ゲームセンターは死んだ。
家庭用据え置き型ゲーム機の台等によって。
家庭用据え置き型ゲームは死んだ。
携帯ゲーム機の題等によって。
携帯ゲーム機は死んだ。
違法コピーの蔓延によって。
違法コピーでゲームをすると言う概念は死んだ。
ハイエストワールドによって。
ハイエストワールドはそれが生まれる前まではタイトルの人気に陰りがさしてきたら次のタイトルを発表するような消費物のごとき扱いを受けていたMMORPGの類だったが、運営会社の神業ともいえる手腕や他会社の採算の都合でサービス終了が近かったり、すでに終了したしたタイトルの全データを買い上げ異世界として自分のタイトルに『合併』すると言った荒業で今まで猛威を振るっていたアジア系のタイトルやアメリカ製タイトルの台頭を押さえ一気にハイエストオンラインの会話が普通に朝の学校で行われたりゲームをしない層でもひとづてでハイエストワールドぐらいは知っている位置にまで上り詰めることに成功した。
そしてそれにより日本、いや世界は未曾有のMMOブーム(といってもほとんどのシェアをハイエストワールドが食っているブームだが)を引き起こした。
それによりネットゲームの質やセキュリティは格段に向上したのだが。
同時にMMORPGには付き物とも言えるある者達が質の向上と呼応するかのように以前とは段違いに増え始め、そして一部は質が高い者たちも出始めた。
彼らは余りにも常人には理解できなく、余りにも常人には有り得ない生活サイクルだった。
彼らは余りにも人生を捨てていて、余りにも日常生活というものを忘却したような暮らしを営んでいた。
そしてその彼ら達は――住む世界の名とその病的なまでの人間性を繋げ、略し、ネトゲ廃人と呼ばれていた。
岩山の上に異常と言える速度で成長し存在する森林の奥、潤い無き地と青々しく成長する木々の中。
鉱石の殻を纏いし怪物がいた。
その姿は本来持つべき蟹などの甲殻類の形状ではなく甲殻などまとうはずがない四足歩行の獣の形状であり、さらに異常さを際だたせるように脚部が総じて甲殻に覆われてすら無く、鉱石の発条を組み合わせたような器官というよりは部品と言っていいような物がとって変わっていた。
「あれが今回の敵だっけ?」
二十、三十程の木々と画面越しにこの場所に来た理由である敵らしき姿を確認し、隣にいる仲間、弓使い非派生型双弓系をバトルタイプとして選択している廃神、ペトロにハイエストオンライン専用高機能HMD『アイズ』付属のマイクに発せられた声の高低を同じくアイズの機能の一つであるアカウント連動型高機能ボイスチェンジャーで編集された声で問う。弾倉の奥に突っ込んである弾丸に込めておいた一応程度の軽い支援効果がある魔術を自分と仲間にかけながら。
「多分そうじゃねーの、まったく低級マップに稀に数段上の階級の中ボスモンスターが現れるのはどうにかしてくれないかな……、ドロップもいいし退けてくれたお礼も貰えるのはわかるんだけど、こうなんども各地を転々とさせられるのは溜まったもんじゃない」
という答えが同じくアイズ付属のイヤホンから帰ってきたので更に支援効果を両方に重ね突撃用に武器の弾丸を変更。
「まあまあそう言うなよ、その報酬で俺たち廃神は暮らしているんだぜ? 転売でも政治でも金が稼げないんだし、これがないと正直言って死ぬんだし我慢しようぜ」
「へいへい、あー、じゃ行くか」
減らず口を抑えたところでペトロから突撃するか聞かれたのでゲームパッド『ハンズ』でコマンドを叩き、二、三歩動くモーションで回答とする。
「よし、ならこっちも行くか!」
そう言ってペトロが数秒遅れた挙動をするのを背に、初手に叩き込む攻撃の種類を即座に決定。弾倉を回転させそれを初手に叩き込むことができるように弾倉の位置を再度固定。
「倒すぜ」
言って跳躍しながら背後の虚空へ連射、反動で木々を越えながら、その音で地を喰らい体力の回復をしていた獣のAIに戦闘態勢を取らせる。
不意による一瞬の硬直の後、獣は口からロックアレンジされた騒がしい咆哮を放ち。
「くっそ、予想以上!」
自分とほぼ同高度に高く飛翔。これは聞いた高さとは段違いの高さで。
「ウィキの情報変えたほうがいいな!」
感想を持ち、空中戦用に砲の角度を変えていた所。
「え? に」
突撃した。
*
無様に浮いていた体が豪速で下へ回転しながら飛ぶ、鉱石の光るようなギラつく光を視界の中心に時たま捉えながら轟音と共に地面に吸い込まれた。
*
「おい、バカ。 空中十三回転して地面に叩き込まれるなよ」
「あんな高空まで飛んで、更にもう一度空中で飛ぶモンスターが居るとは思わなかったんだよ、そういや開発がモンスターができることは大体キャラクターの方でもできるように設計してあるとか言ってたけど、あれどうやるんだ?」
言って少々めり込んだ地面の上でパッドを操作し没入感云々で呼び出し式のステータスウインドウを表示、三十%ほど減少している緑を確認して、素早く即効系の丸薬を服用。
「盗賊派生の忍者じゃねーの? まあ、あの挙動だと忍者というより、NINJAな気がするが」
ついでに索敵系丸薬も服用し音で示される敵の挙動から敵が此方を探索していることを確認、ついでに位置探査も使うか悩むがやめ、自分で探索する方に切り替える。
「さっきの攻撃での傷、治ったか?」
「ああ、薬飲んで直したよ、それよりどうすんだ? あの敵」
あの挙動ならばたぶんというより間違いなく高速起動タイプの敵だ、それにしてはさっきの攻撃はやけに重い一撃だったが不意だったのと調子にのって高く跳び過ぎたのが原因だろう。
「罠での足止めが有効そうだがそんなもん持ってないし、後、有効そうなのが相手を上回る速度での移動をしながらの攻撃だな、もちろん俺ら二人とも無理だが」
ペトロは双弓と言う、片手で装填と発射ができる特殊な形状の弓を両手に装備して使う弓使い非派生型でも奇抜なバトルスタイルだ。そのため機動力は高いが装甲に対しての突破力が低い。
対するこちらの武器である馬上槍に銃口を開けたような形状の槍銃は装甲に対しての突破力が高いというか元々その為に作られたような武器だが槍銃は重く、高速戦闘には向いていない武器だ。
どちらも効果的ではない。
「それじゃあ、どうするんだ?」
「力押し、これしか無いな」
「やっぱりそうなるのかよ……、あ」
前方から微かにロック系の音楽で良くあるような音が響いた。このタイプの敵とは多く関わっていないので確信は持てないが。
「いるぞ、とりあえず攻撃溜めとこうぜ、とくにペトロは溜め撃ちないと多分通らないし」
「へい、それじゃあ出現したら即座に蜂の巣でいいな」
「ああ」
言って気配を押し殺すように慎重な動作で木々の裏に隠れながら溜め攻撃のチャージを開始。三秒ほど経過後。
「来た!」
飛び出た獣に対して高速で貯めていた弾丸封入の徹甲系魔術を連射。気付いた獣が発条に貯めた力を開放し装甲に魔術を数発受けながらも前進するが射線を思い切り捻り更に数発を木々と獣の装甲に直撃させる。
「よし、それじゃ!」
ペトロが弾丸を受けて怯んだ獣へと伸ばした仮想の拳が装備する双弓を引くため握っていたトリガーを殴るような動作の終わりで解放する、加速のためと言う理由でなぜか殴る動作を取るそのスキルはコマンドで二連し、怯んだ獣の装甲の一部に入った亀裂に的確に直撃した。
「クリティカル! 次行け!」
「わかってる! それじゃ」
更に重なる攻撃でふらつく獣の逆側に魔術を数回分消費し緊急移動、更に移動した先で弾丸封入の魔術を消費せずスキルで前方に加速。次にコマンドを打ち。
「突貫!」
槍銃の尖った先端を勢い良く、発射されて刺さったままの矢の脇の陥没箇に固定。もう一度、今度は一つのボタンをゲームパッドを砕く勢いで連打し。
「だ!!」
威勢の良い叫びが混じった爆音と共に装甲を破壊した。
*
「よっしゃ砕けた! 砕くのに二十発ほど多く使ったけどな!」
莫大な勢いで消費された魔術のエフェクトが舞う、正直言ってうっとおしいと思いながらも封入した魔術を消費しきった弾丸をワンボタンで即座に排出。同じくワンボタンで小脇のポーチに収納する。
手持ちの徹甲系魔術を全部使ったのでおそらく装甲の中身にいるであろう獣を焼くために燃焼系魔術を込めた弾種に変更し、長すぎる黒煙のエフェクトが収まるのを待ちながら。
「装甲砕いたら中どうなってんだろうな、案外羽でも生えてきたりして」
「それはないんじゃないか、もしあるんならバネが体全体にあるとかそんな感じだろ、まあそれでも装甲越しに幾らかはダメージ届いてるはずだから楽勝な気もするけど」
軽口を仲間とたたきながらようやく収まりかけた黒煙の奥を真剣に見つめる。
そうして待ち、光が収まりかけた頃。
「ん?」
数秒前までは装甲が体を覆っていたはずの獣の輪郭が歪んだ。
「なん……」
最後を伸ばして疑問をするうちにも輪郭は歪む、徐々にそれは平坦になっていき、だの音を口から吐いた瞬間に。
「――二度目!?」
気付いた直後に獣が蓄積していた膨大な発条の力が解放された。
*
その力の開放は下方だった。
一度の開放で地を軽く穿ったその跳躍は更に青の光と共に二段、三段、四段と空を踏み、爆発的に上昇する。
更にそれが二、三度繰り返され。
「なあ……、あれいつ落下するんだ?」
独りごちるほどの時間が経過してしまう。
「知るかよ、今日も情報集めてるであろうユダロに聞けよ、でもまあ、滞空時間があそこまで長いと飛翔型に変化している気もするがそうなるとあの飛翔高度はおかしすぎるな……」
コマンドを打ち、空を再度見上げるが依然、青い光は続いており。
「どう倒せばいいんだ、あれ」
「コッチが聞きたいっての、雷でも降らすか? その槍砲立ててさ」
視点を戻し、モーションでペトロが自分の獲物に指を差す、一応誘電魔術は三ヶ月前に作っておいたのを弾丸の一つに封入してあるが。
「帯電装備もない俺に死ねと?」
「安心しろ、消えた分の経験値は稼がせてやる」
「殺す前提じゃねーかよおい!」
獲物を振って冗談の牽制をするが、そこで妙な間があく。
どうしようか迷っていると。
「あ」
そういえば未だに閉じていなかったステータスウインドウの経験値ゲージが微妙に上昇した。
「まさか、な?」
嫌な予感がした。
「ん? どうした?」
ペトロが問うが反応が見え透いてるので言いたくはない。
「あー、なんだろ、すごく言いづらいんだけどさ……」
「早く言えよ」
急かされ、とりあえず勇気を出して。
「多分飛んでる最中に自滅した」
言った。
「たぶん、さ。跳躍にHP消費してて、跳躍のしすぎでHPが切れてさ、死んだんだと、思うよ」
憶測を言い、更に気まずい沈黙が流れる、意外に少なかった経験値のことなど言い出すことすらできそうにない。
「……、証拠アイテム回収したか?」
「……、あ、落ちてきた」
落下したアイテムをゆっくりと拾い、無言の恐怖というものを本能に刻まれる。
それをタップリと味わってから。
「……、じゃあ帰るか……、いいもの落とした?」
「とりあえず魔術編集用の魔石は落として、後は商人に売るレベルの素材アイテムだけ……」
そう返して、先にペトロが展開しておいた拠点帰還魔術の効果を受ける。
そこでアイズのオプション機能のチャイムお知らせ機能が働き耳元からチャイムの音が鳴り。
「あ、ちょっと席離れる……」
最後まで気まずい空気を残しながら電源と接続はそのままでアイズを外した。