梶浦由記 スペシャルインタビュー
人の声って、わたしは大好きなんですが、同時に、最終兵器だとも思っています。
-----梶浦さんの劇伴の場合、「声の使い方」がとても巧みだなと感じています。
梶浦: 声を入れるか入れないかは作品にもよりますが、人の声って、わたしは大好きなんですが、同時に、最終兵器だとも思っています。どういう使い方をしようと、「人の声は耳を奪ってしまうもの」なんです。声って、「人に呼びかけるための器官」のように、「人を振り向かせられるように出来ている」んですね。だからこそ、そこのさじ加減は大事だなと思っています。
-----梶浦作品に、コーラスワークは欠かせない味にもなっていますよね。
梶浦: 単純に好きなんですよね。小学生の頃から長年合唱部で歌ってきた経験があるからこそ、声を重ねたときの楽しさをすごくわかってる。わたしはアルト担当。アルトって、全部のパートを聴いたうえで唄うので、とくにハーモニーの楽しさをわかっているせいか、今でも、声を重ねてゆく作業をするたびにゾクゾクしてきます。中でも、低音のハモリを活かせる歌が大好きなんです。
-----と同時に、梶浦ワールドにはロック的な要素もすごく感じています。
梶浦: バンドの要素もすごく好きなんです。それにエレキギターをフューチャーしたり、バンド・サウンドでなければ出来ないこともいろいろありますし、そういうところにビリビリきちゃうマインドもあるので、そういう衝動は自分でも止めたくはないですね。
わたしが手がけた作品の場合、記憶喪失率の高い作品が多いんです(笑)。
-----梶浦さんの場合、重厚なアニメ作品の劇伴を手がけることが多くないですか?
梶浦: わたしが手がけた作品の場合、記憶喪失率の高い作品が多いんです(笑)。気がついたら、ちょっと影のある作品から声のかかる率が多くなってました。以前に『舞-HiME』の劇伴を手がけることになったときにも、「萌えアニメキターッ!!」と心の中で叫びつつ、「わたしでいいんですか?」と聴いたら、「大丈夫です。途中から、話の展開が暗くなりますから」って(笑)。『魔法少女まどか☆マギカ』でも、早い段階で”萌え作品”じゃないことがわかりましたからね。そういう内側な世界が多いので、たまには”ほのぼのっとした作品”もやってみたいんです。ぜひ、声をかけてください(笑)。
-----でも梶浦ワールドは、重層な世界観こそが似合うと思ってしまいます。
梶浦: むしろ、アニメーションには重層な音楽が合うんです。これが実写になってしまうと、音楽が主張をし過ぎて邪魔になってしまうけど、アニメーションの場合、とくにファンタジーやSF的な作品であればあるほど、重層な楽曲が似合ってゆく。だからアニメーションの音楽って、ド派手にやったほうが恰好良いという感覚はありますね。
『FICTION II』は、「8年分の梶浦由記のベストと、2011年の梶浦由記のやりたいこと」を詰め込んだ「現在のわたしの名詞」となる作品になりました。
-----このたび、8年ぶりとなるソロ・アルバム『FICTION II』が誕生しました。
梶浦: 1枚目の『FICTION』も、ハーフベストな形と言いますか。既存の楽曲と新曲を組み合わせた作品にしていたので、今回も、その形を取りました。
-----ハーフベストですか
梶浦: これまでにも数多くサントラ盤を手がけさせていただき、気がついたら数十枚という数になりました。そんな中、「梶浦由記の世界を楽しむにはまず何を聴けば良いですか?」と聴かれても、数がありすぎて困ってしまうというか。「日本語の歌ものを聞きたいなら、KalafinaやFictionJunction関連を聴いてください」と言えますけど。そうじゃないときの場合、まずは『FICTION』をお勧めするようにしてきました。ここには、わたしが関わってきた作品たちの楽曲とオリジナル曲がたくさん入っています。それを聴いたうえで、気に入った楽曲のサントラ盤を聴いていただければ良いのかなと思っています。それと同じスタイルで、今回『FICTION II』が加わったという形ですね。
-----新曲に関しては、何かしらテーマ性を持って望んだのでしょうか??
梶浦: 普段の劇伴制作では、コンセプトを重視して制作しているから、新曲に関してはあえて何も考えず、今の自分が作りたい楽曲を生まれるがままに作りました。新曲に関しては思いついたことをすべて演りました。今回の『FICTION II』は、「8年分の梶浦由記のベストと、2011年の梶浦由記のやりたいこと」を詰め込んだ「現在のわたしの名詞」となる作品になりました。
-----やはり、名詞となる作品は必要なんですね。
梶浦: 名詞は必要ですね。先のお話じゃないですが「ライブへ行くときに何を聴けば良いですか?」と聴かれた場合、「これを聴いてください」と束にしたサントラ盤を提示するよりも、「『FICTION』と『FICTION II』を聴いてください」と言ったほうが早いですし、6月29日にNHKホールで行う「Yuki Kajiura LIVE vol.7″FICTION”」にも、”FICTION”と名付けたように、この2枚に収録した楽曲を中心にと考えています。そのうえで、FictionJunctionを通した日本語の歌もやってみたいかなとも考えています。
-----6月29日にNHKホールで行う「Yuki Kajiura LIVE vol.7″FICTION”」は、どんな編成になりそうでしょうか?
梶浦: フルバンド+歌い手4人に、ヴァイオリンが加わるという編成を軸に、もしかしたらゲストさんを呼び入れてとなるかもしれません。