住宅地図に増える空白 表札も「プライバシー」に
2002/02/26

 住宅地図に空白が増えている。空き家もあるが、地図への記載を拒否する人や、軒先やマンションの郵便受けに表札を掲げない人が以前より増えたこともあるらしい。理由は「プライバシー」の自衛。国や裁判所は「住所・氏名・年齢・性別はプライバシーではない」という見解に立つが、そう考える人が減ってきたといえる。(企画報道班)

 ゼンリン(本社・福岡県)発行の昨年版神戸市灘区の住宅地図を開く。同社は調査員が一軒一軒表札を確認し、白地図に居住者の名前を書き込む。空き家のほか、表札を掲げていない家、記載の削除を申し出た家が空白になる。

 無作為に選んだ十地区約千四百世帯のうち、空き家を含む空白は約14%で、うち集合住宅約八百世帯だけを見ると約20%に上った。大半は空き家だが、住人がいても表札がない家もある。

 同区内のあるマンションでは二十八世帯中、玄関の郵便受けに名前があるのは、わずかに九世帯。表札を掲げていない家の男性は「頻繁に客が来るわけでもないし、表札がなくても郵便は届く。世間が物騒なので、できるだけ名前は出したくない」と話す。

 一九九八年には鹿児島県内の男性がゼンリンを相手取り、「同意なく地図に居住者を表示することはプライバシー侵害」として、鹿児島地裁に出版差し止めの仮処分を申し立てた。

 だが同地裁は国が名前性別・住所・生年月日を記した住民基本台帳の閲覧を許している例から「特別な事情のない限り、問題は生じない」として、男性の訴えを退けた。

 同社総合企画室の、つるア一憲部長は「宅配便などの配達のほか、救急などにも利用していただいている。それがプライバシー侵害に当たるのなら、社会は成り立たない」と話す。

 平松毅・関西学院大教授(憲法)の話 「プライバシーとは相対的な権利であり、他人に知られたくない情報を、第三者が故意に流した場合は侵害になる。だが知られたら困るという特別な事情がない場合、住所や氏名は社会での連帯のために公開されても良いといえる」

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