<リプレイ>
●キッズコーナーから始まる関係 横浜市内にある某図書館の午後、1人の少女がキッズコーナーに並ぶ本棚の前にいた。 年の頃は小学校の中学年辺り、赤みがかった髪を型まで伸ばし、春物のワンピースに茶色のタイツの装い、デニム地の肩掛けバッグを提げ、本棚の本を見回している。やがて読む本が決まったらしく、そのうちの1冊に手を伸ばすと、横合いから別の手が同じ本に伸びてくる。 「あ、お先にどうぞ♪」 いつの間にか少女の側にいたメイプル・ローレンベルグ(嵐を呼ぶ破天荒・b54105)が、周りを気遣って抑えた声で譲る。少女が本を手に取りその場で開くと、メイプルも少女の肩越しに本を覗いて、「面白そうな本だね、あたしもこういうの好きだよ」と言ってくる。 「あっ──」 そこへレナ・クロニクル(豊穣のつぼみ・b79197)もやって来て、 「えへへ、良く会うねー!」 既に図書館内で何度か本を探しているように装い接近していたので、気軽に声を掛ける。そして少女が手にした本も読みたげな表情で見て、少女がレナの方を見ているのを確認して、 「あ、ボクはレナって言います。お名前聞いてもいい?」 子供ならではの遠慮のなさでレナが少女の名前を尋ねると、 「う、うん。私は睦月絵里」 いささか戸惑いながらも答える絵里に「そっか、絵里ちゃんか、よろしく〜」とレナは笑って言う。 「あたしはメイプル・ローレンベルグ。小学5年だよ。見た所、キミはあたしと歳近いかな?」 便乗するようにメイプルも自己紹介し、次いで年齢を訊くと、 「え〜と、小学4年だけど……」 「そっか、ボクは小学2年だよ。よろしく」 答える絵里にレナも言ってきて、その後3人はキッズコーナー内に置かれた椅子へ移動。数回本棚との間を往復しながら会話を重ねていく。 「ねえ、そんなに本が好きなら、私達の読書サークルに入らない?」 ある程度打ち解けた所へメイプルがそう切り出すと、「読書サークル?」と興味ありげな表情で絵里が返してくる。 「少しでも興味があるならさ、一度仲間と会ってみない? その方が決めやすいでしょ?」 実はボクも入ってるんだ、と勧めるレナに、「それじゃ、会ってみるくらいなら……」と絵里が答える。 「良し、決まり!」 じゃあ早速と、レナは2人を促してキッズコーナーを出る。
「よっ、お先!」 図書館の玄関ホールに着くと、待っていた矢車・千破屋(燦然・b53422)が手を上げる。近藤・圭太郎(凹凸左のでこぼこ蒲鉾やねん・b38629)、日向・夏果(のんびりまったりいきましょう・b55022)と共に、遠目に絵里達の様子を伺いつつ、彼女達が動くと先回りしていたのだった。 「あら、そちらの可愛い女の子はどちら様?」 絵里を見て、初対面のように夏果が尋ねると、メイプルが絵里を紹介し、次いで夏果達も自己紹介するのだった。
●夕日の変質者 「ごめんなさい、遅れ……あら、そちらは?」 早足で稲田・琴音(蟲人・b47252)がやって来ると、絵里の姿を見つけて尋ねる。 「あらら、私達で最後ですか。赤目さんが本に夢中になってるからですよ」 琴音と一緒にやって来た久世・洋介(白燐蟲使い・b08285)が、赤目・虚太刀(神攻鬼怖・b03674)に向かって言うと、 「いや、何せ未読の妖怪伝承の本があって、つい集中してしまった……」 済まなそうに言い訳する虚太刀。絵里の位置は洋介が逐一把握していたのだが、虚太刀が本当に本に夢中になってしまい、合流が遅れたのだ。そんな訳で改めて自己紹介し合い、 「最近物騒ですから、近くまで送りますよ。ついでに私達の好きな本などについてお話ししませんか?」 さりなげく洋介が同行を申し出ると、先程の遅刻で緊張がほぐれたこともあってか、「ありがとうございます」とあっさり絵里が承諾したので、一同は連れ立って図書館を出る。
既に外は夕暮れ時で、夕日が辺りをオレンジ色に染める道を絵里と一緒に歩く能力者達は、いつゴーストが現れても対処できるよう、さりげなく絵里を囲みつつ話を交わす。最初はそれぞれの好みの本について話していたが、次第に打ち解けてくるとお互いの身の上も話題に乗る。絵里の祖母がイギリス人で、髪の色もその遺伝によること、祖母が生前の頃は色々なおまじないを教えて貰ったことなど、事前に運命予報で大まかな所は聞いていたが、実際に本人から聞くとまた違って感じる。 能力者達の方も自分達の身の上について話すが、最初は当然ながら常識の範囲内で、 「ほらほら、この兎さんポシェットな、僕のお手製でもっふもふなんだ。触ってみるかい?」 中には圭太郎のようにいささかフレンドリー過ぎるのではと思えるアプローチを試みる者もいたものの、個性の範囲内で済ませられたが、通っている学校の話題に移ると、 「うちの学校の図書館にもたくさん本があるんですけどね、本が多すぎて探すだけでも大変です。便利ですけれどね。色んな魔導書もありますし……」 そこまで言って、しまったという風に洋介は口に手を当てる。もちろんわざと口に出したのだが、絵里の反応を伺うと、『魔導書』という言葉に、懸命に隠しているようだったが動揺しているのが見て取れたので、洋介は「おや、興味がおありですか」と笑いかける。 「……あなたも魔法使いなのでしょう?」 そこへ背後から琴音も話しかけ、優しく物を包むように両掌を合わせ、「私もなんです」とその中に小さな白燐光を出してみせると、今度ははっきりと『あなた達も?』というような表情になる。 「能力の違いはあれど、ここにいる皆は、貴方の言うところの『魔法』が使えますよ」 自身も掌から白燐光を灯しながら洋介も言う。 「ごめんなさい……私、嘘をつきました。本当は、今日は最初からあなたに会いに来たんです」 心苦しそうに詫びて、琴音は告白する。 「私に会いに? 何のために?」 「死を弄ぶ亡者からお守りする為に」 困惑した表情で尋ねる絵里に、琴音は答えると、彼女達の前に、黒い僧服を着た長身の男が立ち塞がる。 「おぉっ……」 男は彼女達の姿を見ると、感極まったような表情で全身を震わせ、 「おお神よ、かくも小さく愛らしい天使達を私の前に遣わして下さったことを、心の底より感謝いたします!」 両腕を広げ大仰に天を仰いで叫ぶ男に、絵里はバッグに手を入れ、能力者達もそれぞれポケットをまさぐる。すると不意に男の髪と肌から色が抜けていき、あっという間に白い髪、白い肌になり、口の中に手を突っ込むと同時に巨大な黒犬、白犬と思しき生物が彼の側にやってくる。 「ではこれより、天使の老化を阻止する聖務に取り掛かります!」 口の中から錫杖を引っ張り出して、男がそう宣言すると、 「抗体ゴースト、完殺する」 対抗するように虚太刀も宣言し、一斉に起動した。 「「イグニッション!」」
●変態さんが通る 「絵里さんには近付かせないよー!」 絵里の前に立つレナがナンバードの注意を引くために叫びながら雷の魔弾で攻撃するのと同時に、絵里の背後で琴音が幻影兵団を出現させる。 「神が定めし命なら、勝手に断つこそ罰当たりでしょうに!」 声を荒げる琴音だが、 「黙れ堕天使が!」 嫌悪感も露わにナンバードは叫び、「だ、堕天使!?」と困惑する琴音に、 「とっくに老化して堕天使になったくせに、体型を天使に見せかけてまで男を誘惑するとは何たる邪悪! この手で地獄に落としてくれる!」 100パーセント本気の口調でナンバードは錫杖を構える。 「フ……フフ……」 ややうつむき加減で、琴音は虚ろな笑い声を上げるが、 「子供と見間違われなかったことを喜ぶべきか、あそこまで言いたい放題されたことを怒るべきか、どっちにしましょう……」 そう呟く琴音から、尋常ならざる気配が立ち上っているように、周りの能力者達は感じる。 「天使に堕天使ですか……こういう時掛けるべき言葉は……確か『寝言は寝て言え』でしたっけ?」 冷や汗を掻きつつ、続けて夏果も言いながら雪だるまアーマーを身に纏う。 「やれるものならやってみろよコラァ!」 叫びながらブロッケンジャイアントを纏う圭太郎の側で、メイプルが黒犬妖獣をジェットウインドで空中に浮かせるが、もう1体の白犬妖獣が夏果に襲いかかり、アーマーを齧り取る。 「喰らえ堕天使!」 そうしてアーマーの薄くなった箇所へ、ナンバードが錫杖の先から放った光の槍のような物が刺さり、血を流させる。膝を崩しかける夏果だが、 「耐えてみせます!」 気丈に言って持ちこたえる。 「おらおらワンちゃん! 遊んだる!」 空中に固定された黒犬妖獣に千破屋が飛びかかり、猛毒鋏角齧りを仕掛けると、上手く喉に噛みついて派手に出血させ、地面に落ちた黒犬妖獣は立ち上がれずに息絶える。 「老化てなんね!? 成長やろが!」 呆れと怒りの混ざった口調で千破屋が叫ぶが、 「胸や尻にブヨブヨと脂肪が付くことを成長などと言うか!? あのような歪んだ体型に世の男共が欲情するなど、邪悪な魔力が働いているとしか考えられん! 故に、天使は老化する前に天国へ返し、堕天使とそれに味方する者共は地獄へ落とすべきなのだ!」 ナンバードの主張に、ハンティングモードに入った虚太刀はくらくらしそうな様子で、 「……地味にキツイなこの精神攻撃」 参った表情で虚太刀が呟く。 「良い変態は、分をわきまえた変態だけですよ。それ以前に、人ですらありませんでしたね」 洋介が蒼の魔弾でナンバードを命中させるのに続いて、絵里も「お婆ちゃん、私に力を貸して──」と小声で呟きながら魔道書のページを繰って雷の魔弾をナンバードに向けて放つが、ナンバードは軟体動物めいた動きで体を捻ってかわしてしまう。 「老化したっていいじゃない、大人になったっていいじゃない!」 ナンバードに向けて雷の魔弾を放ち、反対意見を叫ぶレナだが、 「良くない! 天使の老化は世界における美の損失、それ以上に私の魂が耐えられん!」 既に相当なダメージを受けているはずだが、ナンバードは考えを変えるつもりなど無いらしい。 とは言え、白犬妖獣をメイプルのジェットウインドで浮かせた所に、琴音から幻影兵を通して白燐奏甲を受けた夏果が自身も幻影兵を飛ばし、さよならの指先で白犬妖獣を凍らせ、そこへ圭太郎がスピードスケッチでデフォルメした白犬妖獣に攻撃させて粉々に砕く。これで残る敵はナンバードのみとなるが、 「美を理解しない者共め、これを見るが良い!」 ナンバードは僧服の前をはだけ、『3』と刻まれた胸を露わにする。だがそれ以上に目を引くのは、僧服の内側に隠された、幼女画像がプリントされたおびただしい枚数の紙だった。 「ネットの海から集めた天使達の聖画だ! 真の美を、身を以て体感するが良い!」 男が叫ぶや、大量の『聖画』が爆発するように飛び散る。『聖画』は辺り一面を回転しながら飛び交い、能力者達を切り刻むと、帰巣本能があるかのように元の場所へ戻る。どうだと言わんばかりに胸を張るナンバードだが、 「そんな紙っぺらで死んでたまるか! もうとっくに死んでるお前に! 誰かの時間は奪わせねー!」 魂を振り絞るように叫びながら、千破屋は傷を負った体でナンバードに肉薄し、猛毒鋏角齧りで噛みつく。 「変なおじさんはTVの中だけで良い」 冷たい口調で虚太刀がチェーンソー剣を構えると、 「私はおじさんではない。お兄様、もしくはお兄ちゃんと呼べ!」 猛毒に侵されても減らず口を叩くナンバードに、 「天使に会いたいなら今すぐ此の世から去るが良い」 死刑宣告のように言い、虚太刀はナンバードに突貫。インパクトでチェーンソー剣を腹に叩き込むと、刃を回転させて更に内部を抉り、刃を抜いた所へ間髪入れず洋介が蒼の魔弾を撃ち込む。 「さあ、止めを刺すんですよ!」 体内を焼き焦がされてもまだ立っているナンバードを指差して、琴音は絵里に言う。 「もう倒れる寸前ですから、落ち着いて狙えば当たりますよ」 洋介もそう助言すると、絵里は覚悟を決めた表情で雷の魔弾を出し、焦らずに放つ。避ける体力もなく魔弾の直撃を受けたナンバードは、力尽きて倒れる。 「おお、神よ、どうして私をお見捨てになるのですか……」 空に向かって両手を伸ばし、ナンバードは呻くように言うが、結局それがラストメッセージとなり、糸が切れたように両手が地面に落ちた──。
●新しいお友達 「もうダイジョブだよ、ヘイキ? 怖くなかった?」 ナンバードが消滅すると、皆が必死にかばったおかげでほとんど傷もない絵里の元へ千破屋が声を掛けてきて、更に頭を撫でてくる。更に圭太郎も加わって一緒に頭を撫でるが、 「やめてあげて下さい、いやらしい目で見ちゃって」 そこへ夏果が割って入り、絵里から圭太郎を引き剥がしに掛かる。 「僕は全ての幼女と小さい少女の味方であって、決して変態ではないからね。睦月ちゃん!」 先程のナンバードと同類ではないと必死で主張する圭太郎だが、周囲の目は冷ややかだ。 「あ〜、ともかく、これが銀誓館能力者の日常だ。……あ、あんな変なゴーストばかりではない」 大事なことだからと虚太刀は更に念を押し、 「そして銀誓館の能力者も、こんな人ばかりじゃないからね」 圭太郎の方を指してメイプルは続けて言う。これまで絵里が過ごしてきた人生とは全く異なる世界を見せられ、少なからず動揺しているようだったが、 「今の戦い、怖かった?」 レナがそっと尋ねると、絵里はこくりと頷く。 「ぼくたちも戦いは怖いよ。でも、絵里さんが勇気を出してくれたから、ぼくたちも頑張れたの!」 正面からまっすぐに向き合い、レナは言う。 「だから──」 そして切り出す。 「ぼくたちと一緒に、銀誓館に来ない?」 その誘いに、絵里の表情は揺らぐが、拒絶の色ではなく、迷っているように見えた。 「魔導書も読み放題ですしね」 背中を押すつもりで洋介は言うが、絵里は無言で祖母の形見の魔道書をギュッと胸に抱く。よほど愛着があるらしく、これでは駄目かと洋介が心の中で溜息を吐くと、琴音が背後からそっと、絵里の肩に手を置く。 「私も、祖母から魔法と愛を受けた者としてあなたに縁を感じずにいられません……共に護り合える友人になりたいです」 耳元で囁くように琴音が言うと、数秒間沈黙が続いた後、 「私が決めただけじゃ、転校は無理だよ。うちのお父さんとお母さんを説得するお手伝い、してくれる? 魔法とかは信じてないんだけど……」 困った表情で尋ねる絵里だが、 「もちろんですよ。みんなで相談して、作戦を考えましょう」 琴音が即答すると、絵里はパッと表情を明るくする。それはまるで、春に咲く花のようだった──。
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参加者:8人
作成日:2011/04/29
得票数:楽しい9
カッコいい1
ハートフル2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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