2011年5月5日
北陸や神奈川県で店舗展開する焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」の食中毒で3人目の死者が出た。生肉が汚染された原因はまだ判明していない。ユッケを提供してきた各地の焼き肉店にも影響が出始めた。販売自粛に踏み切る店が現れる一方、「うちは安全」と胸を張る店もある。
集団食中毒が発覚した4月27日以降に、富山県や富山市が「焼肉酒家えびす」の店舗を立ち入り検査した結果、調理具や残された肉からは菌が検出されなかった。店舗間でも肉の融通はなかったとみられている。
このチェーン店を展開するフーズ・フォーラス(本社・金沢市)は、食肉の仕入れを本社で集中管理し、卸売業者とやり取りしているが、受け取りでは各店に直送されていた。今回の食中毒で原因食材とされるユッケの場合、ブロック肉を真空パックで仕入れ、各店舗の冷蔵庫で保管している。その日使う分だけ、従業員がスライスして冷蔵庫で保存していたという。
富山、福井両県の男児が食べたのは同16日ごろに納入した肉とみられるが、神奈川県で同25日に食事した人からも患者が出た。フーズ社は感染源について、「特定の日の肉というより、汚染されたものがしばらくの間、納入されていたことも考えられる」としている。
一方、今回の食中毒を受け、関東・東海地方8都県で焼き肉店など250店舗を展開する「安楽亭」(本社・さいたま市中央区)は3日から全店でユッケの販売を中止した。
これまでも生で食べるユッケ用の肉の衛生管理には細心の注意を払ってきた。卸段階で細菌検査に合格した肉だけを主に豪州から仕入れ、自社工場への入荷時と加工後にも検査。真空冷凍パックで各店舗に渡ってからは、注文を受けるたびに1食ずつ解凍し、専用容器で調理してきたという。
だが、食中毒の発覚後、客から「店でユッケを食べたが大丈夫か」という問い合わせが多数寄せられたため、提供をやめた。広報担当者は「根強いニーズがあるが、安全基準に対する国の動きを見極めてから再開したい」と話す。
「えびす」のユッケは1皿280円だが、「安楽亭」では1皿780円。広報担当者は「ユッケ用の肉は、加熱用の肉より仕入れ値が高く、衛生管理にコストもかかる」とも話した。
都内の高級焼き肉店では、2日からユッケの販売を停止した。担当者は「専用の包丁、まな板を使い、消費期限は開封から3時間とするなど厳格な基準を設け、第三者機関による定期検査も行っている。ただ、お客様の不安もあり、更に高い基準にするまで見合わせている」という。
これに対し、販売を続ける店もある。
大阪府内で10店舗を展開する別の焼き肉チェーンでは、4日もユッケを提供した。全店舗を統括するマネジャーによると、「えびす」と異なり、国産牛を一頭丸ごと仕入れ、店でさばく。「外部に衛生管理をまかせておらず、万全だ」
また、大阪、兵庫両府県に7店舗を構える焼き肉チェーンは2日からユッケ、生レバーなどの生肉料理を注文した客に、店員が「小さなお子さんには食べさせないで」と注意を呼びかけている。副社長(45)は「今後も衛生管理に万全を期したい」と話すが、販売自粛も検討している。