証券取引所:東証、大証 統合協議へ 主導権争い、曲折も

2011年3月10日 21時26分 更新:3月11日 1時2分

 東京証券取引所と大阪証券取引所が来秋の統合に向けた協議を開始することが10日、明らかになった。東証の斉藤惇社長と大証の米田道生社長が月内にも会談し、協議入りで合意する見通しだ。世界的な取引所の再編が相次ぐ中、動きが鈍かった国内取引所もようやく重い腰を上げた形だ。ただ、水面下で既に統合の主導権をめぐる綱引きが始まっており、協議が順調に進むかどうかは不透明。統合が実現しても、国境を越えて再編が進む欧米取引所や急成長する新興国市場から見ると、なお周回遅れと言え、国際的な合従連衡も視野に入れる必要がありそうだ。

 「強い市場が日本にできれば、アジアの各取引所ともいろいろな組み合わせができる」。東証の斉藤社長は10日、報道陣に対して、大証との統合をテコにアジアで勢力拡大を図る戦略を明かした。

 東証幹部によると、東証は約1年前から「大証の現物株取引に東証の高速処理システムを使ってはどうか」と大証に提携を呼びかけてきた。国内の現物株取引で9割以上のシェアを持つ東証に対し、大証は国内のデリバティブ(金融派生商品)取引で5割以上のシェアを握り、相乗効果が期待できるためだ。だが、大証は、デリバティブ強化につながるナスダックOMXや東京工業品取引所と連携を強め、「反応は鈍かった」(東証幹部)という。

 ところが今年に入って、ニューヨーク証券取引所などを持つNYSEユーロネクストとドイツ取引所が統合に合意するなど世界的な再編が加速した。東証も今月、マレーシア証券取引所へのシステム売り込みに乗り出し、海外強化の姿勢を演出したが、受注できるかどうかは流動的。インドや韓国企業の上場誘致もほとんど実現せず、東証1部の年間売買代金は07年の735兆円をピークに10年には354兆円と半額以下に激減した。逆に韓国証券取引所が日本のバイオベンチャー上場を誘致するなど、アジアの取引所から攻め込まれ「焦りを深めている」(大証関係者)状況だった。

 一方、大証と共同で新市場創設を検討しているナスダックOMXも、ロンドン証券取引所による買収話が浮上。大証は、当初描いていたナスダックとの連携強化が不透明になってきたことから、「東証との統合に歩み寄った」(関係筋)とみられる。

 東証と大証は、新設する持ち株会社に現物株、デリバティブなど機能別の市場をぶら下げる方向で検討。貴金属や原油などを上場する東京工業品取引所が合流する可能性もある。統合を巨額のシステム投資の負担軽減や市場の魅力向上につなげる狙いだ。

 ただ、統合協議が順調に進むとは言い切れない。大証の米田社長は10日、毎日新聞に「くっつくだけでは意味がない。大証が東証を買収する可能性もある」と語り、統合の主導権を狙う考えを鮮明にした。

 大証が自信を深める背景には、現物株のように上場審査や管理にコストがかからず、利益率の高いデリバティブ取引所が世界的に台頭していることがある。世界最大のNYSEも、デリバティブに強いドイツ取引所に統合比率などで主導権を渡した。デリバティブ中心の大証は現物株取引で地盤沈下する東証の焦りを見透かしているが、東証側は「大証が東証を買収するなんてとんでもない」と反発。統合をめぐる主導権争いが激化の一途をたどる可能性もある。

 ◇合従連衡の波、アジアへ

 世界の取引所をめぐっては、手数料が安く売買注文処理が速い私設電子取引所への対抗策の意味合いもあり、大規模な合従連衡の動きが急速に進んでおり、東証と大証の統合が実現したとしても「なお不十分」(アナリスト)との見方が強い。

 東証は昨年の売買代金が2年連続で上海証取に抜かれ、世界4位に甘んじた。大証もデリバティブ取引高で世界15位、アジア7位に過ぎない。一方、海外ではNYSEとドイツ取引所のほか、ロンドン証券取引所がトロント証取を傘下に持つTMXグループとの合併に合意。シンガポール取引所も昨年10月、オーストラリア証取の買収を決め、アジアでも国境を越えた合従連衡が本格化している。

 野村総合研究所の大崎貞和主席研究員は「世界のトップ取引所は取引規模や商品数で日本を上回っており、統合による規模拡大でさらに差が開く」と指摘する。海外取引所グループも再編で巨大化するため、上場企業の時価総額で世界3位の東証は、大証と統合しても4位に転落する計算だ。上海に深セン、香港を加えた中国主要3市場の時価総額にも届かず、「国境を越えたさらなる合従連衡が必要」(大崎氏)との声が強い。【田所柳子、横山三加子】

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