オー・マイ・リトル・エンジェル!


<オープニング>


 夕日が辺りをオレンジ色に染める春の夕暮れ時、1人の少女が家路を歩いていた。
 年の頃は小学校の中学年辺り、赤みがかった髪を型まで伸ばし、春物のワンピースに茶色のタイツの装い、デニム地の肩掛けバッグを提げ、気持ち早足で図書館からの帰り道を行く。そんな彼女の前に、通せんぼするように黒い僧服を着た長身の男が道の真ん中に立っていた。
「おぉっ……」
 男は少女の姿を見ると、感極まったような表情で全身を震わせ、
「おお神よ、かくも小さく愛らしい天使を私の前に遣わして下さったことを、心の底より感謝いたします!」
 両腕を広げ大仰に天を仰いで叫ぶ男が普通でないことをすぐに察し、少女は逃げようかと思ったが、身長差から無理と考え、バッグの中を探る。
(「お婆ちゃん、私に力を貸して──」)
 少女がバッグから出したのは、年齢には不似合いな感じの分厚く、年季の入った本で、素早くページを繰りながら、覚悟を決めた目で男を見据える。男は未だ自分の世界に入ったままだったが、不意に髪と肌から色が抜けていき、あっという間に白い髪、白い肌になり、同時に巨大な犬と思しき生物が彼の側にやってくる。そして男は口の中に手を突っ込み、ズルズルと錫杖を引っ張り出す。
「ではこれより、天使の老化を阻止する聖務に取り掛かります!」
 この人、頭だけじゃなくて、存在自体が普通じゃない──パニックになりかける少女の前で、男は恍惚の表情で宣言しながら錫杖を構えた。

「ようこそいらっしゃいました」
 教室に集まった能力者達を、針谷・風香(小学生運命予報士・bn0273)が一礼して出迎える。
「抗体ゴーストと言えば、皆さん既にご存じだと思いますが、今回皆さんに退治していただきたいのはナンバードと呼ばれるリビングデッドです」
 ナンバードとは白い肌と白い髪が特徴で、普段は人間と同じような姿をしているが、戦闘になると正体を現して戦いを挑んでくる。他に『自分と運命の糸が繋がった能力者の所在を知る』という能力があり、それを利用して能力者達を殺すらしい。何故かというと──、
「ナンバードの左胸には、名前の由来にもなった1から9までの数字が刻まれてます。これがナンバードの残り時間でして、時間が経つと数字が減っていき、1以下になると消滅してしまいます。数字を増やすには能力者を殺すしかなくて、それで能力者を狙っているわけです。ですから狙われた能力者を皆さんの手で守って、ナンバードを倒して欲しいんです」
 風香は紙粘土で作られた、頭から腰にかけて紙が通せる程度の穴が開いた白い人形を出すと、何も印刷されていない1枚の写真用印刷用紙をゆっくり穴に通していく。そうして穴から出てきた用紙には、赤みがかった髪をした女の子の姿が写っていた。
「彼女が睦月・絵里(むつき・えり)ちゃん、横浜市に住んでいる小学4年生です。父方のお婆さんがイギリスの人で、その人はもう亡くなってますが、生前に聞いたおまじないや、形見の魔道書などを見ているうちに魔法を使えるようになったみたいです。幸いナンバードに襲われる前に図書館へ行くようですから、そこで接触すると良いでしょう」
 だが、下手をすると警戒されて、襲われる時に近くにいることができない状況になる恐れがあるし、図書館内のマナーもあるから接触の仕方には注意する必要があるだろう。
「あと、ナンバードですが、見た感じは20代の男の人なんですけど、かなり特殊な趣味を持っているようで、絵里ちゃんはそれにピッタリみたいです。抗体兵器の錫杖を持っている他に、ヘリオンが使う光の槍に似た攻撃と、それから、本人が言う所の『聖画』を辺りに飛ばす攻撃をしてきます」
 難しい表情で風香は言う。
「それと、ナンバードは犬に似た妖獣を2体連れてます。犬よりも大きくて、鋭い牙で噛みついてきますから、こちらも油断は禁物ですよ。あと、ナンバードが襲ってくるのは住宅街の道路ですけど、他の通行人は居ませんから安心して戦って下さい」
 戦いが始まれば世界結界の作用で、周りの一般人が近付く心配もないというわけだ。
「説明は以上です。かなり難しいと思いますが、絵里ちゃんをナンバードから守って、どうか皆さん全員、無事に帰ってきて下さい。くれぐれも事前の準備は怠りなく、ですよ」
 それから風香は何かを思い出したらしく、「あ、そうだ」と手を叩く。
「もし絵里ちゃんを助けられたら、銀誓館に誘ってみるのも良いかも知れませんね。同じ能力者のお友達を持つのは悪いことじゃないでしょうし」

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参加者
赤目・虚太刀(神攻鬼怖・b03674)
久世・洋介(白燐蟲使い・b08285)
近藤・圭太郎(凹凸左のでこぼこ蒲鉾やねん・b38629)
稲田・琴音(蟲人・b47252)
矢車・千破屋(燦然・b53422)
メイプル・ローレンベルグ(嵐を呼ぶ破天荒・b54105)
日向・夏果(のんびりまったりいきましょう・b55022)
レナ・クロニクル(豊穣のつぼみ・b79197)



<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

赤目・虚太刀(神攻鬼怖・b03674)
このナンバード…抗体ゴーストというのみならず…かなり危険そうだな
「変なおじさんはTVの中だけで良い」

▼作戦
図書館内で接触する者と後で合流する者に分かれる

私は後で合流組
何人かの仲間と固まって本を見る
いつもは民俗学関連書棚に入り浸っているのだが
あまり夢中になってもまずいので動物図鑑でも読んでいようかな
ううむ、この妖怪伝承の本は未読…ぬう、やたら関連書籍が豊富だな…(つい集中)
もしも集中しきっていたら呼んでくれ

合流時は名乗って軽く自己紹介

帰路は睦月を囲む
前を歩き要警戒
鋭敏感覚をフル活用

会敵と同時に起動
「抗体ゴースト、完殺する」

▼戦闘
前衛にて敵の攻撃を支える
犬→ナンバードの順に撃破

初手でハンティングモード
以降HPが半分以下になったら使用

攻撃アビは惜しみなく使う
ナンバードに2,3発は残しておきたい

まずナンバードは任せ犬撃破に専念
戦線を突破されないよう要注意
「噛みつく相手を間違えたな」

犬完殺後、ナンバード担当が疲弊していたら場所を代わる
「待たせたな」
年齢のことを特に気にしてはいないがあんまりな妄言を聞いたら目眩がしそうだな
「確かに女性陣の中では最年長だが…地味にキツイなこの精神攻撃」


「天使に会いたいなら今すぐ此の世から去るが良い」


▼戦闘後
なんだか疲れた…(遠い目)

睦月に少し声をかける
「これが銀誓館能力者の日常だ。…あ、あんな変なゴーストばかりではない」
「―――選ぶのはお前だ」

久世・洋介(白燐蟲使い・b08285)
せっかく出会えたのですから、学園に来てもらえると嬉しいですね

ナンバード=N
睦月=S
以後敬称略

説得
図書館内では三人のグループに分かます
読むのはハードカバーの古典小説を
私自身は、本に夢中にならないように気をつけて
小学生の二人が帰り支度を始めたら、側にいる仲間に声をかけて合流を
最近物騒ですから、近くまで送ります
移動中は、Sのやや後に
本の話題を振りながら
銀誓館の図書館は本が多すぎて探すだけでも大変です
便利ですけれどね
色んな魔導書もありますし……
まで言って、しまったという感じを出します
興味を持った言葉か返ってきたら、諦めたように銀誓館のことを説明しましょう
能力の違いはあれど、ここにいる皆は、貴方の言うところの『魔法』が使えますよ
疑念をもたれたなら、白燐光を掌の上に灯してみせます

戦闘
良い変態は、分をわきまえた変態だけですよ
それ以前に、人ですらありませんでしたね
立ち位置はSの側、後衛から中衛にかけて
初撃は、Nに向けて蒼の魔弾を使用
その後、回復メインで行動
白燐奏甲は、HPが半分以下の人を優先的に
射程強化がかかっていれば、N押さえの人にも回復を送れるのですが
回復の合間に、狼へ魔弾を向けます
光の槍擬きでSを攻撃してきたときは、庇います
特にNを追いつめた時は、すぐに庇えるようSへの攻撃に警戒します
Sへは、落ち着いて狙えば当たりますよと声をかけます

終了
学園へ誘います
魔導書も読み放題ですしね

救出した能力者を友人に薦める

近藤・圭太郎(凹凸左のでこぼこ蒲鉾やねん・b38629)
手を出す変態は犯罪者だ。ゴースト相手に通用する言葉じゃないですけど。
しかし相手が何にせよ、全ての小さき天使を傷つけようとする輩は
彼女らの敵、そして僕の敵!滅する…!


【接触・合流】
図書館内ではバラけずに睦月ちゃんらが見える位置で本読んでます。
せっかくの機会だし、海洋生物学関係の資料探してよっと。
睦月ちゃんらが出るのを見計らって合流。

ゴーストの存在に注意しながら帰路につき。
僕のしてる兎さんポシェットな、僕のお手製でもっふもふなんだ。睦月ちゃんに見したるよ。


【戦闘】
配置:後衛
まずは手始めにブロッケンジャイアントで自己強化、
スピードスケッチ改で描き散らす!
撃破優先順としては 犬妖獣>ナンバード ですが
ナンバードの注意を逸らすため時々ナンバードを狙います。
それはもう思いっきり悪意を込めたスケッチをな!
「おめーみてぇな変態はゲロ以下だ!」

ゴーストの討伐より睦月ちゃんの保護を優先したいので、
なるべく犬妖獣やナンバードが睦月ちゃんに接近してこないよう注意したいところ。
彼女に接近しようものなら壁にでもなるぜ。やってみろよコルァ!

防具HP以上のダメージを受けたらブロッケンジャイアントで回復。
「幼女ぉおおおお!!!!」
お兄ちゃん、やったるけんな!


【事後】
「バカめが。小さき天使に手を出そうとするからこうなるんだ。」
僕は全ての幼女と小さい少女の味方であって、決して変態ではないからね。と
睦月ちゃんに教えとかねば。

稲田・琴音(蟲人・b47252)
祖母への想い、魔法、髪の色。他人事とは…。



【接触】
英国で有名な6ペンスお守りをペンダントで持参。


接触は図書館入口。

「ごめんなさい、遅れ…あら、そちらは?あ、私は稲田琴音と申します。そちら二人とは読書仲間です」


「私もご一緒宜しいかしら?あなたの好きな本、伺いたいです。私は最近英文学が…」

実際、言葉の使いが本当に巧くて昔から好きですよ。




久世先輩の「失言」には畳みかけ。

「…あなたも魔法使いなのでしょう」

両掌に包み隠し生むは淡い白燐光。

「私もなんです。ごめんなさい……私、嘘をつきました。本当は、今日は最初からあなたに会いに来たんです。死を弄ぶ亡者からお守りする為に」


【戦闘】
錫杖は抜かせ、異形を確認させ次第レナさんに連携、絵里さんの背後から幻影兵団速攻展開。

「神が定めし命なら、勝手に断つこそ罰当たりでしょうに!」

次に奏甲を絵里さんに施し防備固め、後はHP5割以下の味方に奏甲>聖画直後に兵団>侵食弾(犬>変質者)の優先順。犬や光の槍が絵里さんに来たら割込み庇う!

「絶対に護りますから…!」




細身低身長でもお年頃、万一天使認定されたら修羅の気配。

「成長はしたと思いたかったのですが…そうですか、天使。…よくぞ申しました!」



【戦後】

レナさんに続き、背をそっと叩いて告げます。

「私も、祖母から魔法と愛を受けた者としてあなたに縁を感じずにいられません…共に護り合える友人になりたいです」







【救出した能力者を友人に薦める】

矢車・千破屋(燦然・b53422)
俺は弟達亡くしてるってのもあってこいつの主張は軽くきれるレベル
それに『あれ』から抗体ゴーストは大嫌いだ
絶対許せない
全身全霊で叩き潰してやんよ

*合流前後

合流前は他の皆と適当に固まりつつ
難しい本は無理だから絵本をだな…

合流の際は気さくに挨拶

その後は少し前歩いて
鋭敏感覚フル活用で周囲警戒しつつ談笑

銀誓館については
本当に優しいヒト達ばっかなんやでってコト
この世界がもっと好きになるよな場所だってコト
言葉は拙いケド伝われば

敵に気づいたら即起動

*戦闘

★前提

所属/前衛
陣形/睦月サンを後衛が囲み、その前で前衛が頑張る形
撃破順/犬→男

+祖霊=回復目的のみ

対象優先度/睦月>自分>前衛>後衛

基準はHP半分以下+他者の回復が追いつかない場合
声を掛け合い過剰は避ける

+その他

初手から全力突撃
アビの出し惜しみせず
尽きたら通常気・術交互

★個人戦法

犬を撃破を最優先
後衛地点まで突破されるのは全力阻止したい心持ち
「おらおらワンちゃんおいで!遊んだる!」
って挑発をダメ元で

撃破後は男へ
こちらも後ろに通さないよう注意しつつ猛攻

「老化てなんね!?成長やろが!」
文字通り噛み付く勢いで
「もうとっくに死んでるお前に!誰かの時間は奪わせねー!」

*事後

かがんで目線合わせて、
もうダイジョブだよ、ヘイキ?怖くなかった?って声かけよう
答えがなんでも、嫌がられなきゃ頭撫でる

くるこないは彼女次第だケド
またあえたらええな、って思うんだ

メイプル・ローレンベルグ(嵐を呼ぶ破天荒・b54105)
▲心情
将来の仲間が殺されるのは見過ごす訳にはいかないね。
絶対に絵里を助けなきゃ。
そして銀誓館に来てくれたら友達になりたいな♪

▲目的
・絵里の無事
・ナンバード&犬妖獣2体の撃破

▲作戦
あたしとレナが図書館で絵里と仲良くなり、
図書館から出た後は他のメンバーと合流し、
絵里を護衛しながら帰路で銀誓館や能力者の事を話す。
戦闘は絵里を護衛しながら戦う。

▲行動
図書館内では周りの迷惑にならない様に、小さな声で喋るよ。
絵里が選ぼうとしている本棚に自然な振る舞いで近付くね。
「あ、お先にどうぞ♪」
絵里の取った本に興味を持った様子を見せるね。
「面白そうな本だね、あたしもこういうの好きだよ。」
「あたしはメイプル・ローレンベルグ。小学5年だよ。見た所、キミはあたしと歳近いかな?」
と自己紹介して絵里の警戒心を解くよ。
その後は本の話をちょくちょくして、仲間の『読書サークル』の事も教えておく。

館外に出たら仲間と合流し、絵里には読書サークルの仲間だと教えるよ。
仲間達と一緒になったら、銀誓館や能力者の事を話して何とか信じさせてあげたいな。

▲戦闘
犬>ナンバードの順で倒すね。
あたしは後衛だよ。
ジェットウインドで犬の足止めを狙ってみるよ。
一体の足止めをできたら、動ける方の犬にもジェットウインド使用。
仲間にHPが6割以下に減った者が居たら、浄化の風で回復。
「癒しの風よ…皆を助けてあげて。」

▲戦闘後
場を片付け絵里に改めて説明する。

日向・夏果(のんびりまったりいきましょう・b55022)
※一人称:私 二人称:名前+さんor皆様

■行動の流れ
とりあえず、図書館に行って、さりげなく待機してます。
絵里さんへの最初のはレナさんやメイプルさんが
行う手はずですので、
彼女が図書館から帰るころに、紹介してもらう形で合流します。
私達は『読書サークル』という名目で。

帰り道は、警戒は怠らないようにしますが。
楽しく談笑しましょう。
露骨に護衛というのも面白くありませんし。
うまく興味を引くことが出来たら
能力者や銀誓館の話も切り出してみましょう。
魔法使いは結構知り合いいますし(笑)

■戦闘の指針
まず、絵里さんを守るのが最優先で、
必要であればかばいます。
私は前衛に立ち、ナンバードに取り付いて
自由に行動できないよう牽制します。

ところで…天使、ですか(汗)
こういうとき、かけるべき言葉は…
たしか『寝言は寝て言え』でしたっけ?

初手で雪だるまアーマーで自己強化。
その後さよならの指先(なければ通常攻撃)で攻撃、
JCマヒも狙っていきます。
全体の方針は犬>ボスの優先順位ですので、
可能なら幻影兵団の恩恵も活用します。
「総てを凍てつかせる氷雪よ……」

皆様の回復が追いつかないようなら、
ヒーリングヴォイスで支えます。
「皆様に勇気と活力を…」

私のHPが半減したら、雪だるまアーマーで自己回復。
「耐えてみせます!」

■戦闘が終わったら…
戦場は片付けます。

絵里さんには、改めて説明しましょうか。
そこから先へは、彼女の意思しだいですけど…

レナ・クロニクル(豊穣のつぼみ・b79197)
絵里さんとはお話してみたいし、お友達になりたい。
だから、ね。絶対に抗体ゴーストの好きにはさせないよ!

●接触
図書館で同じ本棚の本を探す感じで数度接近した後に話しかける。
「えへへ、良く会うねー!」
「あ、ぼくはレナって言います。お名前聞いてもいい?」
魔術のこと、イギリスのこと。そういった共通点になりそうな部分を話して行けたらなと。
「えへへ、ぼくも同じ魔法使い! ……何だかこうして会えて嬉しいな!」
それでね、一緒にこういった本を読んだりする読書サークルもあるの。絵里さんも良かったら来ない?
お誘いOKだったらこれから一緒に行く感じ、そうじゃなくても、サークルの場所が同じ方向、ってことで同行させてもらいたいな。

●戦闘
前衛、ナンバードの抑えに。
「絵里さんには近付かせないよー!」
こっちを意識するか分からないけど、ナンバードに話しかけながら攻撃を。
攻撃は雷魔弾。
皆が犬優先してる間も、ぼく自身はナンバード攻撃で!
「老化したっていいじゃない、大人になったっていいじゃない!」

HP半減程度で魔弾の射手を使い、倒れないように意識を。
無理はしないこと!

●戦闘後
絵里さんの安否確認を第一に。
初めての戦闘って怖いと思う。だから頭撫でたりぎゅっとしたり、嫌がられない範囲で労いたい。
「絵里さんが勇気を出してくれたから、ぼくたちも頑張れたの!」
だから。
「ぼくたちと一緒に、銀誓館に来ない?」
……一緒に頑張れたら、ぼくは嬉しい!




<リプレイ>

●キッズコーナーから始まる関係
 横浜市内にある某図書館の午後、1人の少女がキッズコーナーに並ぶ本棚の前にいた。
 年の頃は小学校の中学年辺り、赤みがかった髪を型まで伸ばし、春物のワンピースに茶色のタイツの装い、デニム地の肩掛けバッグを提げ、本棚の本を見回している。やがて読む本が決まったらしく、そのうちの1冊に手を伸ばすと、横合いから別の手が同じ本に伸びてくる。
「あ、お先にどうぞ♪」
 いつの間にか少女の側にいたメイプル・ローレンベルグ(嵐を呼ぶ破天荒・b54105)が、周りを気遣って抑えた声で譲る。少女が本を手に取りその場で開くと、メイプルも少女の肩越しに本を覗いて、「面白そうな本だね、あたしもこういうの好きだよ」と言ってくる。
「あっ──」
 そこへレナ・クロニクル(豊穣のつぼみ・b79197)もやって来て、
「えへへ、良く会うねー!」
 既に図書館内で何度か本を探しているように装い接近していたので、気軽に声を掛ける。そして少女が手にした本も読みたげな表情で見て、少女がレナの方を見ているのを確認して、
「あ、ボクはレナって言います。お名前聞いてもいい?」
 子供ならではの遠慮のなさでレナが少女の名前を尋ねると、
「う、うん。私は睦月絵里」
 いささか戸惑いながらも答える絵里に「そっか、絵里ちゃんか、よろしく〜」とレナは笑って言う。
「あたしはメイプル・ローレンベルグ。小学5年だよ。見た所、キミはあたしと歳近いかな?」
 便乗するようにメイプルも自己紹介し、次いで年齢を訊くと、
「え〜と、小学4年だけど……」
「そっか、ボクは小学2年だよ。よろしく」
 答える絵里にレナも言ってきて、その後3人はキッズコーナー内に置かれた椅子へ移動。数回本棚との間を往復しながら会話を重ねていく。
「ねえ、そんなに本が好きなら、私達の読書サークルに入らない?」
 ある程度打ち解けた所へメイプルがそう切り出すと、「読書サークル?」と興味ありげな表情で絵里が返してくる。
「少しでも興味があるならさ、一度仲間と会ってみない? その方が決めやすいでしょ?」
 実はボクも入ってるんだ、と勧めるレナに、「それじゃ、会ってみるくらいなら……」と絵里が答える。
「良し、決まり!」
 じゃあ早速と、レナは2人を促してキッズコーナーを出る。

「よっ、お先!」
 図書館の玄関ホールに着くと、待っていた矢車・千破屋(燦然・b53422)が手を上げる。近藤・圭太郎(凹凸左のでこぼこ蒲鉾やねん・b38629)、日向・夏果(のんびりまったりいきましょう・b55022)と共に、遠目に絵里達の様子を伺いつつ、彼女達が動くと先回りしていたのだった。
「あら、そちらの可愛い女の子はどちら様?」
 絵里を見て、初対面のように夏果が尋ねると、メイプルが絵里を紹介し、次いで夏果達も自己紹介するのだった。

●夕日の変質者
「ごめんなさい、遅れ……あら、そちらは?」
 早足で稲田・琴音(蟲人・b47252)がやって来ると、絵里の姿を見つけて尋ねる。
「あらら、私達で最後ですか。赤目さんが本に夢中になってるからですよ」
 琴音と一緒にやって来た久世・洋介(白燐蟲使い・b08285)が、赤目・虚太刀(神攻鬼怖・b03674)に向かって言うと、
「いや、何せ未読の妖怪伝承の本があって、つい集中してしまった……」
 済まなそうに言い訳する虚太刀。絵里の位置は洋介が逐一把握していたのだが、虚太刀が本当に本に夢中になってしまい、合流が遅れたのだ。そんな訳で改めて自己紹介し合い、
「最近物騒ですから、近くまで送りますよ。ついでに私達の好きな本などについてお話ししませんか?」
 さりなげく洋介が同行を申し出ると、先程の遅刻で緊張がほぐれたこともあってか、「ありがとうございます」とあっさり絵里が承諾したので、一同は連れ立って図書館を出る。

 既に外は夕暮れ時で、夕日が辺りをオレンジ色に染める道を絵里と一緒に歩く能力者達は、いつゴーストが現れても対処できるよう、さりげなく絵里を囲みつつ話を交わす。最初はそれぞれの好みの本について話していたが、次第に打ち解けてくるとお互いの身の上も話題に乗る。絵里の祖母がイギリス人で、髪の色もその遺伝によること、祖母が生前の頃は色々なおまじないを教えて貰ったことなど、事前に運命予報で大まかな所は聞いていたが、実際に本人から聞くとまた違って感じる。
 能力者達の方も自分達の身の上について話すが、最初は当然ながら常識の範囲内で、
「ほらほら、この兎さんポシェットな、僕のお手製でもっふもふなんだ。触ってみるかい?」
 中には圭太郎のようにいささかフレンドリー過ぎるのではと思えるアプローチを試みる者もいたものの、個性の範囲内で済ませられたが、通っている学校の話題に移ると、
「うちの学校の図書館にもたくさん本があるんですけどね、本が多すぎて探すだけでも大変です。便利ですけれどね。色んな魔導書もありますし……」
 そこまで言って、しまったという風に洋介は口に手を当てる。もちろんわざと口に出したのだが、絵里の反応を伺うと、『魔導書』という言葉に、懸命に隠しているようだったが動揺しているのが見て取れたので、洋介は「おや、興味がおありですか」と笑いかける。
「……あなたも魔法使いなのでしょう?」
 そこへ背後から琴音も話しかけ、優しく物を包むように両掌を合わせ、「私もなんです」とその中に小さな白燐光を出してみせると、今度ははっきりと『あなた達も?』というような表情になる。
「能力の違いはあれど、ここにいる皆は、貴方の言うところの『魔法』が使えますよ」
 自身も掌から白燐光を灯しながら洋介も言う。
「ごめんなさい……私、嘘をつきました。本当は、今日は最初からあなたに会いに来たんです」
 心苦しそうに詫びて、琴音は告白する。
「私に会いに? 何のために?」
「死を弄ぶ亡者からお守りする為に」
 困惑した表情で尋ねる絵里に、琴音は答えると、彼女達の前に、黒い僧服を着た長身の男が立ち塞がる。
「おぉっ……」
 男は彼女達の姿を見ると、感極まったような表情で全身を震わせ、
「おお神よ、かくも小さく愛らしい天使達を私の前に遣わして下さったことを、心の底より感謝いたします!」
 両腕を広げ大仰に天を仰いで叫ぶ男に、絵里はバッグに手を入れ、能力者達もそれぞれポケットをまさぐる。すると不意に男の髪と肌から色が抜けていき、あっという間に白い髪、白い肌になり、口の中に手を突っ込むと同時に巨大な黒犬、白犬と思しき生物が彼の側にやってくる。
「ではこれより、天使の老化を阻止する聖務に取り掛かります!」
 口の中から錫杖を引っ張り出して、男がそう宣言すると、
「抗体ゴースト、完殺する」
 対抗するように虚太刀も宣言し、一斉に起動した。
「「イグニッション!」」

●変態さんが通る
「絵里さんには近付かせないよー!」
 絵里の前に立つレナがナンバードの注意を引くために叫びながら雷の魔弾で攻撃するのと同時に、絵里の背後で琴音が幻影兵団を出現させる。
「神が定めし命なら、勝手に断つこそ罰当たりでしょうに!」
 声を荒げる琴音だが、
「黙れ堕天使が!」
 嫌悪感も露わにナンバードは叫び、「だ、堕天使!?」と困惑する琴音に、
「とっくに老化して堕天使になったくせに、体型を天使に見せかけてまで男を誘惑するとは何たる邪悪! この手で地獄に落としてくれる!」
 100パーセント本気の口調でナンバードは錫杖を構える。
「フ……フフ……」
 ややうつむき加減で、琴音は虚ろな笑い声を上げるが、
「子供と見間違われなかったことを喜ぶべきか、あそこまで言いたい放題されたことを怒るべきか、どっちにしましょう……」
 そう呟く琴音から、尋常ならざる気配が立ち上っているように、周りの能力者達は感じる。
「天使に堕天使ですか……こういう時掛けるべき言葉は……確か『寝言は寝て言え』でしたっけ?」
 冷や汗を掻きつつ、続けて夏果も言いながら雪だるまアーマーを身に纏う。
「やれるものならやってみろよコラァ!」
 叫びながらブロッケンジャイアントを纏う圭太郎の側で、メイプルが黒犬妖獣をジェットウインドで空中に浮かせるが、もう1体の白犬妖獣が夏果に襲いかかり、アーマーを齧り取る。
「喰らえ堕天使!」
 そうしてアーマーの薄くなった箇所へ、ナンバードが錫杖の先から放った光の槍のような物が刺さり、血を流させる。膝を崩しかける夏果だが、
「耐えてみせます!」
 気丈に言って持ちこたえる。
「おらおらワンちゃん! 遊んだる!」
 空中に固定された黒犬妖獣に千破屋が飛びかかり、猛毒鋏角齧りを仕掛けると、上手く喉に噛みついて派手に出血させ、地面に落ちた黒犬妖獣は立ち上がれずに息絶える。
「老化てなんね!? 成長やろが!」
 呆れと怒りの混ざった口調で千破屋が叫ぶが、
「胸や尻にブヨブヨと脂肪が付くことを成長などと言うか!? あのような歪んだ体型に世の男共が欲情するなど、邪悪な魔力が働いているとしか考えられん! 故に、天使は老化する前に天国へ返し、堕天使とそれに味方する者共は地獄へ落とすべきなのだ!」
 ナンバードの主張に、ハンティングモードに入った虚太刀はくらくらしそうな様子で、
「……地味にキツイなこの精神攻撃」
 参った表情で虚太刀が呟く。
「良い変態は、分をわきまえた変態だけですよ。それ以前に、人ですらありませんでしたね」
 洋介が蒼の魔弾でナンバードを命中させるのに続いて、絵里も「お婆ちゃん、私に力を貸して──」と小声で呟きながら魔道書のページを繰って雷の魔弾をナンバードに向けて放つが、ナンバードは軟体動物めいた動きで体を捻ってかわしてしまう。
「老化したっていいじゃない、大人になったっていいじゃない!」
 ナンバードに向けて雷の魔弾を放ち、反対意見を叫ぶレナだが、
「良くない! 天使の老化は世界における美の損失、それ以上に私の魂が耐えられん!」
 既に相当なダメージを受けているはずだが、ナンバードは考えを変えるつもりなど無いらしい。
 とは言え、白犬妖獣をメイプルのジェットウインドで浮かせた所に、琴音から幻影兵を通して白燐奏甲を受けた夏果が自身も幻影兵を飛ばし、さよならの指先で白犬妖獣を凍らせ、そこへ圭太郎がスピードスケッチでデフォルメした白犬妖獣に攻撃させて粉々に砕く。これで残る敵はナンバードのみとなるが、
「美を理解しない者共め、これを見るが良い!」
 ナンバードは僧服の前をはだけ、『3』と刻まれた胸を露わにする。だがそれ以上に目を引くのは、僧服の内側に隠された、幼女画像がプリントされたおびただしい枚数の紙だった。
「ネットの海から集めた天使達の聖画だ! 真の美を、身を以て体感するが良い!」
 男が叫ぶや、大量の『聖画』が爆発するように飛び散る。『聖画』は辺り一面を回転しながら飛び交い、能力者達を切り刻むと、帰巣本能があるかのように元の場所へ戻る。どうだと言わんばかりに胸を張るナンバードだが、
「そんな紙っぺらで死んでたまるか! もうとっくに死んでるお前に! 誰かの時間は奪わせねー!」
 魂を振り絞るように叫びながら、千破屋は傷を負った体でナンバードに肉薄し、猛毒鋏角齧りで噛みつく。
「変なおじさんはTVの中だけで良い」
 冷たい口調で虚太刀がチェーンソー剣を構えると、
「私はおじさんではない。お兄様、もしくはお兄ちゃんと呼べ!」
 猛毒に侵されても減らず口を叩くナンバードに、
「天使に会いたいなら今すぐ此の世から去るが良い」
 死刑宣告のように言い、虚太刀はナンバードに突貫。インパクトでチェーンソー剣を腹に叩き込むと、刃を回転させて更に内部を抉り、刃を抜いた所へ間髪入れず洋介が蒼の魔弾を撃ち込む。
「さあ、止めを刺すんですよ!」
 体内を焼き焦がされてもまだ立っているナンバードを指差して、琴音は絵里に言う。
「もう倒れる寸前ですから、落ち着いて狙えば当たりますよ」
 洋介もそう助言すると、絵里は覚悟を決めた表情で雷の魔弾を出し、焦らずに放つ。避ける体力もなく魔弾の直撃を受けたナンバードは、力尽きて倒れる。
「おお、神よ、どうして私をお見捨てになるのですか……」
 空に向かって両手を伸ばし、ナンバードは呻くように言うが、結局それがラストメッセージとなり、糸が切れたように両手が地面に落ちた──。

●新しいお友達
「もうダイジョブだよ、ヘイキ? 怖くなかった?」
 ナンバードが消滅すると、皆が必死にかばったおかげでほとんど傷もない絵里の元へ千破屋が声を掛けてきて、更に頭を撫でてくる。更に圭太郎も加わって一緒に頭を撫でるが、
「やめてあげて下さい、いやらしい目で見ちゃって」
 そこへ夏果が割って入り、絵里から圭太郎を引き剥がしに掛かる。
「僕は全ての幼女と小さい少女の味方であって、決して変態ではないからね。睦月ちゃん!」
 先程のナンバードと同類ではないと必死で主張する圭太郎だが、周囲の目は冷ややかだ。
「あ〜、ともかく、これが銀誓館能力者の日常だ。……あ、あんな変なゴーストばかりではない」
 大事なことだからと虚太刀は更に念を押し、
「そして銀誓館の能力者も、こんな人ばかりじゃないからね」
 圭太郎の方を指してメイプルは続けて言う。これまで絵里が過ごしてきた人生とは全く異なる世界を見せられ、少なからず動揺しているようだったが、
「今の戦い、怖かった?」
 レナがそっと尋ねると、絵里はこくりと頷く。
「ぼくたちも戦いは怖いよ。でも、絵里さんが勇気を出してくれたから、ぼくたちも頑張れたの!」
 正面からまっすぐに向き合い、レナは言う。
「だから──」
 そして切り出す。
「ぼくたちと一緒に、銀誓館に来ない?」
 その誘いに、絵里の表情は揺らぐが、拒絶の色ではなく、迷っているように見えた。
「魔導書も読み放題ですしね」
 背中を押すつもりで洋介は言うが、絵里は無言で祖母の形見の魔道書をギュッと胸に抱く。よほど愛着があるらしく、これでは駄目かと洋介が心の中で溜息を吐くと、琴音が背後からそっと、絵里の肩に手を置く。
「私も、祖母から魔法と愛を受けた者としてあなたに縁を感じずにいられません……共に護り合える友人になりたいです」
 耳元で囁くように琴音が言うと、数秒間沈黙が続いた後、
「私が決めただけじゃ、転校は無理だよ。うちのお父さんとお母さんを説得するお手伝い、してくれる? 魔法とかは信じてないんだけど……」
 困った表情で尋ねる絵里だが、
「もちろんですよ。みんなで相談して、作戦を考えましょう」
 琴音が即答すると、絵里はパッと表情を明るくする。それはまるで、春に咲く花のようだった──。


マスター:たかいわ勇樹 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/04/29
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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