雑さは旧ソ連的、旧共産党的だ。内向きで独善的で。脱するのは大変だ。いまのロシアがそうであるように」
こうも付け加えた。
「ロシアは日本への天然ガス(LNG)供給を始めた。売りたいロシア、エネルギー確保が必要な日本。日露関係にとっては好機が到来した。ただし日本にそういう発想があるならば」
各様の視点や利害から、世界は日本に戦後最大の関心を注ぐ。その容赦ない批判に耐えうる復興を、彼ら東京特派員に書かせたい。
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最終更新:5月5日(木)14時42分