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社説:東北新幹線全通 地域の鉄道の復旧も

 東北新幹線が全区間で運行を再開した。東日本大震災による被害を修復し、段階的に運行区間を拡大してきたが、1カ月半遅れとなったものの、震災の翌日に全面開業した九州新幹線の分を含め、本州の北端の新青森から九州の南端の鹿児島中央まで、新幹線がつながった。

 巨大地震による被害は鉄道へも広域に及んだ。架線を支える電柱の折損や線路のゆがみ、橋桁のずれなど東北新幹線の設備には数多くの損傷が生じた。余震が続く中で修復が続けられ、復旧予定を繰り上げる形で29日に運行を全面再開した。

 阪神大震災の教訓が生かされたことが、短期間での修復につながったのは間違いないだろう。阪神大震災の際には、山陽新幹線の高架橋が倒壊し、復旧に多くの時間を要した。そのため、JR東日本は橋脚に鉄板を巻くなど、倒壊を防ぐための措置をとってきた。

 その結果、高架橋のほか、橋りょう、トンネル、駅舎の崩落を防ぐことができた。

 また、地震発生時に初期微動を感知し、本格的な揺れが始まる前に停止動作に入るシステムも有効に働いた。300キロ近いスピードがでていたものも含め運行中の列車はすべて安全に停車した。これも、新潟県中越地震による上越新幹線での脱線の経験が生かされた結果だ。

 在来線でも、津波が到達する前に列車の乗客は避難できた。

 福島第1原子力発電所の事故によって、日本の安心と安全に大きな傷がついた。しかし、その一方で、東北新幹線の列車が安全に停止し、早期に復旧を遂げたことは、世界にもアピールできる点だ。

 東北新幹線の全面運転再開によって、人の移動がよりスムーズになり、被災者の支援や復旧・復興にも大きく貢献するはずだ。また、今回、新青森から鹿児島中央までが新幹線でつながったことは、出はなをくじかれた形となった九州新幹線にとっても、改めて全面開業をPRできる機会となるはずだ。

 新幹線の復旧の一方で、次の課題となるのが被災した在来線の復旧だ。JR東日本の路線だけではない。より深刻なのは、かつて旧国鉄から切り離され、第三セクターで運営されている路線だ。収益基盤が弱く、流された線路や橋りょうなどを自前で復旧できるだけの体力はないからだ。

 地域を走る鉄道の姿は、復旧・復興を象徴し、人々の心の支えにもなるだろう。

 被災した地域の復興をどのように進めるのかが大きな課題だが、その中で鉄道をどう位置づけ、復旧を支援するのかについても、真剣に取り組んでもらいたい。

毎日新聞 2011年5月2日 2時32分

 

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