中川昭一ライブラリ

NAKAGAWA Shoichi Library

講演録・文書等
2011.04.27

【講演】「経済雑感vol.2」(2007〈平成19〉年末)

経済雑感vol.1 」(2007〈平成19〉年末)
のつづき
(2007年末・昭成会(79回)での講演より)

◆サブプライムローン問題とは
まずサブプライムローン問題とは、いわゆるプライムではないサブプライムの人たちへの住宅ローンを借りやすくして、しかもその債権を証券化して、その証券化したものがどういう格付けでどのように売られていったものか全くわからないまま、ある日突然に格付け機関がその証券の信用度を下げた結果、信用収縮を起こしてしまった、という問題です。

 
 このサブプライムローンなるものは、最初はとても低い金利ですが、2~3年の据置き期間が過ぎると金利がいきなり倍ぐらいになります。
 最初に平均金利は約7パーセントに設定されていますが、2~3年後には15~17パーセントに跳ね上がってしまうわけです。借りやすいので誰でも借りてしまう。ところが金利負担がいきなり倍になって返せなくなる。
 その家を担保にして質流れにしてしまえおうと思っても、その数がものすごい勢いで増えているわけであります。


 しかもアメリカは日本よりもはるかにカード社会であり、住宅ローンがおかしくなると教育ローンも自動車ローンも、そしてカードローンそのものまでもがおかしくなる。これは単に一部の低所得者の住宅債務の破綻だけでは済まない問題です。


 全部で10兆ドルある住宅ローンの内、サブプライムローンの残高は1.3兆ドルだそうです。
 ただ、直近の見直しで金利が倍になるものが貸出額として5.6兆ドル残っているそうで、はたしてどれだけの人たちがきちっと返済できるのかわかりません。日本政府もアメリカ政府もサブプライムはもう峠を越したとか、多額のお金を積んだのだから大丈夫だなどと言っておりますけれど、私に言わせればこれからがいよいよサブプライムの山場なのであり、サブプライムローンと、それを証券化したマーケットの危機がとても心配されます。




◆ルーズベルトからブッシュまで
 サブプライム問題の元をたどれば大恐慌まで遡るのだそうです。
 大恐慌の前に土地バブルがあって、大恐慌を境に一挙におかしくなってしまった。それをルーズベルトのニューディールの時に、国が先頭に立って住宅取得のためのいろいろな支援策をやったようです。
 たとえば、政府機関が金融機関に低金利でお金を貸すとか、あるいは国民に直接お金を貸すとか、債権を政府が買い上げたり保障したり、つまり政府が政策として住宅や土地の取得に直接関与していたようであります。
 そしてそういう時代が長く続きました。
 ところがブッシュの時代になり、アンチ・ニューディール政策と申しましょうか、『民間で出来ることは民間で』と、大きく方向転換をしました。
 いわゆるオーナーシップ社会を作ろうということで、民が主体となる「オーナーシップ社会ポリシー」というものをブッシュは公約に掲げたわけであります。
 それと同時にあらゆる金融の機能を国から民間へどんどん移したわけであります。ファニー・メイという有名な政府系金融機関などはブッシュが登場したころは全米でも莫大な金融資産を持っていたトップクラスの金融機関でしたが、今ではかなり下位になってしまいました。
 こういった規制緩和も程度問題でありまして、過剰になったものにすぐストップを掛けることができなかったことがその後の失敗の大きな原因であります。


 ブッシュが進めていた低金利政策や金融イノベーション、つまり何でもかんでも証券化し、何でもかんでもコンピュータによる指数で判断、といったことが行われました。
 ところがコンピュータで指数を判断・審査するとなると、不正もしやすくなってしまうのだそうです。つまり間違ったデータを入れておけばダメなものもオーケーになってしまう。
 聞くところによると、とりあえず「100ドル借りてすぐ返す」といった操作を行って信用度を偽装し、その点数をコンピュータが自動的に判断してその債権の信用度が高くなるといった、つまり架空の格付けがされてしまった。
 このように証券化と過度のコンピュータ化、低金利政策と金余りのなかで、何十年間にもわたるオーナーシップ社会が続いてきたということです。




◆そして、サブプライムローン問題へ
 アメリカ人というのはみんな家を持っていて、とても豊かな人たちだと昔から思ってきましたが、このことでアメリカは国を挙げて無理やり国民に土地や住宅を持たせる政策を取っていたのだということがわかりました。


 もちろん国土が広いからそうなる土台はあったのでしょうが、支払い利子は100万ドルまで税額控除できるという政策など、かなり無理をした形で持ち家政策を続けてきたわけであります。
 そこにコンピュータの問題、低金利・金余りなどを背景に、本来は家を持つことが無理な人にまでモゲージ会社と称するものがどんどん家を買わせたわけです。
 そしてその債権を他のいろんな格付けのものと混ぜ合わせて証券化することによって大きく格付けをアップし、市場で売り買いされていったようであります。


 これが順回転しているうちはいいのですが、一歩間違えると逆回りを始めてしまうわけです。
 それが証券において起きてしまいました。なにしろサブプライム・マーケットには買い手がいませんから、紙屑といってもいいほどに信用度がなくなっております。
 我々が経験した80年代の住専バブルの破綻の問題や、アメリカのS&L問題、97年のアジア通貨危機、2000年代初めのエンロン問題という4つの失敗がここに凝縮されていると私は思います。この4つの失敗を全く反省しないまま突き進んでしまったのだと言わざるを得ません。


 日本はバブルが崩壊した時、アメリカや世界中からバカにされました。
 アジア通貨危機の時も東南アジアの人たちはヘッジファンドを恨みました。
 S&Lの時には小さな貯蓄組合に貯金していた人たちがずいぶん恨みました。
 エンロンの時も儲かると思って知らずに話に乗った人たちが痛い目にあいました。


 しかしまったく反省をせずに、一挙にこの4つを凝縮した形で起きたのがサブプライムローン問題であります。この問題はアメリカの実体経済にとってさらに大きな影響を与えるだろうと思います。

(つづく)

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