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[27022] フェイトが電気ネズミになったらしい【ネタ・リリカルなのは】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/22 22:18
 その日、仕事を終えた僕の携帯に一通のメールが届いていた。

「誰だろ?」

 珍しい訳じゃないが、それでも時間を考えるとあまりメールが届く時間ではなかった。時刻は深夜一時半。今日も徹夜を覚悟した資料請求が、予想以上に早く片付いたのだ。そのため、僕は五日ぶりに自宅へ帰ろうと意気揚々としていたのだが……

「フェイト? しかも……ついさっきじゃないか」

 差出人は幼馴染の一人であるフェイト・T・ハラオウンだった。金髪の美人で執務官。しかも、ナイスバディで性格はやや天然という多くの男性が彼女にしたいと思う女性だったりする。
 一部には同性愛者との噂を流されているが、フェイトがノーマルなのは僕が一番良く知ってる。何度それ関係の悩みや愚痴を聞いた事だろう。その度に励まし、慰めたのだから。

「用件は……僕にしか相談出来ない事がある、か」

 しかも今すぐにとある。フェイトは基本人に頼み事をする時、あまり押し付けたりはしない。それが、今すぐと書くという事は只事じゃない。そう判断し、僕は帰宅を諦めて一路フェイトの家まで向かう。
 少し前までフェイトはなのはやヴィヴィオと一緒に住んでいたのだが、最近一人暮らしを始めた。何でもクロノがさすがに口を出したらしい。親友だから寮のルームシェアまでは理解出来るが、家で同居するのは違うだろう。そう告げたのだ。その裏には、フェイトとなのはの関係を勘繰る噂を断ち切ろうと思う義兄心があるのは、僕にも分かる。

 それをフェイトも感じ取ったのだろう。なのはとヴィヴィオに惜しまれつつ、引っ越したのだ……近所のマンションに。それも、歩いて五分ぐらいの位置関係。これにはもうクロノも何も言えなかった。
 フェイトは、言われた通り引っ越したよ、と満面の笑みで告げたそうだ。ちなみに、引っ越してもなのはの家へは足繁く通っていて、周囲からは通い妻ならぬ通い女と呼ばれているとかいないとか。

 あ、気付けばもうフェイトのマンションが見えてきてるや。実は、今ちょっとした違法行為をしていたりする。そう、無許可での飛行魔法使用。本当はいけないんだけど、フェイトのためだ。後で僕が謝罪して違反料を払って、始末書書けば済む事だし。

「えっと……フェイトの部屋は……」

 フェイトの部屋番号を入力し、返事を待つ。まずはマンションの中へ入れてもらわないとね。だけど、何かおかしい。いつもならすぐにフェイトが出て、あっさり開けてくれるのに、今日は一向にモニターに顔が映らない。
 それを不思議に思っていると、静かに玄関の扉が開いていく。どうもフェイトが開けてくれたみたいだけど……何でモニターに顔を出してくれなかったんだろ?

「まぁ、行けば分かるか」

 自分を納得させて、エレベーターに乗りフェイトの住む階を目指す。フェイトはマンションの最上階から数えて四階下に住んでいる。本当は最上階が良かったらしいのだが、非常時に階段を下りるのが大変だと思って少し下げたらしい。
 それを聞いて、僕もなのはも微妙な顔をしたのは言うまでもない。ただ、ヴィヴィオはそれに深く頷いていたから賛同出来たのだろう。やはり、あの子はなのはとフェイトの子だよ。

 そんな事を思い出している内に、エレベーターは止まり、フェイトの住む階を示していた。僕は少し急いでフェイトの部屋を目指す。そして、インターホンを押し、待つ事数秒で静かにドアが開いた。
 そこにいるのは、優しい笑みを浮かべるフェイト―――ではなく非常に困った表情の黄色いネズミのような格好をしたフェイトだった……



「……成程、押収したロストロギアでね」

 フェイトが言うには、つい先日押収した違法ロストロギアを保管していたケースを、明日引き渡すために色々と点検していたらうっかり落としてしまい、鍵が開いていたために中身が暴走。
 結果、今の姿になってしまったとか。それでも助けと呼ぼうとしたのだが、なのはは長期の教導のために無理。はやては捜査官として別世界に主張。守護騎士達もそれぞれに忙しく、スバルはレスキューで疲れているだろうから却下。ティアナは相も変わらず凶悪事件のため忙しい。

 エリオやキャロには頼れない。そんな風に色々考えて、駄目元で僕にメールを送ったらしい。無限書庫は年中無休フル稼働。故に休みなど早々取れるはずもないだろうし、取れてもそんな都合良くは無理。そう考えたとフェイトは言った。
 でも、実はなのはと同じで真っ先に浮かんだと聞いて、少しだけ嬉しかったりする。ロストロギアの知識なら自分の知っている中で一番信頼出来るから。そんな風に言われてやる気にならない男はいない。いないのだが……

「ピカ。ピカピカ、ピカッチュウ……」

【そうなんだよ。念話を使う事は出来るんだけど、それ以外が何も出来なくて……】

 現状のフェイトはこれである。しかも、念話を使おうとするとどうしても声が出てしまうらしい。おかげで電話も使えず、クロノにも恥ずかしくて頼れなかったそうだ。僕は平気なのと聞くと、ユーノなら笑ったりしないだろうからとの事。
 ……うん、それだけでもやる気が沸くよ。でも、実際見て思うのは……

「……フェイト、それ妙に似合ってるね」

「ピ、ピッカ! ピカピカチュウ!」

【も、もう! 何言ってるの、ユーノ!】

 僕の言った事に軽く怒ったのか、フェイトの体から電撃が発生した。うわ……これ、ちょっと言動に気をつけないと黒コゲにされるかも……

「ゴメン。でも、可愛いなって思ってさ」

「ピ、ピカチュ?」

【ほ、ホント?】

「うん。本当なら綺麗って言われる方が嬉しいんだろうけど、可愛いって方がしっくりくるよ」

 偽らざる本音だ。フェイトの顔や体を覆っている黄色の服とでも言えばいいのだろうか。それは、少しファンシーな印象がある。それを大人のフェイトが着ているというのは、どことなく違和感もあるけど似合わないって訳じゃない。
 でも……何だろう。何かいかがわしいお店とかで同じような格好とかしてたら、完全に問題があるとは思う。少なくても、これを着て外は出歩いて欲しくはないかな。何せ、体のライン結構出てるし……

「ピカ?」

【ユーノ?】

 僕が黙ってフェイトを観察するものだから、フェイトがそれに不思議そうに小首を傾げた。うわ、それ反則ってぐらい可愛いよ。きっとクロノ辺りが見たら変な葛藤をするぐらいに。
 あ、こっちに迫ってくる。不味い不味い! って、さっきは気付かなかったけど、歩く度にキュッキュッって音がしてる!? 見た目は完全に着ぐるみを着た金髪女性。でも、ちゃんと出る所は出てるし、女性らしい線はむしろ普段より強調されて……って、違うだろ!

「ちょ、ちょっと待ってフェイト」

「ピカ?」

【どうしたの?】

「えっと……僕は元に戻す方法を考えればいいんだね?」

 そう、当初の目的を思い出そう。フェイトを元に戻す方法を見つけるんだ。一つは時間で戻る可能性がある。でも、これは確実じゃないし、どれだけ時間が必要かも分からない以上、これは最後の手段かな。
 次は効果を解除する事。でも、これはその現物を調べる必要があるし、時間も掛かる。確実ではないが、可能性は高いかな。でも、フェイトの事を考えるとあまりオススメ出来ない。何せ、明日―――つまり今日の朝にはこれを本局に届けるのだから。

 見ればフェイトもそれを考えたのか、やや暗い顔をしている。もし、これで本局に行こうものなら、フェイトの噂は一気に変わる。同性愛者から一転軽い痴女扱いに。それは絶対させない。これ以上フェイトの心を苦しめてなるものか。
 そう思っていると、何故かフェイトがこちらを見て心なしか頬を染めている。何か僕の顔についてるのか? そう思って視線を向けると、フェイトが慌てて視線を逸らした。何だろ? ま、いいか。

「……とりあえず、そのロストロギアを見てもいい?」

「ピカ~……」

【いいけど……】

 僕までこうなる事を心配してるんだろう。相変わらず優しいなぁ。そう思って、フェイトへ大丈夫だからと笑顔で告げる。それに、もしそうなったらフェイトも寂しくないでしょ? そう軽く笑って言うと、フェイトがどこか嬉しそうに頷いた。
 良かった。やっといつもみたいに笑ってくれた。仕事中や考え事をしてる時の凛々しい表情も素敵だけど、やっぱりフェイトにはこういう優しい表情が一番似合ってるや。そんな風に思いつつ、僕はフェイトが指し示したケースを手に取る。これは……

「……フェイト、これなら大丈夫だ。昔、僕が調べた事があるロストロギアにそっくりだから」

「ピカチュウ?」

【そうなの?】

 どこか意外そうな表情のフェイトに、僕は力強く頷いてみせる。それにフェイトは安堵の息を吐いた。実は僕も安堵していた。これは発動させた対象の魔力の質に応じて、その姿を変える変身系のロストロギア。
 どうも古代の魔導師はこれを使って自分の魔力変換資質を調べていたらしいのだ。ちなみにこれの解除は簡単。そう、もう一度発動させればいい。そう説明し、フェイトへロストロギアを手渡す。そして、フェイトがそれに自分の魔力を流した瞬間、眩しい光が室内を満たした。

「くっ!」

「ピッカチュウ!」

【あの時と一緒だ!】

 その光が僕らを包む。そして、目を開けた時には、もう黄色い格好のフェイトではなくなっていた。

「……戻った」

 自分の格好を見て、どこか不思議そうな表情をするフェイト。それに僕はほっと一息。もし、これで戻らなかったらどうしようかと思ったのだ。そんな僕にフェイトが視線を向け、喜びを前面に表した笑みを見せた。
 それに僕は、心から力になれてよかったと思った。その気持ちを込めて、僕も笑顔を返す。すると、フェイトが妙に視線を合わせなくなった。あれ? どこか変な顔をしたのかな? ちゃんと笑ったつもりだったんだけど……

 とにかく、これで用件も片付いた。そう思った瞬間、忘れていた疲れが一気に押し寄せてきた。あ……これ不味い。このところの疲れが全部出た感じがする。久しぶりに家に帰れると思って油断したからかな。フェイトが何か言ってるけど、もう何も聞こえないや。
 もう……無理。ごめんね、フェイト。少しだけ……寝かせて……



「ううん……」

 寝返りを打ったら、何かが手に当たった感触がした。何だろう……柔らかいな、これ。つい触り心地が良くて、僕はそれを何度も触った。

「んっ……ふぁ……やぁ……」

 それと同時に聞こえる艶やかな声。あれ……? でも、どこかで聞き覚えがあるような……? そこまでぼんやりと考え、僕は眠い目を擦り、体を起こす。そして、周囲を確認して景色がぼやけている事に気付く。ああ、眼鏡を外してるんだ。しかし、外した覚えないんだけどなぁ……
 そんな事を思い出しながら、僕は枕元にあった眼鏡を手に取り、やっといつものクリアな景色になった事に頷いた。そして、そこが自分の部屋ではない事に気付いた瞬間、眠る前までの事と目覚める前の事がフラッシュバックした。

「まさか……僕がさっき触ったのは……」

 恐る恐る視線を先程の手を置いていた位置へ向ける。そこには安らかな寝顔のフェイトがいた。そして、先程の手があった位置。それは言うまでもないフェイトの体のある場所の位置だ。それを認識し、僕は無言でフェイトに何度も謝った。
 決して悪気は無かった。出来心だったんだ。なんて事をひたすら心の中で言いながら。そして、自分がいる場所がフェイトのベッドだと気付いた時は色々と後悔した。一つは、自分をフェイトがベッドまで運んでくれただろう事の情けなさ。二つは、無論フェイトの……ねぇ、アレを触ってしまった事の申し訳なさ。そして最後は、自分がフェイトに男として見られていない事の空しさだ。

 いくら寝入ったとはいえ、年頃の男がいるにも関らず、一つ屋根の下で寝る事に躊躇いも持たない事は有り得ない。それが意味するのは僕はフェイトから男として見られていないという事だ。いや、別にフェイトとそういう関係になりたいって訳じゃないけど、それでも一応僕にだって男としての自尊心はある。
 それを軽く傷付けられたようなものだ。でも、フェイトには悪気はないんだろうし、これはあくまで僕の勝手な感情だ。だから、これをフェイトに言う気もないし、これを理由にフェイトを責める気にもならない。ただ、もっと男らしくならないと駄目だなぁとは思う。

 とりあえず、フェイトを起こさないようにしてっと……

”お帰りですか?”

「バルディッシュか。うん。フェイトには、これからは気をつけてって伝えておいて」

”承りました”

 相変わらず丁寧だな。そんな風に思いながら、転送魔法陣を展開して自宅へと向かう。最後に眠るフェイトへ一言だけ告げて。

―――いい夢を。

 そんな言葉を残してユーノは去った。それを聞いて、静かにフェイトは目を覚ます。いや、正確には目を開けただろう。何せ、彼女はユーノが眼鏡を掛けた後から起きていたのだから。
 ユーノが寝ていた自分に何かしたのは、その反応から察した。でも、それが何なのかまでは分からない。それでも、フェイトはユーノが先程までいた場所を見つめ、悲しげに笑う。そして、小さくだが、はっきりと呟いた。

―――いい夢見て欲しいなら、まだ居てくれればいいのに……

 その声に、バルディッシュは何も言わない。室内に沈黙が訪れる。フェイトはふと視線をロストロギアのケースへ向け、ふと呟いた。

―――今度は、どうやってユーノに来てもらおうかな……?

 そう呟くフェイトの顔は、どこか楽しそうだった……




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ちょっとしたネタ。初めてキャラ視点で書き綴ってみました。ある場所から頂いたネタを使ったので、こんな内容です。

……フェイトがヤンデレ気味だとしても、それはきっと気のせいだ。



[27022] なのはが一緒に過ごしてくれるらしい
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/07 19:15
「メール? 誰だろ?」

 時刻は早朝六時。つい先程フェイトの家から自宅について、軽くシャワーを浴びたところだ。バスタオルで髪を拭きながら、メールの送り主を確認する。どこか嫌な予感がするけど、仕方ない。

「……あれ? フェイトじゃないのか」

 実はどこかで、バルディッシュが僕の行動を見てたんじゃないかとヒヤヒヤしてたんだよね。フェイトが僕のした事を聞いて、呼び出しメールを送ってきたんじゃないのかって。
 でも、違った。送ってきたのはなのは。どうもフェイトからの連絡に気付かず、つい先程メールを確認したらしい。それでどうして僕に、と思ったんだけど、どうも文面にロストロギアのせいでとあったようだ。それで僕に何か情報をって考えたんだろう。

「それならもう僕が解決したよっと……」

 返信する。これで安心するだろう。長期の教導だから、きっと行きたくても行けないんだろうし、心配だったんだろう。フェイトに対するなのはの気遣いは、正直少し度を過ぎてる部分がある。でも、仕方ない。初めて出来た魔法絡みの親友なんだから。
 ん? またメールだ。何々……さっすがユーノ君! 相変わらず頼りになるね! ……あれ、どうしたんだろ? これだけで僕は涙が出るんだけど。六課の頃はなのは達が大変なのに手助け出来なかったし、撃墜事件の時だって、僕がそれを知ったのはなのはの無事が確定してからだった。

「……頼りに……してくれてるんだ」

 さっきの文章。あれが闇の書事件の時に言われた言葉だって、僕は覚えてる。あの時は、その後が分かり易いだったけど、ね。そっか。あの頃からなのはの僕への評価は変わってないんだ。
 そう考えたからだな、この涙は。バスタオルで顔を拭く。情けないけど、こういう所があるから僕はまだ男らしくないんだろうな。そんな風に思いながら、僕は何度も顔を拭いた。

 落ち着いた時を見計らったように、再びメールが届いた。うん、やっぱりなのはだ。内容は……え? 教導は今日で終わりなんだ。フェイトは長期だって……もしかして、日程を勘違いしたのか?
 フェイトなら有り得る。そう思いながら、僕はその内容に了解と返しておく。二度寝しようと思ったけど、どうやらそれは無理らしい。そう、なのはが久しぶりに一緒に食事でもどう? なんて誘ってくれたからだ。フェイトを助けた事へのお礼って所がなのはらしい。

「さて、着替えるか」

 取り様によってはデートとも言えない事もない。そんな風に考え、僕は一人上機嫌だった。何を食べよう。そんな事まで考えながら……



 時刻は午前十時。今日もクラナガンは大賑わい。レールウェイの駅前で待ち合わせ。時間丁度になのはが到着。僕はそれを笑って迎える。

「ごめん、ユーノ君。えっと、待った?」

「大丈夫。僕も今来たようなものだから」

「そうなんだ。よかったぁ~、待たせたのかと思ったよ」

 なのはがそう言って笑う。まさに恋人同士のような会話だ。それに内心小さく喜んでいる僕がいる。とそこで、なのはの格好に気が付いた。てっきり管理局の制服で来ると思ったのに私服になってるのは、やっぱり一度帰ったんだろうか?
 そう思ってなのはに問いかけると、何故か少し嬉しそうに頷いた。制服だと仕事の気分になりそうだから。そんな風に言って、なのははやや上目遣いで僕を見る。

「ど、どうかな? 変じゃない?」

「へ、変じゃないよ! すごく……似合ってる」

 なのはの格好は薄い緑のブラウスに同じ色のスカート。なのはにしては色合いの選択が妙だけど、でもおかしくはない。色の選択だけは少し気になったから、どうしてその色にって聞いたら、なのはが急に視線を逸らして、どこか恥ずかしそうに何となくとだけ答えた。
 う~ん……なのはって緑が好きだったかな? 今度はやてにでも聞いてみよう。ここでフェイトに聞かないのは、フェイトにこの手の話題を振ると、それに付随して多くのなのは話をされるから。一度聞いてもう懲りた。恋人の惚気に近いものがあるとはクロノの話。

 そんな事を思い出していると、なのはが僕の顔を覗きこむように顔を近づけてきた。近い! 近いって!

「どうしたの? ユーノ君。ボ~っとして」

「な、なのは……顔が近いよ」

「あ~、ユーノ君照れてる? 顔赤いよ~?」

 そういうなのはも赤いけどね! そう思うも、言えるはずもなく。僕に出来たのは、やや早足で歩き出す事だけ。それになのはもついてくる。ただクスクスと笑っているので、少しはやり返さないと気が済まない。
 なので、僕は急に立ち止って振り返る。なのははそれに気付かず衝突しそうになるが、何とか止まった。どこか驚くなのはへ、僕はえいままよと思ってその顔ぎりぎりまで自分の顔を近づける。

 見つめ合う僕となのは。互いの顔は真っ赤だ。心臓の鼓動が煩いぐらいだけど、言わないとお返しにならない。

「なのは、顔真っ赤だよ? 照れてるの?」

 よし。これでいい。ただ、なのはは少し赤いぐらいだったけど、僕は茹蛸みたいになってるので敗北したようなものかも。でも、一矢報いた。そう考えて僕はなのはから顔を離す。その時、微かになのはから「あっ……」って聞こえたような気がした。
 呆気に取られたんだろうな。僕が離れた事で我に返ったんだと思う。でも、もう僕にはそれを気遣う余裕がない。なので、少し歩いてなのはへ告げる。早くしないと朝食兼昼食が完全な昼食になるよって。それになのはが苦笑しながら動き出す。

「も~、それでもいいよ。と言いますか、私は最初からそのつもりです」

「そうなの? 僕、朝食べてないんだけど」

「駄目だよ、ちゃんと食べないと。あ、ならどこかで軽く食べる?」

「えっと、それじゃこの時間の目的が終わる気が……」

「にゃ?! ち、違うよ! 軽くだから食事にはカウントされません! 食事って言うのは、ちゃんとしっかり食べるものを指すんです」

 僕の指摘に何故か慌てて説明をするなのは。何でそんなに必死そうなんだ? とりあえず、どうもなのはが言うには、食事とは軽食を含まないそうだ。なので、僕らは近くの喫茶店に入る事にした。
 店に入ると、なのはの目が少し変わる。軽く店内を見渡して、中々の雰囲気だねと呟いた。そういえば、なのはの家は喫茶店を経営してたっけ。同業者の娘としては、やはり気になるんだろうか?

 でも、その後はいつもの雰囲気に戻ったので、どうも無意識の行動みたいだ。でも、何となしに気になったので聞いてみる。

「なのはは局員を辞めたら、海鳴に帰るの?」

 そう、あのゆりかごでの戦いでやった無茶。それがなのはの体を深く傷付けたのは、僕も知ってる。だからこそ、余計にあの時は無力感を感じたんだ。せめて内部構造をって、それぐらいしか僕には出来なかったのも関係してる。
 全てが終わって、やっと休みを取ってなのはに会いに行った時、それを聞かされてしばらく言葉が無かった。僕がなのはを魔法に巻き込んだ。それをなのはは気にしてないって言うし、むしろ感謝してるとさえ言ってくれる。でも……でもね、なのは。僕は、未だに悔やむ時があるんだ。

 あのジュエルシードを巡って起きた事件。最初から僕がしっかりと危険性を管理局に伝えて、厳重に輸送してもらえば。そんな風に考えた事は一度や二度じゃない。フェイトやはやてとの出会いも魔法が取り持った部分はある。それでも、それでも僕はこう思わずにはいられないんだ。
 僕と出会わなければ、なのははもっと安全で幸せに暮らせたんじゃないかって。確かに今考えれば、なのはがいたから好転した事は沢山ある。それでも、なのはは自分をボロボロにする事で手に入れたものが多い。

「そうだなぁ……ユーノ君はどうして欲しい?」

「えっ?」

 そんな事を考えながらなのはの答えを待つ。すると、なのはは何故か僕に問いかけてきた。

「ユーノ君は……私にミッドに居て欲しいかな?」

 なのはは真剣な眼差しで僕を見る。これは冗談とかで済ませる雰囲気じゃない。なら、僕の偽らざる気持ちを言わないと……

「僕はね……なのはが幸せならそれでいい」

「え……?」

「なのはがどこかで生きてて、笑顔で暮らしてくれればそれでいい。居る場所なんてどこでもいい。ただ、幸せに過ごしてくれるだけで……」

 僕はそう言い切って、なのはに笑顔を向けてこう締め括る。例えそれが僕の知らない場所でもね、って。そう言った瞬間、なのはが僕の目を見つめてこう返してきたんだ。自分は僕の知らない場所になんて行く気はないって。
 それが何か嬉しくて、僕は心から笑みを返す事が出来た。なのはは相変わらずどこか男らしい気がする。そんな風に軽い冗談交じりに言えるぐらいに。それになのはも少し拗ねたように表情を変える。そこへきっと様子を窺っていたんだろう店員がやってきた。

 そして、注文を聞かれ僕となのはは揃ってアイスティーを頼む。それと僕は厚切りトーストも加えて。それを店員は再確認し、一礼して立ち去った。するとなのはがトーストだけでいいのと聞いてきた。
 この後ちゃんと食べるんだから、軽めでいいだろう。そう思っての注文だったんだけど、なのははそれを聞いてお昼にするつもりだからもう一時間は食べられないとからかうように告げる。えっ、聞いてないよ。

「じゃ……この後どうするの?」

「それは……どうしよっか?」

 質問に質問で返すのはどうかと思うよ、なのは。でも、その表情が可愛かったからよしとする。……僕って、やっぱり単純だ。そこから二人でこれからの事を話す。時間に関しても、ヴィヴィオは学校に行っているから問題ない。でも、なのはは帰りに何か買って帰ると言った。
 それに付随するように、僕もヴィヴィオに是非読んでもらいたい本があった事を思い出し、それを渡そうと決めた。ただ、それは家にあるので一旦帰らないといけない。そう告げると、なのはが少し考えて僕の家に行こうとなった。

「よく考えたら、別に外で食べなくてもいいんだしね。私が腕振るっちゃうよ」

「なのはが……僕の家で?」

 嘘じゃないよね? 死んでもいいかな? なのはが僕の家で料理を作ってくれるって。しかも、僕だけのために。今日は本当にいい日だ。そう思っていると、店員が注文の品を運んできた。一先ずこれを食べて、その後食材の買い物をしてから僕の家に行く事で話がまとまった。
 正直、僕はその時食べたトーストの味を覚えていない。なのはが僕の家で料理を作ってくれる。その一点だけで、既に色々なものがブラスター3してたんだから……



 僕の家は、クラナガンの中心部から離れた住宅街にある。一軒家にしてもよかったんだけど、一人暮らしでそれはないと思って、結局独身局員がよく辿るように、それなりのマンションになった。アパートもあったのだが、そちらは色々と不便な事も多かったので止めた。
 今時風呂無しトイレ共同ってどう? 更に、そこは男性専用らしく女人禁制とまであった。それが僕の止めた理由。ヴィヴィオは結構僕から本を借りたり、また話を聞きに来る。それが駄目となるのはヴィヴィオに悪い。
 ……ま、家賃が給料の二十分の一だったのは確かに魅力ではあったけど。無限書庫の司書の中にもそこで暮らしてる人がいる。話を聞くと、結構住人同士の仲はいいらしく、快適だと言っていた。醤油の貸し借りとか、多く作った時はおすそ分けされるとか、聞いてると暖かさそうでいいなぁとは思うんだけどね。

 そんな事を思い出している間に、我が家に到着。なのはは久しぶりだねと言って笑っている。最後になのはが僕の家に来たのは……六課解散直前か。もうかなり前の事だ。

「さ、じゃあ早速作り始めるから」

「うん。僕に何か手伝える事は?」

「う~ん……じゃあ……」

 なのははどこか楽しそうに指示を出す。僕もそれにつられて笑顔になる。なのはが冷蔵庫の中身を見て、もっとちゃんと自炊しないと駄目だと注意したり、僕の手際が意外と良かったのか感心するような反応を見せたりと、恋人みたいな雰囲気を感じさせた。
 僕もなのはの料理の腕前を見て、ちゃんとお母さんしてるんだと告げた。それになのはは、出来れば先にお嫁さんをしたかったと苦笑混じりに告げる。だから、僕はそれに乗っかるように言ったんだ。じゃ、僕のお嫁においでって。でも、それを言った途端、なのはが動きを止めた。

 しかも、一瞬とかじゃなく、完全停止。あれ? なのはが冗談めかして言ったのに合わせて、僕も言ったつもりなんだけど……?

「なのは? どうしたの?」

「……ふぇ?! う、うん! 大丈夫だよっ! い、いつでも……お嫁に行くからね」

 駄目だ。まだ混乱してる。なのはの反応がいつもと違う。目を潤ませて僕の方を見てるけど、きっと何か勘違いしてる。いや、そりゃなのはがお嫁さんに来てくれるなら、僕は大歓迎どころか、感激して無限書庫の仕事を一晩で無くせるぐらいの力を発揮出来るさ。
 でも、なのはの相手に僕はなれない。いや、資格がない。なのはが魔法に出会って好きになった空。そこを飛び続ける事さえ、僕は支えてあげられなかった。そんな僕には、なのはを幸せにするだけの力がないんだから。

「なのは、今のは……」

 冗談だよって、そう言おうとした瞬間、鍋が噴いた。それになのはの意識が向いて、僕の言葉は言えずじまい。結局、そのまま僕も手伝いとかをしている内に、それを訂正するのを忘れてしまった。その後、僕はなのはの手料理を味わい、感謝を告げてなのはを苦笑させた。
 こんな事でよければ、また作りに来るとさえ言ってもらえ、僕は心からなのはの優しさに感謝した。そして帰るなのはを送って行くと言ったのだけど、ヴィヴィオへのお土産を選ぶし、少しフェイトも気になるからと断られた。

 こうして、なのはは帰って行った。僕はその後姿が見えなくなるまで見送った。途中なのはも一度振り返って手を振ってくれたのが、僕には無性に嬉しかった……



「……あ、フェイトちゃん? ……え? 違うよ。今日で教導はお終い」

 ユーノの家を出て少し歩いて、なのはは携帯を取り出した。そして、フェイトの番号をコールする。すると、三コールもしないでフェイトが出た。それに楽しそうに声を出すなのは。
 電話越しに疑問符を浮かべているだろう親友へ、なのはは苦笑しながら告げる。大体の事をユーノから聞き、メールの案件とその顛末を知った今、なのははフェイトの天然さに少し不安を覚えていた。だが、なのはが外にいる事を音から察したのだろう。フェイトが現在位置を訪ねてきた。

「今? 今はね……」

 そこで一度なのはは振り返る。まだユーノはそこにいた。何となく嬉しくなったのか、手を振るなのは。それにユーノも振り返し、それになのはの笑みが深くなる。その表情のまま、なのはは何故かこう言ってしまった。
 素直にユーノの家の近くと言えば良かった。だが、何となく言いたくなかった。二人だけの秘密にしたい。そう思ったから。

―――ヴィヴィオのおやつを用意しようと思って、街をぶらぶらしてるところだよ。

 それにフェイトは納得し、自分が今度の休みにケーキでも買って行くと告げた。それになのはもそう伝えておくと返し、電話を切る。何故か少しだけ胸の奥が痛んだ気がした。でも、それでもいいとなのはは思った。
 ユーノがあの時行ってくれた言葉を思い出し、なのはは小さく呟く。もう絶対忘れないと思った一言。待ち望んでいた待望の言葉。それをユーノが今日言った。冗談めかしていたけど、それが本心だろうとなのはもどこかで気付いている。

―――お嫁さんにしてもらうからね、ユーノ君……

 その嬉しそうな声は、クラナガンの空へと消えた……




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続き。フェイト押しではなく、なのは話。うん、某氏のような甘々は自分には無理です。

……なのはも軽くヤンデルかもしれない気がしても、気のせいです。



[27022] はやてが色々と世話を焼いてくれるらしい
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/08 19:48
 ここは本局内にある休憩室。そこで僕はある女性を待っていた。そろそろ時間になるけど……あ、来た来た。

「ごめんな、ユーノ君。ちょう遅れてしもた」

「ううん、時間内だよはやて。こっちこそ急に呼び出す形になってゴメン」

 慌しく現れたのは、関西訛りのショートヘアーが似合う美人―――というよりは愛らしいがしっくりくる女性。そう、僕の幼馴染の一人である八神はやてだ。今日僕がはやてと待ち合わせしたのは、他でもないなのはの事を相談するためだ。
 あの時着ていた服の色。その理由が知りたかった。はやてにその話をしたら、詳しくと言われたため、こうして直接会って話をする事になったんだけど……

「ええよええよ。わたしが直接聞きたい言うたんやし」

「でも、わざわざ休みに呼び出す形になったしさ」

 そう、はやては貴重な休みを使って、僕のために本局まで来てくれたんだ。本当なら、家族達と過ごしたいだろうに。そう思って、僕がどこか申し訳なさそうに言うと、はやてがやや苦笑してみせた。
 自分が好きでした事だから気にしないで欲しい。そうはやては告げて、僕に悲しそうな視線を向けた。だからそんな顔をされると逆に気分が悪くなるからと。それを聞いて、僕は謝った。下手に気を遣い過ぎるのは良くない。はやてはそういう事を一番嫌う子だった。

「ゴメン。そうだね。もう気にしない事にする」

「うん、それでええ。で、ユーノ君。早速例の話を……」

 僕の言葉に嬉しそうに笑みを返すはやて。やっぱりはやても可愛いよなぁ。これで彼氏がいないんだから、世の中って本当に不思議だ。でも、そんな感想も最初だけ。途中から芸能リポーター並の表情で僕に迫るのは、あまり女性らしくない。
 はやて、君に彼氏が出来ない理由が何となく分かった気がするよ……ま、とにかく僕はあの日見たなのはの服装とその答え、そして反応を詳しくはやてに伝える。それを聞いて、はやてがどんどん妙な表情になっていくのに気付かずに……



 話終えて、はやては少し呆れたようにため息を吐くと、僕へこう問いかけた。

「な、なのはちゃんの服の色って、淡い緑やったんよな?」

「うん。そうだよ」

「……それ、誰かさんのイメージちゃう?」

「誰かさん? ……一体」

 誰? そう言おうとして、僕は気付いた。淡い緑。それは僕のイメージカラーだ。昔着ていた民族衣装も、基調となっているのはどことなくそんな色だし、魔力光もそれに近い。そうか、だからなのはが僕から視線を逸らしたんだ。
 僕がそれに気付いたのを察したんだろう。はやてはもう一度ため息を吐いて、僕へ告げる。分かり易いアピールや。その一言に込められた鈍感というメッセージは、僕にも伝わった。うん、確かにこう考えると分かり易い。

 でも、はやてはそう言った後、何故か僕の方をじっと見つめた。それに僕は戸惑いながら、はやての方を見つめ返すしか出来ない。交差する視線。そんな事をどれぐらいやっていただろう。はやてが急に顔を逸らして、何かを呟いていた。
 ん? 今、やっぱり無理とか聞こえたような? そう考えていると、はやてが僕に相談があると持ちかけてきた。それに僕は躊躇う事無く乗るよと答えた。だって、今さっきまで僕の相談事に乗ってもらったんだし、はやては僕からしても大切な人だ。力になれるならなりたい。そう思った。

 でも、その旨を伝えたら何故かはやてがいつも以上に嬉しそうだった。いや、嬉しく思ってくれるのはいいんだけど、どうしてそれを何度も言わせるの? 特に大切な人の部分。言われて嬉しかったからって、はやてはそう言ってたけど……何だろ? これ、僕は凄まじく危ない橋を渡ったんじゃないかな……?



「……で、相談なんやけどな」

「うん」

 場所を本局から僕の家に移しての、相談タイム。はやてがあまり人に聞かれたくないって言うからね、僕の家にしようかって提案したんだ。そうしたら、はやてがすぐにそうして欲しいって返してきたんだ。
 だから、こうして二人きりで話してるんだけど……何気にはやてと二人きりって初めてだな。なのはやフェイトは時々あったけど、はやては中々時間や接点がなかったせいか、会う時は大抵誰かがいたなぁ。

 そんな事を考えながら、はやての言葉を待つ僕。すると、はやては顔をやや赤めてこう告げた。

「あのな……胸、大きくするマッサージして欲しいんよ」

 ああ、何だそんな……え?

「はやて……今何て?」

「やから……胸を大きくするマッサージして欲しいんよ」

 うん。聞き間違いじゃない。はやてはいつもと違って、心なしか小さく見える。胸を大きくって、はやてが若干それを気にしてるのは気付いてたけど、それをよりにもよって僕に頼む? マッサージしてくれって……せめて同性のなのはやフェイトにしなよ。
 そう思ってはやてに言ったんだけど、それにはやてはこう返した。聞いた話だと、異性の方が効果が高いらしいのだと。でもなぁ……胸というか乳房は脂肪だから、マッサージなんか下手にしたら余計小さくなっちゃうと思うんだけど……

 そんな事を考えていると、はやてがその事を知っているのだろう。僕へこう言った。確かに信じられないかもしれないが、僕に頼むのは乳腺を刺激するものだから大丈夫だと。まぁ、確かにそれなら分からないでもない。
 乳腺が刺激される事で、妊婦さんは胸が大きくなるんだからね。ん? はて? 確かそれは胸を大きくするものじゃなくて、乳の出をよくするものじゃなかったかな? それに、それだったら相手は異性である必要がないんじゃ……?

「はやて、それなら別に……」

「ユーノ君、なのはちゃんやフェイトちゃんの胸見てどう思う?」

 僕の言葉を遮るように、はやてはやや焦り気味にそう切り出した。どう思うって……いや、なのはもフェイトも中々立派な……って違う! 無言で僕は自分に突っ込みを入れる。はやてが僕の答えを待っているから、それにこう答えた。女性的だと思うよって。そう、そうさ。僕は決してやましい気持ちで見たりは……

「しとらんの?」

 お願いですはやてさん。僕の考えを読まないでください。そう思いつつ、僕はそのはやての言葉に無言で頭を下げる。いや、だってね。それは……えっと、すみません。確かに物凄くしてました。特にフェイトに限っては、あの日の事があってから思い出す度に……ねぇ。感触をしっかりと覚えている自分が悲しい。
 でも、それって普通だよね? 決して間違ってないよね? 成人男性として健全な反応だと僕は思うんだ! でも、それをはやてに言うつもりはないけどね。いや、軽蔑されるとかを懸念してるんじゃない。何故かはやてならそれに同意して、熱く胸について語り出しそうだったからだ。

 ともあれ、僕がそんな風に申し訳なさそうにしているのを見て、はやては少し寂しそうに語り出した。自分も魅力的に見られたい。局内の人気もなのはやフェイトは高いのに、同期で幼馴染の自分はどこかぱっとしない。
 タヌキ娘と陰口を叩かれ、地味だと言われ、最終的に某所では、地味との別名にハイパーがついてしまったらしい。しかも、様付けまでされているようで、はやてはそれに影ながら涙を流したとか。

 ……いいけど、それを君はどこで知ったの? しかも、ハイパー地味様って。どうしてだろうね。それを言うなら僕も言いたい事が一杯あるよ。というか、はやてでハイパー地味なら、僕なんか何もないじゃないか。
 そうか、僕は話題にする価値もないアウトオブ眼中か。話題のディスるって奴だね。さしずめ、僕はハイパーディスか! ……少しカッコイイと思った僕は死んでいい……

「もうな……わたしは嫌や。地味様とか、タヌキとか言われるのは。どうしてなのはちゃんやフェイトちゃんはもてはやされるのに、わたしだけ扱い酷いん? な? わたし、可愛くないかな?」

 そう言って軽く涙目のはやて。うん……可愛くない訳ないじゃないか。そんな表情で迫られたら、男なら誰もがそう断言出来るよ。僕はそう心からはやてに告げた。それを聞いて、はやては一瞬呆気に取られたけど、すぐに満面の笑みを返してくれた。
 …………はっ! 意識が飛びそうになるぐらい衝撃が凄い。はやて、今なら君はなのはやフェイトにも勝てるよ。少なくても僕の意識は持っていかれたんだし。

「えっと……自信ついた?」

「うん。おおきにな、ユーノ君。これでわたしは、どんな事にも平気平気のへっちゃらさんや」

「それなら良かった」

「でも、その……もしまた落ち込んだ時は、ユーノ君……わたしを可愛いって言うてくれる?」

 もじもじしながらはやてがそう言ってきた。それに僕は、反射的に当たり前だよって返した。いや、後悔はしないけど、反省はしよう。何故だがちらりと、目の辺りが影で見えなくなったなのはとフェイトの姿が見えたんだ。
 しかも、二人揃って「少し、頭冷やそうか?」って……幻覚だな。うん、そうだ。そうに決まってる。僕は二人に怒られるような事は何もしてない。むしろ誉められるぐらいだ。二人の親友を励ましたんだからね。

「? どないした、ユーノ君?」

「う、うん。ちょっとだけ嫌な想像しただけだよ。大丈夫」

「ならええけど……あ、そや」

 僕の顔色が悪かったんだろう。はやては心配そうに僕を見つめて、何かを思いついたのかポンって手を叩いた。あれ? それでどうして僕の方に顔を近づけてくるんだろう……?

「これは、お礼や」

「お礼って……」

 そう僕が問い質そうとした時には、はやての唇が僕の頬に触れていた。間近で感じるはやての鼓動。女性特有の甘い香り。それを強く感じて、僕は頭が真っ白になった。そんな僕に、頬を朱に込めたはやてがやや恥ずかしがるように視線を向ける。

「どや? これで嫌な想像も吹っ飛んだやろ」

 嫌な想像どころか、色んなものが吹き飛んだよ。でも、理性は飛ばさない。これで飛ぶほどやわな精神してないんだよ、僕は。

「……なら、試してみるか」

 嘘です。ギリギリです。だから意気揚々と迫らないでください。というか、僕の思考を読まないで。それと、どうして試すって言った次の瞬間には服に手をかけてるんですか、はやてさん。それはもう試すと言うより試合開始の行為です。
 僕の理性がどれだけ頑強だとしても、さすがに無防備な状態のはやてなんかぶら下げられたら、一瞬だって耐える自信はない。でも、それよりもはやてには言う事がある。

「はやて……」

「ん?」

「もっと自分を大事にして。君の体を委ねるのは、心から愛する人だけにするべきだよ」

 僕がそう言うと、はやては何故か少し拗ねるような顔をした。その理由が分からず、僕は困惑する一方だ。でも、はやてはそんな僕を見て何か満足したのか嬉しそうに笑った。そして、小さくこう呟いた。

―――ま、なのはちゃんにちゃんと言わんと卑怯やしな。

 一体何を言わないと卑怯なんだ? それを僕が聞いてもはやては笑うだけで教えてくれない。知りたかったら、少しは女心を勉強するように。そんな風にお姉さんぶってはやては笑った。それがとても可愛くて、僕も思わず笑顔を返す。
 その後、はやてが例のマッサージを強要しようとしたから、僕が少しふざけて軽く触ったんだけど、はやては驚いたものの平然ともっとしっかり触ってくれないと困るって返してきたんだ。

 ……うん、無理。理性が持たない可能性しか見えない。そう思って、はやてに降参しますって言ったら、意気地無しって言われた。あれ? それは何か違うよ、はやて。そこは密かに安堵するところじゃないの?
 そんな事を言ったら、だから僕は女心が分かってないらしい。そんな事から始まるはやてによる女の子講座。いや、勉強になるけど……何となくそれ全部はやての事だよね。大抵の例えが君にしか思えないんですけど?

「あ、もうこんな時間だ」

「お~、ほんまやね。ギリギリお昼時や」

 そんな講座も一段落して、僕は時計へ目をやり、少し意外な表情をする。それにはやても視線を動かして同じ顔。まさか二時間近くもはやての講座を聞く事になるとは思わなかった。と言うか、そんなに話してたんだね。

「そうだね。あ~、そう考えたらお腹空いてきたかも」

「やね~。あ、ならわたしが何か作るわ」

 はやてがどこかイキイキした顔でそう告げて、冷蔵庫向かって歩き出す。一瞬悪いから止めようとも思ったんだけど、はやてがあまりにも楽しそうだったから、つい僕も甘えてしまった。それに、はやての料理は本当に美味しいんだよね。ヴィータ曰くギガウマだからさ。
 はやては冷蔵庫を開け、中を見て軽く感心。結構ちゃんとした物を買って自炊してとるんやね、だって。なのはがそうしないと駄目って言ったし、僕も確かにそうだなって思った事もあって、今の僕は結構足繁く買い物に行っている。週一ぐらいでなのはの料理も食べられるしね。ま、その時は冷蔵庫チェックがあるので、油断が出来ないっていうのもあるんだけど……

 そんな事をはやてに話すと、どこか納得して何かを考え込む。そして、少し真剣な表情になったかと思うと、僕の方へ視線を向けてこんな事を提案してきた。

「な、ユーノ君。あまり料理詳しくないやろ?」

「え? うん、まあ……」

「そこでや、わたしが今後もちょいちょい来て、簡単に出来て美味しいレシピを教えたげる。どう?」

 はやての提案は、僕には結構嬉しいものだった。なのはからも少し教えてもらったりするけど、それはあくまでコツ。一から十までとはいかないんだよね。だから、はやての申し出はすごく有難いし歓迎なんだけど……

「でも、はやてに悪いよ。あまり休みだってないし、時間も取れないだろうし……」

 そうなんだ。はやては捜査官。色々な世界や部署を巡って仕事をしているに近い。そんなタイトなはやての貴重な時間を、僕なんかに割いてもらう訳にはいかないよ。そう思うからこそ、僕はその申し出を断ろうと思った。
 でも、はやてはそんな僕へはっきり言った。心配はいらないと。現場の捜査官をするのも、もう少ししたら止めるつもりだから。そう告げたんだ。それが意味する事を考え、僕は驚いた。だって、それは……

「まさか、また部隊を運営するつもり?」

「ちゃうよ。ま、それも一つの手やな。もっと簡単なお仕事があるやんか」

「……えっと、それって僕の家の家政婦とかじゃ痛い! 痛いよ、はやて!」

 言い終わらない内に、はやてが無言で僕の腕を抓った。痛い! 地味に痛いっ! おかしいな。僕の……ってところまでは嬉しそうだったのに。家のって言った辺りで疑問符を浮かべて、家政婦って言った時には笑顔で僕の腕を掴んでいたもんなぁ。
 はやては不機嫌な表情でぶつぶつと何か言っている。どうしてこう……とか、わたしを家政婦扱いは酷いとか呟いてる。僕は腕を軽く擦りながら、それを聞いて申し訳なく思った。確かに家政婦は言い方がよくなかった。

「ゴメンはやて。でも、ならどんな仕事?」

「……ヒントは永久就職。後は自分で考える事」

 うわ、突き放された。永久就職? そんな職場ってそうそうないと思うんだけど……? しかも簡単な仕事って言ってるし、僕の知ってる仕事の中で簡単なものをいくつか考えるけど、やっぱり該当するものがない。
 あ、そういえば地球じゃ専業主婦がそんな風に例えられていたっけ。でも、家事は大変だし、簡単じゃないもんな。う~ん……駄目だ。分からない。はやてに僕の知る中にはないですと言おう。

 そう伝えると、はやてはム~っと顔を膨れさせた。あ、それちょっと可愛い。そう言ったら、何故かはやてがどこか照れた。? どうしたんだろ?

「はやて?」

「もうええわ。ユーノ君がまさかここまで強敵とは思わんかった」

「えっと……よく分からないけどゴメン」

「あはは、ええよ。その方がユーノ君らしい思う。さ、じゃあご飯作ろか」

「あ、僕も手伝うよ」

 こうしてはやてと僕の料理教室が始まった。なのはもそうだったけど、はやても僕の手際を見て感心してた。これなら成長が期待出来るなって。でもはやて、そこですぐにシャマルの名前を引き合いに出すのはどうかと思うよ。
 聞いたら、本人絶対落ち込むだろうし。でも、はやての言い方も冗談めいてたから、悪意はないだろう。そう思って僕もそれに乗る。そんな感じで楽しく時間が過ぎていく。小さく僕のお腹が鳴ったのを聞いて、はやてが苦笑しながら味見を頼んだり、出来上がった料理は美味しくて、それを僕が告げるとはやてがとっても嬉しそうに笑ったりと、本当に楽しい時間だった。

 後片付けをして、少し談笑してたら、時刻はもう夕方になろうとしてた。さすがにはやてももう帰ると言ったから、僕は送って行くって言ったんだけど、なのはの時と一緒で断られる結果に終わった。
 今日ははやてが休み。なので、夕食を作るつもりだから買い物をして帰ると。そう言われては、僕も無理についていく訳にはいかない。残念だけどって言って諦める事にした。はやてはそれにどこか嬉しそうだったな。苦笑する僕の顔が笑えたんだろうか?

「じゃ、また今度」

「うん。また今度」

 互いに手を上げて笑い合う。歩き出すはやて。その背中を見送る僕。心無しか、はやての背中が楽しそうに見えた。きっと久しぶりに家族達と食事を共に出来るからだろうな。そんな風に思いながら、僕ははやてが見えなくなるまでそこにいた。
 振り返る事は無かったけど、曲がり角で一瞬だけはやてがこっちを見て手を振ってくれた。それに僕も手を振り返して、この日は終わったんだ……



 ユーノへ手を振り返し、はやては携帯を取り出した。メールにしようとでも思ったのか、最初その画面を開いて―――それを閉じる。代わりに電話帳を起動させ、なのはの番号を押す。
 ややコールが鳴り、なのはが出た。それにはやては謝りを入れる。仕事が終わった直後だったからだ。それになのはは気にしなくていいと返し、用件を尋ねた。それにはやてはやや緊張したような声で告げる。

―――あのな、わたしユーノ君が好きなんよ。

 電話の向こうでなのはが息を呑んだのが分かった。それに構わず、はやては続けた。

―――譲る気はないし、負けんへんから。

 その声はなのはが知るはやてのものだった。だが、どこか今まで聞いた事のないような声。それを感じ取ってなのはも答える。

―――いいよ。なら、正々堂々勝負だね。

―――さすがなのはちゃんや。どっちが勝っても恨みっこ無しな。

 互いに浮かべるは笑み。それは勝ち誇るものでも、余裕からのものでもない。相手が自分の予想通りの言葉を返してくれた事への喜びだ。そして、どちらからともなくこう言って会話は終わる。

―――どうなっても、絆は消えないと。

 その声だけは、あの頃からよく知る自分達の声だった……




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続き。はやて話。短編でユーノが色々と仲良くしてるのはあるので、自分は無謀にも連作で挑戦。

……ま、確実頓挫するでしょうけどね。次は某所での予告通りにします。



[27022] ユーノの覚悟は無駄になったらしい
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/10 06:53
 いつものように仕事を終えた僕。時刻は……あ、今日は早いや。まだ午前三時だよ。そして、いつものように携帯をっと……

「あ、メールが来てる。なのはと……はやてか」

 最近この二人からのメール頻度が急激に上がった気がする。いや、理由は僕の料理関係なんだけどね。なのはは何を食べたいかの希望や要望。はやては何を使った物がいいかの意見調査。
 でも、最近は「元気にしてる?」とか「次の休みはいつぐらいに取れそう?」とかが多い。恋人みたいだねって、そう思って二人にメールを送ったら、見事に返事が同じだった時は驚いたなぁ。何せ……

―――気分は恋人なんだけど?

 本当になのはもはやても仲が良いよね。示し合わせた訳でもないのに返事が一緒なんだからさ。当然僕はその答えに嬉しく思ってお礼を返した。でも、二人が冗談めいたのに合わせて……

―――ありがとう。嬉しいよ。

 そう送ったんだ。それ以来、何故か二人が会う度に積極的なんだよね。この前なのはなんかは腕を組んで歩こうとするし、はやてはご飯を食べさせようとしてきたし。それが僕へのからかいって分かってるから、こっちとしても負けてなるかって受けて立ってはいるんだけど……正直厳しい戦いだ。
 なのはやはやては平気なんだろうけど、僕は本当に二人が彼女みたいに思えてきて、どうしても耐え切れない。二人の本当の恋人でもないのに、それを気取るなんてね。だから、最近はそういう事があってもやんわりと断ろうと思ってる。

「あ、二人して休みが同じ日に取れるんだ。じゃ、久しぶりに三人で会えるなぁ」

 メールの内容は概ねこんな感じ。次の休みが僕と合わせられるから、僕の家でゆっくり話でもしながら食事をしよう。それに僕は三人で過ごせるねって返事を送ろうとして、ちょっとしたどっきりを仕掛けるつもりで、二人にこう返した。

―――了解。なら、楽しみに待ってるね。

 そう、お互いが来る事は伏せておいたんだ。なのはとはやても中々会ってないだろうからね。僕からのサプライズってやつだ。いつも驚かされるばかりだから、偶にはお返ししないと。
 そう考えて、少し悪い笑みを浮かべながら僕は帰宅の途に着いた。でも、すぐにフェイトからもメールが来て、もし起きてたら会いたいって書いてあったから気になって会いに行った。だって時間が時間だし、もしもがあったら問題だしね。

 結局行ってみたら何の事はない事だった。ラブストーリーだと思って借りた映画がホラー系で、怖くなったから朝まで傍に居て欲しかったらしい。でもタイミングいいよなぁ。この前もだけど、基本僕が仕事終わったのを知ってるかのような時にフェイトから連絡が来るんだよね。
 ただ、休みは次元航行艦付きの執務官だから合わないんだけど。まぁ、その反面フェイトは任務が終わると長期休暇になるから、その間は無限書庫によく顔を出しに来る。司書のみんなにも、事件資料とかで世話になってるからって差し入れを持って来てくれるし。僕は偶にでいいのにって言うんだけど、フェイトは手ぶら来るのは忍びないらしく、中々聞いてくれない。

「……ゴメンね、ユーノ」

「いいよ。もし何だったら寝てもいいから。大丈夫、何もしないよ」

 僕に軽く寄りかかるようにフェイトが座っている。その温もりに内心嬉しさを感じるけど、邪な考えはしない。フェイトの弱みに付け込むような真似は出来る訳ないからね。だから安心させるように笑みを浮かべて告げた。
 でも、何故かフェイトはそれに少しだけ悲しそうな表情を見せる。気のせいかな? 小さく「して欲しいのに……」って聞こえた気が……? いや、そんなはずはない。きっと僕の中の邪心がそう聞こえた気にさせたんだ。そう自分に言い聞かせて、僕はフェイトの手を握った。

「えっ? ユーノ?」

「フェイトが安心出来るようにこうしてるから」

「……うん」

 そう言って微笑むと、フェイトが僕に完全に寄りかかってくれた。それが信頼の証に思えて、僕は嬉しかった。そのまま、僕は朝日が昇るまでフェイトといた。その日差しでフェイトが目を覚ました後、お礼に一緒に朝食をって言われたから近くのファミリーレストランに行って、談笑してから帰宅。そして、シャワーを浴びてすぐに寝た。
 結局、この日僕が起きたのは、もう日も暮れた頃だった。ちなみに起きた理由はヴィヴィオ。借りた本を返しに来たんだ。そのインターホンを鳴らす音で目覚めたって訳。

―――ユーノさん、ちゃんと寝てますか?

 そう言って本気で心配してくれるから、余計に申し訳なかった。なのはには言わないでって言ったら、苦笑して頷いてくれた。本当に良い子だよ。こうしてこの日は終わった。そして、次の休みの日。それがまさかあんな事になるとは思わなかった……



「邪魔するな」

「邪魔するなら帰って」

「しゃ~ない。邪魔せんから入れて」

「仕方ないな。どうぞ」

 はやてとの最近のお決まりだ。だからお互い笑っていたりする。時刻は午前九時半を少し過ぎたところ。はやての方が先に現れた。なのはは……まだだろうな、きっと。
 はやては早速とばかりに部屋へ上がってキッチンへ。そう、なのはだけじゃなく、はやても冷蔵庫チェックをするようになったんだ。しかも、はやての場合はそれだけじゃなくて……

「う~……また無い」

「だから、そういう物は買わないって言ってるじゃないか」

「ユーノ君、ほんまに……男?」

「うん、僕は怒っていいよね?」

 そう、はやては僕のベッドルームまでチェックする。要するに男の宝物が無いかを探しにくるんだ。残念ながら僕はそういう物を買わないんだ。いや、興味はあるさ。でも、ヴィヴィオが来るんだよ、ここには。
 それなのに、教育上よろしくない物を置いておく訳ないじゃないか。そう言ってるんだけど、はやてはその度に、どこかに隠してる! 絶対あるに決まっとる! って言って聞かないんだ。本当なのに……

「きゃ~、ユーノ君がわたしに暴力振るってくる~」

「……楽しそうだね、はやて」

「あれ? 何や、ほんまに怒っとる?」

 いや、そういう訳じゃないけど。と言うか、はやての表情見てたら殴る気も失せるよ。だって凄く楽しそうなんだから。そう告げると、はやては自慢げに胸を張った。大したもんやろ、だって。
 うん、確かにそうだね。でも、何となく悔しいから無言でそのほっぺたを摘んだ。そして軽く引っ張る。あ、意外と伸びるんだ……

 はやてが軽く文句を言ってるけど、ほっぺたを引っ張っているせいで何て言ってるか分からない。はやて、残念だけど僕には何も分からないよ……って言ったら念話を使ってきた。それは反則でしょ?
 そう言ったら視線で放して欲しいって訴えてきた。うっ、その方が反則かも。だってやや困った表情で涙目の上目遣い。でも、ほっぺたを引っ張ってるせいで、どこか面白い顔になってるんだけどね。

「あ~、痛かった。ユーノ君、女の子を何やと思っとる」

「女の子は優しく守らないといけない存在。でも、はやては僕の幼馴染だから女の子扱いしないよ」

「……普通それなら扱い良くなるはずや」

「そうだよ。だからこうして家に呼んで気遣い無く接してる」

 そう言ってウインク一つ。うん、決まった。はやても中々言うなと少し悔しそうだ。でも嬉しそうだし、僕の言いたい事は伝わったみたいだ。そんな会話をして、さてどうしようかと思った時だ。来客を告げるインターホンが鳴った。
 僕はどこか自然に誰だろうなんて言いつつ玄関へ。はやてにはリビングで待っててと告げて、ね。はやてはそれに頷き、セールスか宅配便だろうと笑っている。その笑い、いつまで続くかな? そう思いながら、僕ははやての靴をこっそりと靴箱の中へ隠す。やるなら徹底的にね。準備万端、ドアを開ける。そこには予想通りなのはの姿。小さく笑って僕へ挨拶した。

「ゴメン、少し遅くなっちゃった」

「いいよ。さ、上がって」

「うん、お邪魔するね」

 靴を脱いで歩き出すなのは。向かうは当然リビング。僕はその後起こるだろう出来事に小さく笑みを浮かべつつ、はやての靴を元に戻した。さ、そろそろ二人が出会って…………おかしいな? 何にも聞こえてこない。驚く声も僕への文句も一切ない。
 逆に怖いんだけど……もしかしてあまりに驚き過ぎて言葉がないのかな? そう思いつつ、僕もリビングへ。そこには、互いを見つめ合うなのはとはやてがいた。良かった。表情は驚きを前面に出してるものだ。

「……はやてちゃんも……来てたんだ」

「そういうなのはちゃんも……来るとは思わんかったわ」

 そう言って笑みを見せる二人。あれ? でも、何故かそれは挑戦的な風にも見える。気のせいか、二人の間に火花が散っているようにも見えるし……どうして?
 そんな風に僕が戸惑っていると、二人揃ってこちらへ視線を向けた。同時に、これはどういう事か説明して欲しいって聞いてきた。うっ、二人から笑顔の重圧感が……

「実は……」

 僕は全部話した。二人を驚かせようと思った事を。いつも自分がやり込められてばかりだから、少しお返しをしようと思ったって。それを聞いて二人は呆れるやら笑うやら。でも、最後まで話して謝ったら笑って許してくれた。
 でも、もう二度としないようにと厳命された。うん、了解。僕も今後のために気をつけるよ。それから、三人で久しぶりの再会を祝して乾杯する事になった。さすがに朝からアルコールは不味い。そう思って冷蔵庫から何か取り出そうとしてたら……はやてが何かを出そうと戸棚を開けてる。何を勝手に出そうとしてるの? と言うか、完全に僕の家の物の配置とか把握してるよね? そこには、僕がクロノとエイミィさんから貰った結構値の張るベルカワインがあるんだ。

「あれ? ワインなんてあるんだ。ね? どうしてこんなのがユーノ君の家にあるの?」

 僕がはやてを止めようとしてると、なのはも来てそんな事を聞いてきた。なので、二人に話す。結婚記念日にクロノとエイミィさんを二人で過ごさせようって、そうフェイトが考えてね。そのための準備として、僕とフェイトの二人で互いの欲しい物を聞き出して、それを伝え合ったって訳。それのお礼なんだよ、これは。で、いつかフェイトと二人で飲も……いい話だと思ってくれるのはいいけど、ならどうしてコルクを取ろうとするのさ、はやて。
 なのはも止め……え? そんなに良い物ならみんなで飲んじゃおうって……いや、これフェイトと約束し……駄目だ。なのはにもはやてにも聞こえてないみたいだ。二人してワインとグラスを手に行っちゃった。

「「かんぱ~い」」

「……かんぱ~い」

 結局ワインは開けられた。仕方ない。同じワインを今度買っておこう。そして、家じゃなくて司書長室にでも隠そうかな。それならもう安全だし。それにしても、いいのかなぁ。朝からワインなんて飲んじゃって。まぁ、今日は外に出る事もないし、一日買い物しなくてもいいぐらいの食料はあるけどね。
 なのはとはやてが美味しそうにワインを飲んでいく。僕も少し口にする。うわぁ……さすがに高いだけあるよ。今まで僕も何度かワインを飲んだ事あるけど、そこまで好きになれなかった。でも、これなら好きになるかもしれない。そう思うぐらい飲み口が軽いし、後味が嫌味じゃない。

 そんなワインだもんだから、あれよあれよという間に無くなった。僕が二杯しか飲んでいないと言えば、二人がどれだけ飲んだかは言うまでもないよね。
 でも、なのはにはヴィヴィオがいるからちょっと心配。なのは、帰ったらヴィヴィオの世話もあるけど大丈夫? そう思って尋ねたら、なのははちょっと赤くなった頬でこう答えてきた。

「平気だよ。今日、ヴィヴィオはお友達の家にお泊りだから」

「お~、そうなんか」

 確かにそれなら安心だ。聞けば、今日はアイナさんに来てもらったらしいし、おそらくヴィヴィオはアイナさんが居る間に出かけるんだろう。そこまで言って、なのはが少しだけ僕へ意味ありげな視線を向けた。何だろうって思って視線を返す。

「だから……今日は帰らなくてもいいんだよ?」

「……あ、わたしシグナム達に伝えなあかん事あったわ」

 なのはがそう言った瞬間、はやてがそう言って立ち上がった。そして携帯片手に玄関へ。何か聞かれたくない事でもあったんだろうか? ともかく、今はなのはの言葉に対応しよう。帰らなくてもいいって、それはつまり酔い潰れます宣言だよね?
 駄目だよ、なのは。僕を信頼してくれるのは嬉しいけど、やっぱりそういうのは……って言おうとしたら、玄関の方からはやてが戻って来た。何故かやや表情が緊張気味だ。

「な、ユーノ君。明日は何時出勤やったっけ?」

「え? ……午後からだよ。明日の午前中は買い物に行こうって考えてる」

「そか。うん、了解や」

 はやてはそう言って小さく頷いた。何でこのタイミングでそんな事を聞くんだろう? って、なのはの事を解決しないと……あれ?

「なのは? どうしたの?」

「……ユーノ君、確認したい事があるんだ」

 いつになく真剣な表情のなのは。それを感じ取って、僕も姿勢を正す。はやても同じように姿勢を直してる。一体何を確認する気なんだろう。僕には心当たりがない。最近なのはとした会話にもそれらしい事は無かったはずだし。
 そんな事を考えながら、僕は黙ってなのはを見つめる。すると、なのはは一度深呼吸をしてこう尋ねてきた。僕はそれにあの日の事を思い出す事になる。あの時、訂正出来なかった一言を。

―――お嫁さんにしてくれるんだよね?

 その言葉に僕は頭が真っ白になった。見れば僕だけじゃなくはやても驚いている。その視線がなのはから僕へ向いた時、僕はまた何も言えなくなった。はやての表情は驚愕の色に染まっていたからだ。
 本当なのか? そう目が言っていた。僕はそれにどう答えればいいのかが、すぐに浮かんでこなかった。確かになのはをお嫁さんにすると言った。でも、それは本心であって本心じゃない。なのはを奥さんにしたい。でも、出来ない。その資格が僕にはないんだから。

 そう告げるべきだ。そう思って、僕はなのはの顔を見つめた。

「なのは、僕は確かにそう言ったよ。でも……」

「ユーノ君、私はその言葉がどれだけ嬉しかったか知ってる? あの日、帰った後ずっと上機嫌だったんだよ? ヴィヴィオに何があったのって聞かれるぐらい」

 なのははそう言って僕に笑い掛ける。でも、その目からは涙が流れていた。それが嬉し涙だって気付いたのは、なのはの声が悲しさを少しも感じさせなかったから。その言葉に僕の決意が揺らぐ。資格なんて自分が決めるものじゃない。相手が望めばそれで十分じゃないか。
 そんな声が聞こえてくる。すると、はやてが僕の手を握り締めてきた。それに僕の意識が向く。同時に視線も。はやては―――泣いていた。それはなのはと違い悲しい涙。ここにきてその理由が分からない程、僕は馬鹿じゃない。

「はやて……まさか君は」

「そや。わたしもユーノ君が好き。なのはちゃんに負けんぐらいに好き。ううん、なのはちゃんに勝っとるはずや」

 そう言ってはやては僕を見つめる。なのはも僕を見つめる。その視線はどちらも同じ。答えを聞かせて。そう僕に言っている。それに僕は正直応える事が出来なかった。なのはの想いは嬉しいし、はやての想いも嬉しい。でも、なのはへはやはり負い目があるし、それだからはやてにって言うのも違う。
 大切な人だからこそ、応えられない。応えちゃいけない。なのはの方が好きとかはやての方が好きとかじゃない。どっちも大切で、どっちも愛しいから応えない。これが今の僕の答えだ。

「……なのは、はやて、はっきり言うよ。僕は……」

 好きだと、叫びたい。なのはにもはやてにも、想いを告げたい。でも、それは一番最低の選択肢。なのはとはやての優しさに甘えるだけの、もっとも忌むべき答え。どっちも選べない? ならどうする。簡単だ。どっちも選ばなければいい。でもそれは、どっちとも付き合うんじゃない。どっちも断る事だ。
 風習や文化の違いはあるけど基本ミッドは一夫一妻だ。なら、相手を一人に出来ない奴は選ぶ権利はない。女性は、決して男の飾りじゃない。好意を寄せられてるからって、好きにしていい訳じゃない。絶対の自信を持って、この人って言えるまで捜し続けるんだ。必要なのは少しの勇気だ。

「僕は、なのはともはやてとも恋人として付き合うつもりはないし、結婚も出来ない」

 告げる。なのはとはやての顔が驚きに変わる。

「僕は、なのはもはやても幸せに出来る自信がない」

 告げる。驚きが深くなった。それにどうしてと疑問を浮かべる二人へ、僕は言った。なのはには、あの撃墜事件の時に感じた無力感と罪悪感にゆりかごでの戦いを支える事が出来なかった事を。
 はやてには、リインフォースを助ける情報を見つけ出せなかった事。実はあの数年後、夜天の書の復元法に使える情報が出てきたんだ。それを見つけた時、僕はどれだけ自分の不甲斐無さを呪ったか。それらを告げ、僕は続けた。

「僕は君達を守れなかった。助ける事も出来なかった。だから僕は、選ぶなんて権利はないし、選ぶ気もない」

 告げる。驚きは悲しみに変わっていた。それでも、僕は表情を変えない。変えたら、二人が迷ってしまうかもしれない。僕を諦めて、もっといい相手を捜す事を。その選択肢への気持ち。それを鈍らせないためにも。
 なのは、はやて、よく聞いて。女の子はね、好きな人と結婚するより、自分を好きでいてくれる人と結婚した方が幸せになれるんだよ。男なんて単純で馬鹿な生き物だから、ただ好きな子が笑って暮らしていれば、それで幸せになるんだ。

 そう告げると、二人が揃って目を閉じた。そこから涙が流れてくる。止めどなく、流れていく。僕の言葉は、紛れもない僕の本心だ。二人には幸せになって欲しい。いつも笑顔を見せていて欲しい。

(……例え、その相手が自分じゃなくても、ね……)

 でも、それは伝えない。言えば、二人に気付かれてしまうから。僕が、本当はどうしたいのかを。だから、言わない。二人はしばらくそこで泣いていた。でも、やがてどちらともなく立ち上がった。
 僕はてっきり帰るものだと思った。でも、二人は何事も無かったかのようにキッチンへ向かって、料理を始めたんだ。表情は笑顔ではなかったけど、どこかすっきりしたように見えた。僕はそんな二人を呆然と見つめる事しか出来なかった。

 やがて料理が終わり、僕の前にそれが並べられた。戸惑う僕へ、二人はこう言った。

「ユーノ君の気持ちは分かったよ。だから、もうお嫁さんにしてなんて言わない」

「わたしも分かった。ユーノ君がどんな気持ちで答えを出してくれたのかも」

 そこまで言って、二人はどちらともなく―――笑顔になった。

「「でも、諦めないから」」

「えっ……?」

 どうして? 僕は明確に拒否したんだ。なのに、諦めないって……僕の気持ちが揺らぐって思ってるの? でも、僕がそんな事を考えているのを知っているのか、二人は口々に告げた。

「ユーノ君、知ってる? 女の子はね、好きな人のためならどこまでだって強くなれるんだよ」

「しかも、性質の悪い事に一度好きになると中々諦めつかんのやわ」

 そう言う二人は本当に嬉しそうな笑顔だ。僕はそんな二人に言葉がない。都合が良すぎるよ、こんなの。普通、僕が断ったら、二人も諦めて別の恋を探すもんじゃないか。何でこんな答えになるんだ。
 僕に変な希望を与えないでよ、二人共。これじゃ、いつか両手に花になりそうだ。でも、それは現実には有り得ない。だって、それで痛い目見るのは二人の方なんだから。お願いだから考え直して。そう言おうとしたところで、僕は気付いてしまった。言っても無駄だって、そう分かってしまったんだ。

 なのはもはやても、これまで色々な事件や問題を不屈の心で乗り越えてきたんだ。今更、僕の言葉ぐらいで諦めるはずがなかったんだよ。それをすっかり忘れている僕の方が考え直さないといけなかったんだ。
 どうすれば二人が僕以外の相手を捜すようになるかって。今更突き放したって、二人はきっと気付いてしまう。いっそ行方を眩ますっていうのも考えたけど、駄目だ。何故だろうか、なのは達ならどこに行っても見つけ出しそうだよ。

 あれ? これってもう最初っから手詰まり? なのは達に好意を抱かれた時点で、僕はもう打つ手が無かったって事? そんな風に思っていると、なのはとはやてが楽しそうに笑みを浮かべて僕を見る。

「さ、今日は覚悟してねユーノ君」

「せや。逃がさへんよ」

 ……もう、勝手にしてよ。なのはもはやても僕よりも男らしい気がする。はぁ~、これじゃ僕の決意や覚悟って一体何さ? そう思いつつ、きっと僕は笑ってる。だって、目の前の二人が嬉しそうに笑ってるんだ。それを見て笑顔にならない訳がない。
 こうして、三人で昼食を食べてそのまま色々と談笑を始めたんだけど……

「「これ、な~んだ?」」

 食事が終わり、後片付けをした後、そう言って二人が取り出したのは、とあるロストロギア。とは言え、安全性は確認されていて、しかも簡単に量産出来る物。そう、あのフェイトが押収した奴だ。実はあれを誰かが調べ尽くして販売したんだよね。
 実物と違って格好を想像した通りに変えられるアイテムになって、小さな子供から大人まで結構人気だったりする。子供はなりきり道具として、大人は……察して欲しい。かなり売れてる層がカップルとか夫婦って辺りでね。

 ちなみに僕は持ってない。ヴィヴィオにはプレゼントしたけどね。これ、バリアジャケットと違って防御力はないけど、発動に大気中の魔力を使うだけだから、自分の魔力がいらないって点も凄く受けてる理由。
 えっと、確か形状とサブ機能から付いた名前は……

「あ~、マジカルフォンだね」

「そうなんだよ。意外と品薄でね~」

「結構売り切れとるもんな~」

 いや、僕としては二人が自分用に買った事が驚きなんだけど……

「で、それでどうするつもり?」

「どうするって……な~」

「決まってるよ……ね~」

 仲良くニヤニヤ笑うなのはとはやて。やっぱり酔ってる。それに嫌な予感しかしないよ、僕は。そう思ってると、目の前の二人が光った。発動させたみたいだ。実は魔力を持っている人間は、こうやって自分の魔力を使って発光させる事も出来る。足元には魔法陣が展開してるし。
 なのははピンクに、はやてはホワイトに光を放ってる。しかもシルエットっ!? 更に部分部分で変身していってるよ、これ!? それに見えそうで見えない! 何て無駄にすごいんだ! これ作った人は、きっと無駄に才能の持ち主だよ。

 やがて変身は完了し、二人が放っていた光も魔法陣も消える。そこにいたのは……

「えへへ、どうかな?」

「う~、やっぱちょう抵抗あるわ」

 やや露出が多いリス姿のなのはと同じようなタヌキ姿のはやてだった……




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シリアスになりつつ、結局ネタに。次回はこの続きから。

まぁ、この流れは自分がヘタレ故にです。修羅場みたいなのは、自分には無理なので……



[27022] なのはとはやてがいる事に、フェイトが気付いたらしい
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/11 18:10
「前にね、スバルに言われたんだ。私はリスっぽいって」

「へぇ、そうなんだ……」

 なのはがそう言って笑う。確かにリスっぽいかも。なのはが両手でクルミを持ち、それをカリカリと齧る姿を想像し、そのあまりの違和感のなさに僕は納得。ちなみにそんな話になった背景には、スバルが犬みたいだとティアナが言った事がある。それになのはが同意したら、そうスバルに言い返されたんだって。
 ティアナはそれに賛成もせず、かと言って否定もしなかったらしい。なのははそれを咎める事はしなかった。自分はそれに納得したからだそうだ。僕はそれを聞きながら、視線を出来るだけなのはの目に合わせていた。

 何せ、なのはの格好は結構露出が多い。意図的にそうしたんだとは思うんだけど、胸元が結構開いてるし、お腹も見えてる。後ろは分からないけど、大きなリスの尻尾があって、頭にはリス耳もあるので凄くファンシーです。

「ええなぁ。わたしのは完全負のイメージからやもん」

 そう言ってはやては少し肩を落とす。そんなはやての格好も露出が多い。なのはと同じで胸元は開き気味で、お腹も見えている。後ろには大きなタヌキの尻尾。頭にはタヌキ耳があるのも同じ。はやてもかなり可愛いなぁ……

 僕は今ある意味現実逃避中。なのはとはやては酔ってこんな事をしたんだって、そうさっきから言い聞かせてる。これを素面でやってたとしたら……駄目だ駄目だ! 暴走しそうになる欲望にしっかりバインドを施し、崩れそうになる理性を守るべくプロテクション。
 現在、二人は僕の向かいに座っている。それで談笑をしてるんだけど、正直僕は困り果てていた。さっきの真面目な状況とは違った意味で逃げ出したい。お酒が入った事でなのはもはやてもどこか行動が大胆だ。最初なんて、二人して僕の両隣を占領しようとしたんだ。

 ……さすがにそれは勘弁してもらった。だって、絶対に腕に体を押し当ててくるって分かったから。はやての目の輝きがそれを如実に物語っていたんだよ。なのははどうか分からないけど、はやてがそうしたら対抗してそうするだろうと思ったし。
 なので、今のような形で話している。そんな格好で寒くないかなって思ったんだけど、今の季節は春。そこまで寒くはないし、室内ならこれでも寒くないだろう。そう納得し、それを聞く事はしなかった。

「……それで、どうしてそんな格好に?」

 そう、それが一番聞きたい事だった。何で二人してイメージキャラみたいなものに変身したの? そう思って聞いたんだ。でも、それになのはとはやてが揃って答えた。予想外の言葉を。

「「フェイトちゃんの格好を可愛いって言ったから(や)」」

「は……?」

 呆気に取られる僕へ、二人は説明してくれた。いつかあったフェイトのロストロギア失敗談。それを二人も知っている。なのはには僕が直接、はやてにはなのはが話したから。まぁ、はやては結局僕へ詳しい話を聞いてきたんだけどね。
 まぁ、なのはは心配からだったけど、はやては当然ながら完全に興味本位だった。でも、一応話を聞かせたんだ。食事時の他愛もない会話。そんな感じで。しかしよく覚えてるなぁ。僕がフェイトの格好を見て可愛いって思った事。確かさらっと一回ぐらいしか言わなかったのに。

 そう思っていると、ふと僕は気付いた。僕が”フェイトを”可愛いって言ったからだと。好きな相手が別の相手を可愛いって言った。それを二人が忘れるはずはない。そう結論付け、僕は頭を抱えた。

「……まさか、それに対抗してその格好を?」

 それに無言で頷く二人。その目はこの格好はどう? って聞いてきている。

「えっと、月並みだけど可愛いよ。それに……かなり魅力的だと思う」

 それになのはとはやてが嬉しそうに笑う。正直、これでどちらかと二人きりだったら、理性が持たなかったかもしれない。そんな事を強く感じるぐらい、今の二人は魅力的だった。さっきの宣言も影響してるんだろうけど、僕はもう二人にどうすればいいのか分からないんだ。
 もう強く拒否出来ないし、だからといって受け入れる事も出来ない。本当に反応に困ってるんだ。まさかこんな状況になるなんて想像もしなかったし。誰が出来る? こんな都合の良すぎる展開なんて。

「でも、本当に今日一日それでいるつもり?」

「モチロン!」

「あ、でもユーノ君がやめて言うならやめるな」

 ……僕は最高に幸せな男だよ。こんな風に言ってもらえるんだからさ。ありがとう、なのは。ありがとう、はやて。僕は最低かもしれないけど、今日だけはその気持ちに甘えさせてもらうね。

「なら……そのままでいてもらえる? 記憶に焼き付けるから」

「おっ、ユーノ君も男やな。ええよ。なら、しっかり記憶にほ・ぞ・ん・し・て」

「は、はやてちゃん?! だからってそんな事までしなくても!」

 うん、なのはの言う通りです。はやて、即刻その挑発的な姿勢を止めなさい。僕を上目遣いに見上げたりしないで。胸元が嫌でも視界に入るでしょ! ……と言いつつ、視線は吸い寄せられるように……男って悲しい。

「ええやんか。わたしは……ユーノ君相手やから、な?」

 うっ! そんな風に言われたら、僕はもう強く言えないじゃないか。でも、あまりこんなのは良くないし、現に僕の理性がガリガリと削られてる。情けないけど、なのはに頼ろう。そう思ってなのはへ視線を向ける。
 でも、それが間違いだった。そう思った時には遅かった。視線を向けた先のなのはは、はやての言葉に僕が躊躇ったのを理解したんだろう。負けるものかと、両腕を組んで胸を持ち上げるようにしていた。

「こ、こうかな……? って、ユーノ君?!」

 きっと自分なりに魅惑的な姿勢を試してみたんだろう。そこを僕がしっかり見てしまったという訳だ。だって、僕と視線があった瞬間、なのははその腕を元に戻したんだから。その際、胸が揺れたのを僕は見逃さなかった。男の習性ってやつだよ。本気で僕は死んだ方がいい。
 なのはを見て、はやては悔しそうな表情をしていた。その視線が胸にいってたから、理由はもうすぐに分かった。気にしなくてもいいよ、はやて。僕は女性を胸なんかで判断しない。というか、どうしてそこで判断するんだろうね? 僕には理解出来ないよ。

 そんな関係ない事を考える事で邪念を散らす。でも、まだ足りない。無限書庫の今年の目標を思い出す。目指せ! 年間休日九十日! ……あ、違う意味で泣けてくる。気を取り直して、今月の目標を。減らそう、思いやり残業! ……駄目だ、涙しか出てこないよ。
 しかも、考えたらその目標って僕が発案してるんだよね。しかし、これが僕だけじゃなくて、無限書庫全体に言える事だから恐ろしい。毎年人手不足が叫ばれる管理局。その中でも無限書庫は慢性的な人手不足だ。年々資料請求は増える一方。だけど、司書の数は現状維持か下手すると減少する。激務についていけず、辞める人も少なくないんだ。

 そんな事を思い出し、僕は完全に二人の事を忘れていた。邪念を振り払うのには最適だったんだけど、あまりに深刻に考える問題過ぎて忘れちゃいけない事まで忘れてしまったんだ。だから、二人が接近してる事にも気付かなかった。
 それに僕が気付いたのは、両腕に感じる柔らかい感触があったから。それに没頭していた思考が現実に引き戻される。そして、その感触は何だろうと確かめようと思ったら、視界の中になのはとはやての不機嫌な顔があった。

「あ、やっと気付いた」

「ユーノ君、ちょう今のは酷いわ」

「えっ……あ、ごめん」

 二人を完全に忘れていた事に気付いて、僕は謝った。でも、冷静にいれたのもそこまで。すぐに今の自分の状況を把握し、僕は顔を真っ赤にした。いや、だって二人がいつの間にか横にいて、腕をしっかりと確保してる。
 ……あ~、ソウカ。コレハフタリノムネノカンショクカ~……じゃないっ! これに飲まれちゃ駄目だ! 消えかかる自制心にロードカートリッジ。ACSに移行しようとする欲望をモードリリース。僕の理性はまだ死んじゃいない。

「ね、ユーノ君。今日……泊まってもいいかな?」

「……え?」

「あ、ズル! な、ユーノ君、わたしも泊まってええかな?」

「ええっ?!」

 一度目は聞き返すように、二度目は本気で言ってるの。そんな意味合いで僕は声を出した。なのははさっき今日は帰る必要がないって言ってたけど、はやては駄目でしょ! 僕はついそう言った。でも、それにはやてはにやりと笑った。
 凄く嫌な予感しかしません、はやてさん。なのはは、はやてのその反応だけで何かを察したのか、小さく納得するように頷いた。僕は理解出来ないので、はやての言葉を待つ。ある種の死刑宣告を受ける気分だ。

「もうシグナム達に、今日は帰らんって言ってあるから平気や」

 ああ……やっぱりそうなんだ。いや、そういえば何となく思い出したんだ。なのはが帰らなくてもいい発言をした後、玄関へ携帯片手に消えた事を。あの時、既にそんな事を企てたんだね、はやては。
 なのははそれにもう気付いたんだ。さすがというか、何と言うか……今の二人はもしかして結構発想が似てるのかな? そんな風に考える僕に、二人が容赦なく視線を向けて現実へと引き戻す。うん、やっぱり今日の二人は似てるよ、思考が。

「何かな?」

「何かな? やないよ」

「答えを聞きたいんだけど?」

「……僕の家にはベッドが一つしかないんだ。だから、無理。それに、いくら何でも男の部屋に泊まるなんて駄目だよ」

 僕は正論を告げた。好きな相手だろうと、やっぱり段階を踏むべきだし、そもそも僕らは付き合ってさえいない。だから止めたんだけど、それに二人は不満顔をするかと思いきや、予想以上に満足げだ。どうしてだろう?

「うん、さっすがユーノ君。まっじめ~」

「それでこそユーノ君や。安心したわ」

 何故か誉められている。いや、嬉しいんだけど、どこか納得出来ないというか。何だろう、この安心感の無い納得のされ方は。それでも、誉められたから言葉を返しておこう。

「あ、ありがとう」

「絶対変な事しないよね?」

「勿論」

「絶対酷い事せんよな?」

「当たり前だよ」

 あれ、何故だろう。僕が答える度に二人の笑みが深くなっていく。そして、同時に僕の額に変な汗が流れてくるんだけど……?

「「じゃあ、いいよね?」」

 ……そうくるか。それとこれとは別問題。そう僕は言った。でも、それに二人はやや楽しそうな笑みを浮かべて僕を見る。

「あれあれ? ユーノ君は自信ないの~?」

「さっきはあないに強く言い切ったやんか~」

「……二人共?」

 何かおかしい。いくら僕へ想いを告げたからって、なのはもはやてもこんな感じの事を言う性格じゃない。僕はそう思って、ある事を思い出した。そう、二人は僕より多くワインを飲んだ。きっとその酔いが完全に回ったんだ。
 だから変に気が強くなって、言動が大胆になってきたんだ。そう判断して、僕は呆れよりも可愛さが湧き上がった。まずは二人を落ち着かせよう。そう思って、とりあえず二人を連れてキッチンへ。足取りが少しおぼつかないので、僕が二人の手を取って。

「二人共、まずは水でも飲んで」

「え~、どうして~?」

「ほんまや。理由を教えて~」

 うん、完全に酔っ払ってる。無理矢理にでもその手に水の入ったグラスを持たせる。でも、中々二人共それを口にしようとしない。

「ほら、飲んで二人共。結構長く喋って喉も渇いたでしょ?」

「う~ん……そう言われると」

「そないな気もする~」

「ね? ほら、喉を潤そう。それからまた話そうよ」

「「は~い」」

 ……軽く子供の相手してる気分になってきた。なのはやはやての酒癖は知らないけど、酔うと幼児化するのかも。そして、かなり言動が大胆になるって覚えておこう。もう、次回は二人へあまりアルコールを取らせないようにね。
 ……今の二人を可愛いって思ったのは、仕方ないかな。二人はグラスを口に付け、水を飲み干していく。結構な勢いで飲んでるところを見ると、本当に喉が渇いてたんだろうな。あ、なのはもはやてもグラスをそんなに傾けると……

「あ~、駄目だよ。水が軽く零れてる」

「んくっ……んくっ……ん?」

 なのはが僕の言葉に反応して、視線を向けた。ああ、水が喉元を伝って……ゴクリ……って、違う! とにかく、タオルを手渡す。それで濡れた場所を拭いて。そう言うと、なのはは頷いてくれた。でも、グラスの水を飲み干すまでは拭く気がないみたいだ。
 仕方ないので、はやての方へ視線を移す。はやても同じように喉元を伝って水が、その……胸元へ落ちている。そこへ向かう視線を何とか食い止め、はやてにもタオルを手渡す。

「はい。後でこれを使って濡れた場所拭いてね」

「……は~。おおきにな、ユーノ君」

 笑顔でタオルを受け取るはやて。あ、良かった。軽くいつもの感じに戻った気がする。そう思った瞬間だった。

「これはお礼や」

「へ?」

 はやてが自然に僕の頬へキスをした。されるのは二回目だけど、今回のは前回と違って軽いものじゃない。いや、時間は同じなんだけど、顔を離した後のはやての表情がその……艶かしかったんだ。

「……どう?」

「あ……その……」

 初めて見るはやての女の顔に、僕は言葉がない。心臓の鼓動が速い。聞こえるんじゃないかって思うぐらい煩い。顔が熱い。耳まで真っ赤だ。すると、それを見たなのはが素早い動きで僕の頬へ顔を近づけた。
 はやてとは逆の位置へ、その唇が当たる。それが意味する事はたった一つ。でも、僕は自分を抑えるために深呼吸。正直心臓はバクバクしてるし、顔は真っ赤。だけど、それに身を委ねる事はしない。なのはもはやても大切な人。だったら、こんな酔ってる状態の行動で自分を失っちゃいけない。

「なのは、はやて、少し頭冷やしてきて」

 そう言ったら、二人がキョトンとした。僕はそんな二人に軽くため息を吐いて、バスルームを指差した。

「冷たいシャワーでも浴びて、酔いをさましてきなさい。じゃないと、僕はもう二人の相手しないから」

 そう言ったら、二人は凄く驚いて互いの顔を見合わせる。そして、僕へ視線を戻して軽く戸惑うような表情でこう聞いてきたんだ。

―――シャワーを浴びたら、相手をするの?

 それに僕は頷いた。だってこのままだと二人の暴走が酷くなる一方だし、最悪の事態にもなりかねないからね。そう思ったからこそ、僕は二人へ言ったんだ。でも、この時僕は気付くべきだったんだ。僕が言った言葉。それが妙な意味合いを持ってしまった事に。
 でも、この時僕は正直二人の行動に疲れていたし、酔いが軽く回っていたんだ。どこかで思考が鈍かった。だから、本当なら僕が頭を冷やして冷静になるべきだったんだと、後から気付いたんだよ……全てが終わった後にね。

 僕が頷いたのを見て、二人は何かを決意したようにバスルームへ向かう。僕はその背に向かってタオルの位置と、着替え代わりにしてもいいと思ってYシャツなどの場所を教えた。そして、僕はやや疲れたのと水分を欲して水を飲んだ。
 やがて、微かに水音が聞こえてきたので、二人が言った通りにしてくれと思ってホッとした。これで二人も少しは冷静になる。そこへ携帯の着信があった。フェイトからだ。当然、僕はそれに出る。

「どうしたの、フェイト? 今日はリンディさんと買い物だったんじゃ……」

『そうだったんだけど、お昼から母さんに予定が入っちゃって……ユーノ、今暇?』

 もし、これが今日の朝だったらと思うとゾっとする。僕はこれに暇と答え、フェイトまでこの状況に……あれ? 待てよ? フェイトが居れば、二人を何とかしてくれるんじゃ……
 そんな風に思いながら僕はソファに座り、フェイトへ返事をしようと思った。勿論、今日は忙しいって言って断るために。考えたんだけど、フェイトが居ても意味はないんだよね。もう二人は覚悟完了してるし、これは僕の問題だ。フェイトを巻き込む訳にはいかない。

 でも、そこに思わぬ声が響いた。

―――ユーノ君、ちょっといい~?

 バスルームから顔だけ出して、なのはがそう尋ねてきた。その声が聞こえた瞬間、電話の向こうのフェイトが小さく何かを呟いた。そして、僕へこう尋ねてきたんだ。

―――ユーノ、今、部屋になのはがいるの?

 その声は不気味な程優しくて、でもどこか凄く怖くて。そう感じた僕は返事が出来なかった。更にそこへ追い打ちのように……

―――ユーノ君、悪いんやけどボディーソープの換えないか~?

 はやてまで顔を出して声を出す。フェイトはそれにはっきり聞こえる声で告げた。はやてもいるんだねって。その声はいつものフェイトと同じ声。でも、何かが違う。それはそうだろう。親友二人が部屋に来ていて、しかもボディーソープの換えなんて聞いてきている。
 そういう関係ではないと分かっていても、おかしな状況には違いないのだから。フェイトはきっと僕に嫌悪感を抱いたんだろう。僕はそう感じて、視線を二人へ向けた。そこで二人は、僕が電話している事に気付いたんだろう。どこかしまったという顔をして、二人して手を上げて謝った。それに僕は乾いた笑みを返す事しか出来ない。

『ユーノ、私も行っていいよね?』

「え……あの、フェイト?」

『いいよね?』

 その声に、僕は何も言えなかった。それを了承と取ったのかフェイトは電話を切る。聞こえてくるのは通話終了を告げる電子音。それを聞きながら、僕は天を仰いだ。神様、貴方は一体どれだけ僕に試練を与えれば気が済むんですか!

 その後、僕は力無く二人へ詰め替え用のボディーソープの場所を教え、祈るような気持ちで黙ってソファに座った。そして、フェイトがやってきたのは、丁度二人がシャワーから出て来た直後だった……




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XXX展開にかと思いきや、ここで遂に三人目登場。

次で一応のケリをつけるつもりです。そうしないと待っているのがアレですから。

明確なハーレム物は読むのは楽しいけど、書くのは……ねぇ。大抵自己投影って言われますので。

それに、ユーノは芯が強い漢と思います。なので、もしハーレムルートを書くとしたら、完全な一発ネタですね。



[27022] ユーノの苦難はここから始まるらしい
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/13 09:00
「どうしてこんな事をしたの?」

 開口一番、フェイトは僕にではなく、なのはとはやてにそう言った。その表情は珍しく怒っている。部屋に上がるなり僕から事情を聞き、それを理解したフェイトはすっかり酔いの醒めた二人へやや強い口調で問いかけたんだ。
 対する二人はどこか戸惑うものの、フェイトへどう答えようかと考えているようだった。それを見て僕は正直不思議に思った。いや、自惚れている訳じゃないけど、僕が好きだから一緒に居たいと思ったって言えばいいだけなのに……てね。

 でも、二人は何かをフェイトから悟ったのか、躊躇いと戸惑いが強く見える。三人は九歳からの付き合い。だからだろう。僕には気付けないフェイトの何かに気付いたんだ。でも、このままだと二人が困る一方だと思って、僕は意を決してフェイトへ告げたんだ。

「フェイト、二人をあまり責めないで欲しい。お酒に酔ってたせいもあるんだ」

「……ユーノはやっぱり優しいね。でも、これはちょっと行き過ぎてるよ……大体シャワーなんて浴びてるし」

 ん? 今、後半が小さすぎて聞こえなかったけど、何かフェイトが呟いたみたいだ。フェイトはそのまま僕から視線を外し、なのはとはやてに告げた。子供じゃないのだから、あまり僕に迷惑を掛けないようにって。でも、それに二人が反論した。いや、指摘したかな。
 表情は頭にきたって感じだ。その表情のまま、二人はフェイトへおそらく初めてだろう苛立ちを込めた声を出した。その内容に、僕は硬直する事になるとは知らずに、ね。

「フェイトちゃん、一ついいかな」

「えっと……何?」

「あのな、どうしてこれと無関係のフェイトちゃんにそこまで言われなあかんの」

「それは……」

 うわ、はやて結構痛烈だ。無関係って……まぁ、この問題に関してはそうだけど、よく言えるなぁ。そんな風に女性の怖さを見せ付けられる僕。フェイトも二人の豹変振りにやや戸惑ってる。でも、気を取り直して反論しようとしたところへ、なのはが言葉を被せてきた。

―――フェイトちゃんと違って、私達はもう向かい合ったんだよ。

 その言葉に僕とフェイトの二人が止まる。僕はその言葉の意味する内容に。フェイトはおそらくその言葉そのものに。なのはとはやてはフェイトへ視線を向けて告げた。言うつもりがないのなら、自分達の行動に口出ししないで……と。
 それは、初めて聞くなのはとはやてのフェイトへの拒絶。フェイトはそんな言葉に絶句。それは僕も同じ。でも、僕の予想に反して、フェイトはすぐに立ち直ったんだ。少なくとも、その時はそう見えた。そして、驚きから黙り込む僕の方へ顔を向けて―――涙を流した。

―――私、二人に嫌われたみたい。

 そんな事を言ってフェイトは僕へ泣き崩れる。それを受け止め、僕はやや戸惑いながらもその背中を優しく擦る。でも、そんなフェイトを見るなのはとはやての表情はどこか険しい。どうしてなんだろう? どうして、なのはとはやては互いを認め合うような感じだったのに、フェイトにはこんなに厳しいんだろう。
 そんな風に僕が考えていると、なのはがフェイトへどこか悲しそうに告げた。いつまで自分を押し殺す気なのか、って。それに泣いていたはずのフェイトの声がピタリと止まる。はやてもなのはと同じような表情でフェイトを見つめている。

「フェイトちゃん、気持ちは分かる。嫌われたら、こんな風に過ごせんくなったらって、そんな風に躊躇うんは分かる。でもな、そこから一歩踏み出さんと、何も変わらんのや」

「気付いてもらうなんて無理って、フェイトちゃんも分かってるんでしょ?」

 その言葉にフェイトが一瞬びくりと震える。僕はそんな反応から、もうフェイトの気持ちに確信を持っていた。二人の告げた向かい合ったとの意味。それが間違っていなかったんだと。僕は身じろき一つしなくなったフェイトの髪を優しく撫でた。
 それは、特に何か意味があった訳じゃない。ただ、今のフェイトが見てられなかった。だって、どこかあのプレシアに突き放された時を思い起こさせたから……

 フェイトは僕が髪を撫で終わると、ゆっくりと立ち上がった。そして、なのはとはやてへ視線を向ける。その表情は僕からは見えないけど、なのはとはやてが嬉しそうに頷いたから、きっと良い表情をしていたんだと思う。
 二人が頷くと、フェイトも頷き返し、僕へ振り返った。その表情は僕が一番好きなフェイトの顔。心からの喜びや嬉しさを感じさせる笑顔だ。それに僕はつい顔が綻んでしまう。フェイトはそれに益々笑みを深くした。でも、何かを思い出したのか、深呼吸を始めたんだ。

 そして、大きく息を吐いたかと僕へ向かってはっきりと告げた。

―――ユーノ、私と結婚を前提に付き合ってください。

 大真面目な表情でフェイトはそう言い切った。それに僕はついおかしくて笑っちゃった。いや、だってね? フェイトの言い方は、普通男がするものだったんだ。凛々しい表情と相まって、その違和感は凄いの何のって。
 見れば、なのはとはやても笑ってる。それはさすがに女の子らしくないってなのはが言えば、でもフェイトちゃんらしいってはやてが続く。一方のフェイトは僕らが笑うもんだから、やや慌てた後、拗ねたような表情を浮かべた。

 そんなフェイトにまた笑いが起きる。するとフェイトもその声に感化されたのか、小さく笑い出した。しばらく僕らの笑い声が部屋の中に響く。そうだよ、これだ、こんな雰囲気だ。僕らのよく知る雰囲気は、これなんだよ。
 やがて誰ともなく笑うのを止め、なのは達の視線が僕へ注がれる。それを僕は受け止め、フェイトへはっきりと告げる。なのは達へ告げたのと同じ言葉を。でも、フェイトもやっぱり答えは同じだった。関係ない。そんな風に笑って返された。僕が応えないとしても構わない。応えてくれるまで頑張るだけだから。そう言ってフェイトは輝く笑顔を見せたんだ。

 フェイトが一途で諦めない性格なのは、僕もよく知ってる。アルフからちらりと聞いた幼少期。そこからフェイトの辛抱強さや純粋さが分かるってものだよ。だから僕もフェイトが答えた時は、きっとどこかで苦笑していたと思う。
 なのはとはやてはフェイトの答えに嬉しそうに頷いていた。そして、三人で手を繋ぎ合って頑張ろうって言い合うんだから、本当に仲が良い。どうも僕をその気にさせるまでは一致団結でもするみたいだ。はぁ~、勘弁してよ……って、そう思いつつも、どこかでそれを喜んでる僕がいる。

「じゃ、改めて……」

 そうなのはが切り出す。うわ、この流れは一つしかないよね。でも、見ればなのは達が笑ってる。そこには僕の好きないつもの笑顔達がある。

「ユーノ、今日泊まってもいいよね?」

「何もしないんやろ? なら、わたしらもそれ信じるから」

「それに、色々お話したい事があるし。四人で夜更かししよ」

 なのはがそう締め括る。もう僕に拒否権はないよね、それ。いや、拒否出来ないというよりしたくない。だって、四人で話すのなんてどれぐらいぶりだろう。そんな事を考えたら、すごく楽しくなってきたんだ。
 でも、表面上は仕方ないって感じで僕はため息を吐いた。それだけで三人が笑う。気付かれてる。でも、それでもいいさ。ここまできたら道化でも演じ切ってみせるよ。

「……じゃ、とりあえずもう少ししたら出かけよう。さすがに三人が寝られる程ベッドも大きくないし、お客さん用の寝具を買うとするよ」

「にゃは、じゃあついでに日用品も買っちゃおうか?」

「お、ええな。歯ブラシとか揃いのカップとか……」

「な、何なら私は家から持ってくるよ?」

 そんな事を話し合う三人。完全に僕の家をもう一つの家にするつもりだね? うん、それは阻止しよう。少しだけ想像して嬉しく思ったのは僕だけの秘密。まずは話題を変えよう。そのために、僕はワインの話をフェイトへする事にした。
 案の定フェイトはそれを聞いて怒り出した。楽しみにしてたのに。そう言ってフェイトが怒ると、二人が頭を深々と下げた。それを見つめ、僕とフェイトは密かに苦笑。そう、話した時に念話で伝えたんだ。僕がまた同じ物を買うから、二人を許してあげてって。フェイトはそれを受けて、ポーズとして二人へ怒っただけに過ぎない。でも、もしかしたら少しはやり返したかったのかも。

 そして、フェイトが二人へ許しを告げると、なのはとはやてが安堵の息を吐いた。その後、少し落ち着いたところで僕らは買い物に出かけた。四人で買い物なんて初めてだから、僕らはみんな楽しくて仕方ない。
 いつもなら素通りするようなお店や商品へ視線を向けては足と止め、それに意見し合って時間を過ごす。まるでこんな時間さえ愛おしいと言うように。おかげで買い物を終える頃にはもう夕方になっていたぐらいだ。

 寝具は結局三人分買った。さすがにベッドは無理だから布団にした。元々は地球の日本の物だけど、ここミッドチルダではもうメジャーな場所として広まっている。そう、なのは達のおかげでね。なので、結構日本文化がミッドには浸透しつつある。
 寝具もベッドしか知らないミッドの人からしたら珍しいってのもあって、意外と売れてるんだって。そうお店の人は教えてくれた。確かに布団には布団の良さがあるよね。洗って干せるとこも衛生的だし。

 今、その寝具などは僕が持ってる。大きな袋が全部で三つだから、両手がそれで塞がってる。なのは達が、自分の分だから自分で持つって言ったんだけど、譲れない。僕は男だからね。こんなちっぽけな事でも力仕事は僕の領分さ。
 それに、こう見えても筋力は意外とあるんだ。遺跡発掘や調査なんかでも結構力が要る作業は多い。最近はあまり行けないから鈍ってるだろうけど、それでも何もしてない人よりはある。あるんだけど……フェイトの方が力が強かったりしたら嫌だなぁ。暇を見つけて鍛え直そう。

 そんな決意を固める中、無事に帰宅。なのは達は早速とばかりに僕の手から荷物を受け取り、いそいそと部屋の中へ。そして洗面所に自分用の歯ブラシとかを置いている。
 ……いや、止めたんだよ。それは本当に勘弁してって。でも、なのは達は今日の歯磨き用だからって押し切ったんだ。そう言われて止められる僕じゃない。まさか、僕のを使えばいいなんて言えるような物じゃないし……

「でも、なのは達は大丈夫なの? 僕は明日午後勤務だけど……」

 そうだ。なのは達は今日は休みでも明日はそうじゃない。そう気付いて、僕は尋ねたんだ。夜更かしなんてして仕事に影響はないだろうかと。そうしたら、三人は揃って笑った。そして、こう言い返してきたんだ。徹夜なんて慣れてるから気にしなくてもいいって。
 ……色々と思う事はあるけど、了解した。つまり、もう何を言っても無駄だってね。最終確認はした。これで僕も気兼ねなく夜更かし相手になれる。そう思って、時計を見た。そろそろ夕食の時間だ。僕が視線を時計に向けたのに気付いて、三人も視線を動かす。

「あ、もうこんな時間だね」

「そうだね。なら、食事の準備しようか」

「よっしゃ。それとお風呂の準備もせな。という訳で役割分担しよか。わたしとなのはちゃんが食事作りで、フェイトちゃんはお風呂の支度お願い出来る?」

 はやての言葉に頷くなのはとフェイト。それはいいんだけど、僕の割り当てがない。

「あの、僕は?」

 そう尋ねると三人が揃って笑みを見せる。そして、見事に口を揃えて告げた。

「「「ユーノ(君)はそこで休んでて(な)」」」

「……はい」

 完全に戦力外通告。いや、この場合は過剰戦力だから控えていてって事かな? とにかく三人の好意に甘えて、静かに本でも読むとしよう。えっと、ベッドルームに読みかけのものがあったっけ……



 穏やかな時間。聞こえてくるのは包丁の音や何かを焼いたり炒めたりする音。そして鍋の沸騰する蒸気音に食器の立てる音。それと共に交わされるなのは達の会話。それをBGMに僕はのんびりと本を読む。贅沢な時間だ。そう心から思う。
 バスルームから戻ったフェイトも参加しての夕食準備。それは親友同士の楽しい時間にしか見えない。そう、実はさっきから、僕は何度も本から視線を外し、キッチンへ向けている。そこの光景がとても和むものだから。でも、それだけじゃない。尊く見えたんだ。僕の未熟さが招いたあの事件。それがキッカケで今の光景があるって、そう思ったら……ね。

 後悔しているのは間違いない。でも、これを見ているとそれで良かったとも思えてくるから不思議だよ。だって、フェイトやはやてと出会えないなのはなんて、想像したくないから。なのはやはやてと出会えないフェイトなんて、考えたくないから。なのはやフェイトと出会えないはやてなんて、有り得ないから。
 だから思うんだ。僕のした事は正しくない。でも、間違ってもいないんじゃないかって。少なくても、なのは達にとっては。そんな事を考えたからだろうな。こみ上げてくるものがあった。悲しみでも喜びでもない感情。それが何かって明確には言えない。でも、強いて例えるなら感謝。

―――ああ、僕のした事は許される事なんだ……

 誰かと誰かを繋ぐ縁。それを僕が担った。確かにそれが悲劇を生んだかもしれないけど、でもそれを補って余りある奇跡がそこにあった。キッカケは、願いの宝石。始まりは、僕となのはの出会い。そこから全てが動き出した。
 知らず次元世界を守る事になった僕ら。フェイトの時もはやての時もヴィヴィオの時もそう。でも、その目的は世界を助ける事じゃなく、ただ……

(助けたかった。フェイトを、はやてを、ヴィヴィオを。なのははそれだけを考えてたんだ。そして僕は、周りはそんななのはを助けたいって思った)

 大それた事は考えてない。ただ、自分達の出来る事をしようとした。助けたいと思った相手を助けよう。それだけしか考えてなかった。いつだって。今だって。そして、これからもそれは変わらない……

(そうか。僕はそれでいい。なのはにフェイト、はやてを助けたい。その想いだけでいいんだ。何も難しい言葉はいらない)

 覚悟とか決意とか、無力感や罪悪感なんかも関係ない。ただ僕は三人を守りたい。助けたい。それだけでいいんだ。好きだから。そんな簡単で単純で、だけど一番強い想いさえあれば。
 そう考えて、僕は思い出し笑い。そう、なのはとフェイトにはやてが僕へ告げた言葉を思い出したからだ。女の子は、好きな人のためならどこまでだって強くなれる。一度好きになったら中々諦められない。だから関係ない。

 そっか。僕もそうだよ。好きな人のためならどこまでだって強くなれるさ。しかも性質の悪い事に、一度好きになったら中々諦める事も出来ないらしい。傍に居れないとしても、それでもきっと……僕はこの想いを捨てられない。だって関係ないんだから。
 そうさ、絶対捨てはしない。例え三人から嫌われても。僕が守りたいモノは、助けたいモノはあの頃から少しも変わっちゃいなかったんだ! そう想うのと、三人が僕へ呼びかけるのは同時だった。

―――もういいよ、ユーノ君。

―――お待たせ、ユーノ。

―――はよ来て、ユーノ君。

―――うん、今行くよ!

そうだ。今から行くよ、三人が居る場所まで。その想いに届く位置まで頑張って駆け上がるから、そこで待ってて。
 今は、到着しても言う事は出来ないけど、心から誓うよ。これからは絶対守ってみせるって……

僕の全てを賭けて!




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打ち切りエンドみたいですが、こんな感じです。今後は、完全ネタ系になる予定です、多分。

なのはルートとかフェイトルートとかはやてルートとか……自爆覚悟の三人ルートとか、ね。

それと某スレからも面白そうなネタがあればここに書いていこうと思ってます。

とりあえず、ここまで読んで頂いた方に感謝を。拙作にお付き合いくださり、心から御礼申し上げます。



[27022] ユーノがなのはと出会いの日に新たな誓いを立てたらしい
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/15 08:42
 あの日からもう半年が過ぎようとしていた。僕は相も変わらず無限書庫で本や資料請求依頼と睨めっこ。それと同じぐらいの頻度で黒い奴とも睨めっこ。実は今もそう。いや、まぁ……友人ではあるんだけど、やはり仕事になるとどこか言い争う仲だったりする。
 なのは達も相変わらず仕事で忙しい。なのはは教導官、フェイトは執務官、はやては捜査官としてそれぞれの場所で動いている。実は、今の僕の家はちょっとした集会所みたいな扱いを受けているんだけど。何故って? ……三人に合鍵を渡したからだよ。渡したくて渡したんじゃない。はやての策略に嵌った結果なんだ。

―――ユーノ君、今週ほとんど書庫に泊まりやろ? わたし、今週休みが二回あるから、一回は掃除とかしておこか?

―――ホント? でも、何か悪いし……

―――ええって。それに掃除とかしたらすぐ帰るし。やから鍵貸してくれる?

 ……迂闊だったとしか言いようがない。あまりにも自然な流れだったものだから、僕は深く考えずに鍵を渡したんだ。徹夜続きの状態だったのも大きい。はやてがそれを狙っていたのかは、今となっては分からないけど、それがキッカケではやてが合鍵を持った状態になったんだ。
 僕に返そうと思ったけど、忙しいし今後も同じような事があると思うから。そう言って合鍵を作っていいかって。その時には、もう手遅れだったんだ。僕はもうはやてを止める事が出来なかった。だって、はやてが僕へ向けた視線は、一生のお願いって感じのものだったから。

 そして、それがなのはとフェイトにばれた。原因はシャマルの天然。何でも三人で本局で会った時に食事を共にしたらしいんだけど、その時シャマルがはやてから家の鍵を借りに来たんだ。
 どうも自分用の鍵を家に忘れたらしく、一番近くにいたはやてに借りに来たんだって。それではやてがしょうがないと苦笑して鍵を手渡したんだけど、当然そこには僕の家の鍵もある訳で……

―――あれ……はやてちゃん、この鍵は何の鍵なの?

 それにはやてが一瞬だけ表情を変えたらしく、それを見たなのはとフェイトが、シャマルから鍵を半ば無理矢理(とはやては証言)に受け取り、それが僕の家の鍵と知って、はやてと同じように自分達にもって……
 あ、思い出したらちょっと胃が痛くなってきた。あの時の二人の表情は絶対忘れない。とっても…………その…………イイ笑顔だったから、ね。

『どうした、ユーノ? 顔色が悪いぞ』

「気にしなくていいよ。君の最愛の義妹絡みだから」

 そう返すとクロノが言葉に詰まった。否定すればフェイトが悲しむし、かと言って何も言わなければそれを肯定する事になる。でも、もうみんな知ってるよクロノ。君がフェイトを家族として愛してるのはね。
 結局クロノはその言葉にそんな事よりと言って誤魔化した。ま、いいよ。照れてる時点で君の負けだ。今度フェイトに教えてあげよう。凄く喜ぶはずだ。そんな事を考えつつ、クロノからの依頼―――と言う名の無茶へ色々と文句を返す。

 そして、そんな皮肉と文句で飾られた会話を終えて、最後には互いに苦笑で締め括るのが僕ららしい。

『じゃあ、早めに頼む』

「了解。元気な僕の最後を覚えてろ」

『ああ、きっちり覚えていてやる。次は死んだ顔を見れるだろうからな』

「言ってろよ。じゃ」

『ああ』

 それで通信は切れる。ふと気付けば周りの司書達が苦笑している。ああっ! だから嫌なんだ、クロノとの通信は! 司書長室でしたいんだけど、そうすると変な噂を立てられるんだ。僕とクロノがそういう仲じゃないかって。
 何でも僕が中世的な顔立ちをしてるから、そういう風に見えるらしい。とはいえ、そんな事を言ってるのは一部の女性司書なんだけどね。その内女装が趣味とか言われるんじゃないかと思って、密かに着ている物を似合わないと覚悟して男性的な物にしてるのはそのため。

 と、ある事を思い出して時計へ視線を向ける。今日は久しぶりに定時で上がろうと思ってるんだ。理由は一つ。その……デートなんだよね。夕食を共にするだけの些細な内容だけど、ね。クロノの依頼は……明日から本気出す。

「あ、来た」

「ユーノく~ん!」

 現れたのはなのは。そう、今日でなのはは教導を終えて二日間休みになるんだ。だから一緒に夕食を食べに行こうって事になってる。ヴィヴィオは事情を察してるのか、今日はナカジマ家へ遊びに行ってる。スバルが休みで久しぶりに自宅に顔を出してるんだって。
 実は、両家がご近所さんなんだって、最近知った。ナカジマ家には行った事がなかったからなんだけどね。でも、言われて思い出してみれば確かに近いと言えるんだよ、その位置関係。

「お疲れなのは」

「ユーノ君もお疲れ」

 笑みを見せ合う僕となのは。あの日以来友達以上恋人未満の僕達。そう思ってたんだけど、周囲はそう思ってはいないらしい。何せ、この前捜査資料を取りに来たティアナなんかは……

―――アタシも相手捜そうかな……

 そんな風に呟いて、僕となのはを羨ましそうに見つめていたんだ。僕はそういう関係じゃないって言ったんだけど、生暖かい目を返されたんだ。それでも僕が否定しようとすると、ティアナがそれにイラっときたのか怒鳴り声で……

―――嘘だっ!!

 そう言い切って書庫を出て行ったんだ。なのはも僕もそれを呆然と見送る事しか出来なかったっけ。その後ティアナから、あの時はすみませんでしたって謝罪されたけど、僕はむしろティアナに謝り返したぐらいだった。
 いや、あの「嘘だっ!!」発言はかなり効いたんだ。おかげ僕はある結論を出す事が出来たんだからね。そのお礼も込めて言ったら、何かティアナが面食らってた。でも、最後には苦笑してお幸せにって言ってくれたからね。やっぱり彼女も優しい子だよ。

「ユーノ君? どうしたの?」

「あ、何でもない。ちょっとだけ考え事をしてただけ」

「それならいいけど……今は私の事だけ考えて欲しいな、なんて」

 そう言って照れ笑いを浮かべるなのは。うん、可愛い。そんな気持ちを込めた視線を向けると、なのはが益々照れる。あ、これってちょっと楽しいかも。そんな風に考えた瞬間、なのはが僕の手を掴んで動き出した。
 早く行かないと時間無くなっちゃう。そう言って急かすなのは。僕はそれに手元の時計を見る。うわ、本当だ。予約の時間までそこまで余裕がない。とりあえず携帯を取り出しタクシーの手配。本局から移動した後の転送ポート前に一台ね。さすがに飛行魔法で移動する訳には行かないから。

 こうして僕らは、司書達に微笑ましく見送られながら無限書庫を後にするのだった……



 タクシーでクラナガンの街を走る事数分。一軒のレストランの前でタクシーは停車した。先になのはを降ろし、僕は代金を支払って降りる。そして、走り去って行くタクシーの音を聞きながら、僕となのははレストランの外観を眺めた。
 そこは高級店ではないけど、それなりに名の通った店だった。でも、庶民的な店だと僕は知っているし、なのはも来た事があるのか表情はやや懐かしそうにも見える。

「来た事があるの?」

「うん、一度だけ。シグナムさんにヴァイス君とアルトなんかとね」

「へぇ……意外な組み合わせだね」

「でしょ? とは言っても、来たのはもう何年も前。まだ六課の設立に動いてた頃」

 うわ、それはかなり昔だ。そんな事を話しながら僕らは店の中へ入っていく。中は想像以上に洒落ていて、なのはがあの頃とそこまで変わってない気がすると言っていた。
 それに僕は相槌を返した所で店員が現れ、予約した事を告げ名前を名乗る。そして、案内されるままにテーブルへ向かう。すると、なのはがテーブルに着くなり小さく笑った。どうしたんだろ? そう思って尋ねると、どうもここがその来た時使ったテーブルらしい。そんな偶然もあるんだねって僕が言うと、なのはも頷いて運命を感じるって答えた。

 そしてメニューを見つめて、二人であれがいいこれがいいって意見を交わす。ワインは迷ったけど、赤ワインにした。なのはも白よりも赤が良かったらしく、素直に頷いてくれた。次のスープも意見が一致してコンソメになった。
 実はなのはが美味しいコンソメに挑戦中なんだ。理由はその……僕。久方ぶりに考古学者として出席したパーティー。そこで振舞われたコンソメが美味しくて。それを話したら、なのはが再現してみせるって意気込んでくれて……ね。

 で、前菜はどうするって僕が聞いたら、なのははサラダにしてと返して、そこで少し意見調整。僕はサラダじゃなくほうれん草のバター炒めが良かったんだ。
 結局なのはが、主采で重たい物を食べるんだから前菜は軽めの物がいいって言ったんだ。だから、僕はそれに従う事にした。さて、いよいよメインの選択だ。でも、これはもう二人の意見が決まってる。

「なのは、どれにする?」

「う~ん……やっぱり牛がいいかなぁ?」

「あ~、それもいいね。でも、ハトも捨てがたいんだよね」

「ハトって、あの鳥の? え~っ、それは何か可哀想だよ」

 そう、赤ワインだから肉料理。でも、なのはは僕の意見にやや嫌悪感を見せる。む、それは偏見だよ、なのは。

「なのは、牛もハトも同じ命だ。それを生きるために食べる事は同じ罪だよ。それを外見や行動で判断して区別するのは間違ってる」

 そう、命は全て平等だ。生きるために他の命を食べるしかない以上、それについてあれこれ意見するのは間違ってる。誰だって何かを食べないと生きていけないんだから。犠牲無くして自分の命は成り立たない。
 僕はそう思ってるから、菜食主義者だろうがゲテモノ食いだろうが同じだと思ってる。ま、それに賛同してくれとは言わない。でも、植物も動物も生きてるんだ。それだけは忘れちゃいけない。なのはにもそう伝えたら、意外そうな表情を浮かべた後、少し反省するような表情を見せた。

「そうだね。ハトも牛も同じ命だったよ。うん、もう何も言わないから」

「……無理しなくていいんだよ? ハトやウサギを食べる事に抵抗がない人は多い訳じゃないし」

「もういいの。それに……美味しいんだよね?」

 なのは? さっきと別人に思えるぐらいどこか楽しみにしてるよね? ま、いいか。ならハトにしよう。そう思って、決まったオーダーを伝えるために手を上げて店員を呼ぶ。ワインから主采まで告げたところで、店員がデザートはどうしますって聞いてきた。
 それに僕もなのはも忘れてたって顔をした。なので、店員が気を利かせて「お任せも出来ますが?」と言ってくれたので、思わず二人で「それで」と返した。それに店員が苦笑して「畏まりました」って告げて去って行った。

 それを見送って僕となのはは、視線を互いに向けて照れ笑い。ふと視線を周囲へ向ければ、周囲も店員と同じで苦笑している人達が多い。それを確認し、次は恥ずかしく思えて二人で縮こまる。
 でも、どこか表情は楽しそうだと思う。なのはがそんな感じだからだ。僕の方を見てそんな顔をしてるって事は、きっと僕も同じような顔をしてるはずだから。そんな風に思いながら、僕はなのはへ最近の事を話題に会話を始める。ヴィヴィオの事なんかも交えて……



「じゃあ……ユーノ君とのデートに」

「なら、なのはとの二人だけの時間に」

「「乾杯」」

 ワインを注いだグラスを静かに合わせる。ガラス同士が重なる音が小さく響き、それに僕となのはの顔に笑みが浮かぶ。正直、フェイトやはやても大切だし、好きだ。でも、それとは違う感情がやはりなのはにはある。
 初めて出会った時から、今まででなのはと過ごした時間は多い。その分だけ思い出がある。笑顔が、涙が、想いがある。きっと、それはなのはも同じだろうと思う。だから、何も言わず見つめ合うだけでこんなに満たされるんだ。

 その後、次々と運ばれてくる料理に感想を言ったり、なのはが調味料から材料までを、正確に判別していったのには驚いた。味覚が鋭いとは思っていたけど、本当に凄い。何せ、それを主采を運んで来た店員へ告げて答え合わせをしたんだから。
 ……まさかシェフが直接会いに来て、笑顔で「そこまで分かってくれる方がいてくれて嬉しい」ってなのはに言ってくれるとは思わなかった。僕は呆気に取られたけど、その時のなのはがどこか嬉しそうだったのでよしとした。ちなみに、なのははちゃっかりとコンソメのレシピを教わっていた。うん、抜け目ない。

 ちなみにハトは美味しかった。なのはもやや意外そうに思ったらしく、苦笑しながら「これからは、ハトを見て美味しそうって考えそうで困る」って言った。なのはならそんな事はないと思うけど、スバル辺りだと冗談抜きでそう考えそうで怖い。
 そう言ったらなのはは笑った後、少し困った表情で有り得ない話じゃないから困るって返した。うん、僕も酷いけどなのはも酷い。今度スバルに会う事があったら言ってみよう。え? 僕は……ちょっとしたジョークって言って……ゴメン。なのはの視線がやや鋭くなったので早めに謝罪。僕は既に対処が逃げ腰です。

 最後のデザートは二色のシャーベットだった。色からして予想されるのは……時期的に葡萄と梨かな? 日本産の梨は、水分が多くて瑞々しいって大人気。持ち込んだ人は地球出身の先祖を持つ局員だったんだけど、あまりにも人気になったもんだから自分で栽培を始めたんだ。
 今じゃかなりの規模になってるらしく、シーズン近くになると梨狩りなんかも出来るって家族連れの予約が凄いらしい。あ、今度ヴィヴィオを連れて行ってみようかな? なのは、ヴィヴィオって梨は好き? ……果物で嫌いな物はない、ね。うん、ヴィヴィオらしいよ。

「でも、どうして梨?」

「ほら、セリカ農園って知ってる?」

「あ~! あの元武装隊の」

 そうなんだよ。その人は元武装隊所属。しかもシグナムの同僚だったんだ。ロングヘアーでややきつめの目つきをした知的な女性―――だったんだって、昔は。今は農業のためか髪をばっさり切ってショートになり、目つきもかなり柔らかくなったってシグナムが言ってた。
 そう、シグナム繋がりで八神家はそこへ一度全員で遊びに行ったらしい。二ヶ月前に会った時、シグナムがそう話してくれたんだ。どうも、昔目つきが鋭かった理由は周囲に負けないようにって思っての事だったらしく、シグナムは参考にされていたらしいって言って苦笑していたっけ。

 そんな事をなのはと話しながらシャーベットを口に入れる。うん、やっぱり予想通りだ。さらっと溶ける感覚。広がる甘味。思わず顔が綻ぶ。見ればなのはも同じ顔をしている。こんな時間もたまにはいいね。そう言ったら、なのはが毎週でもいいよって返してきた。
 そうしたいけど、お互い忙しいんだよね。そう軽く苦笑して言ったら、なのはが頷いた。そんな会話をしながら最後の一口を食べ、互いに少し落ち着くために談笑をする。そしてそんな良い雰囲気のまま会計を済ませ、店を出る。最後に是非また来てくださいって言われたのは、何となく本音のような気がして、僕らは揃って笑顔でまた来ますって返した。

「……さ、じゃあこれでお開きだね」

「あのさ、なのは。もうちょっとだけいいかな? 話があるんだ」

「ふぇ? いいけど……?」

 僕の申し出に不思議そうな顔を返すなのは。そうだよね。何を話すんだろうって、そう思うよね。僕はそんな事を考えながら、ズボンのポケットに手を入れる。そこに感じる感触で気持ちを引き締め直すように。
 そして僕らは歩き出す。向かう先は特に決めてないけど、あまり人の目がない場所がいいな。もしくは静かな場所。さっきのお店でもよかったんだけど、言い出すタイミングを見出せなくて頓挫したんだ。

「ね、話ってどんなの?」

「う、うん……かなり重要な話、かな」

 鼓動が早くなる。口の中が乾き始める。歩みが自然と速度を増す。でも、なのはと合わせようとそれだけは何とか抑える。すると視界の隅にホテルが見えた。そこの喫茶スペースには人があまりいないのを見て、僕はここだと思った。

「なのは、ちょっとお茶でもどう?」

「そうだね。ワインの酔いも少し醒ましたいし……うん、行こ」

 内心で安堵の息を吐きながら僕らはホテルの中へと足を踏み入れる。そして迷う事無く喫茶スペースへ行き、そこの適当な場所へ腰掛ける。すぐに男性がやって来てもうラストオーダーですって言われたけど、僕にとっては都合がいい。
 二人してホットミルクティーを注文。それを聞いて一礼し去っていく男性を見送り、僕はなのはへ告げた。話は注文の品が運ばれてからすると。それになのはも若干疑問符を浮かべたけど、頷いてくれた。

 少ししてさっきの男性が二つのティーカップを持って来て、ごゆっくりと告げて去って行った。それに一度だけ口を付け、僕は小さく息を吐く。なのはの方を見れば、同じように一度だけ口を付けただけでカップを戻していた。その視線は僕へ向けられ、話は何? って聞いている。
 ……よし、ここしかない。僕はそう決意し、なのはへ話を切り出した。それは、この半年で起きた僕の気持ちの変遷を教える事にもなったけど、構わない。

「あのね、僕はなのは達にこう言った。幸せにする事が出来ないって」

「……うん」

「それは今でも思うんだけど、あの頃と一つだけ変わった事があるんだ」

「変わった事?」

 そうなんだよ。あの頃はただ幸せにする力がないって思うだけだった。けれど、今はそこに”でも”が続くんだ。そうなのはに言うと、不思議そうに表情を変えて僕を見つめる。何が言いたいのか分からないんだろうね。

「……今は、でも僕が幸せになれるって思うようになったんだ」

「そう、なんだ」

「でね、その……凄く厚かましいし、身勝手なんだけど……」

 深呼吸をする。なのはがどこか僕の言いたい事を悟ったのかまさかって顔をしてる。うん、そのまさかだよ。
 なのはが何か言う前に、僕は口を開いた。一度しか使えない今だけの、僕だけの”魔法”を成功させるために。それと同時にズボンのポケットからある物を取り出す。その小箱を開いて、なのはに見せながら。

―――これからも幸せになっていいかな? なのはの傍で。

 その瞬間、なのはの目が見開かれた。そして、その目がゆっくりと閉じていく。流れるのは涙。なのはを泣かせた。そんな風に思うけど、決して僕の心はうろたえない。ただ黙ってなのはの返事を待つ。
 僕の手にあるのは指輪の入った小箱。その意味は言わなくても分かるはず。なのはは少しの間無言で涙を流して、小さく呟いた。でも、僕にも聞こえるぐらいだったから、きっと聞かせようとしたんだろう。

―――もう、普通それって女の子の台詞だよ……

 そう呟いてから、なのはは軽く目元を拭う。そしてしっかりと目を開けて笑ってくれた。

「いいよ。じゃあ、ユーノ君が幸せになるように、私も幸せになるね」

「うん。僕も出来る限り頑張るから」

「にゃはは、期待してるね」

 プロポーズしたにも関らず、どこかいつもと同じ雰囲気。でも、それがさっきよりも親密になったのは互いに感じてる。なのはの視線が指輪に向いたのを見て、僕はそれを静かに手に取った。
 そして、なのはへそれを差し出して尋ねる。着けさせてもいい? そう言うと、なのはが嬉しそうに頷いた。それを受けて僕はその指に指輪をゆっくりと滑らせていく。それをなのはがどこか熱っぽく見つめる。

「……どう?」

「…………うん。でも、よく指のサイズ分かったね?」

「ヴィヴィオから聞いたんだ」

「あ、成程ね。それでヴィヴィオが指のサイズなんて聞いてきたんだ」

 なのははそう言って小さく笑う。気付けば良かった。そんな風に言って。ヴィヴィオが聞いてきた時、変な感じがしたんだけど、その後折り紙で出来た指輪を貰ったからそれで納得したんだって。うん、それは僕がお願いして渡してもらったんだ。
 なのはに万が一にも気付かれないために、ね。ちなみに渡した理由はヴィヴィオの誕生日祝いのお返しにした。ヴィヴィオの誕生日は、彼女がゆりかごでなのはと戦った日になったんだ。あの日から高町ヴィヴィオとしての本当の人生が始まったからってね。

 なのははしばらく指輪を見つめ続けていた。そして、ふと思い出したんだろう。僕へ心配そうに尋ねてきたんだ。フェイトとはやてはどうするのかって。それに僕ははっきりと告げた。二人も守りたいって思う相手に変わりはない。でも、ちゃんと恋愛対象としては絶対に見ないと告げるつもりだって。
 それになのはは複雑な表情を一瞬だけ見せたけど、すぐにいつもの表情に戻して頷いた。きっと二人はそれを受け止めて歩き出せるだろうからって。僕もそれに頷いた。あの二人は強い。僕への想い以上を抱ける相手を必ず見つけ出すはずだ。

「きっと二人なら、なのはが悔しがるような相手を見つけるよ」

 僕がそう思ってなのはへ冗談めかして言うと、それになのはは小悪魔的な笑みを返して……

―――私には、ユーノ君以上の相手なんていないよ?

 なんて答えてきたんだ。うわ……思考が止まる。その言葉だけで僕は無敵になれるよ。顔を真っ赤にしながら僕はそう告げた。それになのはが嬉しそうに、でも苦笑した。そして、残ったミルクティーを飲み干して、なのはを送って行こうと思って立ち上がったんだ。
 すると、なのはが外へ向かおうとする僕の手を掴んだ。何だろうと思って振り向くと、なのはが顔を赤くしながら潤んだ目で僕を見ていた。それに僕の鼓動が高鳴る。同時に邪な想像が浮かぶので、それを心の中で振り払った。

「ど、どうしたの?」

「……帰りたくない」

「え、でも……」

 ヴィヴィオはどうするの? そう言う事は出来なかった。なのはが突然僕の口を塞いできたからだ。そう、自分の口で。

「……ヴィヴィオはナカジマ三佐にお願いして泊めてもらうから。ユーノ君、悪いんだけどヴィヴィオへ電話してもらえる?」

 それだけで僕はなのはが何を考えたか理解出来てしまった。どこかでヴィヴィオにごめんと思いながら、僕は携帯を取り出してヴィヴィオへ掛ける。ちょっと長めにコール音が鳴って、ヴィヴィオが出た。
 僕はヴィヴィオに心から申し訳ないと思いながら嘘を吐いた。なのはが少し飲み過ぎてダウンしてしまったって。そして、その事でナカジマ三佐に頼みがあるから少し代わって欲しい事を。それにヴィヴィオはなのはの心配をしながらも、ナカジマ三佐へ携帯を渡してくれた。

『おう、どうした?』

「あ、そのなのはがですね……」

 僕がさっきヴィヴィオに言った嘘を告げ、そのためヴィヴィオを泊めてもらえないかと切り出した。すると、ナカジマ三佐はそれだけで何かを察したみたいで、苦笑しながら了承してくれた。

『そっか。高町の嬢ちゃんがな。いいぜ。今日はスバルが帰って来てるし、相手にも困らねぇ』

「すみません」

『いいって事さ。あ、それと……最初はどうしても張り切っちまうからな。明日に響かない程度に抑えろよ?』

「っ!?」

『じゃあな』

 そう言ってナカジマ三佐は電話を切った。完全に気付かれてる。僕はそう思って額に手を当てた。それを見てなのはが不思議そうにこっちを見つめてくるから、僕は簡単にさっきの会話の内容を伝えた。
 それを聞いてなのはも顔真っ赤にした。うん、嘘吐いて男と泊まりをするってばれてるし、しかもそうなると内容は一つしかない。それを悟られ、尚且つ人生の先輩として忠告までされたんだ。これはかなり恥ずかしい。

 でも、もう止まれない。そう思ってるのは僕だけじゃない。なのはも同じだろうから。それから僕はホテルの空いてる部屋を取り、鍵を受け取ってエレベーターへ。その間、僕らは一度も口を開かなかった。
 でも、感じる空気感は一つ。気まずさよりも気恥ずかしさが勝るものだ。これから何をしようとしてるかを理解してる。それが変な緊張を与えてる。部屋の鍵を開け、室内へ足を踏み入れる。まず目についたのは言うまでもなくベッド。そう、ツインじゃなくダブルなんだ。

「……しゃ、シャワー浴びてくるね」

「う、うん……」

 なのはが軽く緊張した声でそう言ってバスルームへ向かう。僕はそれを見送り、倒れこむようにベッドに向かった。スプリングが小さく軋むような音が聞こえたけど、関係ない。今の僕の気持ちは例えようがない状態だ。
 微かに聞こえる水音。それに否が応でも邪な想像が浮かぶ。でも、それを振り払う事が出来ない。なのはと一夜を共にする。それ自体は初めてじゃない。ジュエルシードを探していた頃にそれは経験済み。でも、あの頃と今じゃ意味合いがまったく違う。

「僕は……今日、なのはと……」

 そう呟くだけで僕の中で強烈な喜びと感動が沸き起こる。そして、強い欲求もまた同様に。それを何とか必死で抑え付け、僕はひたすらなのはを待った。なのはが出たら、僕がシャワーを浴びて少し冷静さを取り戻そうと思ったからだ。
 やがてなのはがバスローブ姿へ戻ってきた。それを見て僕はやや慌て気味に立ち上がった。理性がそれでかなり危うくなったからだ。なのはへ自分もシャワーを浴びてくると告げて、僕は急いでバスルームへ向かったんだ……



 今、僕はなのはとベッドに向かい合うように座っている。何故かお互い正座なのは、まぁ緊張してるからなんだろうね。

「え、えっと……」

「う、うん……」

 僕が切り出そうとするとなのはも緊張したような声を返す。それだけで僕の中の緊張が高まる。

「……大切にするよ、なのは」

「……うん」

 そう言って僕はゆっくりなのはの方へ顔を近づける。なのはもそれに合わせて目を閉じた。重なる唇と唇。さっきは動転して分からなかったけど、なのはの温もりやその唇の感触を感じる。
 そして、ゆっくりと僕となのはは顔を離して、互いを見つめ合う。なのはの目は潤んでいる。それが可愛くて、そして艶かしくて。僕の中の劣情がどんどん強くなっていくのを感じた。

「なのはっ!」

 なのはを強く抱きしめる。それになのはが少し驚いたみたいだったけど、それに構ってられないとばかりに、僕はその体をそのまま押し倒した。そして、なのはの顔を見つめた。なのははそれだけで僕の気持ちを察してくれたのか、小さく頷いた。
 僕はそんななのはを見て、自分を叱りつける事が出来た。なのはの顔には、若干の戸惑いと恐怖があったように見えたからだ。僕はそんな風になのはに思わせた事を反省し、優しくしようと自分にきつく言い聞かせた。

「……ごめんね、なのは。もう大丈夫。優しくするから」

「ユーノ君……」

 もう一度安心させるようにキスをする。それでなのはの体から力が抜けるのが分かった。僕はそのままなのはの体を隠すバスローブの結び目を解いていく。それになのはが気付くも、それを止めるような事はしない。
 そして、僕はなのはの胸へと手を伸ばす。細心の注意を払ってそこを触る。それになのはが小さく震えた。でも、その反応は拒否じゃない。それを確かめるように、僕は優しく胸を、首筋を、聞いた事のある感じる場所と言われる部分を触っていった。

 それに、なのはの息が少しだけど艶めいていく。それに僕も興奮していくのを感じていた。もういいよ……ね?
 そう思い、僕は完全になのはからバスローブを取り去った。そして露わになるなのはの体。正直、それを見た時、僕は欲望なんてものが綺麗に吹き飛んだ。それだけの何かがその光景にはあったんだ。
 僕が無言で見つめ続けたからだろう。なのはがさすがに我慢出来なくなって、僕へ戸惑いがちに声を掛けてきた。

「は、恥ずかしいんだけどなぁ」

 そこでやっと僕は正気に戻った。そして、なのはにごめんと謝る。それになのはが苦笑して、雰囲気が和んだ。それから、僕となのはは互いの体温を感じるぐらいに触れ合い続けた。躊躇いや戸惑いもあったし、気恥ずかしさや若干の気まずさを体験しながら、いよいよその時がやってきた。

「じゃあ……いくよ」

「うん……来て」

 その言葉を受けて、僕はなのはと一つになった。それから後の事は……いや、止めよう。思い出すだけでかなり悶えたくなる。嬉しさと恥ずかしさと情けなさと、とにかく色々なものが思い出される結果に終わったとだけ言える。

 そして、それから僕となのはは本当に恋人として歩き出した。周囲からは、やっとかと言われたけど、僕となのはの気持ちとしては、遂にって感じだったんだ。
 ヴィヴィオは、僕がなのはの指の大きさを聞いて欲しいって頼んだ時から「いつパパになってくれるのかなって、待ってたんです」と言われ、結婚前にも関らず、僕はパパと呼ばれている。気持ちとしては、かなりの光栄と少しの照れかな。

「……それで? いつまでその惚気を聞かせるつもりだ。もうこれで五回目だぞ?」

「君だって、エイミィさんと結婚した当初はこんなものだったよ」

「うっ……新婚と恋人は……」

「違わない。それに、僕となのはは婚約してご両親に許可までもらったんだ。気分はもう新婚みたいなものさ」

 クロノの言葉を遮って、僕はそう言い切った。それにはクロノも反論出来ないのか黙った。ま、本音はこれ以上何を言っても無駄だって思ったんだろう。既にあれから半年近くが経過しようとしている。
 季節が巡り、また春が来ていた。今、僕は海鳴にいる。クロノと久しぶりに話そうってなって、男二人で居酒屋で話してるって訳だ。僕がここに居るのは、なのはのご両親へ挨拶に来たためだ。

 その時は色々と驚いた。なのはのお父さんがかなり娘を溺愛してるとは思ってた。でも、まさか本当に話をした後、僕に向かってあんな事を言うなんて……

―――分かった。なのはの選んだ相手だ。だが、だが一発だけ君を殴らせろ。

 それに僕は迷う事無く頷いて、その拳を受けた。おかげで今も片方の頬が痛むんだけどね。魔法で治す事も出来た。でも、敢えてそれはしないと決めた。この痛みは、なのはのお父さん―――士郎さんからの許しの証なんだから。
 母親である桃子さんは、無茶をする子だから支えてやって欲しいと言ってくれた。それになのはが苦笑いし、僕は力強く頷いた。なのはは今、ヴィヴィオと一緒に高町家にいる。結婚式は、迷ったけどミッドで挙げようと思ってる。

 なのはも僕も気が早いかもしれないけど、場所だけはもう決めようってね。ミッドにしたのは、関係者が集まるのに適しているから。すずかやアリサ、高町家の人達も来る事は簡単に出来るんだ。
 だから、ミッドになった。日取りまでは決まってないけど、きっと来年になると思う。理由は……なのはにしか分からない。桜の時期がいいって言ってたから。物事の始まりに合わせたいんじゃないかなって思う。

「にしても、フェイトもはやても逞しいな」

「……だね」

 そう、二人はそれぞれ僕がなのはと付き合うと告げた後、笑顔でこう言った。

―――そうなんだ。じゃ、なのはを絶対幸せにしてね、ユーノ。私もきっと幸せになるから。

―――そっか。なら、なのはちゃんを今度こそ守ってあげてな。わたしも、わたしだけを守ってくれる人捜すから。

 その言葉の通り、現在二人はリンディさんやレティさんからのお見合い話を吟味し、精力的に出会いを求めている。どうも、僕が後悔するぐらいの女になって、悔しがらせるんだって息巻いてるらしい。

「いつになるか知らないが、なのはが局員を辞める時が来る。その時、お前はどうする?」

「決まってるさ。首になるまで無限書庫に残るよ」

 そこで思い出すのは、なのはのあの日の言葉。

―――私は、ユーノ君が知らない場所になんて行かないから!

 そして、あの時の自分の言葉。

―――これからも幸せになっていいかな? なのはの傍で。

 僕らは互いの傍にいる。それは何があっても変わらない。それに、最近なのはがこんな事を言い出したんだ。魔法が使えなくなって、空を飛べなくなったら、翠屋の手伝いをしながら跡を継ぐ準備でもしようかなってね。
 ヴィヴィオが独り立ちするまではミッド暮らしだけど、ヴィヴィオが立派に自分の道を歩き出したらそうしようかなって、結構本気で考えてる。僕はそれを応援する事にした。実際、無限書庫への通勤は転送魔法へ切り替えれば出来ない話じゃない。

 そんな事をクロノへ告げたら、呆れた顔をした後に苦笑した。確かに僕ならやりそうだってさ。君だって出来る事ならそうしたいくせに。次元航行艦の艦長職、かなり辛く思ってるらしいね? そう言ったら、クロノは痛い所を突かれたので黙りこんだ。
 そう、クロノは今頑張って昇進しようとしている。やはり、たまに帰ってきても、子供達にお客さん扱いされるのが相当効いているらしい。でも、現場も好きなものだから中々後方に下がる事も出来ないので、本人はかなり困ってる。

「……お前もヴィヴィオ以外に子供が出来たら、一度長期で家を空けてみればいい。僕の気持ちが嫌って程分かる」

「そうか。なら、遺跡関係の仕事があったら引き受けてみるよ……あ、でも駄目だ。僕が長期でいないと無限書庫が立ち行かなくなる。残念だなぁ」

「お前、本当にいい性格してるな」

「君程じゃないよ」

 そう言ってお互いにお酒を煽る。そして、互いに視線を向け合い、小さく笑う。

―――結婚が決まってからが始まりだからな……気を抜くなよ。

―――分かってるさ。でも、忠告感謝。

 こうして僕とクロノは手を上げて別れた。それが婚約後にクロノと飲んだ最初の機会だった……



 そして、遂にその日が来た。桜舞う季節。場所は、ミッドチルダはベルカ自治区の聖王教会。神前って形式も考えたんだけど、なのはがそれは写真だけでもいいって言ったので、式自体には着ない事になった。
 ちなみに、後日写真撮影のために白無垢姿になったなのはは、とても綺麗だった。何しろ、その写真を見た女性陣が一様にため息を吐く程に。

 現在僕は新郎側の控え室をうろうろしている。その様子を見て正装のエリオとヴァイスさんが苦笑いをしてる。仕方ないじゃないか。なのはの方へ行きたいのに、呼ぶまで着ちゃ駄目だって言われてるんだからさ。
 エリオとヴァイスさんはそのための見張りだったりする。くそ、二人共覚えてろ。知ってるんだ。君らにも結婚するだろう相手がいる事は。エリオはまだかなり先だろうけど、ヴァイスさんは違う。何せ相手が……ねぇ。

「なんすか。俺の顔見て不気味に笑って」

「いや、シグナムにティアナ、アルトさんだっけ? 三者三様の美人だよねぇ」

「……あ、僕ちょっとなのはさん達の様子を……」

 僕が挙げた名前にヴァイスさんが呻いたのを聞いて、エリオがそそくさと動き出すけど逃がさない。ストラグルバインド! 見事エリオの動きを封じ込める。悪いけど、サポート系魔法なら僕はまだまだ現役レベルだよ。
 エリオは自分がバインドされた事に驚いたみたいだったけど、それでも諦めずにバインドブレイクをしようとするところが若い。でも、少しでも時間が出来ればこっちのもの。

「エリオ、君は家庭的な子と知性的な子とどっちが好み?」

「な、何でキャロとルーみたいな例えなんですか!?」

 僕の例えに即座に返すエリオ。うん、それだけで君が二人を意識してるって分かるってもんだよ。そう言ってあげると、エリオが小さく「あっ……」と呟いて何も言わなくなった。

「……エリオ、やっぱお前まだ若えな」

 ヴァイスさんはそんなエリオへ噛み締めるように告げる。それに完全にエリオが沈黙。しかし、その顔は真っ赤だ。僕がかつて通った道。それを彼らも歩くのだろうか。だとしたら、僕から言える事はただ一つ。

「二人共、諦めが肝心だよ。女の子は恋をすると無敵だから」

 その言葉に二人が揃って苦笑し、項垂れた。以前の僕の状況を知っているんだろう。そんな二人を見て僕が少し溜飲を下げていると、そこへクロノとロッサが現れた。当然ながら二人も正装姿だ。
 僕はなんだろうと思って視線を向けると、それに二人が小さく笑みを浮かべて告げた。

「色男、許しが出たぞ」

「さ、異性で一番最初に見る権利を行使してください」

 それに僕は頷く事も忘れて走り出した。やや慌てて二人がドアから動く。僕は一言ゴメンと告げてそのまま走る。控え室自体はそこまで離れていない。でも、僕にはそれが凄く遠く感じられた。
 視線の先に見えてきた新婦側の控え室のドア。その前にはフェイト達が勢揃いしている。表情は一様に苦笑しているけど、今の僕にはそれに鎌っている余裕がない。フェイト達に目もくれず、ノブを掴んで急いでドアを開けた。すると、そこには……

「な、なのは……?」

「もう、少し慌て過ぎだよ?」

 純白のドレスに身を包んだ天使がいた。本当にそう見えたんだ。でも、そんな呆ける僕へなのはが告げた言葉がそんな幻覚を振り払う。僕はもう一度落ち着いてなのはの姿を見つめた。
 そのドレス姿は色が同じだからだろうか、どこかバリアジャケットを思い出させる。でも僕は、だからこそなのはに似合うんだなと思った。なのはのイメージカラーはホワイトかピンク。そう、バリアジャケットの色か魔力光の色だ。

「……綺麗だ。それしか言葉が出てこないよ」

「にゃはは……ありがとう、ユーノ君」

 そして、なのはは僕のタキシード姿を見て、カッコイイよと返してきた。そんなやり取りをしてると、後ろから多くの咳払いが聞こえた。それに僕となのはが視線を向けると、そこにはフェイト達がいた。

「イチャつくのは程々に」

「まだ式始まってへんからな」

「私達は先に式場に行ってるからね」

「アンタ達、少しは自重しなさいよ」

 フェイト、はやて、すずか、アリサが口々にそう言って去って行く。

「じゃ、ヴィヴィオも先に行ってます。パパ、ママ、また後で」

 ヴィヴィオが笑顔で手を振りながら歩き出す。それに僕らも手を振り返して見送って、僕らは苦笑した。まだ夫婦にもなってないのに、パパにママと呼ばれる事に慣れている事がおかしく思えたんだ。
 式が始まるまでもう少し時間がある。そう思って僕はなのはへ気になった事を聞く事にした。どうして結婚の日取りを今日にしたのかと。何か意味はあるのだろうか。何せ、なのはは絶対今日じゃないと嫌だとまで言ったのだから。

 すると、僕の問いかけになのはが少し怒りを見せる。本当に今日が何の日か分からない? そんな風に聞かれたのだ。それに僕は必死に思い出していく。なのはとの日々を細かく。でも、特に何かあった時期じゃなかったと思うし……
 そんな風に思った時だ。僕の中にもしかしたらという出来事があった。でも、自信はない。それでも、万が一の可能性に賭けようと思ってなのはへ意を決して告げた。

―――僕らが始めて出会った日?

―――正解。私の運命の人との出会いの日だよ。

 そう告げると、なのはは静かに涙を流した。そして、僕へゆっくりと近付く。僕はそんななのはを見つめ、何も言わない。なのはの涙は決して悲しい涙じゃない。そう分かったから。だけど、幸せな式の前に涙は似合わないと思って、その涙を優しく指で拭う。

「ユーノ君、私と出会ってくれてありがとう。ユーノ君が私に多くのモノをくれたんだよ」

「それなら僕も。なのは、僕と出会ってくれてありがとう。なのはの笑顔が、気持ちが今の僕を作ってくれた」

 そう言い合って、どちらともなく顔を近付け合う。だが、その時視界の隅に入った時計を見て、僕は慌てた。式の開始時刻がもうすぐまで迫っていたからだ。

「なのは、時間!」

「ふぇ? ……あっ!」

 揃って急ぎ出す。でも、なのははドレスだ。走る訳にはいかない。そう思った瞬間、僕はある行動に出た。

「なのは、ちょっとゴメン!」

「え? わわっ!?」

 なのはの体を抱き抱えて、僕は走り出す。お姫様抱っこって奴だ。なのはは僕の首に腕を回し、しっかりと捕まってくれている。その顔が赤いのは、きっとお互い様だろう。そう思って僕は何も言わない。
 やがて式場への扉が見えてきた。教会の人が僕らの姿を見て軽く驚くも、微笑みながらその扉を開けてくれる。それにありがとうと告げ、僕はそのまま式場へと走り込んだ。それと同時に聞こえてくる多くの歓声。男性は拍手喝采で。女性は羨望の眼差しと共に。

 それを聞きながら、僕はなのはへ告げた。

―――どう? 少しは男らしいでしょ。

―――それはいいけど、恥ずかしいよぉ……

 なのはの言葉にその場の全員が声を上げて笑う。僕も笑った。なのはは最初こそ恥ずかしがっていたけど、最後には一緒になって笑った。これが、僕となのはの結婚式の始まり。
 後は、最後のブーケトスまで何も問題なく進んでいった。誓いの口付けも指輪の交換も周囲の反応はあったけど、つつがなく終わったんだ。でも、最後のそれだけは異様な殺気が感じられる状態だった。

 フェイト達は言うに及ばず、シグナムやシャマルさえ意気込んでいるし、キャロやルーテシアなんかもやる気だった。ヴィヴィオはそんな周囲に疑問符を浮かべて、桃子さんに理由を聞いていたりする。
 なのはも親友や仲間達の様子にやや困惑していたが、意を決して手にしたブーケを投げ放つ。それは掴もうとする多くの手を逃げるようにある人物の手に落ちた。

「あ”?」

 ヴィータは、急に振ってきたそれに心から理解出来ないと言った声を出す。だが、そんな彼女に周囲の女性から非難の声が上がる。ヴィータには相手がいないのだから受け取っても仕方ないって。それにヴィータは馬鹿にされたと捉えたのだろう。
 自分にも相手ぐらい居るって反論し、更なる反論を防ぐためにだろうけど、周囲を見渡して一人の人物を掴んだ。でも、それは当然ながら相手にとっては予想外でしかなく……

「な、エリオ!」

「え? ……ええぇぇぇぇっ!?」

 そんなエリオにキャロとルーテシアがどういう事なのかと詰め寄り、ヴィータが六課の頃から色々と世話焼いてたら、そんな関係になったと告げるとスバルだけが成程と頷いていた。まぁ、即座にティアナに突っ込まれていたけど。
 そんな大騒ぎする友人知人達を眺め、僕となのはは笑う。結婚しても変わって欲しくない事は、何も変わらない。そんな風に思えたからだ。そして、周囲がエリオとヴィータを中心に盛り上がる中、僕らは静かに誓い合った。

―――愛してるよ、なのは。これまでも、そしてこれからも。

―――愛してるよ、ユーノ君。いつまでも、ずっとずっとね。




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なのはエンド。ルートじゃなくてエンドになってしまった。

次回はフェイトエンドを予定。でも、同じような展開にしか出来ない気がして不安だったり。



[27022] ユーノはフェイトの本音を聞きたいらしい
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/17 02:26
「ただいま……」

 実に四日ぶりに我が家に到着だ。あの黒い奴め、覚えてろ。今度通信してきたら、エイミィさんから聞いたあの呼び方で呼んでやろう。それは、あいつの愛する子供達が、休暇になって帰ってきたあいつに呼びかけるもの。

「絶対お客さんって呼んでやる」

「ゆ、ユーノ? いきなりどうしたの?」

 僕がかなり不敵に笑っていると、それを聞いてエプロンを付けたフェイトが少し不気味に思ったのか、やや困惑気味にそう声を掛けてきた。あ~、今は君がいるんだったね、フェイト。
 つい最近長期任務を終えたフェイトは、僕の代わりに家の事をやってくれている。というか、実はもう半ば同棲に近い。フェイトと僕がこうなったのは、あの日から一月半後。原因は言うまでもなくあの黒い奴。

 僕があいつからの資料請求で机に突っ伏してばかりだった頃だ。それをあいつから聞いたフェイトが僕へ言ってきたんだ。

―――お義兄ちゃんのせいでユーノに負担かかってるから、私がそのお詫びをするよ!

 そう言ってフェイトは僕の家の鍵を借り、掃除に洗濯などをやってくれたんだ。長期休暇の間だけではあったけどね。それ以来、フェイトは休暇になる度に、こうして僕の家に来てくれる。正直、なのはとはやても同じような事をしようとしたんだ。
 でも、それは辞退して頂いた。だって、フェイトは長期の間の数回。でも、なのは達はたまの休みを潰す。この差は大きいと思ったんだ。なので、こうして家の鍵はフェイトだけが所持する形となっている。いや、問題があるとは思ってるよ。でも、今更返せとは言えないんだ。

「何でもない。ごめんね、変な事言って」

「ならいいけど……あ、ご飯出来てるよ。お風呂も沸かしてあるし……どうする?」

 そう、これだ。疲れて帰ってきて、誰かが出迎えてくれて、しかも食事やお風呂が準備されている。このコンボを味わってしまった以上、僕はこれを手放す気にはならないんだ。
 あ、フェイト、ご飯が先でお願い。それと、ありがとう。休暇の度にこうしてくれて。そう僕が言うと、フェイトは照れながらも微笑んで首を横に振った。

「ううん、私が好きでしてる事だし。それに……ゆ、ユーノが喜んでくれるだけで十分だよ」

 ……これでどうして言い寄る男が現れないんだろう? そう思わせるには十分過ぎる程の可愛さだ。疲れもあるからだろうけど、一瞬我を忘れて押し倒しそうになったのは仕方ないよね? とりあえず、まずは服を着替えよう。楽な格好になりたい。
 そう思って僕はよろよろとベッドルームへ。それを見てフェイトが小さく苦笑。でも、それがどこか楽しそうに聞こえるから、僕は何も言わないで歩いた。そして、無事にベッドルームへ到着。まずは上着を……

「ユーノ、もう食べられるからね」

「ありがとう」

 キッチンから聞こえてくるフェイトの声に返事をし、僕は部屋着に着替えていく。それと共に気分も寛ぎモードへ切り替わる。うん、やっぱりこうじゃないと。先程まであった張り詰めた感じが消え、全体的に気だるさを感じるけど、それでも心地良い怠惰感だ。
 でも、キッチンからの匂いで僕の足が動く。なのはやはやて程じゃないけど、フェイトも家事をある程度する。一人暮らしで培った部分が多いらしいけど、元々リニスって人に料理は軽く教わったらしい。その話を僕へ聞かせてくれたフェイトは、どこか懐かしそうで悲しそうだったのをよく覚えている。

 キッチンに到着。そして、すぐにテーブルへ着く。すると、即座にフェイトが僕の目の前へご飯を運んでくれる。海鳴暮らしが長かったフェイトは、実は基本が和洋食の献立で、比率としてはやや和食が多い。理由はリンディさんなのは間違いない。
 あの人、変に日本好きなんだもんなぁ。さすがに食事にはあの奇妙な味覚は発動しなかったようで、そこだけは安心しているんだけどね。フェイトは僕がそんな事を言ったら、非常に困った顔を返したのをよく覚えてる。反論したいけど、出来ない。でも、しないままなのもよくない。そんな風に葛藤していたのが手に取るように理解出来たから。

 そんな事を思い出してる内にフェイトもテーブルに着いて、後は夕食開始の言葉を待つだけになっていた。うん、僕が言う事になってるから。フェイトは僕の向かいでその言葉を待っている。どこかお預けをされた犬を思わせるかも。

「どうしたの?」

「何でもないよ。じゃあ、いただきます」

「いただきます」

 うん、すっかり僕も日本慣れしてる。二人揃って両手を合わせてそう言って、箸を手にして食事を開始。フェイトは最近料理の腕を磨くべく、料理本を片手に練習中。その出来た物は大抵僕が食べる。いや、嬉しいんだよ? フェイトが僕のためにって作ってくれるのは。
 でも、たまにやらかすミスが凄い。この前はベタだけど塩と砂糖を間違えて、煮魚が恐ろしい味になった。でも、フェイトはそれを僕に出したりはしなかった。味見をして気付いたからだ。でも、僕はせっかくフェイトが作ったんだからって、それを半ば強引に食べた。甘辛いのではなく、塩辛いだったけどご飯のおかずと考えれば。そう思って食べたんだ。

 さすがに塩分過多な気がしたフェイトが、半身だけしか食べさせてくれなかったけどね。でも、それ以外は特に問題がなかった。フェイトは天然かもしれないけど、決して残念ではないんだ。僕はそうはっきりとこの一月半で知った。

「そういえばユーノ。今度のお休みはどうする?」

「むぐ……うん、特に決めてないけど……」

「じゃ、買い物に行きたいな。そろそろ洗剤とお米が無くなりそうなんだ」

「了解。あ、ついでに本も買いたいな。新刊も出てるだろうし……どう?」

「賛成。じゃあ……」

 こんな風に会話してると、時々本当に夫婦になったみたいな錯角を覚える。フェイトは僕と過ごす事が多くなったからか、よく本を読むようになった。次元航行艦付きの執務官だと中々娯楽もないから読書は一番最適なんだって。
 ただ、以前はどんな本がいいか分からなくて手を出しかねていたらしいんだけど、僕が仕事柄色々な種類の本を読むからね。簡単に読めて面白いものをある程度紹介してあげたんだ。そうしたら、見事に本の虫の完成という訳。

 たまの休みは二人で黙々と本を読んで、昼食時や夕食時に感想を言い合ったり、たまには意見の食い違いから喧嘩みたいになる時もある。でも、それさえ僕らには楽しい時間の過ごし方になってきているんだ。
 そう、僕の中の気持ちをゆっくりと変化させるぐらいに、ね。そして、決め手はとある噂。フェイトが僕の家に出入りしている事をどこかで知ったのか、流れ出したそれ。きっとフェイトも知っている。でも、それを僕に言った事は無い。

―――フェイト執務官は、スクライア司書長と同棲しているらしい。

 それは世間体を考えれば、結構悪印象を与えるものだ。実際、それが流れ出してからフェイトの評判が若干下がったと聞いている。それを聞いて、僕は決めたんだ。そんな噂を吹き飛ばす事を。きっとフェイトはそんな噂を気にしていないと思う。でも、このままにはしておけないんだ。

「そうだフェイト。この前の本はどうだった?」

「あ、凄い面白かったよ。一巻も面白かったけど、二巻はもっと凄い急展開ばかりだったし。予想を何度も裏切られて、思わず唸っちゃったんだから」

 僕とフェイトが話してるのは、とある法廷物の小説。何でもどこかの管理外世界で発売したゲームを基にしてるらしく、タイトルは”逆転法廷”って言って、かなりの人気作。最初フェイトは、執務官という職業上そういう物はちょっと……って言ってたんだけど、執務官は判決を下す訳じゃない。それに、基は作り物だからって言って読ませたんだ。
 結果はご覧の通りで、見事にお気に入りとなった。既に五巻も発売されていて、全巻僕の家にある。そうそう、番外編の”逆転判決”が発売されたなぁ。そう思い出して、フェイトにその話をしてみたら身を乗り出してきた。

「それって、主役が検事側の?」

「そうだよ。今までの弁護側じゃなく、検事側に焦点当てた話さ」

「そっか……私はどちらかと言えばそっちだから、結構楽しみだな」

 フェイトはこの小説を読んで、いかに真実を求める事が難しく、そして尊いかを思い知ったと言っていた。自分もかつて裁判を受けた身だ。色々と思う事もあるんだと思う。その後も僕らは食事しながら本の話題に終始した。
 後片付けを終えて、一時間程静かに二人で本を読む。その間会話はない。それでも、何故か僕もフェイトも満足だった。心地良い沈黙。そんな表現がしっくりくるような感覚。それを感じていたからだ。

 やがて夜も深くなったところでフェイトが立ち上がる。僕もそれに気付いて視線を動かす。フェイトはバスルームへ向かおうとしてた。

「ごゆっくり」

「うん。覗いてもいいよ?」

「フェイトっ!?」

「ふふっ、冗談だよ。でも、ユーノなら許すからね」

 馬鹿な事言ってないで、早く行くように。そう言うと、フェイトは笑いながらバスルームへと消えた。まったく、フェイトは時々ああやって僕を挑発してくるんだ。はやてとかならもう慣れているからいいんだけど、フェイトはどうしても身構えていても動揺してしまう。
 しかも、そういう時のフェイトは大体妖艶なんだ。僕の理性をぐらぐらと揺らすぐらいにね。参ったな。もう完全にフェイトに翻弄されてるかも。でも、そう思いながらもどこか嫌じゃない。

 そんな事を考えながら、僕は静かに読書へ戻る。今日、僕はある事をフェイトへ告げようと思っていた。そのために、なのはやはやてにはもうある事を告げている。退路を絶ったって訳じゃないけど、フェイトに僕の気持ちをきっちりぶつけるために。
 そう、二人にはこう告げた。僕は、完全になのはもはやても異性として見ないって。それに二人は微かに悲しみを見せたけど、それでも最後には僕の決断を支持してくれた。お幸せに。そう悲しそうな笑顔で言われたんだ。でも、僕はもう後悔しない。そう誓ったんだ。

―――あの時のような思いは、もうさせない……

 思い出すのは、フェイトが完全に自分を見失った時の事。なのはが立ち直らせたけど、僕は何となく気付いている。フェイトはまだどこかであの事を乗り越えられていない。今は乗り越えたと思い込んでるだけ。
 その証拠に、フェイトは必ず誰かに依存する傾向がある。まずはなのは、次はエリオとキャロ、そして僕だ。本人にその気はないのだろうけど、そんな気がするんだ。捨てられる事を危惧している。だから優しくする。ヴィヴィオへの対処で、なのはとフェイトが軽く意見がぶつかった時からもそれが分かる。

 フェイトは甘い。優しさとも言えるのだろうけど、どこかそれは自分のためにも見える時がある。なのはは僕へそう言っていた。エリオに、キャロに、なのはに、そして僕に。大切な人に嫌われたくなくて、優しくしてるんじゃないか。
 僕はその意見を聞いた時、そう思った。だから決意した。僕はフェイトを支えようって。なのはにはヴィヴィオが、はやてにはヴォルケンリッターがいる。でも、フェイトにはいない。エリオもキャロも既に自分の道を歩き出しているからだ。

「……フェイトに、同情したのかって言われるかもしれないけど、ね」

 その時はその時だ。なってから考えよう。そんな事を思いながら、僕は手にした本の頁を捲る。内容はさっきから少しも入ってこなかった……



 フェイトが湯気を出しながらリビングに戻ってきたのを見て、僕は本を閉じて視線を向けた。フェイトはバスタオルでその長い髪を拭いていて、その格好は最近お決まりのYシャツとハーフパンツだけ。以前はハーフパンツじゃなくて下着だけだったから、完全に誘ってるよねって言ったら、フェイトは少しだけ顔を赤くして消え入るようにうんって返した。
 なので、僕が言ったんだ。さすがにそれは勘弁してくれって。なので、今はこの格好になってる。いや、それでも十分そそるものがあるんだけどね。

「フェイト、ちょっといいかな?」

「何?」

 髪を拭きながらフェイトはそう平然と声を返してきた。うん、今の僕には何も不安はない。なら、いいかな。そう思って僕はフェイトへ座るように促して、呼吸を整える。

「……率直に言う。フェイト、僕と一緒に暮らそう」

 フェイトの表情が変わる。嬉しさと同時に何故急にっていう疑問を浮かべている。当然だろうね。だから、こう続ける。ただし、今のままでは暮らせないと。それにフェイトが更に疑問符を浮かべる。

「えっと、色々と混乱してるんだけど……今のままじゃどうして駄目なの?」

「フェイトが僕と本音で向き合ってくれないからだよ」

 その言葉にフェイトが困惑した。自分は本音を僕へ言っている。そう断言した。でも、その瞳がどこか不安そうに揺れているのを、僕は見逃さない。

「……本当にそうなら、どうして今まで、一度として不満も文句も言ってくれないの?」

「それは、ユーノに不満も文句も……」

 ない。そう言おうとしたんだろうね。でも、僕はそれを遮る形で口を挟む。

―――知ってる? 君はこの一月余り、ある状況では一度も反論しなかった。僕が少し強く意見を言うだけで、ね。

 それにフェイトは驚愕した。そう、フェイトは僕が強く意見を通そうとすると、必ず折れるんだ。冗談めかすように渋々とか、まるで僕の意見の方が正しいと納得したかのように。それらの内、いくつかは本当にそうだったんだと思う。でも、全てそうとは思えない。
 僕がそう思っている事をフェイトも感じ取ったのだろう。だからこそ驚愕しているんだ。僕の視線はフェイトを責めるものではなく、理由を尋ねるものだ。でも、それは本心じゃない。もう僕はフェイトがどうしてそうしていたかの答えを持っている。これは、それをフェイト自身の口から聞きだすためだ。

 フェイトはしばらく黙っていたけど、観念したみたいに語り出した。それは、大方僕の予想通りだった。怖かった。意見を否定する事で嫌われるんじゃないかと。もう自分の相手をしてくれなくなるんじゃないか。フェイト自身、そんな簡単に僕がそんな事をしないと分かっている。でも、どこかでそう思って不安になるんだって、そう涙混じりに告げた。
 自分が我慢すればいい。そうすれば笑っていられる。いつまでも傍で笑ってくれる。ずっと、一緒に居てくれるって。そう思ったとフェイトは語った。僕はそれを聞いて、フェイトの心に刻まれた傷跡はやはり深かった事を知った。

 フェイトが恐れているのは、間違いなくあのプレシアから受けた扱い。自分を殺したようで殺せずに、どこかでプレシアの笑顔を求めたフェイト。それ故にプレシアに疎まれ、最後には完全に拒絶された。
 それを恐れるあまり、フェイトは他者とのコミュニケーションにおいて、最後の最後に自分を殺す事を覚えてしまった。相手を愛すれば愛する程、大切に思えば思う程自分を抑えるように。

「……私、嫌だったんだ。ユーノが私へ笑ってくれなくなるのが、見てくれなくなるのが、相手をしてくれなくなるのが……怖かったっ!」

「フェイト……」

「本音で向き合おうって、あの時思ったはずなのに。それがユーノの部屋の鍵を貰ってから、どんどん消えていくのが自分でも分かった。この幸せを壊したくない。今のままでいたいって」

 フェイトは涙を流しながら、僕へ今までの思いの全てを吐き出していく。なのはやはやてに励まされ、気付かされて抱いた勇気。それが僕との仲が親密になるにつれて、徐々に弱々しくなっていった事。もうこのまま特別な関係にならなくてもいいから、傍にいたいと思い始めていた事。
 それらをフェイトは話して、深く息を吐いた。僕はそんなフェイトへ静かに近付き、その肩に手を置いた。フェイトがそれに微かに震えるけど、それを無視して僕はフェイトへ告げた。

―――やっと本音を聞かせてくれたね。

 それにフェイトが驚いて視線を僕へ向けた。僕はそれに笑顔を返す。それにフェイトは信じられないといった表情を浮かべたけど、段々それが喜びへと変わっていく。僕はそんなフェイトの変化に嬉しく思って頷いてみせる。
 それにフェイトが再び涙した。でも、それはさっきまでのとは違う。それは嬉し涙だ。どこかで不安だった思い。本音を言ったら僕が離れていくんじゃないかとの懸念。それが今やっと確信を持ってたんだ。

―――ユーノは……やっぱり優しいね。

―――そんな事ないよ。でも、出来るだけそうあろうとは思ってる。

 目元を拭いながら告げるフェイトへ、僕はそう微笑んで返す。そして、フェイトへ尋ねた。一緒に暮らしてくれるかって。それにフェイトは一瞬の躊躇いもなく頷いてくれた。

 こうして、僕とフェイトは初めて心から本音を良い合える仲になったんだ……



「あっ……ユーノ、それ私の読みかけだよ」

「そんな事言ったって、栞が挟まってなかったんだ。だから、フェイトが悪い」

「そんな事ない! 大体私の場所に置いてあったでしょ!」

「いつから寝室はフェイトの場所になったのさ!」

「右の本棚は私の領土です!」

 朝からそんな事を言い争うのは、僕と妻のフェイト・T・スクライアだ。最初、テスタロッサかハラオウンのどちらを残すか迷っていたフェイトだったけど、リンディさんやクロノが言ったんだ。苗字が無くても絆は残るからって。それでフェイトはテスタロッサを残したんだ。プレシアとの絆はそれでしか残せないからって。

 で、今日は久しぶりに二人揃っての休日。でも、ご覧の通り喧嘩の真っ最中。あれ以来、フェイトはどんな事にも意見を述べるようになって、僕としても嬉しかったんだけど……

「共同で使おうって言ったじゃないか?!」

「でも、ユーノが二つあるから個人用にしようって言ったよ!」

 ……何と言うか、今までの反動なのか結構喧嘩が多くなった。でも、それは決して悪い事じゃなくて……

「……そうだった。ごめん、僕が悪かった」

「えっと……私もちゃんと栞を挟んでおけば良かったんだし、その……ごめんなさい」

 そう言って僕らはどちらともなく笑い出す。そう、喧嘩するようになってからの方が、もっとお互いの事を知る事が出来たんだ。どんな事を考えてるのか。何が好きで何が嫌いなのか。色々な事が分かってくるんだ。趣味や嗜好、それに傾向までね。
 ちなみに結婚自体はつい最近だけど、婚約はあの次の日にしたので共同生活は長い。おかげでフェイトの同性愛者疑惑も同棲の噂も綺麗に消し飛んだ。現金なもんだよ、婚約したら同棲が結婚準備のためで片付けられるんだからさ。

 笑いながら、フェイトはエプロンを手に朝食の支度へ戻り、僕は本を置いてその手伝いへ向かう。僕らの今の住まいは、クラナガンの中心から結構離れた住宅街。そこの庭付き二階建ての一軒家だ。
 通勤面でちょっと苦労はあるけど、庭も家庭菜園が作れる程広いし、ローンも二人なら余裕で払えるからここにした。それに、何と言ってもここは静かだ。少し風があるような過ごし易い日は、庭に作ったベンチで二人で読書するのがちょっとした楽しみなんだ。

 ……まだした事は一回だけだけどね。一人でならもう二回ぐらいはある。でも、二人ってなると中々、ね。

「ユーノ、コショウ取って」

「それと塩も、だね」

「ありがとう」

 僕から塩とコショウを受け取り、フェイトは嬉しそうに笑みを返す。それに僕も同じような笑みを返した。今日のメニューは……ハムエッグにトースト、そしてトマトサラダかな? あ、野菜スープもあった。
 僕はとりあえずスープを皿に注いで、テーブルへと運んでいく。それを横目で見て、フェイトが小さく笑う。すごく綺麗な笑みで。僕はそれに目を奪われそうになるけど、ある事に気付きやや苦笑気味に告げた。

「フェイト、焦げるよ?」

「え? あっ!」

 慌ててフライパンからハムエッグを皿へ移すフェイト。油断するとドジをしそうなのは相変わらずなんだ、これが。ともあれ、どうやら黒コゲのメインディッシュは回避出来たようだし、一安心かな?
 そう思っていると、フェイトが僕へ視線を向けて少し拗ねたような声でこう言った。軽く焦げたのは僕の分にするって。ちょっと、それはどうしてさ? 僕は何も悪くないよ。でも、フェイトはそんな僕へ小さく呟いた。

―――今、絶対ドジだなって思ったでしょ?

―――うん、そんなフェイトが僕は大好きだからね。

 僕の反撃にフェイトが真っ赤になって沈黙。一見すると僕の勝利。でも、そうじゃない。何せ、言った僕も真っ赤だからね。いや、どうしてロッサは照れずにこういう事が言えるんだろう? 僕は本心からの言葉なのに照れるんだけど……
 そんな感じで朝食準備も終わり、二人でテーブルに着いて食事開始。このところ、無限書庫にもやっと春が来た。そう、新人司書が何と二人も来たんだ。とは言っても、一人はこれまでよりも大目に手伝ってくれるってだけ。何せ、昔からある意味で司書だったんだ。そう、ヴィヴィオの事。

 ヴィヴィオは学校の長期休暇を使って、臨時司書として働いてくれている。本格的にそうなったのは、去年からだけど。実は、魔法学院に入学して初めての夏休みに、する事がないって言って無限書庫に入り浸るから、僕がちょっとした気紛れに教えた検索魔法を見事にマスターしてね。
 そこから影で小さな司書長って呼ばれるぐらいの存在になるまでが……いやぁ、実に早かった。なので、今や無限書庫の欠かせない戦力となりつつあるかな? なのはは、将来無限書庫司書で武装隊所属になりそうって苦笑いしてたっけ。僕としては是非このまま司書長になって欲しいとこなんだけどなぁ。

 そんな事を考えていると、フェイトが僕へ相談事があるって真剣な表情で切り出した。その急な申し出に僕は目が点になった。でも、フェイトの表情から只事ではないと思い、小さく咳払いをして姿勢を正す。

「あのね……」

「うん」

「私が子供好きなのは知ってるでしょ?」

 それに僕は頷いた。フェイトは幼い頃の反動か、子供がかなり好きだ。今でも孤児院などに寄付などを欠かさない。出来る事なら引き取りたいけど、次元航行艦付きの執務官では中々面倒が見れないため、それが出来ずにいる。
 昔はそれでも、リンディさん達の協力もあって出来たんだけど、今は僕との夫婦生活のためにそれも無理だからだ。その関連の話かな。そう思って僕はフェイトの話の続きを待つ。

「でね……その……」

 でも、フェイトがそこから先を中々言わない。何か戸惑っているようにも躊躇っているようにも見える。

「どうしたの?」

「……そろそろ自分の子供が欲しいな、って」

 その言葉だけで僕は強い衝撃を受けた。そう、フェイトは仕事の事を考えて、する時は常に出来ないようにと細心の注意を払っていたんだ。僕もフェイトが望まない以上、無理に作る気もなかった。やっぱり望まれて生まれてくるのが一番だからね。

「えっと、じゃあ仕事の方は?」

「う、うん。出来たら、産休って事になる。クロノ……お義兄ちゃんも理解してくれるし」

「そ、そうなんだ……」

 そう返して、僕は手元のカップに手を伸ばす。ちょっと喉が渇いてきたな。そんな僕へ目もくれず、フェイトは顔を赤くしながら爆弾発言をした。

「それでね? えっと……実は今日が良い日で」

 っ!? 危なく口に含んだ物を吐き出すところだった。フェイト、いくら何でも夫婦だからってそれは……

「ふぇ、フェイト!?」

「駄目、かな?」

 フェイトへ注意しようとしていた僕の中の何かが、それだけで完全に沈黙した。時間を見る。まだ九時前だ。今日は休みだったから朝食も遅めに取ったんだけど、まだ日が高いな。それでも、僕は無言で立ち上がる。それにフェイトがどこか不思議そうに見つめてくる。
 僕は窓へ近付き、カーテンを閉める。それで部屋の中が結構暗くなった。それでフェイトも、僕が何を考えて動いているかを理解したんだろう。いそいそと立ち上がって、寝室へと歩き出す。

 クロノ、お前に今度会ったら言わなきゃいけない事が出来た。きっと僕は今日、君の大切なフェイトを少し乱暴に扱ってしまう。だから、次に会ったら心の中で謝っておくよ。ごめんって……
 そんな事を考えながら、僕も寝室へと向かう。そこには、既に一糸纏わぬ姿のフェイトがいて、シーツで体を隠すようにしながら僕を見上げていた。

―――ゆ、ユーノ。その……優しくしてね?

―――うん、ごめん。それは多分無理。

―――え、ええっ!?

 そこから先は……まぁ、想像通りだよ。そんな姿のフェイトに上目遣いなんかされて理性が持つ訳ない。この日から一年後、フェイトは一人の女の子を産む。
 名前は二人で悩んだけど、アリシアにした。そう、フェイトのお姉さんの名前だ。こうして僕達は三人家族になった。それから先? それは話せないよ。だって、僕にもまだ分からないんだからね!




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フェイトエンド。なのはとの明確な違いは、結婚後の描写です。なのはは結婚までが大変で、フェイトは結婚してからが大変。そんな感じがしたもので。

次ははやてだけど……正直もうネタがないかも……?

その後は三人エンドかそれとも……



[27022] ユーノとはやてが祝福されるらしい
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/19 07:19
 カーテン越しに差し込む柔らかな日差し。それを感じ、僕はゆっくりと目を開けた。えっと、まず眼鏡を……あった。ぼやける視界をはっきりしたものへ変えてくれる物を手に取り、鈍い頭のままでそれをかける。
 うん、見慣れた僕の部屋だ。そう認識すると同時に隣で何かが動いた。それに構わず、僕は視線を時計へ向ける。あ、もう八時過ぎてる。ま、今日は休日だからいいんだけど、彼女はどうだったかな? 昨日、寝る前に確か聞いたんだけど、忘れちゃったなぁ。

「はやて、朝だよ」

「ん……もう五時間」

「長いよ。というか、起きてるよね?」

「……そこは、せめて五分だろって突っ込んでくれんと」

 そうやや拗ねたような声で僕に文句を言いながら、隣のはやては目を開けた。そう、はやてと僕は平然と一夜を共にしている。そこに至るまでの理由には、ある問題があった。ヴォルケンリッターだ。
 なのはやフェイトからも想いを寄せられてる。それを知っていたシグナム達は、僕がはやての事だけを考えられない限り、僕との交際は認めないってはやてに告げた。無論、それにはやては反発。僕は決して三人を天秤に掛けてはいないと、ね。正直、それだけでも僕は嬉しかった。

 何とそこから喧嘩に発展し、初めてはやてが家出した。いきなり無限書庫へ来て、僕の家にしばらく住まわせて欲しいってね。最初は仲直りを薦めた。でも、はやての意思は固かった。

―――みんながわたしの事を思ってくれとるのは分かる。でも、わたしが好きになったユーノ君を、まるで最低男みたいに言ったんは許せん。

 しばらく頭を冷やさせる必要があるって思った僕は、次はなのはかフェイトの家を薦めた。でも、はやてはそこだとすぐにシグナム達がやって来るし、最悪なのは達が説得されたりするかもしれないからと言って、僕の家がいいって聞かなかった。
 結局僕ははやての事を考え、家の鍵を渡した。下手に断って、ホテル住まいとかにするのもどうかと思ったんだ。はやては結構な役職に就いてるけど、ホテル住まいをいつまでも続けられる程の余裕はないはずだから。

 なので、現在はやては僕と同居中。いや、過ちは犯してないよ。はやてがそういう事を誘ったりする事は何度かあったけどね。なのはやフェイトには教えてはいる。でも、二人には事情を説明して理解はしてもらった。
 決してシグナム達へ教えないでとは言わなかった。きっとシグナム達も、まさかはやてが家出するとは思ってなかったはずだから。実際何度か無限書庫に守護騎士達は現れて、僕にはやての事を尋ねてきたんだし。僕ははやての言い分をそのまま伝えた。それにシグナム達も思う事があったんだろうと思う。僕へしばらく面倒を掛けるって言ってきたんだから。

 そんな事を思い出してると、はやては起き上がって伸びをしていた。本当はベッドルームをはやてに使ってもらって、僕はリビングでって思ってたんだけど、それを止められたんだよね。はやては、ここは僕の家だし、自分のわがままを聞いてもらってるんだから、そこまでは出来ないって。
 で、ベッドルームに以前の布団を敷いて寝る事になったんだけど……現状からも分かるように、はやてはたった一週間で僕のベッドへもぐり込んできたんだ。理由は寂しいから。同じ部屋にいるのに同じ場所で寝られないのが嫌だって。いや、勿論僕は言った。そういう問題じゃないよって。でも……

―――あのな、わたし、ヴィータと一緒に寝る事多かったんよ。やから……その……

 つまり、あまりにも長期間一人で寝ていると、あの孤独だった頃を思い出してしまうんだって。そう言ってはやては僕へ言ったんだ。たまにでいいから一緒に寝て欲しいって。そこまで言われて僕が突き放せる訳ない。色々と葛藤はあったけど、はやてと一緒に寝る事にしたんだ。
 そう決めたのが、もう今から二週間前。はやてが同居するようになって、もう一月が経った事になる。シグナム達は、まさかここまで長引くと思っていなかったらしい。それは僕もだけどね。で、はやての気持ちを甘く見ていたって言って、現在密かに僕と相談中。はやても最近よくシグナム達の事をそれとなく聞いてくるので、そろそろ和解も近いと僕は思ってる。

「ん? 何? わたしの顔じっと見たりして」

「あ、うん……可愛いなってね」

「そうやろ? 自慢してもええよ」

「何てはやてを自慢するのさ?」

「そこは、僕の可愛いフィアンセです……ってな」

「はいはい……」

 こんなやり取りも既に慣れた。あ、はやて、今日は……休みだったかを聞こうと思って、僕は気付いた。休みじゃないのなら、はやてがこの時間でここまで落ち着いてないって。なので、その質問はなし。
 代わりに違う事を聞く事にする。そう、この後の事だ。朝食を二人で作って、買い物ぐらいは予想出来る。でも、その先が思いつかない。お昼以降はどうするんだろう? そう考え、はやてへその旨を尋ねる。すると……

「そやな…………あ」

「何か思いついた?」

「……うん。海鳴に行ってもええ? ちょう行きたいとこあるんよ」

 はやてはそう言って僕に笑みを見せる。でも、何だろう。その笑みはどこか悲しそうで、それでいて懐かしそうで。何か複雑な印象を与える笑みだった。とにかく、そういう事なら早く着替えないと。そう思って僕は着替えを手にベッドルームを出ようとする。はやても着替えないといけないからね。
 そんな僕へはやてが普段と同じ感じの声でこう告げた。別に一緒でもええよって。毎回の事なんだけど、性質が悪いのは、はやてにこの手の事を言われて僕がそれに乗ると、はやては意外と受け止めてしまうんだよね。なので、こういう手の言葉には……

「それは初夜まで楽しみに取っておくよ」

「なっ!?」

 こう返す。そう、はやてが言われてびっくりするようなのを、ね。僕はそのままベッドルームを後にし、ドアを閉めた。だから聞こえなかったんだ。僕の言った言葉に、はやてが噛み締めるように呟いた言葉なんかは。

―――初夜、な。本気ならめっちゃ嬉しいんやけど……



 湖畔のコテージ。海鳴にある転送ポートの一つだ。何でも以前六課での出張任務の際、なのは達はここを使ったんだって。はやて達はすずかの家の庭を使ったらしいけど。今回ここにした理由は簡単。人様の庭に無断で現れるのは、あまりよくないと判断したから。
 しかし、久しぶりの海鳴の地だよ。僕は本当に久しぶりだ。はやて達は故郷だけど、僕にとっては思い出の場所ってだけ。だから、来る理由はないからね。まずはどこへ行くのかな。そう思ってはやてへ視線を向けた。でも、はやては何かを思い出しているのか、ただ黙っているだけだ。

「……はやて?」

「ん。ちょうな、昔の事を思い出しとったんよ」

「ああ、そうなんだ。そうだよね。はやてにとっては故郷だし、色々思う事もあって当然だよ」

 その言葉にはやては頷いて、僕の手を握って視線を向けた。それに僕が視線を返すと、行こうと言って歩き出した。僕はそれに頷いて歩き出したんだけど、気付いた事があったんだ。はやての表情がどこか思い詰めてるって。
 でも、それを聞く事はしなかった。きっとその理由ははやてから話してくれるだろうって思ったから。それまで待とう。そう考えたんだ。はやてにつれられるように僕は歩く。見覚えのある街並みが見えた頃には、もうはやてはいつもはやてに戻っていた。

「さて、まずは翠屋やろ」

「だと思った」

「で、美由希さん達に報告や」

「成程ね。つまり……」

 そこで僕とはやての目が合う。互いに浮かべるのは軽く悪戯めいた笑み。

「「僕(わたし)達、結婚します」」

 綺麗に揃って同じ内容の言葉を告げる。そして、一瞬の間を置いて二人して笑い出す。楽しくてしょうがないって、そんな笑い声を出して。でも、はやても僕も今の言葉を冗談として言ったんだろうか。少なくても、僕は完全に冗談って訳じゃない。
 シグナム達が僕と相談している背景には、それが関係してる。言われたんだ、シグナム達に。いくらはやて達が構わないと言っても、僕が三人を同じように想っているとしても、外から見る者達には分からないし理解されないと。

 そして、それで一番問題にされるのは、他でもないはやてだとも。闇の書事件の関係者からは理解を得ているはやて。でも、かつての被害者や局員の中には、当然ながらはやての事を悪く言う人がいる。はやてはそれを甘んじて受け入れてるけど、守護騎士達からすれば居た堪れない。
 自分達が犯した過去の罪。そのせいで最後の主であるはやてが悪く思われる事に。だから、シグナム達は僕へ言ってきたんだ。本当にはやての事も大切に想うのなら、潔く決断を下して欲しいと。それは、僕がはやてへの想いを捨ててしまうか、はやてだけを受け入れるしかない。実は、もう一つ選択肢がない訳じゃないけど、それは色々と問題が多すぎて話にならなかったので除外。

 勿論、僕には即答出来る問題じゃなかった。でも、その答えは確かに出さなきゃいけないものだと思い知った。それにね、はやてとの日々で僕にも色々と思う事もあった。だから、答えを出す時期になってきたんじゃないかなとは思う。
 あの三人から想いを伝えられた日から二ヶ月近く経過した。まだ二ヶ月近くなのか、それとも、もう二ヶ月近くなのか。どちらにしろ、このままでいい訳じゃない。それだけは分かった。

「あ~っ、笑ったわ。ユーノ君もわたしの考え分かってくれるようになってきたなぁ」

「まぁ、もう一ヶ月も一緒に暮らしてるしね」

「あはは、そやった。じゃ、行こ」

「うん」

 僕がそう言って歩き出そうとすると、はやてがにやりと笑って腕を絡めてきた。それに僕はため息を吐く。でも、そのまま同じような笑みを返して平然と歩みを再開した。それにはやてが若干驚きを見せるけど、一瞬だけ嬉しそうに笑ってから悔しそうに表情を変える。

―――む~、ユーノ君に抵抗力ついた。

―――おかげさまでね。なんなら肩も抱こうか?

―――おー、言うやないか。あ、どうせならキスして。

―――公共の場でそういう事を大っぴらに言うんじゃないの。

 そんな会話をしながら僕らは歩く。心なしか互いの距離が二つの意味で縮まった気がした……



「いや~、楽しかったな」

「……僕は疲れたよ」

 翠屋から出た僕らは対照的な表情だった。はやては声からも分かる通り笑顔だ。対して僕は疲れ切った顔をしてるはずだ。原因はなのはのお父さんである士郎さん。親を亡くしていたはやての事も実の娘のように思っていたらしく、結構色々と言われたのだ。
 泣かせないように。これはまだ予想の範囲内。浮気しないように。これも理解出来る。でも、他の女性に色目を使わないようにって言った時、何故か士郎さんが一瞬だけ桃子さんを見たんだ。まるで、それをしたら後が怖いぞと僕へ警告するかのように。

 他にも色々と言われたけど、なのはとフェイトの事は教えてなかったから短く終わった。でも、これがもし知られていたら……僕は生きてあの場所を出る事は出来なかったはずだ。はやてだったから優しいお父さんらしい言葉だったけど、なのは絡みならおそらくもっと厳しい人になっていたはずだ。
 何せ、本人が冗談めかしてそう言ったんだよ。これがなのはとだったらもっと色々あるんだけどなって。なのはが愛されてるのはよく分かったけど、一体何をされるんだろうね、その場合。士郎さんが、なのはが結婚出来ない理由の一つにならないといいけど……

「な、ユーノ君」

「何?」

「ちょうな……もう一箇所、行きたい場所があるんよ」

 そう言ってはやてが視線を向けたのは、小高い丘だった。そこに何があるんだろう? でも、はやてが行きたいって言っているのなら。そう思って僕は頷き返す。それにはやてが小さく「おおきに」って言って歩き出す。僕の腕と自分の腕を絡ませるのは、もう自然になっていた。
 僕も特に何も言わない。気にならないし、むしろ嬉しく思っていたからだ。でも、それをはやてに伝える事はしない。何故って? はやてが変な気を起こすから……って言いたいけど、違う。本当はその逆。はやてが気後れすると思うからだ。

 はやては普段から、よくからかいやちょっかいを出す。でも、それが一定以上になるとどこかで身を退いていると、僕は感じた。それを強く思うようになったのは、やはり共に過ごすようになってから。
 その中でも、はやては僕へ挑発的行為を仕掛けてくるんだけど、それに僕がたまに本気になりかかる時があるんだ。いや、はやての言動があまりにも酷い時は痛い目を少しは見せないと、って思ってね。でも、そうなった瞬間、はやてに一瞬だけ恐怖が見えるんだ。

 まるで、そんな展開は嫌だって言うような……そんな表情。それを見る度に僕は踏み止まって、はやてはそんな僕に疑問符を浮かべるんだけど、それを追求しようとはしなかった。きっと、どこかで気付いてるんじゃないかな? 僕がどうしてそんな反応を見せるのかに。

「ね、はやて」

「ん?」

「今から行く場所は思い出の場所なの?」

 僕は何となく話題が欲しくて言ったんだけど、それがどうも当たりだったらしく、はやてが小さく驚きを見せて頷いた。忘れられない思い出が眠る場所なんだって、はやては教えてくれた。でも、その内容までは着いてからだって言って教えてくれなかった。
 周囲はもう日も暮れ始めて、夕日色に染まり出していた。やがて、海鳴の街を軽く一望出来る場所が見えてきた。そこに辿り着くと、はやてが僕から腕を離して、その中央へ歩み寄った。

―――元気にしとるか、リインフォース。

 そこで空を見上げて、はやては確かにそう言った。それで僕も分かった。初代リインフォース。はやてが名付けた夜天の魔導書の別名である”祝福の風”の名を受けた最初の存在。彼女の最後はなのは達から聞いた。
 そうか、この場所から彼女は旅立ったのか。僕がそんな事に気付き、納得したように頷いたのと同時に、はやてがこちらへ振り向いた。そして、僕へ手招きをしてくるので、不思議に思いながらもはやての傍へ。

「紹介するな、リインフォース。わたしの彼氏のユーノ君や」

「いつの間に僕は彼氏になったの?」

「今だけでもええやんか」

「なら、今だけ夫にもなるよ」

「お、言うたな。聞いたか、リインフォース。ユーノ君は旦那様へランクアップや」

「あと数分後には、自然にただの幼馴染へランクダウンするだろうけど」

 そんなやり取りを空を見上げてする僕ら。はやてがどうしてここに来たのかは分からなかったけど、でもきっと何か意味はあるんだろう。そう思いながら、僕ははやての言葉を聞く。
 はやては空に向かって楽しそうに話しかける。それは、遠い旅の空にいるリインフォースへ届けと思って告げているんだろう。そこに悲しみはない。今の自分の暮らしや最近の出来事などを楽しそうに話していくはやて。でも、それがある話になった瞬間、鈍くなる。

―――シグナム達は……そのな……

 家族であるシグナム達。それを話題にしたのは、やはりそれも聞かせないといけないと思ったからだろうね。でも、一ヶ月以上も会っていない。話もしていない。伝えられる事が……今のはやてにはない。
 その原因を話す事が、出来ない。言えるはずがないよ。リインフォースは、はやてとシグナム達が仲良く家族として暮らしてると思ってるはず。それを喧嘩して家出しているなんて。でも、隠すのもどうかな。そう思った僕は、中々言葉を紡ぐ事が出来ないはやてに代わって、こう告げた。

―――ちょっとした喧嘩をしたんだ。でも、大丈夫。日本じゃ、喧嘩する程仲が良いって言うからね。その内仲直りして、今以上の絆を取り戻すよ。

 それにはやてが驚きを前面に出した表情で僕を見た。それに僕は視線を向けて、小さく笑う。そうだよね? そう言って。それにはやてが言葉に詰まる。でも、頷いて顔を空へ向けた。その横顔は、見た事のないぐらい清々しく、そして美しい笑顔だ。

「心配せんでもええよ、リインフォース。ユーノ君の言うた通りや。わたしもシグナム達も絶対仲直りするから」

「それに、もしまた喧嘩するようなら、僕が君の代わりにきつく言っておくよ。どうして互いの気持ちを汲んでやれないのかってね」

「っ……そ、そうらしいわ。まぁ、何やな。うん……そんな感じなんよ」

 はやてはどこか涙ぐんだ声でそう言って、こう締め括った。

―――頼りになる旦那様やろ、ほんま。

 それに僕は頷くのでも、声を返すのでもなく、黙ってはやての肩を抱き寄せた。はやてが驚くけど、そんなの関係ない。そして、空に向かって告げる。ここで言おう。そうだ。僕の決意を聞いてもらう相手として、リインフォースは申し分ない。

「よく聞いて欲しいんだ、リインフォース。君が最初の証人だから」

 その言葉にはやてが理解出来ないと小首を傾げる。そんなはやてへ僕は顔を向け、はっきりと、力強く告げる。

「はやて、僕も家族にして欲しい」

「えっ……それって……」

「そして、家族みんなで暮らそう。”九人”で」

 僕の言った人数にはやてが目を見開いた。そう、八神家は現在はやてにシグナム達守護騎士四人にリインとアギトの二人を加えた計七人。そこに僕を加えたとしても、八人。じゃ、残りの一人は? それをはやては察した。察してくれた。
 だから、その目から涙が流れていく。表情が歪んでいく。僕はそれに笑みを返すだけ。それにはやてが涙ながらに頷いて、僕の胸に顔を埋める。

―――リインフォースは、いつも傍にいるよ。はやてとその家族の傍に、ね。

 僕がそう呟くと、はやてが小さく頷いた。そう、彼女は旅立った。でも、その心は、想いは、遠く離れた訳じゃない。それは、いつでも確かにあったんだ。目には見えなくても、感じる事も出来なくても、そう信じる事で彼女は生きてる。
 はやては、僕の言葉からそう感じ取ってくれたんだと思う。しばらく僕の胸で泣いて、目元を拭って顔を上げた時には、もうはやては元気なはやてに戻っていた。僕の、一番好きなあの笑顔を浮かべるはやてに。

「なのはちゃんとフェイトちゃんにはどう言うの?」

「立ち直り早々それを聞く?」

「気になるもん」

「まぁ、確かにそうだろうね。ご心配なく。ちゃんと僕が納得させるから」

「うん、信じとる」

 僕の言葉に合格点だと言わんばかりに頷き、はやては笑う。僕はそれに苦笑を返し、一度だけ深呼吸。それにはやてが不思議顔。そうだろうね。何を思ってそんな事をするのか分からないだろうし。
 対する僕は心臓が高鳴ってる。こういう事をするのは初めてだし、緊張もする。でも、それをはやてに悟られる訳にはいかない。さっきのプロポーズよりも、ある意味ではこっちの方が重要だ。

「で、はやてにお願いがあるんだ」

「何や?」

「二人と向き合う勇気をくれないかな?」

「勇気? ええけど、どなっ!?」

 はやての言葉が不意に途切れる。僕がその口を封じたからだ。自分の口を使って、ね。最初は驚きで体を固まらせたはやてだったけど、ゆっくりと状況を理解して、静かに力を抜いて僕へ委ねてくれた。
 僕ははやての気持ちが嬉しくて、それを込めてキスを続けた。でも、やはりどこかぎこちないのはご愛嬌。優しいキスを目指したけど、経験もない僕にそんな事が出来るはずはないよね。

 多分、そのまま四十秒ぐらいはしてた。そしてゆっくりとはやてから顔を離し、その目を見て告げた。勇気、確かにもらったから。そう言うと、はやてが照れながら頷いてこう返した。

―――しっかり納得させてきてな。あなた。

 その言葉だけで僕はもう敵無しだよ、はやて。そして、僕らはそのままそこを立ち去ろうと歩き出した。勿論、腕を組んで。すると、何故か声が聞こえてきたんだ。

―――主を頼む。

 その声に僕は思わず足を止める。でも、はやてには聞こえなかったのか、そんな僕へ疑問を浮かべた。

「どないした?」

「いや、何でもないよ」

 その答えに、はやては何か腑に落ちないようだったけど、僕があっさりしてるから聞く程でもないかと思ったみたいだ。そのまま何も言わず歩みを再開する。僕もそれに応じて歩き出す。でも、密かに念話を送る。相手は、届く可能性がないはずの女性。

―――何言ってるのさ。君も支えてくれないと困るよ。”家族”だろ?

 その念話に返事はない。でも、その瞬間僕とはやてを撫でるように優しい風が吹いた。まるで、僕とはやての未来を祝福するかのように。そして、僕の言葉に答えるように。僕がそんな事を思って笑みを浮かべる。それに気付いたはやても笑みを見せる。

「今夜は、君の家に行こうか。ね、はやて」

「そうやな。そろそろ帰らんと部屋の埃が凄そうや」

 そんな会話をしながら僕らは行く。でも、一度だけ僕は後ろを振り返った。そこには、当然誰もいない。だけど、だからこそ小さく心の中で呟く。

(君も早くおいでリインフォース。置いてくよ?)

 そう心の声を掛けると、また風が吹く。それは僕らを後ろから追い越して行った。すると、はやてが小さく微笑みながら呟いた。

―――旅はもう終わったらしいわ。

 それに僕は驚きを見せる事もなく頷いた。僕と同じ事を考えていたんだ、はやても。それが嬉しくて、僕は笑顔でその風に呼びかけようとして、視線をはやてに向ける。すると、はやても僕に視線を向けていた。
 そこに込めた気持ちが同じだと思い、僕らは揃って笑みを返して頷いた。そして、息を吸い込んで大声を出した。

―――お帰り! リインフォース!!



 その後、はやてとシグナム達は和解した。僕がはやてを選んだのも大きいけど、やっぱり互いの気持ちを感じ取ったのが一番の要因だ。はやてが好きになった相手を侮辱した事にシグナム達が頭を下げれば、はやては自分を案じてくれた気持ちを素直受け取れなかった事へ頭を下げた。

 そして僕の決断をはやてから聞いて、シグナム達が安堵するのと同時に、ヴィータ、シグナムの順に模擬戦をする事になった。どこかで覚悟はしてたけど、やっぱりだったよ。結果は言うまでもなく僕の敗北。有効な攻撃方法がない時点で勝ちはないからね。でも、僕がそれを承知で受けた事に免じて許しはもらえた。

 ザフィーラとシャマルははやてが選んだ相手だし、僕の事もよく知ってるからそんな事はする必要がないって言ってくれた。リインとアギトは元々文句は無かったらしく、シグナムとヴィータにやられた僕に簡単な回復魔法を使ってくれた。
 その日は、そのまま八神家で泊まった。寝る場所ははやての部屋になった。とはいえ、二人で寝る訳じゃなく、はやてはヴィータの部屋で一緒に寝る事になったんだけどね。で、その日の深夜に珍しい誘いがあって……

「主に伴侶が出来た時には、一度共に酒を酌み交わそうと思っていた」

「ザフィーラ……」

「付き合ってくれるか?」

 八神家の男二人、静かにリビングで酒を交わした。ザフィーラはここ数年前から、はやての事を守る役目を夫になる人に託そうと思っていたんだって、そこで初めて知った。
 はやてを夫に任せ、自分は他の家族達を守ろう。そんな風に考えていたんだって。だから、サポートが得意な僕がはやての相手と知った時は、内心で喜んでくれたらしい。

「……いつか主とお前の間に子が出来たとして、その守りを俺はやらん」

「どうして?」

「子を守るのは親の役目だ。俺は家族だが、親ではない。ユーノ・スクライア、お前が守れ。主も、子も、お前だけが守れると心得ろ」

 ザフィーラの言葉に僕は一瞬呆気に取られるけど、その言葉に込められた想いを察して確かに頷いた。それにザフィーラも頷き返してくれた。きっと、ザフィーラはこう言いたかったんだと思う。
 いつも傍にいられる訳じゃないし、自分達に何があるかも分からない。そうなった時、はやてを支えられるのは僕だけだ。そうザフィーラは伝えたかったんじゃないかな。

 ザフィーラとはその日以来僕を認めてくれたのか、色々な事を教えてくれるようになった。そう、守るための術だ。幾多もの戦場を生き抜いた守護獣の教え。それは、何にも勝る最高の指南書だ。僕はたまの休みや早く帰れた日はザフィーラから教えを受けるのが常になっていったぐらいに。

「これからは、主をお前が支えてくれ」

「あたしらも支えるけどよ、お前が一番傍にいられるだろうしな」

「その代わり、何でも相談に乗るから」

 シグナムやヴィータ、シャマルにもザフィーラと同じような事を言われた。家族であるけど、伴侶ではない。だから自分達では支えきれない部分も出てくる。そこは、僕だけしか守れない。
 そう言って三人は僕へ頭を下げた。はやてをよろしく頼むって。僕はそれに頷いたけど、三人に頭を上げてもらった。そして、今度は僕が頭を下げる。僕はまだまだ未熟だし、三人程はやてと共に過ごしていた訳じゃない。だから、こちらこそよろしくお願いしますってね。

 そう言ったら、三人が苦笑した。それに僕が不思議そうに思っていると、その理由を教えてくれた。どうやら、主であるはやての伴侶になる事から、僕への扱いをそれと同等にしようと考えていたらしい。
 でも、僕が今みたいな風に言ったもんだから、その必要はなさそうと思ったんだってさ。僕はそれに頷いた。そうさ。だって僕らは家族なんだから。そう言うと、三人が揃って目を点にしてから笑い出した。

「さすがは主が選んだだけはあるな、スクライア」

「ああ、ホントだ。頼りにするかんな、ユーノ」

「これからは安心して任せるわね、ユーノ君」

 そんな三人からの信任の言葉に、僕は嬉しく思った。精一杯頑張ると誓うと、三人もそれに笑顔で頷いてくれた。リインとアギトは特に何もないらしく、仲良くしていこうって言われただけだった。僕は妹のように二人に接しようと決めて、その旨を伝えると二人は揃って照れくさそうにだけど、頷いてくれた。

「じゃ、よろしくですよ、お兄ちゃん」

「よろしく頼むな、兄貴」

 その笑顔に僕も頷き返す。こうして、僕は完全に八神家に受け入れられた。でも、ここからが苦労の始まり。なのはとフェイトを納得させ、ロッサにからかわれ、カリムさんとシャッハさんには初対面にも関らず、是非聖王教会で式をって迫られるし、ゲンヤさんには、式の時はやてとバージンロードを歩いてもらうように頼みに行く事になった。
 そんなこんなで色々あったけど、僕もはやても、そして家族達も元気だ。僕はこの日から少しして、住んでいたマンションを引き払い、八神家へ移り住んだ。部屋ははやてと同室。はやてがそうしたいって強行した。ま、もうシグナム達もご自由にって感じだったけどね。

「どないした? ため息なんか吐いて」

「ちょっとね。今までを思い出してブルーになったんだ」

「ほ~、ならその気持ちをわたしが吹き飛ばしたる」

「それが他のものまで吹き飛ばしそうだからパス」

 今、僕とはやては一つのベッドに横になりながら話してる。はやては、結婚を機に局員を辞める決断を下した。でも、局員になったのには贖罪の意味合いがあったんじゃないかって、そう僕が聞いたらはやてはそれに苦笑した。
 そう考えていたのは自分だけだったって。周囲はそんな事だと思っていない。なら、もうそれに付き合う必要はない。贖罪にならないし、下手すると余計に遺族感情を刺激しかねないなら、ここが潮時だろうからって。そんな風に考えたと言って、はやては笑った。

 そして、その後は専業主婦になるって、もう僕に宣言した。そう、あの時の答えは専業主婦で合ってたんだ。収入面も僕だけじゃなくシグナム達の分もある。リインははやてから離れ、ヴィータの傍付きにするらしい。

「でも、不思議やな。明日はわたしは花嫁さんや」

「それを言うなら、僕は八神ユーノになるよ」

「改めて聞くと、帰化した外国人みたいな名前やな」

「実際似た様なものだと思う」

「いっそ、フェイトちゃんみたいにユーノ・S・八神とか……」

「はやてと同じように名乗りたいんだ」

 はやての言葉を遮るようにそう言うと、はやてが赤面した。それが堪らなく愛しく見えて、僕は無意識にその体を抱き寄せる。近付く体と体。見つめ合う視線と視線。僕ははやてに少しからかうように告げる。

―――それに、明日にはもう一つ大きな楽しみがあるしね。

―――ユーノ君、結構我慢強いなぁ。わたしは、てっきり婚前交渉される思っとったのに……

 そう、僕らはまだ関係を持っていない。初夜まで待つって決めたんだ。はやてはそれを破らせようと色々手を出してきたけど、僕はそれを全て退けた。でも、それは決して意思が固いだけじゃない。
 ある理由があるんだ。それを今、はやてに言っておこう。明日の本番になってからだと動揺するだけだろうからね。それだけの衝撃が僕の理由にはある。だから、笑っていられるのは今だけだよ、はやて。

「はやて、明日のそれについてなんだけど……」

「えっと、何?」

 僕の表情が少し怖くなってたんだろうね。はやてはやや怯えるように声を返す。うん、その反応は正しいよ。何せ、かなりの内容だからね、ある意味。そう思って、僕はとびきりの笑顔で断言した。

―――今までの分を全てぶつけるからそのつもりで。きっと、色々と凄いだろうから。

―――な、なんやてぇぇぇぇっ?!

 そのはやての声は家中に響いた。でも、僕が前もって施しておいた結界のため、近所迷惑にはならない。まぁ、シグナム達がどたどたと動き出したのは聞こえる。さて、困るのは僕じゃなくてはやてだ。
 どう説明するんだろう? 楽しみだな。そんな風に考え、僕は口笛を吹く。それにはやてが恨めしそうな視線を送るけど、僕はそれに知らんぷり。さ、部屋の前のドアに大勢の気配。はやてはまだ慌ててる。

【覚えとき、ユーノ君!】

【覚えておくよ。今のはやての可愛さも一緒にね】

 軽く涙目でシグナム達に言い訳を始めるはやてを見ながら、僕は念話にそう返す。そして、僕はふとある事を思って立ち上がり、窓を開けて空を見上げる。そこには星空が広がっていた。

―――明日の式には、君も来てくれるよね? リインフォース……

 その僕の小さい声に、静かに夜風が優しく吹いたのを感じて、笑みが浮かぶ。明日はきっと良い日になる。祝福の風吹く、そんな日に……




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はやてエンド。これで個別エンド終了。

次回は……ヴァイス辺りでも弄るか? エリオもありかも? ……やはり三人エンドだろうか?



[27022] なのはとフェイトにはやてがユーノと家族になるらしい
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/22 22:17
 あの後、夕食を食べてから僕らはずっと思い出話に夢中になっていた。それでも、シャワーは浴び、ベッドルームに布団などを敷いたりはした。まぁ、それからは時間を忘れて話し続けてるんだけど。
 時刻はもうすぐ日が変わろうとしている頃。僕達はそんな事も知らず、お喋りに興じていた。なのはと僕との出会いから始まったそれは、もう僕が知る頃を通り過ぎ、今は進学した頃の話をしていた。

「それでアリサちゃんがさ……」

「あ、そうそう、そうだったね。で、すずかに……」

「そやったっけ? う~ん、ちょう思い出せんわ」

 楽しげに話すなのは達。僕はそれを聞いて頷いたり、質問したりと忙しい。やはり海鳴を離れた後の話は知らない事ばかりだ。でも、それを聞くだけになっても退屈じゃない。聞いているだけで、その情景が浮かんでくるんだ。
 なのはやフェイトにはやてだけじゃなく、すずかにアリサを始めとする多くの人達。僕も知っている人達ばかりだから、想像もし易い。三人は僕が時折分かるようにと説明や注釈をしてくれる。でも、懐かしいなぁ。すずかにアリサって、僕を未だにフェレットだと思ってるんだろうか?

「ね、すずかとアリサって、僕をまだフェレットだと思ってるのかな?」

 そう僕が尋ねると三人が予想外の質問だったのか、軽く驚いた顔をした。そして、三人共に考え込む。あ、これは多分三人も僕の事を話してないな。一度海鳴へ行って、二人に真実を話そう。僕は密かにそう決意した。
 すると、なのはがこう言った。多分、そう思ってはいないんじゃないかって。その理由は、魔法の事を教えた後に僕の事も簡単に話したからだそうだ。大切な友人だと、そう話したからきっとフェレットだとは思ってないはず。でも、なのはのその言葉を聞いて、僕は一抹の不安を感じた。

「なのは。それってすずかとアリサは、ユーノがなのはの友人って思ったかもしれないけど、人間だって思うのとは別じゃないかな?」

 僕の抱いた感想をフェイトも抱いたようだ。それになのはが少し疑問を感じ、やや考えて申し訳なさそうに頷いた。はやてがそんななのはに苦笑する。

「いや、なのはちゃんらしいわ。でも、そうなると一度二人にも、ユーノ君の事をきちんと説明しておくべきか」

「そうしてくれるかな? いつまでも動物だと思われるのは、ちょっとね……」

「分かったよ。なら、近い内に会いに行こう」

 僕の告げた言葉になのはが名案とばかりに言った内容に、僕は思わず声が出た。

「え?」

「お、それええな。じゃ、日取りは四人の休みを合わせる事にしよか」

「となると……少し先だね」

 僕の声には誰も答えようとしない。ちょっと、何で僕の意見は聞いてくれないのさ? いや、まぁ確かにさ、僕自身が行くのが一番いいのは分かるんだけどね。でも、少しくらい僕の意見をさ……

「ユーノ君は行きたくないんか?」

 うん、はやては相変わらず僕の思考を読むのが得意だね。て、あれ? 見れば、なのはとフェイトも同じような表情を僕に向けてる。あ、そうなんだ。今の僕の心境ってそんなに読まれ易かったんだ。
 そう思って、僕は若干悲しくなってため息一つ。それに三人がクスクスと笑い、それにつられて僕も笑う。何だかんだでこんなやり取りが楽しいと思う時点で、僕はかなり駄目みたいだ。結局なのは達から離れられないんだからさ。

 そこから話は変わって、今度は僕が話題を提供する事になった。とは言え、僕が三人に話せる事はあまりないんだよなぁ。そう思ってこれまでの事を思い出そうとしたら、三人がこう言った。自分達が知らない話が聞きたいって。
 それは、つまり僕が三人と離れて本局は無限書庫で働き出した頃の話だ。僕はそれをあまり面白いとは思えなかったから、前もって三人へ告げた。飽きたら、いつでも言って欲しいと。何せ、これは結構な苦労話だ。聞いてる方が精神的に参っちゃうはず。

「じゃ、まず僕が本格的に無限書庫入りした頃からね。えっと……」

 今とは別世界のような魔窟を思い出し、僕は語り出す。最初はとにかく整理ばかりの日々。検索魔法を使い、棚毎に本をしまう。それを延々繰り返した。クロノからたまに頼まれる資料請求に応えながらね。あの頃は、まだ量が良心的だったなぁ……と、まぁこれがざっと半年ぐらいかな? 今にして思えば楽しい時間だったよ。一日中整理だけで済んだんだから。

 そして、それが少し落ち着きだした頃、僕へ一定の裁量権と共に責任が与えられた。人を雇い、無限書庫を機能させるようにって。それを僕は嬉しく思いながら仕事に励んだ。いや、認められたって感じたんだ。どうも、僕がした事をクロノが上層部に報告して、もっと人と資金をって言ってくれたんだって。

「でも、中々人を雇ってすぐに効果が出る訳じゃない。まあ、遣り甲斐は出たよ。徹夜も増えたけどさ」

 軽く笑って、僕は話を続ける。人材育成に時間を取られると、代わりに僕の休みを減らす。そうしないと資料請求に応えられないからね。そんな事を続けて、たった四ヶ月で今の初期型ぐらいになったんだよ。いや、あの時は嬉しかったな。僕、これで二週間に一度は一日休みに出来るって思ったんだ。
 その後からは、それの繰り返しだ。新しく入る人を育て、徹夜で時間を作って資料請求を処理。でも、以前と違って人がいるから整理が進む進む。僕はほとんど資料請求だけで済むから楽だったんだ。

 それでね、僕が本格的に働き出して二年ぐらいで……あれ? 何故かなのは達が僕の手を握ってる。もういいからって、どうしたの? まだ話は半分もしてないんだ。だけど、話を続けようとする僕を三人が激しく揺さぶる。

「ユーノ君! もうええ! もうええからっ!」

「正気に戻ってユーノ!」

「お願いだから、こっちを見て!」

 三人が必死に呼びかけてくれたおかげで、僕は意識を切り替える事が出来た。どうも話している内に、どんどん目が遠くなっていたらしく、なのは達は止めようとしてくれたらしい。僕は反省の意を示し、三人へ深々と頭を下げる。
 いや、どこかで自分もこうなるんじゃないかと思っていたんだ。無限書庫がここまで至る道は、苦難なんて言葉で片付けちゃいけないものがある。クロノは無限書庫にいる時の僕の天敵だけど、あいつがいなきゃ今もない事を知っている。

(クロノが……無限書庫をここまでする土壌を作らせてくれた)

 そうさ。そう思っているんだ、僕は。だから表向きは喧嘩しても、あいつからの請求は、出来るだけ一番に応えるようにしてる。周囲からえこひいきだと言われても、僕はきっとこう言うだろう。

―――それがどうした。

 クロノのした事がどれだけの局員を、命を、未来を守ったと思ってるんだ。それに、あいつだっていつも自分を最優先にしろとは言わないし、僕だって絶対にそうする訳じゃない。優先度を考え、クロノを一番にしてもいい時だけそうするだけだ。
 と、そこまで考えたところで、ふと気付く。三人が僕から少し距離を置いて何か相談してるんだ。その内容は聞こえないけど、時々きとらを見てるから、僕絡みなんだとは思う。でも、何の話をしてるんだろう……? あ、終わった。

「ユーノ君、ちょっといいかな?」

「何?」

「あの、ね。ユーノは私達を選べないって言ったよね?」

「選べないと言うか、選ぶつもりはないよ」

「そうやったな。で、それを前提に聞きたいんやけど……」

「うん、もう分かった」

 僕がそう言うと、三人して楽しそうに笑った。悪戯を成功させた子供みたいだ。僕はそんな三人に小さくため息。でも、内心では苦笑していたりする。三人が僕に聞きたい事は簡単だ。それでも選ぶとしたら誰がいい? こう聞きたいんだろう。
 どうしても僕を困らせたいんだね、君達は。そう思って、僕は正直に答えた。勿論、前置きにどうしても選ぶとなったらとつけて。それに三人が若干息を呑んだ。

「僕は……」

 微かになのは達三人が頷く。先を促すように。それに僕は不敵に笑い、言い切った。三人の期待を裏切るために。

「三人全員を選ぶよ」

 どうだ。これは予想出来ただろうけど、本当に言うとは思うまい。見れば、三人も軽く驚きを見せている。どこかで誰かを選ぶはず。そんな風に期待してたんだろうけど、そんな罠にかかる訳にはいかないんだ。
 だって、誰を選んでも気まずいだろうし、じゃあどうして選んでくれないの? なんて言われるのがオチなんだ。まぁ、僕の中での答えがあの時と少し変わったけど、それを三人に言うつもりはない。きっと、これでこんな質問をしてこなくなるだろう。

 そう思って僕は高をくくっていた。でも、これって良く考えたら、自爆してるよね。そう気付いて、冗談だよって言おうとした時には、もう全てが遅かったんだ。三人は凄く嬉しそうな表情で僕に迫ってきていたんだ。

「ユーノ君、三人って言うと……」

「この状況だよね……?」

「欲張りさんやな、ユーノ君は」

「え、えっと……三人共少し怖いんだけど……」

 今の僕の状態って、日本で言う所の”墓穴を掘る”だろうね。と、ちょっと待った。はやて、服のボタンに手をかけるのを止めなさい。フェイトはそれに感化されて、真似しないで。あっ! なのは、勢い良く頷いちゃ駄目! 何をする気かが分かる三人へ、僕はある決断を下す。
 仕方ない。ここは三人にバインドを……って思った時には僕がバインド。あれ? これって、普通逆だよね? バインドブレイクをしようにも、なのはにフェイトとはやての合同バインドだ。ミッド式にベルカ式のバインドの複合をすぐに解除出来る程、僕は器用じゃない。

 そうこうしてる間に三人が動き出す。行動は一緒。まず上着のボタンを一つずつ外していく。

「何か恥ずかしいね」

「き、緊張します」

「いや、やっぱ照れるな」

 そんな事を言いながら、三人の手は止まりません。僕は、目を閉じようとする理性とここまできたら覚悟を決めろと囁く欲望、そして純粋に目をそらしたくないと訴える本能に苛まれていた。一つ目はまだセーフ。少し胸元が露わになったぐらい。
 二つ目は結構際どい。それぞれの谷間が……ゴクリ。て、駄目だ駄目だ! どうして諦めるんだ、そこで! 周りの事を思えよ! 僕だって、こんな三重バインドの中を、男の誇りを賭けて頑張ってるんだから! 自分の流されかかる気持ちを奮い立たせ、僕はもう一度バインドを解除しようとした。

「「「あ……」」」

 丁度その瞬間、三人が一斉に声を出した。それに僕は視線を向けそうになりながら、現状を推測してそれを中止。でも、何となくだけど三人が声を出した原因は本人達じゃない気がする。その根拠は、何故か僕への視線を感じるからだ。
 と、そこまで考えたところで、何となく僕は気付いてしまった。三人が思わず声を出し、尚且つ僕へ視線を向ける理由に。だが、それを認めるのは正直辛い。何故って? 言うまでもないだろう。好きな女性の前で、欲情している事があからさまになるっていうのは、やはり認めたくないものがあるよ。

(……死にたい)

 心の底からそう思った。ちらりと視線を自分の下へ向ければ、そこには僅かにではあるが、主張を始めた存在がある。それに三人は気付いたんだろう。僕はそう理解した瞬間、先程まであった気持ちが全て萎えていくのを感じた。
 そして、今日程寝間着のズボンの薄さを恨んだ事はないだろう。通気性を良くして快適な寝心地を約束する代わりに、僕の心にまで通気性を発揮しなくても良かったんだ……

「あ、あれがユーノ君の?」

「そ、そうだと思う」

「少し大きくなっとったな」

 そこ、興味津々で話をしない。年頃の女性が揃いも揃って、頬を染めて男性の象徴の部分を見ながら会話をしないで。僕はもう先程の衝撃で、俯いていた。それに呼応するように主張も俯き、三人の視線も外れている。
 でも、意識までは逸れていない。そう感じ取って、僕はつい心の中で叫んだ。クロノがかつてプレシアへ向かって告げたあの言葉を。

―――いつだって世界は、こんなはずじゃない事ばかりだっ!!

 内心滂沱の涙を流し、僕はそう心から思った。そんな僕の背中に暖かさが触れる。いや、背中だけじゃない。両腕にもだ。

「ユーノ君、元気出して。私達、嬉しかったんだよ」

「だって、ユーノが私達で興奮してくれたって分かったから」

「それにな、女の子のああいう場面を見て、男が反応するんは当然や」

「なのは……フェイト……はやて」

 背中からなのはの、右腕からはフェイト、左腕からははやての声が聞こえる。その言葉を聞いて、僕はどうして嫌気が差したかを理解した。三人に嫌われたと思ったんだ。嫌われても関係ないって思ったはずなのに、どこかで嫌われたくなかった。
 その思いがさっきの気持ちに繋がったんだ。自分が三人へ劣情を抱いた。それを知られて嫌悪感を抱かれたんじゃないかって。それが怖かったんだ。そう判断し、僕は小さく呟く。

―――やっぱり僕は情けないや。

 そんな呟きを聞いて、三人が小さく言葉を返した。それは、言い方は違えど同じ思いが込められたもの。

―――それでも、ユーノ君は前に進むって信じてるから。

―――そうやって認める事が出来るユーノだから、私は好きなんだよ。

―――情けなくてもええよ。わたしが支えたるから。

 視界が滲む。胸が熱くなる。三人の思いは同じ。僕への好意。それを感じ取り、心が暖かくなる。何も怖くない。僕は僕のままでいればいい。そんな風に思う事が出来るぐらいに。だから、僕はその思いを込めて感謝を告げようとした。
 その旨を告げて俯けた顔を上げ、三人にバインドを解いてもらい、一度向き直らせてもらっ―――たところで僕は現状を思い出した。なのは達がボタンを外していた事を。僕の視界に飛び込んだのは、上着に若干隠れた見事な二つの半円だったんだから。

 僕がそれに硬直したのを見て、三人も自分達の格好を思い出したんだろう。大きく慌てはしなかったけど、少し恥ずかしそうにしながら僕を見た。

「えっと……どう?」

 なのは、ここでそれを聞く? 答えは一つしかないんだよ、それ。更に軽く小首を傾げる仕草が可愛いし……

「そ、そそるかな?」

 フェイト、君も分かってて言ってるよね? 後、その照れながらの上目遣いは禁止します。僕の理性が息絶えそうだ……

「覚悟は……完了しとるよ?」

 はやて、どうしてとどめを刺しにくるかな? 潤んだ瞳がとても魅力的だ。うん、これは公平じゃない。そう僕は思った。

 だから、僕は上着を脱ぎ始める。それに三人が驚きを見せるけど、関係ない。いや、三人が脱ごうとしてるんなら、僕も脱がなきゃ公平じゃないからね。
 決して余りの光景に思考が混乱した訳じゃない。それに、何となく暑いよね、この部屋。僕が上着を脱ぎ去ると、三人が揃って意外そうな表情を見せた。どうしてだろう? そう考えた瞬間、なのはの声で答えが聞こえてきた。

―――ユーノ君、意外としっかりした体してるね。

 そう、遺跡関係の仕事をしていたせいもあって、体はただ痩せ細っているだけじゃない。筋肉だってちゃんと付いてるんだ。まぁ、ここ数年は無限書庫での仕事ばかりだったから鈍ってるとは思うけど。
 それに、無限書庫は無重力だから長時間いると、体が弱くなる。そのリハビリじゃないけど、暇を見つけて最低限のトレーニングはしてるんだ。そのおかげか、そこまで心配されるような体つきではないんだよ。

 と、そんな事を話していたのもそこまで。はやてが僕の体を触りながら、にやりと笑ってこう言った瞬間、空気が完全に変わったんだ。

―――男の人も胸は感じるらしいな、ユーノ君?

 そこから僕の胸を執拗に触りだすはやて。僕は止めてくれって言ったんだけど、その瞬間はやてが変な事をしたせいで声が裏返って、なのはとフェイトが顔を赤くした。もう、その後の事はよく覚えていない。
 必死にはやてを止めてる内に、その脱げ掛かった上着が徐々にずり落ち、その肌を晒したのを境に、僕は考えるのを止めた。そこから先は、もう察して欲しいとしか言えない。一つだけ言える事は、翌朝僕はかなり複雑な思いでシーツを洗濯し、なのは達はどこか嬉しそうではあるけど、歩き辛そうに仕事に出かけたぐらいだ……



 結局、あの日に全てが決まった。あの後、僕は時間を作り、三人への想いを全て打ち明けた。そして、恥を承知でこう告げた。三人全員を守らせて欲しいと。
 それに三人は驚きもせず、ただどうやってそれを可能にするのかと心配してきた。僕は、それを可能とする手段を探した。とはいえ、ある程度の知識はあったから、比較的簡単に見つけ出せたんだけど。

 ミッドチルダは、基本的に一夫一妻。でも、基本的にはだ。文化や風習の違う場所がある。そう、一番分かり易いのがベルカ自治区。あそこはベルカの伝統を守っている場所。そこの決まりは古代ベルカの空気を濃く受け継いでいる。
 その中には、婚姻関係もある。重婚が許されているんだ。一人の男が複数の女性と結婚する事やその逆を認めている。後者はここ数十年で加えられた内容だけど、前者はベルカ時代の事を考えれば納得がいく。

 戦乱の世であれば、戦って散るのは男が多い。なら、必然的に男女比は男が少なくなっていく。しかし、一夫一妻では子供の数が限られる。それがもたらす人口減少を阻止する意味合いもあったんじゃないかってね。
 それに、優秀な騎士はそれだけ多く子を残すようにしていたらしい。なので、ベルカ自治区では双方の合意があった場合、重婚が出来るんだ。まぁ、その場合は式自体が古代ベルカ式になっちゃうんだけど。

「合法的に夫婦になるには、現状これしか手がないんだけど……」

 僕が三人へそう伝えると、予想通りそのまま考え込む。でも、話し合われる内容が僕の想像とは違った。

「ドレスって一般的な物を着れるのかな?」

「はやて、その辺りは?」

「確かそうやわ。ただ、色々と作法があったような……」

「あ、儀式に近いんだ」

「そうなんよ。儀礼的なもんになるし、結構堅苦しいはず」

「でも、それ以外はどうなの? 普通と変わらない?」

 女性三人で色々と話し合う。その内容が全てこれを受けるか否かじゃなく、受ける事前提で式の内容について話してるんだから、僕としては少々拍子抜けした感がある。受け入れられるとは思っていたけど、そこまで簡単にはいかないと思っていたんだ。
 だから、説得出来るように結構調べてきてるんだけど……必要無かったみたい。僕を置いて、三人だけでどんどん話を進めているし。こうして、あれよあれよと言う間に話が纏まり、僕らは結婚式の打ち合わせをする事になる。

 はやての友人である騎士カリムを通して行なわれたそれでは、式自体が何十年振りのものになる事に加え、管理局の有名エース達が揃って結婚する事もあり、かなりの混乱が予想された。出来るだけ内輪でやりたいと思っていたから、僕らは何とかならないかとカリムさんに相談した。
 マスコミに来られると色々と問題だ。そう言うと、カリムさんは苦笑しながら頷いて、はっきりと言い切ってくれた。ここはベルカ自治区。そして、聖王教会だと。つまり、いざとなれば強権発動も辞さないと言ってくれたのだ。これには、僕も驚いた。そこまでしてくれるとは思わなかったからだ。

「ご心配なく。これは、皆さんのためではなく、ベルカの儀式を守るためです。厳かな式を邪魔されたくはないですからね」

「カリム……ほんまにおおきに」

 暗にこちらへ気にする必要はないと言ってくれたカリムさんに、はやてが嬉しそうに笑顔を返した。僕もなのはもフェイトも感謝を述べる。それにカリムさんは優しい微笑みを返してくれた。これで、実務的な問題はほとんど無くなった。残るのは、周囲への理解を得る事だ。僕はそう考え、早速行動を起こした。

 まずは高町家。士郎さんは、意外な程冷静に話を聞いてくれた。なのははついて来てくれたが、士郎さんとの話し合いには席を外してもらった。これは、僕と士郎さんだけじゃないと意味がないと思ったからだ。

「……それで、君はなのはだけでなく、フェイトちゃんとはやてちゃんも妻にすると?」

「はい」

「それがそっちの世界では許されている事で、なのは達も承知しているのは理解した。でも、それで本当に君はなのはを、三人を幸せに出来るのかい?」

 怒りを殺してる訳ではなく、心から疑問を抱いたからこそ聞いている。そんな風に士郎さんの声は静かだった。僕はそれに膝上の手を握り締め、小さく息を吸う。ここで嘘などを吐く訳にはいかない。そう思い、僕は本心を告げた。
 僕は三人を幸せにする事が出来ないと思った。でも、だからってそれを覆す努力を怠ってはいけないんだ。そう今は思っている。だからこそ、自信を持ってこう言った。

「分かりません。でも、そう出来るよう全力を尽くすだけです」

「分からないのに、君は三人もの女性をもらおうとしているのか?」

「お言葉ですが、士郎さんは奥さんと結婚する時、幸せに出来ると断言出来たんですか?」

 僕の言葉に士郎さんが初めて言葉に詰まった。僕の問いかけがどれだけずるいかは良く知ってる。断言出来るはずがない。幸せの定義なんて人それぞれだ。そこに絶対の正解はない。きっと、士郎さんも僕と同じで、分からないけど全力で幸せにしてみせると思ったはずだろうから。
 僕は真剣な眼差しを士郎さんへ向け続けた。答えてもらおうとは思わない。だけど、結婚にも正解はないんだ。出来る事があるとすれば、その絆を大切にして、自分達が正解と思えるようにしていくだけだ。

「誰だって、結婚相手を幸せにしたくない訳ないじゃないですか。僕もそうです。断言出来ないけど、僕の全てを賭けて三人を幸せにしてみせようと思っています。不幸にするかもしれない。苦しませるかもしれない。でも、今の僕はそんな負の可能性じゃなくて、明るい可能性を信じてるんです」

「……それが君の答えか」

「はい」

 甘いかもしれない。でも、これが僕の本心だ。士郎さんは僕の答えに頷くと、静かに立ち上がった。そして僕の横へと歩いてきて、真剣な表情で見下ろしながらこう告げた。

―――なら、その結末を見せてもらうよ。ユーノ・スクライアが出した答えの、ね。

 それが意味する事を理解し、僕は心から驚いた。すると、そんな僕へ士郎さんが苦笑しながらこう言った。最初は優柔不断な奴だと思っていた。だから、その言葉にも迷いや悩み、そして根底に軽さが見えるだろうと踏んでいたんだって。
 でも、僕が予想以上にしっかりと意見を告げ、迷いも悩みも乗り越えて答えを出したと感じたらしい。だから、信じる事にしたんだそうだ。なのはが選んだ僕を。

 でも、この後結構な強さで僕は殴られる事になる。理由は、やはりなのはを妻にする事。ただし、目立つ場所だと後でなのはが煩いだろうから、お腹にしてもらった。士郎さんも僕がそう言ったら、何かを想像したのか怖がるように頷いてくれたんだから。
 その後、なのはを高町家に残し、僕は別の場所へ向かった。余談だけど、僕がなのはの事を指摘した時の士郎さんを見て、僕は将来の自分を見た気がした……



「で、フェイトだけで飽き足らず、なのはとはやてまで嫁か。お前も相当だな」

「だと思う」

 同じく海鳴はハラオウン家。クロノが久しぶりの休暇だったのを思い出し、ここにも訪問。腹部がまだ痛むけど、泣き言は言っていられない。エイミィさんは雰囲気を察してか、子供達を連れて公園へ出かけて行った。本当に空気を読むのが上手い人だよ。

「それで、フェイトに父はいないから……代わりに僕か」

「うん。リンディさんはフェイトが決めたのならって、実にあっさりしてたから」

「母さんめ……」

 クロノがやや呆れるように呟く。気持ちは分かる。僕だってまさか、たった一言で済まされるとは思ってなかったんだ。でも、思えば当然かもしれない。リンディさんはフェイトの母親。つまり、その娘が選んだ道を後押ししてやりたいだけなんじゃないかな。
 でも、父親や兄は男だから、そこに微かな嫉妬みたいなものが生まれる。例えるのなら、自分の愛する女性を他者に取られる感覚とでも言えばいいのだろうか。きっとそれがあるから、結婚問題は大抵女性の男親の方が肝になるんだろうな。

 僕がそんな事を考えてると、クロノは大きくため息を吐いた。だが、その表情はどこか呆れていて、視線は僕を見つめている。何か僕に呆れるような要因があったかな? そう思って見つめ返す。すると、クロノはその表情のままこう言った。

―――好きにしろ。ただし、フェイトが泣くような事があれば黙ってないからな。

 義兄バカ全開の台詞だ。そうは思うも、僕はそれに真剣な表情で頷いた。クロノがフェイトの事を大切に思ってるのはよく知ってる。エイミィさんがいなかったら、おそらくフェイトはクロノと愛し合ったんじゃないかって、そんな馬鹿な事を考えるぐらいにね。
 その後、少しだけ軽い雑談をした。とは言え、式に関する事もあったから雑談ではないのかもしれないけど。話が終わり、僕はお暇しようと思って玄関へ向かう。クロノは律儀に見送るためにそれについて来た。

「じゃ、お邪魔したね」

「今度来る時は義弟も同然か。妙な気分だ」

「それはこっちの台詞さ」

 出会ってもう十年以上。口が裂けても親友なんて呼ばないけど、でもどこかで似たような存在とは思っている。義理の兄弟になるとしても、きっとこんなやり取りは変わらない。僕とクロノは、どうなっても僕とクロノだ。
 そんな事を思い、僕は最後に不敵な笑みを見せてこう言った。じゃあね、義兄さんと。それにクロノが同じような笑みを返し、またな、義弟と告げて互いに笑った。そして、無言で片手を上げ合い別れた。

「……義兄、か」

 僕は孤児だった。親は幼い頃に亡くし、顔も覚えていない。だから、僕も家族というものに憧れがある。高町家やハラオウン家、八神家などの多くの家庭を知っているけど、僕はそれを見て羨ましいと思う事は無かった。
 思えば、それは妬みに変わると思ったから。そんな僕が今、家族を得るような行動をしていて、親友と内心思っている相手が義理の兄となる。じわりと視界が滲む。心が熱くなる。

 親友であり義兄。そんな都合のいい話があっていいのか。そんな風にも思うけど、思考とは正反対に感情は喜びを示している。そう、そうなんだ。なのは達と夫婦になる事は、その家族達とも繋がりが強くなる事なんだ。
 一人だった僕の心が、ゆっくりと他の誰かと繋がっていく。そんな感じがして、僕は知らず笑顔になっていた。足取りもどこか軽い気がする。そして、僕は高町家に向かって歩き出す。途中なのはへ、これから戻ると念話をするのを忘れずに。

―――後は八神家か……

 ある意味で一番の難関だろう名を呟き、僕はため息を吐くのだった……



 はやてに連れられ訪れた八神家。そこには、シグナム達が勢揃いしていた。当然だ。僕が無理を言って、何とか時間を空けてもらったんだから。

「わざわざありがとう」

「いや、気にするな。こちらとしても、お前自身から直接聞きたかったのだ」

 僕が頭を下げるとシグナムが代表してそう返した。既に簡単にはやてが重婚の事は伝えたらしい。それを伝えた上で、僕はシグナム達へもう一度説明をするつもりだった。そして三人への想いを告げ、結婚へ納得してもらえるようにと。
 だが、当然ながらシグナム達の視線はやや鋭い。古代ベルカの時代を生きた彼女達だからこそ余計に、今回の事は思うものがあるのかもしれない。僕はそう思いながら、説明を始めた。

 どうして現状に至ったのか。今、自分がどういう想いで動いているか。それだけを伝える。決して高町家とハラオウン家に許可をもらったとは言わない。それを言う事は、どこか嫌らしい気がしたからだ。

「……と言う訳なんだ」

「そうか。お前はお前なりに考えた末の結論という訳か」

 シグナムがそう言って、視線を周囲へ向ける。すると、まずシャマルが頷いて僕へ告げた。

「周囲からの視線には堪えられるなら、いいわ」

 ベルカの法に従い、重婚するのはいい。でも、それを全ての人が受け止めてくれる訳ではない。それを承知し、どんな風に思われても言われても耐え忍ぶ事が出来るのなら、反対しない。そうシャマルは説明した。
 僕はそれに頷いた。ちゃんとなのはとフェイトにもそこは通告済みだ。僕ら四人はもう意志が決まっているんだから。それをシャマルも聞き、ならばと視線を動かした。

「俺は、特に言うべき事はない。主を頼む」

 ザフィーラはそう言い切って、僕へ視線を向けた。そこに込められた様々な想いを受け、僕は力強く頷いた。言葉ではなく、行動で示してみせる。そう返すと、ザフィーラはどこか嬉しそうに目を細めて頷いた。
 それを見届けて、今度はリインとアギトが口を開いた。とは言え、どうも二人はそこまで重くは考えていないのか、それともはやてを信じてるのかあっさりとこう告げただけだ。

「リインは、はやてちゃんがしたいようにするのがいいと思います」

「アタシも。人生って、その人が悔いを残さないようにさせてやるべきだと思うし、さ」

 そう告げるリインとアギト。でも、何故かアギトだけは何かを思い出したのか、少しだけ懐かしそうな表情だった。リインとシグナムだけがそれに何かを感じ取ったのか、アギトへ視線を向けていた。その表情はどこか悲しそうにも見える。
 そんな空気を変えるように、ヴィータが大きく咳払い。そして、僕を睨みつけるように視線を動かす。うっ、少し怖いかも。でも、ここで怯んだら駄目だと思い、何とかその視線を受け止める。

「あたしは反対だっ! ……って、言いたかったんだけどよ」

 そこでヴィータはやや困ったように頬を掻きながら告げる。アギトの言葉を聞いて、どんな結果になっても、はやてが選んだ道を行かせてやるべきかと思ってしまったらしい。それに、僕の覚悟も本物だと分かってくれたらしく、ならどれだけごねても無駄だと感じたんだって。
 最後には、僕へやや拗ねながらも、一度言った事は曲げないと信じてやるからと言ってくれた。それに僕は約束すると返した。そして、最後は当然ながらシグナムが口を開く。

「では、これで全員の意思は揃ったな」

「え……」

「今のお前の心には芯がある。ならば、私は構わん。真面目なお前の事だ。ここまで来る間にかなり苦しんだはず。なら、その結論はかなりの重みを持っているからな」

 シグナムはどうも僕の性格を考え、重婚を決めた時点で悩み苦しんだと理解していたらしい。だから、反対するつもりは最初から無かったとの事。僕はそれを聞いて若干肩透かしを喰らった気分になった。
 それをどうして最初に言ってくれなかったんだろう。そう思ったけど、シグナムの立場を考えれば納得出来た。彼女はヴォルケンリッターの将。そのため、自分の意見が他のみんなへ与える影響を考え、最後まで黙っておく事にしたんだろうとね。

 こうして八神家の許可も得た。大きな問題はこれで終わった。そう僕は思っていたんだ。でも、まだ残っていたんだ。そう、かなりの問題が……



「確実一軒家だね。しかも、かなりの大きさと部屋数がいる」

 そう、住居の問題だ。新居をどうするか。結婚式の前にそれを相談しないといけなかったんだ。何せ……

「そうなんだよ。私達四人にヴィヴィオ、後はシグナム達もいれるとかなりの人数になるし」

「いや、別にわたしは……」

 フェイトが挙げた名前にはやてが何か言おうとするけど、それを遮ってなのはが口を開いた。

「駄目だよ。はやてちゃん達は一緒にいないと。みんな揃っての八神家なんだから」

「僕もそう思う。はやてと離れて暮らすなんて、シグナム達はきっと嫌だと思うし」

 そうだ。新居は僕ら四人で暮らす訳じゃない。ヴィヴィオにシグナム達も家族として共に暮らさないと。最悪新居を現在の八神家の近くにする事で手を打たないといけないけど、出来る事ならシグナム達も一緒の家で暮らせるようにしたい。
 金銭面の問題は心配ない。僕達四人だけでも結構な収入があるし、そこにシグナム達の分も加えればかなりのものがある。それを計算に入れれば、新築も可能だ。銀行の融資だって受ける事も出来るだろうしね。

 はやては、僕らの言葉を聞いて感極まったのか少し俯いた。八神家の中核は言うまでもなくはやて。そのはやてを抜いて、シグナム達が普通に暮らせる訳ない。それに、そんな八神家を僕らは見たくないんだ。
 新婚生活にならないなんて、そんな気持ちは欠片もない。僕らは家族になるんだ。なら、それは共に生きる事。特に、はやては僕とは違った意味で家族に対する思いがあるはずだから。

「……ええのかな?」

「いいに決まってるよ。ね、ユーノ君」

「うん。むしろ、僕の方こそそうしてくれると助かるんだ。ヴィヴィオの事もあるし、家族が多ければ楽しい事は倍になって、嫌な事は半減出来るからね」

「そうだね。シグナム達と一緒に暮らすって考えたら、それだけで楽しくなるよ」

 僕ら三人の言葉にはやては心からの笑顔を見せてくれた。そして、すぐにでもシグナム達へ伝えると言って携帯を取り出した。はやての嬉しそうな声を聞きながら、僕らは新居をどうするかを相談し始める。
 将来の事も考え、三階建てにしようとフェイトが言えば、バスルームは広い方がいいとなのはが言う。はやても電話を終わらせ、それに参加。意見としては予想通りキッチン関係。僕はそれらの意見を書き込みながら、ふと思った事があるので尋ねてみた。

「それで、僕らの寝室はどうするの?」

 その言葉で三人が固まった。そして、それを見て僕は自分の迂闊さを呪った。それでも、三人は顔を微かに赤めながら僕へ告げた。別々がいいならそうするけど、最終的な決断は任せるからって。それを聞いて、僕は躊躇いなく答えを出した。
 四人で一部屋ってね。いや、決して邪な考えはないよ。少しでも部屋数を確保するためには、その方がいいなって判断したからだ。そりゃあ、最初の夜の出来事はかなり強烈だったけど、でもそれを意識した訳じゃ……

【ユーノ君、ちょうスケベな顔しとる】

 はやて、念話で教えてくれてありがとう。でも、表情が悪戯っぽく笑ってる。そして、視線をこっちに向けてるから、なのはとフェイトが僕を見てるよ。これじゃ、結局意味無いじゃないか。ま、それが狙いなんだろうけどさ。
 予想通りなのはとフェイトにもいやらしい顔をしてるって笑われた。仕方ないじゃないか。だって、あの夜の事を思い出したんだから。そう返すと、三人が少し照れた。初めての夜にしては、色々と内容が凄まじかった。でも恥ずかしがっていないみたいだし、三人はもうそれを良い思い出にしてしまったみたいだ。

「とにかく、基本は新築にしよう。で、僕は不動産関係を当たってみるよ」

「あ、ならわたしは内装関係」

「じゃ……私は建築関係かなぁ?」

「私はどうしたらいいかな、ユーノ」

「じゃあ、フェイトは金銭関係をお願い。現状での僕らの資産がいくらとか、どこまでなら融資を受けれるとかをはっきりさせておいてくれるかな?」

 僕がそう言うと、フェイトは分かったと頷いてくれた。長期休暇があるフェイトなら、時間の掛かりそうな話も出来るだろう。こうして、僕らは動き出した。結婚とその後の事のために……



「パパ、どうしたの? ボ~っとして」

「うん、ちょっとね。昔の事を思い出してたんだ」

 ヴィヴィオの声に僕は意識を現実へ引き戻した。あの結婚前のどたばた。今では遠い日の思い出になりつつある。式はそれはもう厳かだった。端から見ていたヴィヴィオ達が終わった後、息が詰まるかと思ったと告げる程に。
 でも、そのおかげか重婚式なんて印象を吹き飛ばせたみたいだったけどね。新居はやはり新築となった。何せ、あの後家族全員から意見を求めたんだ。そうなると、希望を叶えるには自分達で建てるしかないってなってさ。

「昔の事?」

「そう。結婚する前の頃だよ」

「あー、あの頃かぁ。懐かしいな」

 そう言ってヴィヴィオは笑みを浮かべる。最初は、我が家の末っ子だったヴィヴィオ。だが、今はちゃんと姉として下の面倒を見ている頼れる長女だ。今日は学校が休み。卒業したら、本格的に管理局への進路を歩き出そうと考えている十二歳。
 と、そこへなのはと同じ色の髪をした男の子が現れた。今年で四歳になる僕となのはの息子のマサヨシだ。名前の由来は日本語の”正義”。重い意味の名前かもしれない。でも、少し気が弱いけど優しく素直に育ってくれている。絶対、名前負けしない人になってくれるって僕は信じてる。

「パパ、ヴィヴィオお姉ちゃん、これ見て」

 マサヨシが僕らへ見せたのは一枚の絵。そこには、家らしい物の前に並ぶ家族らしきものが描かれている。僕は……中心の人だろうな。ヴィヴィオは、どれが自分かを聞いている。
 長男のユウキは次女のノゾミと外で遊んでいるんだろう。ちなみにマサヨシは次男で、ユウキとノゾミは二人共フェイトの子。そう、フェイトは双子を産んだんだ。あれは結構びっくりしたっけ。もう四年も前の事だ。

 ふと意識を周囲へ向ければ、三女のミライがザフィーラの背に乗って、リインを肩に乗せ共に笑っている。あ、言っておくけど狼状態だよ。しかし、はやての娘だけあってやっぱり行動的だなぁ。何せ一歳半にも関らず、もう立つ事が出来るんだよ。はやては、自分が歩けない頃があったから、その分まで早く成長してるんだろうって嬉しそうに笑ってたっけ。
 でも、気になるのは立って歩く時、大抵何かを目指してるように見えるんだ。しかも、上を見上げてね。それだけがどうしても理解出来ないんだよ。はやてがいない場合によく起きるから、何か関係してるのかなぁとは思ってるんだけど。

 そんな事を考えながら、視線をキッチンへ向ける。そこでは、なのはとシャマルが楽しげに話しながら昼食の準備中。その手伝いとして、ヴィータがテーブルを拭く為に動いていた。今日は久しぶりに家族全員が揃う。フェイトが長期任務を終えて、出張中だったはやてと共に帰ってくるからね。シグナムは、その迎えに行っている。

「「ただいま~」」

 そんな事を思い返していたら、玄関から愛する妻達の声が聞こえてきた。それに子供達が一斉に反応した。マサヨシはヴィヴィオの手を掴んで、ユウキとノゾミは庭から玄関目指して走り出し、ミライはザフィーラを急かしてと慌しい。
 でも、シグナムはどうしたんだろう。そう思っていると、双子と入れ代わりで庭の方からシグナムとアギトが現れた。どうも、二人に反応して子供達が殺到するだろうと思って、庭から家に入ろうと思ったんだってさ。

「相変わらず母親は一番人気だな」

「父親は長女にも負ける時があるんだけどね」

「仕方ないって。子供はお母さんから生まれんだ。女の方が懐かれるのさ」

 アギトの言葉に僕もシグナムも同意。互いに苦笑し、視線を子供達の声のする方へ向ける。フェイトは双子と楽しげに話し、はやてはマサヨシの絵を片手に持ち、嬉しそうに眺めながら、残る片手でミライを抱き抱えている。
 ザフィーラはヴィヴィオから労を労われ、苦笑していた。多分、六課の頃のヴィヴィオを思い出してるんだろう。その頃も狼状態でヴィヴィオのお守りをしてたらしいから。

 とりあえず、外で遊んでいた双子を連れて、フェイトは手を洗うべく洗面所へ。はやても絵をマサヨシへ返した後、ミライをなのはへ託してその後を追う。ヴィヴィオはなのはからミライを預かり、その頬を指で軽く突いている。

「……いいものだ」

「だな」

 そんな光景を眺め、シグナムとアギトが噛み締めるように呟く。僕も声には出さないけど、同じ気持ちだ。そこへリインがヴィータと共に近付いてきた。その表情は共にやや不満そうにしている。
 どうしてだろうと思っていると、二人はいつまでも和んでないで手伝えと言ってきた。それに僕は苦笑。シグナムとアギトは、小さくため息を吐いて動き出す。一度玄関へ戻るシグナム。アギトはそのままリインと共にヴィヴィオの傍へ向かい、ミライの相手。

「ったく、全員揃うと飯の支度だって大変だってのに」

「僕も手伝うよ」

「じゃ、マサヨシの相手頼む。ヴィヴィオの方が戦力になっから」

 ヴィータはそう告げると、再びキッチンの方へ歩いていく。僕はその言い方に軽い無力感を感じるけど、それでもヴィヴィオの傍へ向かう。そこでミライだけでなく、マサヨシの相手をしているヴィヴィオと交代するように二人の世話をする。
 リインとアギトへ絵を見せてご満悦のマサヨシに、ザフィーラへもう一度乗ろうとするミライ。まずはミライから止めよう。そう思って、僕はミライを抱き抱える。そこへシグナムが姿を見せた。すると、即座にマサヨシがロックオン。絵を片手にシグナムへ。

「そうか、これが私か。なら、これはヴィータだな?」

「うん」

 このまま向こうはシグナムに任せよう。僕はミライを抱えたまま、キッチンへ視線を向ける。

「後少しで終わるから」

「なら、さくっと終わらそか」

「私とシャマルで食器とか準備しよう」

「そうね」

 なのはとはやてが食事の支度を終わらせるために動き、フェイトとシャマルが食器などを準備し始める。僕はそれを眺めていたんだけど、ミライが何かを見つけたように天井へ手を伸ばした。でも、そこには当然だけど何もない。
 どうしたのかと思っていると、洗面所から戻ってきたユウキやノゾミもそこを見つめた。更にはマサヨシまでも。完全に僕は置いていかれたような心境のまま、そんな四人へ尋ねた。どうしたの? そうすると、予想だにしない言葉が返ってきた。

―――銀髪の人がそこで笑ってるんだ。

 その言葉は、ある事情を知らない人が聞けば、軽い恐怖だったろうね。でも、僕らにはその心当たりがあった。だから、こう尋ねてみた。

―――リインに似てる?

 それに三人は揃って頷いた。ミライは頷きはしないが、嬉しそうに僕へ視線を向ける。そんな反応に、僕は言葉が無かった。でも、思い返してみれば、ユウキ達が生まれた頃から何度か聞いた事があったっけ。
 はやてが家にいる時だけ、子供達がやけに何もない場所をじっと見つめたりする事があるって。そこまで思い出し、僕はある事を確かめるべく、こう問い掛けた。初めて見るのかい? シグナム達もどこか緊張の色が見えた。

 それにユウキが代表で答えた。何度もあるよ。それを肯定するようにノゾミもマサヨシも頷いた。その瞬間、リインが四人が見つめる方向へ近付いた。まるでそこにいる存在へ抱きつくように。シグナムもそこへ視線を向け、小さく呟く。噛み締めるように。

―――そうか。お前も主の傍にいたのだな、リインフォース。

 アギトはそれで察したのか、ザフィーラへ視線を向ける。ザフィーラはそれに頷き、僕を見た。

「子供達にしか見えんようだが、それでいいのかもしれん」

「どうして?」

「我らが見えては、色々と思う事が多くて心乱してしまうだろうが、子供達はリインフォースを知らん。なら、その姿を見ても動じる事はない」

 ザフィーラはそう答えた後、どこか嬉しそうに呟いた。それに、はやての傍にいると分かっただけでも意味があると。そこへ食事が出来たと呼ぶ声がして、子供達が頷いてからそちらへ動き出す。
 僕らもそれに続いて動き出したけど、リインだけが中々動こうとしない。理由は分かる。リインにとっては、お姉さんなんだからね。すると、そんなリインへノゾミがこう言った。

「リインお姉ちゃん、女の人が困った顔してるよ」

「うん。テーブルの方を指差してる」

 ノゾミに続いてユウキが告げた言葉にリインは驚いて、天井を見つめる。そして小さく頷くとテーブルへ向かって動き出した。一方、なのは達は子供達が何を言ってるのか分からないから困惑してた。なので、シグナムが説明をする。
 それを聞いて、段々その表情が変化していく。特にはやてとヴィータ、シャマルは顕著だ。目を潤ませ、子供達から特徴を聞いていくはやて。それに周囲も影響されて少し涙目だ。そして、最後にはみんなでそちらに笑顔を向けた。

 それから食事を終えて、僕らは子供達を頼りにリインフォースの居場所を特定した。どうもはやてが動くと移動するようで、基本的にはその傍にいるようだ。でも、どうもユウキ達の話だと、ミライが生まれた後は、はやてが出かけている時はその傍にいるらしい。
 それを聞いて、僕はミライの行動原因を知った。ミライはリインフォースを目指して歩いていたんだと。だから、いつもはやてがいない時ばかり動いていたんだとね。

「そういえば、こんな話を聞いた事がある」

「どんな話?」

 フェイトが切り出した話題に、なのはが問い返す。僕もはやてもなのはと同じく、その話に興味を示した。シグナム達も同様に。それにフェイトは思い出すように語り出した。幼い子供には、みな霊感が備わっていて、中でも物心つく前が一番強いらしい。
 その話を聞いて、ヴィヴィオが霊感について尋ねてきたので、簡単にはやてが説明。幽霊を見る事が出来る力。そう言った途端、マサヨシが軽く怯えた。見えているのがお化けと知って、怖くなったらしい。でも即座になのはが、見えているのははやての大事な家族だと教えると、安堵の息を吐いて笑みを戻す。我が子ながら現金だなぁ。

「……ホンマに傍におったんやな」

「お姉ちゃん……はやてちゃんの事をずっと見守ってたんですね」

 八神家の中でも一番リインフォースへの想いが強い二人がしみじみと呟く。周囲も何もいない天井を見つめ、感慨深そうにしていた。僕は少ししんみりした空気を吹き飛ばすように手を叩き、ある提案をした。その内容にみんなが嬉しそうに頷き、準備を始める。そして……

―――ね、ノゾミちゃん。リインフォースはどっち指差してる?

―――えっと……右!

―――げっ! 火事だってよ……って、どうしたユウキ?

―――うん、ヴィータお姉さんを見てリインフォースが苦笑してるんだ。

―――転職出来るが……どうするべきか。

―――シグナムお姉ちゃん、リインさんが首を横に振ってるよ。

 家族全員でのボードゲーム。シャマル達は子供達からリインフォースの指示を教えてもらい、その通りに動かしている。文字通り全員参加の対決だ。時折、子供達からリインフォースの行動や表情を伝えてもらい、僕らはそれに反応を返す。
 会話は出来なくても、意思疎通は出来る。子供達がいつか見えなくなるとしても、もう僕らは知っている。リインフォースも家族としてこの家に居ると。姿も見えず、声も聞こえなくてもここにいる。それだけで、僕らは嬉しいんだから。

 そんな楽しい時間が過ぎていく。これもまた僕らの思い出となっていくんだ。ゲームを終えた僕らへ、子供達が揃ってこう言ってくれた。

―――今、すっごく嬉しそうに笑ってるよ!

 それが誰かなんてすぐに分かった。そして、三人が指差す方へ僕らも顔を向けて笑顔を見せる。すると、一瞬だけリインフォースが微笑んでいるのが見えた気がして、僕は驚いた。しかも、見ればみんなそうだったみたいで、目を丸くしている。
 見えた? お前もか? そんな声があちこちから起きる。こうして、僕らの不思議な体験の一部は終わる。え? ここまでかって? うん、これからも色々あるし、起きるだろうけど……それはまだ分からないから。でも、一つだけ言えるのは、きっと僕らはいつまでも笑って暮らすって事。

だって、幸せはいつもここにあるんだから……




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三人エンド。リインフォース再び、な感が否めませんがご容赦を。

次のネタは……なのはエンドのヴィヴィオ視点かな? もしくは、今回ので思いついたネタかもしれません。



[27022] ヴィヴィオがあの出来事の裏を話すらしい
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/25 06:07
「え? ママの指の大きさ?」

 いつものように、ユーノさんに借りてた本を返しに来たある日、突然ユーノさんがそんな事を聞いてきた。ママの指の大きさなんて聞いた事もないや。でも、そんな事を知ってどうするんだろう?
 そう思って聞き返したんだけど、ユーノはその理由を明確に答えてくれなかった。ただ、それを知らないと困る事になるって、そう答えるだけだった。だから、ヴィヴィオとしてはユーノさんを助けようと思った訳で……

「分かりました。じゃ、ママに聞いてみます」

「えっと、ならこうしてくれないかな?」

 携帯電話を取り出そうとすると、ユーノさんはそれをやんわりと止めるようにそう言ってきた。そしてその内容を聞いて、何となくユーノさんの目的が分かった気がした。でも、それを言うと変な重圧を掛けるかもしれない。そう思って、それを言うには止めたんだ。
 その後、ユーノさんと話し合って、ママを納得させるための行動を教えてもらい、その日は帰った。帰り道、ユーノさんがママへ何を渡そうとしているのかを考え、一人で小さく笑ったけど。

「パパって呼んだら、驚くかなぁ」

 言って、まだ早いと自分で指摘。せめて結婚するって決まらないとね。でも、ママがユーノさんの事を好きだって知ってるし、絶対上手くいくって思う。だから心構えだけはしておこう。そんな風に考える私、高町ヴィヴィオです。



 ある日の我が家。ママがお料理してるので、何気ない顔で作戦開始。ここで多少疑われても、後で解決出来るので少し強引にいこう。そう決意し、ママの後ろから声を掛ける。

「ね、ママ。教えて欲しい事があるんだけど……」

「いいよ。何?」

「ママの指の大きさって、どれぐらい?」

 その問いかけにママは不思議そうな眼差しを向けてきた。そして、当然だけどこう聞いてきた。そんな事を聞いてどうするのって。うん、だよね。でも、大丈夫。ここがヴィヴィオの腕の見せ所です。

「う~、理由を教えたら意味な……」

「意味がない?」

「あっ……」

 会心の演技! つい口を滑らせちゃった。そんな風にすると、ママはそこから何かを自分で理解してくれたみたい。小さく笑って教えてくれた。それを覚えて、慌てるように部屋へ移動。ママはきっとこれで理由を誤解してくれたよね?
 えっと、すぐにユーノさんへメール送信。これで任務完了です。あ、でもママへの贈り物を作らないと。折り紙で作る指輪。それをママに渡さないといけないんだよ~。それを渡して、ママを納得させなきゃ。じゃないと、ユーノさんの作戦が失敗しちゃうよ。

 それに、これはママがくれた誕生日プレゼントのお返しだし。簡単な作りじゃ、ママへのお礼にならないもん。そう思って、結構頑張って作ろうと意気込んだところでママの声。そうでした。ご飯の時間が近かったんだよね。

「製作は、戻ってきてからだね」

 自分に言い聞かせるように言って、またリビングへと戻る。ママのご飯はホントに美味しい。はやてさんもお料理上手らしくて、ママは勝てないって言ってるけど、ヴィヴィオの一番はいつだってママなんだ。
 アイナさんのご飯も美味しいけど、ママの作るご飯には勝てない。そんな事をユーノさんに話したら、きっとママのご飯には、ヴィヴィオにしか分からない愛情が溶けてるからだよって、そう苦笑して言ってたっけ。

 ママと二人の食事。少し前まではフェイトママもいたんだけど、クロノさんに言われてお引越ししていったんだよねぇ。でも、よく顔を出してくれるから、あまりいなくなったって気がしない。フェイトママもユーノさんが好きみたいなんだけど、ごめんなさい。
 やっぱりママを一番に応援したいんです。ユーノさんもママを一番って考えてるみたいだしね。フェイトママは……ユーノさんに任せます。ヴィヴィオは知らなかったを通そう。うん、それがいいよね。

「へぇ、また本を借りたんだ」

「うん、ユーノさんのオススメ。ルールーにも貸していいって聞いたら、いいよって言ってくれたし」

「さすがユーノ君。心が広い」

「ママの自慢の幼馴染だもんね」

 そう言ったら、ママは少し照れくさそうに笑って頷いた。ホントは恋人って言いたいんだよね、ママ。ママとユーノさんが出会いを聞くと、少し憧れる部分がある。偶然出会ったママとユーノさん。それが、今の状況に繋がってるんだもん。
 奇跡って言うんだよね、こういうの。凄いよなぁ……いつかヴィヴィオもそんな運命の相手に出会いたいです。でも、男の人限定。女の子でもいいけど、恋人にはなれないもん。ママとフェイトママみたいな関係のお友達も欲しいけど、出来れば恋人が欲しいなんて思う年頃です。

「まだ恋人は早いよ。ボーイフレンドなら分かるけどね」

 そんな事を話したら、ママにこう言われてしまいました。ボーイフレンドかぁ。確かにまずはそこからだよね。クラスのお友達で親しいのは、リオやコロナみたいな女の子ばかり。男の子もいない訳じゃないけど、親しいとまでは言えないんだよ~。
 うん、まずはボーイフレンドを沢山作ろう。それで、もっと仲良くなっていこ。もしかしたら、運命の人に出会ってるけど、ヴィヴィオが気付いてないだけかもしれないし。あれ、そう考えたら少しドキドキしてきた。あの子やあの子が運命の人かもしれないって考えたらね。

 その後、食事を終えて部屋に戻ってから、いよいよ指輪の製作です。折り紙で基本の指輪を作って、中央にビーズをつけてそれらしく。そんなこんなで気がついたら、お風呂に入る時間です。なので、少し急いで部屋を出てお風呂場へ向かわないと。
 ママはリビングでテレビを見てた。えっと……夜のニュース番組だね。ママへ先にお風呂に入るって言って、脱衣所へ。将来はママみたいなお仕事がしたいんだけど、少しユーノさんみたいな司書のお仕事も考えていたり。だって、本を読むの楽しいんだもん。

 裸になってお風呂へゴー。まずは体を洗って、それから頭。前は一人じゃ出来なかったけど、最近出来るようになりました。ママに言ったら、凄いねって褒めてくれたし。ユーノさんは、これでまた少し成長したねって言ってくれた。
 あれ? こう考えると、やっぱりユーノさんってパパみたいな事言ってくれてる。う~、早くホントのパパになって欲しいな。そうなったら、もっと楽しくなるのに。

「ヴィヴィオ、バスタオル置いておくからね」

「あ、ありがと~」

 頭を洗ってると、ママから声を掛けられた。あう~、忘れてた。ちゃんと用意しておかないとね。お礼を言うと、ママがどういたしましてって言って戻って行った。シャワーで頭の泡を流してっと。

 少し頭を振って水を払う。犬みたいだけど、やりすぎるとクラクラするので注意が必要です。軽くタオルで頭を拭いて、湯船へ入る。気持ちいい温度になってるのが、ママの凄いとこ。いつも少し熱いぐらいなのです。
 一緒に入る事もあるけど、最近は別々に入る事が増えてきてるんだよね。最近、ママと一緒に入ると思うのは、気のせいかもしれないけど昔よりも綺麗になったなぁって事。丁度、ヴィヴィオがこの前お泊りに行った日ぐらいからなんだけどね。

「何があったのかな? 聞いても教えてくれなかったし……」

 ただ、とっても楽しい事があったって言ってたなぁ。ユーノさん関係って事だけは分かるんだよね。ママの機嫌が凄く良い時って、大抵そうだもん。そんな事をぼんやり考えてたら、少し頭がぼんやりしてきたのでお風呂から上がる。
 体を拭いて、パジャマに着替えてリビングへ。あ、ママが電話してる。相手は……アリサさんみたいです。今度のお休みにユーノさん達と一緒に遊びに行くって話してる。む~、ヴィヴィオも行きたいです。よ~し……

「ヴィヴィオも行きたい!」

「ふぇ?! ヴィヴィオも行きたいって……学校は?」

 あ……そうか。ママ達のお休みって平日になる事が多いのでした。どうもアリサさん達も、大学が終わる年だから卒業論文って物を書くだけでいいらしく、その気になれば休みに出来るそうです。いいなぁ、ヴィヴィオも行きたかった。

「にゃはは、じゃあ……次はヴィヴィオがお休みの日に予定立てるね」

「うん!」

 ママはやっぱり優しいです。アリサさんも今のやり取りが聞こえてたみたいで、ママに何か言ったみたい。ママがそれに苦笑してるし。多分、ホントに親子だねって言われてるんだと思う。血が繋がってないヴィヴィオとママ。でも、不思議と似てるってよく言われる。
 えっと、確かはやてさんがこう言ってたっけ。朱に交われば赤くなるって。意味は、ママと一緒にいるから段々似てくるって事みたい。うん、そうだと思う。ママがヴィヴィオの目指す人。ママみたいに、強くて優しい人になるって決めてるんだもん。

 電話が終わると、ママがお風呂へ。ヴィヴィオとしては、お風呂上りの飲み物は牛乳と決めてるのです。早く大きくなって、少しでも早く大人に近付きたいから。あ、ママの分も用意しよ。一人で牛乳を飲みながらぼんやりとテレビを眺めてると、結婚式場のCMが流れた。
 白いドレスを着た女の人が嬉しそうに笑ってる。いつかママもあんな格好するのかな? ユーノさん、頑張ってください。そう思った時、メールチェックをするのを忘れていたのを思い出した。ユーノさんから返事が来てるはず。そう思って、急いで部屋へ。

「えっと……あ、着てる着てる」

 ユーノさんからは”ありがとう。今度何か美味しいお菓子でもご馳走するね”って書いてあった。何を食べさせてくれるのかな? って、違う。それは……どうでもよくはないけど、置いておこう。
 きっと、いつかこれが役に立つとは思うけど、いつかな~。出来るだけ早く役立てて欲しいです。パパって呼びたいし。でも、焦らせたらダメです。これは、ヴィヴィオの問題じゃなくてママとユーノさんの問題なんだから。

「ヴィヴィオ、牛乳が残ってるよ~?」

「あ、それママのぶ~ん!」

 そんな事を考えていたら、ママの声がした。部屋を出てもう一度リビングへ。ママは牛乳が入ったコップを手に確認してきたので、説明した。お風呂上りに飲んでもらおうと思ってって。そう言うと、ママは嬉しそうに笑ってくれた。

「ありがとう。じゃ、もらうね」

「うん。ヴィヴィオはもう飲んだから」

「そっか。あ、なら歯磨きしておいで」

「は~い」

 ママに返事をして、洗面所へ。歯ブラシを用意して、歯磨き開始。えへへ、お気に入りのイチゴ味の歯磨き粉です。時々食べたくなるのが困り物ですが、そこはぐっと我慢我慢。前そう言ったら、ママに苦笑されました。
 じゃあ、今度からは大人用のを使おうか。そう言われてしまったので、絶対にそれは出来ないのです。決意も新たに歯を磨いていると、ママもやってきて同じように歯磨きを始めました。しばらく二人の歯ブラシの音だけが、洗面所に響く。うがいをして、鏡で一度確認。うん、キレイです。

「じゃ、おやすみママ」

「うん、おやすみ」

 それから少しお喋りして、ママへおやすみの挨拶。手を振って部屋へ行き、ベッドに横になって目を閉じる。明日もいい日になるといいなぁ。そんな風に思いながら、この日は終わったのでした……



「じゃ、行ってきま~す」

「行ってらっしゃい」

 ママへ手を振り家を出る。向かう先はスバルさん家。今日はスバルさんと遊ぶ約束してるんだぁ。ママはお休みで、今日はユーノさんとデート。夜には帰ってくるって言ってるけど、遅くなるかもしれないから、連絡するまでスバルさん家で待ってて。そうママは言ってたので、ヴィヴィオとしては今日がユーノさんの勝負になる気がしています。

 てくてくと歩いてスバルさん家へ。今日は、スバルさんが久しぶりにお家に帰ってくるのに合わせて、ゲンヤさんもお休みです。二人に迎えられ、ちょっと恐縮しながらリビングへ。スバルさんとノーヴェ達のお話をしながら、話題が段々ママの事へ。

「なのはさんは今日お休みなんだよね?」

「そうですよ。でも、今日はユーノさんとデートなんです」

「デートかぁ。私には相手がいないからな~」

 スバルさんはそう言うけど、ヴィヴィオは知ってるんですよ? 結構スバルさんがあちこちから声を掛けられてるって。男性からの誘いも多くて、嬉しい反面少し困惑してるって、ティアナさんから聞いてるんだ。
 スバルさんの好みのタイプって誰なんです? そう聞くと、スバルさんは少し照れくさそうにチラってゲンヤさんを見て、ぶっきらぼうだけど優しい人って答えてくれました。つまりゲンヤさんみたいな人なんだ。う~ん……ヴィヴィオも最終的にはユーノさんみたいな人って思うのかな?

 そんな風にお話をしていると、時間も遅くなってきたのでスバルさんがご飯を作ってくれる事に。スバルさん、実は家事が出来るんです。クイントさん―――つまりスバルさんのママが亡くなった後、ギンガさんとスバルさんはゲンヤさんと三人で家事を頑張ってたんだって。
 だから、今でも家事は結構出来るみたい。ギンガさんの方が得意だけどってスバルさんは笑ってたけどね。そんなスバルさんを手伝うゲンヤさん。親子でやってるのを見て、ヴィヴィオはお手伝いをするべきかどうか迷ってしまいます。でも、やっぱりお友達なのですから、お手伝いしよう!

「えっと、ヴィヴィオも何か手伝います」

「ん? じゃあ、テーブル拭いてくれるか?」

「それ終わったら、コップとか出してくれると嬉しいかな」

 ゲンヤさんとスバルさんが少し嬉しそうに言ってくれたので、ヴィヴィオとしても一安心です。笑顔で頷いて、テーブルを拭くために台拭きをもらって、いざテーブルへ。将来、ここにノーヴェ達もいるようになるんだなぁって思うと、少し楽しみ。
 今はまだ施設にいるノーヴェ達。でも、いつかはこのナカジマ家に家族として住む事になるんだよね。その頃には、ヴィヴィオは少しでもママに近付いてるのかなぁ? テーブルを拭きつつ、そんな事を考えるヴィヴィオなのでした。

 テーブルを拭き終わり、台拭きを返してグラスの準備。スバルさんとゲンヤさんは、意外とって言ったら失礼かもしれないけど、息の合った感じでお料理をしてる。いいなぁ。ヴィヴィオも大きくなったら、ママとあんな風にお料理出来るようになろう。
 そんな風に決意し、配膳を終わらせる。そして、全てが終わったのでそれを二人へ報告してっと……

「スバルさん、ゲンヤさん、終わりました~」

「ありがと、ヴィヴィオ」

「すまねぇな。後は座って待っててくれや」

「は~い」

 二人の言葉に甘えて、椅子に座ってお料理を待ちます。う~、良いにお~い。お腹空いてると、匂いだけでも堪らないよ。あ、見ればスバルさんが涎をたらしそうになってる。で、ゲンヤさんに軽く頭を叩かれてます。うん、何か家族って感じでいいなぁ。

 そうしてテーブルにお料理が並べられ、三人揃っていただきます。ママも地球出身で日本人。スバルさんのご先祖様も同じなので、結構ナカジマ家とヴィヴィオは相性がいいのです。お料理の味付けも似てる気がするし、何よりもゲンヤさんがおじいちゃんみたいで和むんです。
 ある時そう言ったら、ゲンヤさんは嬉しそうに笑ってくれました。ヴィヴィオみたいな孫が出来たって思うと嬉しいって。なので、気持ちとしてはおじいちゃんと思ってます。

 ママにそれを言ったら、士郎さんはそう思えないのって聞かれました。士郎さんと桃子さんは、何となくお祖父ちゃんとお祖母ちゃんって感じがしません。そう返すと、ママは何とも言えない顔をしてたのを思い出すなぁ。
 そんな事を思い出しながら、食事は終了。後片付けをスバルさんと一緒になってしている間、ゲンヤさんは新聞を読んでいました。何でも、朝は中々じっくり読む事が出来ないらしくて、こうして夕方にもう一度読み返すのが日課なんだそうです。

「ティアナさん、執務官試験に受かってから忙しいみたいですね」

「そうなんだよ。私も直接会ったのは、合格祝いの時だからねー」

「ユーノさんは、たまに捜査資料とかの関係で会ったりするって言ってました」

「そっか。無限書庫ってそういう事もしてるもんね」

 お皿を洗いながら、二人で会話。話題はティアナさんです。スバルさんとの話題で一番いいのは、ティアナさん。次にママか学校の事。スバルさんは魔法学校に行ってなかったから、すごく興味を持って聞いてくれるんだよね。
 そして洗い物を片付けたら、リビングで引き続きお喋りしてたんだけど、ふとスバルさんがこんな事を聞いてきた。

―――格闘技の方はどう?

 なので、正直に思った事を答えたんだ。

―――まあまあです!

 そしてら、軽くシューティングアーツを教えてもらえる事になって、嬉しくなっちゃいました。早速庭に出て、軽い準備運動をした後から手合わせ開始です。

「行くよ?」

「はいっ!」

 ヴィヴィオがやってる物とは違うのですが、シューティングアーツも知っていて損はないです。実はヴィヴィオ、格闘技やってます。ママと喧嘩しちゃったゆりかごの戦い。その時、ヴィヴィオは完全格闘技しか使ってなかったので、ママがヴィヴィオはそういう方向が向いてるんじゃないかなって。
 なので、学校に上がってから護身術として身に着け始めたのですが、これが中々楽しいんです。体動かすの好きだし、少しずつ自分が強くなっていくのが分かった時は、もう言い表せないぐらい嬉しいんです!

 そんな風にスバルさんと軽い手合わせをしてると、ゲンヤさんが携帯を持ってヴィヴィオへ呼びかけてきました。どうも着信のようです。う~、いい感じで体あったまってきたのにぃ。内心ぶつぶつ言いながら、相手の名前を見て軽く疑問です。

「ユーノさん? どうしたんだろ?」

 とりあえず、電話に出ます。すると、ユーノさんが申し訳なさそうに事情を話してくれました。ママがお酒を飲み過ぎてダウンしちゃった事を。なので、この後の事をゲンヤさんと相談したいって。それを聞いて、ヴィヴィオは直感で気付きました。ママは自分がお酒に弱い事を知っています。
 だから、倒れる程は飲まないんです。でも、ユーノさんはそう言ってる。きっとママは、お酒を多く飲みたくなるような事があったんです。ユーノさんから告白でもされたんだなって。

 なので、ママを心配しながらもゲンヤさんへ携帯を渡します。簡単にユーノさんが話があるらしいって言ったら、ゲンヤさんは頷いて携帯を受け取ってくれました。ヴィヴィオは、スバルさんへお泊りをしたいって言いました。
 だって、ママが寝ちゃったんじゃきっとお家に帰るのは無理だもんね。そんな事を話してると、ゲンヤさんがヴィヴィオの意見を受け入れてくれました。ママは、ユーノさんが責任を持って面倒を見てくれるんだって。でも、それを聞いた瞬間、スバルさんが顔を赤くしてました。どうして?

「あ、その……ヴィヴィオにはまだ早いから」

「意味が分からないんですけど?」

「うん、それでいいよ。その内、教えてもらえるだろうしね」

 そう言うと、スバルさんは笑って構え直しました。そうだ。今は組み手の途中だった。なので、ヴィヴィオも再び構え直します。そんな風に結構動いて汗を掻いたので、スバルさんと二人でお風呂。でも、ずっとスバルさんはママとユーノさんの事を考えてるのか、ぶつぶつ言ってました。
 大胆だなとか、いつか自分もとか。ヴィヴィオとしては、意味が分からないので気になって仕方ないです。でも、教えてくれないし……あ、一つだけこう言われました。パパが出来るよって。ユーノさんがパパになるって事だと思って嬉しかったのですが、どうしてスバルさんはそれが分かったんだろう。

 そんな感じでヴィヴィオはスバルさんと一緒に寝て、翌朝お家に戻りました。もうママが帰ってきていて、笑顔でお出迎えしてくれたので、一安心。ママは心配させてゴメンって謝ってくれました。それと、ママの指に昨日は無かった物があったのに気付いて、ヴィヴィオは確信しました。
 ユーノさんがママへ告白して、指輪を渡したんだって。それを、もしかしたらスバルさんは知ったのかもしれない。ゲンヤさんがユーノさんから電話で聞いて、ヴィヴィオが軽く水分補給をしている時にスバルさんへ話したのかも。

「ママ、その指輪って……」

「あ、えっと……知ってるんだよね、ヴィヴィオは」

「ユーノさんからもらったんでしょ? 結婚指輪?」

「ち、違うよ。これは……その……婚約指輪だよ」

 ママはそう言うと顔を真っ赤にして黙ってしまいました。嬉しいっていうのはすごく伝わったよ、ママ。そっかぁ……これでヴィヴィオにもパパが出来るんだね。そう思って笑ってると、ママが手招きしてこんな事を教えてくれました。

―――ユーノ君の事、パパって呼んでもいいからね。

 勿論ユーノさんの許可を取ってってママは言ったけど、絶対ユーノさんなら許してくれるはず。なので、もう呼べるのは確定しました。えへへ、きっと驚くだろうな、ユーノさん。
 あ、そうだ。なら今日帰ってきたら無限書庫に行こう。そう決めて、学校の支度をする。あれ? そういえばママが少し動き辛そうだけど、どうしたんだろう? そう思ってママにどこか具合でも悪いのって聞いたら、顔を少し赤くなって何でもないから大丈夫って言われました。

 ……何かあまり聞いてはいけない気がします。なので、その事は深く考えないでご飯を食べよー。そんな感じでこの日は始まりました……



 あれからもう三年以上が経ちました。今、私の前にはママとパパがいます。そして、ママの腕には、つい最近生まれたばかりの私の妹が抱かれてる。名前はまなみ。日本語で書くと”真菜実”なんだって。でもそれだと、ミッドじゃ浮いちゃうから平仮名にしたんだってママは言ってた。
 二人が結婚してもう二年。私もお姉ちゃんになるからって、ヴィヴィオって言うのを止めました。最初は少し違和感あったけど、今では慣れてこの通り。ママは教導官を一時休職。パパはその代わりに無限書庫でお仕事を頑張ってます。理由は、クロノさん。何でもパパが昔、クロノさんに対してこう言ったそうです。

 長期に家を空けてもいいけど、無限書庫が立ち行かなくなるって。なので、クロノさんが無限書庫にずっと缶詰になるようにしてるみたい。まなみがパパの事を父親って認識出来ないようにって。それを知ったママは苦笑して、パパへ「自業自得です」って突き放しました。
 なので、私は密かにパパを手伝って無限書庫に出入りしてます。司書の名は伊達じゃないんだから! パパには、結構感謝されてます。教導官もいいけど、司書長もいいな。そんな風に思う今日この頃です。

「ヴィヴィオ、早くおいで」

「置いてくよ」

「は~い!」

 実は、今からまなみを連れて海鳴へ遊びに行くんです。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんにまなみを会わせるためにね。呼び方がこうなったのは、ゲンヤさんの事をママがお祖父ちゃんに話したから。他人をお祖父ちゃんと思わせるぐらいなら、自分がそう呼ばれたいって言い出したんだ。
 私は別に気持ちの問題って言ったんだけど、どうしてもって言うからね。お祖母ちゃんはどうしようか正直迷ったけど、ママがコロナ達に写真を見せたんだ。そうしたら、すごく綺麗で若いお祖母ちゃんで羨ましいって言われた。それをママがお祖母ちゃんに話したみたいで、嬉しそうにお祖母ちゃんって呼んでいいって言われたんです。

「まなみ、翠屋のケーキ食べれるようになったら、意外と翠屋を継ぐって言ったりして」

 私がまなみを軽く突きながらそう言うと、ママが微笑んで頷いた。パパも、それはきっとお祖母ちゃんも喜ぶだろうって笑ってた。私も実は少しだけ考えた事もあるんだよね。でも、やっぱりママのようになりたいって決めてるから、諦めた。
 あれもこれもじゃ駄目だって、そうママとパパにも言われたし。なので、今の私の目標は空戦魔導師。目指せ、二代目エースオブエースなのです!

「お義父さん達、元気かな?」

「連絡した時は、いつも通りだったよ」

「美由希さん、例の人と上手くいってるのかなぁ?」

「ヴィヴィオ、その話題をあまり出さないように」

 美由希さんは半年前ぐらい前に、翠屋に通う常連の人から告白されたんです。それからお付き合いをしてるらしく、ママは結構相談を受けたりしてるみたい。と言っても、パパからの意見を聞いてもらうためみたいだけど。
 相手は美由希さんより年下。学生の頃から美由希さんが好きだったみたいで、一人前の社会人になるまではって、ずっと我慢してたって話をママから聞いた。それを聞いたパパがどこか遠い目をして、気持ちがすごい分かるって言ってたっけ。

 もうお馴染みのなった湖畔のコテージ。海鳴への転送ポートの使用頻度はここが一番多いんです。すずかさんのお家は、やっぱり色々と考えると簡単に使えないから。ここからテクテク歩いてまずはお祖父ちゃん家を目指します。

「じゃ、行こう。ママ、パパ」

「ヴィヴィオって、まだ少し甘えん坊だね」

「いいじゃないか。たまには、ね」

 ママとパパの手を握って、私は歩く。ママは片腕でまなみを抱き抱えてる。パパはそれを見て、よければ代わるからって言ってます。穏やかな風が流れてく。海鳴の風。私のもう一つの故郷の風です。ママはミッドがそれ。
 親子で故郷が二つあるって不思議。あ、パパは三つだっけ。スクライアの部族が住む世界が一番目だから。まなみが楽しそうに笑ってる。視線の先には雲一つない青空。うん、確かに何か心がうきうきしてくるね。

―――今日もいい日でありますように……

 私の呟きは、微かに香る海風に乗って空へと消えた。その願いを神様へ届けるように……




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なのはエンドのヴィヴィオ視点。とは言え、別物みたいになっているのはご愛嬌。

次回は、ちょっとした完全ネタ物を書こうと思います。三人エンドから思いついた物です。



[27022] 特別編 リインフォースの携帯転生
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/27 07:25
―――私は世界で一番幸せな魔導書でした……

 それで私は消えるはずだった。この世にあった証として、蒐集能力を主へ残して。だが、何故か消えなかった。いや、消えたのだが、それは私が想像した消滅と違ったのだ。その……何と言うか……戻ってきてしまったとでも言えばいいのだろうか?
 気がついた時には、私は信じられないような状況に置かれていた。今、私の横と言うのか、後ろと言うのか。とりあえず傍には主達がいる。とは言っても本物ではない。いや、本物と言えば本物なのだ。だが、実物ではない。

―――また待ち受けを変えられたのですね、主。

「そや。これなら、いつも傍におる気になるやろ?」

 私の声で画面が切り替わり、メール文章を入力する画面が表示される。そこに表示された文章に主がそう答え、楽しそうに笑う。そう、先程のは携帯電話の初期画面だったのだ。私は、何故か主の携帯電話に存在している。もう、この生活を始めてどれぐらいになるだろうか?

 始まりは、あの雪の中での別れの日の夜の事。私が暗かった視界が明るくなったのを感じて、目を開けたところから始まる……



「あれ? 今日は携帯の電源入れたはずやけど……?」

 眩しい。そう感じたと同時に見えてきたのは、もう会えぬと思っていた相手。それがあの優しき主だと気付いたのは、もう一度その姿を見たからだ。

「え……?」

―――ある……じ?

 そう呟いた瞬間、私の背後に見慣れないものが出現する。そこに、先程の私の呟きが表示された。それを見て、互いに硬直。当然だ。互いにもう会えぬと覚悟し、悲しみながらも別れた直後の再会だ。しかし、先に我に返ったのは主だった。すぐに私を―――携帯を手にし、何かを叫んでいるようだった。それがシグナム達を呼び集めたと分かったのは、その後だ。
 主の周囲へ何事かと集まるシグナム達。そこで私を見せつけるようにし、四人の反応を待った。私を見つめる四対の視線。それは全て同じ色を浮かべていた。驚愕。それは私も同じだったのだが、それを抑えて尋ねた。

―――私が見えるのか?

 表示される言葉。それにシグナム達が一際驚きを大きくして、一斉に頷いた。そしてその直後、主の顔が再び大きく出現した。あの、主……少し驚くので、急に出てくるのは控えてもらえないでしょうか?
 そう告げると、また同じように言葉が文章になり表示される。それを読んで主が少し苦笑しながら謝ってくれたようだ。そして、涙を流してシグナム達も見えるように距離を取って、五人揃ってこう言ってくれた。

「「「「「お帰り、リインフォース」」」」」

 声は聞こえずとも分かる。なので、私もそれに返事を返す。

―――……はい、今、帰りました主。それと、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ……

 その文面を見て、五人がそれぞれに涙を見せてくれた。私も同じように涙を浮かべていたようだ。そこからしばらく言葉はなく、ただ皆が涙を流すだけだった……



「理由はよく分からないけど、リインフォースははやてちゃんの携帯電話の中で生きてる。これだけは確実よ」

「シャマル、それはもう誰もが分かる。問題は、リインフォースをこれからどうすればいいのだ。出してやる事は出来んのか?」

 私の目の前で繰り広げられる会話。それを私は聞いていた。現在、私はテーブルに置かれる形でそれを眺めていた。姿は主曰く”SDキャラ”になっているらしく、かなり小さいようだ。魔法全般が使用出来ない。念話さえ使えず、声を発すれば、メール画面に切り替わり表示してくれる。それ以外に話す事は出来ないのだろうかと、主が一度どこの番号も入力せずに通話ボタンを押したら、その時だけ普通に会話が出来た。しかも、周囲の音も聞こえるため、今はそれを使って会話を聞いているという訳だ。

 だが、それでは聞くだけで、話すとしても一人としか話せないため、多くと話す事は出来ない。それでも、先程主を始めた全員と短いながらも会話し、改めて互いが共にいる事を確かめあった。

「……多分携帯電話から出す事は難しいはず。元々リインフォースは管制プログラム。それがバグを除去するために消滅を選んだ。おそらく、その際にバグが変な形で影響したんじゃないかしら?」

「消滅したくないと思い、リインフォースのデータを変化させたため、転生機能が妙な物への転生を行なったといったところか」

「闇の書はもうねえからな。仕方なくはやての身近な物にってか?」

「リインフォース、バグはどないなっとる?」

 皆の話を聞きながら、私も自分の事を考えていたのだが、その主の問いかけにやや慌てた。バグを恐れて消滅を選んだのだ。それが残っていては意味がない。そう思い、自分の体を調べたのだが……

―――……そんな?! ありません! バグがどこにも存在しませんっ!!

「おわっ!? ……すごいなぁ、リインフォースの気持ちに連動しとるんやろか?」

「文字、でかっ!」

 主とヴィータがそう言ったので、私も自分の上を見上げた。うっ……確かにそこには、かなりの大きさの文字が表示されている。恥ずかしいな。もう少し落ち着こう。そんな風に思っていると、シャマルが安堵したように息を吐いた。
 どうもバグは私を変質させたまでは良かったのだが、携帯に転生した瞬間にその容量が大きすぎたため、自然消滅したのではないかとの事だった。成程、あくまでも本体は私。それを生かすために容量を使えば、バグなどが残れる余地は無かったのか。

 長きに渡り苦しめられてきたバグが、最後の最後に自滅したというのは皮肉な感じがするが、おかげでこうして主達と再会出来た。それだけは礼を告げるとしよう。そう考え、私は密かに心の中で感謝を述べた。

 そこから今後の事を話す。携帯電話自体になった訳ではないようなので、一度メールに添付してみては? そんな風に主が思いつき、早速とばかりに試そうとしたのだが……

「あかん。わたし以外は誰も携帯持っとらんわ」

 その言葉に私を始め誰もが落胆したように声を漏らした。その瞬間、表示される「はぁ~……」との文章。一々呟きまでも文面化されるのは、少々恥ずかしいものがあるな。これからは控えないと。そのため、明日にでも家族全員分の携帯を買う事になった。もし私がメールで他の携帯に移動出来るのなら、それで皆の傍へ行く事も出来るのだ。
 主の提案に誰も反対する事はなく、すぐにシグナムが家を出て携帯電話の販売店へ走って行った。どうも、カタログを貰いに行ったらしい。様々な機能の中から、私を出す事に利用出来たり快適に出来るような要素があればと、そうシャマルが考えてくれたようだ。

―――すまない、シャマル。

「いいのよ。家族だもの」

 その言葉に私は軽くこみ上げるものがあった。なので、それをグッと堪えて頷いた。シグナムが戻ってからは、全員でああでもないこうでもないと意見交換。いや、皆の気持ちは嬉しいのだが……頼むから機種選択を機能優先でしないでくれ。
 そう言うと、主達が揃って苦笑した。今まで私には家族らしい事が出来なかったから、その分のお返しだと思ってくれと告げたのだ。そんな事を告げられたら、私は何も言えないではないか。結局、その日は結構な時間まで私達はカタログを囲んで話し合った。

「やっぱ、今流行りの多機能だよ」

「え~、カメラの画素数じゃない? 写真は絶対影響させる事が出来るもの」

「……テレビが見れる物の方がいいのでは?」

「俺は分からん。リインフォース、何か希望はあるか?」

―――そうだな……今のままでもいいのだが、スピーカーの機能がついていると嬉しいな。

 それさえあれば皆と語らう事が出来る。そう思っての提案だった。すると、主が頷いてカタログの機能欄を詳しく見直していく。そんな感じで時間が過ぎていく。さすがに日にちを跨いだ辺りで主の事も考え、寝る事にしたのだが……

「えっと……電源落としてええのかな?」

―――それでも構わないと思いますが、願わくば折り畳むだけにして頂けませんか? それでも眠れるようなので。

 電源を落とす事が私も主も怖かった。なので、電源を落とさずに主は携帯を畳んでくれた。私の視界も暗くなる。まるで書の中にいた頃のようだ。そう思うも、あの頃と違い寂しくはない。
 目を閉じて、朝が来る事を願う。これが夢でないようにと。そう心から強く願った。寝るのが怖い。だが、これを乗り越えなければこれからが辛い。そう思い、私は眠りにつく。すると、予想以上に早く意識が遠のく。

(どうやら慣れぬ環境と突然の事で疲れていたようだ……)

 そんな結論を出し、私は小さく呟いた。

―――おやすみなさい、主……



 朝、私が目を覚ますと、目の前に主だけでなくシグナム達の顔もあった。どうも私が本当に起きるか心配していたらしい。私が目を覚ますと一様に安堵の息を吐いたのだ。大袈裟だなと思いつつ、私も同じ気持ちだったので嬉しく思った。

―――おはようございます、主。おはよう、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ。

 笑みと共にそう告げると、主達がそれぞれ笑みと共に挨拶を返してくれた。そこから朝食になったのだが、当然ながら私はそれを眺めるだけ。すると、それを見てヴィータが気まずそうに主を見つめた。

「ねぇはやて。リインフォースにも飯食わせる事出来ないかな?」

「そやなぁ……でもどうすればええかな?」

「あ、カメラで撮影してみるのは? 意外とリインフォースにはそれが作った扱いになるかも」

「試してみるか」

「主、どうぞ」

 シャマルの提案にシグナムが頷き、ザフィーラが携帯を主へと手渡した。なので、私がカメラを起動させる。主が白米と味噌汁を納まるようにし、ぶれないようにしてシャッターを切った。綺麗に取れたそれを保存し、私がそれを再度展開する。
 その瞬間、私の前に湯気を出す白米と味噌汁が出現した。しかも、私のサイズに合わせた大きさになって、だ。それに私は軽く言葉を失うが、まだ分からないと思い、試しに味噌汁へ手をつけてみた。そして……一口啜る。初めて口にする主の料理だった。

―――……美味しいです、主。

「おおっ! これでええんやな!」

「ほら、私の言った通りでしょ!」

「威張んな!」

「となると、カメラの機能はいい方が良いな」

「そうだな。では、残りの料理も撮影するとしよう」

 そこからは、ヴィータにシャマル、シグナムやザフィーラまで代わる代わるで料理を撮影してくれた。ただ、ヴィータとシャマルは、比較的綺麗に撮ってくれたので味も良かったのだが、シグナムとザフィーラはぶれたために味があまり良くなかった。
 その事を伝えると二人が申し訳なさそうになったので、慌てて皆でフォローした。どうも撮影の結果が影響するようだ。それを理解し、今後は気をつける事になり、食事は終わりを告げた。

 余談だが、撮影した物を展開し消費すると自動で消えるようだ。これで一々消去せずに済むと主は笑っていた。

 後片付けを終えた主達は外出準備をして、全員で携帯を買うために販売店へと出かける事になった。私は主の手の中で外の景色を眺めていた。その穏やかな風景に、私はつい嬉しくなってしまった。生きる事が出来ないと思った平和な時代。そこに存在出来る事にだ。
 すると、知らず口から覚えのないメロディーが流れる。それを聞いた主が小さく驚いたようで、私へどうしてその曲を知っているのか、そして何故声が出ているのかと聞いてきた。私も分からなかったのだが、もしやと思い調べた。

―――主、今の曲がこの中に入っていました。そこから私が無意識で再生していたのでしょう。だから私の声で再生されているのでは?

「あ、そっか。道理でリインフォースの声で聞こえる訳や」

 表示される答えに、納得がいったとばかりに頷く主。私はその後もその曲を口ずさんだ。何となくだが、気に入ったのだ。どこか寂しくもあり、でも優しさと穏やかさもくれる曲。しばらくそれを口ずさんでいると、ふと体を軽い倦怠感が襲う。
 なので、口ずさむのを止めて原因を探す。すると、バッテリー残量が一目盛り減っていた。それを主に伝えると、苦笑されてしまった。何でも、曲の再生はかなりの力を使うらしく、長時間行なえば当然それだけ疲れるだろうとの事。

「ゴメンな、リインフォース。あんまり綺麗な声やったから聞き入ってまったわ」

―――いえ、私も考えれば分かる事でした。今後は気をつけます。

 そんなやり取りをし、販売店に到着。軽く見ただけでかなりの種類があるな。主は早速店員に希望する機能を告げ、それが搭載された物を希望した。シャマルとシグナムだけでなくヴィータにザフィーラまでも買うとなり、店員はそれなりの大口とでも思ったのだろう。
 にこやかな笑みを深め、様々な機種を取り出して提示した。主は全員同じ物にこだわり、結局色違いで同じ機種となった。だが、残念ながらスピーカー機能がついている物はなく、カメラの画素数と稼働時間の長い物を選んだ。

 そして、店を出て早速とばかりに主が操作開始。登録したばかりのヴィータのメールアドレスを呼び出し、私は添付画面を展開してそこへ移動。主がやや緊張の面持ちで送信ボタンを押した。その瞬間、私の視界がぼやける。転送魔法の最中のようだな。
 やがて私の視界が元に戻った。すると、視線の先にはヴィータの顔があった。視線が合った瞬間、ヴィータが嬉しそうに私を主達へ見せる。これで携帯間の移動が可能なのが実証された。

「これで万が一の際も安心やな。バッテリー危なくなったら、こうやって移動させよ」

「そうね」

「リインフォース、あたしの携帯はどうだよ」

 ヴィータがそんな風に聞いてきたので、体の調子を確かめる。気だるさが先程よりもキツイな。そう思い、視線を上げる。バッテリー残量を示すマークがかなり少ない。それを見て、私は嫌な予感を感じて告げた。

―――こ、このままでは電源が落ちてしまいます!

 それに全員が同じように慌て、すぐに主の携帯に戻すための作業に入る。だが、新しい携帯のため、主さえ操作がおぼつかない。そうこうしてる間にもバッテリー残量が危ない。そんな時、ザフィーラがふとこう告げた。

「リインフォース自身にメールを展開してもらえばどうだ?」

―――……盲点だった。

 そう呟き、私はメール画面を展開。そうなれば、もう主が手馴れたもので操作して事無きを得た。私は再び主の携帯へ戻り、一安心。周囲も同じように安堵した。そこからは再びメール画面を使った会話へ戻る。
 通話ボタンで周囲の音を聞いているのもいいのだが、それも結構な力を使うかもしれないと言われてしまえば無理には出来ない。なので、家に到着した途端、シグナム達が携帯を揃って充電開始させた。

 主は私がいたままの充電に不安があるらしく、出来る限り変な事をしないようにと告げた。私はそれに従い、そのまま何をするでもなくぼんやりとした。気を抜くと、ダウンロードされた曲などを口ずさみそうになるので、出来る限りぼんやりしながらも完全に気を抜く事はしなかった。
 そんな風にしている間に、私は寝ていたらしい。気がついた時には時刻が夕方を指していたのだ。目を擦ると、それを見ていたのだろうシャマルが微笑みを浮かべていた。

―――どうした?

「ふふっ、今のリインフォースがすごく可愛かったのよ」

 通話ボタンを押し、シャマルはそう告げた。う……喜べばいいのか、恥ずかしいと思えばいいのか。とりあえず、反応に困る。そんな風に思っていると、それをシャマルも察したのだろう。苦笑し、気に障ったのならごめんなさいと謝ってきた。
 いや、そんな事はない。そうだな……嬉しかった。そう思ったのだ。それをシャマルへ伝えた。表示されたそれを見て、シャマルは少し意外そうな表情を見せたが、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべて頷いてくれた。

 そして、充電が終わったシグナム達の携帯への移動を開始。まずはシャマル。ヴィータの時は色々と慌てていて分からなかったが、こうして落ち着いてみると分かる。やはり主の物よりも新しいせいか居心地がいい。そう思わず漏らしてしまったので、主が軽く拗ねてしまった。
 それを何とか謝って機嫌を直してもらい、再び周囲を調べる。容量が埋まってないせいか、かなり広く感じる。そう伝え、今度はシグナムの物へ移動。そこも同じだった。すると、シグナムは朝の失態を思い出したのか、カメラを起動させた。

―――何をする気だ?

「ああ、喉が渇いただろうと思ってな。この緑茶を飲ませてやりたいと思った」

 そう言ってシグナムは慎重に携帯を緑茶へ向けた。ぶれなく撮る事に集中するシグナム。私はそんなシグナムが少し微笑ましく思え、密かに笑みを浮かべていた。やがてシャッターが切られ、それをシグナムが保存した。
 シグナムの好意だ。早速頂こう。そう思い、撮られたばかりの緑茶を展開する。すると、私の目の前に軽く湯気を出す緑茶が出現した。それを手に取り、ゆっくり飲む。

「ど、どうだ?」

 熱過ぎずぬる過ぎず……いい温度だ。そう思い、シグナムへそう伝えた。それにシグナムがどこか嬉しそうに笑みを返し、それを見た主達が軽くからかいを始める。それを聞きながら、私はお茶を飲み続ける。
 飲み終わると同時にザフィーラの携帯へと移動。すると、既に何かが撮影された後だった。ザフィーラは、先程のシグナムのからかいに参加していなかったらしく、その間に撮ったようだ。

―――一体何を撮ったのだ?

「まぁ、表示してみれば分かる」

 それもそうか。そう思い、私はその画像を展開した。直後目の前に、私にとって丁度いい大きさのテレビが出現した。これはリビングの物と同じだな。そう思い、ザフィーラがこれを撮影してくれた意味を理解した。
 なので、早速と思い電源を入れる。しかし、一向につく気配がない。おかしいな? 確かに電源ボタンを押したのだが……

 すると、それを見た主達が予測を告げた。携帯は電化製品。その中に電化製品を入れても動くための動力がない。おそらくテレビを動かすには、携帯用のテレビ機能を連動させるしかない。そんな結論を出したのだ。
 それを聞いてザフィーラがどこか申し訳なさそうに肩を落としたので、私がそれに気持ちだけでも嬉しかったと告げた。こんな感じで私の携帯生活初日は過ぎていったのだ……




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三人エンドで思いついたリインフォースネタ。

ほのぼのとまったりと流れる時間です。さて……次はどうしようか?



[27022] 特別編 続リインフォースの携帯転生
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/30 14:59
―――パケット機能を、ですか?

「せや。色々と物はカメラで用意出来るけど、ゲームとかの娯楽は少ないやろ?」

 ある日の事だ。主が観葉植物の手入れをしている私へ、そんな話をしてきた。既に主達五人の携帯は私の家になっていて、本宅が主、シグナム達のは別宅と呼ばれている。それぞれの待ち受け画面には、私用の空間が作られていて、主の画面は大きめのソファに丸いテーブルと小さな椅子、先程触れた観葉植物とベッドがある。

 シグナムは和風で、ちゃぶ台に座布団と布団が用意されている。ヴィータは賑やかだ。ベッドがある以外の違いは、ウサギのグッズに埋め尽くされていて、ゲートボールが出来るぐらいだろうか。
 シャマルは可愛らしい。大きめのクッションが二つに、テーブルの上には様々な花が飾られた花瓶が載っている。ベッドは花柄の刺繍が施されていて、如何にもシャマルらしい。ザフィーラは単純だ。椅子とテーブル、ベッドしかない。だが、常に緑茶と茶菓子が用意されているのが嬉しい。

 と、様々な物があるのだが、それは全てチラシやテレビ画面などから撮影した物だ。そう、一切元手が必要ないのだ。それもあってか、最近はそれぞれが欲しい物のテストをする事も多い。
 電化製品の使用は無理だが、撮影した物を展開して出現させる事は出来る。なので、食べ物の品評や家具の使い心地などを私が試し、知った上で購入に踏み切る事が出来るのだ。

 ……食べ物に関しては、全員から少し羨ましがられる事があるのが玉に瑕だが、な。

―――そうですが、パケット代金は高いとなのはが言っていました。高額のお金を使って頂く訳には……

 そう、私が携帯に住んでいる事を、主は友人である高町なのはや月村すずかに話したのだ。二度程、メールに乗ってお邪魔した事もある。その時は絶対に驚くのだ。まぁ、身構えていてもそうなるのは無理もない。急に二頭身となった私が現れるのだからな。
 ちなみに、なのはの携帯は様々なゲームが入っていた。その中から麻雀という物を少しやらせてもらったのだが、あれはいかん。ある意味で終わりがないためか、いつまでもやっていたのだ。なのはが止めてくれるまで延々やっていて、危うくバッテリー残量が無くなるところだった。

 その話を主はなのはから聞いたらしい。そういえば、確かになのはは高いと言っていたが、私に対してあまり怒ってはいなかったな?

「心配いらんよ。定額プランにすれば、どれだけ使こうても安心や」

 主はそう言うと、証拠とばかりに携帯のカタログを見せてきた。成程……どれだけ使用しても決めた金額で打ち止めとなるのか。接続料だけでもかなりになるようだし、これは得だな。おそらくなのはもこれを使っていたのだろう。
 そう思うも、ゲーム自体のダウンロードは別料金だ。それに、今でも私は主達に歌や音楽などを取り込んでもらっている。それでお金を使ってもらっている以上、更なる出費はしたくない。

 すると、私のそんな思考を読んだのか、主はどこか不敵に笑ってこう言った。

「わたし、麻雀やろ思うんや。頭の体操にもなるらしいし、リインフォースが時間忘れる程楽しいらしいな。で、実物も買うんやけど、一人でも練習出来る方がええんよ」

 それが何を狙って言っているのか分からない私ではない。ありがとうございます、主。では、麻雀だけでも遊ばせてください。そう言うと、主は嬉しそうに頷き、早速とばかりに車椅子を動かした。きっと麻雀購入をシグナム達へ相談するのだろう。
 最近リハビリを開始した主だが、長い年月動かしていなかったものを動かすのはかなり辛い。いつもリハビリは困難を極め、疲れてクタクタになっているのを私は知っている。それでも、いつか歩けるようになる事だけを励みに、主は立ち向かっているのだから恐れ入る。

―――主……

「ん?」

―――いつか五人で卓を囲みましょう。

「……せやな。そん時は、リインフォースがヴィータと組んだってな」

 主はそう言うとクスクスと笑い出す。確かにヴィータでは大きな手ばかりを狙いそうだ。そう考えて、私ははたと思い直す。ヴィータよりもシグナムの方がその傾向がありそうだと。だが、それを口には出さず、私も主と同じように笑う。
 そうして、この日は始まるのだった……



「「「「「いただきます」」」」」

―――いただきます。

 日々の楽しみの一つ、食事の時間だ。今の私はシグナムの携帯にいる。いや、今日は和食だったから、そういう雰囲気を大事にしたかったのだ。あの初日以来、シグナムとザフィーラは携帯のカメラ撮影に全力で挑むようになり、今や至極当然のようにぶれない写真を撮るようになった。まぁ、どこか端から見ると笑えるものはある。携帯片手に真剣な表情で構える姿には、な。

 さて今日の献立は、白米に大根と油揚げの味噌汁、出し巻きたまごと塩鮭、そして焼き海苔だ。まずは出し巻きたまごから食べるべきか? いや、メインである塩鮭だろうか? 迷うな……と、そんな風に考えながら、結局私は焼き海苔を使って白米を食べる。日本人ではないのだが、この味にはどこかほっとする。

「ふっ、顔が緩んでいるぞ? リインフォース」

 そんな私を見てシグナムが小さく笑みを浮かべて告げた。そ、そんな事を一々言うな。あ、ほら主達が一斉にこちらを見たではないか。

「おー、可愛いじゃん」

「そうね。普段よりも五割増しぐらいに」

「いい笑顔だ」

「そんな美味しい思うてもらえるなら、作った甲斐があるちゅうもんや」

 口々にそう言われ、私は顔が赤くなるのを感じた。正直言えば、私は食事をする必要はない。私の動力というのか、エネルギーはおそらく携帯自体のバッテリーだろうと思われているからだ。
 しかし、皆は自分達が食事をしている中、私だけ見ているだけなのは嫌らしい。いや、それだけではない。私も嫌だった。形はどうであれ、やっと家族となれたのだから、皆と同じように過ごしていたい。そう思っていたのだ。

(叶うなら、ここからも出たい……な)

 口には出さない。そんな事を言えば、主達は何としてでも出そうと方法を探し始める。今は、私がこれで満足していると思ってくれているので、そこまで本腰を入れていないだけだ。
 既にシグナム達は、あの事件の償いとして管理局勤務が決まっている。主もそれに追随するように局に入る事を決めているらしく、今後は色々と忙しくなるのだ。そんな中、私がそんな事を言い出せば主達が体を壊しかねない。仕事で疲れた体に鞭打ち、私を出す方法を探し出そうとするだろうからだ。

―――書の中にいた時は自由に動けませんでしたから、今がとても充実しています。そのためか、色々と感情が高ぶっているのかもしれません。

 少しだけ照れるようにそう言った。内心を押し殺して。告げたのは、偽りではない。だが、真実でもない。優しい主や家族達をどこか欺いているような気がして、少し胸が痛む。でも、それを言う事は決してしない。今の状況だけでも奇跡なのだ。
 なら、これ以上を望むのは業が深いというもの。過去に多くの世界を破滅に導き、数多の命を奪った私には、これだけでも恐れ多いぐらいなのだから。

 そんな事を考えていた私だったが、まるでそんな内心を読んだかのように主がとんでもない事を言い出した。

「リインフォースの事やけど、一度リンディさん達にも相談してみよか。もしかしたら、携帯から出す事が出来るかもしれんし」

―――っ?!

 思わず息が漏れる。更にそれが文面として出現した。私はそれに慌てるが、主はこちらを見ず、シグナム達へ語りかけていた。それに私は安堵し、何気ない顔で表示された文面を消す。
 シグナム達もそんな主の考えに賛成していた。管理局の設備や技術を使えば、私を以前の姿に出来るかもしれない。そんな風に言い合い、笑顔を見せ合っている。それを見つめ、私は嬉しくなり軽く目を閉じる。

 例え以前の姿に戻れずともいい。この優しく暖かい家族達と共に過ごせるのならば、それが一番の幸せだ。そう心から思う事が出来る。祝福の風と名付けられた私だが、むしろそれは主達に贈りたい。
 絶望の闇でしかなかった私。それを光溢れる世界へ連れ出してくれた存在。許されぬ罪を犯した私を許すように、悲しい輪廻から解き放ってくれたのだから。祝福の風とは私の名ではなく、私を導いてくれた主達の在り様ではないだろうか。

(そうか……だからこそ主は私にそう名付けたのだ。今度は私が誰かを祝福する風になれるように、と)

 私の勝手な思い込み。だが、不思議とそう考えるとストンと心に何かが落ちた。そうだな……例えるのなら、子供が自分の名前の由来を聞いて理解した時のようなものだろう。主自身に聞いた訳ではない。それでも、これがその込められた想いだったような気がする。
 それだけで良かった。私にとっては、それで。そんな事を思いながら、私は目の前で展開されている会話を黙って聞き入るのだった……



―――これが牌です。一から九までの数が振ってあるものは、三種類に分類されます。文字の方は字牌と言って、これを三つ揃えるだけで役―――つまり、得点になる物です。

 私は今、ヴィータの携帯から説明をしていた。あの後、主からの提案はすんなり賛同され、八神家にも私の部屋にも麻雀がやってきた。そして、何も知らないに近い主達へルールを熟知した私が教える事になったのだ。
 基本的な事から少し詳しい事まで教える。だが、案の定ヴィータが徐々に表情を曇らせていく。仕方ない。実際に物を使って説明しよう。そう思い、私は牌を手に取り、それを並べていく。

―――要は、特定の三枚の牌の組み合わせの面子と呼ばれる物、それを四組と同じ牌を二つ揃えた雀頭と呼ばれる物を揃える事です。これで和了―――つまり上がりになります。

 それでヴィータも納得出来たのだろう。感嘆の声を上げ、頷いていた。役の説明も簡略的にだがしていく。私もまだ作った事のない物ばかりだったから、少し楽しかった。特に役満はやはり見た目も派手だ。
 見ていた主達もそれを見て、何度も頷いていた。確かに作るのが難しそうだと言いながら。私は字一色が好きだ。そう言うと、主は大四喜、シグナムは国士無双が気に入ったと言い出した。ヴィータは大三元で、シャマルは緑一色らしい。ザフィーラは九蓮宝橙だそうだ。

 何となくだが、それがそれぞれの性格を表しているような気がして、私は思わず笑ってしまった。文字の字面や響きで気に入った主とシグナム。見た目が気に入ったヴィータとシャマル。ザフィーラは出来たら死ぬと言われる程の困難さから。
 私は見た目なのだが、出来た時点でダブル役満が確定する事が好きだった。と、そこで私はふと主の気に入った役を思い出し、言葉を失った。主の気に入った大四喜は、東西南北の風牌を集める物なのだ。

(四つの風……それはどこかシグナム達を思わせるな。そして、それを束ねる雀頭が私として……それを揃えるのが主、か)

 この現状を意味しているように感じ、一人笑う。すると、それに主達が気付いて笑いの理由を聞いてきた。それに、私は先程の考えを伝えた。それに主達が少し驚いて笑い出した。
 自分達が麻雀をする事になるのは、運命だったのかもしれない。そんな風に主が言えば、それにシグナム達が笑いながら頷いていく。そして、まず一度やってみようとなり、主達が卓を囲む。私はヴィータと組み、主はシャマルと組んだ。こうして四人打ちを始めた。

「む、ここが来るとは……」

 シグナムが手にした牌を見てやや悩んだり……

「これは……でかい手が狙えるかもしれん」

 配牌された自分の手を見て、ザフィーラがどこか驚いたように呟いたり……

「はやてちゃん、それ切るの?」

「大丈夫や。わたしの勘が言っとる。これで……リーチや!」

 主がシャマルの不安を吹き飛ばすように牌を切って、見事に一発で当たり牌を掴んだり……

「……どうすりゃいいんだ、これ」

―――同色で染めるのも手だ。だが、少し我慢して三暗刻を狙ってみるか。

 私はヴィータと二人で相談しながら、見事に狙いが当たって喜んだり……

 そんな風に過ごしていたら、半荘が終わった時には全員ルールと役をある程度覚え、見事に麻雀の魅力に浸かっていた。軽く感想を言いながらの休憩。ちなみに一位は主・シャマル組だった。主は引きが強く、思い切りも良かったため、シャマルの全体を把握しての助言を頼りに全体的に強さを発揮したのだ。
 二位はザフィーラ。上がれる時は堅実に上がる事を繰り返し、着実な点数稼ぎで主に食いついていった。三位は僅差でシグナムを下し、ヴィータと私組。たまに大きな役が出来た事もあり、何とか最下位だけは免れた。

「……何故だ。何故、後一手を掴ませてくれなかった」

 シグナムはそう呟きながら、最後の対局の手を眺めている。何でもやっと国士無双が聴牌―――つまり完成まで後一つとなったらしい。しかも、最後に私達が上がらなければ、自分の番にその上がり牌を掴めたので、余計に悔しがっていた。
 シグナムの敗因は、実はそこにあった。どうしても大きな手が狙えるとなると、それを狙い始めてしまうのだ。特に、国士無双が狙える時は余計に。私達でも、捨て牌ですぐ分かったのだ。誰もがそれを理解していただろう事も大きい。

 こうして、家族全員での麻雀対決は一旦幕を下ろした。この後、昼食を食べてまたシグナムがやろうと言い出し、夕食まで私達は麻雀を続けてしまうのだが、結局シグナムが役満を上がる事は出来なかった事だけ記す。




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リインフォースネタの続き。いや、続きを期待してくれた方がいたので書いてみました。もういっそこれだけで独立させようかな?

次は、久々のユーノ視点。まさかの相手とのエンドを予定。


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