第1部 新時代の手掛かりを
鬼怒川 「中国へ売り込み」
爆竹が鳴り響き、雑技団が宙を舞う。中国とは縁もゆかりもない北関東の温泉地に、「大陸の風」が吹いた。今年2月、中国の旧正月を祝う「春節祭」が栃木県日光市の東武鬼怒川(きぬがわ)温泉駅前で華やかに行われた。「誘客のために地域が一つになれるものが、形になってきた」。企画した鬼怒川・川治温泉観光協会インバウンド誘致委員会の波木恵美(なみき・えみ)委員長は、目を細めた。
▽中国へ売り込み
「東京の奥座敷」と称された鬼怒川温泉は、バブル崩壊後に観光客が激減。追い打ちを
掛けたのが2003年11月、地元の足利銀行(宇都宮市)の破綻(はたん)、一時国有化だった。大口融資先のホテルは多くが経営危機に陥り、暗雲が垂れ込めた。04年6月、国から地域再生計画の認定を受けた日光市は、足湯や公園などの施設整備に着手。産業再生機構はホテルの経営再建支援に乗り出した。ただ、温泉街全体に活気を取り戻すためには「地域の主体的な取り組みが欠かせない」(同観光協会)。着目したのは、外国人客の誘致だった。中国で会社を興した経験を持つ、ホテル経営の波木さんに、旗振り役として白羽の矢が立った。同年9月に仲間と中国を訪問し、人脈を生かして観光当局や旅行エージェントに働きかけた。当時、行政を通さない民間キャラバン隊は珍しく、「熱烈歓迎」を受けた。翌月には早速、中国のエージェントやマスコミが鬼怒川温泉にやってきた。効果を実感した観光協会は、受け入れ態勢を整えていく。宿泊施設間で情報を共有化し、外国人客の受け入れ先を紹介し合う動きも出てきた。バブル期、ホテルや旅館は規模拡大で集客を競い合い、地域の一体感は薄かった。「みんなで鬼怒川温泉に泊めようという機運が高まってきた」(波木さん)。
▽新たな祭りも
隣接する川治温泉と合わせた鬼怒川温泉の宿泊客数は07年度、3年ぶりに200万人台を回復。外国人客は4万4千人で、3年前の3倍以上に伸びた。春節祭は3回目を迎え、定着しつつある。「何か新しいことをやろう」。同協会の八木沢勝久(やぎさわ・かつひさ)会長(70)の呼び掛けで、「秋の宵まつり」の開催が決まった。明かりで夜の散策を演出する新イベント。時期は10月、中国の大型連休に当たる「国慶節休暇」に合わせた。波木さんは語る。「大きな宿泊施設と小さな店が協力して、おもてなしをすることが大切。地域の結束がさらに強くなればいいですね」宵祭りのテーマは「心に花を咲かせましょう」。苦難を経験した温泉地に、再生を目指す人たちの思いが芽吹き始めた。(下野新聞社、文・三浦一久、写真・池田芳一)
鬼怒川(きぬがわ)温泉 約80軒の旅館を抱え、箱根(神奈川県)と並ぶ関東の大型温泉地。宝暦2(1752)年に「滝温泉」として発見され、江戸時代は日光山の僧侶の湯治場だったとされる。東京・東武浅草駅から特急で約2時間。2006年3月には、JR新宿駅から直通特急の運行が始まった。
- 第12部 刺激を手掛かりに
- 【01】秋田市 「地域活性化の源泉」【秋田魁新報】
- 【02】金沢市 「先人の志を継承」【北國新聞】
- 【03】別府市 「温泉街に貢献」【大分合同新聞】
- 【04】まとめ 「留学生定着へ支援を」【共同通信】
- 第11部 医療を支える
- 【01】遠野市 「遠隔医療」【岩手日報】
- 【02】小鹿野町 「在宅ケア」【埼玉新聞】
- 【03】多治見市 「新型ドクターカー」【岐阜新聞】
- 【04】まとめ 「再建は急務」【共同通信】
- 第10部 財政の挑戦
- 【01】上越市 「地域活動資金」【新潟日報】
- 【02】安芸太田町 「ケチケチ作戦」【中国新聞】
- 【03】宮崎市 「地コミ税」【宮崎日日新聞】
- 【04】まとめ 自前の「財布」【共同通信】
- 第9部 人集うまちに
- 【01】坂井市 「地産地消」【福井新聞】
- 【02】高松市 「黒船来航」【四国新聞】
- 【03】対馬市 「韓国と交流」【長崎新聞】
- 【04】まとめ 「休日分散」【共同通信】
- 第8部 農を開く
- 【01】福島 「輸出に活路」【福島民友新聞】
- 【02】静岡 「アメーラ」【静岡新聞】
- 【03】熊本 「米粉メロンパン」【熊本日日新聞】
- 【04】まとめ 「知恵活用と連携」【共同通信】
- 第7部 足を守る
- 【01】鰺ケ沢町 「全住民参加」【東奥日報】
- 【02】富山 「攻めの投資」【北日本新聞】
- 【03】四国中央市 「デマンドタク」【愛媛新聞】
- 【04】まとめ 「移動の権利」【共同通信】
- 第6部 子育てを支える
- 【01】東通村 「公営塾」【デーリー東北新聞】
- 【02】山形 「協働」【山形新聞】
- 【03】群馬 挑戦【上毛新聞】
- 【04】まとめ 空回り【共同通信】
- 第5部 新たなしるべ
- 【01】室蘭 ボルト人形「ボルタ」【室蘭民報】
- 【02】美作 「温泉街に女子サッカー」【山陽新聞】
- 【03】鳥取 「芝生化効果」【新日本海新聞】
- 【04】まとめ 「メセナが再び」【共同通信】
- 第4部 地方議会動く
- 【01】蔵王 「会期は通年」【河北新報】
- 【02】山梨学院大 「町議会と協定」【山梨日日新聞】
- 【03】鳴門 「市議の大量逮捕」【徳島新聞】
- 【04】まとめ 「八百長と学芸会」【共同通信】
- 第3部 「自力で開く」
- 【01】喜多方 「5ミクロンの微生物」【福島民報】
- 【02】神戸 「大手の下請け返上」【神戸新聞】
- 【03】有田 「究極のラーメン鉢」【佐賀新聞】
- 【04】まとめ 「開発秘話」【共同通信】
- 第2部 新たな力
- 【01】白馬 「外国人経営」【信濃毎日新聞】
- 【02】祇園 「クギ1本」【京都新聞】
- 【03】石見銀山 「空き家を社員寮」【山陰中央新報】
- 【04】まとめ 「リーダー育成」【共同通信】
- 第1部 新時代の手掛かりを
- 【01】夕張 「移住体験」【北海道新聞】
- 【02】鬼怒川 「中国へ売り込み」【下野新聞】
- 【03】四万十 「農家108人株式会社」【高知新聞】
- 【04】まとめ 「コミュニティ」【共同通信】
- 番外編「スコットランドの分権10年」
- 【01】「住民の目線で法案」【共同通信】
- 【02】「削減目標、世界一」【共同通信】
- 【03】「紡績工場が世界遺産」【共同通信】
- 【04】「失業者のいない村」【共同通信】
- 番外編 「地域再生列島ネットから」発足1周年記念シンポ
- 【01】報道を活用、売り込み展開 メンバー活動報告(1)【共同通信】
- 【02】学生を引き込み全国発信 メンバー活動報告(2)【共同通信】
- 【03】地域が自発的に行動を メンバー活動報告(3)【共同通信】
- 【04】きずなづくりに着眼 メンバー活動報告(4)【共同通信】
- 【05】熱意と人材育成が活力に 総務相交え、パネル討論【共同通信】
地域再生列島ネットから
- 12.『国際交流、インフラも課題』
【意見のまとめ】地域の良さ見直す機会に - 11.『地域への誇りが魅力に』
【意見のまとめ】高齢者の健康を地域で支えるには - 10.『自治体、財政情報公開を』
【意見のまとめ】財政に住民の声反映させるには - 9.『地域への誇りが魅力に』
【意見のまとめ】観光で人をひきつけるには - 8.『農業を再建するには?』
【意見のまとめ】安全性や連携が重要 - 7.【意見のまとめ】公共交通をどう守るか
- 6.『地方で子どもを増やすためには?』
【意見のまとめ】新住民ひきつける工夫を - 5.『文化を地域ビジネスにつなげるには?』
【意見のまとめ】資源を発見し情報発信を - 4.『期待される地方議員像は?』
【意見のまとめ】少数精鋭で首長と論戦を - 3.『(1)地域で活用できる経済的資源は?(2)新政権への期待は?』
【意見のまとめ】 情報発信、発想が自立の鍵 - 2.『地方自治体の新たな担い手は?』
【意見のまとめ】NPO、地域の顔に期待 - 1.『自治体の首長になったら?』
【意見のまとめ】鍵は愛着教育と特色づくり
第13回 7月下旬予定