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ふつうは25年間とか一定期間を経て、審査の上で公開される政府の内部文書が、同時進行的に表に出る。アフガニスタン戦争や米外交をめぐり、衝撃的事実を明らかにしてきた内部告発サイト「ウィキリークス[記事全文]
子どもの笑顔に救われる日々だ。でも、災害はとりわけ子どもに過酷であることを、忘れてはならない。津波被災地の3県で両親をともになくした子は百数十人。どちらかの親を失った子[記事全文]
ふつうは25年間とか一定期間を経て、審査の上で公開される政府の内部文書が、同時進行的に表に出る。アフガニスタン戦争や米外交をめぐり、衝撃的事実を明らかにしてきた内部告発サイト「ウィキリークス」の波が、日本外交に及んだ。
朝日新聞社が同サイトから提供を受けた7千点近い米外交公電は、主に2006年から10年初頭までの日米関係の裏面に光を当てている。自民党政権末期から、民主党の鳩山由紀夫政権時代にかけての時期である。
米軍普天間飛行場移設先として「最低でも県外」と公約していた鳩山政権は、09年末から10年初めにかけ、代替案がうまくいかないなら現行案通り進めると米側にひそかに伝えていた。鳩山首相が方針撤回を明言する半年前である。
外交交渉はすべてを公開できるものではないが、大方針を偽るのは国民への裏切りであり、許されることではあるまい。
民主党政権の発足直後、外務・防衛官僚は、米側に「あまり早期に柔軟さを見せるべきではない」などと助言していた。
異論があれば、まず自国の政権に意見を具申するのが筋だろう。交渉相手と裏で通じて新政権に対処しようというのでは、官僚の役割をはき違えている。
不明朗な動きは、民主党政権だけではない。自公政権時代にも、米海兵隊のグアム移転の関連費用について、日本側の負担割合を見かけ上減らすために、関連費用を水増しすることを日米間で認めていた。
すぐさま公開を予定した文書ではない分、内容は赤裸々だ。米国の解釈であり、米側に都合の悪いことは隠されているかもしれない。しかし、片言にとらわれずに全体を読めば、日本外交の病理ともいうべき体質があらわに浮かび上がる。
それは、政治家や官僚が既定方針や自分たちの利害を守るために、その場しのぎの対応を繰り返していたということだ。
何が国民の利益かを考える一貫した視座は、そこにはない。強いていえば、すべてを貫くのは対米配慮である。
しかも、お互いに不信を抱えている日本側のプレーヤーたちが、米当局者に対しては比較的あけすけに内情を話している。驚きを超えてあきれてしまう。
寒々しい風景だが、これが私たちの現在位置ならば、それを直視することから、外交を立て直さねばなるまい。民主党政権や外交当局、自民党はこの公電に描かれた現況をどう見るのか。まずはそこから議論を始める必要がある。
子どもの笑顔に救われる日々だ。でも、災害はとりわけ子どもに過酷であることを、忘れてはならない。
津波被災地の3県で両親をともになくした子は百数十人。どちらかの親を失った子はその数倍に上ろう。いなくなった友達もいる。現実を受け止められるまで長い時間がかかる。
親をなくした子は、出身地近くで親族や近しい人と暮らすのが好ましい。岩手県などはふるさと納税や企業寄付をもとに震災孤児基金を設け、支援をするという。様々な人が見守り「ひとりじゃないよ」と伝え続けることが大事だ。
孤児に限らない。不自由な生活の中での通学。進学、就職、故郷の再建。震災のために夢をあきらめるような子どもを出すまい。私たちはそう誓おう。
気がかりなのは、福島の子どもたちのことだ。
校庭の利用基準を「年間被曝(ひばく)量20ミリシーベルト以下」と決めたことを巡り、内閣官房参与の専門家が「とんでもなく高い数値だ」と批判し辞任した。
基準づくりでは、当初から政府内のもたつきぶりが批判された。そもそも、放射線量を気にして外遊びを加減する環境を、子どもが強いられること自体が異常なことだ。
政府は、科学的根拠に基づき丁寧に説明を重ねるべきだ。子どもの安全はなにものにも優先する。線量測定を密にする、校庭の表土を除去する、といった対策もとってほしい。
震災の日から、各地の子どもたちが心に不安を抱えて過ごしている。こんな時こそ、学校の役割は大きい。先生がいて授業がありクラスがあって仲間がいる。日常にゆっくり戻ることが心の回復につながる。
福島では学校の再開がかなわず、散り散りに転校した所がある。津波では多くの校舎が流され、別の学校に間借りしたり避難所が同居したりと、困難は多い。施設復旧や教員配置で支援を惜しむまい。心のケアでは特に手厚く態勢を敷こう。
そして震災を機に、子どもに何を教えてゆくかを考えたい。危険から身を守るすべは。様々な情報をどう判断するか。社会の中での自分の役割は。伝えるべきは「生きる力」と言ってよい。大人すべての宿題だ。
被災地の子どもの記事を見ていて気づくこと。愛海ちゃん、拓海くん、美海ちゃん……。名前を見るだけで、ふるさとと子どもへの思いがわかる。
被災地の空を、支援のこいのぼりが泳ぐ。きょう、いとおしい存在を抱きしめる日だ。