ずっと、憎んでいた。
“あたし”をこんな目に合わせた奴らを。
ずっと、恨んでいた。
こんな筈じゃなかった世界を。
脆くて醜い心の影、それを払ってくれたのは初めて出来た友達。
肩に子狐を乗せて、一緒に泣いてくれたり励ましてくれたりしてくれた。
高町なのは、久遠。暖かく陽だまりのように笑う彼女達に、どれ程あたしが救われた事か。別れの時は笑顔で、なまえをよんで。アリサ・ローウェルはその時のことを忘れない、それは花咲く頃の出来事。いつかまた会いましょう、約束は果たされた。
――ただし。
《……だからね、あたしは言ってやったのよ。クロノって奴に会うまでに綺麗になっておきなさいって!》
宙にふわふわ浮かぶ半透明の茶髪の少女、自分にだけしか見えない存在。金髪の少女アリサ・バニングスは溜息を吐いて、ローウェルの話に付き合う。
(同じ顔、同じ性格。本当魔法って何でも在りなわけっ!?)
別の形で――
並行世界、もしくはパラレルワールド。何の因果かアリサはアリサに取り憑かれた、よくあるひどい話だと思う。こっちのアリサはあっちのアリサに同情する、暗い所に連れ込まれ幼い身体を奴らに……って何小学生に見せてんのよー!?
うがーと吠えるこっちのアリサ、あっちのアリサは気にもとめず詳しくねちっこく自分がされた事を語った。不思議な力でその場面まで見せた、なのちゃんが知ったら魔法をそんな事に使わないでー! って嘆くだろう。耳を真っ赤にしていやいやと首を振るこっちのアリサ、でもしっかり聞いて見てる。こうして少女は女性へとなっていくのだろう、止めるバニングス家の執事さんはあいにくと居なかった。最もふわふわ浮かぶアリサは、アリサにしか見えないためどうしようも出来なかったのだが。不思議な力も。
そう、不思議な力。魔法、本来ならありえない筈の力だがアリサは知っている。巻き込まれたのだ、クリスマスの日に親友と。なんか親友が空を飛んでいて、でっかいビームが放たれた事しか知らない。
魔法って、怖い。
少なくともアリサはそう思った、隣にいた紫色の髪の少女は目をキラキラさせて見入っていた。魔法少女だよアリサちゃん! そう興奮していたがアリサはそうねーと返す、想像していたものより違っていたから。
魔法少女っていうのは、こうあれでしょ? 箒に乗ったり、ハート型のステッキを振ったりするんじゃない? 後者のハート型ステッキについては別の世界の高町なのはがやっているのだが、どう見てもこっちの魔法少女はイメージが違う。
海岸沿いの道路に避難して、海の上でビームやら光やらが飛びかう光景を見ながらそう思った。
でもって今、あっちのアリサに取り憑かれてる。自室の机に座り、とんとんとこっちのアリサはこめかみを叩く。構わず宙に浮いて喋り続けるあっちのアリサ、呼びづらい。ローウェルと呼ぼう、それにしても。
「なのはとクロノが、ねぇ? 年の差があると思うんだけど……そこは愛か」
こっちのなのはは九歳で、クロノは十四歳。だけどあっちは同い年でラブラブだと言う、ふーんとアリサは想像してみた。こっちのなのはがクロノとラブラブしている所を、何故か色んな人が草葉の陰から泣いている光景が浮かぶ。
具体的にはクリーム色の髪の少年、茶髪の女性は祝福しながらも何処か淋しそうで。
(うん、想像できないわ)
ぶんぶんと頭を振りアリサは妄想を止めた、さて長い現実逃避は終わりにしよう。いい加減に現実を受け入れよう、魔法だってあるんだ。ならば自分そっくりの幽霊だって居てもおかしくない。認めたくないけど。
この世界には奇跡も、魔法もあるのだから。でも叫ぶ。
「妖怪ポストは何処にあるのよーっ!?」
《何言ってんのバーニング?》
「バニングスよ!」
金髪とらいあんぐる心、幾多にも絡み合う人間模様。愛と勇気の物語、はじめます。