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ビンラディン容疑者殺害:息子は戻らない…遺族は複雑

 国際テロ組織アルカイダの指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者(54)が殺害されたとの米国の発表は、01年の「9.11」テロの犠牲者遺族や国内の中東専門家らに大きな衝撃を与えた。「言葉が出ない」と複雑な心境を吐露する遺族も。数々のテロ活動を繰り返してきた組織への影響や米国の中東戦略に変更はあるのか。専門家らは、今後の情勢の推移を注意深く見守る必要があると指摘した。

 「9.11」テロで西日本銀行(現・西日本シティ銀行)に勤務していた中村匠也さん(当時30歳)を亡くした山口県下関市の母親(68)は「ビンラディン(容疑者)が死んでも息子は帰ってくるわけではない。これまでも死亡したという不確定な情報が流れたこともあり、特別な感情はわかない」と話した。

 中村さんはニューヨークの支店で1年間の勤務を終え、閉鎖する支店の整理をしていたところテロの犠牲に。夫婦で何度も貿易センタービルの跡地に足を運んだが、遺体は見つからなかった。「今年でテロから10年になるが、流れた月日がうそのよう。今でも息子への思いが胸の中にあふれている」と声を詰まらせた。

 旧富士銀行に勤務していて亡くなった杉山陽一さんの父、住山一貞さん(73)=東京都目黒区=は「殺すよりも逮捕して、なぜ事件を起こしたのか、彼らには彼らの主張があったはずだ。それを明らかにしてほしかったが、死人に口なしだ」と嘆いた。

 また、銀行員の一人息子を亡くした東京都内のある母親(80)は「ほっとしているが、彼(ビンラディン容疑者)をとらえても彼に続く者がいるのではないかと心配だ。いまだに息子の遺体も見つかっておらず、悔しさをどこにぶつけていいか分からないまま、懸命に生きてきた。あのような悲劇は二度と起こしてはならない」と感情を抑えるように語った。【島田信幸、青島顕、合田月美】

毎日新聞 2011年5月2日 13時21分(最終更新 5月2日 14時01分)

 

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