きょうのコラム「時鐘」 2011年5月4日

 開通したばかりの金沢井波線を走った。先週まで雪が残り桜とモクレンが競っていた山あいに若緑が広がっていた

高架道のすぐ脇には「殿様道」と呼ばれた古道が残っている。越中の福光から加賀の二俣をつないで加賀の殿様が通った藩政期の主要街道である。今も石仏などの古道らしい風情が漂っている

「蓮如の里へようこそ」の看板があった。中世には一向一揆の重要なルートだった。奈良時代からの官道だというから千数百年の歴史がにじんでいる。緑の季節を迎えた医王山ろくはハイキングに最適である

鳥取県の大山(だいせん)と同じように、医王山も「山」と書いて「ぜん」と読む。呼び方からして山岳宗教の色が濃い。福光側の雑木林の中から中世の寺院跡が発掘されたのは、ほんの20年ほど前のこと。立山や能登の石動山などとも連動する歴史の全容はまだ解明されていない

標高は千メートルにも満たないのに、医王山の懐は深くて、広いすそ野の緑の美しさとともに魅力的だ。新ルートが完成した後には歩く人もいない旧道が何やら文化財に見えてくる。加越能三国の古代・中世・近世と今の歴史がある。