物語に嵌ったとき、好きなキャラができるのは当然の成り行きだろう。
ほにゃららは俺の嫁。
○○×△△はジャスティス。
この気持ちが発展してできた言葉たち。きっと、どこかで見たことがあると思う。
訪れた運命の日。
高校生の俺は友人の家で、今流行りのISについて、熱く議論を交わしていた。
「だからさ、一夏は鈴とくっつくのが一番いいわけよ」
「あー? 何言ってんだよシャルだろシャル。お前あの天然カップル見ててなんとも思わないわけ?」
「思わないわけないだろ! なんだあの可愛い生き物てめぇら結婚しろ!」
「……おーい、鈴が好きなんじゃないのかー?」
友人の冷めた視線に、はっと自分を取り戻す。いかん、思わず我を失っていた。
「いやだって幼馴染だぜ? ツンデレだぜ? ツインテールだぜ? 貧乳だぜ?」
「最後、必要か?」
「鈴の一夏に対するかまってちゃんな行動と一夏の天然さがもうね、俺のツボをびんびんに刺激するわけ。わかる?」
「わからん……でもないかなぁ。でもさ、こういうのうって普通、鈴みたいな彼女が欲しいとか言わないか?」
「はっ」
間抜けな発言を鼻で笑い、蔑みの視線をプレゼント。
「お前はなんにもわかっちゃいない。いいか、対岸の火事って言葉があるように、あくまで見てるのが楽しいわけ。傍観者が最高なわけ。当事者になんかなりたくはないね」
「……とりあえず、二次と三次をごっちゃにしていないのはわかった」
「それに俺、ツンデレ好きじゃないし。あくまで鈴と一夏の組み合わせがだな」
「あ、もう結構」
おなか一杯という顔をしたので、多分納得してくれたのだろう。俺は満足感を味わいつつ、両手を後ろについて天井を見た。
「原作どうなるかなぁ。一夏と鈴付き合わねぇかなぁ」
「さあ? まぁ、待つしかないだろ」
とまぁ、お互いに譲れぬ主張をぶつけ合った帰り道。
俺は車にはねられ、宙を舞った。
意識が途切れ、次に戻ったとき。俺は、目を開けるのも億劫になるほどの体のだるさを感じていた。
……どこだ、ここ。
見上げた天井は、見覚えがなく。自室でないことだけは確かだった。
状況を把握しようとあたりを見回す。昔、入院していたばあちゃんを見舞ったときを思い出すような白い部屋に、俺は居た。
首はかろうじて動くが、手足は動かない。正確には動かせるのだが、痛みを感じるので動かしたくない、といったほうが正しい。
……病院か。
記憶が徐々に戻ってくる。車にはねられた事を思い出し、ああ、だからかと納得した。あのときに感じた衝撃までは、思い出したくはなかった。
すっと目を閉じる。これほどの僅かな動作でも、俺は疲れを感じていた。
どうやら一命は取り留めたらしい。それがわかれば、十分だ。
意識が遠のく。今は、とにかく眠いのだ。次に起きたときに、現状を把握すればいいだろう。
その時の俺は、まだ事の重大さに気がついていなかったのだ。
今度目を開いた時は、人の気配を感じたときだ。
点滴を変えようとしている看護士さんと、目が合った。驚いた様子で、俺の意識があるのかを確認してくる。口を開くのはかったるい。俺は首を動かした。
途端、看護士は先生を呼び出した。
連れられてやってきた医者の話では、やはり俺は車にはねられたらしい。退院は少し時間がかかるが、後遺症の心配はないとのことだ。
悪運が強いと、寝すぎたようにぼんやりとする頭で思う。
両親には連絡したので、すぐに来るだろうとの事。
そうして三十分。やってきた両親は、確かに俺の両親だった。但し、何故か知っている姿より若い。
両親と医師の話を聞いていると、俺は小学三年生らしい。
痛むのをこらえ、なんとか腕を目に晒す。
……なるほど。子供だと納得できる腕の細さだ。
現状を把握し、俺は結論を出した。
タイプスリップか。どこのSSだ。
だが現実はそんなものではなかった。
退院してから世界を知ったのだが、どうも女尊男卑が過ぎる。確かに女性の権力は社会で強くなってきてはいたが、これはいきすぎだ。
おまけに、ISだとか篠ノ之束博士なんていう、馴染みある単語がニュースから聞こえてくる始末。
俺は結論を修正した。
トリップか。どこのSSだ。
オタクとしてそういう想像をしたことがなかったわけじゃない。お陰で、パニックにならずにすんだ。人生何が功を奏するかわからないものだ。
まぁこうなってしまったのなら仕方ない。現実を受け入れ、生きるしかないのだ。
幸い、ISの世界ならば特に今までと変わりはないだろう。小学校からやり直せると思えば、むしろもうけものと思えばいい。
そう思いながらあがった小学四年。
「俺、織斑一夏! よろしくな!」
「佐々木椿だ。よろしく」
……ふむ……ふむ。
なるほど、なるほど。
これが夢か妄想か現実かはわからない。
だが一つ確定したのは、ここはISの世界だということだ。
もしも妄想だとしたら、流石オタク脳と自分を褒めたくなる。現実と全く同じ手触り感触を維持したまま、二次元を構築したのだから。
つまり、神はこう申しているわけだ。
『一夏と鈴が好きならば、くっつけてみろ』
よろしい。カプ厨オタクの力、舐めてもらっちゃ困る。
――その挑戦、受け取った!
え、他のヒロインはどうなるのかって?
俺が知ったことか。
『おまえら結婚しろ』
神からの挑戦を認識してから時は経ち。俺は一夏と友好を深めていた。
そして、小学五年生。
とうとう目当ての人物がやってきた。
「鳳鈴音よ! よろしく!」
心のなかでどれだけキターーー!!! と歓喜したかわからない。俺の胸の中は、期待と興奮が暴風雨である。
なにせ原作では碌に語られていない子供時代のやりとりが見れるのだ。鼻息が荒くならないわけがない。
だが俺は熱を体内に押しとどめ、一夏と鈴に積極的に介入することをしなかった。ただ見守っていただけである。
もしかしたら、鈴が一夏にデレないかもしれないからだ。それは避けなければならない。原作で出れているのだから、俺が余計な手を加えなければデレるだろう。ちょっかいを出すのはそれからで遅くはない。
予想は当たる。
一夏と鈴は、それはもう毎日のように衝突した。
酢豚にパイナップルを入れるか否か。
どちらのほうが馬鹿か。
貧乳はどこからが貧乳か。
最後は議論にすらならずに鈴が粛清した。あまりの早業に、俺にできたことは、一夏に南無と手を合わせることだけだった。
事あるごとの喧嘩に、教室のやつらも、ああ、またか程度にしか感じなくなったその頃だ。鈴の一夏への態度が変わってきたのは。
――オチたか。
流石は天下の朴念仁にして一級フラグ建築士。さて……俺が動くとするならば、ここからだ。
鈴はそれはもう素晴らしいツンデレだった。実物を見るとうぬと唸りたくなる。自分に来るのはごめんだが、見ている分にはやはり楽しい。
さりげなく鈴と一夏を同じ班にしたり、さりげなく一夏と鈴を一緒に帰らせたり、さりげなく鈴と一夏が二人っきりになりそうなら周囲の人間を排除したり。
そんなさりげない支援ライフを続けたうちの一日だ。
「おっはよー!」
朝からもの凄く上機嫌な鈴。そのあまりの機嫌のよさは、クラスメイトが声をかけるのをためらうほどだった。
一種硬直状態になった教室の空気を打開したのは、五分ほど遅れてやってきた一夏だった。
「おはよう」
「あ、おはよう、一夏!」
先ほどにも増して輝く笑顔の鈴の姿に、全員が悟った。
――ああ、やっぱり原因はお前か。
クラスメイトの顔を見るだけで、心の声が聞こえてきたようである。
「お、おお。なんだ鈴、えらく機嫌いいな」
「べっつにー? そんなことより、ちゃんと約束憶えてなさいよ!」
「わかってるよ」
盗み聞く必要も無いほど大きな声で、鈴がびしりと釘を刺していた。
……約束? ……約束。
ふむ、これは、あれか。酢豚を毎日食べてくれる? というやつか。
それとなく確認してみるとしよう。
なんて聞くか……。いや、確認するだけじゃだめだ。一夏がどういう認識なのかを、知らないといけない。
「お前ら、約束ってどんな約束したんだ?」
結局直球である。そしてそれをパカンと打ち返そうとする一夏。
「椿? いや、鈴が料理うまく――」
「ば、ばか一夏! 他の人に話しちゃダメ!」
「はぁ? なんでだよ?」
「それくらいわかりなさいよ! ……だ、だって、恥ずかしいじゃない……」
「恥ずかしいって……」
ここまで確認できれば、把握するには十分だ。一夏が余計なことを言う前に引くことにしよう。
「ああ、悪かった。二人の秘密の約束なんだな。それなら仕方ない」
「へ、変な言い方すんな!」
顔が真っ赤だ。なんというツンデレ。
しかし、これは一夏に仕込みをしなければなるまい。
いわば運命の分かれ目だ。一夏と鈴をくっつけるには、これを逃してはならない。
……ふ、腕が鳴る。
一夏よ、貴様がした約束がどういったものか、思い知らせてやる!
ネタ以外の何物でもないね!
IS二次はオリ主ものばかりらしい→流行に乗ってみるか!→酒が入る→やっはーーー!→今ここ。