チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[26956] 【ネタ】とある騎士(ナイト)の七罪装備(グラットン)【習作】
Name: オニオンソード◆3440ee45 ID:fb0bbf73
Date: 2011/04/28 11:46
はじめまして、作者のオニオンソードと申します。


本作は、とある科学の超電磁砲×FFⅪ(?)+αのクロスオーバーもののSSです。

色々とSSを読んでいるうちに、つい書きたくなってしまったため、

文章や展開の構成など不慣れではありますが、書いてみようと書いた次第でございます。

お見苦しい点は多々ありましょうが、もしよろしければ読んでやってください。




[26956] BA・仕様変更・近況報告 【4/26 重要な質問があります】
Name: オニオンソード◆3440ee45 ID:fb0bbf73
Date: 2011/04/30 21:54
2011/04/30 21:44

追投稿文を作成中に、
「あれ、そういえば黒子の一人称って「私(わたくし)」とか「黒子は」、だけど、
 わたくしの表記って「私」だっけ?「わたくし」だっけ?」、と思い至りインデックス3巻にて検証したところ、
「わたくし」だった為、これまでの全文の該当箇所を修正いたします。

二人称も「貴方(アナタ)」じゃなくて「あなた」(禁書)か「アナタ」(電磁)っぽいですし、
むう、色々至らなくて申し訳ありません。


2011/04/26 20:50【重要】

現在、序盤の描写―ブロントさんが学園都市入りする場面―の、ドリフターズではないヴァージョンを……
つまりは純粋にFFⅪの要素だけで他世界に飛ばされるようにする構成を考えています。

今はまだ文章にして書き上げようという段階ですので、少し先でしょうが、改変が可能な状況です。
なんのクロスオーバーかを分かりやすくするために、序盤を改変するべきでしょうか?
一度あのドリフターズな始まり方をしたのだから、このまま進めるべきでしょうか?

よろしければ、意見を頂ければ幸いです。


2011/04/21 01:41

書きかけの文章を操作ミスでロストしてしまったのでバックアップからやり直し中です;
更新はもう少々お待ちください(焼き土下座)。


2011/04/14 20:50

読者様の指摘で誤字を修正させて頂きました。
そろそそ筆者は微妙な誤字も許されない緊張感を生んで執筆すべき!失踪したくないならそうすべき!

なんとこの記事のPVが10000を超えていました!
といってもなんの値かいまいち把握出来ていないのですけども…閲覧数ですかね?
なんにしても大台はきっと良いことですね、ありがとうございます!


2011/04/14 3:41

俺はとんずらを使って普通ならとっくに書き上がってる時間できょうきょ投稿すると
「やっと書けたのか!」「おそい!」「きた!SSきた!」「サポSSきた!」「もう(内容)忘れてる!」と大ブーイング状態だった。

やっとこさ続きが書けました、遅くなって申し訳ありません。


2011/04/12 22:17

SSを書くための時間が取れない!取りにくい!
只今合間を縫って書いておりますので、続きは少々お待ちいただけると嬉しいです。
不甲斐ない筆者を許してくだしゃあ;;


2011/04/06 3:57

SS形式に改善中に消してしまったのか、消えていた文章を補完。
美琴が望まないと分かっていたのに、理由もなしに黒子が美琴の望まないことをするという、
消えている文章がないことで、理由のない矛盾が生じる訳の分からない文章になっていました。
何度も誤植誤字をし続ける浅はかさは愚かしい、良く寝て頭冷やしますorz


2011/04/06 3:48

作品内における誤植と誤字を変更。
コピペし過ぎました;
話をキリの良いところまで書くまではsage進行をメインに。


2011/04/05 3:05

作品内における誤字を修正。
空白記事を記事を詰めることで無くしました。


2011/04/04 23:05

文章を細かく切りすぎているという不具合があったので修正しようと思ったのですが、
自分の力量では一気に書き上げるということがまだ出来ないため、
過去に書いたものはひと括りにし、新しいものを一番下に持っていくという方式にしてみます。

結局細かく掲示板が上がるので根本的な解決にはなってないのですが、
「貴方って、本当に最低の屑だわ!」と言われないよう、今後はなるべく長くしてあげるように致します。


2011/04/04 8:00

投稿済みの内容を、台本形式からSS(っぽい)形式に変更してみました。
こうですか!? わかりません><
真のSS筆者は思わずSSをしてしまってる真のSS筆者だからもててるのだから、
変えても少々おかしいかもしれませんが、
郷に入っては郷に従え、今後はこの形式で行こうと思います。



[26956] 第1話 上 #1~#10
Name: オニオンソード◆3440ee45 ID:fb0bbf73
Date: 2011/04/30 22:08
         ~《ヴァナ・ディール クフィム島・ベヒーモスの縄張り》~


アアッ、ニンジャサンガヤラレター!
メインタテナシジャカテナイヨー!
ヤメロ!シニタクナ-イ!シニタクナーイ!シニタクナーーーーイ!!
ブロントサンハヤクキテーハヤクキテー!


5種族の人間と、幾種類かの獣人が争いながら住んでいる、
剣と魔法と広大な大地の幻想世界、《ヴァナ・ディール》。

その世界の一部に、モンスターと冒険者が跋扈する3つの大陸と、大小の島々がある。

冒険者は主にモンスターを狩って日々の生活を営んでいるため、
逆にモンスターに狩られてしまうことも決して少なくはない。

現に今も、強敵《キングベヒーモス》にパーティーを支える要となる冒険者が倒れされてしまったらしく、
防戦ぎみとはいえなんとか保たれていたパワーバランスが崩れ、生き残りの冒険者たちの悲鳴がこだまする。

その悲鳴が、集合時間に遅れてしまったので急ぐ最高の騎士の長い耳に届いた。


「おいィ? また忍者はアワレにもメイン盾の役割を果たせずくずれそうになっているっぽいな?
 おれは今日も《とんずら》を使って普通ならまだ付かない時間できょうきょ参戦することになった」


貧弱一般人と一線を画す一級廃人にして、どのLSでも引張りだこなナイトである彼――
ブロントさんは、「はやくきて~はやくきて~」と泣き叫んでいるLSメンバーを守るため、
《ヴァナ・ディール》の大地をカカカカッと《とんずら》を使って駆けてゆく。

だが、そんな至高の騎士である彼も、
今日だけはLSメン達の元へ普通ならまだ付かない時間で辿り着くことは出来ない。

カカ…カ……カッとその歩みに迷いが生じる。
というか、走り慣れているエリアのはずだったのに道に迷っていた。


「お、おいィ……? ここは、どこなんですかねぇ……?」


慣れているエリアのはず、『だった』、のに。
ブロントさんは、自分がいつの間にか《おかしな所》に出てしまったことに戸惑っていた。

ブロントさんが辿り着いてしまった場所、《そこ》は、果てが見えないほど長い石造りの通路で、
その通路の壁は無数の扉で埋められている。


「こんあn場所が新いすk実装されているなど、ヴァナの一級廃人の俺でも知らなかったんだが……?」


言葉の上では新エリアではないかと言っているが、冒険者の本能が告げていた。
「ここは新エrいあというにはあもりにも不自然すぐるでしょう」、と。

戸惑っていてばかりでは思考の騎士の名が泣く。
一先ず現状を把握するため、通路の真ん中に置いてあるデスクで新聞紙を広げている男に、
この場所について尋ねることにした。

カシャン、カシャン、石造りの通路に、鎧を着込んだブロントさんが歩く音はよく響く。
その音で気がついたのか、新聞を読んでいた男が、新聞からブロントさんへと、そのぎょろりとした目を移す。
ブロントさんを目視した男は、読んでいた新聞をたたみ、「昼休み中です」と書かれた掛札を取り去りって、
机の上の書類に目を落としこう言った。


「次」


温かみも冷たさもない声、やる気のない役人といった風体の男はただ、「次」、という一声を上げて、書類になにやら書き始める。


「………………」

「………………」

「なにいきなり話しかけてるわけ?」

「………………」


男が「次」以外の言葉を発しないのでブロントさんが会話を繋ごうとするも、
男は一瞥をくれるだけで再び仕事に戻ってしまう。


「ここはどこでお前は誰なんですかねぇ?
 早く答えるべき死にたくないならそうすべき!
 おれは一国も早くLSメンの元に駆けつけないといけないんですわ?お?」

「………………」


返事はペン先が紙を走る音と紙がめくれる音のみ。
男はなにも答えない、ブロントさんを無視して書類作業を続ける。


「ウザイなお前ケンカ売ってるのか?
 NPCでにいならレスポン酢をするべきではないか?
 まあ一般論でね」


男の態度にだんだん怒りが込み上げてきたブロントさんは、少々声を荒げながら男に詰め寄る。


「そもももお前は――!」


男まで数歩、というところで、
バタン!とこの場の静寂には似合わない大きな音が鳴った。


「e?!」


音のした方を見やると、ブロントさんの右側の扉が一つ、開いていた。
否、開いただけではない。
なにやら奇妙な力で、ブロントさんは扉の中に引っ張られる。


「お、お、おっ、おいやめろ馬鹿! このエリアははやくも終了ですね!
 不意だま重力物体199とか汚いなさすがアトモスきたない!
 俺はこれでアトモスきらいになったなあもりにもひきょう過ぎるでしょう!?
 やはりアトモスよりやはりディアボロスだな今回のこと、でッ……!
 ぬわーーっ!!」


懸命な抵抗も虚しく、ひきょうな扉にブロントさんは飲み込まれてしまった。
男はその出来事に眉一つ動かさずにむ反応。
Brilliant Unruly Razer Of Noble Tetherという名が記された書類をめくり、またぽつり。
「次」と言って、書類作業を繰り返すだけである。




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


ブロントさんが飲み込まれた扉の中は、先ほどまでの白い石造りの通路から一転、
無明の暗黒空間だった。


「真っ暗で、なにも見えにい……」


落ちているのか飛んでいるのかも分からない。
とりあえず妙な浮遊感を感じるため、地に足がついてないのは確かなようだ。

ターゲットする対象もないし、《フラッシュ》や《ホーリー》で一瞬でも辺りを照らそうとするも、
発生した光はなにもない闇の中に飲み込まれるだけで視界を確保することも出来ない。

もう、どこから此処に入ってきたのか分からなくなっちゃった。
小さな明かりが集まってオカエリクダサイ(←なぜか反転できない)と文字を作ることもない。
これでは流石のナイトもお手上げネガ侍だった。


「おれのリアル生活より充実したヴァナ生活も、此処で幕ギレんあんですかねぇ……
 我がヴァナ人生に一片のクイナ氏と言いたいんだけどよ……
 LSメンを守れずこうやって裏世界でひっそりと幕を閉じるあるさまでは……
 m理炎でいっぱい、なのは…確定的に……明らか――」


―――

―――――――――

――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――




時を少し遡らせて、ブロントさんが奇妙な通路の扉に飲み込まれる少し前へ。

時も違って、場所も変わる。
しかし、流れ出せばいつかは二つの世界が交わるかもしれない。

そこは、幻想的な世界《ヴァナ・ディール》とは真逆な場所、科学技術の最先端が集まった閉鎖的な空間。
一つの街でありながら一つの世界。
その街の総人口の8割を学生が占め、その学生たちは授業の一環として、日夜ある特殊な技術を学んでいる。

《学園都市》、それが、もう一つの世界の名前。

《学園都市》には23の学区が存在する。
その23学区の中でも取り分け巨大な面積を持つ《第七学区》の広場で、4人の少女たちが知り合ったばかりの友人同士、
交友を深めるため、仲良くじゃれたり談笑しながらクレープ屋で買ったクレープをベンチでパクついていると、
その内の一人、花飾りを付けた少女が、なんでもない日常風景の中にある違和感に気がつく。


「ん? どうかしたの? 初春」

「いえ、あそこの銀行なんですけど……
 なんで昼間っからシャッターを下ろしているんでしょう?」


花飾りの少女が指し示した銀行は、確かに完全にシャッターが降りていた。
平日の昼日中、余裕で営業時間だというのに確かにおかしい。

花飾りの少女・初春飾利の疑問に、セミロングの少女が同意しようとしたところで――

銀行のシャッターが突如内側から爆発した。


「な、なんなの!?」


誰もがその異変に驚く中、初春、そして連れの一人が即座に反応、対応をする。


「初春! 警備員(アンチスキル)への連絡と、怪我人の有無の確認! 急いでくださいな!」

「は、はい!」

「黒子!」


黒子、と呼ばれたツーテールの少女は、スカートのポケットに忍ばせていた腕章を付けながら、
「いけませんわ、お姉様」と、セミショートの少女をやんわりと制した。


「《学園都市》の治安維持は、わたくしたち《風紀委員》(ジャッジメント)のお仕事――
 今度こそ、お行儀良くしていてくださいな」


『お姉様』、と呼ばれたセミショートの少女は、自分も彼女らと一緒に、
真昼間から騒ぎを起こした馬鹿をとっちめてやろうと思ったのだが、
それはいらぬ心配だと言われてしまった。

黒子には、朝にも一般人が事件に首を突っ込まないようにと釘を刺されている。


「分かったわ。
 それじゃ、バシッと解決してらっしゃい」

「ええ、どうぞそこでごゆるりとしていてくださいませ」 


――――――――――――――――――――――


「おらっ! グズグズすんなっ!!」


黒煙が上がる銀行のシャッターから2人ほど男性が出てきた。
中肉中背のと肥満な巨漢の二人組。


「ま、待ってくれよ……へっへへ、大量に詰め込んだぜ」


そこへ、さらに奥からひょろっとした小男が合流する。
男らは皆揃ってバンディットマスクのようにバンダナで下半分を隠しており、
そして手にはものを入れすぎて膨らんでいる安っぽい鞄を持っている。
小男の鞄からは札束が覗いているので、十中八九彼らの持つ鞄の中身は全て奪った現金であろう。

奴らが強盗をしていたため、銀行のシャッターは閉まっていたのだ。


(火災から現金を守る、煙を吸わないように布を口に巻いた銀行員にはとても見えませんものね)

「ったく……
 よっしゃ! じゃあ引き揚げるぞ! さっさとしねえと――」

「お待ちなさい!」

「「「!?」」」


黒子は先回りをし、銀行から逃げ出そうとする強盗たちの行く手をさえぎった。
そしていつものごとく名乗りを上げる。
犯罪者たちをおののかせる自らの所属の名を。


「風紀委員ですの!
 器物破損、および強盗の現行犯で、拘束します!」

「ジャ…! じ……?」

「あ……?あ……?」

「ああ……?」

「む?」
(こ、この反応は……)


腕章を見せつけ、自らを風紀委員であることを誇示することによって、強盗を足止めすることができた。
だが、これは……


「「「ふっ、ふへひゃはははははははははは!!wwwww」」」

「あんだよこんガキ!www」

「じゃ、風紀委員も人手不足かぁ?ww あはひゃwww」

「むっ……」ムカチン


強盗たちは、最初こそ風紀委員という単語に肝を冷やした。
だが、その自分たちを拘束しに来たという「じゃっじめんと」がただの子供だったため、
警戒するどころか笑いだしたのだった。

この反応には慣れているものの、いや、慣れているから腹が立つ。
黒子はオーラとして見えそうな怒気を纏ってツカツカと強盗に歩み寄る。

笑い転げていた強盗らのうち、肥満の巨漢がそれに気付いた。


「! ぅおら、おじょーちゃんww」


黒子の前に一歩ずしん、と踏み出す脅しを込めて踏み出す。

女子中学生の黒子と、成人に近いぐらいの肥満の強盗犯。
二人の体格差は、圧倒的だった。


「けーさつごっこはよそでやりな。
 とっととどっかにいかねえとぉ……ケガしちゃうぜえ!?」


下卑た笑いを上げて黒子に掴みかかろうとする肥満強盗。

ただの正義感が強いだけの子供に対する示威行為であるならば、それで十分だろう。
だが、学生によって形成された治安維持組織、風紀委員の一員である黒子が、
ただの子供であるはずがない。


「……そうゆう三下のセリフは――」

「おっ!?」


黒子は肥満強盗の力任せに突き出した腕をひらりとかわし、腕をとる。
次に隙だらけの足を払い、相手の力を利用して投げ、肥満強盗を地面に叩き伏せた。


「ぬぐおっ!?」

「死亡フラグですわよ?」


背中から地面に叩きつけられた肥満強盗は、目を回して気絶した。


「んなあ!?」

「て、テメエ……!」


仲間の一人がやられて、遅まきながら前に立ち塞がった子供が、
自分たちの恐れていた脅威だとようやく認識した強盗たち。
だがもう遅い、風紀委員がすぐ傍にいることを知らず犯罪を犯した自らの不幸を呪うしかないのだ。


「…すごい」

「さっすが黒子ー」


初春と黒子の連れの少女たちは友人の活躍に感嘆の声を上げる。
だが二人のその感嘆は、言い争う声に打ち破られた。


「ダメですって! 今広場から出たら――」

「でも!」


広場には、事件に巻き込まれぬよう銀行周囲にいた一般人を、黒子と同じく風紀委員である初春が誘導しているのだが、
その初春が、要救助者の女性となにやら揉めているではないか。

犯人の鎮圧は黒子に任せるとしても、誘導ぐらいは手伝えるかもしれない。
『お姉様』と呼ばれた少女とセミロングの少女は初春を手伝いに向かった。


「どうしたの?」

「それが……」


何があったのか二人に事情を尋ねると、この女性バスガイドが引率してきた子供の一人が、
バスに忘れ物を取りに行ったきり、どこにも見当たらないと言う。

もしその子が事件に巻き込まれでもすれば、黒子もその子も危ない。
事情を聴いた彼女らは、手分けして子供の捜索に当たることにした。


――――――――――――――――――――――


仲間があんなちんけなガキに片手で捻られてしまった。
その事実と風紀委員の実力に怯えて、小男の強盗が、リーダー格である中肉中背の強盗に詰め寄る。


「ど、どうするんスか!? 丘原さん!?」

「!? 馬鹿野郎! なんのために顔隠してると思ってんだ!」

「ひ、ひぃ……! す、すいません!!」

「ちっ…!」


《学園都市》には、《書庫》(バンク)と呼ばれる総合データベースがある。
今聞かれた自分の名前と、シャッターを破壊した『方法』からきっとすぐに
自分の身元が割れ、足がついてしまうだろう。

強盗のリーダー格、丘原燎多が逃げ切るには、目の前の風紀委員の口を封じる以外になくなってしまった。


「やるじゃねえか、さすがガキでも風紀委員、見た目どおりじゃねえって訳だ。
 だが俺だってな――」


丘原は、自らの『武器』を取りだす。
それは鈍器でも銃器でも刃物でもない、学園都市の学生ならではの『武器』。
丘原の掌の上に、突然ゴウッと炎が生まれた。


「《放火能力者》(パイロキネシスト)……ったく」

「今さら後悔してもおせえぞ。
 俺はこれでも強能力(レベル3)の能力者なんだぜ?」

「はっ。
 戦う前から手の内を見せてどうするつもりですの?
 そういうものはぎりぎりまで隠しておくものでしょうに」

「んだと……!
 俺を本気にさせたからには――」


この驚くべき光景に、ドイツ軍人――もとい、白井黒子はうろたえない。
相手が放火能力者と見るや否や、突然あさっての方向に走り出した。


「テメエにはケシズミになっ…て……へ?」


急な出来事に一瞬呆けそうになる丘原。
でかい口を叩いていたので、目の前の風紀委員もてっきりそこそこの能力者だと思ったのだが、
一目散に走り出すその有様では、ただ虚勢を張っていただけなのだろうか?


「丘原さん! あのガキ逃げちまいますよ!」

「言われるまでもねえ! 逃がすかよぉ!」


仲間の声で我に返り、走り出した黒子に向かって火球を放った。
放たれた火球は、当たればとてもただでは済まなさそうな勢いだ。
おそらく銀行のシャッターもこれで吹き飛ばしたのであろう。

丘原の狙いは正確に黒子を捉えている、走っては避けられそうにもない。
哀れ少女はこんがりと上手に焼け死んでしまうのか?
いやいや、そんなことはありえない。
この恐るべき灼熱の魔弾を黒子は――


「誰が――」


空気を裂く、ヒュンという小刻みな音と共に、その場から消えることで回避した。


「消えた!?」

「逃げますの?」


消えた黒子は一瞬で丘原の顔前に現れる。


「なぁっ!?」


また消えたと思えば、今度は丘原の後頭部にドロップキックを放つ。
また消えたと思えば、今度は倒れた丘原を、太もものホルダーに仕込んだ金属矢を《転移》させ、
丘原の服と地面を縫い付けることで拘束した。


「ひっ、ひいいいいいいいいい!?」

「て、《空間移動能力者》(テレポーター)……!?」

「これ以上抵抗するなら――」

「はっ…」


自分たちの相手がどんな《能力者》か知った小男は逃げだした。
逃げられない丘原の顔は恐怖で歪む。


「次は金属矢(コレ)を、体内に直接《空間移動》(テレポート)させますわよ?」

「ま、参りました……」


黒子は拘束した相手を嗜虐的な表情で見下ろした。
《空間移動》、それが黒子の《能力》。

物理法則を捻じ曲げて超常現象を起こす力、《超能力》。
これこそが、この《学園都市》で学生たちが学ぶ特殊な技術なのだ。


――――――――――――――――――――――


黒子が丘原をズバッと鮮やかに鎮圧した一方――


「初春さん、そっちは?」

「だめですー!」

「どこいったのよぉ、もう!」


初春たちはバスガイドの証言のもと、忘れ物を取りに行ったまま戻らないという男の子を捜している。
『お姉様』と初春はバスの中と周辺を、バスガイドはバスの近くの茂みや物影を――


「うーん……」


そしてセミロングの少女は、バスより少し離れた位置で男の子を探していた。
小さな子供がどこにも見つからないという事実が捜索に熱を入れ、少女の感覚を研ぎ澄ませる。
その研ぎ澄まされた耳に、不穏な声が届いた。


「ひっ、ひぃ……あん? なんだお前……!
 ちょうど良い! 一緒に来い!」

「え? なにおにーちゃん、だれー?」

「んっ?」
(一緒に、来い?)

小さな子供の声と切羽詰まったような男の声。
セミロングの少女が振り返ればなんと、黒子が丘原に気を取られている隙に逃げ出した小男が、
子供を人質に取ろうとしているではないか。


「え……あ……!」


風紀委員の初春と、強力な能力を持つ『お姉様』、二人に知らせて助力を乞う暇は、ない。


「うん……!」
(あたしだって……!)


彼女たちのようにといかなくとも、力のない自分にだってやれることはあるはずだと、
セミロングの少女、佐天涙子は子供を助けようと駆けだした。


「やっぱり、広場の方をもう一度さが――」

「アアっ!?んだテメェ!? 離せよ!!」

「!?」


バス周辺では一向に子供が見つからないため、近くにいた初春とバスガイドに出そうとした『お姉様』の指示は、
より大きな声にかき消されてしまった。
突如響いた男の怒鳴り声に、その場に居る全員の視線が集中する。


「ダメぇ!!」


なんとそこには、強盗に連れていかれる子供を必死に助けようとする、佐天さんの姿があった。

どれだけ小男が恫喝しても佐天さんは子供を抱き締めて離さない。
このままではあの空間移動能力者から逃げられないと判断した小男は――


「クソッ! クソッ! クッソォ!!」

「きゃあ!!」


佐天さんを蹴り飛ばすことによって、自分だけでも逃げ出しそうとした。
蹴られても、佐天さんは子供を決して離さない。
小男はその気迫に圧されて尻尾を巻いて逃げだした。


「ッ!!」


佐天さんを、蹴った。
よほど風紀委員に捕まるのが怖かったのだろう、恐怖から逃げる時、人は必死になるものだ。
だがその行為は、絶対に選んではいけない選択肢だった。
強能力者も相手にならないような能力者が『お姉様』と慕う、最強の電磁砲の引き金を、小男は引いた。

――――――――空気が/帯電/する。


「佐天さんっ!!」

「なっ……くうっ!!」


目の前で親友が蹴られ、初春は無事を確かめに駆け寄った。
黒子は自らの失態を悟り、挽回せんと逃げた小男へ金属矢を放とうとしたところで――


「黒子ぉっ!!」


尊敬する『お姉様』からの一喝に、あの強盗犯を怯えさせた風紀委員が、強力な空間移動能力者が、萎縮してしまう。


「……え?」

「こっからは私の個人的なケンカだから――」


それまでは後輩に任せておけば大丈夫だと静観していた電撃姫が、
友人を傷つけられることによって燃え上がった怒りの炎を電気に変えて、動き出す。


「手、出させてもらうわよ?」

「あー……」
(これは、止めるだけ無駄ですわね)

「お、思い出した……!」

「ん?」


そんな怒れる『お姉様』の様子を見た丘原が、地面に縫い付けられたまま実に説明的なセリフを喋りだした。


「風紀委員には捕まったが最後、身も心も踏みにじって再起不能にする、
 最悪の空間移動能力者が居て――」

ィィィィ……

「誰のことですの、それ?」


小男は逃走用に停めてあった車に逃げ込めたものの、


「クソガキどもがぁ……!
 ガキにナメられたままでおめおめ逃げられるかよ……
 ひひひ、丘原さんとスプーキー(肥満強盗)の弔い合戦だ!」


と一矢報いる腹積もりでいた。
そんなことをするぐらいなら、逃げた方が良かったと思うことになる相手が居るとも知らず。


イィィィィィィィィィィ……
                             
「更にはその空間移動能力者の、身も心も虜にする、最強の《電撃使い》(エレクトロマスター)が……!」

「へっへっへっ……こうなりゃてめえらまとめてえ……!」


乗り込んだ車で全員轢き殺そうと、小男は車を旋回させて、
『お姉様』…最強の電撃使いに向かいあい、脅しとばかりにエンジンを吹かす。
だが、そんな程度のこと、彼女は気にも留めない。


オイィィィィィィィィィィィィィ……

「そう、あの方こそが、学園都市230万人の頂点――」

オイィィィィィィィィィィィィィィィィ……

「7人の超能力者(レベル5)の第三位――」

「おいィィィィィィィィィィィィィィィィィィ……」

「んもぅ!さっきからなんなんですの!?
 人がお姉様の素晴らしさを讃える口上をしてる時は静かにしてくださいまし!!」

「し、白井さん! あれ見てください!」

「あれ?」

「上ですって! 上!!」

「うえ?」


佐天さんと初春の二人の言葉に従い、空を仰ぐ黒子。
「いったい何があると言うんですの?」、と少々不機嫌気味に視線を移せばそこには――

「な、なんですのぉ!?あれは!?」




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


小男が佐天さんを蹴った直後ぐらい――

少女らが強盗相手にすったもんだしてる間もブロントさんはまだ謎空間でぷかぷか浮いていた。

これはバグかもしれないと思い、GMコールをしたりしても無反応だったり、
勝利条件が限られすぎて手も足も引っ込んだ状態(カメェ)。

とりあえず今は暇つぶしにくだらないことを考えている。


「さっきのログに「いっぱい、なのは…」とかあるんだが、管理局の白い悪魔がいっぱいとかちょとsYレならんしょ……」


……聞いてくれる人がいないと、むなしい発見だった。

いったいいつまでこうしていなければならないのか、流石に退屈を通り越してムカついてくると――
それまで一筋の光も射さない扉の中の謎空間に、急激に変化が起き始めた。


「うおっまぶしっ。
 いくら俺が光と闇が両方備わった思考のナイトといっても不意だまフラッシュとかあもりにもひきょう過ぎるでしょう…?
 …お、なんだ急にPOPしてきた>>風」


光が満ちて、風が起こる。
日の光を浴びることは、空気の流れを感じることは、こんなにも素晴らしいことなのか。
目が眩んでいるので言葉だけは憎々しいものが滲んでいるが、ブロントさんは心の中で喜び、安堵していた。


「……しかす妙に風が強すぐるんですがねぇ?
 だが、なんというかふじきと寒くはにいな?」


元々ブロントさんがいたクフィム島は氷で覆われた荒野のエリア。
こんなにも明るい場所ではなく、こんな勢いの風が吹けばもっと寒いし、
風は湿ったような風であって、こんなにもカラッとした心地よいものではない。

冷静に考えるとおかしいことだらけなので、眩んだ目の視界も即座に元通りにしちぇしまう超パワー!で目を開き、
ブロントさんは今、自分がどこにいるかを確かめてみる。

光に慣れた視界に飛び込んだのは青。白。青の美しいコントラスト。
今、ブロントさんは空に抱かれていた。

つまりは……なぜかとんでもない高所から落下している最中である。


「oili misu みうs。
 おいィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!?」


―――

―――――――――

――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――




「鳥だ!」

「飛行機ですよ!」

「スーパーマンですの!ってやってる場合じゃありませんの!!」


『お姉様』と小男、人対車が向かい合ってのチキン・レースをしている間に落下しようとしているあれは明らかに……


「お姉様ぁー! 空から鎧姿の男が!!」

「ふえっ?」


『お姉様』は後輩からの突然の意味不明な言葉に驚きつつ、指でコインを弾いた。

それは、彼女の通り名にして必殺技、《超電磁砲》(レールガン)の予備動作。


――――――――――――――――――――――


空ばかり見てもいられない。
落ちるのは勝手だがそれなりの落ち方をしなければ、このままでは命ロストしてしまうのは確定的に明らかである。

ブロントさんはなんとか身体を捻って、ちょうどスカイダイビングをするような形にした。
視界からは青と白がなくなり、代わりに広がるのは灰色が豊富なコンクリートジャングルだ。

とても氷で覆われた荒野とは思えない。
というか、いったい自分がどこへ向かって落ちているのかも、ブロントさんには分からなかった。


「だが今はソルを郵貯に考えている時間はないんですわ!?
 こっ、このままではおれの寿命が地面とキッスでマッハなんだが!?
 命ロストが怖いなら>>1カバチ化やるしかぬえ!!
 /sh うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


ここで問題だ! この絶体絶命の状況でどうやって生き残るか?
3択―ひとつだけ選びなさい。

答え①ハンサムのブロントさんは突如起死回生のアイデアがひらめく。
答え②LSメンがきて助けてくれる。
答え③どうしようもない。現実は非情である。
答え⑩<死ぬよ。 ②<【えっ!?】 ⑩<このまま死ぬ。


「/sh 俺の答えがどうやって③だって証拠だよ!
 /sh メチャメチャきびしい人達がふいに見せたやさしさのせいだったりするんだろうねという
 /sh 名セリフを知らないのかよ真実はいつも①つしかにいので以下レスひ不要です!」


――――――――――――――――――――――       


「やってやるぅ! やってやんぞぉ!!
 どうせやっちまうなら一人や二人ぐらいじゃ済まさねえぜえ!!」


完全にぶち切れた小男は、アクセル全開で走り出す。
人間が作り上げた高速で動く鉄の塊。
これにかかれば脆い人間なんてイチコロだ。


「まずは短髪のガキィ……!
 なにも怖くないって顔しやがって気に入らねえんだよ……
 テメエからだぁ!!
 あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


実際『お姉様』は彼らになんの危害も加えていないのだが、
どうやら目の前に立ち塞がっているのが気に入らないらしい。
追い込まれすぎて発想が狂人の域に達している。

『お姉様』まであと僅か、というところでエンジンがうるさいはずの車内なのに、不思議とどこからか叫びが聞こえてきた。


「――にいので以下レスひ不要です!」

「ひゃひゃひゃひゃ……ひょ?」

「生半可なナイトには真似できない……!」


小男はきっと、自分の身に何が起こったかまったく理解不能状態だっただろう。
空から黄金の鉄の塊が降ってくるなど、誰が予想出来るだろうか。


「《インビンシブル》!!」

「ぎょはぁーーー!?」


黄金の鉄の塊で出来たナイトが、鋼装備に遅れをとるはずがない。
貧弱一般乗用車は、天から舞い降りた一級廃人の持つプレシャーに耐え切れずアワレにもズタズタになり、小男は交通事故に等しい衝撃を受けて気絶した。


――――――――――――――――――――――


車は急に止まれないという法則を、上からとんでもない衝撃を叩きつけるという荒業で、
一瞬ジャックナイフの様に後輪を上げ、強盗の車は止まった。
だが、急に止まれないのは車だけではない。


「ええっ!?なに!?
 なにいきなり降ってきてるわけ!?」

「み、御坂さん!ストップですって! ストップ!!」

「電撃を収めてくださいましお姉様!!」

「そ、そんなこと言われても!!」


全てが急すぎて時既に時間切れ。
佐天さんと黒子の必死の呼び掛けも虚しく、《超電磁砲》・御坂美琴の腕では何輪ものスパークの火花が咲き続ける。


「れ、《レールガン》だって急に停められないわよー!!」

「ドラグスレイブみたいなものなんですかぁ!?」


初春のツッコミは少々マニアック過ぎるきらいがあるのだが、
今は誰にもそこへ更にツッコむほどの余裕はなかった。


――――――――――――――――――――――


「……実際俺は不良界でも結構有名でケンカとかでもたいしてビビる事はまず無かったが生まれて初めてほんの少しビビった」


むくり、と、ルーフとボンネットが著しく凹んだ車からブロントさんは起き上がる。
ブロントさんが取った行動は、ナイトの《アビリティ》の一つである《インビンシブル》を使うことによって自分の身を守ろうという方法だった。

《インビンシブル》――

この《アビリティ》は、効果が続く間物理攻撃に対して無敵になれるという強力な《アビリティ》だ。
ただし効果時間は30秒、再び使用するのにしばらく時間を置かねばならないという面も備えていて実に謙虚である。

高高度からの落下ダメージをも防げるかは分からない―ヴァナにはにいからな―がゆえの賭けだったが、身体に異常は見受けられない。

「ほむ……なんとか上手くい――」


った感、と、ブロントさんは言葉を続けることが出来なかった。
追撃の《レールガン》で、ブロントさんの危機は更に加速したからだ。

《レールガン》――

御坂美琴の指先から放たれたコインは、
丘原の用いた火球とはその威力も火ではない威力というあるさまだ。

それは必殺技、正しく必殺の威力を持つ代物である。

音速の3倍以上のスピードで飛んでくる砲弾を避けることや防ぐことなど……常人には到底不可能だ。
音よりも早い攻撃、予めでなければ察知することすら出来はしない。
これを凌げる存在、それは、彼女と同格の能力者かあるいは、とある少年だけだろう。

圧倒的な破壊の波に遅れて、その威力を物語る衝撃音が辺りに鳴り響いた。




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


「あ…あ……」

もうもうと黒い煙が立ち込め、アスファルトには美琴が撃ったものの爪痕がくっきりと、
つけられている。
…やって、しまった。


「~~ッ!!
 初春! 怪我人の容体の確認と救急車の手配を! 一刻を争いますわ!!」

「は、はい!!」

「……あっ……え……ええ?」

「お、奥津ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!(小男強盗)」


黒子の即選即決の指示に初春は従い、携帯を片手に恐る恐るレールガンの着弾地点へと向かった。
佐天さんは目の前の急な出来事を理解は出来てもついていけないという感じだ。
丘原は子分が目の前で爆発させられて、磔にされたまま子分の名を叫んだ。

…急なことだった。
本当に急なことだった。


「ああっ……あああ……!!」

「お姉様……っ!」


美琴は、自分がしてしまったことを真っ向から受け止めて、ショックを受けているようだ。
黒子は後輩として先輩を、風紀委員として能力使用者を、そのショックから和らげるための対応をする。


「しっかりしてくださいましお姉様!!
 まだ死傷者が出たとは限りませんの!!」

「……無事な訳、ないじゃない」

「…おね――」

「無事な訳ないじゃない!! 黒子、アンタも見たでしょ……?
 私のレールガンが、人間に、直撃したのよ……?」

「それ…は……」


美琴は、本当は車の手前ほどにレールガンを着弾させて、爆風をぶち当てて車を吹っ飛ばすつもりだった。
でも、実際のレールガンの軌道は、突然のことに演算が乱れたのか、
空から降ってきた人間に、直撃するコースだった。

空から落ちてきたのだから、車の上に落ちた時点で普通なら死んでいるだろう。
だが、車の上の人間は着弾する前に、確かにむくりと起き上がった、生きていた。
助かったはずの命を、自分がこの手で奪い去ってしまったのだ。


「テメェ…! 《超電磁砲》……!
 よくも俺の子分をやりやがったなぁ!!」


丘原の怨嗟に、美琴はビクッと身体を震わせる。
丘原は尚も恨み節を吐こうとするが、黒子が強く睨むと言葉を詰まらせた。


「黒…子、私……人を、人を……」

「お姉様!!」


黒子は美琴をぎゅうっと抱き締めた。
「事故だった」、「仕方なかった」。
そんな言葉は自分から言うことは出来ないし、責任感の強い美琴も望んでいないだろう。
だが、このままでは、美琴が壊れてしまうように思われたのだ。


「黒、子……黒子、黒子ぉ……!」

「お姉様……」


普段の美琴なら、抱きつけば真っ赤になって黒子に電撃を浴びせるであろう。
だが今、そこに常の《超電磁砲》はいない。
そこにいるのは、自身の能力で強盗も無関係の人間も無差別に殺めてしまった重責に苦しむ、ただの少女だった。

ならば、白井黒子は、例え自他が望まぬかもしれない行為でも言葉でも、
御坂美琴を守るために言葉を紡ぎ、そして行おう。
例え歪んでいても、それが黒子の美琴への愛なのだから。


「お姉様! 此度のことは不幸が積み重なった事故でした!
 …もし、お姉様が罪に問われるならば、それはお姉様だけの罪ではありません。
 黒子にも責任がありますの。
 わたくしが、わたくしが慢心などせず犯人を即座に確保していればこのようなことには……!」

「ううん、そんなことない!
 私がレールガンを使わなければ良かったんだから……!」

「……あのー」

「いえ! お姉様はわたくしの尻拭いと佐天さんの仇討ちをされただけですもの……!
 全ての咎は、元を辿れば全てわたくしにありますの!!」
    
「いや、でも、私が手を出さなければこんなことには――!」

「すいませーん、もしもし?」


美琴と黒子が二人して「私が悪い」「いえわたくしが悪いんですの」と罪を被りあっていると、
佐天さんが申し訳なさそうに話しかけてきた。


「あら、佐天さん……
 色々言いたいことがあるでしょうが……
 申し訳ありません、まだ少しお姉様をそっとしておいて差し上げてくれませんこと……?」

「大丈夫よ、黒子……
 ごめんなさい、佐天さん……折角友達になれたのに、私……」

「ああ、いやぁ、その……大変盛り上がってるところ悪いと思うんですけど……」

「? どうかしまして?」


佐天さんの妙な歯切れの悪さに、今まで抱きあって号泣していた二人はキョトンとしてしまう。
二人が落ち着いて聞く態勢に入ったので、ある方向を指さし、
佐天さんは、ゆっくりと自分にも言い聞かせるように話しだした。


「ええと、信じがたいんですけど……
 なんか、無事っぽいっていうか、ほぼ軽傷みたいですよ、降ってきた人も、強盗も」

「………………」

「………………」

「「な、なんですってー!!」」


それは確かに信じがたい内容だった。
二人は佐天さんが指さした方向を見ると、立ち込めていた黒煙はすっかり晴れ、
そこにはまるで、レールガンが撃ち込まれる前のような光景が広がっている。


「「…………オウフ」」


車中には昏倒する強盗、そして車の上には鎧姿の男が大の字になって呻いていた。


――――――――――――――――――――――


「…い、いったい今度は、なにがおこったのあk……
 理解不能状態なんです、が、ねぇ?」


妙なエリアに入ってしまったかと思えば、次はブロントサンインザスカイ、
槍なしハイジャンプを乗り切ったかと思えば訳も分からず攻撃されてご覧のありさまだよ。

インビン防御が発動していなければ即死という状況であったが、
そんなこと、ブロントさんは知るよしもない。
直接のダメージは無効化できたものの、それでも爆音とある程度の衝撃は追加効果か追加ダメージの範囲なのか、
無効化出来ずにくらってしまったようだが。

それでも「RPG-7をぶっ放されたかと思えばスタングレネードだったでござる」、
そう思えば安いものだ。


「むう……」

「あの、大丈夫ですか? 私の言ってること、分かりますか?」


頭を振りながら着地時と同様に車からむくりと起き上がると、
見たこともないような装備をしたヒュムっぽい♀がおずおずと話しかけてきた。


「ご無事ですか? どこか痛むところはありませんか?」


倒れていたところを見られていたのか、そう思ったブロントさんは咳払いをひとつ。


「ナイトは名実ともに唯一ぬにの盾だからよこのぐらいぜんえzんHEAD-CHA-LA。
 …ちょとくらくあrするような気もするがそんなことはなかった」

「は、はあ……?」


ブロントさんは強さを口で語ったりしないので、優雅に車から降り、
その両カモシカの足で、決して、決して足元をふらつかせることなくしっかり大地に立つことによって、
メイン盾は健在であることを知らしめた。
ヒュムっぽい♀はブロントさんの扱う美しい日本語に聞き入って呆然としている。

しかし、このヒュムっぽい♀の装備は本当に変わっている。
頭装備が《コサージュ》にしては花が多すぎるし、胴装備も両脚装備も防具っぽくないし、ジョブもなんだかよく分からない。
せいぜい近そうなものがあるとしたら学者辺りだろうか?


マア… ホントニイキテマスノ。
ホントニ!?ホントニシンデナイノ!?
ダイジョウブデスヨミサカサン、イッテミマショウ。


ちょっと離れたあたりから、このヒュムっぽい♀と似たような装備のキャラが近づいてくる。

とりあえず今は玄奘を把握すべきでFA!、と頭の中で結論付け、ブロントさんはヒュムっぽい♀に話を聞くことにした。


「それよりもなにが起こったのか説明してくださいますか^^; JOJOで言うと重ちー。
 「ゴブ字ですか?」とか聞くと言うことはお前はおれになにが怒ったか知っているのだと思った」

「しげ……? ええと、実はかくかくしかじかでして――」


ブロントさんはヒュムっぽい♀から、
自分が空から降臨したら後からきた短髪のヒュムっぽい♀の《レールガン》―WSか?―に巻き込まれた系の
伝説があったことを聞きだした。


「まるまるうまうまという訳なのか。「」なるほどなというか鬼なる。
 (俺のインビンがヘイトがおれに鬱ったという意見もあるんだが)
 ならばそこの短髪は俺になにか言うべきこちょがあるのではにいか?」


ブロントさんの指摘に、短髪ヒュムっぽい♀がギクリとしたか鬼なった。


「なっ……!
 だ、だって、アンタが落ちてこなかったら、全部丸く収まったんだし……」

「はぁー……お姉様?」

「ここは一応きちっと謝っちゃった方がいいですよ、御坂さん」


ツインヒュムっぽい♀が深いため息をつき、ロン毛ヒュム♀っぽい♀がやさしく忠告してやっていた。
ナメタ言葉を使った短髪ヒュムっぽい♀はツインテールとロン毛に頭が上がらないらしく、
少し逡巡してから――


「うう…わ、分かってるわよ! その……ごめんなさい!!」

「……良いぞ。
 おれが降ってこなければというロンにもいちちあるしな。
 俺は心が広大だからな過ぎ去ったことをネガネガしないし相手の言葉も受け止める。
 自分の心に広さが怖い」


素直に謝ってきたので許してやった。
これこそまさに礼儀正しい大人の対応、ヒュムっぽい♀たちは「素晴らしいナイトだすばらしい」と神格化することになるだろう(リアル話)。


「あ、ありがとう……(苦笑)」

「…なにやら変わった喋り方をする殿方ですのね……」ヒソヒソ

「まさか言語野に障害が……」ヒソヒソ

「いやぁ、そんなことはないんじゃない?」ヒソヒソ


ヒュムっぽい♀がなにやらこそこそ話しているようなので、目の前で内緒話は良くないと注意してやろうとしたら、
ウウウウウウウウウウウウウっと遠くからサイレンが聞こえてきた。

花飾りヒュムっぽい♀とツインヒュムっぽい♀―長いから偽ヒュム♀でいいべ―が、
安心したような顔をする。


「どうやら、警備員(アンチスキル)と風紀委員の応援が来たようですわね。
 初春は怪我人の有無を報告、わたくしは犯人を警備員に引き渡してきますの」

「了解です」


花飾り偽ヒュム♀はツイン偽ヒュム♀の命令されてどっかいった。


「お姉様、佐天さんとその殿方の介抱をお願いしてもよろしいですか?」

「任せといて。
 いってらっしゃい、黒子」

「ええ、それでは――」


ツイン偽ヒュム♀は短髪偽ヒュム♀にブロントさんの回復を頼んだと思ったら、
ブロントさんが下敷きにしていた車の中に居たレイズ待ちしてたっぽい♂と一緒に消えた。


「なん…だと……」


ほんの少しビビったので周りを見回したら、ツイン偽ヒュム♀はちょと遠くでさっきの♂を引っ掴んで立っていた。


(即ログアウトしてログインしちぇいるんだとしたら、ひょっとしたらこいつらはGMなんですかねぇ?)

「じゃあ佐天さん、風紀委員と警備員の邪魔にならないように向こういこっか。
 たぶん鞄の中に絆創膏とかあるからさ」

「そうですね、分かりました」

「ほら、アンタもいらっしゃい」

「…うむ」

短髪偽ヒュム♀がブロントさんについてくるように言ってくる。
権力者にはへたにさかららない方がいいと考え、ブロントさんはその言葉に従うことにした。


――――――――――――――――――――――


美琴と佐天さん、そしてブロントさんの3りは、要救助者のいる広場に戻った。
鞄を置いておいたベンチにケガ人2りに掛けて貰い、美琴が2りの介抱に回る。


「さて、それじゃあ佐天さんから診てみよっか」

「ええっ! いいですよ、あたしは大したケガした訳じゃありませんし、
 この人を優先させた方が良いと思いますけど……」


佐天さんはちらり、と同じくベンチに座っている鎧姿の男性を見上げる。
仏頂面で変な喋り方をする変な格好の変な人。
平気そうにしてるけど、確実に自分よりは大事に至っているのではないかと佐天さんは考えた。

さて、佐天さんに心配をされているブロントさんはと言うと――


(…こんな場所、見たことも聞いたこともないんだが?)


不意だまでくらった少々のダメージのことなど気に留めている場合ではなかった。
見慣れぬ景色、建物、PC、NPCなどが乱れるリージョンに、ブロントさんは仏頂面を歪ませることなく困惑している。


「そう?
 っていうことなんだけど、アンタ、ケガとかしてるの?」

「………………」
(ひょとすると此処は今度実装される予定の新エリアのようななにかではないか?
 おれは本能的に主人公タイプダから実装前にToLoveるかテストprayで来てしまったのだと考えれば
 見事な推理だと関心はするがどこもおかしくはないな)

「ちょっと、聞いてる?」

「…む? 何か用かな?」


美琴は、「聞いてなかったんかい」、と呆れが鬼なるも、一応佐天さんの手前、もう一度ブロントさんに聞いてみる。


「だから、アンタは平気かって聞いてるの。
 ケガとか、してないわけ?」

「ああ、そうううことか。
 最高の武器と最強の防御力を持っているおれにはお前の持ってるWSすら効きにくい(頑固)。
 男ならこれくらいチョロイ事だからレディーファウストにすろ(この辺の心配りが人気の秘訣)」

「それを言うなら、レディーファーストでしょうが。
(まあ、防いだか何かしてない限りケガどころか死んでてもおかしくないはずだしね……)
 ほらね、そうゆうことだから、蹴られたところ診せて」

「は…はい」
(い、いいのかなぁ……?)


佐天さんが遠慮がちにそう答えると、美琴が患部を診るために佐天さんの顔を覗き込む。
佐天さんの頬には内出血と少しだけとはいえすり傷が出来ていた。
それを見て、美琴は少し悲しそうに顔をしかめて悪態をつき、手当てにかかる。


「ああ、もう……女の子の顔を蹴るなんて信じられないわねあんにゃろう!
 ウェットティッシュで消毒して、と……大きめの絆創膏、あったかしら……?」

「あ、あいたたたた……」
(うわぁー、今あたしレベル5の人に手当てしてもらってるよー……
 やっぱり辞退して自分でした方が良かったかな?)


美琴が佐天さんのケガの大きさに見合う絆創膏を自分と黒子の鞄から探っていると、横で座っていたブロントさんが首を突っ込んできた。


「ふむ、この程度か」

「ちょっとちょっと、ケガしてる女の子の顔なんてマジマジ見るんじゃないわよ。
 邪魔だから大人しく座って――」

「コレなら《ケアル》で十分ではにいか?」


Burontは、Satensanに《ケアル》を唱えた。
暖かな光とともに佐天さんの傷が癒えていく。


「なっ!?」


佐天さんの頬の傷があっという間に綺麗さっぱり治ってしまった。
美琴が目の前の出来事に愕然としていると、ブロントさんが「うむ」と納得いったかのように頷く。

       
「我(オレ)ながら見事な仕事だと関心はするがどこもおかしくはない。
 自慢じゃないがPT組んでる時に「ヴァナの佐古下柳ですね」と言われた事もある」

「え、あれっ?」


佐天さんは自分に何が起こったか理解できていないようで、ケガのあった頬を触ったり突いたりしている。


「痛く、ない……
 おぉー! ありがとうございます!」


佐天さんも美琴も、今ブロントさんが使った白魔法、《ケアル》に驚いていた。
もっとも、佐天さんと美琴では驚きの意味合いが違うのだが。


「困ったときは御館様だからよ迷惑にならないていおdの辻ケアルはとうえzんの行為」

「えっと、良く分からないですけど…凄いんですね!」

「それほどでもない」


褒められて嬉しいのか、ブロントさんは仏頂面を少し緩ませて、謙虚にそれほどでもないと言った。
だが、どうやら今の行為が行えることは、この街では必ずしも良いことではないようだ。


「……それほどでもあるでしょう?」

「えっ、御坂さん……?」


美琴が、佐天さんを守るようにブロントさんとの間に割って入った。


「今、佐天さんを治療した能力はなに? 《肉体再生》(オートリバース)かしら?
 でも、軽傷とはいえあっという間に他人の傷まで治せる《肉体再生能力者》(オートリバーサー)なんて、
 聞いたことがないんだけど、ね」

「…はー?」


美琴とブロントさんの間に不穏な空気が流れ始める。
といっても、美琴が警戒色を発するので、ブロントさんもそれに警戒しているだけなのだが。

佐天さんには、いったいどうして美琴が警戒色を強めているのか分からなかった。


「仮にアンタの能力が――そうね、強能力者以上の《肉体再生》だとして、
 どうやって私のレールガンを凌いだのかしら?
 無理なはずよ、どんな《肉体再生能力者》だって――
 『レールガンのダメージを全て受け止めて、すぐ近くに居た人間も軽傷で済ませられるように守って、
 そして負ったはずの重傷を即座に回復する』ような――
 そんな凌ぎ方は、防御する能力じゃない《肉体再生》には出来ないはずだわ」

「…お前がなにを言いたいのか皆目拳王がつたないんですがねぇ。
 たしかにミステリーを残すのは勝手だがそれなりのやり方があるでしょう?
 言いたいことがあるならしゃっきり言うべき死にたくないならそうすべき」

「ふ、二人とも急にどうしちゃったんですかっ?」


どんどん喧嘩腰に近くなっていく二人をなだめる為に、今度は美琴に庇われていた佐天さんが二人の間に割って入ろうとする。
だが、美琴もブロントさんも、どちらも引く気はないようだ。


「じゃあ言ってやるわ――」 
(空から降ってくるし鎧に剣に盾って格好で既に怪しいってレベルじゃないんだけど……
 レールガンを平気で凌いで他人の傷も治せるような能力の持ち主。
 どんな能力にしても、そんな能力者がまともな立場の人間な訳がない!
 もしコイツが危険なやつなら……佐天さんたちを守らないとっ!)

「御坂、さん……?」


佐天さんは、美琴が自分を見る目になにか真剣みが混じっていることに気がついた。
だが、その意図はただの学生である佐天さんには分からない。


「アンタ、何者よ……!?」


問いかけながら、いつでも攻撃が可能なように帯電する。
ブロントさんの返答は――


「そう言うお前は何ももなんだよ。
 見ろ、見事なカウンターで返した調子に乗ってるからこうやって痛い目に遭う」


美琴はブロントさんの言葉を受けて、吉本新喜劇ばりのズッコケを見せた。
空気が張り詰めていたような気がしたが、別にそんなことはなかったぜ。


「み、御坂さん、大丈夫ですか?」

「あ…ありがとう、佐天さん」


見事なズッコケを見せた美琴を、佐天さんが手を差し伸べて立たせる。


「アンタねえ、それ言う!? 自分で言えって言ったくせにそれ言う!?
 こう…もっとそれらしい返し方ってあるんじゃないの!?」

「そももも人に名前を聞くときは自分から名乗るものだと思った(しきたり)」

「んぐっ……! そりゃあ、そうだけど……」

「だがなんだかんだと聞かれたら答えてあげるが世の情けだからよ、今カイは答えてやっても良いぞ」

「どっちなのよ!」

(大変だなぁ、きっとツッコミ体質なんだね、って……あれっ、なんかあたし空気になってない?
 全然話についていけてないんだけど、頑張って喋った方がいいのかなぁ)


佐天さんはとりあえず二人の間で、美琴とブロントさんの掛け合いを見守りつつ、此処だというところで口を挟むことにした。
美琴がじたんだを踏み終えると、ブロントさんが誇り高く名乗りを上げる。


「おれはブロントだし謙虚だから呼ぶときはさん付けで良い。
 種族は見てんお通りエルでジョブは黄金の鉄の塊で出来たナイト、名実ともに唯一ぬにの盾だぞ。
 最強の武具装備をしているから全身からかもし出すエネルギー量がオーラとして見えそうになり
 リアル世界よりも充実したヴァナ生活が認可されているがリアルでも伝説の不良としておソルられてる。
 FFではナイトだがリアルではモンクタイプだからなケンカも強いしみんなが俺に注目する」


明白に明瞭な自己紹介が終わっても、それを聞かされた2りはどう返事をしていいか分からなかった。
入ってきた情報は多い、多いのだが……


「…名前以外意味が分かんなかったのはあたしだけですかね?」

「奇遇だね、私も分かんなかった……まあそれは置いとくわ」

「置いといちゃうんですか!?」

「コイツにいちいちつっこんでたら話が進まなそうなんだもん。
 で? アンタからはまだ肝心なことが聞けてないんだけど?」

「【えっ!?】」


ブロントさん自身としては会心の名乗りだったがために、ブロントさんには今の名乗りになにが足りなかったか分からない。


「えっ、じゃないわよ。
 能力とレベルを言えっつってんの」


美琴が足りない点を忠告してくれたみたいだが、ブロントさんの頭にはクエスチョンマークが溢れかえる。


「俺は能ろyくがなにを指してるか謎みたいだった。
 レベルはナ75/シ37だが俺は強さを口で説明したりしない。
 口で説明するくらいなら俺は牙をむくだろうな。
 おれパンチングマシンで100とか普通に出すし」

「75とか37ってなにそれ、ふざけてんの?
 ていうか、能力が分からないってどうゆうことよ?
 まさか、アンタも身体検査(システムスキャン)では無能力者(レベル0)判定とか言い出すんじゃないでしょうね……?」
(それとも能力じゃなくて、ひょっとしてあの鎧に秘密があるのかしら……
 ふざけた格好だけど実は最新鋭の《駆動鎧》(パワードスーツ)だとか?
 ……《駆動鎧》ってよりは、どうみてもただのコスプレよね)


彼我の常識と知識の食い違いがまだはっきり見えないため、双方ともに違和感を覚えるより先に相手がわざとはぐらかしているように思えてしまう。
美琴は相手の素性がまったく見えてこないからいまいち警戒が解けないし、
ブロントさんは美琴たちが情報源である以上、訳の分からない質問をされようとコミュニケーションを取らざるを得ない。


(パンチングマシンで100ってあたしらからすれば凄いけど、男の人でそれって凄いのかなぁ?)


一方、佐天さんは双方の思惑に関係なくブロントさんの言葉に真っ当な疑問を感じていた。


「「システムスキャン?」「誰それ?」「外人?」「歌?」こんなもんだから、
 お前の今までのレスみとも「訳分からんね」「笑う坪どこ?」ほらこんなもん」

「ケンカ腰な上に言ってることは分からないんだけど、言いたいことはなぜか伝わってきますね……」

「理解しても腹が立つけどね。
 それにしても身体検査が分からないってどうゆう……?」


ブロントさんの言葉の内容にそろそろ違和感を覚え始める2り。
黙り込んで考え込んでしまうが、放置されるブロントさんとしては堪ったものではない。


「さっきからずっとお前らのターンだがそれは犯罪だぞ!
 おれが名乗ったんだからお前らも名乗れよ俺が埃高い四魂の騎士じゃなかったら既にお前らは海の中。
 それくらいも出来ない卑怯者はマジでかなぐり捨てんぞ?」


ブロントさんにはまだ現状を把握するための情報が足りない。
とりあえず名前を名乗らせることで会話を続行させる。


「ん、それもそうね。
 私の名前は御坂美琴、制服見りゃ分かるかもしれないけど常盤台中学に通ってる学生よ。
 能力判定はレベル5、常盤台の《超電磁砲》って言えば分かるでしょ?」


美琴はこの《学園都市》では超有名人だ。
名前、所属、二つ名、どれをとっても《学園都市》の住人に名乗るには十二分なのだが――


「「御坂美琴?」「誰それ?」「川本真琴?」「1/2?」こんなもんだから、
 お前の言葉から思いどそうも「聞いたことないね」「常盤台ってどこ?」ほらこんなもん」

「ええっ!?」


学園都市第三位のレベル5、《超電磁砲》の御坂美琴といえば常盤台のエース^^
常盤台といえば強能力者以上の学生しか通えない超名門お嬢様学校。
これは《学園都市》にいる人間にとっては常識である。

ところがぎっちょん、このブロントさんに常識は通用しにい。


「ほ、ホントに知らないの?」

「うーん、ちょっと言葉を変えて似たようなセリフを続けて言うあたりマジっぽいですねえ」


別に美琴は、自分が有名人であることを鼻に掛けたりはしない。
自分のことを知らない人も居るであろうことを分かっている。
でも、常盤台も《超電磁砲》も知らない、という相手が《学園都市》に居ることは衝撃だった。


「ふむ……
 美心、自分のことをただももではないと思いこんえdしまうことは中学生には稀に良くあるらしいぞ?
 リアルで痛い目を見る前で良かったなリアルだったらお前はもう死んでるぞ。
 俺は不良だからよお前の黒歴史をふれてまわらないし馬鹿にするやつはズタズタにする。
 お前全力で安心していいぞ」

「うわぁ……」
(あれは、憐みの眼だ……)


ブロントさんとしては、目上の者として目下の者に優しく接したつもりなのだが――


「ひ、人を中二病扱いしといて…あまつさえ名前も間違えるとはいい度胸ね……!!」


美琴としては屈辱以外の何物でもない。
知らないのはまだいい、1ヶ月前のバカだってそうだった。
だが、このいかにも可哀想な年下の子を相手にしています、という態度が気に入らない。


「なんだ急に顔を真っ赤にしてビリビリしだした>>いm琴。
 やはり思わずナイトをしてしまっている真のナイトだからもててるという事実だな。
 だが俺はみんなのメイン盾だからなお前だけを守ってやるわけにはいかないのだよ(誠実)」


ぷちっ。
美琴の中で、なにかが音を立てて切れた。


「誰がオマエみたいなやつに惚れるかあああああああッ!!」


怒りのボルテージが振りきれたのか、美琴は辺り構わず電撃を放った。
だが近くにいるのはブロントさんだけではない。


「え、ちょっ! きゃあ!?」

「おい馬鹿やめろ!!」


ズガッシャァっという轟音とともに、広場の一角が電光で輝いた。


――――――――――――――――――――――


「奥津ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!
 本当に無事で、無事で良かったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「スプーキー…丘原さん、どうしちまったんだ?」

「いや、俺もさっき起きたばっかでなにがなんだかよ……」


銀行前では、警備員と風紀委員の現場整理と検証、そして犯人の搬送が行われている。
犯人の護送車へ乗り込む際には、警備員だけでなく実際に彼らを捕縛した黒子も立ち会った。


「アナタの能力もなかなかでしたわよ。
 それだけ子分を大切に思えるなら、今度は道を外さず、もう一度出直すことが出来ますわよね?」


黒子は子分の無事を喜ぶ丘原に、そう声を掛けた。
丘原は涙を拭いて答える。


「…ああ。 こいつらの為にも、出てきたら真っ当な生き方を探さねえとな……
 あの光景を見たら、もう危険な目には合わせられねえよ」

「お、丘原さん……ッ!」

「あの光景って俺になにが起こったか分かんねえッスけど、感動したッス……!
 一生アンタについていきます!!」

「お、おまえらあああああああああああああああああああああ!!」


手錠をされているため、手の自由が効かず、おしくらまんじゅうのようにして額を突きあわせて号泣する男3り。


「ま、まあ、アナタがたが社会に復帰できるよう、わたくしも祈っておりますわ。
(あ、暑苦しいにもほどがありますの……! これだから殿方というのは……)
 さ、そろそろ乗り込んでくださいまし」

「ふぐぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~ッ!!
 …そうですね、分かりました! 《空間移動能力者》の姐さん!」

「「姐さん!」」

「…姐さんはやめてくださいな」


そろそろ犯人を乗り込ませないと先輩に怒られてしまう。
風紀委員と話しこんでいる犯人たちに眼鏡の警備員が乗り込むよう促さそうとしたところで――

ズガッシャァ、と突然広場の一角で放電現象が起こった。

その場に居合わせた警備員と風紀委員が全員新たな事件かと構える。


「! なななななんですか何事ですかぁ!?」


訂正、犯人の護送車乗り込みを任されている眼鏡の警備員だけ、驚いてその場で縮こまった。
皆が構える中、黒子だけは誰の仕業か即座に理解したのでため息をつく。


「はぁ……
(お姉様ったら、お上の目が近くにありますのになにをしてらっしゃるんでしょう?
 軽率な行動はお慎み頂きたいものですが……)
 皆さま、申し訳ありません。
 あれはわたくしの友人によるものですので、どうかお気になさらぬようお願い致しますの」


黒子の言葉に、初春と眼鏡の警備員を除く他の風紀委員と警備員たちが顔を見合わせてどうしたものかと悩む。


「…まあいいじゃん?
 問題ないって言うなら今のはほっとくじゃんよ」


悩む人間が多い中、ジャージを着た警備員の鶴の一声で、悩んでいた全員が各自の仕事に戻っていった。
黒子はホッとして、ジャージの警備員に礼を言う。


「あの、ありがとうございますの」

「ん?
 いいっていいって、たぶん今の、今回の捕りものに協力してくれた奴だろ?」


警備員の指摘に黒子はぎくりとなるが、特に隠す理由もないのでそのまま頷く。


「ええ、その通りですの」

「じゃあ今回のお手柄に免じて、さっきのはそれで見なかったことするじゃんよ。
 でも次はないから、そう伝えとくように」


ジャージを着た警備員はそう言って、未だに縮こまっている眼鏡の警備員の元へ歩いていった。


「ほら鉄装、お前はいつまでビビって縮こまってんだ!
 早く容疑者を護送車に乗せるじゃん!」

「はひぃ!? す、すいません黄泉川先生ぇーー!!」

「まったく……」


警備員と話し終えると、応援の風紀委員に報告を終えた初春が駆け寄ってきた。


「今の、もしかして御坂さんですか?
 なんていうか、慣れてますよね、白井さん」

「ええ、お姉様の隣に居れば、これぐらいの電撃が走ったところで驚きませんわよ」


黒子は、やれやれといった感じに肩をすくめる。


「おおかた、先ほどの妙な殿方がお姉様に無礼でも働いたのではなくて?
 さ、初春、早く事後処理を終わらせてしまいますわよ。
 またお姉様が暴れだしては、わたくしも庇えませんもの」

「あっ、はい! 待ってくださいよ、白井さーん」


――――――――――――――――――――――


「あれ…あ、たし……?」
(なんとも、ない?)


美琴の電撃に巻き込まれると思って、目を閉じて身を縮こまらせていた佐天さん。
自分の身になにも起こってないのはなんでだろうと目を開けると、佐天さんの前には大きな盾が立っていた。


「フレも敵も構わずサんダーするとかちょとsYレならんしょこれは……!?」

「完全に防いだ……! なんなのよ、アンタのその装備、いや、能力……!?」


美琴の電撃は、貧弱一般能力者にとっては地獄の宴とも言える電撃だ。
だがブロントさんは美琴の電撃を「なんだこれは?」と避けまくるし、
その場に居た佐天さんをきょうきょ《かばう》で庇い、「ほう・・」て下段ガードを固め守り切る。


「今は武器防具の話を聞きたがるよるも大事なことがあるんではにいのか!?
 バカみたいにヒットした頭を冷やせ見事!
 お前フレをアワレにも骨にしたいのかよ!?」

「それは……って! 誰のせいだと思――」

「口で言い訳するくらいならおれは先に謝るだろうな。
 おまえもし化して「すいまえんでした」が、言えない馬鹿ですか?」

「うっ…… そうゆうわけじゃ、ないけど……」
(なんで人を小馬鹿にして煽るような態度とる癖に正論を振りかざせるのよ!!
 こんな理不尽な正論生まれて初めて聞いたわ……)


美琴のヘイトを稼いだのはブロントさんだが、ブロントさんの挑発に乗ったのは美琴だ。
守るつもりだった佐天さんを、ブロントさんが居なければ傷つけてしまうかもしれなかったのは事実。
ブロントさんの言うとおりにしてしまうのは実に癪だが、美琴は佐天さんに謝らなければならないと思った。


「佐天さん、ごめんね、大丈夫だった?」

「ああ、いやいや、この人があたしを庇ってくれたから……全然、気にしないでいいですからね?」
(私が御坂さんでもたぶん電撃放ってるし)

「ほう、即座にフレを許せるとはなかなか見上げた心崖と関心はするがどこもおかしくはないな。
 おもえは……左辺というのか? ジュースをおごってやろう」


佐天さんの心に広さが怖い、ブロントさんはお腰につけたアイテム袋から2本、缶ジュースを取りだした。


「ど、どうも……
 あたしは佐天です、佐天涙子っていうんですよ」
(わっ、このジュース買ったばっかみたいに冷たい! なんで!?)

「いmころ、お前もよく自分のひを認めてちゃんとフレに謝れたな。
 ジュースをおごってやろう」


取り出した2本目のジュースは美琴の分だった。
佐天さんのと同じ冷たいジュースが美琴の手に渡された。


「えっ、うん……」


ブロントさんの予想外の対応に思わず素直に受け取ってしまった美琴。


「セブ●UPって、チョイスが渋いですねー」

「ほむ、お前はなかなか分かっているようだな>>うりこ。
 7アッポは働く大人の醍醐味だからよ、飲めば元気がぽこじゃか湧いてくる感」

「ふふっ、ぽこじゃかなんて表現初めて聞きましたよ。
 どこかの方言なんですか?」

「どこでもいいだろ言語学者なのかよ」

(貶してきたと思ったら説教して、それが終わったら褒めてきて……
 もう、本当になんなのよコイツ……)


いつまでも手の中のジュースを眺めていてもぬるくなるだけだ。
プルトップを引いて、一口飲む。


「……美味しい」


なんだか、怒っていたのも疑っていたのも馬鹿らしくてどうでもよくなってしまった。
先ほどまでの怒りが気の抜けたコーラの様に落ち着き、美琴は一先ず目の前の不審者を疑うのをやめることにした。


「それにしても《学園都市》って変わった飲み物ばっかりだと思ってましたけど、ちゃんと外の飲み物とか売ってるんだぁ」


佐天さんの何気ない一言に、ブロントさんがぴくり、と反応する。


「学andトシ……?
 総入れ歯うっかり聞き損なってしまったようだな。
 みおkと、るっこ、おれは今どこにいるのか分からにいのだがここはヴァナのどの辺なんですかねえ?
 LSメンが心配が鬼なってるだろうから俺はそろろろカカッとジュノに帰らねばならないんですわ」


大事なことを忘れていた。
ブロントさんには現状把握が必要だったのだ。
今の雰囲気なら雑談の話題として聞いてもなにもおかしくはない、
そう判断してブロントさんは道を尋ねる感覚で質問をした。

「は? 此処は《学園都市》の第七学区だけど……」

「さっきも言ってましたよね、ヴァナって……
 ヴァナとかジュノって、場所のことですか?」


返ってきた答えは、ブロントさんの推理を遥かに裏切るものだった。


「お、おいィ……? 分からないわけないはずではないか?
 《ヴァナ・ディール》は俺らが冒険しる世界の名前だしジュノは《ジュノ大公国》でFA!」

「う゛ぁなでぃーる……? じゅのたいこうこく……?
 ええと、外国のことなのかな?」

「でも聞いたことないわね、そんな国」

「だが…ッ! 本当に、知らないのか……?」


なんだそれは、問い詰めたくなったが、美琴と佐天さんが嘘をついてるような感じがしない。
美琴は、さっきの自己紹介もふざけているのではないかと言っていた。

ブロントさんの顔色がみるみるうちに蒼くなっていく……


「佐天さーん! 御坂さーん! お待たせしましたー!」

「まったく、折角の親睦会でしたのに、ついてませんわね。
 …あら、皆さんどうされましたの?」


事後処理を終えて、黒子たちが戻ってきた。
3人の様子がおかしいので、首をかしげる。
ブロントさんは、先ほどGMのような動きだと思った黒子と初めて此処で会った初春に詰め寄る。


「お前ら! おもえらはヴァナとジュノを知ってるのではないか!?」

「は、はぁ? う゛ぁなってなんのことですの?
 知っていますの? 初春」

「い、いえ、少なくとも私は聞いたことのない言葉ですね……」

「なっ……」


2りの答えに、ブロントさんはよろよろと後ずさる。


「ちょ、ちょっと、アンタどうしたのよ!?」


美琴がブロントさんの様子があまりに激変したので心配になって声をかける。
ブロントさんは、先ほどケガの有無を聞かれた時のように、これぐらいチョロイ事、と答えられない。


「俺は…俺は……」


ブロントさんは、あの扉だらけの通路で扉に飲まれた時、
自分のヴァナ人生が裏世界でひっそりと幕を閉じてしまうことを覚悟したが――


「本当に裏世界に来てしまったとでもいうのかよ……ッ!?」




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


美琴たちが居る《第七学区》、その巨大な面積の中には大小様々な施設や建物がある。
その中でも、取り分け異彩を放つ建物があった。
その建物には窓がない。
ドアもない、階段もない、エレベーターもなければ通路もない。

建物として機能するはずもない《窓のないビル》の内部、だだっ広い空間に設置されている巨大な生命維持槽。
そこに満たされた弱アルカリ性培養液の中に、手術衣を纏った『人間』が逆さまに浮かんでいる。

男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』――
『彼』の名はアレイスター=クロウリー、学園都市の最大権力者、《学園都市総括理事長》である。

今彼は、学園都市の空に突如現れ、
その場に居合わせた第三位の《超電磁砲》と接触した《異常》(ブロントさん)をどう処理するか、その判断を付けかねていた。


「あれは、なんだ……?
 空に顕現した扉、あれは科学か、魔術か、それとも――」


アレイスターは誰に語りかけるでもなく自問自答する。


「あの鎧姿の男の正体も判断が付けがたい。
 だが少なくとも、即座に行動を起こすようには見えないな……
 刺激せず観察に徹し、『プラン』の障害になるならばこれを排除することにしよう」


未知に対する妥当な判断。
かつての大魔術師をもって未だ知らぬもの。
その事実に、アレイスターは嘲笑気味に口角を軽く持ち上げた。


「あれもまた、いくつもの可能性の一つなら……
 あれは一体なにを証明してくれるのかな?」


―――

―――――――――

――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――




[26956] 第1話 中 #11~#13
Name: オニオンソード◆3440ee45 ID:fb0bbf73
Date: 2011/05/01 11:19
「ええと……ブロンドさん、と申されましたか?」

「おれが金髪の雑魚に見えるならお前の目は意味ないな後ろから破壊してやろうか?」

「アンタだって散々人の名前間違えてんだから、いちいち噛みついてんじゃないわよ」

「俺がどうやって名前を間違えてるって証拠だよ!」

「ブロントさん、私の名前を呼んでもらえますか?」

「家財r」

「ほら、間違えてるじゃない」

「ブロントさんにツッコんじゃ駄目ですよ御坂さん、話がどんどん逸れちゃいますって」


ブロントさんがなにやらかなり訳ありの様なので、近くにあったファミレス、《ジョナサン》へ入り、
そこで落ち着いてから話を聴くことにした。

店内へ入ると、誰もがブロントさんを3回連続見つめる。
ブロントさんが光属性のリアルモンク属性だから一目置かれる存在であるため致し方ないのだ。


(西洋鎧だ……)
(西洋鎧が中学生と仲良くしてる……)
(通報……)

「そ、そうね……」
(ううっ…視線が痛い……!)


自分たちで連れてきておいてなんだが、ブロントさんと店に入ったことを少し後悔し始めた美琴たちだった。

黒子が気を取り直して話を再開させる。


「失礼しました、ブロントさん…ですわね?
 アナタの仰ることをまとめてみますと、アナタはこの《学園都市》の住人――
 いえ、この世界の住人ではない、と」

「うむ」

「本来アナタは、ええと――」

「《ヴァナ・ディール》ですよ、白井さん」


初春がササッとサポートへ回った。
まぁ2りのコンビネーションはまさしく鬼の力と言ったところかな。


「そう、その《ヴァナ・ディール》という世界を旅する冒険者で、
 お仲間の危機に駆けつけようとしたところ、なにやら不思議な場所に出てしまい、
 そこを抜けだしたと思えば、気が付いたらこの《学園都市》に来てしまった、ということですのね?」

「流石ほくろの読解スキルはA+といったところか」

「ほくろじゃなくてくろこですの!!」


この間違いは許されざる間違いだ。
黒子がツーテールを威嚇するようにおっ立てて怒る。


「おっととちょっとわずかに読み方が誤用だっただけのこと。
 ホメていることにえmんじて許すことが必要不可欠」

「ふん、次はありませんからちゃんと覚えてくださいな」


ぷいっ、と黒子がそっぽを向く。
どうやら今のはなかなか機嫌を悪くさせてしまったらしい。


「そっ、それにしても異世界から飛ばされてくるなんて、まるでファンタジーものの主人公みたいですねっ!」
   

初春が場の空気を和まそうと無邪気を装ってブロントさんに話題を振る。
中一に気を遣わせる恥知らずな内藤がいた!

だがブロントさんの心には、そんなことよりも『主人公』という言葉の方が琴線に触れた。

   
「俺は本能的に主人公タイプだからヒュンな事から異世界に賭場される系の話は稀に良くあるのだが
 事前に飛ばさるるとわかっていれば対応も出来るが今回は分からなかった場合なので手の打ち様が遅れてしまったらしい。
 貧弱一般主人公ならここで諦めが鬼なって人工的に淘汰されるのが目に見えているのだが一級主人公はフレがフレを呼ぶ(暴風)。
 二個とと戻子のフレが国家権力だったことでおれは世界がよく見えると思った」


目を輝かせてにわかに饒舌になるブロントさん。
どうやらその様子は美琴たちには可笑しかったらしく、その証拠に笑顔が出てしまう。


「ええ、学園都市の治安維持はわたくしたち風紀委員の務め――」

「困っている人を放っておくわけにはいきませんからね。
 私たちが全力でサポートしますよ!」

「ホント、運が良かったわね。 感謝しなさいよ?」

「でも初春は頼りにならないんじゃないかなぁ?」

「えぇー、ひどいですよ、佐天さーん……」

「「「「「あはは、あはは、あはははは!
    あはは、あはは、あはははは!
    あはは、あはは、あはははは……(フェードアウト)」」」」」


ブロントさんたち5りが座っている席を中心にレストラン内に笑顔が溢れていく。
その光景に心打たれたレストランの店長が後日、その光景をモチーフに黄金の鉄の塊で出来た油絵を描き上げ店内に飾ったところ、
大変評判が良く、その絵を一目見ようと足を運ぶ貧弱一般人で店の売り上げがばつ牛ンに上が――


「って!! んなわけあるかーーーーーっ!!!」


今まで空気を読んでいたが、ヒャア がまんできねぇ 0だ!
とばかりに、美琴がリアクションを取りつつ勢いよく立ちあがった。
肘を脇腹につけて両の掌を上に向け背筋を伸ばした支配者のポーズが光る。

ブロントさんの自分は異世界から来た系の発言にいよいよ御坂美琴の電子メス(ツッコミ)が入れられた。


「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……」

「おいあもりビリビリするなハゲるぞ」

「ハゲてない!
 百歩譲ってアンタが無能力者か、まあありえないだろうけど外部の人間かなんだかってことを納得してもいいわ……
 でもね、異世界人だなんてそんな突飛な話を誰が信じられるのよ!!」

「お姉様、落ち着いてくださいですの」


怒涛の勢いの美琴を、黒子が優しい声でなだめようとする。


「だって《学園都市》ですのよ?
 なにがあったって不思議じゃありませんの」

「…そりゃそうよねー。 学園都市だもんね!」


そう、此処は《学園都市》。
最先端の科学技術の粋が集められて作られている街なのである。
だから、この街ではどんな不可思議なことが起ころうとも《学園都市》ということで――


「納得できる訳ないでしょ!!
 え、ていうかなに、黒子、コイツの言うこと信じてるの?
 MMRのノリなの?」

「進み過ぎた科学が異世界への扉を開いてしまう――
 ロマンがあって素晴らしいとは思いませんこと?」


黒子は、古いSF映画やB級映画の未来的な描写に出てきそうな現象とかアイテムとか、
それ系のおバカな近未来が好きだった。


「なにそれこわい。
 …初春さん! 初春さんは信じてないよね!?」

「私も夢があっていいと思いますけど……」

「風紀委員としてそれでいいの!?
 かたってるだけで不審者かもしれないのよ!? もう十二分に不審者だけど!」

「お前いきなり不審者扱いされる奴の気持ち考えたことありますか?」

「アンタは黙ってなさい、私は初春さんに聞いてるのよ。
 かもって言ってやってるのがせめてもの情けなんだからね!」


ぎりぎり、と歯を食いしばって睨み合うブロントさんと美琴。
苦笑しながら初春が美琴の問いに答える。


「あはは…でも、ブロントさんがなにをしたってわけでもなく、言動と格好以外は不審な点も特にありませんから……」

「うぅっ……! さ、佐天さぁ~~~ん……」


藁にもすがる思いで美琴は佐天さんに話題を振る。


「ま、まあ、あたしは別に信じてませんよ?」

「佐天さん……っ!」


大袈裟だろうが、窮地に味方が現れることのなんと心強いことか。
佐天さんマジ佐天使。


「でもホントだったら面白そうですよねー」

「佐天さああああああああああああああん!?」


佐天使は堕天使だった。
自分の意見の支持率の低さにショックを受け、美琴はテーブルへ突っ伏す。


「異世界人という証拠を出せといわれても出せるわけがないと言う理屈で最初から俺の勝率は100%だった」

「勝ったと思ってんじゃないわよ……」

「もう勝負ついてるから」

「ぐぬぬ……!」


ブロントさんが美琴にどや顔で追撃を入れると、再び2りで睨み合い。
なんともまあらちが開かないので、黒子が口を開いた。


「と、冗談はさておき――」


その前置きに、ブロントさんを除く少女3りが微妙な顔をする。


(冗談だったんですか?)

(冗談だったんだ?)

(黒子、結構本気のトーンだったような気がしたけど……)

「? なんですの、その顔は。
 …とにかく、ブロントさんは身元不明ということもありますし、一度《一七七支部》に来て頂いた方がよろしいですの」

「七七七イブ?」

「《風紀委員活動第一七七支部》、私たち風紀委員の詰め所ですよ」


ブロントさんが聞き慣れない言葉に疑問の声を挙げると、初春が補足を入れてくれた。
だが、その補足を聞いたブロントさんは渋い顔をする。


「…それって間接的とはいえ警察署と同様だろ……
 おれは汚い取り調べで色々調べられて人生がゲームオーバーになる」


ヴァナでは有名人のブロントさんも、此処ではよそ者でしかない。
先ほど美琴に反発はしたものの、一応自分が彼女らにとっては不審者でしかないことを、ブロントさん自身も良く分かっていた。
故に、助けてもらえる分には助かるが、公的機関に引き渡しとなると、即座に首を縦に振ることが出来ない。


「取り調べなどと言うほどのものではありませんが、やはりわたくしどもとしましては、
 少し検めさせて頂かねばなりませんの」

「だーいじょうぶですよ、やましいことがなければきっとなんにもありませんって」

「それに、もし行くあてがないなら支部に泊めてあげられると思います。
 といっても、一時的に犯人を留置するための簡易な場所なってしまうんですが」

「願ったり叶ったりじゃない、路頭に迷うよりはいいでしょ?」


美琴たちがそれを汲み取ってくれたのか、フォローを入れた。

突然の事態に戸惑う自分を励まし、そして突飛な話―ヴァナ的には時空間移動も異空間移動も珍しくはないのだが―をしたと言うのに、
こうも親身になって話を聞いてくれる。

憎まれ口を叩く美琴だって、なんだかんだと言いながらこうして付き合ってくれている。


(奈良ここはリア♀4りの遺稿に沿うべきではにいか?)


そう考えたブロントさんは――


「激しく同意ですね。
 詰め所連行は悪者にとっては地獄の宴だが俺にとっては神の賜物だからよ、権力者にはへたにさかららない方がいいと思った」


首肯し、彼女らの指示に従ってやるという旨を伝えた。


「決まりですわね」


黒子が軽く手を打った。
議朗はこれで終いだ、ということである。


「それじゃ、そろそろ出ましょうか?
 あ、此処の支払いは、今日は全部私がやっとくわね」

「ええっ、そんなの悪いですよ」


美琴の申し出に、佐天さんが驚く。


(お姉さまはどちらかと言うと気前の良い方ではありますが……?)


黒子は珍しいこともあるものだと思い、


(流石お嬢様学校の生徒さんです! 格好いいなぁ…)


初春は憧れの眼差しを向けるのだった。


「いいのよ、ドリンクバーとデザートだけって程度なら割り勘するの面倒だし、さっきのお詫びも兼ねてってことで」

「「おわび?」」


どうやら先ほど佐天さんを電撃に巻き込んでしまったことへの、美琴なりの償いのつもりらしい。
そんなことを知らない初春と黒子の頭の中でクエスチョンマークが飛び交う。


「そんな…気にしなくてもいいのに」

「私の気が済まないの。 だから、ね?
 それに、どうせそこの首長さんはお金を持ってないってオチでしょ?」

「おい人の身体的特徴で呼ぶなよそういう悪口は名誉毀損で犯罪行為だからお前は死ぬ」


ナイトは美琴よりも高みにいるから不審者扱いにも笑顔だったが、
アルパカ呼ばわりにはいい加減にしろよと言わざるを得なかった。

だが流石にブロントさんの扱い方が分かってきたのか、
「はいはいごめんごめん」と、美琴はこれをさらりと流す。


「で、お金持ってるの? 日本円よ、円。
 他のお金は使えないわよ」

「【むむむ。】」


ブロントさんはリアル世界よりも充実したヴァナ生活が認可されているが、リアル生活もあまりに充実している。
日本円がなければ支払いが出来ないことなど言われるまでもない常識なのだ。

が、


「……《ギル》しかにい;;」

「? 《ギル》って、なんですか?」


今のブロントさんの手持ちには日本円などなかった。
今度はブロントさんが初春に聞き慣れない言葉の説明をする。


「ほむ…実物を見たほうがはやいな」


ブロントさんがアイテム袋とは別の、腰に提げた袋をテーブルに置いた。
ジャラリ、とその中身が少しテーブルにこぼれる。


「わっ、金貨だ!」

「まあ…これは……」

「これが、ブロントさんが普段使っているお金なんですか?」

「うむ、《ギル》はヴァナの胸痛通貨だな。
 もとおmとはジュノだけで使われていたものなんだが、まああその辺の説明はいいだろ」

「ふーん…ホントに予想通り持ってないとはねー……」
(…小道具にしちゃあ妙に良く出来てるし、この金貨、かなり使い込まれてる感じがする。
 てことはコレ、本当にどっかのお金なのかしら……)


美琴はテーブルの上の金貨を一つ拾い、観察する。
自分が扱うゲームセンターのメダルや500円玉と変わらぬぐらいの大きさ、重さ。
見たことのないデザインが彫り込まれた、外国に行けば普通に使われていそうな硬貨だ。


(これがなんであれ、コイツの正体が余計に訳が分からなくなるだけね。
 学園都市にだって外国人が住んでない訳じゃないし、まあ黒子が風紀委員活動支部に連れてくって言うなら、
 それで私がコイツの件に首を突っ込む必要もないんだろうけど……)

「? なんだ急にギルを三回連続で見つめだした>>巫女兎」

「……え? ああ、別になんでもないわよ」


美琴が熱心にギルを見つめているので、なんとなく気になったブロントさん。


「そうか? お前も欲すければ持っていって良いぞ」

「持っていっていいって――」


言われて、美琴が他3りを見れば、


「それじゃあ、1枚頂きますね」

「じゃああたしも1枚もーらおっと」

「ではわたくしも」


と、一枚ずつギルを自らの懐にしまっている。


「いいの? 一応これってどこのか知らないけど、お金なんでしょ?」

「良いぞ、使えない金なんて無用の超物ではないか?
 一級廃人のギルの貯蔵は十分だからよ、欲しければ隙に持ってけ」


仮にも金銭なのだが、ブロントさんはしれっとしたものだ。
遠慮は余計であるらしい。


「…そうね、それじゃあ此処の代金の代わりに貰っとくことにするわ」

「ほう、見事な等価交換だと感心するがどこもおかしくはないな。
 英語で言うとアルケミー」


美琴はギルを一枚ポケットにしまい、伝票を持って席を立った。


――――――――――――――――――――――


「Alchemy!?」

「こんな序盤でですか?!」


店を出たら突如佐天さんと初春が空を仰いで意味不明の言葉を叫んだ。


「店を出るなりいきなりどうしたんですの!?」

「いやぁ、なんだか言わないといけないような気がして(・ω<)」テヘペロ

「私は口が勝手に……」

「洋式美という異常な超状現象だな」

「は、はあ…そうゆうものですの?」


ブロントさんは驚きもせず、うんうんと頷いている。
今の黒子には理解出来ない領域の話のようなので、黒子は考えるのをやめた。

そうこうしていると、支払いを終えた美琴が扉を開けて出てきたので、


「お姉様、ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした、御坂さん」

「なんか、ホント、ありがとうございます」

「地層になったぞ」


それぞれ美琴に礼を言った。


「一人だけ化石でも発掘出来そうなんだけど……
 さて、それじゃあ今日はこの辺で解散かしらね」


もう少しするとこの街では、学生たちが一斉に帰らなければならない時刻になる。
《完全下校時刻》というもので、午後6時以降は交通機関、学生が利用しそうな店も閉店、
おまけに夜の街を歩くことで学校の自分への心証が悪くなってしまうかもしれない。
普通の学生は完全下校時刻をなるべく守って学生寮へ帰るのだ。

「そうですわね」、と黒子もそれに賛同する。


「では、わたくしと初春、それとブロントさんはこのまま第一七七支部に向かいますので、ここで失礼させていただきますの。
 初春、ブロントさん」

「はい、白井さん。
 佐天さん、御坂さん、さようならです」

「うん、初春はまた明日学校でね。
 白井さんとブロントさんは、またいつかってことで」

「二人とも、風紀委員とはいえ遅くならないように気をつけるのよ?
 まあ悪意とかは無さそうだし、そのコスプレバカのこと頼むわ」

「バカって言う方がバカだという名セリフを知らないのかよ」

「さっきの金貨叩き返して、アンタの食事代今すぐに耳を揃えて払ってもらってもいいのよ?」

「すいまえんでした;;」


別れの場でもビリビリする美琴に、プリケツ土下座をするブロントさん。
第1印象は決して良いものではない二人だが、いや第2第3の印象もまあ良いとは言えないのだが。


「まったく……」

「むう……」


こういう奴なんだ、と、短時間しか共に過ごしていない相手を、互いに面白いやつだと思えるようになっていた。

だから、新しく出来た二人の友人と同じように、美琴はブロントさんに別れを言う。


「またね、ブロント」

「さんをつけろよデコ助野郎!!」
「さんをつけろですのデコ助野郎!!」
「さんをつけてくださいよデコ助野郎!!」
「さんをつけなさいよデコ助野郎!!」

「きゃぁっ!?」


さんをつけろよデコ助野郎!!

4りがまったく同じタイミングに上げた異句同意の怒号に、美琴は思わず後ずさった。
美琴の悲鳴を聞いて、ブロントさん以外の3りがはっとする。


「ななnあ、なによいきなり!?」

「あ、あら? 申し訳ありませんのお姉様、なにやら無意識に言葉が……」

「私もです……」

「あたしも……あれ?ブロントさん?」


土下座をしていたブロントさんがゆっくりと立ち上がる。
全身からかもし出すエネルギー量がオーラとして見えそうになり、陽炎のように辺りの空気が揺らめいている(ような気がする)。


「さんつけろデンキッ!!
 相手を挑発する言葉は非常に人をふるかいにする。
 もう結構ウデとか血管血走ってるから騒ぐと危険」

「…な、なによ! そんなに怒ることじゃ……」


怒れるブロントさんを見て唖然とする美琴。
すると、そこへ初春が、


「あーあー御坂さんのせいでブロントさん怒っちゃいましたわー」

「えっ?」


まるでらしくない煽りを入れてきた。
いや、初春だけではない。


「お姉様ww早く訂正をしてくださいましwww」

「はやくwはやくwはやくw」

「ええっ!? 黒子…佐天さん……皆、どうしちゃったのよ!?」


いきなりの豹変。
彼女たちが本性を曝け出したのか?
否、そうではない。
彼女たちの変貌は美琴がブロントさんを呼び捨てにしたことから始まった。


「まさか、ブロントになにかされ――」

「さんを!!」
「つけてください!!」
「ですの!!」
「デコ助ええええええええええええええッ!!」

「ひぃっ!?」


お前まだブロントさんを呼び捨てにしよるんか!!

あまりにも綺麗なローテーショントークに美琴はドン引きだ。
突然友人たちが敵に回ってしまうほどのブロントさんが持つ絶望的なカリスマも誇るカリスマを前に、美琴はなす術もなかった。

本能的な恐怖に、口が言われたとおりに言葉を紡ぐ。


「ぶ、ロント、さん……」

「…おいィ? お前らは今の言葉聞こえたか?」

「聞こえました」

「確かに言いましたね」

「わたくしのログにもちゃんとありますの」


美琴がちゃんとブロントさんに敬称を付けた事によって、ブロントさんの全身からかもし出されていたオーラがすーっと引いていく。


「なら許すまうs!」

「…なんだってのよぉ……?」


なにがなんだか分からないが、ともかく危機は脱したようで、緊張していた美琴の体から力が抜けた。
へたり込みたい気分だったが、そこはぐっと堪える。

美琴がさんをつけなかったことにより変な空間になったので一同無言の沈黙状態だったが、
黒子は話題を戻す為美琴が落ち着くと同時に咳払いをした。


「こほん、話が反れたので改めて――失礼しますわ、お姉様。
 首を狩られる心配がないからといって、あまり遅くなりませんように」

「…うん、分かってるって。
 門限までにはちゃんと寮に帰るから心配いらないわよ」

「ええ、是非そうしてくださいな。
 初春、ブロントさん、行きますわよ」

「はい」
「うむ」


黒子とのやりとりで、美琴はいつもの調子を少し取り戻せたらしい。
それを見届け、黒子は初春とブロントさんを連れて歩きだした。


「あれ、白井さん、徒歩で行くんですか?」


いつもなら支部に用事がある場合は黒子の《空間移動》でパッと向かうので、初春は疑問に思った。


「んー、わたくしとて能力で行きたいところですが――」


黒子がブロントさんの巨躯を上から下へとねめ回した。
2m近い長身に、かなり重たそうな装備。


「3人同時なんて、明らかに重量オーバーですの。
 それほど遠くもない距離ですし、徒歩で十分ですわよ」

「黄金鉄の塊で出来たナイトのプレシャーに耐えきれないのは恥ずべきことではにいぞ黒古。
 ただそのテレポんトが体験できないのはちょと【残念です】」

「ああ、確かに初めてならどんな風なのか体験したくなる気持ちは分かるかもしれません。
 白井さん、あとでブロントさんを飛ばしてあげたらどうですか?」

「初春…能力はおもちゃじゃありませんのよ?
 まあでも、少しぐらいならいいでしょう。 近距離なら危険もありませんし」

「ゲイとクリステルとテレポINTなしにテレポる気分がどう言うものかはナイトだから味あわないのかもうダメかと思ったが
 流石一級テレポんターは格が違った。
 やっぱりテレポ出来る人すごいなーあこがれちゃうなー」

「褒めてもなにも出ませんわよ?」

「と言いつつ、嬉しそうですね、白井さん」

「だっ、誰が喜んでるって証拠ですの!?」


ワイワイガヤガヤ、あれこれと会話を交しながら美琴と佐天さんから離れていく黒子たち。

夕刻というのは、どうにも寂しさを感じる時間ではないだろうか?。
夕日に照らされて歩く3りを見て、残った2り――
美琴と佐天さんは幾ばくかの寂寥感を覚えた。


「……ふふっ、楽しそうですね」

「……そうねー」


残された者同士、微妙かつ複雑な笑顔で顔を見合わせる二人。
すると――


「三言ォ! りうこォ!」

「ふぇ?」
「ん?」


ブロントさんが振り返って2りの名を大声で呼んだ。


「俺のほうからはまだお前らにKOOLな去り際に捨てセリフを言ってなかったらしいぞ!
 おれが思うにお前らにはかなり世話になってしまったのではないかまあ一般論でね! 感謝sるぞ美琴!涙子!
 また会えるだろうな!(確信) おもえらはもう俺のフレだからよー!」


別れを告げ、大きく手を振り、ブロントさんはまた黒子たちと歩き出した。
黒子が「突然叫ぶとは何事ですの!」、とブロントさんに文句を言っている。

突然のことでポカンとする2り。
こんな公衆の面前で大声で名前を呼ばれて別れるなんて、小学生ならまだしも中学生の彼女らには恥ずかし過ぎ――


「…あっ、名前……」

「……なによ、ちゃーんと人の名前呼べるんじゃない」


2りの表情に、もう寂しさの影はどこにもない。
圧倒的な光属性を前にすればそんなものはただの雑魚でしかなかった(リアル話)。


「御坂さんは、これからどうするんですか?」

「そうねえ……
 私はこのまま寮に帰ろうかな、あんまり遅くなると黒子がうるさいし」

「あははっ、じゃあ、あたしとも此処でさよならですかね。
 あたしは夕飯の買い物してから帰りますんで」

「そっか…じゃあね、佐天さん」

「はい、御坂さん」


そうして2りはそれぞれの帰路に――


「――あっ!」

「ん? どうかしました?」


着く前に、美琴は大事なことを思い出した。

美琴は佐天さんをじっと見つめた。
優しい視線に、佐天さんは同性でありながらもついドキッとしてしまう。


(な、なんだろう……?)

「色々あり過ぎて言い損ねちゃったけど……お手柄だったね、佐天さん」

「えっ、っと、なにがでふか?」
(ああ、呂律が微妙に回ってない。
 お、落ち着けあたし! 深呼吸! 転龍呼吸法!!
 ってどうやるの!?)

「強盗から助けたじゃない、男の子」


「お手柄」がなんのことだか思いつかなかった―考えてなかった?―佐天さんは、
美琴の言葉で「あ、ああー、あの事ですか」、と納得がいった。


「でも別に、あれはとっさに必死でなんとかしなきゃって思ったら身体が動いただけですし……
 あたし、能力なんてないから、あんなことしか――」


実際に犯人を捕まえたのは黒子と美琴、被害を最低限に抑えたのは周囲の人間を広場に牽引した初春。
自分は身体を張ってようやく子供一人を助けられただけ。

(ひょっとしたら足を引っ張っちゃっただけなんじゃないかな?)
(すごい能力を持ってる御坂さんたちとか、《風紀委員》の初春なら、あたしが居なくても助けられたんじゃないかな?)
能力の無い(レベル0の)佐天さんは、どうしても、そう考えてしまう。


「能力がないのにでしゃばっちゃって、あはは、蹴られ損でカッコ悪かったかなぁなんて。
 大人しく御坂さんたちに任せておけば良かったですよね」


表面上は笑顔の佐天さんだが、心は決して笑顔ではない。
強がりの自傷で、佐天さんの心が傷ついていく。


「あ、あはは……」
(あたし、なに言ってるんだろ……)


この話題は終わりにしてしまいたかった。
自分の無力さを、痛いぐらいに感じてしまうから。


「ううん、そんなことない」


だが、佐天さんは勘違いをしている。
美琴は能力の事など話題に挙げていない。


「能力がどうこうじゃない、佐天さんがやったことは凄いことなんだから――」


佐天さんの行動を、佐天涙子に敬意を表している。


「すごく、かっこ良かったよ」

「っ!」


その一言で、佐天さんの胸がきゅうっと一杯になった。

高レベル能力者から能力なんて関係ないと言われても、無能力者からしてみれば、
「そんなの説得力ないよ!」、と言ってやりたくなる。
これは妬みからくる曲解かもしれない。

だけど、それと同時に憧れもある。
自分が目指す場所に一足早く辿り着いた者に対する憧れ。

その憧れの高みにいる人間から認められた。

ネガティブな気持ちが、誇らしさで塗り替えられていく。


「それが言いたかっただけだから、引き止めてごめん。
 じゃあね」


美琴が帰ろうとすると、


「み、御坂さんも!!」


今度は佐天さんが引き止めた。


「ん? なぁに?」

「御坂さんも……」


御坂美琴は、「佐天涙子」と知り合った。
佐天涙子は、「レベル5」の御坂美琴と知り合った。

今はコンプレックスが少し邪魔をするかもしれない。
でもきっとこれが、その壁を取り払う第一歩になる。


「御坂さんも、すごく、カッコ良かったです!」




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


「ブロントさん。
 支部の中ではくれぐれも! くれっぐれっもっ!
 大人しく普通にしてくださいましね!?」

「おいィ…お前にはそのセリフを何度も言った実績があるようなんだが?」

「大事なことなので4回言っていますよ。
 でもブロントさん、言っても無駄かもしれませんけど、喧嘩を売るような真似をしないでくださいね?」

「喧嘩を売りたくてうるんじゃない売れてしまう者が不良」

「…はぁ……
 わたくし、ひょっとしてとんでもない判断ミスをしてしまったのでしょうか……?」


とあるビルディングの2階に、通常のビルディングには不似合いなほどセキュリティが施された扉がある。
その扉を開くには、今黒子が受けているような指紋・静脈・指先の微振動パターンのチェックをクリアしなければならない。
そうしてようやくロックが外れた扉の先にある場所、そここそが、《風紀委員活動第一七七支部》なのである。

黒子がガチャリと扉を開く音に、デスクワークをしていたメガネを掛けたグラマラスな女子高生が反応する。


「あら?
 白井さん、初春さん、こんな時間にどうしたの?」

「ああ、固法先輩。
 ええ…まあ、少しばかり支部に野暮用…がありまして……」

「そ、そうなんですよー……」


いざ支部にブロントさんを連れてきてはみたものの、もし他の風紀委員に遭遇した場合、
ブロントさんをどう説明したらいいか名案が出なかったので、2りはしどろもどろになってしまう。

なんとも行き当たりばったりな話だが、3りには他に行く場所もなかった。


「野暮用って、今日の報告書は明日で――って、そちらの方は?
 ……随分と変わった格好をしているようだけど」

「あ、ああっ! こちらの殿方は――」


黒子がそれっぽい誤魔化しをしようとしたところで、


「俺はただの通りすがりの古代からいるナイト。
 ブロントという名前だからブロントさんと呼んで良いぞ」


ブロントさんがスパッと自己紹介をした。


(あちゃー……)

(先ほどあれだけ普通にしてくださいましと申したのになにをしてくれやがってますのおおおおおおおお!?)

「通りすがり……? 2人の知り合いじゃないの?」

「ええと! ええっと……! ブロントさんはですねー……!」


このままでは疑われて、ブロントさんの補導歴に新たな伝説が刻まれてしまう。
初春は必死にフォローに回ろうとする。


「さっきフレ登録要求を承認した」

「へ?」
「え?」


が、速さが足りない。


「? つまり、どうゆうことなの?」


某シノビ漫画の主人公のように聞かれた。
これは説明せざるを得ない。


「俺は新しいフレとだべっている時に見知らぬリージョンに来てしまったことに気づいたんだが
 シャウトで助けを求めると偶然ジャージメントが近くでシーフ捕まえていた。
 俺はああヒロインは本当に偶然常に近くを通りかかるもんだなと納得した。
 しかもおれにこのリージョンのことを教えて「もう大丈夫ですか?」といって必要最低限以上の
 施しだけでなく自分たちのHPに案内してくれる不器用だが細心の心配をしている姿に孤高の風紀委員だったな。
 俺がそのあるさまを「素晴らしいじゃんジメットだすばらしい」と褒め称えると
 急にもじもじしだしたですのリア♀と花畑リア♀からフレンド登録の要請が来た。
 ナイトは最強だと思った(リアル話)」


ブロントさんの明白に明瞭な説明を受け、固法は吟味しているのか、固まってしまった。
しばし沈黙した後、口を開く。


「……白井さん、初春さん」

「は、はいっ!」(も、もうダメですの……)
「は、はいっ!」(おしまいですね……)


ですのリア♀と花畑リア♀は覚悟を決めた。
もう確実に不審人物と思われただろう、貧弱一般風紀委員では先輩廃風紀委員からブロントさんをかばえない。

さよならブロントさん!

終わったッ! 第1話完!

来週のこの記事からは新SS、【ネタ】ファイナルφなる・あぷろーち【FF11×φなる】をお送りし――


「強盗確保後に迷子の手助けだなんて、凄く頑張ってるわね!
 疲れてるでしょう? 冷蔵庫の中の牛乳を飲むといいわ」

「「【えっ!?】」」


だが固法は微塵も疑わない。
助かった、終わったと思ったよ。


(借りに終わったら誰がこのおれの代わりを升めるんですかねぇ?)

「ブロントさん、とおっしゃいましたよね?
 ようこそ、一七七支部へ。
 私は彼女たちの……上司みたいなものですね。 固法美偉と言います」

「ほう、三井は2りのBA後といったところかな。
 2りの未来は明るいのではにいかまあ一般論でね?(戦闘力話)」

「まあ、お世辞が上手ですね。
 ブロントさんもどうですか、ムサシノ牛乳。
 やっぱり牛乳は、ムサシノ牛乳ですよ?」

「ウルガランミルクをおごることはあっても武者志乃牛ン乳をおごられることは初めてだな。
 今のところ我慢してるけどいつノドの渇くが爆発するかわからない」

「あら、じゃあパックでそのままお渡しした方がいいのかしら?」

「9杯でいい」


ブロントさんと楽しそうに会話をし、固法は給湯室へと入っていった。
目を丸くして顔を見合わせる黒子と初春。


「なにやら……」

「上手くいってますね……?」

「余計な気苦労でしたの?」

「白井さん、ちょっといいかしらー?」


が…駄目っ……!
安心出来るかと思ったところで、固法から呼び出しが掛かった。


「」


絶句する黒子。


「……白井さん! ガンバです!」

「…はぁー……本当に覚悟を決めた方が良いかもしれませんわね」


黒子は意を決して、トボトボと給湯室へと入った。


――――――――――――――――――――――


流し台にはカップが2つ。
固法の手にもカップが2つあった。


「ごめんなさいね、プラスチックのお盆がこの前割れちゃったの。
 そっちが貴方たちの分だから、お願いね」

「は、はいですの」


言われたとおりカップを2つ手に取る黒子。


「ねえ白井さん、あのブロントって人……」

「ッ!?」
(き、来ましたわねっ!?)


取り乱し、黒子は思わずカップを落としそうになる。
平常心ですのよ黒子、と心中で唱えて立て直す。

…先輩から話しかけられてこの反応は実に失礼な気がして少し反省もした。


「ブロントさんがどうかされまして?」

「ええ、外国の方なのよね?
 アッシュブロンドの髪色にあの顔立ち、背も随分と高いし日本語が変わってるし。
 甲冑姿だけど、最近はああゆうのが流行ってるのかしらね?」

「あー……」


無邪気に語る固法の姿、黒子の肩の力がぐんっと抜けた。
もうゴーストやらガイアは囁きまくるし神も言っている気がする。
ここで先輩は丸めこめると。


「そうですわね、その通りですの。
(自称・異世界人ですし、まあ間違ってませんわね。
 かといって迷い込んで不法侵入されたんですのよー、などと言えませんし……)
 なんでも学園都市の進んだ技術や学問に関心があってこちらに来たとかで――」

「へえ、学生か研究者なの?」

「ええと、そうではないようですが……」
(前もって用意しておいたカバーストーリーなら良いですが、即興でどう取り繕えば……!
 というかわたくしが此処までする必要は――)

「じゃあ、あの人はいったい――」

「…そう!
 あの殿方は手違いで子供向け学園都市案内ツアーでこの街に来てしまったんですの!」

「え、それって、今日現場に居合わせた、あの保護者同伴でバスに乗って都市内を巡るってやつ?
 でも、普通あんな日帰りツアーに――」


自分が頑張る必要があるかはどうかを考えている暇があるなら、
口から出た嘘を少しでもそれらしく取り繕うほうに回した方が良いようだ。

嘘を一度吐いてしまえばもう行くところまで行くしかない。
黒子は自分から作り出した舞台でひたすら即興詩を歌うことになった。


「外国の方ですから! そのような間違いがあったようなんですの!
 まあ、それでも途中で気付かれたようなのでバスが停留している時にこっそりと抜け出したのですが、
 その後に《武装無能力者集団》(スキルアウト)に襲われて金銭や他の着替えを含む荷物は奪われてしまったそうですの」

「まあ…そうだったの……それはいつ頃くらいか――」

「これから! これからその聴取等をしようと思ってますの!
 だから心配いりませんのよ! 固法先輩の手を煩わせたりは決して!致しませんから!」

「そ、そう? それならいいんだけど」

(もう一息! 今日の黒子は阿修羅すら凌駕し欺く存在ですの!)
「つきましては、ブロントさんは行くあてがないようですし、今夜は此処にお泊めしたいのですが、
 よろしいでしょうか?」

「えっ、そんな事しなくても警備員に事情を話せばたぶんホテルを取ることも出来るし、
 外部の人間を支部に置いたままにしておくのは――」

「本人たっての希望ですの!
 暴漢にみすみす金品を奪われた自分がまっとうな場所に泊まるわけにはいかないという、
 ええと、お国の風習、だとかで…それで支部にある留置用の部屋を紹介しましたら、
 「そんな場所があるのか!」「ひどい!」「きた! ブタ箱きた!」「メインブタ箱きた!」「これで泊まれる!」、
 と大歓迎状態だったんですの」
(こ、これは流石に我ながら無理がある気がしますの!!)


最初からボロボロだが更にどんどんボロが出始める後輩風紀委員、黒子のカバーストーリー。
それに対して先輩風紀委員、固法の返答やいかに――


「……変わった風習があるのねえ」

「…固法先輩、それでいいんですの?」

「えっ、なに? 私、なにか変なこと言った?」

「いえ、是非そのままの先輩で居てくださいまし……」ホロリ
(こんな先輩に嘘をついて、黒子の良心はズタズタにされましたの……)


罪悪感に営まれながらも、黒子は、「メゲナイ、ショゲナイ、泣いちゃダメですの」、と自分を鼓舞し踏ん張った。


「留置用の部屋でしたら内部から鍵を開けることは出来ませんし、
 少しぐらいでしたら外部の人間を支部に泊めても問題ないのではありませんこと?」

「そうね……まあ、いいでしょう。
 分かったわ、許可します」

「ありがとうございます、きっとブロントさんも喜ばれますの」
(完 全 論 破 ですの!)


ブロントさんが得たもの――豚箱での宿泊権利。
黒子の胃をストレスでマッハにしながらの苦労――priceless。

お金で買えない価値はあったのだろうか?


――――――――――――――――――――――


「天使のように白く夜風のように冷たく月のようにまろやかで恋のように甘い。
 これが武者志乃牛ン乳の味か」

「ねっ、美味しいでしょう?
 やっぱり牛乳は、ムサシノ牛乳ですよ」

「うわぁー、グルメ評論家みたいなコメントですね」

「どこかで聞きかじったセリフを使いたくて言っただけではありませんの?」


固法たちが運んできた牛乳を受け取り一服する一同。

我々の放課後ミルクタイムだ――
こう表記すると間違ってはいないのに…いやらしい…


「下ネタはやめておけと言っているサル!」

「下ネタなんて誰も言ってませんの!!」

「お前らじゃにい、第四の壁がまほろ系の仕事なので気にしないふぇ下さい(約束)」

「?」
(やっぱり、この人の言っていることは良く分かりませんの……)

「ふふっ、本当に変わった人ね」

「あ、あははは……」


固法先輩の無邪気な言葉に苦笑で答える初春。


「変わっていると言えば、ブロントさんのお国の風習もかなり変わってらっしゃるみたいですね」

「んぶふぅっ!!」

「わあ! いきなり噴き出してどうしたんですか白井さん!? 汚いですよ!?」

「」ゲフッ!ゴヒュ!


追撃の無邪気な言葉に、黒子は白い霧を噴いて応えた。


「なん…だと……」


ブロントさんは、どこかで誰かの霊圧が消えてしまったかのように驚く。


「当たりに船とはこういうのを言うのではないか……!?
 美偉はヴァナのことを知っているという事実にああこれで帰れるのかと今後の展開に大きな希望を持った!」

「きゃ!?」


ずずい、と固法に詰め寄るブロントさん。
鎧姿の巨漢が突然詰め寄ってきたので、少々肝を冷やす固法。


「あの…いえ、知っているという訳ではないんですけど、さっき白井さんから――」

「せせ先輩とのお話も良いですがそろそろ聴取を始めますのよブロントさん!
 さあさあ! さあさあっ!!」


このままではブロントさんに自分の並べ立てた嘘八百をばらされるのは必定。
固法が余計なこと―かなり失礼―を言う前に、黒子はブロントさんを引き剝がしにかかった。


「白井さん口元を拭いてください!! 牛乳が垂れてますからぁ!」


良い判断だが、衛生面ではいただけない。


「ちょっ、ちょっとどうしたの? 白井さん?」

「おいィ? おれは今民意と話を――」


黄金の鉄の塊重すぎワロエナイ。
多少鍛えてはいても黒子の細腕では、ブロントさんの腕を引っ張ってもぜんえzんビクともしなかった。

あまりに動かないものだから、


「いいから向こうにいきなさいっ!!」


Kurokoの《テレポート》!

つい力が入って、掴んでいたブロントさんを飛ばしてしまった。


「してるんd」


ブロントさんが消えたのち、壁の向こうの隣室から重たいものが落ちる音と、「ム牛ン」といううめき声が聞こえてきた。


「…白井さん、今日の貴方、少しおかしいわよ?」


能力者は、能力が日常でも扱いやすい便利なものであると多用しがちである。

だが、今のはおかしい。
今日の黒子の妙な慌てっぷりがなにか隠し事でもしているかのように、今更ながら固法はそう感じたのである。


「いいーえー? 黒子はいつも通りの平常運転ですの」


口元の白い顎鬚を拭いながら視線を反らして誤魔化そうとする黒子。


「固法先輩、白井さんが変なのはいつものことじゃないですか――
 っへいひゃい! いひゃいでふよひはいふぁん!!」
[訳:って痛い! 痛いですよ白井さん!!]


黒子は初春の両頬をつねり上げた。


「誰がいつも通りの変態で平常運転ですのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」

「へんはいはあんへいっへらいふゃらいへふふぁぁ!」
[訳:変態だなんて言ってないじゃないですかぁ!]

「だとしてもそんなフォローが――!」

「そっか、それもそうよね」

「え゛」


固法はあっさり納得した。


「それじゃあ私は先にあがるから――
 二人とも、ちゃんと消灯とか施錠とかは忘れないようにするのよ?」


そして帰り支度を始める。


「いたた……
 ヒドイですよ、白井さん……白井さん……?」

「」
(黒子は、黒子はもう少し、日頃の行いを改めるべきなのでしょうか……?)


――――――――――――――――――――――


固法が支部から出た後、のっそりとブロントさんが隣室から出てきた。
少々埃を被っているあたり、どうやら物置にでも空間移動させられたようだ。


「不意だまテレポとかいらないですストレス貯まるので(苦笑)」

「わっ、わたくしはただ約束通り、少し飛ばして差し上げただけですの!」

「約束を守るのは勝手だがそれなりのやり方があるでしょう?
 いきなり天井近くにみょんな体勢で鳥羽されて尻モチつかされたんですわ?お?
 おい、ワレの尻か?」

「どしたー?
 …んですか、ブロントさん」
(ブロントさんと出会ってから、勝手に口が言葉を発しているような……
 気のせいですかね?)

「それについては、わざとじゃありませんの……」
(この殿方、予想以上に重いですの。
 長身鎧姿のせいでわたくしの飛ばせる限界質量―130.7kgですの―に近いのではないでしょうか……
 距離がなかったからいいものの、咄嗟とはいえ軽率でした。
 この方を飛ばすときは、集中してないとケガをさせてしまうかもしれませんわね)

「あまり白井さんを責めないでください、ブロントさん。
 白井さんが口八丁と能力、自己犠牲を払って支部に泊まれるようにしてくれたんですから」

「…ええ、そうですわね……」
(第三者の口から改めて言われると、黒子はなぜここまでこんなののために身体を張ってしまったのでしょう……)


黒子にしてみれば訳が分からないことは言うし、威圧的なのか友好的かも分からないブロントさん。
よくまあ「こんな殿方、守る価値なんかない!わたくしはもうブロントさんのために動きたくない!」、となってしまわないものだ。

初春の言葉を受けて、ブロントさんは少しばつが悪そうにした。

「それを言わるると何も言えなくなっちぇしまう感。
 「」確かにな、感謝はスレどモンクを言うスジがないのは確定的に明らか。
 くおrこにも理由があったんだなと俺はここで一歩引くことにした(謙虚)。
 おもわずいさぎよい武の心がでてしまった結果だった」

「いえ…まあ……わたくしも少々強引過ぎましたので」
(そこで素直に謝られてしまうと…どうにもこの方を相手にすると調子が狂いますわね。
 なんというか、見た目とギャップが…そう、まるで生意気盛りの子供と年上の男性をいっぺんに相手にしているような気分ですの……)

「ほう、自分のひを認めてしまったその謙虚さは慎ましい流石美床のフレだな。
 ジュースをおごってやろう」


佐天さんたちにそうしたように、ブロントさんはアイテム袋から1本缶ジュースを取り出し、黒子にそれを差し出した。


「牛乳を飲んだばかりなのですが……ありがとうございますの。
 …つぶ入りコーンスープ? なんであったかいんですの、これ」

「えっ、ちょっと良いですか?」


黒子の感想に興味を持った初春が、黒子の持つ缶ジュースに触れる。


「わ、本当に温かいですねえ。 今自販機から買ったみたいに――」


温度が保たれている缶ジュース――
初春には、この現象に覚えがあった。


「ひょっとして、ブロントさんも《常温保存》(サーマルハンド)が使えるんですか!?」


《常温保存》、それは読んで字のごとく、持っているものの温度を一定に保つ能力である。


「そのサンバルカン度もテレポんとと同じで超能力派閥のやつなんですかねぇ?
 おれは超能力とかいう《アビリティ》を持ってないって俺は言ってたぞ。
 これが証拠ログ。
 
 Mikoto>こんにちはBurontさん
 Buront> 何か用かな?
 Mikoto> 超能力持ってますか?
 Buront> 持ってない
 Mikoto> そうですかありがとうグラットンすごいですね
 Buront>それほどでもない

 やはり持っていなかった!
 しかもグラットン持ってるのに謙虚にそれほどでもないと言った!」

「勝手にお姉様の発言を捏造しないでくださいまし!
 金属矢を体内に直接ぶち込まれたいんですの!? この首長!」

「お、おいィ……なにいきなり頭ヒットしてるわけ?」

「ふんっ……!」


美琴を軽口―ブロントさんにその気はない―に使われたようで、黒子のフラストレーションが少し爆発する。

いつもなら、「俺がどうしてログ捏造したって証拠だよ!」、と返すブロントさんも、烈火のごとく怒る黒子にはたじたじだ。

黒子は今ので少々スッキリしたようで、ちびちびとコーンスープを飲み始めた。


「………………」
(冷房の効いた屋内で熱いコーンスープ…これはどうなのでしょうね)

「おいィ……?」
(いったいなんだったんですかねぇ…?)

「ぐらっとん……?
 じゃあ、どうやって保温してるんですか?
 ひょっとして、その袋に秘密があるんですね!」

「む?」


ブロントさんの提げるアイテム袋に興味を示す初春。
頭がヒットした(?)黒子のことは一先ず置いておいて、初春の疑問に答えることにした。


「"A secret makes a man man..."
 あさり、男はイミフを装備して男らしくなるものだからな。
 禁則事項をまさぐる真似はしないふぇください(約束)。
 代わりにお前にもジュースをおごってやろう」

「むぅ……わかりました」
(…って、言っておかないと、ジュースをおごってもらえませんからね…)

「まああ違う技術でもたまたま同じ現像が起こる事がまれによくあるらしい。
 いつか教えることもないかもしれないということで飾るは気長に待つしかなかった」


そう言ってまた1本、ジュースを取り出して初春に渡した。


「はい、期待しないで待ってます」
(アンバサのいちごウォーター? ……こんな味、あったんですねえ)

「…どうしても話したくないことは話さずともよろしいですが――
 話して頂かねばならないことは話して頂きますの」


黒子は手にしていたコーンスープを一気に音を立てて飲み干し、空き缶をゴミ箱に捨てた。

ちょっとまだ熱かったのか、食道辺りを擦りながら、


「よろしいですわね、ブロントさん?」


と涙目で黒子はブロントさんに向き合った。
キメ顔でそう言った、ならともかくこれではどうにも締まらない。


「…うむ」
「…はい」


空気を読んだ2り。
ブロントさんは机に座り、初春はPC前にスタンバイした。
形式がそれっぽくなれば、流石に弛緩していた空気が若干引き締まる。

此処には牛乳を飲みに来たわけではない、ブロントさんの事情を更に詳しく聞くために来たのだから――


「さあ、それでは今度はわたくしどもと《お話》をしましょう。
 アナタのことを、詳しく聞かせてくださいな」




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


「そういえば、初春はよく《常温保存》なんて能力がパッと思いついたものですの。
 わたくしは該当しそうな能力なんて、とんと思いつかなかったものですが……」

「【えっ!?】
 あ、や、と、友達がちょうどそういう能力の子だったものですから……
 ひょっとしたら同じかなぁ、同じだったら嬉しいなぁなんて思っただけで、
 べ、別に他意はないんですよ?」

「ああ、そうでしたの……?」

「そ、そうなんですよ、あっはははははぁ~あー……」

「……おれが思うに此処は追球ンしては池ないのではないか?
 うむ、知らにいが絶対そうだという意見」


―――――――――


―――




[26956] 第1話 #14 New!
Name: オニオンソード◆3440ee45 ID:fb0bbf73
Date: 2011/05/02 09:52
コトコト…クツクツ…
鍋の中では肉と野菜が泳ぎ、周囲には何とも言えない良い香りが漂っている。


「ふんふふ~♪
 Du brachstふんjahrein barふふ~ん♪」


黒子たちがブロントさんへ聴取をしている一方、佐天さんは買い物を終え家へ帰り、エプロンを着けて夕飯を作っていた。

中学生とはいえ、この姿を見てときめかない男がいるだろうか? いやいない! 反語!!
うろ覚えなのに歌なんか歌っちゃうところも……ガハハ! グッドだー!

…閑話休題。
学園都市は人口の8割が学生の街。
学生の殆どはこうしてアパートやマンションにも似た集合住宅のような学生寮の一室で生活する。

どこぞのお嬢様学校のような名門校ならば、食堂などで食事を取ることも出来るし、ある程度の家事もメイドがしてくれるのだが、
佐天さんと初春の所属する第7学区立柵川中学は、言ってしまえば普通の公立中学である。
家事は全て、自分たちの手でせねばならないのだ。


(今日は凄かったなぁ…初春、白井さんに…御坂さん……)


鍋の中身をおたまで混ぜながら、佐天さんは先ほどのジョナサン前での美琴との事を振り返る。


――――――――――――――――――――――


「御坂さんも、すごく、カッコ良かったです!」


佐天さんは自分が感じたこと、今出せる思いの丈を美琴へ打ち明けた。


(い、言った! 言っちゃった!)


言ってから、なんだか自分は会ったばかり人間に凄く恥ずかしいことをしているのではないか、という気分にもなってくる。
さて、そう言われた美琴の反応は、


「………………」


顔を少し赤らめて固まる、というものだった。

画面の前の貴方は次に、
「この作品って人が硬直することが多すぎじゃね?」
と思う!

…再び閑話休題。
美琴が反応しない=自分はかなりヤってしまった。
佐天さんは瞬時にそう結論付けた。

(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 
 いきなりカッコいいですとか言われてもそりゃ訳分かんないよね!
 こ、此処はもうあれしかない!)
「じゃ、じゃあ! あたしはこれでっ!!」


しゅばっ!と佐天さんは美琴に手を振った佐天さんは回れ右をして、


「さ、さらだばーっ!!」
(逃げるんだよォォォーーーーーーッ!! どいてーッ、ヤジ馬の人たちーッ!)


そのまま、美琴から逃げ出した。


「えっ!? さ、佐天さん!?」


美琴の制止の声も聞く耳持たず、スタコラサッサと一目散に逃げ出した。


――――――――――――――――――――――


「…今度会う時、どうしたら良いのかなぁ……」


ため息をつき、鍋を混ぜる手が止まる。
今こうして思い返しても頭を抱えて床を転がりまわってしまいたい。
なんであんな事言っちゃったんだろう、と考えていると、ふと、佐天さんは思い至る。


(今度、か…今度なんて、あるのかな?)


よくよく考えれば向こうは―あんまりお嬢様っぽくなかったけど―常盤台のお嬢様、
初春・黒子という中継点があったから今日たまたま知り合えたものの、今度なんていつあるのだろう?


(相手は学園都市の上から数えたほうが早いぐらい凄い人で、あたしは一介の無能力者。
 また会うかも分からないんだからぐちゃぐちゃ考えてもしょうがないよね)


――能力がどうこうじゃない、佐天さんがやったことは凄いことなんだから――


「…なんていうか、御坂さんって、高レベル能力者っぽくもないよね」


柵川中学は学園都市の中でも、本当に並ぐらいといった感じの学校なのだが、それでも一応高レベル能力者が何人か在籍している。
だが、佐天さんの知る限り、そいつらは皆ロクな奴らじゃない。

高レベルの学校に通えば十把一絡げの実力しかないのに、わざわざ自分のレベルより下の学校に通うことで、
自分より下の人間がいる愉悦に浸る為に通っているような奴ばかり。

でもこれは棚川中学に限ったことではないようで、どこの学校にも高レベル能力者というのは、
決して評判が良いとは、言えないようだった。
学校外の友人たちから、高レベル能力者に対する愚痴はよく聞かされる。

能力を笠に着た、上から目線のいけすかない奴――それが高レベル能力者。
そう、思っていた。

御坂美琴。

学園都市第3位で常盤台のエース、高レベル能力者の最たる人間と今日半日接したことで、
佐天さんはその考えを少し改める必要があるのかもしれないと、感じた。

美琴とそれ以外の高レベル能力者、どうして差がついたのか…慢心、環境の違い――
なんて、考えたところで美琴のことをまだよく知らない佐天さんには分かりはしないのだが。


(あっ、ぽくないって言えば、あの人もあんまりそれっぽい感じはしなかったなぁ……)


美琴のことを考えていた佐天さんが次に思いついたのは、ブロントさんだった。

そっと自分の頬に触れる。
今頃ならば、少し腫れだし、触れれば鈍い痛みを生む傷があるはずの頬。
だが今は、いつも通りの若さ溢れるなめらかなでスベスベな頬。

痛みも傷跡も、どこにもない。

ブロントさんは決して自分の実力を誇ってないという感じではなかった。
どちらかと言えば、自分に自信が溢れているといえる。
だというのに、決して嫌味にならず、むしろ頼れるように思えた。


(ブロントさんは、自分には能力なんてないって言ってた…それって、能力開発を受けてないかレベル0ってことだよね。
 じゃああたしの顔の傷を治したのはなんだったんだろう……?)


他人の傷が治せる、そんな事はそれなりのレベルでなければ出来ないはずである。

ブロントさんが言うとおり、ブロントさんが異世界の住人だから?とも思ったが、
ゲームやマンガの話じゃないんだから、とその考えを捨てた。


(能力じゃなくてそれ以外のなにかなら…もしかして、あたしも、ああゆう風になれるのかな?
 レベル5の能力をものともしない…強力な力から誰かを守るために立ち塞がれる……
 そう、まるで、本当にゲームやマンガのヒーローみたいに――)


佐天さんが物思いに耽っていると、コトコトという鍋の中身が煮える音だけが響く台所に、
突然ジュウウウウウウウ!という激しい音が飛び込んだ。


「ふえっ!? あっ!やばっ! お鍋が……」


鍋が思いっきり噴き零れてしまった。
佐天さんは慌ててコンロの火―IHだから火はないけど―を緩める。


「あっちゃあ…料理してる時にボーっとしちゃダメだよね……」


考え込むなんてあたしらしくないなぁ、そう内省しつつ、佐天さんは料理を再開した。




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


「ただいまですの、お姉様」

「おかえりー、随分遅かったわね?」


第七学区にある常盤台中学学生寮の二〇八号室、美琴と黒子は此処で二人で暮らしている。

現在時刻は午後8時を少し過ぎたぐらいだ。
常盤台寮生としてはあまりに遅すぎる帰宅をしたルームメイトに、美琴は自習をしながら
声を掛ける。


「ええ、まあ……色々と難航していたもので」

「仕事熱心なのもいいけど、頑張り過ぎないように気をつけなさいよ?
 風紀委員活動があったって言っても、寮監が居たら、アンタ今頃首が狩られてるんだから」

「仕事熱心なのは寮監の方ですの。
 過労が祟り、階段からすべり落ちて足を骨折……
 いかず後家は仕事しか楽しみがないからああなるんですの」

「こぉら、陰口叩かないの。
 多少やることは過激だし融通は利かないけど、悪い人じゃないでしょ?
 同じ寮に住んでる家族みたいものなんだしさ」

「ふん……まあ、わたくしどものために働き過ぎたのは事実ですの。
 今度お見舞いに行ってやっても、良いかもしれませんわね……」

「ふふっ、アンタもたいがい素直じゃないわね」

(……お姉様、それはツッコミ待ちですの?)


ある程度キリの良いところまで学習したのか、美琴がペンを置く。


「よし、と……それじゃ、ご飯食べに行こっか」

「え……?
 お姉様、まだ夕食をとっていらっしゃらなかったんですの?」

「なんとなく、アンタが遅くなるんじゃないかって思ったからねー。
 みんなが食べ終わった後に一人でってのも、味気ないでしょ?」

「お姉様……」

「ま、まあ!
 まだ遅いようだったら、もうほっといて食べに行こうかなぁって――
 …黒子?」


顔を伏せてぷるぷる震えている黒子。
美琴が声を掛けると、黒子がゆっくりと顔を上げた。


「お姉様が…黒子のことをそんなにもっ! 想ってくださるなんてっ!
 わたくしは今! 猛烈に感っ動っ!していますのッ!!」


目の幅涙を滝のように流していた。


「そ、そんな大げさな――」

「いいっえ!
 お姉様のその優しさは! 値千金では納まらぬほど素晴らしいものですのよ!
 黒子が! 黒子がその優しさにお応えするにはもう、こうするしかぁ!!」


Kurokoは、《裸神活殺拳》(Cast Off)の構え。
黒子は着ていた衣服を全て脱ぎ捨てた。


「ちょ! バカ! なんでそうなるのよ!?」

「うふふひひひ……
 さあ! 夕食の前に黒子を召し上がってくださいませ!
 おっねえっさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」


Kurokoは、《伝統的な女体への飛び込み方》(ルパンダイブ)の構え。
黒子は一糸纏わぬ姿で、美琴へと飛び掛かった。


「だったらアンタには、これでもご馳走してやるわよぉ!!」


Mikotoは、《対自販機用回し蹴り》(チェイサァァァァァァァァ!!)の構え。
気合の入った掛け声とともに、学生寮全体に、何かが壁に叩きつけられる音が響いた。


――――――――――――――――――――――


「もう…お姉様のツン照れ屋さん!」

「表出なさい。
 照れ隠しにエレクトリッガーしてあげるから」

「す、すいまえんですの;;」
(それは某スーパーロボットの技でしょうか?
 それともあのシンプ○ンみたいな殿方の技でしょうか?
 ……どっちも出来ますわね)

「ふんっ」

美琴たちは学生寮内に設けられている食堂で食事を取っていた。

常盤台の学生寮は、古めかしい洋館のような建物となっているのだが、内装も外装通りまるで貴族の邸宅のような作りになっている。
食堂、とはいっても言葉通りの雰囲気ではなく、テーブルがなければ落ち着いた感じのするちょっとしたパーティホールのような場所である。

常ならば、生活リズムが厳しく定められているため、この時間帯に食堂を利用する学生はまあ多くはないのだが、
今は美琴と黒子以外にも何人かの寮生が食事をとりながら談笑をしている。

美琴は自分のサラダのレタスをフォークで刺しながら、不機嫌そうに―主な理由は黒子だが―黒子に尋ねた。


「で、どうだったのよ?」

「? どう、とは?」

「アイツよ、あの鎧バカ。
 アイツが何処の誰かは分かったの?」

「ああ……
 率直に申し上げますと…その……なにも分かりませんでしたの」

「なにも……?」

「ええ、なにも」


黒子は美琴たちと別れてからのことを話し始めた。


――――――――――――――――――――――


時間が少し戻って、第一七七支部にて――


「さあ、きりきり話して頂きますわ!」


威勢良くブロントさんへ聴取開始、まずは簡単な質問から。


「まずはフルネームをお教え願ってもよろしいですの?」

「Brilliant Unruly Razer Of Noble Tether」

「【えっ?】」

「古ネんムはBrilliant Unruly Razer Of Noble Tether」

「ぶ、ブリリアント……
 ――申し訳ありませんが、こちらに書いて頂いても……?」

「良いぞ」


黒子が手元に置いていた紙とペンをブロントさんへ渡すと、サラサラと筆記体で書き上げた。
まあ、自分の名前なので当然である。


「ははぁ、これでブリリアント・アンルーリー・レーザー・オブ・ノーブルテザーと読むんですのね?
 なるほど、頭文字を取ってBurontですの……初春!」

「はーい、むわ~っかしてください!
 それにしてもカッコいい名前ですね、中二病な感じがします」

「おいィ…?」


褒め言葉です、気にしてはいけない。


――――――――――――――――――――――


「結論から言いますと……
 ブロントさん…Brilliant Unruly Razer Of Noble Tetherという人物は、《書庫》(バンク)にも、
 ここ数日で学園都市へ『正規』にアクセスした外部の人間の中にも、どこにも存在しませんの」

「ふうん……
 となると、『不正』にアクセスしてきた人間ってことで片付くんじゃない?」

「お姉様は、外部から正規のルート以外で学園都市に入ってきた人間だと思いますの?」

「思わないわね」


美琴の否定は、ブロントさんがそんなことをする人間とは思えない、という理由から来るものではなく――


「来るもの拒むし、去るものは地の果てまで追っかける――
 ある種、監獄よりもセキュリティーが厳重なのがこの街よ。
 不正アクセスなんて普通なら出来っこないし、やろうとする馬鹿も…まずいないんじゃないかしら?」

「その通りですの」


黒子は、はぁ、とため息を吐いた。


「となると、あの殿方はどこの誰なのか……
 年齢・人種も不明。
 能力、と言いますかあの方のチカラも正体不明。
 正直、わたくしどもでは今のところお手上げといった感じですわね」

「実はあいつが虚言妄言並べ立ててるだけで、そのフルネームも偽名でしかないって感じはしないの?」


美琴の言葉に、困ったような笑顔を見せる黒子。


「ブロントさんの話される内容は自体は、とても空想溢れるものばかりですから、わたくしも、そう疑いはしているんですの。
 ですが――」


――――――――――――――――――――――


再び時は第一七七支部での黒子たちの聴取に戻る。

一通り聞き終えたところで、聴取は一旦中断。
黒子はブロントさんの言葉を軽くまとめたメモに目を落とした。


(なんですの、これは……
 まとめのメモがまともじゃなくなってしまいましたの)


黒子が戸惑っているメモの内容を少し取り上げてみると、

職業・ナイト、メイン盾……職業不明
人種・エルヴァーン……人種というか民族?
年齢・プライバシーの心外は犯罪だぞ!……年齢不詳

などと書かれている。

(わたくし、詳しく聞かせてくださいと言いましたわよね?
 プライバシーの侵害は犯罪だぞ!ってなんのためにアナタに来てもらったと思ってるんですの!?)


黒子の額に青筋が立ちそうになる。

持ち物について尋ねたら、ハイソウビとかいう自分の身につけている物について、黒子が止めるまでひたすら語られた。

能力について尋ねた時は――


「はい! では私からの質問です。
 ブロントさんはどうやって、御坂さんのレールガンから身を守ったんですか?
 あと、佐天さんの傷も治療した方法も聞きたいです」


切り出したのは初春からだった。


「ああ、そういえば詳しくは聞いてませんでしたの。
(初春、良いタイミングですの!
 ブロントさんはハイソウビとかいう物の話でなにやら上機嫌になっているようですし、これははぐらかされずに話して頂けるやも……
 なにか身元の糸口になれば良いのですが)
 どうやったか、話して頂けますか?」

「うむ、FFでも初心者の館があるからなランク1からの質問には答えてやろうと思った。
 英語で言うとカナード」

「カナードと言うと…安定翼ですわね?」


なぜ安定翼が今出てくるのか理解不能な黒子。


「死の恐怖ですか(笑)」

「なに笑ってんだPKするぞ」


またか、黒子がホルスターから愛用している例のアレを取り出す。


「…聴取が終わりませんから話を進めませんこと?(暗黒微笑)」(E 金属矢)

「「すいまえんでした;;」」


ブロントさんとの聴取はこうやって妙に話題が反れる。
黒子と初春、どちらかがブロントさんのペースに乗ってしまったらどちらかが軌道修正するようにしなければならない。


「まああ話を戻すとだな、俺はあの時ナイトの《ジョブアビリティ》の《インビンシブル》を使っていた系の逸話があるのだよ。
 るーこに使ったのは《ケアル》、こっちはどちかというと白魔法派閥になるぞ」

「じょぶあびりてぃ?」

「白魔法、ですか?」

「……起訴厨の基礎の説明をするからおもえらは耳をカッポ汁べき」


そこからブロントさんが扱うチカラについて基礎の説明を受けたのだが、
黒子たちには不明な用語が多すぎて簡単にしか理解は出来なかった。


(糸口どころか、迷宮の入り口なってしまいましたわね……)


メモから目を離し、黒子は自分の腕を見る。

以前に犯人を拘束する際に打ち身になってしまった場所があったので、
説明ではなくブロントさんに《ケアル》を実際に使って見せてもらったのだ。
結果はご覧のあるさま、痣もなにも無くなってしまった。


(ブロントさんのチカラは本物、これは間違いありませんの。
 防御能力(インビンシブル)の方は、実践して貰う訳にはいきませんのでこれは未確認として……)


実証でもブロントさんがケガをする可能性がある以上、インビンシブルの実践は頼めない。


(ですが、お姉様の超電磁砲を防いだのは事実、未確認と言えるか……
 これはまさか、実現不可能とされている多重能力者(デュアルスキル)……
 いえ、そんなはずは…でも回復、防御を同時に行える能力とは一体……
 では、ブロントさんが仰る通り、あれは能力ではなくアビリティとかいう良く分からないチカラ……
 しかし、これを超能力ではないと断ずるのはあまりにも――
 う~む…う~~~む……う~~~~~~~~~~~~む………!)

「しかす、この街はえごいな」
   

黒子が思考の迷路で迷っていると、ブロントさんと初春の会話が聞こえてきた。


「なんといっても、最先端の科学技術が集まった街ですからね。
 外部の人には、結構驚かれることが多いと思いますよ」

「うむ」

「やっぱり、学生が超能力者っていうのには驚かれました?」

「いや、それほどでもない」

「あ、ブロントさんが住んでらっしゃる場所では、冒険者ならアビリティとか魔法が使えるんですもんね」

「落蕾は日常ちゃめしごとだからチョロイ事(リアルヴァナ史)。
 えごいところはイロイロあるが街中にロボットが掃除していたという事実には関心が鬼なった」

「清掃ロボットですか?
 あれは私も初めて学園都市に来たときはビックリしましたねえ」

「清掃ロボットがいる→街の美観が充実→環境が豊かなので性格も良い→彼女ができる。
 清掃ロボットがいない→街の美観が世紀末→心が狭く顔にまででてくる→ヒャッハー!
 清掃ロボットの治安スキルはまさしくゴミの力と言ったところかな」

「でも、実はあれって、一台7000円なんですよ?」

「おいおい(苦笑)。
 おれがそんな嘘にだまされると思った浅はかさは愚かしい。
 ヨミヨミですよ? かざちの作戦は」

「本当なんですって、前に通販番組で売ってました」

「俺が思うにぜんえzん別の商品だったのではないか?
 見た目がたまたま同じになる事はまれによくあるらしい」

「えー……でもちゃんと清掃ロボット4649って紹介してたんですよ」

「かぁりは素人だな賞品名もまれによく同じになったりする。
 だがヴァナでも魔法人形がホイホイ渡さるるという実績があるから風見の証言を異議あり!するのは難しい」

「魔法人形?
 ヴァナ・ディールにもロボットがあるんですか?」

「ロbotに煮たものはあるぞ。
 オートマトン、魔法人形、カーディアンとかがそうだな」

「学園都市以外にそんなに技術が進んでいる場所があるなんて、びっくりです……」

「…良いことばかりじゃにいけどな……
 魔法人形は聖作者に性格が煮たりするからよ……」

「え?」

「………………」


錯視『水の区のShatoto』。
想起『石の区の博士人形』。
想起『ヒロインズコンバットでのアドリブ説明』。
想起『あら! わたくし、ぶち切れますわよ』。


「………………ッ!!」

「ブロントさん? ど、どうされたんですか?」


なにかを思い出して震えるブロントさん。
どうしたら良いか分からず手をこまねいている初春。


「…………ふむ」


ブロントさんの故郷(?)の話で談笑していた2り見ていて、黒子は――


――――――――――――――――――――――


「こんなもの、風紀委員の判断としては間違っているのですが……
 自然に夢物語のような話をするあの方を見ていると、わたくしにはどうも、あの方が嘘を吐いているとは思えないんですの」

「本当だった方がロマンがあって素晴らしいからねー」


ニヤニヤしながら答える美琴。


「もう、お姉様! 茶化さないでくださいな。
 とにかく、どう判断を着けていいか分からないんですの」

「どうしたら良いか分からないなら、警備員に任せればいいじゃない」


風紀委員(コドモ)に手が負えないなら警備員(オトナ)に任せる。
これは正しい判断なのだが――


「ブロントさんを警備員に引き渡しても、たぶんあの調子ではずっと塀の中から出られなくなるのではないでしょうか」

「ま、確かにそうでしょうね。
 不正アクセスとみなされてひたすら尋問の日々、でもアイツがもしも自分の意思でこの街に来たって訳じゃないのなら、
 それはちょっと、って思ってるってとこかしらね、アンタは」

「ええ、決して悪人ではないようですし、引き渡しまでは……
 かといって、あのまま支部に拘置しておくことも出来ませんし……」


スラスラ進んでいくので、まるで拾ったペットを親にばれずにどこで飼おうか相談しているように錯覚しそうになるが、
実状は、不法入都者を匿うという自らの立場を危険にしかねない行為である。


「ていうか、大丈夫なの?
 風紀委員としてアイツを匿って」

「わたくしは別に学園都市の狗という訳ではありませんもの。
 風紀委員としては間違っていても、自分が正しいと思った時ぐらい、融通ぐらい効かせますわ」

「ふぅん、黒子がそう言うなんてねー」


後輩の珍しい一面が見れて、少し嬉しい美琴。
美琴自身としても、このままでは後味が悪いし、黒子に協力するのは決してやぶさかではなかった。


「まあ、私も関係ないわけじゃないし、黒子がそう言うなら協力するけどさ。
 アイツを置いておけるような場所ねえ」

「ただ置いておくだけではダメですわね、あの通り怪しさ全開ですもの。
 社会的保障がありそうな住み込みで働けるような場所、そんなものがあれば完璧でしょうか」

「あはは、そんな都合のいい場所が――」


その時、美琴に電流走る。


「あるじゃない」

「えっ、そんなところがありますの?」

「ふっふっふ、黒子、あとは任せなさい!
 私に良い考えがあるわ」

「お姉様! それは露骨な失敗フラグですの!」

「さて、そうと決まったら色々準備しなくっちゃね!
 黒子、悪いけど食器片付けといて!」


美琴は皿に少し残っていた料理をサッと平らげて、食堂から飛び出していった。


「お姉様! お待ちになってくださいですの!
 お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


黒子はただ、
お姉様の使った食器…はぁはぁ……、と少し興奮して、美琴に残された食器を片付けるかどうするか迷いながら、
美琴を見送る他なかった。


――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――



感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.801635026932