2010年の暮れも押し迫った12月13日、新疆ウイグル自治区のニュースサイト“天山網(天山ネット)は、「四川省の収容所が数十名の知的障害者を新疆に奴隷として売り渡す」という衝撃的なニュースを報じた。このニュースは瞬く間に全国に報じられて大きな反響を呼び、事態を重く見た関係当局による知的障害者の救出へとつながったのだが、中国国民はいまなお根絶しない強制労働の報道に「またか」とその再発に驚きを禁じ得なかった。
2008年に北京オリンピックを控えていた中国では、その前年の2007年5月に、誘拐された子供たちが山西省や河南省のレンガ工場で強制労働させられていたことが明るみに出た。このニュースはオリンピック開催予定国の出来事として世界中に報じられたため、周章狼狽した中国政府は急きょ子供たちの救出作戦を展開するとともに、「児童労働」の根絶に努力する旨を表明した。(2007年6月22日付本リポート『胡錦涛・政権が頭を抱えた「酷い工場」』参照)当時は誘拐された子供たちだけに注目が集まっていたが、強制労働から救出されたのは子供たちではなく、行き場のない知的障害者も多数含まれていた。それから3年が経過し、今度はその知的障害者に焦点を当てた強制労働事件が表面化したのである。
頭髪から衣服まで全身が粉塵まみれ
12月10日の昼頃、地元住民からの情報をよりどころとして、“天山網”の記者はカメラマンとともに、新疆ウイグル自治区の区都・ウルムチ市に隣接するトルファン地区のトクソン県クミシ鎮の国道から247キロメートル離れた地にある、問題の“佳爾思緑色建材化工廠(チャアルス・エコ建材化工工場)”<以下「建材工場」>に近接する集落にたどり着いた。集落で村人に話を聞くと、この近辺の工場は一般的に10月から2月は厳寒の故に操業を停止するし、労働者の賃金は最低でも1日150元(約2000円)だが、建材工場はこれと全く異なり、1年365日全く休みなく、そこで働く労働者には1銭の賃金も支払われないのだと言う。
午後1時に記者たちは建材工場に向かったが、工場前の空き地には20センチほどの厚さに粉塵が積り、風が吹くたびに粉塵が舞い上がって喉や鼻にへばりつく。建材工場の粉砕機から10メートルほど離れた作業場には、同工場が生産する“大白粉(滑石を主成分とする白色の粉末で建築用建材として使われる)”の原料となる石材が3メートルくらいの高さに積まれていて、その上によじのぼった工員が「ヨイショ、ヨイショ」と音頭を取りながら木槌で石材を砕いている。砕かれた石材は下に落ち、下で待ち構える工員により手押し車に積み込まれるが、手押し車が満杯になるには約30分かかるようだ。
そこからそう遠くないところでは、工員が砕石で満杯の手押し車を粉砕機の方向によろよろと押しているし、その横では手押し車で運んだ砕石を鉄のショベルですくい上げている。彼ら工員たちは頭髪から衣服まで全身が粉塵まみれだが、1人が鼻をぼろ布で覆っている以外は誰1人として粉塵予防のマスクをしている者はいなかった。作業場の中では音頭を取る声がするばかりで、話し声はなく、工員たちの動作は緩慢で、生気がなかった。
一晩中、轟音を響かせていた粉砕機
カメラマンが作業場に近づいて写真を撮ったが、それを工員の1人が見つけて、間延びした声で「社長、誰かが写真を撮っている」と叫んだ。これはまずいと記者とカメラマンは大急ぎでもと来た集落に戻り、夜になるのを待って11時過ぎに暗闇の中を密かに建材工場へと忍び込んだ。そこでは、昼間は止まっていた粉砕機が轟音を上げて動いており、赤い服を着た男の指揮の下で4人の工員が昼間と同じ作業を行っていた。記者とカメラマンが集落に戻った後も、粉砕機は一晩中、轟音を響かせていた。
翌11日の昼過ぎ、記者たちは建材工場を外からのぞいているところを、社長の妻に見つかった。そこで、彼女に身分を明かし、この工場の環境汚染が深刻であるとの告発を受けて証拠写真を撮りに来たという主旨の説明をした。記者の出現に慌てて飛び出して来た社長の“李興林”は、これを聞くとなぜか安心したようで、記者の質問に気楽に対応してくれた。記者が工員たちの安全措置の不備をただしたのに対して、自分たちの手続きは万全である答えた上で、次のような説明を行った:
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