きょうの社説 2011年5月2日

◎石川から台湾訪問団 深めたい双方向の観光交流
 台湾の水利事業に尽くした八田與一技師夫妻の墓前祭と記念公園完成式が8日に台南市 で開かれるのに合わせ、金沢経済同友会が派遣する訪問団を中心に石川県から200人以上が台湾を訪れる。大地震と原発事故の影響を受け、北陸でも台湾からの観光客が激減している折、地域からの大型の「民間外交使節団」派遣は、風評の広がりで悪化する日台の観光状況改善の一助になるだろう。国・地域同士の良好な関係を持続させていくには、双方向の交流が大切なことを、この機にあらためて認識したい。

 東日本大震災で台湾の親日ぶりがあらためて示された。緊急援助隊派遣の素早さや多額 の義援金にそれが表れている。台湾の人たちが寄せた義援金総額は4月下旬で140億円を超えている。義援金集めは世界中で行われているが、人口比からみると、台湾の義援金の多さは群を抜いている。

 それでも地震・原発事故の風評被害は免れず、石川、富山でも台湾からのチャーター便 が相次いでキャンセルされた。北陸を訪れる主要な外国人観光客は台湾の人たちであるだけに、観光業界が受けるダメージは大きい。

 幸い、北陸の安全性をアピールする活動が奏功してか、ここへきて台湾観光客が復活の 兆しを見せている。先に北國新聞社を訪れた台北駐日経済文化代表処の馮寄台代表が「台湾が日本にできる一番の支援は観光交流の復活だ」と述べたのも心強い。

 日本にとって大変ありがたい言葉であるが、台湾側も東日本大震災による観光被害の不 安を抱えていることを忘れてはならない。昨年、台湾を訪問した日本人客は約110万人に上り、外国人訪問者全体の20%近くを占めているが、今年は一転、大震災で大幅に減少する恐れが強い。観光客の平常通りの来訪を望む思いは台湾も同じなのであり、日本側もそれにこたえるよう心がけたい。

 国際関係は、互恵の関係、双方が利益を得る「ウインウイン」の関係を築くことで長続 きする。金沢経済同友会などの台湾訪問団派遣は、大震災を機に、そうした関係を地域から築き直す新たな一歩とみなすこともできる。

◎住宅の耐震改修 助成の周知で工事促進を
 金沢市の木造住宅を対象にした耐震改修工事費助成制度の利用件数が2010年度、前 年度から大幅に増えた。安全な住まいづくりは家庭の防災対策の基本である。東日本大震災で耐震化への関心が高まっている時期だけに、古い家並みが多く残る北陸のまちなかの防災対策として、自治体ごとに補助制度の周知、あるいは拡充を図り、改修工事を進めていきたい。

 全国的にみれば、耐震基準を満たす住宅の割合は2008年で79%となっているが、 石川県の場合は72%、富山県は68%と全国水準を下回っている。能登半島地震では、輪島市の場合、被害を受けた約1600棟の93%が建築基準法の新耐震基準が設けられた1981年以前に建てられた木造住宅だった。これをみても、耐震改修が喫緊の課題であることが分かる。

 両県では市や町で耐震化の助成制度を設けているところもあるが、近年は、能登半島地 震や新潟県中越沖地震が相次いだ時期と比べ、やや危機感が薄らいだことや、景気低迷の影響もあり、利用見通しを下回る傾向が続いていた。未曾有の大震災の直後の今こそ、行政も一段と積極的に住宅耐震化を促さねばなるまい。

 金沢市は、81年6月以前に建てられた木造住宅を対象に、上限130万円で耐震改修 費の3分の2を助成している。加えて、昨年12月から今年3月まで、国費で補助金が最大30万円増額されたことが利用増の要因のようだが、支援制度を組み合わせれば、かなりの負担軽減になることを分かりやすく住民に説明したい。国も20年までに耐震基準を満たす住宅の割合を95%に引き上げる目標を掲げており、達成に向けて、さらなる補助の継続と充実が求められる。

 耐震改修は、北陸の伝統的な街並みを生かしながら、生活の安全を確保する観点からも 大切である。金沢市は先に伝統的な工法で建てられた町家など木造建築物の耐震性を診断し、大地震に備えた改修マニュアルを作成した。費用の助成と合わせ、こうしたマニュアルも生かしながら効率的で効果的な耐震化を提案していきたい。